説明

プリズムの製造方法

【課題】プリズム内を通過する光の光路が安定するとともに三角柱基材同士や三角柱ペア部材同士の接合作業が容易となる製造方法の提供。
【解決手段】第1の三角柱基材21の第1隣辺部211に設けられた光学薄膜23Rと第2の三角柱基材22の第1隣辺部221にプラズマ重合膜201をそれぞれ形成し、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを基準面3Cの上でプラズマ重合膜201を間に挟むように配置した後、基準面3Cの上で互いの第2隣辺部212,222同士が同一平面に沿うように押し付け、さらに、2個の三角柱ペア部材20のうち少なくとも一方に設けられた光学薄膜23Bにプラズマ重合膜201を形成し、これらの三角柱ペア部材20を基準面3Cの上でプラズマ重合膜201を間に挟むように配置した後、基準面3Cの上で互いの第1隣辺部221同士が同一平面に沿うように押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直角三角柱基材を複数本接合してなるクロスダイクロイックプリズム、その他のプリズムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の色合成や色分離するクロスダイクロイックプリズムが知られている。
このようなクロスダイクロイックプリズムには、直角を挟んでそれぞれ2つに矩形面が形成された第1の直角プリズム、第2の直角プリズム、第3の直角プリズム及び第4の直角プリズムをそれぞれの矩形面同士を接合させて、接合面が直交するように4角形状に形成するタイプのものが知られている。
【0003】
このようなタイプのクロスダイクロイックプリズムには、互いに対向する三角柱プリズムの一面に、所定の波長の光を反射してその他の波長の光を透過させる波長選択性反射膜が形成され、この波長選択性反射膜と他方の三角柱プリズムとの間に接着剤による接着層が形成された従来例がある(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
特許文献1で示される従来例では、接着剤として紫外線硬化型UV接着剤や熱硬化型接着剤が利用されており、特許文献2で示される従来例では、2つの三角柱プリズムを接着剤で接合するにあたり、第1の直角プリズムの一方の矩形面と第2の直角プリズムの一方の矩形面とを、平面状の治具(オプティカルフラット)の基準面に当接させ、第1の直角プリズムの他方の矩形面と第2の直角プリズムの他方の矩形面とを接着剤を用いて接合する構成である。
【特許文献1】特開平10−332910号公報
【特許文献2】特開平7−294845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来例では、接着剤を使用して貼り合わせをするため、接合部分(貼り合わせ部分)の厚みや屈折率にバラツキが生じることがあり、これらのバラツキに伴って透過・反射光の角度にバラツキが生じる。さらに、接着剤の厚みのバラツキに起因する段差不良、直角プリズム同士の貼り合わせで気泡、傷、不良が発生するという不具合が生じる。そのため、特許文献1の従来例では、プリズム内の光路が安定しない。
特許文献2の従来例では、直角プリズム同士を接着剤で貼り合わせるために互いに押し付けると、プリズム端縁から接着剤がはみ出してしまい、治具の基準面に接着剤が付着する。基準面に接着剤が付着したままでは、直角プリズムの貼合作業に支障をきたすので、接着剤を基準面から剥がす必要がある。しかし、接着剤を基準面から剥がす作業は繁雑であり、作業性が悪い。
【0006】
本発明は、プリズム内を通過する光の光路が安定するとともに三角柱基材同士や三角柱ペア部材同士の接合作業が容易となる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、第1隣辺部と第2隣辺部とを有する複数の三角柱基材を用意し、前記三角柱基材のうち少なくとも一方の三角柱基材の第1隣辺部にプ
ラズマ重合膜を形成し、互いの第2隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、互いの第1隣辺部同士を押し付けて三角柱ペア部材を形成する第一工程と、この第一工程で形成された2個の三角柱ペア部材のうち少なくとも一方の第2隣辺部にプラズマ重合膜を形成し、これらの三角柱ペア部材の前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、これらの三角柱ペア部材の前記第底辺部同士を互いに押し付けてプリズムを形成する第二工程と、を備えることを特徴とする。
この構成の本適用例では、位置決め治具を用いて互いの第2隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、互いの第1隣辺部同士を接合して三角柱ペア部材を形成するために、プラズマ重合膜を利用する。次に位置決め治具を用いて三角柱ペア部材の前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、これらの三角柱ペア部材の前記第2隣辺部同士を接合するためにプラズマ重合膜を利用する。このプラズマ重合膜は接着剤に比べて均一な薄さを実現できる。そのため、本適用例では、接着剤を使用しなくてもすむので、互いに接合される三角柱基材同士や三角柱ペア部材同士の接合部分に厚さのバラツキがなくなり、さらに、三角柱基材の角部が集まった部分での段差がなくなるので、プリズム内を通過する光の光路が安定する。
しかも、本適用例では、前述の通り、接着剤を使用していないので、プリズム端縁からはみ出した接着剤が位置決め治具等に付着するという問題がなくなり、接着剤を位置決め治具等から剥がすという作業が不要となる。従って、三角柱基材同士や三角柱ペア部材同士の接合作業が容易となる。
【0008】
[適用例2]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記第一工程が、第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とから前記三角柱ペア部材を形成した後に、前記三角柱ペア部材の長手方向に概ね垂直な切断面で切断して複数のペア部材片を形成する切断工程を備え、前記第二工程は、前記切断工程で形成された複数の前記ペア部材片のうち少なくとも一方の前記第2隣辺部にプラズマ重合膜を形成し、前記複数のペア部材片を前記第1の三角柱基材同士及び前記第2の三角柱基材同士が対向する状態で互いに押し付けることを特徴とする。
