説明

プリント基板の品質検査方法、プリント基板検査用マスタ基板の選定方法、及びそれらのいずれかを用いたプリント基板の製造方法、並びに、プリント基板の品質検査システム、プリント基板検査用マスタ基板の選定システム、及びそれらのいずれかを備えたプリント基板の製造システム。

【課題】高精度な検査基準を迅速に決定でき、信頼性が高く、高精度な品質を確保することが可能な、プリント基板の品質検査方法及びシステムを提供する。
【解決手段】プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板製造工程において、入力されたプリント基板製造用CAMデータを解析し(S1)、論理和を合成して輪郭化データを作成し(S2)、輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成し(S3)、近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定し(S4)、決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出して(S5)おき、プリント基板製造工程において製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々のプリント基板における所定部位に対応する部位での抵抗値を実測するとともに、実測抵抗値を基準抵抗値と比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板製造用データ(CAMデータ)に基づいてプリント基板を製造するプリント基板の製造工程において製造されるプリント基板の品質を検査するのに好適な、プリント基板の品質検査方法、プリント基板検査用マスタ基板の選定方法、及びそれらのいずれかを用いたプリント基板の製造方法、並びに、プリント基板の品質検査システム、プリント基板検査用マスタ基板の選定システム、及びそれらのいずれかを備えたプリント基板の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント基板の製造に際しては、例えば、特許文献1に記載のように、製造途中の工程において、品質の検査が行われる。
【特許文献1】特開平06−110983号公報
【0003】
このようなプリント基板の製造工程における品質検査の一つに、プリント基板の電気抵抗検査がある。プリント基板の電気抵抗検査では、検査対象であるプリント基板の電気抵抗を、マスタ基板と呼ばれる、検査基準となっているプリント基板の抵抗値(本願では、検査基準抵抗値と呼ぶこととする。)と比較し、その検査基準抵抗値からの差異の量の大小を評価することによって、製造されたプリント基板の品質の良否を判定する。
【0004】
ところで、従来、マスタ基板の選定は、プリント基板の製造工程において製造された多数のプリント基板の中から、マスタ基板の選定対象となるプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出したプリント基板の夫々について、電気抵抗値を実測し、その実測結果に基づいて、例えば、マスタ基板の選定対象となったプリント基板の実測抵抗値の平均値を求め、その平均値に最も近い実測抵抗値が検出されたプリント基板をマスタ基板として選定する、といった手法を用いて行なっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、マスタ基板の選定対象となったプリント基板の実測抵抗値の平均値を用いてマスタ基板を選定するというような手法は、多数の実測件数を蓄積して統計処理することによってはじめて基準抵抗値のバラツキを抑えることができる手法である。プリント基板の実測件数が少ないのでは、その平均値は、実測対象となるプリント基板の実測抵抗値の偏りに大きく左右され易い。このため、信頼性の高いマスタ基板を選定するには、抵抗値を実測するプリント基板のサンプル数を相当多くする必要がある。しかし、それではマスタ基板の選定を迅速に行なうことができない。
【0006】
しかも、実際に製造される個々のプリント基板は、夫々固有の構成部品自体の誤差や製造誤差を有している。このため、誤差にバラツキを持つ夫々のプリント基板の実測抵抗値の平均値を算出し、その平均値に最も近い実測抵抗値が検出されたプリント基板をマスタ基板として選定しても、そもそもマスタ基板における検査基準値となるべき基準抵抗値自体が正当なものである(即ち、理論値に最も近い値を示している)か否かを認識することはできない。その結果、検査対象のプリント基板を検査したときに、本来は不良となるべきプリント基板がマスタ基板として選定されていた場合には、実際には良品であるプリント基板が不良と判定され、不良のプリント基板が良品と判定されるなどして、品質検査の信頼性や精度を損ねる危険性がある。
従って、上述したような実測値の平均を用いて検査基準となるべきマスタ基板を選定するという従来の手法では、実際に製造される検査対象のプリント基板に対して信頼性や精度の高い品質検査を行なうことができない。
【0007】
