説明

プリディストータ

【課題】本発明は、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減しつつ、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成することを目的とする。
【解決手段】本発明は、非線形回路の入力信号又は予歪補償信号を時間的に連続して取り込んで生成した入力側サンプル系列を複数生成し、非線形回路の出力信号を時間的に連続して取り込んで生成した出力側サンプル系列を複数生成する信号ダンプ部123と、複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、瞬時電力の高い信号を含む入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する高電力選別部124と、選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、歪補償の基準を生成する歪補償基準生成部125と、を備えることを特徴とするプリディストータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形回路の入出力間の非線形歪を補償するプリディストータに関する。
【背景技術】
【0002】
プリディストータを利用することにより、非線形回路の非線形歪を補償することができる。特許文献1が開示するプリディストータの構成を、図1及び図2に示す。図1及び図2に示したプリディストータ1は、歪補償部11及び制御部12から構成される。
【0003】
図1に示したプリディストータ1について説明する。歪補償部11は、歪補償多項式の係数又はルックアップテーブルのテーブル値である歪補償の基準に基づいて、非線形回路2の入力信号の歪補償を実行して予歪補償信号を生成し、予歪補償信号を非線形回路2に出力する。制御部12は、歪補償部11の入力信号及び非線形回路2の出力信号に基づいて、歪補償の基準を生成し歪補償部11に出力する。
【0004】
図2に示したプリディストータ1について説明する。歪補償部11は、歪補償多項式の係数又はルックアップテーブルのテーブル値である歪補償の基準に基づいて、非線形回路2の入力信号の歪補償を実行して予歪補償信号を生成し、予歪補償信号を非線形回路2に出力する。制御部12は、予歪補償信号及び非線形回路2の出力信号に基づいて、歪補償の基準を生成し歪補償部11に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−103675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1が開示する制御部の構成を図3に示す。図3に示した制御部12は、サンプリング部121及び歪補償基準生成部122から構成される。
【0007】
サンプリング部121は、サンプリング数を可変にしつつ、非線形回路2の入力信号又は予歪補償信号をサンプリングし入力サンプリング信号を生成し、非線形回路2の出力信号をサンプリングし出力サンプリング信号を生成する。歪補償基準生成部122は、生成された入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号に基づいて、歪補償の基準を生成し歪補償部11に出力する。プリディストータ1は、サンプリング数を可変にすることにより、歪補償の高い精度及び歪補償の早い追従を両立することができる。
【0008】
ここで、非線形回路2として信号増幅器を想定したとき、入力信号の瞬時電力が高くなるほど非線形特性が大きくなるため、入力信号の瞬時電力が高くなるほど非線形歪の補償が要求される。しかし、入力信号の瞬時電力が高くなる確率は低い。例えば、WCDMAやCDMA2000などのスペクトル拡散方式、又はLTEやWiMAXなどのOFDM方式では、入力信号の電力密度の統計分布は、自由度2のχ二乗分布に近い分布である。
【0009】
よって、プリディストータ1は、サンプリング数を可変にすることのみによっては、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成することができない。すると、プリディストータ1は、時間的に連続して長時間のサンプリングを実行することにより、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成する必要がある。さらに、プリディストータ1は、非線形回路2のメモリー効果を考慮した歪補償を実行するためにも、時間的に連続して長時間のサンプリングを実行する必要がある。しかし、歪補償の基準を生成するための計算時間は、サンプリング数に比例して又はサンプリング数の二乗に比例して増加する。
【0010】
ここで、歪補償の基準を生成するための計算時間は、入力信号の電力変化に対する出力信号の反応速度に影響する。よって、電力変化の急激な携帯電話向けの基地局装置などの用途では、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減する必要がある。
【0011】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減しつつ、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、信号ダンプ部が、時間的に連続する入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を複数生成し、高電力選別部が、複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、瞬時電力の高い信号を含む入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別し、歪補償基準生成部が、選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、歪補償の基準を生成することとした。
【0013】
