説明

プラズマ溶接電源

【課題】短時間でガスパージ作業を行うことができ、作業再開時にパイロットアークの良好な点弧性を確保できるプラズマ溶接電源を提供する。
【解決手段】プラズマアークを発生させるためにプラズマトーチに供給するプラズマガスの流量を調整する予め設定された大流量のプラズマガスを流す大流量用流路と予め設定された中流量のプラズマガスを流す中流量用流路と予め設定された小流量のプラズマガスを流す小流量用流路とを設けたプラズマガス流量調整機構を備え、メインスイッチがONに成ると大流量用流路を通って大流量のプラズマガスを供給し、パイロットアーク起動スイッチがONに成ると中流量用流路を通って中流量のプラズマガスを供給し、パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで小流量用流路を通って小流量のプラズマガスを供給するプラズマ溶接電源。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマガスへの水分の混入を抑制して、プラズマ溶接の品質を向上させるためのプラズマトーチへのガス供給方法を改善したプラズマ溶接電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来技術におけるプラズマ溶接装置の構成図である。同図において、電極11と母材2との間に主プラズマアーク3が発生する。この主プラズマアーク3を発生させるために、プラズマノズル12内にプラズマガス4を流す。また、プラズマアーク発生部及び母材2の溶融部を空気から遮蔽するために、シールドガスカップ13内にシールドガス5を流す。
プラズマトーチ1は、主に上記の電極11、プラズマノズル12、シールドガスカップ13からなり、タングステン電極を一般的に陰極として放電した際のプラズマを、水冷されたプラズマノズル12とプラズマガス4のガス流によって拘束することで、集中性の良い主プラズマアーク3を発生させる。上記のプラズマガス4及びシールドガス5にはアルゴンガスが一般的に使用される。
【0003】
プラズマガス4は、プラズマガスボンベ6からガスホース7によってプラズマ溶接電源8に供給される。そして、プラズマガス4は、プラズマガス流量調整器10及びプラズマガス電磁弁14が設けられたプラズマガス流路9を経て、プラズマ溶接電源8からガスホース7によってプラズマトーチ1に供給される。
同様に,シールドガス5は、シールドガスボンベ15からガスホース7によって溶接電源8に供給される。そして、シールドガス5は、シールドガス流量調整器17及びシールドガス電磁弁18が設けられたシールドガス流路16を経て、プラズマ溶接電源8からガスホース7によってプラズマトーチ1に供給される。
上記のプラズマガス流量調整器10とシールドガス流量調整器17は、プラズマガス4及びシールドガス5のそれぞれの流量を調整する。一般的に、プラズマガス4の流量は、約0.1リットル/分〜2リットル/分に調整され、シールドガス5の流量は、約10リットル/分に調整される。上記のプラズマガス電磁弁14及びシールドガス電磁弁18は、プラズマガス4及びシールドガス5のそれぞれの放流の開閉を制御する。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
以下、動作を説明する。
図6において、プラズマ溶接電源8にパイロットアーク起動信号が入力されると、先ず、プラズマガス電磁弁14が開きプラズマガス4のプリフローが開始される。そして、数秒後に電極11とプラズマノズル12との間に高周波が印加されて、電極11とプラズマノズル12との間にパイロットアークが点弧する。
その後、トーチスイッチ起動信号が入力されると、シールドガス電磁弁18が開き、シールドガス5がプラズマトーチ1に供給されて、電極11と母材2との間に主プラズマアーク3が発生する。そして、プラズマ溶接が開始される。
【0005】
プラズマ溶接の現場において、プラズマガス4及びシールドガス5に使用されるアルゴンガスは、ガスホース7及び各流路を経由してプラズマトーチ1に供給されるため、これらの経路内で純度が低下することがある。特にゴムホースを経由する場合、水分の透過係数は、理想的な溶接用ホース材料と言われる軟質フッ素樹脂の約10の6乗倍であるので、ガスホース7内に水分が透過して、プラズマガス4及びシールドガス5中の水分量を上昇させる。
【0006】
プラズマガス4内の水分が上昇すると、アルミの溶接の場合、ブローホールを発生させる原因となり、ステンレスの溶接の場合、溶接焼けの原因となる。
また、タングステン電極の先端が酸化して、パイロットアークの点弧性が著しく損なわれ、電極11の寿命が著しく短くなるという問題が発生する。
【0007】
そこで、ガスホース7内に浸透した水分を除去するために、溶接を行わずにガスホース7内にアルゴンガスを長時間放流する作業(以下、ガスパージ作業という)を行う必要がある。
