説明

プラットホーム用隙間調整具

【課題】車いすの車輪やハイヒールの踵の嵌り込みによる転倒事故を確実に防止するとともに、剛性を高めて安定性を確保することのできるプラットホーム用隙間調整具を提供する。
【解決手段】プラットホーム2の側壁に沿うように取着される平板状の基部5と、この基部5に一体に設けられその基部5から線路側に向けて延びる複数の櫛歯よりなる櫛状部6と、この櫛状部6の上面を完全に覆うように基部5に一体に設けられる天板部7とを備え、櫛状部6の少なくとも両端部の櫛歯を天板部7と一体に設け、櫛状部の中央部の櫛歯の上面と天板部7の下面との間に所要の隙間を設ける構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道駅におけるプラットホームに設置され、プラットホームの側縁と車両の乗降口との隙間を塞ぐようにしたプラットホーム用隙間調整具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の駅において、プラットホームと車両の乗降口との間には隙間等があるため、車いす使用者等は自力で乗降できず、また、乗客の足がはまったり、手荷物を落としたりするといった事故が発生する恐れがある。従来、このような事故を防止するために、プラットホームと乗降口との間の隙間を減少させるための提案がいろいろとなされ、また実用化されている。例えば特許文献1,2に開示されたものでは、基体部の一側面にゴム状弾性体よりなる櫛歯体を線路側に向けて突設させ、この櫛歯体によりプラットホームと乗降口との間の隙間を狭めるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−287710号公報
【特許文献2】特開平6−293256号公報
【0004】
しかしながら、上記各特許文献に記載のプラットホーム先端材では、プラットホームと乗降口との間の隙間を埋めるものがゴム状弾性体よりなる櫛歯体であるため、櫛歯間の隙間に車いすの車輪やハイヒールの踵が嵌り込んで転倒する危険性が懸念される。また、櫛歯体に荷重がかかったときに、櫛歯体が下方に変形し易く安定性に乏しいという問題点がある。なお、特許文献2のものでは、櫛歯部の上面の一部を基体部より延びる踏面部により覆うようにしているが、櫛歯体の先端部は表出しているため、この表出部分にハイヒールの踵等が嵌り込むことがあり、また、踏面部に上方から荷重がかかった場合にやはり櫛歯体が下方に変形し易いという問題点は依然として解消されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、車いすの車輪やハイヒールの踵等の嵌り込みによる転倒事故を確実に防止することができるとともに、剛性を高めて安定性を確保することで、より多くの乗客が自力で乗降できるプラットホーム用隙間調整具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明によるプラットホーム用隙間調整具は、
プラットホームの側縁と車両の乗降口との隙間を塞ぐようにしたゴムを主体とするプラットホーム用隙間調整具において、
前記プラットホームの側壁に沿うように取着される平板状の基部と、この基部に一体に設けられその基部から線路側に向けて延びる複数の櫛歯よりなる櫛状部と、この櫛状部の上面を完全に覆うように前記基部に一体に設けられる天板部とを備え、前記櫛状部の少なくとも両端部の櫛歯が前記天板部と一体に設けられ、前記櫛状部の中央部の櫛歯の上面と前記天板部の下面との間に所要の隙間が設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明において、前記ゴムとしてはエチレンプロピレンゴムを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、櫛状部の上面が天板部により完全に覆われているので、櫛状部の櫛歯が上面に表出することがなく、櫛歯間の隙間に車いすの車輪やハイヒールの踵等が嵌り込んで転倒するといった事故の発生を未然に防ぐことができる。また、櫛状部の少なくとも両端部の櫛歯が天板部と一体に設けられているので、天板部のまくれ上がり防止や隙間調整具の上下方向の剛性を十分に確保することができ、天板部に上方から荷重がかかってもその荷重により櫛状部が下方に変形するのを最小限に抑えることができ、隙間調整具全体としての安定性が増すことから、より多くの乗客が自力で乗降できる可能性が高まる。また、この隙間調整具が万が一走行車両と接触した場合でも櫛状部が荷重負荷方向に撓むことによって車両に悪影響を与えることなく安全な車両走行を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラットホーム用隙間調整具のプラットホームへの取付状態を示す断面図