しかも、近年、プリント基板は、飛躍的に高集積化、高密度化されており、製造されるプリント基板にはさらに高精度な品質が求められている。このため、上述したようなプリント基板の実測値の平均値を用いて選定されたマスタ基板を用いて検査対象のプリント基板を検査しても、プリント基板の品質を高精度に保つという要求に応えることができない。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、高精度な検査基準を迅速に決定でき、信頼性が高く、高精度な品質を確保することが可能な、プリント基板の品質検査方法、プリント基板検査用マスタ基板の選定方法、及びそれらのいずれかを用いたプリント基板の製造方法、並びに、プリント基板の品質検査システム、プリント基板検査用マスタ基板の選定システム、及びそれらのいずれかを備えたプリント基板の製造システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明によるプリント基板の品質検査方法は、プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質検査方法であって、入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成し、前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成し、前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定し、前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出しておき、前記プリント基板を製造する工程において製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々の前記プリント基板における前記所定部位に対応する部位での抵抗値を実測するとともに、実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較する、工程を有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明によるプリント基板検査用マスタ基板の選定方法は、プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質を検査するための基準となるマスタ基板を選定する、プリント基板検査用マスタ基板の選定方法であって、入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成し、前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成し、前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定し、前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出しておき、前記プリント基板を製造する工程において製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々の前記プリント基板における前記所定部位に対応する部位での抵抗値を実測するとともに、実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較し、前記実測抵抗値と前記基準抵抗値との差異の量が最少となるプリント基板をマスタ基板として選定することを特徴としている。
【0011】
また、本発明によるプリント基板の製造方法は、プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において、上記本発明のプリント基板の品質検査方法又はプリント基板検査用マスタ基板の選定方法を用いることを特徴としている。
【0012】
また、本発明によるプリント基板の品質検査システムは、プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質検査システムであって、入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成する輪郭化データ作成手段と、前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成する近似設計データ作成手段と、前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定する抵抗値算出用基礎データ作成手段と、前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出する基準抵抗値算出手段と、前記プリント基板を製造する工程において製造され無作為に抽出された複数枚のプリント基板の夫々における前記所定部位に対応する部位での実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較する抵抗値比較手段、を有することを特徴としている。
【0013】