図7は長さ10メートルの一般的なガスホースを用いて、10リットル/分のアルゴンガスを流してガスパージ作業を行ったときのガスパージ時間(横軸)と露点の変化(縦軸)を示す図である。同図において、露点が−60℃を下回るためには、10リットル/分のアルゴンガスを3分以上流す必要がある。単純に積算流量で計算すると、30リットル以上のアルゴンガスを流さなくてはならない。
【0008】
シールドガス用のガス流量調整器は、通常、一般的な溶接用のガス流量調整器である最大25リットル/分のガス流量調整器が用いられる。一方、プラズマガス用のガス流量調整器の分解能としては、最低0.05リットル/分以下が必要であり、また、最大2リットル/分程度の流量で十分であるので、プラズマガス用のガス流量調整器には、最大2リットル/分のガス流量調整器を用いる。この場合、例えばフロート式のガス流量調整器を用いた場合、2リットル/分のガス流量調整器の最大流量は、ニードル弁を最大に開いた状態でも5リットル/分しか流すことができない。
このように、プラズマガス用のガス流量調整器は、一般的に、容量が小さいために、ニードル弁を最大に開いた状態でも、5リットル/分程度の流量しか得ることができない。従って、単純計算で30リットルのアルゴンガスを流すためには6分間必要になり、プラズマ溶接電源を起動させてから行うガスパージ作業にかなりの時間が掛かることになる。
【0009】
通常、プラズマ溶接の現場においては、プラズマガス4の流量をプラズマガス流量調整器10のニードル弁で頻繁に調整することはなく、プラズマ溶接中に使用する流量に固定されている。プラズマ溶接中に使用するプラズマガス4の最小流量は0.2リットル/分である場合もあり、その場合、30リットルのアルゴンを流すためには2時間以上のガスパージ作業が必要であり、作業効率を著しく低下させる。
【0010】
また、プラズマ溶接作業を休憩又は昼食等で中断するときに、パイロットアークを消弧し、プラズマガス4を止める。そして、プラズマ溶接作業を再開するまでの僅かな休止時間中に、ガスホース7に水分が浸入する。その結果、パイロットアークを再点弧する際に、タングステン電極11の先端が酸化し、パイロットアークの点弧に失敗が生じる。この場合、作業者は電極を削り直し、ガスホース7のガスパージ作業を再度行う必要があり、さらに、作業効率を著しく低下させる。
【特許文献1】特開昭64−83376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、プラズマガス流量調整器10は、一般的に、容量が小さいために、プラズマ溶接電源8を起動させてから行うガスパージ作業にかなりの時間が掛かる。
また、溶接作業を休憩又は昼食等で中断するときに、パイロットアークを消弧し、プラズマガス4を止める。その結果、パイロットアークを再点弧する際に、タングステン電極の先端が酸化し、パイロットアークの点弧に失敗が生じるので、作業者は電極を削り直し、ガスパージ作業を再度行う必要があり、作業効率を著しく低下させる。
【0012】
本発明は、短時間でガスパージ作業を行うことができ、作業再開時にパイロットアークの良好な点弧性を確保できるプラズマ溶接電源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第1の発明は、
プラズマアークを発生させるためにプラズマトーチに供給するプラズマガスの流量を調整する一つの流路を設けたプラズマガス流量調整機構を備えたプラズマ溶接電源において、
前記一つの流路を設けたプラズマガス流量調整機構の代わりに予め設定された大流量のプラズマガスを流す大流量用流路と予め設定された中流量のプラズマガスを流す中流量用流路とを設けたプラズマガス流量調整機構を備え、
メインスイッチがONに成ると大流量用流路を通って前記大流量のプラズマガスを供給し、
パイロットアーク起動スイッチがONに成ると中流量用流路を通って前記中流量のプラズマガスを供給し、
以後、パイロットアーク起動スイッチのOFF又はONにかかわらず前記メインスイッチがOFFに成るまで前記中流量のプラズマガスを供給し続けることを特徴とするプラズマ溶接電源である。
【0014】
第2の発明は、
前記プラズマガス流量調整機構に予め設定された小流量のプラズマガスを流す小流量用流路を追加し、前記パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで前記小流量用流路を通って前記小流量のプラズマガスを供給することを特徴とする第1の発明に記載のプラズマ溶接電源である。
【0015】
第3の発明は、