この構成の本適用例では、第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とがそれぞれ2個ずつ組み合わせられてプリズムが構成される。このプリズムは第1の三角柱基材同士及び前記第2の三角柱基材同士がプラズマ重合膜を挟んで対称配置されているので、プリズムの各側面にそれぞれに向けて照射される光は集約されて出射しやすくなる。
【0009】
[適用例3]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記第一工程が、前記第1の三角柱基材と前記第2の三角柱基材を部分的に接合する接合部にプラズマ重合膜を形成し、前記接合部とは前記直角三角柱基材同士が接合して前記ペア部材片を形成する部分であって、前記接合部は前記三角柱の長手方向に沿って、交互に間隔を有して配置され、前記切断工程は、前記第1三角柱基材を前記接合部に近接した切断面で切断し、前記第2三角柱基材を前記接合部から離れた位置の切断面で切断することを特徴とする。
この構成の本適用例では、マスキング等の適宜な手段を用いてプラズマ重合膜が形成されない箇所を三角柱基材に設ける。本適用例では、切断工程で切断後、プラズマ重合膜が形成されていない部分が凸形状に形成されるので、第二工程において、位置決め治具上での三角柱ペア部材同士の押し付け作業をするにあたり、前記凸形状部分を位置決め治具に当接することができるから、当該押し付け作業を円滑に行うことができる。
【0010】
[適用例4]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、互いの第2隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、互いの第1隣辺部同士を互いに押し付けて三角柱ペア部材を形成するにあたり、前記複数の三角柱基材の長手方向一端同士を当接し、複数の前記三角柱基材の長手方向他端側の間に楔を配置し、その後、前記複数の三角柱基材同士を互いに押し付けるととも
に前記楔を前記複数の前記三角柱基材の間から抜いて前記複数の前記三角柱基材同士を長手方向の一端側から他端側にかけて接合することを特徴とする。
この構成の本適用例では、三角柱基材同士を押し付ける前にこれらの三角柱基材同士の位置決め作業を正確に行えるので、精度の高いプリズムを製造することができる。
【0011】
[適用例5]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、前記第二工程で、前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、これらの三角柱ペア部材の前記第2隣辺部同士を形成するにあたり、前記2個の三角柱ペア部材の長手方向一端同士を当接し、前記2個の三角柱ペア部材の長手方向他端の間に楔を配置し、その後、前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置するとともに前記楔を前記2個の三角柱ペア部材の間から抜いて前記2個の三角柱ペア部材の長手方向の一端側から他端側にかけて互いに接合することを特徴とする。
この構成の本適用例では、三角柱ペア部材同士を押し付ける前にこれらの三角柱ペア部材同士の位置決め作業を正確に行えるので、精度の高いプリズムを製造することができる。
【0012】
[適用例6]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、複数の前記直角三角柱基材の長手方向の長さが互いに異なることを特徴とする。
この構成の本適用例では、2個の三角柱ペア部材同士を接合するために、長さの異なる三角柱基材を位置決め治具の所定位置に配置することで、容易にクロスダイクロイックプリズムを製造することができる。
【0013】
[適用例7]
本適用例にかかるプリズムの製造方法は、複数の前記直角三角柱基材の材質が同じであることを特徴とする。
この構成の本適用例では、屈折率等が第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とで同じになるので、光学特性の優れたプリズムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態の説明において、同一構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
[第1実施形態]
図1は実施形態で製造されたクロスダイクロイックプリズム1の概略構成図である。クロスダイクロイックプリズム1は、例えば、液晶プロジェクタ装置に用いられている。
図1において、クロスダイクロイックプリズム1は、それぞれ端面が直角三角形の2個の三角柱ペア部材20を備え、これらの三角柱ペア部材20の互いに対向する第2隣辺部(底辺部)200には光学薄膜23Bとプラズマ重合膜からなる接合層20Aとが設けられている。この底辺部200では2個の三角柱基材の後述する第2隣辺部212,222同士が同一平面に沿って形成されている。
三角柱ペア部材20は、それぞれ端面が直角三角形状の第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを備えている。第1の三角柱基材21は直角部を挟んで第1隣辺部211と第2隣辺部212とが形成される。第2の三角柱基材22は直角部を挟んで第1隣接部221と第2隣接部222とが形成される。なお、隣辺部とは直角と接する辺を意味している。
第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との互いに対向する第1隣辺部211,221には光学薄膜23Rとプラズマ重合膜からなる接合層20Aが設けられている。第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との頂角同士は寸法tの間隔を有する。
【0015】
換言すれば、クロスダイクロイックプリズム1は、2個ずつの第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを直角角部を寄せ集めて端面が正方形とされ、その対角線を結ぶように光学薄膜23R,23Bが十字状に形成されている。互いに対向する一対の対角線を結ぶ光学薄膜23Rは、赤を反射し緑と青とを透過させる波長選択膜であり、他の一対の対角線を結ぶ光学薄膜23Bは青を反射し緑と赤とを透過させる波長選択膜である。光学薄膜23B,23Rは波長選択作用を有する波長選択膜であり、異なる材質の層、例えば、高屈折材料層である酸化タンタル(Ta)の層と、低屈折材料層である酸化ケイ素(SiO)の層とが交互に積層される。
