説明

プリセラミックシラザンポリマを生成する方法およびプリセラミックポリマの組成

【課題】プリセラミックポリマと、これを簡単かつ低コストで製造するプロセスを提供する方法と、が必要とされている。
【解決手段】複合材料10は、ビニル基を有するプリセラミックシラザンポリマ14を含浸した繊維強化材12を含む。繊維強化材12としては、連続的な繊維、非連続的な繊維、編組み状繊維、セラミック繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ホウ素でコーティングされた繊維またはこれらの組合せがある。プリセラミックシラザンポリマ14は、炭化物および窒化物の少なくとも一方またはこの両方を含むセラミック材料に熱分解されて、所望の機械的強度および所望の耐熱性を有する繊維強化セラミックマトリクス複合材料を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリセラミックポリマに関し、詳しくは、セラミック炭窒化物材料やセラミック窒化物材料の製造に用いるシラザンプリセラミックポリマに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック材料の生成には、一般に、プリセラミックポリマが使用されている。例えば、プリセラミックポリマと強化材料とを組み合わせて所望の形状にし、これを熱分解してセラミックマトリクス複合材料を生成する。特に、シラザンプリセラミックポリマは、耐熱性と高温での強度が要求される場合に、炭化物セラミックマトリクス、窒化物セラミックマトリクス、炭窒化物セラミックマトリクスを生成するために使用されている。
【0003】
従来のプリセラミックポリマは、効果的ではあるが、使用を制限してしまういくつかの欠点がある。例えば、一式の反応種からプリセラミックポリマを製造することは、複雑でコストの高いプロセスであることが多い。このプロセスは、多くの反応種と多くの反応ステップとを含み、高温を使用するからである。これに加え、1つまたは複数の反応種が、高価なことや、調達が困難であることがある。また、プリセラミックポリマからの化学変化により、プリセラミックポリマの大部分が熱分解でセラミックに転換されるような、高いセラミック収率を得なければならない。例えば、熱分解中に揮発して失われることにより、セラミックへの転換が不完全に行われ、その結果、低いセラミック収率となり、適当ではない品質のセラミックを生じてしまうことがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、プリセラミックポリマと、これを簡単かつ低コストで製造するプロセスを提供する方法と、が必要とされている。本発明は、従来技術の短所および欠点を回避しつつ、これらの必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
プリセラミックポリマを生成する一例としての方法が、ビニル基を有するシランをアンモニアで処理して、プリセラミックシラザンポリマを生成することを含む。シラン前駆体の一例としては、トリクロロビニルシラン(trichlorovinylsilane)がある。
【0006】
一例においては、このプリセラミックシラザンポリマは、続いて架橋され、ビニル基を有する架橋プリセラミックシラザンポリマを生成する。この架橋は、100℃(約212°F)または100℃未満の架橋温度を用いて、または架橋剤を用いて、もしくはこれらの組合せを用いて実現することができる。プリセラミックポリマを生成する実施例の方法によって、ビニル基を有するプリセラミックシラザンポリマを生じさせ、これを熱分解して、炭化物および窒化物の少なくとも一方を含むセラミック材料を生成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、一例としての複合材料10の選択された部分を示す。この例においては、複合材料10は、ビニル基を有するプリセラミックシラザンポリマ14を含浸した繊維強化材12を含む。繊維強化材12としては、種々の適当な種類の繊維強化材がある。いくつかの例においては、繊維強化材12としては、連続的な繊維、非連続的な繊維、編組みされた繊維、セラミック繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ホウ素でコーティングされた繊維またはこれらの組合せがある。プリセラミックシラザンポリマ14は、炭化物および窒化物の少なくとも一方または両方を含むセラミック材料に熱分解され、所望の機械的強度および所望の耐熱性を有する繊維強化セラミックマトリクス複合材料を生成する。図1は、例示のみを目的とし、開示例を限定するものではないことを理解されたい。なお、本開示例のプリセラミックシラザンポリマ14から、様々な他の種類の複合材料または非複合材料も恩恵を受けることがある。