前記プラズマガス流量調整機構に第1の電磁弁と前記中流量のプラズマガスを流すように予め調整したプラズマガス流量調整器とを直列に設け前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有した第1の流路と第2の電磁弁を設けて前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し前記プラズマガス流量調整器と並列に連結した第2の流路とを備え、
前記メインスイッチがONに成ると前記第1の電磁弁及び前記第2の電磁弁を開いて前記第1の流路及び前記第2の流路から成る前記大流量用流路を通って前記大流量のプラズマガスを供給し、
前記パイロットアーク起動スイッチがONになると前記第2の電磁弁を閉じて前記第1の流路から成る前記中流量用流路を通って前記中流量のプラズマガスを供給し、
以後、パイロットアーク起動スイッチのOFF又はONにかかわらず前記メインスイッチがOFFに成るまで前記中流量のプラズマガスを供給し続けることを特徴とする第1の発明に記載のプラズマ溶接電源である。
【0016】
第4の発明は、
前記プラズマガス流量調整機構に第3の電磁弁を設けて小流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し前記第1の流路の前記プラズマガス流量調整器及び前記第1の電磁弁と並列に連結した第3の流路を追加して、
前記パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで前記第1の電磁弁を閉じて前記第3の電磁弁を開いて前記第3の流路を通って前記小流量のプラズマガスを供給することを特徴とする第3の発明に記載のプラズマ溶接電源である。
【0017】
第5の発明は、
前記プラズマガス流量調整機構に第1の電磁弁と流量設定信号によってプラズマガスの流量を調整する電子式流量調整器とを直列に設け前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有した第4の流路と第2の電磁弁を設けて前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有して前記電子式流量調整器と並列に連結した第2の流路とを備え、
前記メインスイッチがONに成ると前記第1の電磁弁及び前記第2の電磁弁を開いて前記流量設定信号を前記中流量のプラズマガスを流す信号にして前記第4の流路及び前記第2の流路から成る前記大流量用流路を通って前記大流量のプラズマガスを供給し、
前記パイロットアーク起動スイッチがONになると前記第2の電磁弁を閉じて前記第4の流路から成る前記中流量用流路を通って前記中流量のプラズマガスを供給し、
以後、パイロットアーク起動スイッチのOFF又はONにかかわらず前記メインスイッチがOFFに成るまで前記中流量のプラズマガスを供給し続けることを特徴とする第1の発明に記載のプラズマ溶接電源である。
【0018】
第6の発明は、
前記パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで前記流量設定信号を小流量の前記プラズマガスを流す信号に切換えて前記第4の流路を通って前記小流量のプラズマガスを供給することを特徴とする第5の発明に記載のプラズマ溶接電源である。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明及び第3の発明及び第5の発明は、ガスパージ期間に大流量のプラズマガスを供給することができるので、短時間でガスパージ作業を行うことができ、作業の効率化を図ることができる。
【0020】
第2の発明及び第4の発明及び第6の発明は、溶接作業を断続的に行う場合において、パイロットアーク消弧後も少量のプラズマガスを流し続け、プラズマガスの露点上昇を防ぐことができる。その結果、作業再開時にパイロットアークの良好な点弧性を確保でき、再ガスパージ又は電極の研ぎなおしの作業を行う必要が無く、電極の寿命が延び、作業の効率化を図ることができる。
【0021】
第5の発明及び第6の発明は、上記の効果に加えて、電子式流量調整器に入力される流量設定信号を変更することによって、プラズマガスの流量を容易に調整することができ、より適切なプラズマ溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1のプラズマ溶接装置の構成図である。同図において、プラズマ溶接電源26内に設けられた第1の流路19は、大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し、第1の電磁弁21とプラズマ溶接に適した中流量のプラズマガスを流すように予め調整されたプラズマガス流量調整器20とを直列に設けられている。また、第2の流路22は、大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し、第2の電磁弁23が設けられて、第1の流路に設けたプラズマガス流量調整器20と並列に連結している。
