説明

プリズムアセンブリの製造方法

【課題】光硬化型接着剤の照射を妨げる光学薄膜がある場合に、高精度で小型のプリズムアセンブリを効率良く製造する。
【解決手段】まず、重ねあわせ面に光学薄膜が介在するように、1枚の透明な厚板42上に薄板41a,41bを重ね合わせたユニット51aを、複数ユニット分重ね合わせ、光硬化型接着剤を光照射により硬化させて基板接合体51を作製する。次に、基板接合体51の各々の重ね合わせ面と一定角度で交差する方向に一定ピッチで切断し、この切断による表裏面に厚板42の切断面と薄板41a,41bの切断面とが層状に露呈した接合基板を作製する。また、厚板42からなる部分の中央を通るように、厚板42の切断面に沿って、表面に対して垂直に接合基板を切断し、複数の角柱状基板を作製する。そして、角柱状基板を長手方向と垂直に一定ピッチで切断し、プリズムアセンブリを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプリズムを複数接合したプリズムアセンブリの製造方法に関し、さらに詳しくは、プリズムの接合面が2以上あるプリズムアセンブリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CDやDVD,ブルーレイディスク(BD)等の複数種類の光ディスクに対応した光学ドライブが普及している。複数種類の光ディスクに対応した光学ドライブでは、部品点数の削減による低コスト化や、小型化,薄型化のめに、光ピックアップの多くの部分を各光ディスクに対して共通化することが求められる。こうした光ピックアップに用いられる部材として、プリズムアセンブリが知られている。プリズムアセンブリは、偏光分離膜や反射膜等の光学薄膜を介して複数のプリズムを接合したものであり、光ディスクへのレーザー光の入射光路や、光ディスクに反射されて戻るレーザー光の光路を各光ディスクについて共通化する部材として使用される。
【0003】
プリズムアセンブリは、例えば、接合するプリズムを各々成形し、各プリズムに必要な光学薄膜を成膜して、これらを接合することによって製造される。しかしながら、この方法では、プリズムアセンブリを構成する各プリズムを成形する段階で研磨加工の工数が多く、さらに、プリズム材料の研磨治具への貼り付けや剥離といったように煩雑な工程を数多く必要とする。また、各プリズムをそれぞれに成形してから接合してプリズムアセンブリを製造する場合には、各プリズムの小型化や各プリズムの接合精度には限度があり、良好な光学的性能のプリズムアセンブリを安定して生産することは難しい。
【0004】
こうしたことから、プリズムアセンブリを構成する各プリズムを予め成形しておくのではなく、表面に光学薄膜が成膜された複数のガラス基板を重ね合わせて接合しておき、これを斜めに切り出すことで、高精度に接合された小型のプリズムアセンブリを容易に製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
ところで、安価で、素早く強力な接着強度が得られることから、プリズムの接合や上述のようなガラス基板の接合には、紫外線を照射することにより硬化する光硬化型接着剤が主として用いられている。一方で、近年普及の著しいBDは、波長が紫外線近い405nm近傍の青色光を用いる光ディスクであるため、BDに対応するプリズムアセンブリには、この波長帯の光を反射する反射膜や偏光分離膜が用いられる。
【0006】
このため、紫外線で硬化する光硬化型接着剤を用いて、特許文献1に記載の製造方法でBDに対応するプリズムアセンブリを製造しようとすると、重ね合わせるガラス基板上に、紫外線の照射を妨げる反射膜や偏光分離膜等が設けられているために、これらの光学薄膜以降では紫外線の照射量が不十分となり、十分な接着強度が得られなかったり、十分な接着強度を得るためには長時間の紫外線の照射が必要となってしまう。
【0007】
このように、光硬化型接着剤への紫外線の照射を妨げる光学薄膜がある場合に、光硬化型接着剤への紫外線の照射を妨げない単位でガラス基板を重ね合わせて接合しておき、これを光硬化型でない可剥離性の接着剤で仮接合することによって、特許文献1に記載の製造方法と同様にしてプリズムアセンブリを製造する方法が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許2639312号
【特許文献2】特開2005−164982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高精度で強力な接着の必要な面を、光硬化型接着剤により各々接合しておく方法では、光硬化型接着剤の塗布とこれを硬化させる紫外線の照射とを、高精度で強力な接着の必要な面の数だけ繰り返し行う必要があるため、プリズムアセンブリの製造工程が煩雑かつ非効率的になってしまうという問題がある。