具体的には、本発明は、非線形回路の入出力間の非線形歪を補償するプリディストータであって、歪補償の基準に基づいて、前記非線形回路の入力信号の歪補償を実行して予歪補償信号を生成し、前記予歪補償信号を前記非線形回路に出力する歪補償部と、前記非線形回路の入力信号又は前記予歪補償信号を時間的に連続して取り込んで生成した入力側サンプル系列を複数生成し、前記非線形回路の出力信号を時間的に連続して取り込んで生成した出力側サンプル系列を複数生成する信号ダンプ部と、前記複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、各サンプル系列内の最大の瞬時電力が高い順序で入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する高電力選別部と、前記選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、前記歪補償の基準を生成し前記歪補償部に出力する歪補償基準生成部と、を備えることを特徴とするプリディストータである。
【0014】
また、本発明は、非線形回路の入出力間の非線形歪を補償するプリディストータであって、歪補償の基準に基づいて、前記非線形回路の入力信号の歪補償を実行して予歪補償信号を生成し、前記予歪補償信号を前記非線形回路に出力する歪補償部と、前記非線形回路の入力信号又は前記予歪補償信号を時間的に連続して取り込んで生成した入力側サンプル系列を複数生成し、前記非線形回路の出力信号を時間的に連続して取り込んで生成した出力側サンプル系列を複数生成する信号ダンプ部と、前記複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、各サンプル系列内の最大の瞬時電力が瞬時電力の閾値を越える入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する高電力選別部と、前記選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、前記歪補償の基準を生成し前記歪補償部に出力する歪補償基準生成部と、を備えることを特徴とするプリディストータである。
【0015】
この構成によれば、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減しつつ、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成することができる。
【0016】
また、本発明は、前記高電力選別部は、前記複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のそれぞれについて、瞬時電力の平均値で瞬時電力を規格化し、前記規格化した瞬時電力に基づいて、入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別することを特徴とするプリディストータである。
【0017】
この構成によれば、入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列内の瞬時電力の平均値が、入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列毎に時々刻々変化するときでも、適切に入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減しつつ、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成することができる。そして、時間的に連続して瞬時電力の高い信号も瞬時電力の低い信号も取り込むため、入力信号の瞬時電力が高いとき及び入力信号の瞬時電力が低いときの非線形歪を補償することができ、非線形回路のメモリー効果を考慮した歪補償を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】プリディストータの構成を示す図である。
【図2】プリディストータの構成を示す図である。
【図3】従来技術の制御部の構成を示す図である。
【図4】本発明の制御部の構成を示す図である。
【図5】本発明の制御部の処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0021】
本発明のプリディストータの構成を、図1及び図2に示す。図1及び図2に示したプリディストータ1は、歪補償部11及び制御部12から構成される。歪補償部11は、本発明及び従来技術で同一であるが、制御部12は、本発明及び従来技術で異なる。
【0022】
本発明の制御部の構成及び処理を、それぞれ図4及び図5に示す。図4に示した制御部12は、信号ダンプ部123、高電力選別部124及び歪補償基準生成部125から構成される。図5に示した丸印は、各サンプル系列内の最大の瞬時電力を示す。
【0023】
信号ダンプ部123は、非線形回路2の入力信号又は予歪補償信号を時間的に連続して取り込んで生成した入力側サンプル系列を複数生成し、非線形回路2の出力信号を時間的に連続して取り込んで生成した出力側サンプル系列を複数生成する。図5においては、信号ダンプ部123は、4096サンプル分の信号を時間的に連続して取り込むことにより、各サンプル系列S1、S2、S3を生成している。
【0024】
高電力選別部124は、一の形態として、複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、各サンプル系列内の最大の瞬時電力が高い順序で入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する。図5においては、高電力選別部124は、サンプル系列内の最大の瞬時電力が最も高いサンプル系列S2、サンプル系列内の最大の瞬時電力が次に高いサンプル系列S1の順序で、サンプル系列S2のみを選別するか、サンプル系列S2及びサンプル系列S1の両方を選別する。
【0025】
高電力選別部124は、他の形態として、複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、各サンプル系列内の最大の瞬時電力が瞬時電力の閾値を越える入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する。図5においては、高電力選別部124は、不図示の瞬時電力の閾値に基づいて、サンプル系列を選別する。
【0026】
歪補償基準生成部125は、選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、歪補償の基準を生成し歪補償部11に出力する。歪補償の基準とは、歪補償多項式の係数又はルックアップテーブルのテーブル値である。
【0027】