さらに,小流量のプラズマガスを流すことができる内径を有する第3の流路24に第3の電磁弁25を設け、第1の流路のプラズマガス流量調整器20及び第1の電磁弁21と並列に連結している。その他の図6に示した機能と同機能に同符号を付して、説明を省略する。
これらの第1の流路19、第2の流路22及び第3の流路24によりプラズマガス流量調整機構が構成されている。
【0023】
以下、図2に示すタイムチャートを参照して、動作を説明する。図2は、本発明の実施の形態1のプラズマ溶接装置のタイムチャートである。同図(A)はメインスイッチ、同図(B)はガスパージ/プロセス切替えスイッチ、同図(C)はパイロットアーク起動スイッチ、同図(D)はトーチスイッチ、同図(E)はパイロットアーク電流、同図(F)は主プラズマアーク電流、同図(G)は第1の電磁弁、同図(H)は第2の電磁弁、同図(I)は第3の電磁弁、同図(J)はシールドガス電磁弁のそれぞれの時間経過を示す。溶接条件として、プラズマガスの流量を0.5リットル/分、シールドガスの流量を10リットル/分とする。
【0024】
図2(A)に示す時刻t1において、プラズマ溶接電源26のメインスイッチがONになると、同図(G)に示すように、第1の電磁弁21が開き、同図(B)に示すように、内部スイッチのガスパージ/プロセス切替えスイッチがパージ側になるので、同図(H)に示すように、第2の電磁弁23が開く。第1の流路19及び第2の流路22の内径は、大流量のプラズマガスを流すことができる内径であり、第1の流路及び第2の流路から成る大流量用流路を通って大流量のプラズマガス4が流れる。この大流量のプラズマガス4によってガスパージが行われる。
【0025】
時刻t2において、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチがONになると、同図(B)に示すように、ガスパージ/プロセス切替えスイッチがプロセス側に切り替わることにより、同図(H)に示すように、第2の電磁弁23を閉じ、第1の流路19から成る中流量用流路を通ってプラズマ溶接に適した中流量のプラズマガス4の流量が流れるようになる。そして、電極11とプラズマノズル12との間に高周波電圧を印加して、パイロットアークを始動させる。
【0026】
時刻t3において、同図(D)に示すように、トーチスイッチがONに成ると、同図(F)に示すように、主プラズマアーク電流が流れ、同図(J)に示すように、シールドガス電磁弁18が開いて、シールドガス5が流れ、溶接を開始する。
【0027】
時刻t4において、同図(D)に示すように、トーチスイッチがOFFになると、同図(J)に示すように、シールドガス電磁弁18が閉じ、同図(F)に示すように、主プラズマアーク電流が停止する。このときは、パイロットアークが点弧したままである。
時刻t5において、同図(D)に示すように、トーチスイッチがONに成って、再び溶接を開始し、時刻t6において、同図(D)に示すように、トーチスイッチがOFFに成って、溶接を終了する。この時刻t5からt6までの期間は、時刻t3からt4までの期間の動作と同じ動作を行う。
【0028】
時刻t7において、作業者は休憩又は昼食等で溶接作業を中断して、現場を離れるので、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチをOFFにする。しかし、同図(A)に示すように、メインスイッチがON状態で、同図(B)に示すように、ガスパージ/プロセス切替えスイッチがプロセス側なので、待機期間に入る。
この待機期間では、同図(G)に示すように、第1の電磁弁21を閉じ、同図(I)に示すように、第3の電磁弁25を開く。第3の流路24の内径は、小流量のプラズマガスを流すことができる内径であり、第3の流路24を通って小流量のプラズマガス4を流す。この小流量のプラズマガス4によってガスホース7内に浸透してくる水分をガスパージによって放出させることができる。
【0029】
時刻t8において、作業者が現場に戻り、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチをONにすると、同図(I)に示すように、第3の電磁弁25が閉じて、同図(G)に示すように、第1の電磁弁21が開いて、時刻t9からt10において、時刻t3からt4までの動作と同じ動作を行って、溶接作業を終了する。
【0030】
時刻t11において、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチをOFFにすると、時刻t7のときと同じように、待機期間に入って小流量のプラズマガス4を流す。
