説明

プラスチック光ケーブル及び光伝送部材の被覆方法

【課題】プラスチック光ケーブルの繰り返し曲げ耐性を向上させるとともに曲げたときの伝送損失の増大を抑制する。
【解決手段】延伸機52によりPOF11を第1被覆材30及び第2被覆材37で密着被覆してプラスチック光ケーブル20とする。POF11のコア35は、引張破断伸度が15%以下、曲げ強度が20〜65MPaである脆いポリマーを主成分とし、第1被覆材30とアウタークラッド35との単位面積当たりの密着力FU1及び第1被覆材30と第2被覆材37との単位面積当たりの密着力FU2とは4.4×10-2(単位;N/mm2 )<FU1≦FU2<3.3×10-1(単位;N/mm2 )を満たす。プラスチック光ケーブル17は、繰り返し曲げ耐性を有し、側圧がかけられたときあるいは曲げられたときにも伝送損失が増大しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ケーブル及び光伝送部材の被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバには、断面円形の外周部から中央に向けて屈折率が高くなる屈折率分布型プラスチック光ファイバがあり、この屈折率分布型プラスチック光ファイバは主にSI(ステップインデックス)型とGI(グレーデッドインデックス)型とに分類される。前者は屈折率が中央に向けて段階的に高くなるプラスチック光ファイバであり、後者は連続的に高くなるものであってモード分散を抑える点で前者よりも優れている。
【0003】
そして、このGI型をはじめとするプラスチック光ファイバは、耐屈曲性や耐候性の向上、吸湿による性能低下の抑制、引張強度の向上、耐踏付け性付与、難燃性付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上などを目的として、被覆層が設けられてプラスチック光ケーブルとされる。
【0004】
プラスチック光ケーブルはプラスチック光ファイバと被覆層との密着の有無により2つのタイプに分類され、密着型光ケーブルと密着していないルース型光ケーブルとがある。密着型光ケーブルは、ルース型光ケーブルと違ってコネクタと接続する端部の被覆層を剥離してもその端面に空隙がないので、光ケーブル中に水分が侵入することがない。そのため、ルース型光ケーブルで問題になるような、長手方向への水分拡散による伝送損失の低下が密着型光ケーブルにはないという長所がある。
【0005】
密着型光ケーブルとして例えば特許文献1では、被覆層との密着性が良好で、耐湿熱安定性と耐屈曲性とに優れ、製造作業性に優れたPOFが提案されている。このPOFでは、鞘材(クラッド)がカルボキシル基、カルボキシル誘導体基、エチレンオキシド基の少なくとも1種の官能基を有するフッ素エチレン性共重合体を主成分としている。そして、この特許文献1では、前記POFの外周に熱可塑性樹脂からなる被覆層を設けた光ケーブルも提案されており、この光ケーブルはPOF部分を光ケーブルから引き抜くときの力である引抜強度が15N以上とされている。
【0006】
また、特許文献2では、コアとクラッドとを備えるプラスチック光ファイバに2層の被覆層を設けて、それらの被覆層のうちプラスチック光ファイバ側の第1層をクラッドよりも引張弾性率が小さい材料で構成し、第1層よりも外側の第2層をクラッドよりも引張弾性率が大きい材料で構成することを提案している。これにより、特許文献2のプラスチック光ファイバは、曲げたときの伝送損失上昇(曲げ損失)、つまり、曲げた後の伝送損失から曲げる前の伝送損失を減じた値が小さいとされている。また、特許文献3では、曲げ損失を抑制するとともに耐熱性や耐湿熱性を向上させるために、コアとクラッドとがともにC−H結合を有しない非晶性の含フッ素重合体で構成されているプラスチック光ファイバが提案されている。そして、特許文献4では、第1の被覆材を有するプラスチック光ファイバコードの外周に第2の被覆材が設けられており、第1の被覆材が1×104 kg/cm2 未満の弾性率であるとともに第2の被覆材が1×104 kg/cm2 以上の曲げ弾性率であるとしたプラスチック光ケーブルが提案されている。これにより、メッセンジャワイヤを使用することなく十分な剛性を備え、通線作業を簡略化することができる、としている。そしてこのプラスチック光ケーブルでは、第2の被覆材の引張降伏点強度を2×107 以上とするとともにプラスチック光ケーブルの引張強度を200N以上とすることにより、一層抗張力性を高め、さらに、プラスチック光ファイバコードと第2の被覆材との剥離強度を30N以下とすることにより第2被覆材の除去時における剥離性を高めている。
【特許文献1】特開2004−212871号公報
【特許文献2】特開平11−337781号公報
【特許文献3】特開2002−71972号公報
【特許文献4】特開2003−315643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に提案されるプラスチック光ファイバでは、被覆層とプラスチック光ファイバとを、上記の引抜強度15Nとなるように強くさせていることにより、コネクタと接続するために被覆層を引き抜いて除去する際に、被覆層とプラスチック光ファイバとの密着性が大きすぎて、被覆層のみならずプラスチック光ファイバにも大きな引張力がかかってしまう。その結果、プラスチック光ファイバが伸びて伝送損失にダメージを与えてしまう。また、特許文献2のプラスチック光ファイバは、曲げ損失を増大させる因子がコアの引張強度にあることを前提に提案されているが、クラッド部の厚みはコア部の半径に比べて小さいことから、プラスチック光ファイバを曲げた場合やプラスチック光ファイバに側面からの圧力(側圧)がかかった場合の応力を多く受けるのはコア部であるので、機械特性の重要性はクラッド部よりもむしろコア部に求められる。そして、特許文献3のプラスチック光ファイバは、コア部とクラッド部との両素材についてはのべているが、上記のような敷設性を視野に入れた繰り返し曲げ耐性や、曲げ損失、柔軟性、コアとクラッドとの密着性の観点からプラスチック光ファイバと被覆材との組み合わせの良否について総合的に示唆する記載はない。また、特許文献4に提案されるプラスチック光ケーブルは、プラスチック光ケーブルとしての剛性に加えて第1と第2の被覆層の相互の密着力に着目して、通線作業の簡便性を高めてはいるが、敷設した場合に問題となる曲げ損失やコアとクラッドとの剥離等による伝送損失の悪化、つまり実用時における伝送損失については示唆されていない。