第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とは、ともにBK7等の光学ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラスをはじめとするガラスから成形され、その端面形状及び長さ寸法が同じ直角二等辺三角形の柱部材である。なお、本実施形態では、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との材質は同じである。
【0016】
次に、本発明の第1実施形態にかかるクロスダイクロイックプリズムの製造方法について、図2から図7に基づいて説明する。
[第一工程]
図2(A)に示される通り、それぞれ端面が直角三角形の第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との第1隣辺部211,221に光学薄膜23Rと接合層20Aとを設ける。ここで、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22として、予め端面を直角三角形とした柱部材を用意しておく。なお、第1の三角柱基材21が第2の三角柱基材22より長手方向の寸法が長く形成されている。光学薄膜23Rは従来と同様の工程、例えば、蒸着によって第1の三角柱基材21の第1隣辺部211に形成する。この光学薄膜23Rの表面と第2の三角柱基材22の第1隣辺部221の表面とにそれぞれ接合層20Aを構成するプラズマ重合膜201を成形する。
【0017】
プラズマ重合膜201を形成する工程について、図3及び図4に基づいて説明する。
図3は、第1実施形態で使用するプラズマ重合装置の概略図である。
図3において、プラズマ重合装置100は、チャンバー101と、このチャンバー101の内部にそれぞれ設けられる第1電極111及び第2電極112と、これらの第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加する電源回路120と、チャンバー101の内部にガスを供給するガス供給部140と、チャンバー101の内部のガスを排出する排気ポンプ150を備えた構造である。
第1電極111は、第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22を支持する支持部111Aを有するものであり、第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22を挟んで第1電極111と第2電極112とが対向配置されている。支持部111Aは第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22の一方の隣辺部分と底辺部分とを支持する三角溝状部が形成されており、この三角溝状部に第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22が支持された状態では、成膜される部分、例えば、第1の三角柱基材21の他方の隣辺部に形成された光学薄膜23Rや第2の三角柱基材22の他方の隣辺部が第2電極112と対向する。
【0018】
電源回路120は、マッチングボックス121と高周波電源122とを備える。
ガス供給部140は、液状の膜材料(原料液)を貯蔵する貯液部141と、液状の膜材料を気化して原料ガスに変化させる気化装置142と、キャリアガスを貯留するガスボンベ143とを備えている。このガスボンベ143に貯留されるキャリアガスは、電界の作用によって放電し、この放電を維持するためにチャンバー101に導入するガスであって、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスが該当する。
これらの貯液部141、気化装置142及びガスボンベ143とチャンバー101とが配管102で接続されており、ガス状の膜材料とキャリアガスとの混合ガスをチャンバー101の内部に供給するように構成されている。
貯液部141に貯留される膜材料は、プラズマ重合装置100によって第1の三角柱基材21の光学薄膜23Rや第2の三角柱基材22にプラズマ重合膜201を形成するための原材料であり、気化装置142で気化されて原料ガスとなる。
【0019】
この原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサン等のオルガノシロキサン、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチル亜鉛、トリエチル亜鉛のような有機金属系化合物、各種炭化水素系化合物、各種フッ素系化合物等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜201は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、つまり、ポリオルガノシロキサン、有機金属ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系ポリマー等で構成されることになる。
【0020】
ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性を示すが、各種の活性化処理を施すことによって容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化することができる。つまり、ポリオルガノシロキサンは撥水性と親水性との制御を容易に行える材料である。
撥水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜201は、それ同士を接触させても、有機基によって接着が阻害されることになり、極めて接着し難い。一方、親水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜201は、それ同士を接触させると、特に容易に接着することができる。つまり、撥水性と親水性の制御を容易に行えるという利点は、接着性の制御を容易に行えるという利点につながるため、ポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜201は、本実施形態では好適に用いられることになる。さらに、ポリオルガノシロキサンは耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に効果的に用いることができる。
【0021】
ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするプラズマ重合膜131は、接着性に優れていることから、本実施形態の接合方法で好適に用いられる。オクタメチルトリシロキサンの重合物は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取扱が容易である。
