説明

プレスラインの運転制御方法

【課題】複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置からなるプレスラインで、各装置で夫々の機械仕様が異なり、また複数からなる各プレス工程で対象ワークを最適に成形するために必要とされるプレス運転条件が夫々のプレス工程で異なる複雑なプレスラインにおいても、オペレータの煩雑な設定入力作業や運転準備のために行う確認作業の負担を軽減するとともに、運転中のプレスラインの生産効率も大幅に高めることができるプレスラインの運転制御方法を提供する。
【解決手段】上位コントローラが複数のプレスと複数の搬送装置の動作が最適になるプレス用モーションパラメータ109と、搬送用モーションパラメータ108と位相信号112とを自動生成し、複数のプレスと複数の搬送装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置とで構成されるプレスラインの運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置で構成されるプレスラインの運転制御方法として、従来から実施されている一般的な運転制御方法は、全てのプレスを上死点位置で停止させた状態で、搬送装置を1サイクル運転させて、前工程プレスからのワークの取り出しと、次工程プレスへのワークの投入を行い、搬送装置はプレスと干渉しない位置まで待機させる。全ての搬送装置が待機位置への移動が完了した時点で、搬送装置側から全てのプレスに運転指令を与えて、プレスは一行程運転を開始する。全てのプレスの一行程運転が完了して上死点位置に到達した時点で、再び搬送装置は一サイクル運転を開始する方法であった。すなわち、プレスと搬送装置は交互に起動と停止を繰り返す交互断続運転が行われることであった。
【0003】
しかしながら、前記交互運転によるプレスラインの運転制御方法では、全体のプレスライン速度が上がらないため、近年のプレスラインにおいては、搬送装置単体をより高速化する手段とは別に、プレスラインの生産効率を向上させるための提案がされている。
【0004】
その実例として、上流側プレスの動作に応じた信号に基づいて下流側プレスの動作を制御し、プレス近傍では近傍プレスの動作に応じた信号に基づいて搬送装置の動作を制御し、プレス間では搬送装置独自の信号に基づいて搬送装置を制御する方法が提案されている。(特許文献1)
【0005】
またこれとは別に、複数ロボットの制御方法として、上位コントローラ側でロボットの1サイクル時間を基本とするシステムクロックを発信し、各ロボットはシステムクロックに同期して動作する方法も提案されている。(特許文献2)
【0006】
またこれとは別に、複数のサーボプレス間で遅れや進みが生じても互いに同期させることができ、かつプレスラインの生産速度を良好に維持できるプレス間同期制御装置も提案されている。(特許文献3)

【特許文献1】W02004/096533号公報
【特許文献2】特公平7−36993号公報
【特許文献3】特開2006−130560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の制御方法は、プレス間に設置されたワーク搬送装置だけに着眼された、部分的には適している運転制御方法ではあるが、一般的に複数のプレスと複数の搬送装置を並べて加工を行うプレスラインでは、各プレスが担う成形の内容が、上流側からドロー成形・リストライク成形・トリム成形等と異なり、更には、設置されるプレスの加圧能力や保有する作業エネルギー、スライドストローク長さ、そして、単位時間あたりに運転できるスライドストローク数等のプレス機械の仕様も異なっている。特許文献1の運転制御方法には複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置とで構成されたプレスラインにおける、夫々の異なるプレスや夫々の異なる搬送装置を効率良く動作させるための具体的手段が無いために、プレスライン全体の生産効率を向上させるには適していないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の制御方法では、上位コントローラのシステムクロックに同期して各ロボットが動作する方法が取られているが、プレスラインにおいては前記のように設置される各プレスの成形内容や仕様が異なるため、これら異なるプレス全てを完全に同期して運転することは現実的に不可能である。つまり、各ロボットを上位コントローラのシステムクロックに同期させたとしても、各プレスの運転サイクルが異なるため、この方法を取る限りでは、従来の交互断続運転以上に生産効率を上げることはできないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3の同期制御装置では、複数プレスの成形負荷の違いによる同期阻害要因を解決するための工夫がなされているが、現実的には成形負荷の違いによる影響ばかりでは無く、複数プレス間でワークを搬送する搬送装置の運転設定状態やワーク形状により大きく影響されるプレスや金型等との干渉も考慮しなければならないために、現実的にこの同期制御装置ではプレスライン全体の生産効率を向上させるためには適していないという問題がある。
【0010】
以上のように、プレスラインの生産効率を向上させるための提案として、搬送装置だけ或いはプレスだけに着眼された部分的な最適化を行うための公知例は複数あるものの、プレス仕様や成形内容が異なる複数のプレスと、運転設定状態やワーク形状が異なる複数の搬送装置とを効率良く運転する全体的な最適化を行うことは非常に困難な課題であった。
全体的な最適化とは、プレス仕様や成形内容が異なる複数のプレスの夫々と、運転設定状態やワーク形状が異なる複数の搬送装置の夫々を、プレスラインが全体として高効率に運転されてアウトプット(生産速度)を高めることができるように、動作させることを言う。
【0011】