一方、未被覆であるプラスチック光ファイバ自体の伝送損失に着目してみると、現在入手しやすいプラスチック光ファイバの中で最も優れた伝送損失を示すものは、脆すぎて密着型光ケーブルとしたときに繰り返し曲げ耐性や、曲げ損失、側圧付与による伝送損失増大(側圧損失)、敷設性等に問題があるために、ルース型光ケーブルにせざるを得ないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑み、脆い素材から構成されているPOFであっても、その優れた低伝送損失性能を損なうことなく、被覆することによって繰り返し曲げ耐性や柔軟性が付与され、側圧損失及び曲げ損失が少ないプラスチック光ケーブル及び、このようなプラスチック光ケーブルを製造するための光伝送部材の被覆方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、光信号を伝送する第1部材及びこの第1部材の外周に備えられ屈折率が前記第1部材の屈折率以下である第2部材を有するプラスチック光ファイバと、このプラスチック光ファイバの外周を覆う第1被覆部材と、前記第1被覆部材の外周を覆う第2被覆部材とを備えるプラスチック光ケーブルにおいて、第1部材は、引張破断伸度が15%以下であり曲げ強度が20MPa以上65MPa以下であるポリマーを主成分とし、プラスチック光ファイバと第1被覆部材との単位面積あたりの密着力FU1(単位;)及び前記第1被覆部材と前記第2被覆部材との密着力FU2は、4.4×10-2(単位;N/mm2 )<FU1≦FU2<3.3×10-1(単位;N/mm2 )の条件を満たすことを特徴として構成されている。
【0010】
第1部材の主成分は、主鎖に環状構造を有するポリマーであることが好ましい。また、第1被覆部材の曲げ弾性率M1(MPa)と前記第2被覆部材の曲げ弾性率M2(MPa)とは、M1≧M2を満たすことが好ましい。そして、第1被覆部材の外径Dと前記第2被覆部材の厚みTとは、D/2≦T≦2Dの条件を満たすことが好ましい。前記第1部材の屈折率は、断面円形の中心から外周に向かうにつれて低くなることが好ましい。
【0011】
さらに本発明では、被覆ダイスに備えられたニップルの内部の走行路に挿通されて出てきた線状の光伝送部材に、ダイスとニップルとの間に形成されているポリマー通路から溶融ポリマーを押し出して被覆する光伝送部材の被覆方法において、溶融ポリマーと光伝送部材との接触開始位置がダイスの内部となるように前記走行路の下流端開口部の位置を設定し、光伝送部材を溶融ポリマーで密着被覆することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスチック光ケーブル及び光伝送部材の被覆方法によると、被覆することによって、被覆前のPOFの伝送損失を低下させることなく、繰り返し曲げ耐性や柔軟性が付与されるとともに、側圧損失や曲げ損失が少ないプラスチック光ケーブルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明を実施した一様態としてのプラスチック光ケーブルを製造するフロー図である。プラスチック光ケーブルの製造工程は、プラスチック光ファイバ11の3層を形成する3種類の各重合体を溶融して、同心円状の3層構造を有するプラスチック光ファイバ原糸(以下、POF原糸と称する)12として共に押し出す溶融押出工程13と、POF原糸12を加熱して所定倍率に延伸することによりプラスチック光ファイバ(以降、POFと称する)11とする加熱延伸工程16と、POF11に第1被覆材を設けてプラスチック光ファイバコード(以降、単にPOFコードと称する)17とする第1被覆工程18と、POFコード17に第2被覆材を設けてプラスチック光ケーブル20(以降、単に光ケーブルと称する)とする第2被覆工程21とを有する。
【0014】
図1では、POF11の製造方法として、溶融押出によりまずPOF原糸12を作製して、このPOF原糸12を延伸するという方法を示しているが、本発明はPOF11の製造方法に依存するものではなく、他の周知の方法により作製されたPOF11にも適用することができる。例えば、円柱状のPOF母材(プリフォーム)を所定の方法により作製し、このプリフォームを延伸して得られるPOFに本発明を適用してもよい。
【0015】
上記の第1,第2被覆工程18,21で設けられる第1,第2被覆材は、単層とは限らず、それぞれ複数層とされる場合もある。そして、複数層とする場合には、複数層を同時に形成する場合もあるし、逐次的に形成する場合もある。本実施形態では、単層の被覆材を形成する場合を例として説明するが、本発明は、形成する被覆材の層数に依存するものではない。また、本実施形態では、第1被覆工程18と第2被覆工程21とにおける両被覆方法は、基本的に同じであるので、ここでは第1被覆工程18に関して説明し、第2被覆工程21については説明を略す。
【0016】
ここで、光ケーブル20の構造とその光学特性について図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。ここでは3層構造のPOFを製造する場合を例示するが、本発明では、POF11の構造は限定されない。図2は、本発明のプラスチック光ケーブルの断面図、図3はプラスチック光ケーブルのPOF部分のみの断面径方向における屈折率を示すグラフである。なお、図3において、横軸はPOFの断面径方向を示し、縦軸は屈折率を示す。屈折率は、上にいくほど高い値であることを意味している。
【0017】
光ケーブル17は、図2に示すように、このPOF11の外周に第1被覆材30、第1被覆材30の外周に第2被覆材37が形成されたものである。そして、POF11は、光を通すコア31とコアの外周のクラッド32とを有し、このクラッド32は、外径と内径とが長手方向にそれぞれ一定で、厚みが均一の管形状となっている。クラッド32は、コア31の外面に接するインナークラッド部34とインナークラッド部34の外側のアウタークラッド部35とを有している。クラッド32の外径、つまりPOF11の外径は200〜1500μmとされている。本発明では、第2被覆層37の厚みTとPOFコード17の外径Dとが、D/2≦T≦2Dを満たすことが好ましい。なお、POFコード17の外径Dは、第1被覆材30の外径と同じである。これにより、曲げ損失の抑制効果がより高まる。
