説明

プレスラインのモーション位相調整方法及び装置

【課題】プレスラインの構成要素であるプレスの夫々及び搬送装置の夫々である各装置で、それぞれに個別条件で設定されたモーションを利用し、かつプレスラインの前期各装置の相互の干渉を回避しつつ、ワークの品質を維持しながらライン生産効率が最も高くなる様にプレスラインを制御する方法及び装置を提供することにある。
【解決手段】
複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置のモーションデータと、該モーションデータに従い動作する前記各装置、ワーク及び金型の形状データとを用いて干渉チェックを行い、前記各装置のモーションの位相調整を行う

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のプレスと複数のプレス間でワークを搬送する複数の搬送装置で構成されるプレスラインのモーション位相調整方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスラインの制御方法としては各スライドの下死点到達タイミングを上流側から下流側に順次位相差を設けてフィードユニットの駆動スピードを上げることなく生産性を向上させる方式が提案されている。(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−74476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来例の特許文献1は各スライドの下死点到達タイミングの位相差の設定は「統括制御手段で設定する」となっているが、位相差設定値計算方法に関する具体的手法については開示されておらず他に先行事例もない。位相差を設定して生産性を上げつつ金型と搬送装置の干渉を回避することは、プレスモーション、搬送装置モーション及び金型形状、ワーク形状、搬送装置の動作部形状等の様々な要素を考慮する必要があり、実施するに困難な作業である。
【0004】
本発明は前記課題に対してなされたもので、その目的とするところはプレスラインの構成要素であるプレスの夫々及び搬送装置の夫々である各装置で、それぞれに個別条件で設定されたモーションを利用し、かつプレスラインの前記各装置の相互の干渉を回避しつつ、ワークの品質を維持しながらライン生産効率が最も高くなる様にプレスラインを制御する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、複数のプレスと、プレスで加工されるワークを複数のプレス間で搬送するために設けられた複数の搬送装置で構成されるプレスラインのモーション位相調整方法であって、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置のモーションデータと、モーションデータに従い動作する各装置、ワーク及び金型の形状データとを用いて干渉チェックを行い、前記各装置、ワーク及び金型の相互の干渉を回避し且つライン生産効率が最も高くなる様にプレスモーション及び搬送装置モーションの位相調整を行うことを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、請求項1のプレスラインのモーション位相調整方法において、非プレス加工域に於けるプレスモーションを位相調整することを特徴とする。ここでプレス加工開始位置からプレス加工終了位置までの間がプレスモーションに於けるプレス加工域であり、前記加工終了位置を過ぎた位置から前記加工開始位置の手前までの位置が非プレス加工域である。
【0007】
本発明の請求項3に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、請求項1または請求項2のプレスラインのモーション位相調整方法において、非ワーク搬送域に於ける搬送装置モーションの位相調整をすることを特徴とする。ここで搬送開始位置から搬送終了位置までの間が搬送装置モーションに於けるワーク搬送域であり、前記搬送終了位置を過ぎた位置から前記搬送開始位置の手前までの位置が非ワーク搬送域である。
【0008】
本発明の請求項4に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、請求項1から請求項3の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、プレスラインで使用する前記各装置のモーションデータの中で、最も遅いモーションサイクルに前記各装置のモーションサイクルを合わせ、ラインサイクルとすることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項5に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、請求項1から請求項3の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、前記各装置のモーションサイクルを任意のラインサイクルに位相調整することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項6に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、請求項1から請求項5の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、プレスラインのモーション位相調整状態を画面上に図またはデータとして出力することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項7に係るプレスラインのモーション位相調整方法は、請求項1から請求項6の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、データ通信手段又はデータ設定手段から入力されるプレスラインで使用する全てのプレスと搬送装置のモーションデータ、並びにプレスラインで使用する全ての前記各装置、ワーク及び金型の形状データを把握できるコントローラ内でモーション位相調整計算を実施することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項8に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、複数のプレスと、複数のプレス間でプレスにより加工されるワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置で構成されるプレスラインのモーション位相調整装置であって、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置のモーションデータと、該モーションデータに従い動作する各装置、ワーク及び金型の形状データとを用いて干渉チェックを行い、前記各装置、ワーク及び金型の相互の干渉を回避し且つライン生産効率が最も高くなる様にプレスモーション及び搬送装置モーションの位相調整を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項9に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、請求項8のプレスラインのモーション位相調整装置において、非プレス加工域に於けるプレスモーションの位相調整を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項10に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、請求項8または請求項9のプレスラインのモーション位相調整装置において、非ワーク搬送域に於ける搬送装置モーションの位相調整を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項11に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、請求項8から請求項10の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、プレスラインで使用する前記各装置のモーションデータの中で、最も遅いモーションサイクルに前記各装置のモーションサイクルを合わせることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項12に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、請求項8から請求項10の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、前記各装置のモーションサイクルを任意のラインサイクルに合わせることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項13に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、請求項8から請求項12の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、プレスライン位相調整状態を画面上に図又はデータとして出力することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項14に係るプレスラインのモーション位相調整装置は、請求項8から請求項13の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、データ通信手段又はデータ設定手段から入力されるプレスラインで使用する全てのプレスと搬送装置のモーションデータ、並びにプレスラインで使用する全ての前記各装置、ワーク及び金型の形状データを把握できるコントローラ内でモーション位相調整計算を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1及び8の発明によれば、プレスラインの構成要素であるプレスの夫々及び搬送装置の夫々である各装置でそれぞれに個別条件で設定されたモーションを利用し、かつプレスラインの前記各装置の相互の干渉、搬送装置と金型の干渉、ワークとプレスの干渉、ワークと金型の干渉およびワーク同士の干渉を回避しつつライン生産効率が最も高くなる位相調整結果を短時間の調整作業で得ることができる。