本発明は前記課題に対してなされたもので、その目的とするところは、各装置で夫々の機械仕様が異なる場合や、そして複数からなる各プレス工程で対象ワークを最適に成形するために必要とされるプレス運転条件が夫々のプレス工程で異なる複雑なプレスラインにおいて、運転作業するオペレータの負担を軽減しながら、生産効率を大幅に高めることができるプレスラインの運転制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係るプレスラインの運転制御方法は、複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置と、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置を統括制御する上位コントローラ(1)とにおいて、前記上位コントローラ(1)が前記各装置の動作が最適になるプレス用モーションパラメータ(109)と搬送用モーションパラメータ(108)からなるモーションパラメータと位相信号(112)とを自動生成し、前記各装置を制御することを特徴とする。
最適な前記各装置の動作とは、プレス仕様や成形内容が異なる複数のプレスの夫々と、運転設定状態やワーク形状が異なる複数の搬送装置の夫々の動作が、プレスラインが全体として高効率に運転されてアウトプット(生産速度)を高めることができるような動作であることを言う。
【0013】
本発明の請求項2に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項1のプレスラインの運転制御方法において、前記各装置の動作が最適になるプレス用モーションパラメータ(109)と搬送用モーションパラメータ(108)からなる前記モーションパラメータと位相信号(112)とを自動生成するにあたり、搬送装置とプレスとの干渉チェックと、搬送装置と金型との干渉チェックと、搬送装置同士の干渉チェックと、ワークとプレスとの干渉チェックと、ワークと金型との干渉チェックと、ワーク同士の干渉チェックのうち少なくとも一つを実施していることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項3に係るプレスラインの運転制御方法は、複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置と、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置を統括制御する上位コントローラ(1)とにおいて、前記上位コントローラ(1)がプレスモーション設定(101)の設定内容からプレスモーションを演算した結果と、搬送モーション設定(102)の設定内容から搬送モーションを演算した結果と、ワーク情報設定(103)の設定内容とから干渉チェックを実施して前記各装置の動作が最適になる前記モーションパラメータと位相信号(112)を自動生成することを特徴とする。
最適な前記各装置の動作とは、プレス仕様や成形内容が異なる複数のプレスの夫々と、運転設定状態やワーク形状が異なる複数の搬送装置の夫々の動作が、プレスラインが全体として高効率に運転されてアウトプット(生産速度)を高めることができるような動作であることを言う。
【0015】
本発明の請求項4に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項3のプレスラインの運転制御方法において、前記プレスモーション設定101は、スライド位置を特定できるパラメータとスライド速度を特定できるパラメータとからなることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項5に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項3のプレスラインの運転制御方法において、前記搬送モーション設定102は、フィード位置及びフィード速度を特定できるパラメータ並びにリフト位置及びリフト速度を特定できるパラメータ、またはフィード位置及びフィード速度を特定できるパラメータからなることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項6に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項3のプレスラインの運転制御方法において、前記ワーク情報設定(103)は、金型送り線高さ、金型形状寸法、ワーク形状寸法のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項1から請求項6のプレスラインの運転制御方法において、前記プレス用モーションパラメータ(109)を各々のプレス毎に生成し、前記搬送用モーションパラメータ(108)を各々の搬送装置毎に作成することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項8に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項7のプレスラインの運転制御方法において、前記プレス用モーションパラメータ(109)と前記搬送用モーションパラメータ(108)は、少なくとも1サイクル分のモーションデータを持つことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項9に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項1から請求項8のプレスラインの運転制御方法において、前記上位コントローラ(1)は前記各装置を制御するために設けられたプレス用コントローラ(3)や搬送用コントローラ(2)からなる複数の下位コントローラ群へ各装置のモーション指令情報をリアルタイムに送り、前記下位コントローラ群は前記モーション指令情報を受けて動作することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項10に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