【0022】
次に、プラズマ重合膜201の成形手順を図4に基づいて説明する。
図4(A)〜(C)に示される通り、第1の三角柱基材21に設けられた光学薄膜23Rや第2の三角柱基材22の斜辺部にプラズマ重合膜201を形成する。なお、第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22の長手方向両端部にはプラズマ重合膜201が形成されない余白部分が形成される。
この重合膜形成工程では、プラズマ重合装置100のチャンバー101の第1電極111の支持部111Aで第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22を保持する。そして、チャンバー101の内部に酸素を所定量導入するとともに第1電極111と第2電極112との間に電源回路120から高周波電圧を印加して光学部材自体の活性化を実施する。
その後、ガス供給部140を作動させると、チャンバー101の内部に原料ガスとキャリアガスとの混合ガスが供給される。供給された混合ガスはチャンバー101の内部に充填され、図4(A)に示される通り、第1の三角柱基材21に設けられた光学薄膜23Rや第2の三角柱基材22の斜辺部に混合ガスが露出される。
【0023】
混合ガスにおける原料ガスの割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合は20〜
70%程度に設定することが好ましく、30〜60%程度に設定することがより好ましい。
第1電極111と第2電極112との間に印加する周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度がより好ましい。高周波の出力密度は特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であることが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
【0024】
成膜時のチャンバー101の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度が好ましく、1〜100sccm程度がより好ましい。
キャリアガス流量は、5〜750sccm程度が好ましく、10〜500sccm程度がより好ましい。
処理時間は1〜10分程度であることが好ましく、4〜7分程度がより好ましい。
第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22の温度は、25℃以上が好ましく、25〜100℃がより好ましい。
【0025】
第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加することにより、これらの電極111,112の間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図4(B)に示される通り、重合物が第1の三角柱基材21の光学薄膜23Rの表面や第2の三角柱基材22の表面に付着、堆積する。これにより、図4(C)に示される通り、第1の三角柱基材21の光学薄膜や第2の三角柱基材にプラズマ重合膜201が形成される。
プラズマ重合膜201は、その平均厚さが10〜1000nmであり、50〜500nmが好ましい。プラズマ重合膜201の平均厚さが10nmを下回ると、十分な接合強度を得ることができず、1000nmを超えると、接合体の寸法精度が著しく低下する。
【0026】
その後、図4(D)に示される通り、プラズマ重合膜201を活性化して表面を活性化させる。
表面活性化工程は、例えば、プラズマを照射する方法、オゾンガスに接触させる方法、オゾン水で処理する方法、あるいは、アルカリ処理する方法等を用いることができる。
ここで、活性化させる、とは、プラズマ重合膜201の表面及び内部の分子結合が切断されて終端化されていない結合手が生じた状態や、その切断された結合手にOH基が結合した状態、又は、これらの状態が混在した状態をいう。
この表面活性化工程では、プラズマ重合膜201の表面を効率よく活性化させるためにプラズマを照射する方法が好ましい。プラズマ重合膜201の表面に照射するとしたのは、プラズマ重合膜201の分子構造を必要以上に、例えば、プラズマ重合膜201と第1の三角柱基材21に形成された光学薄膜23Rとの境界や第2の三角柱基材22との境界に至るまで切断しないので、プラズマ重合膜201の特性の低下を避けるためである。
【0027】
本実施形態で使用されるプラズマとしては、例えば、酸素、アルゴン、チッソ、空気、水等を1種又は2種以上混合して用いることができる。これらの中で、酸素を使用するこ
とが好ましい。
このようなプラズマを使用することで、プラズマ重合膜201の特性の著しい低下を防止するとともに、広範囲のムラをなくし、より短時間で処理することができる。そして、プラズマはプラズマ重合膜201を形成する装置と同設備で発生させることができるから、製造コストが低減できるという利点もある。
プラズマを照射する時間は、プラズマ重合膜201の表面付近の分子結合を切断し得る程度の時間であれば特に限定されるものではないが、5sec〜30min程度であるの
が好ましく、10〜60secがより好ましい。
このようにして活性化されたプラズマ重合膜201の表面には、OH基が導入される。
なお、本実施形態では、プラズマ重合膜形成工程と表面活性化工程との間に第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22を洗浄する工程を設けてもよい。この洗浄工程は、薬品、水、その他の適宜な手段を用いて行われる。
【0028】
次に、第1の三角柱基材21に設けられた光学薄膜23Rと第2の三角柱基材22の第1隣辺部同士の貼合工程を図5及び図6に基づいて説明する。
この貼合工程では、光学薄膜23Rに形成されたプラズマ重合層201と第2の三角柱基材22の第1隣辺部に形成されたプラズマ重合層201とを貼り合わせて一体化して接合層20Aを形成する。
そのため、例えば図5及び図6に示される位置決め治具3を使用する。
図5は位置決め治具3で第1の三角柱基材21に設けられた光学薄膜23Rと第2の三角柱基材22の斜辺部とを貼り合わせる状態を示す斜視図であり、図6は、その平面図である。
図5及び図6において、位置決め治具3は、上方が開口された断面コ字状部材のオプティカルフラットであり、その中心部に底面3Aと側面3Bとを有する溝30が形成されている。この溝30の両側には基準面3Cがそれぞれ形成されている。基準面3Cは第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを貼り合わせるために、その平面の平滑性が極めて高く形成されている。なお、図示した位置決め治具3は一例であって、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22のそれぞれ第2隣辺部同士が同一平面に沿うように配置できる治具形状であればよい。