【0009】
また、光硬化型接着剤で強固に接合した複数枚のガラス基板を一つのユニットとし、これを可剥離性の接着剤で仮接合すると、2種類の接着剤を使用することになるため、安定した品質のプリズムアセンブリを製造するためには各接着剤の特性の調節や管理が煩雑である。また、複数の接着剤を利用すると、コスト面で不利になる。
【0010】
さらに、製造したプリズムアセンブリを良好な光学性能を確保するためには、仮接合されていた面を切断して除去したり、研磨したりする必要がある。このため、仮接合を用いることにより、切断や研磨の工程が増加し、プリズムアセンブリの製造工程が煩雑かつ非効率的になるとともに、切断や研磨による切除しなければならない部分が多く、材料が無駄になり、プリズムアセンブリが高コスト化してしまうという問題がある。
【0011】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、光硬化型接着剤の照射を妨げる光学薄膜がある場合においても、高精度で小型のプリズムアセンブリを効率良く製造することができるプリズムアセンブリの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプリズムアセンブリ製造方法は、重ね合わせ面に光学薄膜が介在するように、1枚の厚い透明な第1基板上に1枚以上の薄い透明な第2基板を重ね合わせた積層体ユニットを複数ユニット分重ね合わせ、各々の重ね合わせ面に予め塗布された光硬化型接着剤を光照射により硬化させて基板接合体を作製する第1工程と、前記基板接合体の各々の重ね合わせ面と一定角度で交差する方向に一定ピッチで切断し、この切断による表裏面に前記第1基板の切断面と前記第2基板の切断面とが層状に露呈した接合基板を作製する第2工程と、前記第1基板からなる部分の中央を通るように、前記第1基板の切断面に沿って、表面に対して垂直に前記接合基板を切断し、複数の角柱状基板を作製する第3工程と、前記角柱状基板を長手方向に対して垂直に一定ピッチで切断し、前記第1基板を切断して得られた第1プリズム要素を両端に有し、これらの間に前記第2基板を切断して得られた第2プリズム要素を1以上有するプリズムアセンブリを得る第4工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、前記第2工程で前記基板接合体を切断する前記一定角度に応じて、前記第1工程では前記第1基板と前記第2基板の位置を階段状にずらしながら重ね合わせて前記基板接合体を作製することを特徴とする。
【0014】
また、前記第1工程で、前記光硬化型接着剤を硬化させるときに、前記重ね合わせ面に平行な方向から光を照射することを特徴とする。
【0015】
また、前記基板接合体は、最上段及び最下段に、前記第2基板よりも厚い第3基板が配置されることを特徴とする。
【0016】
また、前記光硬化型接着剤は、紫外線により硬化する紫外線硬化型の接着剤であることを特徴とする。
【0017】
また、前記基板接合体は前記第2基板の両側にそれぞれ2以上の前記第1基板を配置して作製され、前記プリズムアセンブリは、前記第2プリズム要素を2以上有するように作製されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光硬化型接着剤の照射を妨げる光学薄膜がある場合においても、高精度で小型のプリズムアセンブリを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に示すように、光ピックアップ11は、光ディスク12からデータを読み出すための光学系であり、CD,DVD,BDの3種の波長帯の異なる光ディスク12に対して共通に用いられる。光ピックアップ11は、青色レーザーダイオード(以下、青色LDという)16、赤色レーザーダイオード(以下、赤色LDという)17、ダイクロイックプリズム18、プリズムアセンブリ20、青色用光電子集積回路(以下、青色用OEICという)22、赤色用光電子集積回路(以下、赤色用OEICという)23等から構成される。
【0020】
青色LD16は、波長405nmの青色レーザー光を発するレーザーダイオードであり、光ディスク12がBDの場合に発光される。青色LD16から発せられた青色レーザー光は、青色LD16の前方に設けられた回折格子(図示しない)に入射され、データ読み取り用の主ビームと、トラッキング用及びフォーカシング用の2つの副ビームに分岐される。そして、回折格子を経た青色レーザー光は、1/2波長板(図示しない)によって偏光方向が所定方向に整えられた直線偏光となって、ダイクロイックプリズム18に入射する。
【0021】