【0020】
請求項2及び9の発明によれば、プレスラインのモーション位相調整を非プレス加工域で行なうので、プレスラインのモーション位相調整がプレス加工域のプレスモーションに影響を及ぼすことがなく、請求項1の効果に加えてプレス成形品の品質の安定性をも確保することができる。
【0021】
請求項3及び10の発明によれば、プレスラインのモーション位相調整を非ワーク搬送域で行なうので、プレスラインのモーション位相調整がワーク搬送域の搬送装置モーションに影響を及ぼすことがなく、請求項1および2の効果に加えてワーク搬送の安定性をも確保することができる。
【0022】
請求項4及び11の発明によれば、プレスラインで使用する前記各装置のモーションデータの中で、最も遅いモーションサイクルに前記各装置のモーションサイクルを合わせるので、請求項1から3の効果に加えてプレスライン内にワークが滞留することがない。
【0023】
請求項5及び12の発明によれば、前記各装置のモーションサイクルを任意のラインサイクルに合わせて運転することが可能となるので、請求項1から4の効果に加え、プレスラインのモーション位相調整の結果求められるラインサイクルよりも遅く、例えば、試運転調整時の低速運転動作にも対応できる。
【0024】
請求項6及び13の発明によれば、プレスラインが実際に生産動作を開始する前にどれだけのライン生産速度で運転できるかを、あらかじめ画面上でシミュレーションすることができるので、請求項1から5の効果に加えてプレスラインの生産性を予測することが出来る。
【0025】
請求項7及び14の発明によれば、パーソナルコンピュータ上でプレスラインのモーション位相調整計算を実施し画面上でシミュレーション結果を得ることにより、プレスライン設計時にプレス配置間隔、ワーク搬送高さ、金型形状、プレスモーション、搬送装置モーション等のライン構成要素がプレスライン生産性にどのような影響を及ぼすかをも予測することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4に基づいて説明する。
【0027】
図1は本発明の適用例としてのプレスラインを示す。ワーク6は上流プレス1のプレスモーション7に於けるプレス加工域で、上流プレス1に取り付けられた上金型2と下金型3によりプレス加工された後、搬送装置5により下流プレス10に搬送され、下流プレス10のプレスモーション13に於けるプレス加工域で、下流プレス10に取り付けられた上金型11と下金型12により新たなプレス加工を施されてゆく。尚、ここでは上流プレス1へワーク6を搬入する搬送装置と下流プレス10からワークを搬出する搬送装置は図示されていない。上流プレス1はプレス用コントローラP−1で、下流プレス10はプレス用コントローラP−2で、搬送装置5は搬送用コントローラT−1で夫々制御され、これらのコントローラは統括制御用上位コントローラ14で統括制御される。また、統括制御用コントローラ14にはその制御内容を表示したり、制御内容の操作をするための表示操作装置15が接続され、さらに統括制御用コントローラ14はパーソナルコンピュータ16に接続される。上流プレス1、下流プレス10、搬送装置5、表示操作装置15等の装置や各コントローラ間は有線、無線などによって接続される。また、表示操作装置15は統括制御用コンローラ14内に設けられてもよく、またコントローラP−1, P−2, T−1と統括制御用コンローラ14は別コントローラではなく同一のコントローラとしても良い。これらのコントローラによって上流プレス1のプレスモーション7、搬送装置5の搬送モーション8及び下流プレス10のプレスモーション13が制御される。
【0028】
プレスモーションを自由に制御し、且つワーク搬送を高速に、また連続的に行うには、スライド4や金型と搬送装置、又はスライド4や金型と搬送中のワークが接触しない、すなわち干渉しないようにプレスや搬送装置のモーションを制御する必要がある。以下このモーション設定を図2〜4を用いて説明する。
【0029】
図2は本発明の説明図でプレスラインの統括制御用上位コントローラ14の内部に設置した仮想動作空間を表現した一例である。このプレスラインは上流プレス20から搬出したワークを下流プレス21に搬送し搬入する搬送装置23と、下流プレス21からワークを搬出する搬送装置24から構成される。図2の下の線図はこれらのプレスと搬送装置の時間に対するモーションを示す。この例では仮想動作空間は横軸が時間の経過を表し、縦軸は搬送装置軌跡に関しては送り方向の距離を表し、プレスモーションを表す上金型の最下点軌跡に関してはプレススライド高さ方向の距離を表現している。