【0029】
2カ所形成された基準面3Cの上面には貼り合わせる対称となる第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とが掛け渡されるように配置されている。2カ所の基準面3Cうち一方の基準面3Cには直方体状のストッパ31が固定されており、このストッパ31の第一側面311は第2の三角柱基材22の端面と当接し、この第一側面311と直交して形成された第二側面312は第1の三角柱基材21の斜辺部のうちプラズマ重合各201が形成されていない余白部分と当接する。
このストッパ31を用いて第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との一端部同士を接合した状態にし、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との他端部の間で楔32を挟む。その後、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22を基準面3Cの上で互いに押し付けるとともに楔32を第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との間から抜いて第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22の長手方向の一端側から他端側にかけて貼り合わせる。これにより、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との間に接合層20Aが形成されて1組の三角柱ペア部材20が製造される。
【0030】
プラズマ重合膜201同士を貼り合わせることで、これらの膜同士が結合する。この結合は、次の(1)又は(2)、あるいは、(1)及び(2)のメカニズムに基づくものと推測される。
(1)2つの基材同士、本実施形態では、第1の三角柱基材21の光学薄膜23Rと第2の三角柱基材22とを貼り合わせると、各プラズマ重合膜201の表面にそれぞれ存在するOH基同士が隣接することになる。この隣接したOH基同士は、水素結合によって互いに引き合い、OH基同士の間に引力が発生する。また、この水素結合によって互いに引き合うOH基同士は温度条件によって脱水縮合を伴って表面から離脱する。その結果、2つのプラズマ重合膜201同士の接触境界では、脱離したOH基を結合した結合手同士が結合する。つまり、各プラズマ重合膜201を構成するそれぞれの母材同士が直接結合して一体化し、1層の接合層20Aが形成される。
(2)2つの基材同士を貼り合わせると、各プラズマ重合膜201の表面や内部に生じた終端化されていない結合手同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合
う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各プラズマ重合膜201を構成するそれぞれの母材同士が直接接合して一体化し、一層の接合層20Aが形成される。
【0031】
本実施形態では、貼合工程の後に、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを加圧する(加圧工程)。
この加圧工程では、接合強度を大きくするために、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを大きな力で加圧することが好ましい。具体的には、加圧するための圧力は、第1の三角柱基材21や第2の三角柱基材22の形状寸法や装置等の条件によって異なるものの、1〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPaがより好ましい。加圧時間は特に限定されないが、10sec〜30min程度であるのが好ましい。
第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを加圧した後に、これらを必要に応じて加熱する(加熱工程)。三角柱ペア部材20を加熱することで、接合強度を高めることができる。
この加熱工程は必要に応じて設けられるものであり、その加熱温度は、25〜100℃であり、好ましくは、50〜100℃である。100℃を超えると、三角柱ペア部材20が変質・劣化するおそれがある。加熱時間は1〜30min程度であることが好ましい。
なお、この加熱工程は加圧工程の後で単独に行ってもよいが、加圧工程と同時に行うことが接合強度を強める上で好ましい。
以上の工程によって三角柱ペア部材20を複数個まとめて製造しておく。
【0032】
[第二工程]
図2(B)に示される通り、第一工程で製造された三角柱ペア部材20を2個用意しておき、2個の三角柱ペア部材20の両方の底辺部200に光学薄膜23Bと接合層20Aとを設ける。
そのため、第一工程と同様に、2個の三角柱ペア部材20うちの一方の底辺部200に光学薄膜23Bを蒸着等の方法で形成し、この光学薄膜23Bと他方の三角柱ペア部材20の底辺部200とにそれぞれプラズマ重合膜201を形成する。このプラズマ重合膜201を形成する方法は第一工程と同じである。
その後、図7に示される通り、これらの三角柱ペア部材20を基準面3Cの上でプラズマ重合膜201を間に挟むように配置し、これらの三角柱ペア部材20を基準面3Cの上で互いに押し付ける。なお、図7で示される位置決め治具3は図5及び図6で示される位置決め治具3と同じ符号が付されているが、図7で示される位置決め治具3の底面3Aが図5及び図6で示される位置決め治具3の底面3Aより幅寸法が長く形成されている。
この際、第一工程と同様に、三角柱ペア部材20同士の長手方向一端同士を、ストッパ31を用いて当接し、2個の三角柱ペア部材20の長手方向他端の間に楔32を配置する。第二工程では、短寸の第2の三角柱基材22が位置決め治具3の溝30に臨むように配置し、長寸の第一の三角柱基材21が基準面3Cの上に位置するように配置する。
その後、2個の三角柱ペア部材20を基準面3Cの上で互いに押し付けるとともに楔32を2個の三角柱ペア部材20の間から抜いて三角柱ペア部材20の長手方向の一端側から他端側にかけて互いに互いに貼り合わせる。これにより、クロスダイクロイックプリズム1が製造される。
【0033】