【0018】
図3において、横軸の符号(A)で示される範囲は、図2におけるアウタークラッド35の屈折率であり、符号(B)で示される範囲はインナークラッド部34の屈折率であり、符号(C)で示される範囲はコア31の屈折率である。
【0019】
コア31は、図3に示されるように、インナークラッド部34との境界から中心に向けて屈折率が連続的に高くなっている。アウタークラッド部32はインナークラッド部34よりも屈折率が低く、インナークラッド部34の屈折率はコア31の屈折率以下となっている。なお、断面円形の径方向において、屈折率の最大値と最小値との差が0.001以上0.3以下であることが好ましい。上記のような構造によりPOF11は、GI型光伝送体としての機能を発現する。なお、POF原糸12のアウタークラッド部、インナークラッド部、コア部の各外径は、POF11のそれぞれよりも大きいが、基本的構造はPOF11と同じであるので図示は略す。また、図2ではインナークラッド部34とコア31との境界を、説明の便宜のために示してはいるが、製造の条件等により境界の明確さは異なり必ずしも確認できるものでなくともよい。
【0020】
また、本実施形態のインナークラッド部34は、図3に示すように屈折率が概ね一定となっているが、コア31に近づくほど屈折率が大きくなっていてもよい。この場合には、インナークラッド部34の屈折率は、コア31に近づくほど段階的に大きくなってもよいし連続的に大きくなってもよい。
【0021】
プラスチック光ファイバ11が他の構造とされていても本発明は適用される。コア31及びクラッド32の他の構造としては、例えば、クラッドとコアとの境界が存在せずに、クラッド32の内周からコア31の中央に向かって屈折率が連続的もしくは段階的に高くなる構造や、コアが2層以上の構造である場合等を挙げることができる。また、本実施形態ではクラッド32が2層構造とされているが、本発明はこれに限定されず、例えば必要に応じ単層構造あるいは3層以上の複層構造とされてもよい。なお、伝送すべき光はインナークラッド部34とアウタークラッド部35との界面で反射してインナークラッド部34とコア31との両方を通過する場合や、あるいは、クラッド32とコア31との界面で反射してコア31のみを通過することもある。本発明は、製造する光ケーブルのPOF部分について、シングルモード、マルチモード、そして、SI型、GI型のいずれのタイプであっても適用することができるが、以上のようなGI型POFとすることで、SI型よりも光伝送特性に優れたPOFを得ることができる。
【0022】
コア31及びクラッド32は、ポリマーを主たる成分としており、必要に応じて各種の物質が添加される。主たる成分とは、90重量%よりも大きな重量百分率である成分を意味する。コア31とクラッド32とを形成するためのポリマーとしては、光散乱を生じないように、非晶性のポリマーとすることが好ましい。さらにまた、水分がコアに侵入することをできるだけ防ぐことが好ましいので、アウタークラッド35は、吸水率が低い材料、例えば、飽和吸水率が1.8%未満のポリマーを主たる成分とすることが好ましい。そして、より好ましくは、インナークラッド部34が1.5%未満の飽和吸水率、さらに好ましくは1.0%未満の飽和吸水率であるポリマーにより形成されることである。なお、ここでの飽和吸水率は、ASTM D570に基づく値であり、具体的には、23℃の水中にサンプルを1週間浸漬したときの吸水率を測定した値である。
【0023】
ここで、アウタークラッド部35と第1被覆材30との単位面積当たりの密着力をFU1(N/cm2 )、第1被覆材30と第2被覆材37との単位面積当たりの密着力をFU2(N/cm2 )とする。本発明では、引張破断伸度が15%以下で曲げ強度が20MPa以上65MPa以下の材料でコア31が形成されているときに、単位面積当たりの密着力FU1,FU2が4.4×10-2(N/mm2 )<FU2≦FU1<3.3×10-1(N/mm2 )の条件を満たす。引張破断伸度の上記値はATSM D638による測定値、曲げ強度の上記値はASTM D790による測定値であるので、両者を他の方法で測定する場合には、それらの測定値とASTM D638,D790による測定値との相関関係を予め求めておくとよい。また、上記密着力F1,F2とは、光ケーブル17からPOF11を引き抜くに要する力(引き抜き力)を密着面の面積で除した値である。この値を基にすると、例えば、アウタークラッドの外径が500μm、第1被覆材30の外径Dが1200μmであるプラスチック光ケーブル20を製造する場合には、長さ30mmの長さ分をサンプリングしたときに、アウタークラッド35と第1被覆材30との密着力F1と第1被覆材30と第2被覆材37との密着力F2とが2(N)<F2≦F1<15(N)を満たすようにするとよい。
【0024】
コア31が上記のように脆い材料で形成され、単位面積当たりの密着力FU1,FU2を上記条件とすることにより、側圧損失や曲げ損失等の伝送損失の悪化を抑えることができる。これは、アウタークラッド35と第1被覆材30、及び第1被覆材30と第2被覆材37とがそれぞれ密着しているので、光ケーブル20に対し外部から応力がかけられてもその力がPOF17部分から第1及び第2被覆材30,37に分散することによる。例えば、光ケーブル20を敷設するときに長手方向に強く引いた際には、引張の力がPOF17部分に強くかかってもその力が周りの第1被覆材及び第2被覆材30,37へ分散されるので、コア31とインナークラッド34とアウタークラッド35の各界面で剥離が起こりにくい。また、光ケーブル20に側圧がかけられても、POF17部分にかかった力は引張の場合と同じく第1被覆材30及び第2被覆材37に分散するので、POF17部分は損傷しにくい。
【0025】