【0008】
プリセラミックシラザンポリマ14は、繊維強化セラミックマトリクス複合材料をもたらすことに加え、セラミック収率が比較的高く、低コストで製造することができる。一例として、プリセラミックシラザンポリマ14は、ビニル基を有するシラン前駆体をアンモニアで処理することによって生成される。
【0009】
一例においては、プリセラミックシラザンポリマ14は、粘着性の特性を有する。この特性により、耐熱性の繊維や塗料および耐熱性のシーリング材(sealant)や粘着剤の製造に、プリセラミックシラザンポリマ14を使用することができる。
【0010】
図2は、シラン前駆体をアンモニアで処理してプリセラミックシラザンポリマ14を生成する一例としての方法30を示す。シラン前駆体をアンモニアで処理するステップに加えて用いられる本開示例のステップは、製造プロセスの特定の要求、生成されるプリセラミックシラザンポリマの種類や質または他の製造パラメータに応じて選択されるか、あるいは本開示例とは異なり得ることを理解されたい。
【0011】
方法30は、この例においては、ビニル基を有するシラン前駆体を用いてプリセラミックシラザンポリマ14を生成することを含む。シラン前駆体は、例えば、トリクロロビニルシランである。一例においては、トリクロロビニルシランは、試薬濃度(reagent grade)97%のトリクロロビニルシランである。テトラヒドロフランなどのキャリア溶媒とシラン前駆体との混合は、テトラヒドロフラン10部に対してシラン前駆体1部の混合比で行う(ステップ32)。還流冷却器および温度計を備えた三つ口丸底フラスコのような容器の中で、テトラヒドロフランとシラン前駆体とを混合することができる。さらに大規模な生産をするためには、他の型式の適当な容器を使用してもよい。
【0012】
このシラン前駆体を、アンモニアで処理する(ステップ34)。一例として、キャリア溶媒とシラン前駆体との混合物の温度は、アンモニアガスが導入されている間、約−10℃〜10℃に制御される。低い温度を用いることにより、アンモニアとプリセラミックシラン前駆体との発熱反応でテトラヒドロフランが蒸発してしまうことを防ぐ。例えば、キャリア溶媒とシラン前駆体との混合物を含む容器を氷で約0℃に冷却する。シラン前駆体とアンモニアガスとの反応を促進するために、この混合物を機械的に攪拌してもよい。代替的に、この処理は環境温度で行われる。
【0013】
以下の化学式は、上記の条件下でのアンモニアとトリクロロビニルシラン前駆体との反応を示す。この反応により、ポリカルボビニルシラザン(polycarbovinylsilazane)(すなわち、プリセラミックシラザンポリマ14)と、副生成物としての塩化アンモニウムと、が生成される。
【0014】
【化1】

【0015】
プリセラミックシラザンポリマ14は、塩化アンモニウム副生成物および溶媒から単離することによって、精製される(ステップ36)。例えば、濾過によって塩化アンモニウムを除き、エバポレータ(例えば、回転式エバポレータ(roto−vap)または他の適当な蒸発装置)を使って溶媒を抽出する。開示例においては、上記のプロセスで生成されるプリセラミックシラザンポリマ14は、約1.0g/cm3以上の密度を有する淡黄色の液体である。続いて、プリセラミックシラザンポリマ14を、エステル、芳香族炭化水素、ケトンまたはアルコールなどの溶媒と選択的に混合し、あるいは酸または塩基と選択的に反応させ、所望の混合物を生成する。いくつかの例においては、この所望の混合物は、プリセラミックシラザンポリマ14の保存寿命を延ばすための貯蔵の目的でつくられる。
【0016】
プリセラミックシラザンポリマ14生成物を架橋し、例えば、複合材料10をつくるのに適した半固体物質(semi−solid)を生成する(ステップ38)。他の例においては、所望の目的分子量を実現するために、液体のプリセラミックシラザンポリマ14を使用するか、あるいは架橋を制限することが望ましいことがある。
【0017】
ステップ38の架橋は、様々な異なる方法を用いて実現することができる。例えば、プリセラミックシラザンポリマ14を約100℃または100℃以下の温度で加熱して架橋を開始させ、プリセラミックシラザンポリマ14を重合する。他の例においては、架橋温度を下げるために、プリセラミックシラザンポリマ14に架橋剤をラジカル開始剤として加え、環境温度付近でプリセラミックシラザンポリマ14を重合する。温度、組成、物理的な性質などに関して本明細書中に使用される「約」という語句は、当技術において通常許容される変動または誤差などの所与の値に生じ得るばらつきについて言及している。プリセラミックシラザンポリマ14は、空気中の湿気に晒されて架橋されることもある。