また、本発明によるプリント基板検査用マスタ基板の選定システムは、プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質を検査するための基準となるマスタ基板を選定する、プリント基板検査用マスタ基板の選定システムであって、入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成する輪郭化データ作成手段と、前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成する近似設計データ作成手段と、前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定する抵抗値算出用基礎データ作成手段と、前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出する基準抵抗値算出手段と、前記プリント基板を製造する工程において製造され無作為に抽出された複数枚のプリント基板の夫々における前記所定部位に対応する部位での実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較する抵抗値比較手段と、前記実測抵抗値と前記基準抵抗値との差異の量が最少となるプリント基板をマスタ基板として選定するマスタ基板選定手段、を有することを特徴としている。
【0014】
また、本発明によるプリント基板の製造システムは、プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造するシステムにおいて、上記本発明のプリント基板の品質検査システム又は上記本発明のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高精度な検査基準を迅速に決定でき、信頼性が高く、高精度な品質を確保することが可能な、プリント基板の品質検査方法、プリント基板検査用マスタ基板の選定方法、及びそれらのいずれかを用いたプリント基板の製造方法、並びに、プリント基板の品質検査システム、プリント基板検査用マスタ基板の選定システム、及びそれらのいずれかを備えたプリント基板の製造システムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態の具体的な説明に先立ち、本発明の作用効果をより詳細に説明する。
本発明は、マスタ基板の選定に際し、従来のプリント基板の製造工程において行われてきた手法とは異なり、マスタ基板の選定対象となったプリント基板の実測値(実測抵抗値)の平均値を検査基準値(検査基準抵抗値)として用いるのではなく、プリント基板製造用データから、検査基準値(検査基準抵抗値)のもととなる基準抵抗値を算出して用いる点に大きな特徴がある。
【0017】
プリント基板製造用データから算出される基準抵抗値は、プリント基板の設計値から導かれるべき理論値にほぼ一致した値として一義的に定まる。そこで、本発明では、プリント基板製造用データからこのように一義的に定まる基準抵抗値をあらかじめ算出しておき、次いで、マスタ基板を選定するために抽出されたプリント基板の抵抗値を実測し、その実測抵抗値を基準抵抗値と比較し、基準抵抗値に最も近い実測抵抗値が検出されたプリント基板をマスタ基板として選定する。
【0018】
このようにすれば、検査対象となるプリント基板に対する品質検査(本発明では抵抗試験)において、一義的に定められたマスタ基板の抵抗値が検査基準抵抗値として用いられることになる。
このため、本発明によれば、従来のようなプリント基板の実測値の平均値を用いてマスタ基板を選定する手法において問題となっていた、マスタ基板の選定対象となる夫々のプリント基板に固有の誤差の影響を受けることなく、高精度で信頼性の高い検査基準値を持つマスタ基板を迅速に決定することができ、そして、プリント基板の製造工程において、品質検査対象のプリント基板を高精度に検査することができる。
【0019】
ところで、本発明のようにプリント基板製造用データから検査抵抗値を算出し、算出した基準抵抗値に最も近い実測抵抗値を持つプリント基板をマスタ基板として選定するという着想は、従来のプリント基板の製造工程からは容易には導出することができるものではなかった。
【0020】
というのは、プリント基板製造用データは、一般に、例えば、図4(a)に示すように、フィルムイメージのデータとして与えられ、ハッチングなどを用いて無数の線を多重化した構成で表現されるからである。このようなプリント基板製造用データを構成する無数の線から、設計上の導通経路や導通経路長などを導出するための所定の線を特定することは容易ではない。
しかも、プリント基板の製造分野においては、フィルムイメージとして表現されるべきプリント基板製造用データのデータ形式が一義的に定められておらず、多様なデータ形式で表現されていた。
このため、従来のプリント基板の製造においては、プリント基板製造用データから基準抵抗値を算出するという着想自体が存在せず、その基準抵抗値に最も近い実測抵抗値を有するプリント基板をマスタ基板として選定するというような着想は導出し得なかった。
【0021】
しかるに、本発明では、まず、異なる様式で表現され得るプリント基板製造用データに共通のデータを得るべく、プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成するようにした。即ち、本発明では、CAMデータとしてハッチング等、複数の線で多重化して表現される領域のデータの論理和をとるようにする。このようにすれば、例えば、図4(a)に示すような複数の線で多重化して表現される製造データから、図4(b)に示すような基板上における所定パターンを輪郭化したデータが得られる。また、CAMデータとして多様な表現形式で構成されたデータであっても、論理和をとって輪郭化したデータにすれば、表現形式が統一化されたデータとして扱うことができる。