このように、単位面積当たりの密着力FU1,FU2は大きければよいというものではなく、上記値の範囲とされることが好ましい。単位面積当たりの密着力FU1,FU2が3.3×10-1(N/mm2 )以上であると、第2被覆材37を光ケーブル20から引き抜く際にアウタークラッド35とインナークラッド34との界面剥離が起きてしまい、伝送損失が大きくなってしまう。という問題がある。一方、FU1,FU2が4.4×10-2(N/mm2 )以下であると、密着性が弱すぎて、繰り返しの曲げ等によりアウタークラッド35と第1被覆材30とが剥がれてしまうので、局部的に側圧がかかったときに伝送損失が大きくなる場合がある。という問題がある。また、FU2がFU1よりも大きいと、コネクタへの取り付け等のために第2被覆材37を光ケーブル20から抜き取る際に、第1被覆材30がアウタークラッド35から剥離してしまうという問題がある。FU1,FU2は、7.0×10-2(N/mm2 )<FU2≦FU1<2.0×10-1(N/mm2 )を満たすことがより好ましく、9.0×10-2(N/mm2 )<FU2≦FU1<1.8×10-1(N/mm2 )を満たすことがより好ましい。また、FU2<FU1であることがより好ましい。
【0026】
ところで、第1被覆材30と第2被覆材37との弾性率の関係は、POF11特にクラッド32と両被覆材30,37との弾性率の関係よりも、曲げ損失の増大に大きく影響をもつ。したがって、クラッド32と両被覆材30,37との引張弾性率の関係よりも第1被覆材0と第2被覆材37との弾性率の関係を重視した方が曲げ損失の効果的な制御が可能となる。そこで、本発明では、第1被覆層30の材料は、第2被覆材37の材料よりも曲げ弾性率が低いものとすることが好ましく、これにより、曲げ損失をより効果的に抑制することができる。これは、POF11を密着して覆っている第1被覆材30がPOF11の曲がりにより柔軟に応じられるという利点をもつとともに、第1被覆材30よりも低い曲げ弾性率をもつ第2被覆材37は、曲げの応力が第1被覆材30を通してPOF11に伝わってしまうことを抑制することができるという利点をもつ。また、第1被覆材30の曲げ弾性率M1(MPa)と第2被覆材37の曲げ弾性率M2(MPa)とが上記条件を満足することにより、テンションメンバを使用しなくても敷設に十分な曲げ耐性が光ケーブル20に付与されるので、光ケーブルのサイズを小さくして第1及び第2被覆材30,37の原料を減らし軽量化及びコストダウンが図られる。M1<M2のときには、光ケーブル20を曲げたときに応力がPOF11の内部にかかってしまって光学特性が悪くなることがある。
【0027】
コア31及びクラッド32の材料例としては、スチレン系化合物(a)、ビニルエステル類(b)、主鎖に環状構造を含むフッ素系ポリマー(c)、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールA等を重合性化合物として用いて重合させたもの、ノルボルネン系樹脂等を使用することができる。そして、アウタークラッド35を形成するポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)も好ましい。これらを原料として、各々を重合させたホモポリマー、あるいはこれらのうち2種以上を組み合わせて重合させた共重合体、および上記のホモポリマーや共重合体の各種組み合わせによる混合物も例として挙げることができる。フッ素系ポリマーを用いる場合には、特開2002−71972号公報に記載されているような、C−H結合が実質的に含まれていないような非結晶性のものが伝送特性の観点からは好ましい。(c)のように主鎖に環状構造を有するポリマーとしては、もともと環状構造をもっていたモノマーを重合することにより得られるポリマーや、環化重合によって非晶質構造の主鎖に環状構造が形成されたポリマー等が挙げられ、例えば、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634号公報等に記載される主鎖に脂肪環または複素環をもつポリマー、特開2002−71972号公報及び特願2004−186199号に記載されるもの等が伝送特性の点で好ましい。また、本発明は上述のように、光信号の伝送特性には優れるが脆いという欠点をもつポリマーをコア31に用いた場合に、大きな効果が得られる。そのようなポリマーとしては、主鎖に環状構造をもつポリマーやフッ素系ポリマーがある。
【0028】
また、コア31及びクラッド32には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コアもしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。これにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、得られるPOF17及びケーブル20を、例えば、光伝送リンクの一部のファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料となる各種重合性化合物に添加した後、重合することによって、コア31及びクラッド32を形成することができる。
【0029】
上記屈折率分布、すなわち、径方向において屈折率が変化するために、インナークラッド部34とコア31とを形成する各ポリマーのうち少なくともいずれか一方に、屈折率調整剤(ドーパント)を各所定量混合する。ドーパントとしては、非重合性の化合物が好ましい。コア31のみにドーパントを添加する場合には、この添加率は、コア31の主成分となるポリマーに対して0.01重量%以上25重量%以下とすることが好ましく、1重量%以上20重量%以下とすることがより好ましい。これにより、断面円形の径方向における屈折率分布係数を上記のような好ましい範囲により制御しやすくなる。
【0030】
本実施形態でのドーパントは、高屈折率で分子体積が大きく、重合性がなく、溶融状態のポリマー中で所定の拡散速度を有する低分子化合物であり、これを添加することによりコアの径方向における屈折率を変化させている。ドーパントは、モノマーに限定されず、ダイマーやトリマー等のオリゴマーであってもよい。したがって、モノマーの状態ではコアを形成する重合性化合物との重合反応性を有するものであっても、これがオリゴマーとなったときにはこのような重合反応性を示さないものであれば、このようなオリゴマーをドーパントとして用いることができる。
【0031】
第1被覆材30及び第2被覆材は、耐曲げ性、側圧耐性の他に、耐候性の向上、吸湿による性能低下抑制、引張強度の向上、耐踏付け性付与、難燃性付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上などを目的として設けられる。
【0032】