【0018】
プリセラミックシラザンポリマ14のビニル基は、水素化物系の架橋剤の代わりにジクミルペルオキシド(dicumyl peroxide)などの架橋剤を使用することができるという恩恵を与える。一例においては、架橋を行うために、プリセラミックシラザンポリマ14に約1重量%のジクミルペルオキシドを加える。また、1重量%以外の量を使用することにより、様々な程度の架橋を実現することができる。ジクミルペルオキシドを使用して約100℃以下の温度で架橋することにより、高温の架橋温度を使用することに伴う高いコストや不都合を避けることができる。加えて、ジクミルペルオキシドを使用して100℃以下の温度で架橋することにより、プリセラミックシラザンポリマ14からのセラミック収率が高くなり、熱分解の際の収縮率とクラックの生じ易さとが低下する。
【0019】
一例においては、プリセラミックシラザンポリマ14の分子量は、約800g/mol〜1000g/molである。他の例においては、分子量は、約874g/mol〜894g/molである。さらに他の例においては、分子量は、約884g/molである。当業者であれば、この説明が与えられれば、プリセラミックシラザンポリマ14の分子量を変えるために、架橋剤の量を変えることや、架橋温度を変えることなど、方法30のステップに変更がなされ得ることを理解されるであろう。
【0020】
次に、架橋プリセラミックシラザンポリマ14を、複合材料10(図1)の中に組み込むか、他の種類の複合材料の中に組み込むことにより、モノリシックセラミック材料またはこれの類似物を形成することができる。一例として、繊維強化材12のプライ(plies)にプリセラミックシラザンポリマ14を適用して、圧力をかけて高温で固めることにより、素地(green body)を形成する。以下に記述するように、次にこの素地を熱分解し、続いて、もう一回の熱分解のサイクルを行う前に、追加的な量のプリセラミックシラザンポリマ14を浸透させる。このサイクルは、所望の最終的な密度に達するまで続けることができる。一例においては、最終的な密度は、約2.0g/cm3であり、約45体積%の繊維強化材12となる。代替的に、真空含浸(vacuum impregration)技術など、プリセラミックポリマを所望の形状に形成する他の周知のプロセスを用いることもできる。一例として、織物のプライ(plies of fabric)にプリセラミックシラザンポリマ14を含浸させ、真空バッグ(vacuum bag)内に配置する。均等な圧力勾配を与えるために、この積層物の周りにブリーダクロス(bleeder cloth)と放出フィルムとを配置する。このバッグ内が真空(a vacuum)とされ、プリセラミックシラザンポリマ14がプライの中に吸収され、積層物が固められる。このバッグをオートクレーブの中に置いて加熱し、素地(green body)を形成する。真空バックを除去して、素地にプリセラミックシラザンポリマ14を再び浸透させ、オートクレーブの中に戻す。次に、この素地を窒素雰囲気で1000℃付近にまで加熱し、セラミックマトリクス複合材料を形成する。所望の密度に達するまで、さらに数回(例えば7〜10回)の再浸透およびオートクレーブのサイクルを繰り返すことができる。
【0021】
プリセラミックシラザンポリマ14を所定の熱分解温度で熱分解し、プリセラミックシラザンポリマ14をセラミック材料に転換する。プリセラミックポリマを熱分解するための既知の方法に従って、プリセラミックシラザンポリマ14を熱分解することができる。開示例においては、プリセラミックシラザンポリマ14からのセラミック収率は、約75〜80%となる。
【0022】
一例においては、このプリセラミックシラザンポリマ14を、窒素雰囲気において、約1℃/分の温度上昇率で約1000℃または1000℃以上にまで加熱する。このプリセラミックシラザンポリマ14を、所定の時間、ピーク温度に保つことができる。約1000℃の熱分解温度を用いることにより、プリセラミックシラザンポリマ14は、ガラス性(glassy)炭窒化ケイ素の相を経て分散された結晶性(crystalline)窒化ケイ素の相を有するセラミック材料に転換される。他の例においては、約1500℃または1500℃以上の熱分解温度を用いれば、ほぼすべてのプリセラミックシラザンポリマ14が結晶性窒化ケイ素に変化すると見込まれている。他の熱分解温度、加熱プロハイルまたはプロセス条件を用いることにより、窒化ケイ素または炭窒化ケイ素に加えて、あるいは代替的に、炭化ケイ素を生成することができる。
【0023】