時刻t12において、同図(A)に示すように、メインスイッチをOFFにすると、同図(I)に示すように、第3の電磁弁25が閉じ、小流量のプラズマガス4の流れを停止する。
【0031】
上述した実施の形態1においては、第3の流路24を設けて、待機期間中に小流量のプラズマガス4を流してガスホース7内に浸透してくる水分をガスパージによって放出している。この第3の流路24を設ける代わりに、時刻t1において、メインスイッチがONに成ると、第1の電磁弁21を開き、時刻t7において、パイロットアーク起動スイッチがOFFに成っても第1の電磁弁21を開き続けて中流量のプラズマガスを供給し続ける。そして、時刻t12において、メインスイッチがOFFに成ると、第1の電磁弁21を閉じて、中流量のプラズマガス4の流れを停止するようにしても良い。
この結果、プラズマ溶接中及び待機期間において、プラズマ溶接に適したプラズマガス4の流量が流れ続ける。従って、待機期間において、ガスホース7内に浸透してくる水分をガスパージによって放出させることができる。
【0032】
図3は、5mのガスホースにプラズマガスを流したときの流量と露点が−60℃を下回るまでの時間との関係を示す図である。従来技術のプラズマ溶接装置においては、プラズマ溶接に適した流量を流す流路のみによってガスパージを行うために、一般的に最大5リットル/分程度しか流すことができないので、同図に示すように、3分近いガスパージ時間が必要となる。
しかし、本発明のプラズマ溶接装置においては、ガスパージを行うときに、プラズマガス流量調整器20と並列に連結した第2流路22にプラズマガス4を流す。この結果、例えば、10リットル/分以上のガス流量を確保することができれば、1分30秒のガスパージ時間で十分であり、20リットル/分以上のガス流量を確保することができれば、1分以内のガスパージ時間で露点が−60℃を下回る。
そして、溶接作業時には、溶接結果にプラズマガス4の流量が著しい影響を与えるため、第2の電磁弁23を閉じて、プラズマガス流量調整器20を通る第1の流路19に切替え、プラズマガス4の流量を管理することができる。
また、溶接作業を断続的に行う場合において、プラズマガス4の露点が上昇することを防ぐために、パイロットアーク消弧後も少量のプラズマガス4を流し続けることができる。その結果、溶接作業再開時にパイロットアークの良好な点弧性を確保でき、再ガスパージ又は電極の研ぎなおしの作業を行う必要が無く、電極の寿命が延び、作業の効率化を図ることができる。
【0033】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の形態2のプラズマ溶接装置の構成図である。同図において、プラズマ溶接電源29内に設けられた第4の流路27は、大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し、第1の電磁弁21と流量設定信号によってプラズマガス4の流量を調整する電子式流量調整器28とが直列に設けられている。また、第2の流路22は、大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し、第2の電磁弁23が設けられ、電子式流量調整器28と並列に連結している。この電子式流量調整器28は、入力されるアナログ電圧に比例した流量を流す。その他の図1に示した機能と同機能に同符号を付して、説明を省略する。
これらの第2の流路22及び第4の流路27によりプラズマガス流量調整機構が構成されている。
【0034】
以下、図5に示すタイムチャートを参照して、動作を説明する。図5は、本発明の実施の形態2のプラズマ溶接装置のタイムチャートである。同図(A)乃至(H)及び(J)は、図2に示したタイムチャートと同一機能であるので、説明を省略する。図5(I)は、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号の時間経過を示している。
【0035】
時刻t1において、同図(A)に示すように、プラズマ溶接電源29のメインスイッチがONになると、同図(I)に示すように、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号をプラズマ溶接に適した中流量のプラズマガス4が流れる信号にして、同図(G)に示すように、第1の電磁弁21を開き、同図(B)に示すように、内部スイッチのガスパージ/プロセス切替えスイッチがパージ側になるので、同図(H)に示すように、第2の電磁弁23が開く。
第4の流路27及び第2の流路22の内径は、大流量のプラズマガスを流すことができる内径であり、第4の流路及び第2の流路から成る大流量用流路を通って大流量のプラズマガス4が流れる。この大流量のプラズマガス4によってガスパージが行われる。
【0036】
時刻t2乃至t6の動作は実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