なお、本発明では、このようにして求めた基板上における所定パターンの輪郭のデータを輪郭化データと定義することとする。
【0022】
次いで、本発明では、輪郭化データを設計データに近似させた近似設計データを作成するようにした。
次いで、近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定するようにした。例えば、輪郭化データにおける半円形状に表現された複数の領域については、その半円領域の中心点を求める。そして、それらの中心点を結ぶことで、設計データにおける導通経路や導通経路の長さが求まる。また、その各導通経路における直線部分に平行な輪郭の幅から各導通経路における線幅が求まる。このようにすれば、例えば、図4(c)に示すように、導通経路を決定することができる。
【0023】
次いで、本発明では、決定した線幅や導通経路(線の長さを含む)に、別途、プリント基板を構成するために入力される製造情報(例えば、導体厚、ビア径、ビア数、層間厚など)や素材情報(例えば、材質、導電率、抵抗係数、基準断面積当たりの抵抗値など)を付加することにより、所定測定部位での抵抗値を算出するようにした(このようにして算出した抵抗値を、本発明では、基準抵抗値と定義することとする)。
基準抵抗値は、プリント基板製造用データ(CAMデータ)を加工して、設計データに近似させて近似設計データを作成し、その近似設計データを用いて算出されるものであるから、理論値として一義的に定まる。
【0024】
次いで、本発明では、製造工程において製造されるプリント基板の中からマスタ基板を選定するために用いるプリント基板を無作為に複数枚抽出するようにした。次いで、抽出したプリント基板における基準抵抗値の算出対象となった導通経路の所定部位(抵抗を測定する検査点)に対応する部位における抵抗を実測するようにした。次いで、実測抵抗値を算出した基準抵抗値と比較して、基準抵抗値との差異の量を検出するようにした。
また、実測抵抗値と基準抵抗値との差異の量の検出は、無作為抽出した各プリント基板について行なうようにした。
そして、基準抵抗値との差異が最も少ない抵抗値が実測されたプリント基板をマスタ基板として選定し、このマスタ基板の実測抵抗値を検査基準抵抗値とするようにした。
【0025】
以後のプリント基板の製造工程における電気抵抗検査では、製造された検査対象となる各プリント基板の抵抗値を実測してマスタ基板の検査基準抵抗値と比較し、マスタ基板の検査基準抵抗値との差異の量に応じてプリント基板品の品質の良否を判定するようにする。
【0026】
このため、本発明によれば、従来のプリント基板製造工程おける品質検査とは異なり、マスタ基板の選定対象となるプリント基板ごとに異なる誤差の影響を受けることなく、理論値に極めて近く精度の高い検査基準を迅速に決定することができ、実際に製造される検査対象のプリント基板に対して、信頼性が高く、高精度な品質検査を行なうことができる。
【0027】
なお、検査対象のプリント基板における品質の良否の基準となる、マスタ基板の検査基準抵抗値からの差異の量の許容範囲は、必要とされる製造の精度に応じて任意に定めればよい。
【0028】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態にかかるプリント基板の品質検査システム又はプリント基板検査用マスタ基板の選定システムが備わる、プリント基板の製造システムの概略構成、及びプリント基板の設計、製造工程の概略的な流れを示すフローチャートである。図2は本発明の第一実施形態にかかるプリント基板検査用マスタ基板の選定システムの概略構成を示すブロック図である。図3は図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムの説明図であり、(a)は検査基準値作成処理部の構成を示すブロック図、(b)はプリント基板検査用マスタ基板の基準抵抗値の作成手順を示すブロック図である。図4は図3のプリント基板検査用マスタ基板の基準抵抗値の作成過程における製造用データの変遷を示す状態説明図であって、(a)は製造用データ(CAMデータ)入力時、(b)は輪郭化データ作成時、(c)は基準抵抗値算出用データ作成時のデータイメージをそれぞれ示している。図5は図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムにおけるプリント基板検査用マスタ基板選定処理部の構成を示すブロック図である。図6は図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムにおけるプリント基板検査用マスタ基板の選定手順を示すブロック図である。図7は図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムを備えた、図1に示したプリント基板の製造システムにおけるプリント基板の検査手順を示すフローチャートである。
【0029】
本発明の第一実施形態にかかるプリント基板の品質検査システム又はプリント基板検査用マスタ基板の選定システムが備えた、プリント基板の製造システムは、工程順に、設計工程部1と、編集工程部2と、プリント基板製造工程部3と、製造基板検査工程部4と、部品実装工程部5と、実装基板検査工程部6を備えている。