図示した例に特徴の組合せが示されているが、本開示の様々な実施例の恩恵を実現するために、これらの特徴のすべてを組み合わせる必要はない。言い換えれば、本開示の実施例に従って設計されたシステムは、いずれか1つの図に示される特徴のすべて、または各図に概略的に示される部分のすべてを含む必要はない。さらに、一実施例の選択された特徴を他の実施例の選択された特徴と組み合わせることができる。
【0024】
上記の説明は、例示するためのものであり、本質を限定するものではない。当業者であれば、本開示の本質を逸脱することなく、いくつかの変更および修正がなされ得ることを理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ビニル基を有するプリセラミックシラザンポリマを含む一例としての複合材料。
【図2】プリセラミックシラザンポリマを製造する一例としての方法。
【符号の説明】
【0026】
10…複合材料
12…繊維強化材
14…プリセラミックシラザンポリマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリセラミックシラザンポリマを生成するために、ビニル基を有するシラン前駆体をアンモニアで処理すること、
を含むプリセラミックシラザンポリマを生成する方法。
【請求項2】
トリクロロビニルシランを含むように前記シラン前駆体を選択することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シラン前駆体をキャリア溶媒と混合することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリア溶媒としてのテトラヒドロフランと前記シラン前駆体との混合を、前記テトラヒドロフラン約10部に対して前記シラン前駆体約1部の混合比で行うことを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
塩化アンモニウムを含む副生成物を生成することを含む請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記プリセラミックシラザンポリマから前記塩化アンモニウムを分離するために、濾過することを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プリセラミックシラザンポリマから前記キャリア溶媒を分離するために、真空下で前記キャリア溶媒を抽出することを含む請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記プリセラミックシラザンポリマを架橋するために、約100℃または100℃以下の温度で加熱することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プリセラミックシラザンポリマのビニル基の箇所で架橋を開始するために、前記プリセラミックシラザンポリマにジクミルペルオキシドを加えることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
炭化物および窒化物の少なくとも一方を含むセラミック材料を生成するために、前記架橋プリセラミックシラザンポリマを熱分解することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ビニル基を有し、かつ、炭化物および窒化物の少なくとも一方を含むセラミック材料となるように熱分解することができるプリセラミックシラザンポリマ、を含むプリセラミックポリマの組成。
【請求項12】
前記プリセラミックシラザンポリマの分子量が、約800g/mol〜約1000g/molであることを特徴とする請求項11に記載のプリセラミックポリマの組成。
【請求項13】
前記プリセラミックシラザンポリマが、ジクミルペルオキシドを含む架橋剤を含むことを特徴とする請求項11に記載のプリセラミックポリマの組成。
【請求項14】
プリプレグを生成するために、前記プリセラミックシラザンポリマを浸透させた繊維強化材をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載のプリセラミックの組成。
【請求項15】
前記プリセラミックシラザンポリマが、エステル、芳香族炭化水素、ケトンまたはアルコールのうちの少なくとも1つを含む溶媒と混合されることを特徴とする請求項11に記載のプリセラミックポリマの組成。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−30052(P2009−30052A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182146(P2008−182146)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】