以上の構成の第1実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)クロスダイクロイックプリズム1の製造方法は、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを押し付けて三角柱ペア部材20を成形する第一工程と、この第一工程で成形された2個の三角柱ペア部材20を互いに押し付けてクロスダイクロイックプリズムを成形する第二工程と、を備える。第一工程は、第1の三角柱基材21の第1隣辺部211に設けられた光学薄膜23Rと第2の三角柱基材22の第1隣辺部221にプラズマ重合膜201をそれぞれ形成し、これらの第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22と
を位置決め治具3に形成された基準面3Cの上でプラズマ重合膜201を間に挟むように配置した後、基準面3Cの上で互いの第2隣辺部212,222同士が同一平面に沿うように押し付ける。第二工程は、2個の三角柱ペア部材20のうち少なくとも一方に設けられた光学薄膜23Bにプラズマ重合膜201を形成し、これらの三角柱ペア部材20を基準面3Cの上でプラズマ重合膜201を間に挟むように配置した後、基準面3Cの上で互いの第1隣辺部221同士が同一平面に沿うように押し付ける。プラズマ重合膜201は接着剤に比べて均一な薄さを実現できるため、互いに接合される三角柱基材21,22同士や三角柱ペア部材20同士の接合部分に厚さのバラツキがなくなり、さらに、三角柱基材21,22の角部が集まった部分での段差がなくなるので、プリズム内を通過する光の光路が安定する。しかも、接着剤がプリズム端縁からはみ出して基準面3Cに付着するということがないから、接着剤を基準面3Cから剥がすという作業が不要となる。
【0034】
(2)三角柱ペア部材20を成形するにあたり、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22の長手方向の一端同士を当接し、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22の長手方向の他端側の間に楔32を配置し、その後、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22を基準面3Cの上で互いに押し付けるとともに楔32を第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との間から抜いて三角柱基材21,22同士を一端側から他端側にかけて貼り合わせるので、これらの三角柱基材21,22同士を押し付ける前において、三角柱基材21,22同士の位置決め作業を正確に行えるので、精度の高い三角柱ペア部材20を製造することができる。
【0035】
(3)三角柱ペア部材20同士を互いに押し付けてクロスダイクロイックプリズム1を成形するにあたり、2個の三角柱ペア部材20の長手方向一端同士を当接し、これらの三角柱ペア部材20の長手方向他端の間に楔32を配置し、その後、これらの三角柱ペア部材20を基準面3Cの上で互いに押し付けるとともに楔32をこれらの三角柱ペア部材20の間から抜いて一端側から他端側にかけて互いに貼り合わせるので、三角柱ペア部材20同士を押し付ける前にこれらの三角柱ペア部材20同士の位置決め作業を正確に行えるので、精度の高いクロスダイクロイックプリズム1を製造することができる。
【0036】
(4)位置決め治具3にストッパ31を設けたから、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との一端同士を当接するための位置決めとなり、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との貼り合せを正確に行うことができる。
(5)ストッパ31は互いに隣合う面に第一側面311と第二側面312とを有するから、第一側面311に第1の三角柱基材21の端面を当接させ、第二側面312に第1の三角柱基材21の端面と直交する側面を当接させることで、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との位置決めがより正確に行えることになり、これらの三角柱基材21,22の貼り合せ作業をより精度高く行うことができる。
【0037】
(6)第1の三角柱基材21が第2の三角柱基材22より長く形成されているので、2個の三角柱ペア部材20同士を接合するために、凹状の溝30に短寸の第2の三角柱基材22を臨むように配置し、基準面3Cの上に長寸の第1の三角柱基材21を配置することで、位置決め治具3を用いて容易にクロスダイクロイックプリズム1を製造することができる。
(7)第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との材質を同じにしたから、クロスダイクロイックプリズム1の光学特性を優れたものにできる。
【0038】
(8)プラズマ重合膜201の主材料はポリオルガノシロキサンであり、このポリオルガノシロキサンが比較的に柔軟性に富んでいるので、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを接合する際に、両光学部材の熱膨張に伴う応力を緩和することができる。そのため、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との剥離を確実に防止することが
できる。しかも、ポリオルガノシロキサンは、耐薬品性に優れているため、薬品等に長期に曝されるクロスダイクロイックプリズム1を製造することができる。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態を図8及び図9に基づいて説明する。
第2実施形態の説明において、第1実施形態と同一構成要素は同一符号を付して説明を省略する。第2実施形態では、第1の三角柱基材21が第2の三角柱基材22より短く形成されている。そして、第1の三角柱基材21は頂角がαであり、第2の三角柱基材22は頂角がβである。これらの頂角αとβとは同じ90°となるように三角柱基材21,22が製造されるが、実際には、製造誤差等により、両者は厳密には同じとはならない(α≠β)。
[第一工程]
図8(A)は第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを貼り合せる前の状態を示す端面図、(B)は、その平面図である。
図8(A)(B)で示される通り、第1の三角柱基材21の第1隣辺部211に予め形成された光学薄膜23Rと第2の三角柱基材22の第1隣辺部221とに第1実施形態と同様の方法でプラズマ重合膜201を形成するが、第1実施形態とは異なり、各三角柱基材21,22の中央部分と両端部とにはプラズマ重合膜201が形成されていない非接合部202,203が設けられている。非接合部202,203を形成するには、プラズマ重合膜の形成工程においてマスキング等の方法を用いる。