赤色LD17は、波長650nm近傍の赤色レーザー光と、波長780nm近傍の赤外レーザー光を発することができる2波長レーザーダイオードであり、光ディスク12がCDまたはDVDであるときに波長を選択して発光される。赤色LD17は、光ディスク12がCDである場合には波長780nm近傍の赤外レーザー光を発し、光ディスク12がDVDであるときには、波長650nm近傍の赤色レーザー光を発する。
【0022】
赤色LD17から発せられたレーザー光は、赤色LD17の前方に設けられた回折格子(図示しない)に入射され、データ読み取り用の主ビームと、トラッキング用及びフォーカシング用の2つの副ビームに分岐される。そして、回折格子を経た赤色(赤外)レーザー光は、1/2波長板(図示しない)によって偏光方向が所定方向に整えられた直線偏光となって、ダイクロイックプリズム18に入射する。
【0023】
ダイクロイックプリズム18には、青色の光を透過し、赤色及び赤外の光を反射する色分離面が、青色LD16及び赤色LD17の光軸に対して45度の向きに設けられている。このため、青色LD16から入射する青色レーザー光は、色分離面を透過してプリズムアセンブリ20に入射し、赤色LD17から入射する赤色レーザー光及び赤外レーザー光は色分離面に反射されてプリズムアセンブリ20に入射される。
【0024】
プリズムアセンブリ20は、複数のプリズムが各種光学薄膜を介して複数接合された部材であり、CD用の赤外レーザー光,DVD用の赤色レーザー光,BD用の青色レーザー光の光路を統一化する。プリズムアセンブリ20は4個のプリズムからなり、各プリズムの境界に、偏光分離膜31、青色反射膜32、赤色反射膜33がそれぞれ設けられている。また、図1では図示の便宜上、LD16の光軸方向から見たこれらの光学薄膜31,32,33間には間隔があるが、光学薄膜31,32,33はLD16の光軸方向から見たときに重ならず、また、間隔無く配置される。
【0025】
偏光分離膜31は所定方向の偏光成分を透過し、この方向に垂直な方向の偏光成分を反射する。偏光分離膜31には、光ディスク12がBDである場合に、青色LD16から青色レーザー光が入射し、光ディスク12がCDまたはDVDである場合に、赤色LD17から赤色レーザー光,赤外レーザー光のうち対応する波長のレーザー光が入射する。
【0026】
各LD16,17から偏光分離膜31に入射する各色のレーザー光は、前述のように各LD16,17の前方に設けられた1/2波長板によって偏光分離膜31を透過する方向に偏光方向が整えられた直線偏光となっているので、偏光分離膜31を透過する。こうして偏光分離膜31を透過した各色のレーザー光は、直線偏光を円偏光に変換する1/4波長板、レーザー光を平行光線に変換するコリメータレンズ、光軸を光ディスク12の方向に折り曲げる立ち上げミラー、対物レンズ(何れも図示しない)を経て、光ディスク12に入射される。
【0027】
一方、偏光分離膜31には、光ディスク12によって反射されたレーザー光が入射する。こうして光ディスク12に反射されて戻るレーザー光は、光ディスク12への入射時と同じ向きに回転し、進行方向が逆向きの円偏光となっているので、前述の1/4波長板を透過することで、偏光方向が光ディスク12への入射時から90度回転した方向になる。このため、光ディスク12に反射されて戻るレーザー光は、偏光分離膜31に入射すると、青色反射膜32の方向へ反射される。
【0028】
青色反射膜32は、青色の光を反射し、赤色及び赤外の光を透過する。このため、光ディスク12がBDの場合に、光ディスク12に反射された青色レーザー光は、偏光分離膜31,青色反射膜32の順に反射されてプリズムアセンブリ20を出射し、青色用OEIC22に入射する。一方、光ディスク12がDVD及びCDの場合には、光ディスク12に反射された赤色(赤外)レーザー光は、偏光分離膜31に反射された後、青色反射膜32を透過して、赤色反射膜33に入射する。
【0029】
赤色反射膜33は、DVD用の赤色レーザー光とCD用の赤外レーザー光を反射する。このため、光ディスク12がDVDまたはCDの場合に、光ディスク12に反射された赤色(赤外)レーザー光が、赤色反射膜33で反射される。そして、光ディスク12からの赤色(赤外)レーザー光は、ミラー34に反射され、赤色用OEIC23に入射する。
【0030】
青色用OEIC22は、光電変換素子と光電変換により取得される電気信号を処理する電気回路とが一体に形成された集積回路であり、青色LD16や対物レンズに接続されている。青色用OEIC22には、プリズムアセンブリ20の青色反射膜32から、光ディスク12からの青色レーザー光が入射される。このとき、青色用OEIC22は、青色レーザー光のうち、主ビームを光電変換することにより、光ディスク12に記録されたデータを電気信号に変換して取得する。同時に、青色用OEIC22は、青色レーザー光のうち、2種の副ビームをそれぞれ光電変換し、各副ビームのスポット形状やスポットの向き、ビーム強度等のデータを取得する。青色用OEIC22は、こうした副ビームから得られたデータに基づいて、対物レンズの位置を制御することによりフォーカシング制御やトラッキング制御を行う。また、青色用OEIC22は、青色LD16の出力を調節する。