時刻t7において、作業者は休憩又は昼食等で溶接作業を中断して、現場を離れるので、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチをOFFにする。しかし、同図(A)に示すように、メインスイッチがON状態で、同図(B)に示すように、ガスパージ/プロセス切替えスイッチがプロセス側なので、待機期間に入る。
この待機期間では、同図(J)に示すように、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号を少流量のプラズマガス4を供給する信号に切換えて、第4の流路22を通って少流量のプラズマガス4を流す。この少流量のプラズマガス4によってガスホース7内に浸透してくる水分をガスパージさせることができる。
【0037】
時刻t8において、作業者が現場に戻り、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチをONにし、同図(I)に示すように、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号をプラズマ溶接に適した中流量のプラズマガスが流れる信号に切換えて、時刻t9からt10において、時刻t3からt4までの動作と同じ動作を行って、溶接作業を終了する。
【0038】
時刻t11において、同図(C)に示すように、パイロットアーク起動スイッチをOFFにすると、時刻t7のときと同じように、待機期間に入り、同図(I)に示すように、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号を少流量のプラズマガス4を供給する信号に切換えて、第4の流路22を通って小流量のプラズマガス4を流す。この少流量のプラズマガス4によってガスホース7内に浸透してくる水分をガスパージによって放出させる。
時刻t12において、同図(A)に示すように、メインスイッチをOFFにすると、同図(I)に示すように、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号が停止して、小流量のプラズマガス4の流れが停止する。
【0039】
図4に示した本発明の実施の形態2のプラズマ溶接装置においては、第1の電磁弁21を設けているが、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号が零のときに、電子式流量調整器28が閉じるものを使用するときは、第1の電磁弁21を設ける必要は無い。
【0040】
また、電子式流量調整器28の流量を広範囲に亘って調整できるものを使用するときは、第2の電磁弁23を設けずに、ガスパージ期間に電子式流量調整器28の流量設定信号を大流量のプラズマガス4を流すことができる信号に切換えてガスパージを行っても良い。
【0041】
本発明の実施の形態2のプラズマ溶接装置は、実施の形態1の効果に加えて、電子式流量調整器28に入力される流量設定信号を変更することによって、プラズマガス4の流量を容易に調整することができ、より適切なプラズマ溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態1のプラズマ溶接装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1のプラズマ溶接装置のタイムチャートである。
【図3】流量と露点が−60℃を下回るまでの時間との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2のプラズマ溶接装置の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態2のプラズマ溶接装置のタイムチャートである。
【図6】従来技術におけるプラズマ溶接装置の構成図である。
【図7】ガスパージ作業を行ったときのガスパージ時間(横軸)と露点の変化(縦軸)を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 プラズマトーチ
2 母材
3 主プラズマアーク
4 プラズマガス
5 シールドガス
6 プラズマガスボンベ
7 ガスホース
8 プラズマ溶接電源
9 プラズマガス流路
10 プラズマガス流量調整器
11 電極
12 プラズマノズル
13 シールドガスカップ
14 プラズマガス電磁弁
15 シールドガスボンベ
16 シールドガス流路
17 シールドガス流量調整器
18 シールドガス電磁弁
19 第1の流路
20 プラズマガス流量調整器
21 第1の電磁弁
22 第2の流路
23 第2の電磁弁
24 第3の流路
25 第3の電磁弁
26 プラズマ溶接電源
27 第4の流路
28 電子式流量調整器