第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とをプラズマ重合膜201同士を間に挟んで基準面3Cの上で互いに対向配置する。
【0040】
図8(C)は第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを貼り合せた後の状態を示す端面図、(D)は、その平面図である。
図8(C)(D)で示される通り、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを互いに押し付ける。この作業は、第1実施形態と同様に、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との一端部を位置決め治具3の第一側面311で位置決めしながら互いに接合する。この状態で、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との他端部の間で楔32を挟み、その後、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22を基準面3Cの上で互いに押し付けるとともに楔32を第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との間から抜いて両三角柱基材21,22を一端側から他端側にかけて貼り合わせる。これにより、三角柱ペア部材20が製造される。
【0041】
その後、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを切断する。
図9(A)は第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを切断する前の状態を示す端面図、(B)は、その平面図である。
図9(A)(B)で示される通り、第1の三角柱基材21の中央部に設けられた非接合部202の中心C1と、この中心C1から両側に所定寸法離れた位置であって第2の三角柱基材22の非接合部202に含まれる位置C2とを軸方向と直交する方向に沿って切断する。切断方法はワイヤーソー等の適宜な手段を用いることができる。
図9(C)(D)は第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを切断してペア部材片20Hを成形した後の状態を示すものであり、(C)はペア部材片20Hを互いに対向させた状態の端面図であり、(D)はペア部材片20Hを長手方向に沿って配置した平面図である。
図9(D)で示される通り、第2の三角柱基材22の切断された中央部分は取り除かれ、2個のペア部材片20Hが成形される。これらの2個のペア部材片20Hは、位置C1を挟んで互いに対称な構造であり、図9(C)に示される通り、2個のペア部材片20Hを第1の三角柱基材21同士並びに第2の三角柱基材22同士が対向するように配置する。
【0042】
[第二工程]
第1実施形態と同じ方法で2個のペア部材片20Hの底辺部200に光学薄膜23Rと接合膜20Aを設けてクロスダイクロイックプリズム1を製造する。
そのため、2つのペア部材片20Hの一方に光学薄膜23Bを形成し、この光学薄膜23Bと他方のペア部材片20Hの底辺部200にそれぞれプラズマ重合膜201を形成し、2つのペア部材片20Hを位置決め治具3の基準面3Cを用いて互いに押し付ける。これにより、1個のクロスダイクロイックプリズム1が製造される。このクロスダイクロイックプリズム1は光学薄膜23Bを挟んで第1の三角柱基材21同士並びに第2の三角柱基材22同士が互いに対向配置される構造であり、光学薄膜23B及びこれに隣接する接合層20Aを中心として左右に対称な構造である。
【0043】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の効果(1)〜(8)と同様な効果を奏することができる他、次の効果を奏することができる。
(9)第一工程として、三角柱ペア部材20を成形した後に、三角柱ペア部材20の長手方向の中央部分を切断して2つのペア部材片20Hを成形する切断工程を備え、第二工程では、2つのペア部材片20Hの底辺部にそれぞれ予めプラズマ重合膜201を形成し、2つのペア部材片20Hを、プラズマ重合膜201を挟んで対向する状態で互いに押し付ける。これらの工程で製造されるクロスダイクロイックプリズム1は第1の三角柱基材21同士及び第2の三角柱基材22同士が光学薄膜23B及びこれに隣接する接合層20Aを挟んで対称配置されているので、プリズムの各側面にそれぞれに向けて照射される光は集約されて精度の高いプリズムとなる。
【0044】
(10)第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とに、切断工程で切断する予定の中央部を間に挟んで互いに所定間隔離れてプラズマ重合膜201をそれぞれ形成し、切断予定の箇所をプラズマ重合膜が形成されていない非接合部202,203とした。そのため、基準面3C上でのペア部材片20H同士の押し付け作業をするにあたり、プラズマ重合膜が形成されていない非接合部202,203を位置決め治具の基準面3Cに当接することができるから、押し付け作業を円滑に行うことができる。上述では、接合部が二箇所の例を説明したが、それに限らず三箇所以上の接合部を形成後、同様に切断して3個以上のペア部材片を得ることができる。
【0045】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本発明では、プラズマ重合膜201を第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22の一方に設ければよく、必ずしも双方に設けることを要しない。
また、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22との長さを同じにしてもよく、材質を異ならせるものでもよい。
【0046】
そして、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを貼り合わせるに際して、楔32やストッパ31を必ずしも使用することを要しない。例えば、第1の三角柱基材21と第2の三角柱基材22とを基準面3Cの上に配置し、まず、これらの基材の上端縁を互いに当接させ、その後、基準面3Cに接する下部を互いに押し付ける方法でもよい。この方法では、楔32を不要にできる。