【0031】
赤色用OEIC23は、青色用OEIC22と同様に、光電変換素子と光電変換により取得される電気信号を処理する電気回路とが一体に形成された集積回路であり、赤色LD17や対物レンズに接続されている。赤色OEIC23には、プリズムアセンブリ20の赤色反射膜33からミラー34を経て、赤色(または赤外)レーザー光が入射される。このとき、赤色OEIC23は、前述の青色用OEIC22と同様にして、入射したレーザー光の主ビームからDVD(またはCD)に記録されたデータを電気信号として取得する。さらに、同様にして、赤色OEIC23は、副ビームから得られるデータに基づいてフォーカシング制御やトラッキング制御を行うとともに、赤色LD17の出力を調節する。
【0032】
プリズムアセンブリ20は、上述のように光ピックアップ11に用いられる部材であり、図2(A)に示すように、全体としては直方体形状であり、図2(B)に示すように、透明な材料からなる4個のプリズム36,37,38,39から構成される。
【0033】
プリズム36は、青色LD16及び赤色LD17の光軸に平行な面が台形状となった台形プリズムであり、斜面36aでプリズム37と接合される。また、プリズム37は、青色LD16及び赤色LD17の光軸に平行な面が平行四辺形状となった平行四辺形プリズムであり、一方の側面37aはプリズム36に接合され、これに平行な他方の側面37bはプリズム38と接合される。プリズム36と接合される側面37aには偏光分離膜31が成膜される。
【0034】
プリズム38は、プリズム37と同様の平行四辺形プリズムであり、一方の側面38aはプリズム37に接合され、これに平行な他方の側面38bはプリズム39と接合される。側面38aには青色反射膜32が成膜され、側面38bには赤色反射膜33が成膜される。また、プリズム39は、プリズム36と同様の台形プリズムであり、斜面39aでプリズム38と接合される。
【0035】
また、これらのプリズム36,37,38,39の各面の接合には、紫外線を照射することにより硬化する光硬化型接着剤が用いられ、各プリズム36,37,38,39は相互に十分な強度で接合される。
【0036】
以下、上述のように構成されるプリズムアセンブリ20の製造方法を説明する。プリズムアセンブリ20は、図3〜6に示すように、複数まとめて製造される。プリズムアセンブリ20の製造には、図3(A)〜(C)に示すように、所定の厚さのガラス基板41(第2基板,以下、薄板という)と、厚さが基板41の2倍以上ある基板42(第1基板,以下、厚板という)の2種類の基板が用いられる。薄板41及び厚板42は、いずれも透明な材料からなり、平板状に形成されている。また、薄板41及び厚板42の表面は、いずれも研磨加工が施されている。なお、厚板42の厚さは、第3工程(後述)における切断代を考慮して定められるが、以下では、切断代が十分に小さいものとし、厚板42の厚さは薄板41の2倍の厚さであるものとする。
【0037】
プリズムアセンブリ20を製造するときには、これらの2種の基板41,42のうち、薄板41から薄板41a,41bを作製する。薄板41a,41bは、表面に成膜される光学薄膜がそれぞれ異なる。まず、図3(A)に示すように、薄板41の一方の表面に偏光分離膜31を成膜することにより、薄板41aを作製する。同時に、図3(B)に示すように、薄板41の一方の表面に青色反射膜32を成膜するとともに、他方の表面に赤色反射膜33を成膜し、薄板41bを作製する。
【0038】
こうして表面に各種光学薄膜が成膜された薄板41a,41bと、厚板42は、図4に示すように、下段側から厚板42,薄板41b,薄板41aの順に周期的に、かつ、階段状に一定の方向に位置をずらしながら重ね合わせて接合され、基板接合体51が作製される(第1工程)。基板接合体51は、1枚の厚板42上に薄板41b,薄板41aが重ね合わせられた構造をひとつのユニット51a(積層体ユニット)とすれば、基板接合体51は、このユニット51aが複数重ね合わせられた構造となる。このとき、各基板41a,41b,42の間に偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33のいずれか一つが配置されるように、各基板41a,41b,42を重ね合わせる。このため、基板接合体51の各基板41a,41b,42の各々の重ね合わせ面には、偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33のうちいずれかの光学薄膜が介在している。また、基板接合体51の各基板41a,41b,42の間には、これらの各基板41a,41b,42をそれぞれ接合する接着剤が予め塗布される。ここで用いる接着剤は、紫外線を照射することで硬化する光硬化型接着剤である。また、各基板41a,41b,42の階段状の位置ズレ量は、基板接合体51を切断して接合基板53を作製するときに、基板接合体51を切断する角度に応じて定められる。ここでは、基板接合体51の階段状の側面の傾斜は、概ね45度になっている。