設計工程部1では、システム設計、アーキテクチャ設計、回路設計、配線設計などのための設計データを作成する。また、設計データに基づいてプリント基板に部品を実装するための実装データを作成する。
編集工程部2では、DRC(デザインルールチェック)、MRC(製造工程ルールチェック)、パターン補正、面付けなどのため製造データをCAMデータとして編集する。
プリント基板製造工程部3では、編集工程2において編集した製造データに基づいて、フォト作画、パターン作成、積層プレス、穴あけ、メッキなどを行ってプリント基板を製造する。また、製造されたプリント基板を検査するための検査データを作成する。
製造基板検査工程部4では、製造されたプリント基板に対し、ベアボード検査、導通検査、電気抵抗検査、マスタ基板比較検査、外観検査などの検査を行なう。
部品実装工程部5では、製造基板検査工程部4での検査を合格したプリント基板に、設計工程部1で作成した実装データに基づいてプリント基板への部品の実装などを行なう。また、設計データ、実装データに基づいて実装基板検査データを作成する。
実装基板検査工程部6では、実装基板検査データに基づいた実装基板検査やファンクション検査などを行なう。
実装基板検査工程部6を合格することで、所定の製造品質基準を満たした実装プリント基板が完成する。
【0030】
ここで、第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムは、製造基板検査工程部4で行なうプリント基板の品質検査のうち、電気抵抗検査に用いられる。ここでは、図2に示すようなプリント基板検査用マスタ基板の選定システム10を備えている。
【0031】
プリント基板検査用マスタ基板の選定システム10は、製造用データ(CAMデータ)入力処理部20と、検査位置情報作成処理部30と、プリント基板サンプリング検査処理部40と相俟って、製造基板検査工程4における電気抵抗検査用の品質検査システムを構成している。
製造用データ入力処理部20は、プリント基板の設計データを編集することによって作成されたガーバーデータを入力、記憶可能に構成されている。
検査位置情報作成処理部30は、製造用データ入力処理部20で入力された製造用データからプリント基板の抵抗値を測定するための測定位置(検査点)を検査位置情報として抽出、作成するように構成されている。
プリント基板サンプリング検査処理部40は、プリント基板製造工程部3を介して製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々のプリント基板における、検査位置情報作成処理部30で作成した測定位置(検査点)に対応する部位での抵抗値を実測する検査装置で構成されている。
【0032】
プリント基板検査用マスタ基板の選定システム10は、製造情報・素材特性情報入力処理部11と、検査基準値作成処理部12と、マスタ基板選定処理部13を有している。
【0033】
製造情報・素材特性情報入力処理部11は、プリント基板を構成するために必要な製造情報(例えば、導体厚、ビア径、ビア数、層間厚など)や素材情報(例えば、材質、導電率、抵抗係数、基準断面積当たりの抵抗値など)を入力でき、且つ入力されたデータを記憶可能に構成されている。
【0034】
検査基準値作成処理部12は、図3(a)に示すように、輪郭化データ作成手段12aと、近似設計データ作成手段12bと、抵抗値算出用基礎データ作成手段12cと、基準抵抗値算出手段12dを有して構成されている。
【0035】
輪郭化データ作成手段12aは、図2に示した製造用データ(CAMデータ)入力処理部20において入力された製造データを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成するようにプログラミングされたソフトウェアで構成されている。
近似設計データ作成手段12bは、輪郭化データ作成手段12aで作成された輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成するようにプログラミングされたソフトウェアで構成されている。
抵抗値算出用基礎データ作成手段12cは、近似設計データに基づいて抵抗値算出用の(導通部の)線幅や経路を決定するようにプログラミングされたソフトウェアで構成されている。
基準抵抗値算出手段12dは、抵抗値算出用基礎データ作成手段12cを介して決定された抵抗値算出用の(導通部の)線幅や経路の情報に、製造情報・素材特性情報入力処理部11を介して入力された製造情報や素材情報を付加してプリント基板の所定部位(抵抗を測定する検査点)での基準抵抗値を算出するようにプログラミングされたソフトウェアで構成されている。
【0036】
マスタ基板選定処理部13は、図5に示すように、抵抗値比較手段13aと、マスタ基板選定手段13bを有して構成されている。
【0037】
抵抗値比較手段13aは、図2に示したプリント基板サンプリング検査処理部40を介して実測された実測抵抗値を、検査基準値作成処理部12で作成した基準抵抗値と比較し、その差異の量を検出するようにプログラミングされたソフトウェアで構成されている。
マスタ基板選定手段13bは、抵抗値比較手段13aを介して比較した実測抵抗値と基準抵抗値との差異の量が最少となるプリント基板をマスタ基板として選定するようにプログラミングされたソフトウェアで構成されている。