【0030】
搬送装置がワークを把持しているときの搬送装置軌跡については、搬送されるワークの送り方向の中心の軌跡を考慮するのみでは干渉の有無を判断するに不十分であり、プレスからワークを搬出する際に下降してくる上金型との干渉が問題となるワーク後端の軌跡と、プレスにワークを搬入する際に上昇中の上金型との干渉が問題となるワーク前端の軌跡の両方を考慮に入れる必要がある。
ここで、ワークが搬送される方向のワーク端がワーク前端であり、その逆の方向のワーク端がワーク後端である。
また搬送装置がワークを把持していないときの搬送装置軌跡については、搬送装置がワークを下金型上へ搬入後、金型内から離脱する際に下降してくる上金型との干渉が問題となる搬送装置後端の軌跡と、搬送装置が下金型上のワークを把持するために金型内へ進入する際に上昇中の上金型との干渉が問題となる搬送装置前端の軌跡の両方を考慮に入れる必要がある。
ここで、ワークが搬送される方向の搬送装置端が搬送装置前端であり、その逆の方向の搬送装置端が搬送装置後端である。
従って、図2の仮想動作空間に配置した搬送装置軌跡2Bは、
搬送装置がワークを把持している時は搬送装置前端と後端、及びワーク前端と後端の双方を考慮して求められるワーク搬送幅25を持った2本の軌跡となる。一方搬送装置がワークを把持していない時は搬送装置前端と後端を考慮して求められる搬送装置幅26を持った2本の軌跡となる。搬送装置軌跡2Bは搬送モーションに従い搬送方向におけるプレス中心点へ接近・離脱を繰り返す。図2では搬送装置23の搬送モーション軌跡を搬送装置軌跡2B、搬送装置24の搬送モーション軌跡を搬送装置軌跡2Cとして表す。
【0031】
次に、上流プレス20のプレスモーションに従い動作する上金型の最下点位置を図2の仮想動作空間に配置したものが上金型の最下点軌跡29である。図2では上流プレス20の最下点軌跡を29、下流プレス21の最下点軌跡を2Aとして表す。
【0032】
これらのモーション線図を設定するに当たり、干渉を避けるために、プレス、搬送装置、金型、ワークの形状やそれらが移動し、干渉が起きる可能性のある領域を考慮する必要がある。図3は金型と搬送装置の干渉領域を説明した図である。プレス30に材料を搬入する搬送装置が占有し、その領域内ではプレス30に材料を搬入する搬送装置との干渉が避けられない領域を搬送装置搬入干渉ボックス31、プレス30からワークを搬出する搬送装置が占有し、その領域内ではプレス30からワークを搬出する搬送装置との干渉が避けられない領域を搬送装置搬出干渉ボックス32とし、プレスのスライドに取り付けられた上金型が上下にストロークする事により占有する領域を含めた、金型の占有する領域をプレス干渉ボックス33とする。
【0033】
次に図4を用いて図2の各プレスと各搬送装置のモーション位相調整手順を説明する。
【0034】
プレスラインの位相調整第1手順40として、プレスラインを構成する複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置夫々の個別条件で設定されたモーション、すなわち前記各装置が単独で動作した場合の理想的なモーションを算出しておく。理想的なモーションとは、例えばプレス加工域のプレスモーションにおいては、ワークの成形を欠陥なく精度良く行なうに適したモーション、ワーク搬送域の搬送装置モーションにおいては、最も高速に安定してワークを搬送できるモーションのことを言う。
【0035】
プレスライン位相調整第2手順41として、プレスラインで使用される全てのプレスと搬送装置を単独で動作した場合の理想的なモーションの中で最も遅いモーションサイクルをラインサイクルとする。ラインサイクルとはプレスラインで使用される全てのプレスと搬送装置を同期運転する際の運転サイクルのことである。
【0036】
プレスライン位相調整第3手順42として、モーションデータの時間軸を伸長させて、プレスラインで使用される全てのプレスと搬送装置のモーションをラインサイクルと一致させる。
【0037】
プレスライン位相調整第4手順43として、プレスの前と後に配置された夫々の搬送装置の位相調整値を求める。図2の仮想動作空間に配置された下流プレス21の下流側に配置された搬送装置24の、下流プレスからワークを搬出する際の搬送装置軌跡2Cが下流プレス21の中心から離脱する斜辺と、上流プレス20から下流プレス21へワークを搬送する搬送装置23の、上流プレスから搬出したワークを下流プレスへ搬入する際の搬送装置軌跡2Bが下流プレス21の中心へ接近する斜辺とが接するように搬送装置23と24の位相を相互に調整する。ここで下流プレス21の中心から離脱する斜辺とはワークまたはワークを把持する搬送装置の搬送方向後端のモーションを示す線図上にあり、下流プレス21の中心へ接近する斜辺とはワークまたはワークを把持する搬送装置の搬送方向前端のモーションを示す線図上にある。搬送装置軌跡2Bと2Cとでこのように調整した結果を図2の搬送装置最接近点2Dで示す。なお、ここでは2つの軌跡の斜辺が互いに接するように調整したが、搬送装置23や24の制御誤差等に起因する干渉を避けるために斜辺同士の間隔が空くように調整しても良い。