【0039】
そして、各基板41a,41b,42が接着剤を介して重ね合わせられた状態の基板接合体51に、紫外線を照射して各基板41a,41b,42間の接着剤を硬化させ、接合させる。このとき、基板接合体51に対して、各基板41a,41b,42の表面に対して垂直な方向からだけ紫外線を照射すると、基板接合体51には紫外線の十分な透過を妨げる偏光分離膜31や青色反射膜32が含まれているので、基板接合体51の内部に紫外線が到達し難い。このため、基板接合体51に照射する紫外線は、基板接合体51の周囲全体から照射することが好ましい。特に、各基板41a,41b,42の重ね合わせ面に平行な方向から基板接合体51に入射する成分52を含むように、少なくとも基板接合体51の側方から紫外線を照射することが好ましい。
【0040】
こうして基板接合体51に紫外線を照射すると、偏光分離膜31がある薄板41aと厚板42との接合面には、上段側に位置する厚板42の内部を通った紫外線が主に照射される。この接合面では、下段側から薄板41aのガラス基板41,偏光分離膜31,接着剤,厚板42の順に重ね合わせられている。このため、薄板41aと厚板42の接合面には、薄板41aの上段側に位置する厚板42の側面から進入した紫外線により、ムラ無く十分な強度で接合される。
【0041】
また、青色反射膜32がある薄板41bと薄板41aとの接合面は、偏光分離膜31により減光された紫外線と、これらの薄板41a,41bよりも下段側に位置する厚板42の内部を通り、薄板41bを透過した紫外線が照射される。これにより、薄板41aと薄板41bの接合面は、ムラ無く十分な強度で接合される。
【0042】
また、赤色反射膜33がある薄板41bと厚板42との接合面には、薄板41bの下段側に位置する厚板42の内部を通った紫外線が主に照射される。この接合面では、上段側から、薄板41bのガラス基板41,赤色反射膜33,接着剤,厚板42の順に重ね合わせられている。このため、薄板41bと厚板42の接合面には、下段側に位置する厚板42の側面から侵入した紫外線が主として照射される。これにより、薄板41aと厚板42の接合面は、ムラ無く、十分な強度で接合される。
【0043】
こうして基板接合体51の各基板41a,41b,42を接合した後には、図5に破線で示すように、階段状に接合された各基板41a,41b,42の傾斜に沿って、各基板41a,41b,42の重ね合わせ面に対して一定角度(ここでは45度)で交差する方向に、一定のピッチで層状に切断され、平板状の接合基板53が複数枚作成される(第2工程)。
【0044】
接合基板53は、基板積層体51における各基板41a,41b,42の積層順序に応じて、厚板42からなる層厚の部分54aと薄板41からなる層薄の部分54bとが、偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33を介して周期的に接合された基板となっている。このため、接合基板53の表裏面には、薄板41a,41bの切断面と厚板42の切断面とが層状に露呈されている。また、接合基板53内の各光学薄膜31,32,33は、切断面である接合基板53の表面に対して、切断の傾斜角度(45度)だけ傾斜している。
【0045】
そして、接合基板53は、図6に破線で示すように、厚板42からなる層厚の部分54aで、厚板42の切断面に沿って、表面に対して垂直に切断され、複数の角柱状基板56が作製される(第3工程)。このとき、接合基板53は、各光学薄膜の断面が周期的に現れる側面を見たときに、厚板42からなる層厚の部分54aの中央を通るように切断される。
【0046】
こうして作製された角柱状基板56は、接合基板53における層厚の部分54aと層薄の部分54bのとの接合順序に応じて、側面の形状が台形状になっている台形部材56a,側面の形状が平行四辺形になっている平行四辺形部材56b,平行四辺形部材56c,台形部材56dの4つの部材が接合され、全体として直方体状の基板となっている。また、角柱状基板56には、偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33の3種の光学薄膜が各々一つずつ含まれている。台形部材56aと平行四辺形部材56bとの接合面に偏光分離膜31となっている。また、平行四辺形部材56bと平行四辺形部材56cとの接合面が青色反射膜32であり、平行四辺形部材56cと台形部材56dとの接合面が赤色反射膜33となっている。