このように、選別された各サンプル系列は、生成された全サンプル系列より短いが、生成された全サンプル系列と同等に瞬時電力の高い信号を含む。そして、図5においては、1個のサンプル系列を選別した場合は、全てのサンプル系列を採用した場合と比較して、歪補償の基準を生成するための計算時間は、サンプリング数に比例するならば約1/3に減少し、サンプリング数の二乗に比例するならば約1/9に減少する。よって、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減しつつ、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成することができる。
【0028】
そして、時間的に連続して瞬時電力の高い信号も瞬時電力の低い信号も取り込むため、入力信号の瞬時電力が高いとき及び入力信号の瞬時電力が低いときの非線形歪を補償することができ、非線形回路2のメモリー効果を考慮した歪補償を実行することができる。
【0029】
高電力選別部124は、上述の2つの形態において、複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のそれぞれについて、瞬時電力の平均値で瞬時電力を規格化し、規格化した瞬時電力に基づいて、入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別してもよい。入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列内の瞬時電力の平均値が、入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列毎に時々刻々変化するときでも、適切に入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別することができる。
【0030】
本実施形態では、信号ダンプ部123は、図5において、サンプル系列S1の直後にサンプル系列S2を生成しており、サンプル系列S2の直後にサンプル系列S3を生成している。しかし、第1の変形例として、信号ダンプ部123は、図5において、サンプル系列S1(S2)のサンプリングタイミングを、1サンプリング期間より長い時間だけずらしたタイミングを、サンプル系列S2(S3)のサンプリングタイミングとしてもよい。そして、第2の変形例として、信号ダンプ部123は、図5において、サンプル系列S1(S2)のサンプリングタイミングを、1サンプリング期間より短い時間だけずらしたタイミングを、サンプル系列S2(S3)のサンプリングタイミングとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るプリディストータは、瞬時電力の高い入力サンプリング信号及び出力サンプリング信号を生成しつつ、電力変化の急激な携帯電話向けの基地局装置などの用途で、歪補償の基準を生成するための計算時間を削減するときに有効である。
【符号の説明】
【0032】
1:プリディストータ
2:非線形回路
11:歪補償部
12:制御部
121:サンプリング部
122:歪補償基準生成部
123:信号ダンプ部
124:高電力選別部
125:歪補償基準生成部
S1、S2、S3:サンプル系列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形回路の入出力間の非線形歪を補償するプリディストータであって、
歪補償の基準に基づいて、前記非線形回路の入力信号の歪補償を実行して予歪補償信号を生成し、前記予歪補償信号を前記非線形回路に出力する歪補償部と、
前記非線形回路の入力信号又は前記予歪補償信号を時間的に連続して取り込んで生成した入力側サンプル系列を複数生成し、前記非線形回路の出力信号を時間的に連続して取り込んで生成した出力側サンプル系列を複数生成する信号ダンプ部と、
前記複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、各サンプル系列内の最大の瞬時電力が高い順序で入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する高電力選別部と、
前記選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、前記歪補償の基準を生成し前記歪補償部に出力する歪補償基準生成部と、
を備えることを特徴とするプリディストータ。
【請求項2】
非線形回路の入出力間の非線形歪を補償するプリディストータであって、
歪補償の基準に基づいて、前記非線形回路の入力信号の歪補償を実行して予歪補償信号を生成し、前記予歪補償信号を前記非線形回路に出力する歪補償部と、
前記非線形回路の入力信号又は前記予歪補償信号を時間的に連続して取り込んで生成した入力側サンプル系列を複数生成し、前記非線形回路の出力信号を時間的に連続して取り込んで生成した出力側サンプル系列を複数生成する信号ダンプ部と、
前記複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のうち、各サンプル系列内の最大の瞬時電力が瞬時電力の閾値を越える入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別する高電力選別部と、
前記選別された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列に基づいて、前記歪補償の基準を生成し前記歪補償部に出力する歪補償基準生成部と、
を備えることを特徴とするプリディストータ。
【請求項3】
前記高電力選別部は、前記複数生成された入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列のそれぞれについて、瞬時電力の平均値で瞬時電力を規格化し、前記規格化した瞬時電力に基づいて、入力側サンプル系列及び出力側サンプル系列を選別することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のプリディストータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−231387(P2012−231387A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99526(P2011−99526)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】