さらに、本発明は、4個の三角柱基材21,22を組み合わせて端面が正方形となるクロスダイクロイックプリズムの製造に限定されるものではなく、5個以上の三角柱基材21,22を組み合わせて端面が異形となるクロスダイクロイックプリズムの製造にも適用することができ、さらには、クロスダイクロイックプリズム以外のプリズムの製造にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は液晶プロジェクタ、その他の装置に用いられるプリズムを製造する方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態で製造されたクロスダイクロイックプリズムの概略構成を示す端面図。
【図2】本発明の第1実施形態のクロスダイクロイックプリズムの製造方法について説明する概略図。
【図3】第1実施形態で使用するプラズマ重合装置の概略図。
【図4】プラズマ重合膜の成形手順を説明する図。
【図5】位置決め治具を用いて第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とを貼り合わせる工程を説明する斜視図。
【図6】位置決め治具を用いて第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とを貼り合わせる工程を説明する平面図。
【図7】位置決め治具を用いて三角柱ペア部材同士を貼り合わせる工程を説明する斜視図。
【図8】本発明の第2実施形態を示すもので、第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とを貼り合せる工程を説明する図。
【図9】第2実施形態における第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とを切断する工程を説明する図。
【符号の説明】
【0049】
1…クロスダイクロイックプリズム、3…位置決め治具、3C…基準面、20…三角柱ペア部材、200…底辺部、211,221…第1隣辺部、212,222…第2隣辺部、20A…接合層、20H…ペア部材片、21…第1の三角柱基材、22…第2の三角柱基材、23R,23B…光学薄膜、31…ストッパ、32…楔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1隣辺部と第2隣辺部とを有する複数の三角柱基材を用意し、前記三角柱基材のうち少なくとも一方の三角柱基材の第1隣辺部にプラズマ重合膜を形成し、互いの第2隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、互いの第1隣辺部同士を押し付けて三角柱ペア部材を形成する第一工程と、
この第一工程で形成された2個の三角柱ペア部材のうち少なくとも一方の第2隣辺部にプラズマ重合膜を形成し、これらの三角柱ペア部材の前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、これらの三角柱ペア部材の前記第2隣辺部同士を互いに押し付けてプリズムを形成する第二工程と、を備える
ことを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたプリズムの製造方法において、
前記第一工程は、第1の三角柱基材と第2の三角柱基材とから前記三角柱ペア部材を形成した後に、前記三角柱ペア部材の長手方向に概ね垂直な切断面で切断して複数のペア部材片を形成する切断工程を備え、
前記第二工程は、前記切断工程で形成された複数の前記ペア部材片のうち少なくとも一方の前記第2隣辺部にプラズマ重合膜を形成し、前記複数のペア部材片を前記第1の三角柱基材同士及び前記第2の三角柱基材同士が対向する状態で互いに押し付ける
ことを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載されたプリズムの製造方法において、
前記第一工程は、前記第1の三角柱基材と前記第2の三角柱基材を部分的に接合する接合部にプラズマ重合膜を形成し、前記接合部とは前記直角三角柱基材同士が接合して前記ペア部材片を形成する部分であって、前記接合部は前記三角柱の長手方向に沿って、交互に間隔を有して配置され、前記切断工程は、前記第1三角柱基材を前記接合部に近接した切断面で切断し、前記第2三角柱基材を前記接合部から離れた位置の切断面で切断する
ことを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたプリズムの製造方法において、
互いの第2隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、互いの第1隣辺部同士を互いに押し付けて三角柱ペア部材を形成するにあたり、前記複数の三角柱基材の長手方向一端同士を当接し、複数の前記三角柱基材の長手方向他端側の間に楔を配置し、その後、前記複数の三角柱基材同士を互いに押し付けるとともに前記楔を前記複数の前記三角柱基材の間から抜いて前記複数の前記三角柱基材同士を長手方向の一端側から他端側にかけて接合する
ことを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載されたプリズムの製造方法において、
前記第二工程で、前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置し、これらの三角柱ペア部材の前記第2隣辺部同士を形成するにあたり、前記2個の三角柱ペア部材の長手方向一端同士を当接し、前記2個の三角柱ペア部材の長手方向他端の間に楔を配置し、その後、前記第1隣辺部同士が同一平面に沿うように配置するとともに前記楔を前記2個の三角柱ペア部材の間から抜いて前記2個の三角柱ペア部材の長手方向の一端側から他端側にかけて互いに接合する
ことを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載されたプリズムの製造方法において、
複数の前記直角三角柱基材の長手方向の長さが互いに異なる
ことを特徴とするプリズムの製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載されたプリズムの製造方法において、
複数の前記直角三角柱基材の材質が同じである
ことを特徴とするプリズムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−175887(P2010−175887A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19189(P2009−19189)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】