【0038】
このように構成された第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムを用いた、プリント基板検査用マスタ基板の選定は次のようにして行なう。
製造用データ(CAMデータ)入力処理部20に入力された製造用データは、例えば、図4(a)に示すように、フィルムイメージのデータとして与えられ、ハッチングなどを用いて無数の線を多重化した構成で表現されている。
そこで、まず、検査基準値作成処理部12の輪郭化データ作成手段12aを介して、図3(b)に示すように、製造用データ入力処理部20に入力されたプリント基板製造用CAMデータを解析し(ステップS1)、論理和を合成して輪郭化データを作成する(ステップS2)。輪郭化データは、例えば、図4(b)に示すように、複数の線で多重化して表現される製造データから基板上における所定パターンを輪郭化したデータとして表現される。輪郭化したデータにすると、CAMデータとして多様な表現形式で構成されたデータの如何にかかわらず、表現形式を統一化することができる。
【0039】
次いで、図3(a)に示した検査基準値作成処理部12の近似設計データ作成手段12bを介して、図3(b)に示すように、輪郭化データ作成手段12aで作成された輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成する(ステップS3)。
【0040】
次いで、図3(a)に示した抵抗値算出用基礎データ作成手段12cを介して、図3(b)に示すように、近似設計データに基づいて抵抗値算出用の(導通部の)線幅や経路を決定する(ステップS4)。例えば、輪郭化データにおける半円形状に表現された複数の領域については、その半円領域の中心点を求める。そして、それらの中心点を結ぶことで、設計データにおける導通経路や導通経路の長さが求まる。また、その各導通経路における直線部分に平行な輪郭の幅から各導通経路における線幅が求まる。このようにして、例えば、図4(c)に示すように、導通経路が決定される。この導通経路が決定されたデータが基準抵抗値算出用の基礎データとなる。
【0041】
次いで、図3(a)に示した基準抵抗値算出手段12dを介して、図3(b)に示すように、基準抵抗値算出用の基礎データの線幅や導通経路(線の長さを含む)に、別途、製造情報・素材特性情報入力処理部11を介して入力されたプリント基板を構成するために必要な製造情報(例えば、導体厚、ビア径、ビア数、層間厚など)や素材情報(例えば、材質、導電率、抵抗係数、基準断面積当たりの抵抗値など)を付加して、検査位置情報作成処理部30を介して抽出、作成され、或いは、製造用データから直接求まる所定測定部位(プリント基板の抵抗値を測定するための測定位置(検査点))での抵抗値(即ち、基準抵抗値)を算出する(ステップS5)。この基準抵抗値は、プリント基板製造用データ(CAMデータ)を加工して、設計データに近似させて近似設計データを作成し、その近似設計データを用いて算出されるものであるから、理論値として一義的に定まる。
【0042】
次いで、例えば、図6に示すように、プリント基板サンプリング検査処理部40を介して、プリント基板製造工程において製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々のプリント基板において、図2に示した検査位置情報作成処理部30で作成した測定位置に対応する部位での抵抗値を実測する(ステップS11)とともに、図6に示すように、マスタ基板選定処理部13を介して、実測抵抗値と基準抵抗値を比較することによってマスタ基板を選定する(ステップS12〜ステップS17)。
【0043】
詳しくは、マスタ基板選定処理部13では、抵抗値比較手段13aを介して、プリント基板サンプリング検査処理部40を介して実測された実測抵抗値を基準抵抗値と比較し、その差異の量を検出する(ステップS12)。
次いで、マスタ基板選定手段13bを介して、抵抗値比較手段13aを介して比較した実測抵抗値と基準抵抗値との差異の量が最少となるプリント基板を暫定マスタ基板として選定する(ステップS13〜ステップS15)。なお、次のプリント基板の実測抵抗値と基準抵抗値との差異の量がマスタ基板として選定したプリント基板の実測抵抗値と基準抵抗値との差異の量よりも小さい場合は、次のプリント基板を暫定マスタ基板として選定する。
【0044】
このようにして、プリント基板サンプリング検査処理部40を介して、抽出された全てのプリント基板について、抵抗値を実測するとともに、マスタ基板選定処理部13の抵抗値比較手段13a、マスタ基板選定手段13bを介して、実測抵抗値を基準抵抗値と比較し、暫定マスタ基板の選定を繰り返す(ステップS11〜ステップS15)。
全てのマスタ基板選定対象のプリント基板について実測抵抗値を基準抵抗値と比較し終えたときの暫定マスタ基板が検査基準となるマスタ基板として最終的に選定される(ステップS16、S17)。そして、最終的に選定されたマスタ基板の実測抵抗値が検査基準抵抗値となる。
【0045】
以後のプリント基板の製造工程における電気抵抗検査では、例えば、図7に示すように、製造された検査対象のプリント基板の抵抗値を実測して(ステップS21)、マスタ基板の検査基準抵抗値と比較し、マスタ基板の検査基準抵抗値との差異の量に応じて製品の品質の良否を判定するようにする(ステップS22)。この検査を製造した全てのプリント基板に対して行なう(ステップS23、ステップS21、ステップS22)。