第1被覆材30,第2被覆材37には、上記のような各目的に応じてその材料が選択される。材料として好ましいものは、低融点かつ高流動性のポリエチレン((直鎖状)低密度ポリエチレン)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリフッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。
【0033】
次に、本発明の被覆装置及び被覆方法について説明する。図4は、第1被覆工程18(図1参照)で用いた被覆設備を示す概略図である。被覆設備51は、被覆機52と、この被覆機52にPOF11を送り出す送出機53と、巻取機56と、POFコード17を巻取機56に搬送する搬送機57とを備える。さらに、被覆設備51は、被覆機52から出てきたPOFコード17を冷却するための冷却機61を複数備える。また、搬送機57に備えられた搬送手段58と冷却機61との間にはPOFコード17の張力を制御するためのダンサプーリ58が備えられ、このダンサプーリ58にはPOFコード17の張力を測定する第1張力測定装置62が備えられている。搬送手段58としては、駆動プーリや駆動ローラ、ゴデットロール等の周知の搬送手段を用いることができる。
【0034】
そして、送出機53によるPOF11の送り出し速度と搬送機57によるPOFコード17の搬送速度とを制御する送り速度コントローラ(図示せず)と、巻取機56における巻取張力を測定するための第2張力測定装置66とが、被覆設備51には備えられている。なお、第2張力測定手段66は、巻取機56に備えられた巻取装置64の上流側のダンサプーリ65に備えられる。
【0035】
送出機53と搬送機57とは、独立して駆動可能としている。また、送出機53は、POF11を被覆機52に送り出すための送出装置71と、被覆機52へ送り出すPOF11の張力を制御するためのダンサプーリ72とを備えるが、この張力制御は、ダンサプーリ72に代えて他の周知の張力制御手段により行われてもよい。他の張力制御手段としては、例えばダンサローラ等が挙げられる。第1張力測定装置62の測定結果に応じて、送出機53による搬送速度、搬送手段58による搬送速度、ダンサプーリ58,72の位置等の少なくともいずれかひとつが調整される。なお、図4には、被覆設備51の搬送路にPOFコード17の支持手段67が複数図示されているが、この数は適宜増減され、さらに、POF11を支持するための支持手段を適宜設けてもよい。そして、この支持手段としてはガイドプーリやガイドローラ、ゴデットロール等を用いることができる。
【0036】
この被覆設備51は、前工程である加熱延伸工程16の装置と連続させることができる。加熱延伸工程16の装置と連続させるときには、送出機53は、加熱延伸工程16に設けられた搬送手段に代えることができる。
【0037】
被覆機52は、送出機53から送り出されたPOF11に、所定の被覆材料68で第1被覆材30(図2参照)を形成しPOFコード17とする。被覆機52は、送り込まれてきた被覆材料68を加熱溶融することによりPOF11を密着被覆する。被覆機52から出た直後のPOFコード17は高温となっていることがあるので、通常は、搬送手段等への接着等を防止するために冷却機61を使用してPOFコード17を冷却する。また、支持手段67が設けられているPOFコード17の搬送路では、POFコード17の内部応力歪みが搬送中に緩和される。
【0038】
搬送機57により冷却機61を出たPOFコード17は、第1張力測定装置62により搬送方向における張力を測定される。この測定結果は送り速度コントローラに送られて、ここで搬送機57による搬送速度が制御される。送り速度コントローラは、さらに、送出機53によるPOF11の送り出し速度も制御することができる。また、本実施形態ではダンサプーリ59,72を用いているので、送出機53及び搬送手段58による搬送速度を調整せずとも、第1張力測定装置62の測定結果に基づいてダンサプーリ59,72の調整によりPOF11とPOFコード17との張力を制御することができる。このようにして被覆時におけるPOF11の張力は制御される。
【0039】
搬送機57により搬送されるPOFコード17は、第2張力測定装置66により巻取張力を測定されながら、巻取機56により巻き取られる。
【0040】
搬送機57としては、POFコード17をスリップさせずに安定して支持しながら傷等を付けることなく次工程に搬送するものが好ましい。搬送手段として好ましいものとしては、周知の駆動ローラやゴデットロール等が例示される。
【0041】
次に、上記のような被覆設備51による被覆方法を説明する。まず、所定の被覆材料68を被覆機52に供給し、加熱溶融する。また、POF11を送出機53により被覆機52に送り込む。なお、この被覆機52における被覆機構については、別の図を用いて後で詳細に説明する。被覆機52から出たPOFコード17を、所定の温度となるように冷却し、冷却後のPOFコード17を搬送機57により搬送する。
【0042】
被覆機52は、被覆材料68を加熱溶融する溶融部と、内部に送り込まれてきたPOF11に溶融された被覆材料68を被覆する被覆部とを有しており、この被覆部について、図5を参照しながら以下に詳しく説明する。図5は、被覆部の要部を示す概略図である。被覆部81は、周知のように被覆ダイス82とニップル83とが一体的に組み立てられており、これらによって形成される隙間が、溶融された被覆材料68の流路86となる。そしてニップル83には、POF11の第1走路87が形成されている。第1走路87に流路86が接続して、その接続箇所から下流側は、POF11が被覆材料68で被覆されて走行する第2走路88とされる。被覆ダイス82とニップル83とには、被覆材料68を所定の温度に制御して所望の流動性をもたせるための温度コントローラ91が備えられる。なお、この被覆機52には、溶融された被覆材料68を被覆部81に送り込む管94が、前記溶融部から流路86に接続するように設けられている。
【0043】
上記の被覆部81において、POFコード17の出口をダイス出口82a、被覆材料68が第2走路88に達する位置を被覆材料供給口86a、この被覆材料供給口86aの最もダイス出口82a側の端をランド後端位置82bと称する。また、第2走路88のうち、ランド後端位置82bより下流はランド部90である。そして、ニップル83の下流端における外径をニップル外径Tb1(μm)と称し、第1走路87の径をニップル外径Tb2(μm)と称する。