【0047】
そして、図7に示すように、角柱状基板56を長手方向と垂直に、一定のピッチで切断することにより、プリズムアセンブリ20が作製される(第4工程)。こうして角柱状基板56を切断すると、厚板42を切断して得られた台形プリズム36,39(第1プリズム要素)が両端にあり、これらの間に薄板41a,41bを切断して得られた平行四辺形プリズム37,38(第2プリズム要素)があるプリズムアセンブリ20が作製される。
【0048】
上述のプリズムアセンブリ20の製造方法によれば、個々にプリズムを成形することなく、複数個のプリズムアセンブリ20をまとめて作製することができるので、寸法の累積的な公差を極めて小さく抑え、プリズムアセンブリ20を精度良く効率的に製造することができる。また、プリズムアセンブリ20を構成する各プリズム36,37,38,39を個々に成形するのが困難な小型のプリズムアセンブリ20を容易に製造することができる。
【0049】
特に、上述のプリズムアセンブリ20の製造方法では、同じ厚さの基板(例えば薄板41a,41b)だけを重ね合わせて基板接合体51を作製するのではなく、所定厚さの薄板41a,41bに、これよりも厚い厚板42を組み合わせて用いるので、基板接合体51を構成する各基板41a,41b,42を光硬化型接着剤で接合するときに、厚板42の側面から基板接合体51の内部へ紫外線が進入し易くなっている。これにより、プリズムアセンブリ20に紫外線の照射を妨げる光学薄膜がある場合にも、光硬化型接着剤によって各基板41a,41b,42の接合面を、一度に確実に接合することができる。また、基板41a,41b,42を順に接合したり、仮接合する工程を必要としないので、精度の良いプリズムアセンブリ20を安価かつ容易に製造することができる。
【0050】
さらに、上述のプリズムアセンブリ20の製造方法によれば、基板接合体51から、接合基板53,角柱状基板56,プリズムアセンブリ20の順に切り分けて行くだけで、プリズムアセンブリ20のサイズは最終的な製品のサイズになる。このため、上述のプリズムアセンブリ20の製造方法には最終的なプリズムアセンブリ20のサイズを整えるための不要な切断工程や研磨工程がなく、ここで生じていた材料の無駄を軽減し、安価にプリズムアセンブリ20を製造することができる。
【0051】
また、上述のプリズムアセンブリ20の製造方法では、基板接合体51を作製するときに、各基板41a,41b,42を階段状に重ね合わせて接合するので、基板接合体51を切断して接合基板53を作製するときに各基板41a,41b,42の端から切除する部分が低減される。
【0052】
なお、上述の実施形態では、プリズムアセンブリ20に偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33の3つの光学薄膜が含まれている例を説明したが、これに限らず、上述の実施形態で説明したプリズムアセンブリの製造方法は2以上の光学薄膜を含むプリズムアセンブリの製造に好適に適用することができ、1つの光学薄膜を含むプリズムの製造に適用しても良い。上述の実施形態で説明したプリズムアセンブリの製造方法は、3以上の光学薄膜を含み、光硬化型接着剤への光の照射が特に妨げられ易いプリズムアセンブリを製造する場合に、特に効果的である。この場合、上述の実施形態のように、厚板42の両側に2以上の薄板41a,41bを配置して基板接合体51を作製し、角柱状基板56を作製するときに厚板42からなる部分で切断することで3以上の光学薄膜が角柱状基板56に含まれるようにする。
【0053】
なお、上述の実施形態では、基板接合体51を作製するときに、厚板42,薄板41a,薄板41bの順に周期的に重ね合わせるが、基板接合体51を作製するときには、単に周期的に基板41a,41b,42を重ね合わせるだけでなく、図8(A)に示すように、基板接合体51の最上段及び最下段に、表面に光学薄膜が成膜されていないガラス基板61(第3基板)を配置し、最上段からガラス基板61,薄板41a,薄板41b,厚板42・・・の順に、最下段からガラス基板61,薄板41b,薄板41a,厚板42・・・の順にとなるように、各基板41a,41b,42及びガラス基板61を配置することが好ましい。このように、最上段及び最下段にガラス基板61を配置することで、図8(B)に示すように、接合基板53の最も端から角柱状基板56からを作製するときに、切除する部分62の量を低減しつつ、接合基板53の中央部分から作製されるものと同じ構成,形状の角柱状基板56を作製することができる。