【0038】
プレスライン位相調整第5手順44として、プレスモーションで動作する上金型と搬送装置との干渉に着目する。図2でプレスが上死点から下死点に下降する際の上金型の最下点軌跡の斜辺と、ワークをプレスに搬入後プレスから離脱する際の搬送装置が占有する領域である搬送装置搬入干渉ボックスの上面高さ2Hとの交点が搬入時の搬送装置との干渉点である。またプレスが下死点から上死点に上昇する際の上金型の最下点軌跡の斜辺と、ワークをプレスから搬出するためプレスに進入する際の搬送装置が占有する領域である搬送装置搬出干渉ボックスの上面高さ2Gとの交点が、搬出時の搬送装置と上金型との干渉点である。そして、上金型の最下点軌跡29、2Aにおいて、搬送装置との干渉が起きる位相領域はこれら2つの干渉点の間であり、プレス干渉位相領域2E、2Jとして仮想動作空間に追記する。
【0039】
プレスライン位相調整第6手順45として、搬送装置モーションに着目する。プレスのスライドに取り付けられた上金型が上下にストロークする事により占有する領域を含めた、プレスの占有する領域であるプレス干渉ボックスの搬送方向の幅をプレス幅2Fとする。搬送装置軌跡がプレス幅2F内に進入している範囲を搬送装置のプレス干渉ボックス内侵入領域28、搬送装置軌跡がプレス幅2F内から離脱している範囲を搬送装置のプレス干渉ボックス外離脱領域27とする。そして搬送装置のプレス干渉ボックス内侵入領域28と搬送装置のプレス干渉ボックス外離脱領域27の範囲を、図2の仮想動作空間の時間軸に追記する。
【0040】
プレスライン位相調整第7手順46として、プレスライン位相調整第6手順45で求めた搬送装置のモーション位相がプレス干渉ボックス内侵入領域28に入る時点での、上金型の最下点軌跡29で表される上昇中の上金型の最下点高さが、プレスライン位相調整第5手順44で求めたプレス干渉ボックス内に進入しようとする搬送装置が占有している干渉ボックスの上面高さ(搬出上面高さ)2Gと一致する様に非プレス加工域のプレスモーションの位相を調整する。
【0041】
プレスライン位相調整第8手順47として、プレス干渉位相領域2Eへ進入するタイミングと、搬送装置がプレス干渉ボックス内進入領域28から離脱するタイミングとの時間差をライン制御余裕時間2iとし、ライン制御余裕時間の値が安全値以上であれば位相調整計算を終了する。ライン制御余裕値時間が前記安全値未満であれば、プレスライン位相調整第9手順48として、ラインサイクルにライン制御余裕時間の不足値を加算しプレスライン位相調整第2手順42へ戻る。ここでライン制御余裕時間の安全値とは、プレス及び搬送装置の制御方法や機械構造に起因するそれらの動作タイミングの誤差を考慮しても、プレスや金型と、ワークや搬送装置とが干渉しない上記時間差を差す。
【0042】
以上がプレス1台、並びにそのプレスへワークを供給する搬送装置及び同じプレスからワークを搬出する搬送装置の2台の搬送装置のモーション位相調整手順となる。プレスラインに存在する多数のプレスの位相調整を行う為に前記のプレスライン位相調整手順1から8または9までを繰り返し実行することで、プレスラインに存在する全てのプレス及び全ての搬送装置の位相調整が完了する。
【0043】
次に図4の位相調整手順における別の実施例を説明する。前記のプレスライン位相調整手順の中で位相調整第3手順42として実施する、ラインサイクルと一致するようにプレスラインを構成する複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々のモーションデータの時間軸を伸長させて夫々の装置のモーションサイクルを一致させる操作において、プレスモーションデータ全域の時間軸を伸長させるのではなく、非プレス加工域のプレスモーションデータの時間軸を伸長させる。このようにすればプレスラインのモーション位相調整によりプレス加工域のプレスモーションに影響を及ぼすことがないので、プレス成形品の品質の安定性をも確保することができる。
【0044】
次に図4の位相調整手順における別の実施例を説明する。前記のプレスライン位相調整手順の中で、位相調整第3手順42として実施する、ラインサイクルと一致するようにプレスラインを構成する複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々のモーションデータの時間軸を伸長させて夫々の装置のモーションサイクルを一致させる操作において、搬送装置モーションデータ全域の時間軸を伸長させるのではなく、ワークの搬送動作と無関係な下流プレスのプレス干渉ボックス内から離脱した時点から上流プレスのプレス干渉ボックス内へ進入する時点までの時間軸を伸長させる。このようにすればプレスラインのモーション位相調整によりワーク搬送領域の搬送装置モーションに影響を及ぼすことがないので、ワーク搬送の安定性をも確保することができる。
【0045】