29 プラズマ溶接電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマアークを発生させるためにプラズマトーチに供給するプラズマガスの流量を調整する一つの流路を設けたプラズマガス流量調整機構を備えたプラズマ溶接電源において、
前記一つの流路を設けたプラズマガス流量調整機構の代わりに予め設定された大流量のプラズマガスを流す大流量用流路と予め設定された中流量のプラズマガスを流す中流量用流路とを設けたプラズマガス流量調整機構を備え、
メインスイッチがONに成ると大流量用流路を通って前記大流量のプラズマガスを供給し、
パイロットアーク起動スイッチがONに成ると中流量用流路を通って前記中流量のプラズマガスを供給し、
以後、パイロットアーク起動スイッチのOFF又はONにかかわらず前記メインスイッチがOFFに成るまで前記中流量のプラズマガスを供給し続けることを特徴とするプラズマ溶接電源。
【請求項2】
前記プラズマガス流量調整機構に予め設定された小流量のプラズマガスを流す小流量用流路を追加し、前記パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで前記小流量用流路を通って前記小流量のプラズマガスを供給することを特徴とする請求項1記載のプラズマ溶接電源。
【請求項3】
前記プラズマガス流量調整機構に第1の電磁弁と前記中流量のプラズマガスを流すように予め調整したプラズマガス流量調整器とを直列に設け前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有した第1の流路と第2の電磁弁を設けて前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し前記プラズマガス流量調整器と並列に連結した第2の流路とを備え、
前記メインスイッチがONに成ると前記第1の電磁弁及び前記第2の電磁弁を開いて前記第1の流路及び前記第2の流路から成る前記大流量用流路を通って前記大流量のプラズマガスを供給し、
前記パイロットアーク起動スイッチがONになると前記第2の電磁弁を閉じて前記第1の流路から成る前記中流量用流路を通って前記中流量のプラズマガスを供給し、
以後、パイロットアーク起動スイッチのOFF又はONにかかわらず前記メインスイッチがOFFに成るまで前記中流量のプラズマガスを供給し続けることを特徴とする請求項1記載のプラズマ溶接電源。
【請求項4】
前記プラズマガス流量調整機構に第3の電磁弁を設けて小流量のプラズマガスを流すことができる内径を有し前記第1の流路の前記プラズマガス流量調整器及び前記第1の電磁弁と並列に連結した第3の流路を追加して、
前記パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで前記第1の電磁弁を閉じて前記第3の電磁弁を開いて前記第3の流路を通って前記小流量のプラズマガスを供給することを特徴とする請求項3記載のプラズマ溶接電源。
【請求項5】
前記プラズマガス流量調整機構に第1の電磁弁と流量設定信号によってプラズマガスの流量を調整する電子式流量調整器とを直列に設け前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有した第4の流路と第2の電磁弁を設けて前記大流量のプラズマガスを流すことができる内径を有して前記電子式流量調整器と並列に連結した第2の流路とを備え、
前記メインスイッチがONに成ると前記第1の電磁弁及び前記第2の電磁弁を開いて前記流量設定信号を前記中流量のプラズマガスを流す信号にして前記第4の流路及び前記第2の流路から成る前記大流量用流路を通って前記大流量のプラズマガスを供給し、
前記パイロットアーク起動スイッチがONになると前記第2の電磁弁を閉じて前記第4の流路から成る前記中流量用流路を通って前記中流量のプラズマガスを供給し、
以後、パイロットアーク起動スイッチのOFF又はONにかかわらず前記メインスイッチがOFFに成るまで前記中流量のプラズマガスを供給し続けることを特徴とする請求項1記載のプラズマ溶接電源。
【請求項6】
前記パイロットアーク起動スイッチがOFFに成ってから再度ONに成るまで前記流量設定信号を小流量の前記プラズマガスを流す信号に切換えて前記第4の流路を通って前記小流量のプラズマガスを供給することを特徴とする請求項5記載のプラズマ溶接電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−35288(P2006−35288A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221603(P2004−221603)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】