【0054】
こうして基板接合体51の最上段及び最下段に配置するガラス基板61の厚さは、切除する部分62ができるだけ小さくなる厚さであることが好ましく、図8(B)に示すように、切除する部分62の側面が三角形状となり、切除する部分62が最小となる厚さであることが好ましい。例えば、LD16の光軸方向から見たときに各光学薄膜31,32,33が重ならず、かつ、隙間無く設けられ、各プリズム36〜39を最小に構成したプリズムアセンブリを製造する場合には、ガラス基板61の厚さを薄板41の厚さの1.5倍以上2倍以下とすることが好ましい。ガラス基板16の厚さを薄板41の厚さの1.5倍とする場合には、切除する部分62が最小となり、最も材料の無駄を抑えることができる。また、ガラス基板61の厚さを薄板41の2倍とする場合(ガラス基板61として厚板42を用いる場合)には、プリズムアセンブリ20の製造に薄板41と厚板42の2種類だけを扱えば良いので、より容易にプリズムアセンブリ20を製造することができる。
【0055】
なお、上述の実施形態では、薄板41aの一方の面に偏光分離膜31を設け、薄板41bの各表面に青色反射膜32,赤色反射膜33を設ける例を説明したが、基板接合体51を作製するときに予め各光学薄膜を設けておく位置はこれに限らない。例えば、上述の実施形態で薄板41aの表面に成膜した偏光分離膜31は、厚板42の一方の面に成膜しておいても良い。
【0056】
また、上述の実施形態では、光学薄膜として、偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33を設ける例を説明したが、これに限らず、プリズムアセンブリ20の光学的性質を良好にするために、これらの光学薄膜に加えて、反射防止膜等、他の光学薄膜を併せて設けることが好ましい。例えば、上述の実施形態では、薄板41aの一方の面に偏光分離膜31を成膜し、他方の表面には光学薄膜を設けない例を説明したが、偏光分離膜31が設けられていない方の表面には、赤色レーザー光や赤外レーザー光の反射を防止する反射防止膜を設けておくことが好ましい。
【0057】
また、上述の実施形態では、レーザー光が入射(出射)するプリズムアセンブリ20の入射面(及び出射面)には光学薄膜が設けられていない例を説明したが、プリズムアセンブリ20の入射面及び出射面には反射防止膜を設けることが好ましい。このように、プリズムアセンブリ20の入射面及び出射面に反射防止膜を設ける場合には、接合基板53を作製して、これらに対応する表面が形成された後であれば、任意のタイミングで反射防止膜を設けることができる。例えば、接合基板53を作製した時点で、接合基板53の表裏両面に反射防止膜を設ける。そして、以降は上述の実施形態と同様に接合基板53を切断して、表裏に反射防止膜が設けられた角柱状基板56を作製し、これを切断して入射面及び出射面に反射防止膜が設けられたプリズムアセンブリ20を作製する。また、例えば、角柱状基板56を作製したときに、角柱状基板56の表裏両面に反射防止膜を設け、これを上述の実施形態と同様に切断してプリズムアセンブリ20を作製しても良い。さらに、上述の実施形態と同様にプリズムアセンブリ20を作製してから、個々のプリズムアセンブリ20の入射面及び出射面に反射防止膜を設けるようにしても良い。これらの反射防止膜を設けるタイミングのなかでも、均質な反射防止膜を効率良く容易に設けることができるので、接合基板53を作製した時点で接合基板53の表裏両面に反射防止膜を設けることが特に好ましい。
【0058】
なお、上述の実施形態では、基板41a,41b,42を複数重ね合わせて基板接合体51を作成する例を説明したが、これに限らず、基板41a,41b,42を重ね合わせる数は、一度に製造するプリズムアセンブリ20の量に応じて任意に定めて良い。例えば、基板積層体51の縦方向に、2つのプリズムアセンブリ20を作製する場合には、基板接合体51の下段側から、薄板41b,薄板41a,厚板42,薄板41b,薄板41aの順に5枚の基板を用いるようにしても良い。但し、上述の実施形態で説明したプリズムアセンブリ20の製造方法は、プリズムアセンブリ20に2以上の光学薄膜が含まれているときに特に効果的である。このため、上述の実施形態のように、基板接合体51を作製するときには、基板接合体51に各基板41a,41b,42が合計で少なくとも3以上含まれていることが好ましい。
【0059】
なお、上述の実施形態では、光ピックアップ11に用いられるプリズムアセンブリ20を例に説明したが、プリズムアセンブリ20の用途はこれに限らない。このため、プリズムアセンブリ20に設ける光学薄膜の種類も、プリズムアセンブリ20の用途に応じて、上述の実施形態の偏光分離膜31,青色反射膜32,赤色反射膜33に限らず、任意の光学的性質の薄膜を設けることができる。