次に図4の位相調整手順における別の実施例を説明する。前記のプレスライン位相調整手順の中で、位相調整第2手順41ではプレスラインで使用される全てのプレス及び搬送装置のモーションの中で最も遅いサイクルのモーションサイクルをラインサイクルとしたが、ここでは位相調整第2手順41で求めたラインサイクルよりも遅い任意に指定されたサイクルと一致するように、プレスラインで使用される全てのプレス及び搬送装置のモーションサイクルをラインサイクルとして位相調整する。このようにすれば、プレスラインをモーション位相調整の結果求められるラインサイクルと異なる、任意に設定されたラインサイクルで運転することが可能となる。
【0046】
次に本発明の他の実施例を説明する。
前記プレスラインの位相調整手順による位相調整を行なう前のプレスと搬送装置のモーションデータや線図、位相調整途中のモーションデータや線図、及び位相調整後のモーションデータや線図、並びに搬送装置のプレス干渉ボックス内侵入領域28及びプレス干渉位相領域2E,2Jを表示装置15に表示させる。このようにすると位相調整前後のモーションを比較できるので位相調整効果を確認することができる。さらに生産性の予測が、可能になる。
【0047】
次に本発明のさらに他の実施例を説明する。
パーソナルコンピュータ16上で全てのプレスと搬送装置のモーションデータ、並びにプレス形状、金型形状、ワーク形状、搬送装置の動作部形状のデータを集約しモーション位相調整計算を実施し、パーソナルコンピュータ16の画面上で位相調整計算結果を得ることにより、プレスライン構成要素であるプレス配置間隔、ワーク搬送高さ、金型形状、プレスモーション、搬送装置モーション等がプレスライン生産性にどのように影響を及ぼすかを予測することが出来るので、プレスライン設計段階での生産性の予測やプレスラインと隔たれた場所でのモーション設定作業が可能となる。なお、パーソナルコンピュータ16はプレスラインと隔たれていてもプレスラインの横にあっても良いし、この機能を統括制御用上位コントローラ14と表示装置15に持たせて実行しても良い。すなわちプレスラインで使用する全てのプレスと搬送装置のモーションデータ、並びにプレス形状、金型形状、ワーク形状、搬送装置の動作部形状のデータを把握できるコントローラ内で実施することができる。
【0048】
上記の説明で搬送装置を、上流プレスからワークを搬出し下流プレスにワークを搬入するプレス間搬送装置としたが、搬入専用装置と搬出専用装置とから構成するときも本説明が適用できるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明が適用されるプレスラインの一例を示す図である。
【図2】本発明が適用される仮想動作空間の一例を示す図である。
【図3】金型と搬送装置の干渉領域を説明した図である。
【図4】プレスライン位相調整手順を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0050】
1 上流プレス
2 上金型
3 下金型
4 スライド
5 搬送装置
6 ワーク
7 プレスモーション
8 搬送モーション
9 ライン方向
10 下流プレス
11 上金型
12 下金型
13 プレスモーション
14 統括制御用上位コントローラ
15 表示操作装置
16 パーソナルコンピュータ

20 上流プレス
21 下流プレス
23 搬送装置
24 搬送装置
25 ワーク搬送幅
26 搬送装置幅
27 搬送装置のプレス干渉ボックス外離脱領域
28 搬送装置のプレス干渉ボックス内侵入領域
29 上流プレスの上金型の最下点軌跡
2A 下流プレスの上金型の最下点軌跡
2B 上流プレスからワークを搬出し、下流プレスへワークを搬入する搬送装置軌跡
2C 下流プレスからワークを搬出する搬送装置軌跡
2D 搬送装置最接近点
2E 下流プレスのプレス干渉位相領域
2F プレス幅(プレス干渉ボックスの搬送方向の幅)
2G ワークをプレスから搬出するためプレスに進入する際の搬送装置の占有する領域である搬送装置搬出干渉ボックスの上面高さ
2H ワークをプレスに搬入後プレスから離脱する際の搬送装置の占有する領域である搬送装置搬入干渉ボックスの上面高さ
2i ライン制御余裕時間
2J 上流プレスのプレス干渉位相領域

30 プレス
31 搬送装置搬入干渉ボックス
32 搬送装置搬出干渉ボックス
33 プレス干渉ボックス

40 プレスライン位相調整第1手順
41 プレスライン位相調整第2手順
42 プレスライン位相調整第3手順
43 プレスライン位相調整第4手順
44 プレスライン位相調整第5手順
45 プレスライン位相調整第6手順
46 プレスライン位相調整第7手順
47 プレスライン位相調整第8手順
48 プレスライン位相調整第9手順


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置で構成されるプレスラインのモーション位相調整方法であって、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置のモーションデータと、該モーションデータに従い動作する前記各装置、ワーク及び金型の形状データとを用いて干渉チェックを行い、前記各装置のモーションの位相調整を行うことを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項2】