【0044】
この被覆部81では、POF11が第1走路87、第2走路88を通過してダイス出口82aから出る。ニップル外径Tb2はPOF11の外径よりも若干大きめとされており、POF11の外周面をできるだけ傷つけないようにしてある。管94から流路86に案内された被覆材料86は、流路86から第2走路88に達し、この第2走路88でPOF11の外周を覆う。そして、POF11は、被覆材料82に被覆されたPOFコード17として外部に出される。
【0045】
被覆ダイス82とニップル83とは周知のように様々な形状のものがある。例えば、ニップル上流端がランド部をもたないものでは、ニップル83の下流端がダイス出口82aよりも上流側に位置している。POF11が被覆材料68で被覆される位置を、このように被覆ダイス82の内部とするものであれば、いかなる様態の被覆ダイス及びニップルの被覆部であってもよい。このように、被覆ダイス82の内部でPOF11に第1被覆材30を形成することにより、被覆材料68に圧力がかけられてPOF11を覆い、POF11と第1被覆材30とが上記の引抜強度の密着力で密着するようになる。このように加圧されて密着被覆する方法を以下の説明では加圧押出被覆法と称する。
【0046】
このような被覆部81を有する被覆機により被覆する方法では例として以下の方法をあげることができる。まず、POF11を被覆部81の内部で搬送させる速度については、10m/分〜100m/分の範囲であることが好ましい。搬送速度が10m/分未満であると生産効率が低すぎるし、また、加熱されている第1走路87におけるPOFの通過時間が長すぎてニップル83からの熱よりPOF11が劣化することがある。一方、搬送速度を100m/分より速くすると、冷却が不十分となり、被覆材料68の予熱でPOF11が伸びてしまう、あるいは、被覆材料68の結晶化による機械的特性の変化などの問題が生じるおそれがある。
【0047】
そして、被覆ダイス82とニップル83との各形態及び相対位置を調整することによりPOF11の熱劣化による伝送損失の悪化をより防止することができる。
【0048】
被覆材料68の被覆時における温度(以下、被覆温度と称する。)TD(単位;℃)は、POF11に与える熱量を低減するためにも可能な程度に低くすることが好ましい。したがって、被覆温度TDは、POF11の素材の熱伝導度や比熱を考慮して決めるとよい。例えば、ポリエチレンを被覆材料68として用いる場合には140℃以下とすることが好ましく、より好ましくは130℃以下とすることである。被覆材料68は、適度な流動性を示していることが好ましく、さらに、伝送損失の上昇を防ぐために、例えば融点Tm(℃)をもつ物質であるときには、Tm≦TD≦(Tm+30)℃とすることが好ましく、より好ましくはTm≦TD≦(Tm+20)℃であり、Tm≦TD≦(Tm+10)℃とすることが最も好ましい。例えば、被覆材料68が融点120℃の低密度ポリエチレンである場合には、120℃〜130℃の被覆温度TDとすることが好ましい。
【0049】
押出被覆法に代えて、嵌合延伸法、接着剤による取り付け等の周知の方法により第1被覆材30をPOF11の外周に設けることもできる。嵌合延伸法とは、被覆材料により予め成型した筒状部材の中空部に、円柱状のプラスチック光ファイバプリフォーム(母材)を嵌め込み、これを長手方向に延伸してPOFとする方法である。なお、これらの方法により得られるPOFコードについて、密着力の測定は、被覆設備51で得られるPOFコード17の密着力測定方法と同様にして実施することができる。
【0050】
なお、POF11を複数本まとめてニップル83の内部を走行させて被覆することにより、複数本まとめられた状態のPOF11の束の外周を密着被覆することもできる。
【0051】
以上のように第1被覆材30が設けられることにより、POF11は、機械的特性が向上するとともに、POFのみの場合よりも径が大きくなるので光結合時におけるハンドリング性が向上する。
【0052】
以上の被覆方法において、POF11をPOFコード17に代えるとともに被覆材料68を第2被覆材のための材料に代えることにより、光ケーブルを得ることができる。なお、第2被覆材は、コネクタへ光ケーブルを取り付ける際には通常取り除かれる。
【0053】
第2被覆材37には、難燃剤や、紫外線吸収剤、酸化防止剤、昇光剤、滑材等を、光伝送特性に影響を及ぼさない条件範囲で添加してもよい。
【0054】
前記難燃剤としては、臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤、リン含有のものがあるが、燃焼時における毒性ガス低減等の安全性の観点では、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が主流となりつつある。ただし、このような金属水酸化物は、その内部に水分を結晶水として有している。この水分は、これら金属水酸化物の製法過程における付着水に起因するものであり完全除去は不可能とされる。したがって、金属水酸化物は、POFに接する第1被覆材には含有させずに、光ケーブルの表面に配された第2被覆材に含有させることが望ましい。
【0055】
本発明のプラスチック光ケーブルは、従来の光ケーブルに比べて軸ずれに対する許容度が高いために、突き合せにより接合しても用いることができるが、より好ましくは、プラスチック光ケーブルの端部に接続用光コネクタを備えて、互いの接続部を確実に固定することが好ましい。コネクタとしては一般に知られている、PN型、SMA型、SMI型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。
【0056】
本発明のプラスチック光ケーブルは、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置等が組み合わされて好適に用いられる。この際には、必要に応じて他の光ファイバ等と組み合わせてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線、車両や船舶などの内部配線、光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LAN等をはじめとする、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0057】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用した、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも照明(導光)、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【実施例1】