【図2】本実施形態のプラットホーム用隙間調整具の平面図(a)および正面図(b)
【図3】本実施形態のプラットホーム用隙間調整具における調整具本体の側面図(a)と図2(b)のA部拡大図(b)および本実施形態の変形例を示す同拡大図(c)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明によるプラットホーム用隙間調整具の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1、図2に示されるように、本実施形態のプラットホーム用隙間調整具(以下、「隙間調整具」という。)1は、プラットホーム2の側壁に沿うように、かつその上面がプラットホーム2の車両3側の側縁部上面と面一になるようにプラットホーム2に取着される。この隙間調整具1をプラットホーム2に取り付けるに際して、プラットホーム2の側壁にはステンレス製の平板状の取付板4がボルト締結等の手段によって固着される。
【0012】
図3(a)に示されるように、隙間調整具1は、側面視で逆L字形状をしており、取付板4とほぼ同形状の平板状の基部5と、この基部5と一体に設けられその基部5の上部から前方へ(線路側に向けて)突き出すように設けられる複数の櫛歯6a,6bよりなる櫛状部6と、この櫛状部6の上面を完全に覆うように基部5に一体に前方へ突き出すように設けられる天板部7とを備えて構成されている。ここで、基部5、櫛状部6および天板部7は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)または同等品により一体成形され、この一体成形時に基部5内に芯板8が加硫接着により埋設される。なお、芯板8は基部5よりやや小さめのスチール(PL−6)製の平板である。
【0013】
上記隙間調整具1を成形する際、図2(b)および図3(b)に示されるように、櫛状部6の両端部(図2(b)の左右両側)の櫛歯6bの上部は天板部7と一体に設けられ、これら両端部の櫛歯6bを除く中央部の複数の櫛歯6aは、その上面と天板部7の下面との間に所要(例えば1mm)の隙間αが形成される。こうして、天板部7の上面に荷重がかかっても、天板部7と一体成形された両端部の櫛歯6bが存在していることにより櫛状部6の上下方向の剛性が十分に確保され、隙間調整具1全体が下方に撓むのを防止することができる。なお、一例として、櫛歯6a,6bの厚みおよび櫛歯間の間隙は5mm程度に設定するのが好適である。
【0014】
また、隙間調整具1の基部5には櫛状部6より下方に複数個(図示の例では4個)のボルト挿通孔9が設けられ、これらボルト挿通孔9に対応する芯板8にも複数個のボルト挿通孔10が設けられている。そして、取付板4には各ボルト挿通孔9,10に対応する位置にスタッドボルト11が植設されており、このスタッドボルト11をボルト挿通孔9,10に挿通してその先端をナット12にて締め付けることで、隙間調整具1が取付板4に固着される。ここで、各ボルト挿通孔9,10はいずれも長孔とされ、取付板4に対して位置調整ができるようにされている。
【0015】
上記取付板4を、プラットホーム2の側壁に固着する際、取付板4の背面上部とプラットホーム2の側壁上部との間隙には必要に応じてシール材13が埋設され、これによってプラットホーム2と取付板4との間に隙間が生じないようにされる。
【0016】
ところで、本実施形態の隙間調整具1は、プラットホーム2の建築限界を超えて櫛状部6が線路側へ突き出すことから、万が一走行車両と接触した場合における安全な列車走行を確保することが必要となる。このことを考慮し、本発明者らは、車両との接触を想定した試験や乗客が実際に踏んだときの乗客感覚確認試験等の各種試験を実施した。
【0017】
このうち接触試験については、隙間調整具の形状として、1)櫛歯の幅5mm、櫛歯間隔5mmで天板部のないもの、2)櫛歯の幅5mm、櫛歯間隔5mmで天板部の厚み5mmのもの、3)櫛歯の幅5mm、櫛歯間隔5mmで天板部の厚み10mmのもの、のそれぞれについて、模擬車両を走行速度15〜22km/hで隙間調整具に接触させ、その干渉量が5mmの場合と10mmの場合における接触後の模擬車両の塗装面の状態を確認することにより行った。試験結果は、いずれの場合においても、ゴム材の付着は見られるものの、損傷は見受けられなかった。なお、その他の試験結果の詳細については省略する。