請求項1のプレスラインのモーション位相調整方法において、非プレス加工域に於けるプレスモーションの位相調整を行うことを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のプレスラインのモーション位相調整方法において、非ワーク搬送域に於ける搬送装置モーションの位相調整を行うことを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、プレスラインで使用する前記各装置のモーションデータの中で、最も遅いモーションサイクルに前記各装置のモーションサイクルを合わせ、ラインサイクルとすることを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、前記各装置のモーションサイクルを、任意のラインサイクルに合わせることを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、プレスライン位相調整状態を画面上に図又はデータとして出力することを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整方法において、モーション位相調整計算をプレスラインで使用する全てのプレスと搬送装置のモーションデータ、並びにプレスラインで使用する全ての前記各装置、ワーク及び金型の形状データを把握できるコントローラ内で実施することを特徴とするプレスラインのモーション位相調整方法。
【請求項8】
複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置で構成されるプレスラインのモーション位相調整装置であって、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である前記各装置のモーションデータと、該モーションデータに従い動作する各装置、ワーク及び金型の形状データとを用いて干渉チェックを行い、前記各装置のモーションの位相調整を行うことを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。
【請求項9】
請求項8のプレスラインのモーション位相調整装置において、非プレス加工域に於けるプレスモーションの位相調整を行うことを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9のプレスラインのモーション位相調整装置において、非ワーク搬送域に於ける搬送装置モーションの位相調整を行うことを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。
【請求項11】
請求項8から請求項10の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、プレスラインで使用する前記各装置のモーションデータの中で、最も遅いモーションサイクルに前記各装置のモーションサイクルを合わせることを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。
【請求項12】
請求項8から請求項10の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、前記各装置のモーションサイクルを任意のラインサイクルに合わせることを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。
【請求項13】
請求項8から請求項12の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、プレスライン位相調整状態を画面上に図又はデータとして出力することを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。
【請求項14】
請求項8から請求項13の何れか一つに記載のプレスラインのモーション位相調整装置において、モーション位相調整計算をプレスラインで使用する全てのプレスと搬送装置のモーションデータ、並びにプレスラインで使用する全ての前記各装置、ワーク及び金型の形状データを把握できるコントローラ内で実施することを特徴とするプレスラインのモーション位相調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−254054(P2008−254054A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101308(P2007−101308)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】