【0046】
従って、第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定方法及びシステム、プリント基板の品質検査方法及びシステム、及びこれを用いたプリント基板製造方法及び製造システムによれば、従来のプリント基板製造工程おける品質検査とは異なり、マスタ基板の選定対象となるプリント基板ごとに異なる誤差の影響を受けることなく、理論値に極めて近く精度の高い検査基準を迅速に得ることができ、実際に製造される検査対象のプリント基板に対して、信頼性が高く、高精度な品質検査を行なうことができる。
【0047】
なお、本発明の他の実施形態にかかるプリント基板の品質検査システムは、図9に示すように、図2に示した製造基板検査工程部4における電気抵抗検査用の品質検査システムにおいて、プリント基板検査用マスタ基板の選定システム10におけるマスタ基板選定処理部13を備えない構成としてもよい。
このように構成しても、製造情報・素材特性情報入力処理部11と、検査基準値作成処理部12を介して、製造用データ(CAMデータ)入力処理部20に入力された製造用データから基準抵抗値を算出することができる。
このような構成は、プリント基板の製造枚数が少量であって、マスタ基板の選定が困難な場合に有効である。即ち、算出された基準抵抗値をマスタ基板の選定に用いずに、図9に示すように、製造されたプリント基板に対する品質の良否の判定に利用することができる(ステップS31〜ステップS33)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、高精度で高品質なプリント基板が求められる分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第一実施形態にかかるプリント基板の品質検査システム又はプリント基板検査用マスタ基板の選定システムが備わる、プリント基板の製造システムの概略構成、及びプリント基板の設計、製造工程の概略的な流れを示すフローチャートである。
【図2】本発明の第一実施形態にかかるプリント基板検査用マスタ基板の選定システムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムの説明図であり、(a)は検査基準値作成処理部の構成を示すブロック図、(b)はプリント基板検査用マスタ基板の基準抵抗値の作成手順を示すブロック図である。
【図4】図3のプリント基板検査用マスタ基板の基準抵抗値の作成過程における製造用データの変遷を示す状態説明図であって、(a)は製造用データ(CAMデータ)入力時、(b)は輪郭化データ作成時、(c)は基準抵抗値算出用データ作成時のデータイメージをそれぞれ示している。
【図5】図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムにおけるプリント基板検査用マスタ基板選定処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムにおけるプリント基板検査用マスタ基板の選定手順を示すブロック図である。
【図7】図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムを備えた、図1に示したプリント基板の製造システムにおけるプリント基板の検査手順を示すフローチャートである。
【図8】図2に示した第一実施形態のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムの変形例にかかる、プリント基板の品質検査システムの概略構成を示すブロック図である。
【図9】図8に示したプリント基板の品質検査システムを備えた、図1に示したプリント基板の製造システムにおけるプリント基板の検査手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 設計工程部
2 編集工程部
3 プリント基板製造工程部
4 製造基板検査工程部
5 部品実装工程部
6 実装基板検査工程部
10 プリント基板検査用マスタ基板の選定システム
11 製造情報・素材特性情報入力処理部
12 検査基準値作成処理部
12a 輪郭化データ作成手段
12b 近似設計データ作成手段
12c 抵抗値算出用基礎データ作成手段
12d 基準抵抗値算出手段
13 マスタ基板選定処理部
13a 抵抗値比較手段
13b マスタ基板選定手段
20 製造用データ入力処理部
30 検査位置情報作成処理部
40 プリント基板サンプリング検査処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質検査方法であって、
入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成し、
前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成し、
前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定し、