【0018】
本実施形態の隙間調整具1によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)プラットホーム2と車両3との隙間を小さくすることができるので、車いす使用者等これまで自力で乗降出来なかった乗客も自力で乗降する可能性が高まる。また、手荷物等を落としたりすることが少なくなり、乗客の安全に寄与することができる。
(2)隙間調整具1の構成として、櫛状部6の上面が天板部7により完全に覆われているので、櫛状部6の櫛歯6a,6bが上面(乗客の踏み面側)に表出することがなく、櫛歯6a,6b間の隙間に車いすの車輪やハイヒールの踵が嵌り込んで転倒するといった事故の発生を未然に防ぐことができる。
(3)櫛状部6の両端部の櫛歯6bが天板部7と一体に設けられているので、隙間調整具1の上下方向の剛性を十分に確保することができ、天板部7を乗客が踏み付けることによって上方から荷重がかかってもその荷重により櫛状部6が下方に変形して、乗客が違和感を覚えるようなことがない。
(4)隙間調整具1が万が一走行車両と接触した場合でも櫛状部6が荷重負荷方向(車両進行方向)に撓むことによって安全な列車の走行を確保することができる。
【0019】
本実施形態では、中央部の櫛歯6aの上部形状を平面に形成したものについて説明した、櫛歯6a′の上面形状は図3(c)に示されるように曲面形状であっても良い。
【0020】
本実施形態では、櫛状部6の両端部において、櫛歯6bの上部と天板部7とを一体成形したものについて説明したが、隙間調整具1の大きさに応じてこの一体成形箇所は両端部のみに限る必要はなく、両端部以外に、中央部に数箇所(例えば2箇所)設けても良い。
【0021】
本実施形態では、基部5および芯板8に形成されるボルト挿通孔9,10を4個設けたものについて説明したが、このボルト挿通孔9,10の数は、4個に限ることはなく、隙間調整具1の大きさに応じて適宜選択することができる。
【0022】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、これに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲での種々の変更、置換、追加などが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、鉄道駅のプラットホームに設置することで、車いす使用者等が自力で乗降できる可能性が高まり、安全・快適に鉄道を利用することができる。また、ハイヒールの踵部が嵌り込むといった事故等も防止できることから、利用効果の極めて高い発明である。
【符号の説明】
【0024】
1 プラットホーム用隙間調整具
2 プラットホーム
3 車両
4 取付板
5 基部
6 櫛状部
6a,6b 櫛歯
7 天板部
8 芯板
9 ボルト挿通孔
10 ボルト挿通孔
11 スタッドボルト
12 ナット
13 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホームの側縁と車両の乗降口との隙間を塞ぐようにしたゴムを主体とするプラットホーム用隙間調整具において、
前記プラットホームの側壁に沿うように取着される平板状の基部と、この基部に一体に設けられその基部から線路側に向けて延びる複数の櫛歯よりなる櫛状部と、この櫛状部の上面を完全に覆うように前記基部に一体に設けられる天板部とを備え、前記櫛状部の少なくとも両端部の櫛歯が前記天板部と一体に設けられ、前記櫛状部の中央部の櫛歯の上面と前記天板部の下面との間に所要の隙間が設けられていることを特徴とするプラットホーム用隙間調整具。
【請求項2】
前記ゴムがエチレンプロピレンゴムである請求項1に記載のプラットホーム用隙間調整具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−56485(P2012−56485A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202648(P2010−202648)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【特許番号】特許第4677510号(P4677510)
【特許公報発行日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(510244536)交通サービス株式会社 (1)