【0060】
なお、上述の実施形態では、各基板41a,41b,42を接合して基板接合体51を作製するときに、紫外線により硬化する光硬化型接着剤を用いる例を説明したが、これに限らず、紫外線以外の波長帯の光により硬化する光硬化型接着剤を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】プリズムアセンブリを用いる光ピックアップの構成を概略的に示す説明図である。
【図2】プリズムアセンブリの構成を示す斜視図である。
【図3】プリズムアセンブリの製造に用いる基板を示す説明図である。
【図4】基板接合体を作製する工程を示す説明図である。
【図5】基板接合体から接合基板を作製する工程を示す説明図である。
【図6】接合基板から角柱状基板を作製する工程を示す説明図である。
【図7】角柱状基板からプリズムアセンブリを作製する工程を示す説明図である。
【図8】基板接合体を作製するときに、基板接合体の最上段及び最下段の好ましい様態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
11 光ピックアップ
12 光ディスク
16 青色LD
17 赤色LD
20 プリズムアセンブリ
22 青色用OEIC
23 赤色用OEIC
31 偏光分離膜
32 青色反射膜
33 赤色反射膜
36,37,38,39 プリズム
41,41a,41b 薄板(第2基板)
42 厚板(第1基板)
51 基板接合体
53 接合基板
56 角柱状基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせ面に光学薄膜が介在するように、1枚の厚い透明な第1基板上に1枚以上の薄い透明な第2基板を重ね合わせた積層体ユニットを複数ユニット分重ね合わせ、各々の重ね合わせ面に予め塗布された光硬化型接着剤を光照射により硬化させて基板接合体を作製する第1工程と、
前記基板接合体の各々の重ね合わせ面と一定角度で交差する方向に一定ピッチで切断し、この切断による表裏面に前記第1基板の切断面と前記第2基板の切断面とが層状に露呈した接合基板を作製する第2工程と、
前記第1基板からなる部分の中央を通るように、前記第1基板の切断面に沿って、表面に対して垂直に前記接合基板を切断し、複数の角柱状基板を作製する第3工程と、
前記角柱状基板を長手方向に対して垂直に一定ピッチで切断し、前記第1基板を切断して得られた第1プリズム要素を両端に有し、これらの間に前記第2基板を切断して得られた第2プリズム要素を1以上有するプリズムアセンブリを得る第4工程と、
を備えることを特徴とするプリズムアセンブリの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程で前記基板接合体を切断する前記一定角度に応じて、前記第1工程では前記第1基板と前記第2基板の位置を階段状にずらしながら重ね合わせて前記基板接合体を作製することを特徴とする請求項1記載のプリズムアセンブリの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程で、前記光硬化型接着剤を硬化させるときに、前記重ね合わせ面に平行な方向から光を照射することを特徴とする請求項1または2記載のプリズムアセンブリの製造方法。
【請求項4】
前記基板接合体は、最上段及び最下段に、前記第2基板よりも厚い第3基板が配置されることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載のプリズムアセンブリの製造方法。
【請求項5】
前記光硬化型接着剤は、紫外線により硬化する紫外線硬化型の接着剤であることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載のプリズムアセンブリの製造方法。
【請求項6】
前記基板接合体は前記第2基板の両側にそれぞれ2以上の前記第1基板を配置して作製され、前記プリズムアセンブリは、前記第2プリズム要素を2以上有するように作製されることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のプリズムアセンブリの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−170606(P2010−170606A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11268(P2009−11268)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】