【0058】
[実験1]
光ケーブル20を製造するとともに、得られた光ケーブル20の伝送損失を測定した。以下に、製造条件、評価項目及び評価方法を含めて説明する。実験6,7は、本発明の実施様態である実験1〜5に対する比較実験として実施したものである。なお、詳細は実験1で説明し、実験2〜7において実験1と同じ条件で実施した内容については記載を省略する。
【0059】
コア31及びクラッド32の主成分を、C−H結合をもたない非結晶性の透明フッ素系ポリマーとして、GI型POF11を作製した。なお、主成分とは、90重量%よりも大きな重量百分率である成分を意味する。コア31及びクラッド32の材料は、引張破断伸度が6%、曲げ強度が50MPaである。引張破断伸度はASTM D638、曲げ強度はASTM D790に基づき予め測定された。なお、POF11の作製方法は、特開平8−5848号公報、特開平11−167030号公報、特開2005−23324号公報のいずれかひとつに基づいて実施した。
【0060】
被覆設備51を用いた加圧押出被覆法により、第1被覆材30をPOF11の外周に設けPOFコード17を得た。被覆材料68は、PMMA(商品名;アクリペットVH−5,三菱レイヨン(株)製、曲げ弾性率3100MPa)である。POFコード17の外径は500μmである。
【0061】
得られたPOFコード17について、密着力F1、曲げ損失、側圧損失を測定した。密着力F1の測定では、POFコード17から長さ100mm分をサンプル片として切り取った。このサンプル片の一端から30mmの位置に周方向での切り込みを入れた。切り込みに関して30mmの長さ側の一端を、引張試験機の上チャックで保持し、70mmの長さ側の他端を下チャックで保持した。そして、上チャックを100mm/分の速度で上昇させて、30mmの長さ側の第1被覆材30がPOF11から剥離する力を求め、これをF1とした。引張試験機は東洋精機製ストログラフである。F1は13Nであった。曲げ損失は、JIS C6823に準じて測定したものであって、長さ5mのPOFコード17を曲がり半径Rが10mmとなるように曲げて、曲げた状態での伝送損失値から曲げる前の伝送損失値を引いた差である。このようにして求めた曲げ損失値は1.5dBであった。側圧損失は、JIS C6823のマイクロベンド損失のワイヤメッシュ法に準じて測定したものであって、所定の側圧を長さ5mのPOFコード17にかけて、側圧下での伝送損失値から側圧付与前の伝送損失値を引いた値である。このようにして求めた側圧損失値は0.06dBであった。
【0062】
次に、POFコード17に第2被覆材37を設けて光ケーブル20を得た。被覆方法は加圧押出被覆法であり、溶融押出機本体53の混練部にあるスクリューの径はφ40mmである。第2被覆材37の材料は熱可塑性フッ素系ポリマー(商品名;DYNEON THV220G,住友3M製、曲げ弾性率80MPa)であり、130℃で押し出してPOFコード17を被覆した。第2被覆材37の厚みTは750μm、得られた光ケーブル20の外径は2mmである。
【0063】
得られた光ケーブル20の目視による評価では、第1被覆材30と第2被覆材37との間には隙間は無く、両者は均一に密着していることが確認された。第1被覆材30と第2被覆材37との密着力F2、曲げ損失、側圧損失を、長さ5mのPOFコード17における測定方法と同様に測定した。なお、F2については、第2被覆材37を引っ張り、第2被覆材37と第1被覆材30とが剥離したときの力の値である。F2は8N、曲げ損失は1.3dB、側圧損失は0.04dBであった。
【0064】
実験1では、第2被覆材37を被覆すると、曲げ損失と側圧損失との両方が小さくなることがわかる。
【0065】
[実験2]
実験1と同様のPOFコード17に対して第2被覆材37をチュービング型押出被覆設備により設け、光ケーブル20を得た。このチュービング型押出被覆設備では、ダイス82からPOFコード17が出たところでPOF17が第2被覆材37に接触し、被覆される。チュービング型押出被覆設備混練部にあるスクリューの径はφ40mmである。
【0066】
得られた光ケーブル20の目視による評価では、第1被覆材30と第2被覆材37との間には、一部隙間が確認された。密着力F2は4N、曲げ損失は1.4dB、側圧損失は0.05dBであった。
【0067】
[実験3]
第2被覆材37の厚みTが1050μm、光ケーブル20の外径が2.6mmとなるように第2被覆材37をPOFコード17に設けた。その他の条件は実験1と同じである。
【0068】
得られた光ケーブル20の目視による評価では、第1被覆材30と第2被覆材37とは均一に密着していた。密着力F2は6N、曲げ損失は1.2dB、側圧損失は0.04dBであった。このように、曲げ損失と側圧損失については、POFコード17のときよりも光ケーブル20とした方が良い結果が得られた。しかし、光ケーブル20の伝送損失はPOFコード17の伝送損失よりも50dB/km大きくなっていた。これは、第2被覆材37の厚みTを大きくしすぎたことにより、第2被覆材37の被覆時にPOFコード17が熱で伸びてしまい、そのためコア31とインナークラッド34とアウタークラッド35との各界面で界面不整が生じたので光信号が散乱して損失が上昇したと考えられる。
【0069】
[実験4]
第2被覆材37の厚みTが200μm、光ケーブル20の外径が0.9mmとなるように第2被覆材37をPOFコード17設けた。その他の条件は実験1と同じである。
【0070】
得られた光ケーブル20の目視による評価では、第1被覆材30と第2被覆材37とは均一に密着していた。密着力F2は6N、曲げ損失は1.5dB、側圧損失は0.06dBであった。このように、曲げ損失と側圧損失については、POFコード17と光ケーブル20とは同じであった。これは、第2被覆材37の厚みTが薄すぎるために、光ケーブル20を曲げたときやこれに光ケーブル20に側圧を付与したときに、第2被覆材37がそれらの応力を緩和及び軽減できなかったためと考えられる。