前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出しておき、
前記プリント基板を製造する工程において製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々の前記プリント基板における前記所定部位に対応する部位での抵抗値を実測するとともに、実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較する、
工程を有することを特徴とするプリント基板の品質検査方法。
【請求項2】
プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質を検査するための基準となるマスタ基板を選定する、プリント基板検査用マスタ基板の選定方法であって、
入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成し、
前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成し、
前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定し、
前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出しておき、
前記プリント基板を製造する工程において製造されたプリント基板を無作為に複数枚抽出し、抽出した夫々の前記プリント基板における前記所定部位に対応する部位での抵抗値を実測するとともに、実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較し、
前記実測抵抗値と前記基準抵抗値との差異の量が最少となるプリント基板をマスタ基板として選定することを特徴とするプリント基板検査用マスタ基板の選定方法。
【請求項3】
プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において、
請求項1に記載のプリント基板の品質検査方法又は請求項2に記載のプリント基板検査用マスタ基板の選定方法を用いることを特徴とするプリント基板の製造方法。
【請求項4】
プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質検査システムであって、
入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成する輪郭化データ作成手段と、
前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成する近似設計データ作成手段と、
前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定する抵抗値算出用基礎データ作成手段と、
前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出する基準抵抗値算出手段と、
前記プリント基板を製造する工程において製造され無作為に抽出された複数枚のプリント基板の夫々における前記所定部位に対応する部位での実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較する抵抗値比較手段、
を有することを特徴とするプリント基板の品質検査システム。
【請求項5】
プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造する工程において用いる、プリント基板の品質を検査するための基準となるマスタ基板を選定する、プリント基板検査用マスタ基板の選定システムであって、
入力された前記プリント基板製造用CAMデータを解析し、論理和を合成して輪郭化データを作成する輪郭化データ作成手段と、
前記輪郭化データを設計データに近似させて近似設計データを作成する近似設計データ作成手段と、
前記近似設計データに基づいて抵抗値算出用の線幅や経路を決定する抵抗値算出用基礎データ作成手段と、
前記決定した線幅や経路に、製造情報や素材情報を付加して所定部位での基準抵抗値を算出する基準抵抗値算出手段と、
前記プリント基板を製造する工程において製造され無作為に抽出された複数枚のプリント基板の夫々における前記所定部位に対応する部位での実測抵抗値を前記基準抵抗値と比較する抵抗値比較手段と、
前記実測抵抗値と前記基準抵抗値との差異の量が最少となるプリント基板をマスタ基板として選定するマスタ基板選定手段、
を有することを特徴とするプリント基板検査用マスタ基板の選定システム。
【請求項6】
プリント基板製造用CAMデータに基づいてプリント基板を製造するシステムにおいて、
請求項4に記載のプリント基板の品質検査システム又は請求項5に記載のプリント基板検査用マスタ基板の選定システムを備えたことを特徴とするプリント基板の製造システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−48957(P2007−48957A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231921(P2005−231921)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000104618)キャビン工業株式会社 (6)