【0071】
[実験5]
第2被覆材37の材料はPVC(商品名;理研コンパウンド、リケンテクノス(株)製、曲げ弾性率3200MPa)であり、135℃で押し出してPOFコード17を被覆した。その他の条件は実験1と同じである。
【0072】
得られた光ケーブル20の目視による評価では、第1被覆材30と第2被覆材37とは均一に密着していた。密着力F2は5N、曲げ損失は1.7dB、側圧損失は0.04dBであり、側圧損失における効果は向上したことが確認された。
【0073】
[比較実験1]
アウタークラッドをPVDF(型番;KF−850,呉羽化学工業(株))とするとともに、インナークラッド及びコアの主成分を、主鎖に環状構造をもたないポリマーとしてのPMMAとした。なお、コアにはドーパントを微量添加することにより屈折率を断面径方向で制御した。用いたPVDFは、引張破断伸度が25%、曲げ強度が75MPaである。
【0074】
第1被覆材とする被覆材料は、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名;ニポロンL,東ソー(株)製、曲げ弾性率300MPa)である。得られたPOFコードにおける密着力F1は13N、曲げ損失は0.5dB、側圧損失は0.03dBであった。
【0075】
第2被覆材の材料は低密度ポリエチレン(商品名;ペトロセン、東ソー(株)製、曲げ弾性率100MPa)であり、120℃で押し出してPOFコードを被覆した。その他の条件は実験1と同じである。
【0076】
得られた光ケーブルの目視による評価では、第1被覆材30と第2被覆材37とは均一に密着していた。密着力F2を測定するときに、第2被覆材が第1被覆材から剥離する前に、第1被覆材がアウタークラッドから剥離した。曲げ損失は0.5dB、側圧損失は0.04dBであった。このように、特に効果があったとは言えない。これは、コアの主成分であるPMMAが主鎖に環状構造をもたず、脆性の大きなポリマーではないので、曲げに対する耐性がもともと高いためと考えられる。また、密着力F2を測定するときに、第2被覆材が第1被覆材から剥離する前に、第1被覆材がアウタークラッドから剥離したことから、F2はF1よりも大きいことがわかる。このプラスチック光ケーブルを敷設してみると、POFと第1被覆材とが剥離してコネクタへプラスチック光ケーブルをうまく接続できず、POFが露出してしまうので損傷を受けやすいことがわかった。
【0077】
以上のように、本発明により、POFの伝送損失を損なうことなく、敷設性に優れたプラスチック光ケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】プラスチック光ケーブルを製造するフロー図である。
【図2】プラスチック光ケーブルの断面図である。
【図3】プラスチック光ケーブル中のPOF部分の断面径方向における屈折率を示すグラフである。
【図4】被覆設備を示す概略図である。
【図5】被覆部の要部を示す概略図である。
【符号の説明】
【0079】
11 プラスチック光ファイバ(POF)
17 プラスチック光ファイバコード(POFコード)
18 第1被覆工程
20 プラスチック光ケーブル
21 第2被覆工程
30 第1被覆材
31 コア
32 クラッド
37 第2被覆材
51 被覆設備
52 被覆機
68 被覆材料
82 ダイス
83 ニップル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を伝送する第1部材及びこの第1部材の外周に備えられ屈折率が前記第1部材の屈折率以下である第2部材を有するプラスチック光ファイバと、このプラスチック光ファイバの外周を覆う第1被覆部材と、前記第1被覆部材の外周を覆う第2被覆部材とを備えるプラスチック光ケーブルにおいて、
前記第1部材は、引張破断伸度が15%以下であり曲げ強度が20MPa以上65MPa以下であるポリマーを主成分とし、
前記プラスチック光ファイバと前記第1被覆部材との単位面積あたりの密着力FU1(単位;)と、前記第1被覆部材と前記第2被覆部材との単位面積あたりの密着力FU2とは、4.4×10-2(単位;N/mm2 )<FU1≦FU2<3.3×10-1(単位;N/mm2 )の条件を満たすことを特徴とするプラスチック光ケーブル。
【請求項2】
前記第1部材の主成分は、主鎖に環状構造を有するポリマーであることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光ケーブル。
【請求項3】
前記第1被覆部材の曲げ弾性率M1と前記第2被覆部材の曲げ弾性率M2とは、M1≧M2を満たすことを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光ケーブル。
【請求項4】
前記第1被覆部材の外径Dと前記第2被覆部材の厚みTとがD/2≦T≦2Dの条件を満たすことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のプラスチック光ケーブル。
【請求項5】
前記第1部材の屈折率は、断面円形の中心から外周に向かうにつれて低くなることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のプラスチック光ケーブル。
【請求項6】
被覆ダイスに備えられたニップルの内部の走行路に挿通されて出てきた線状の光伝送部材に、前記ダイスと前記ニップルとの間に形成されているポリマー通路から溶融ポリマーを押し出して被覆する光伝送部材の被覆方法において、
前記溶融ポリマーと前記光伝送部材との接触開始位置が前記ダイスの内部となるように前記走行路の下流端開口部の位置を設定し、前記光伝送部材を前記溶融ポリマーで密着被覆することを特徴とする光伝送部材の被覆方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−108233(P2007−108233A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296690(P2005−296690)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】