項9のプレスラインの運転制御方法において、前記モーション指令情報は前記各装置に作られた前記搬送用モーションパラメータ(108)又は前記プレス用モーションパラメータ(109)と、前記位相信号(112)とからなることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項11に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項10のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群は、前記上記コントローラ(1)から受けた各装置の前記搬送用モーションパラメータ(108)又は前記プレス用モーションパラメータ(109)が複数軸を制御するモーションパラメータである場合は、前記モーションパラメータを制御対象の各軸毎に展開したモーションデータで動作することを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項12に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項11のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群は、前記上記コントローラ(1)から受けた前記各装置の前記搬送用モーションパラメータ(108)又は前記プレス用モーションパラメータ(109)が複数軸を制御するモーションパラメータである場合は、前記モーションパラメータを制御対象の各軸毎に展開したモーションデータと、前記上位コントローラ(1)から送られる各装置の前記位相信号(112)とで動作することを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項13に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項11又は請求項12のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群で得られた位置情報又は速度情報をモーションデータ結合部(203)で合成して前記上位コントローラ(1)の同期位相情報生成部(107)へフィードバック情報として送り、前記同期位相情報生成部(107)は前記フィードバック情報に基づいて前記モーションパラメータをリアルタイムに修正することを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項14に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項11又は請求項12のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群で得られた位置情報又は速度情報をモーションデータ結合部(203)で合成して前記上位コントローラ(1)の同期位相情報生成部(107)へフィードバック情報として送り、前記同期位相情報生成部(107)は前記フィードバック情報に基づいて前記位相信号(112)をリアルタイムに修正することを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項15に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項9から請求項14のプレスラインの運転制御方法において、前記位相信号(112)は前記同期位相情報生成部(107)のデータと、同期信号生成用マスタクロック(110)から発信される基準クロックを前記位相信号出力部(111)が受けて出力することを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項16に係るプレスラインの運転制御方法は、請求項1から請求項15のプレスラインの運転制御方法において、自動生成された複数のプレスと複数の搬送装置のモーションデータ状態を前記上位コントローラ(1)で表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、統括制御する前記上位コントローラが、複数のプレスの夫々と複数の搬送装置の夫々である各装置の動作が最適となる前記各装置のモーションパラメータと位相信号とを自動で生成することにより、前記各装置で夫々の機械仕様が異なり、また複数からなる各プレス工程で対象ワークを最適に成形するために必要とされるプレス運転条件が夫々のプレス工程で異なる複雑なプレスラインにおいても、オペレータの煩雑な設定入力作業や運転準備のために行う確認作業の負担を軽減するとともに、運転中のプレスラインの生産効率も高めることができる。
【0029】
また、請求項2から請求項16の発明によれば、プレスモーション設定と搬送モーション設定で各装置を動作させるために必要なデータと、金型やワークに関するデータとを設定することで、前記各装置の動作を最適にすることができる。従来からオペレータが搬送装置とプレスや金型等が干渉しないように各装置の動作タイミングを夫々決める作業を行なってきたが、ワーク供給が行なわれる上流側から下流側に向けて順番に搬送装置とプレスが干渉せずにしかも生産の無駄時間が無いように動作タイミングを決めなければならないため、かなりの時間を要した。オペレータが決める動作タイミングは、各装置を実際に動かしながら人間の目で物理的な干渉具合を判断する作業であるため、安全を見た干渉マージンが取られる場合が多く、生産効率を高めることは困難であった。
【0030】
また、プレス成形時におけるスライド速度は良品を成形する上で重要な要素であるが、本発明では前記プレスモーション設定で成形時のスライド速度を保障しつつ、プレスと搬送装置が干渉しない最適な動作タイミングが得られる。本発明によれば搬送装置とプレスや金型等が干渉しない動作タイミングを決める確認作業と、良品を作るためのプレススライドの動作モーションを決める作業との繰返しであるオペレータの煩雑な作業を大幅に軽減しながら、生産効率を高めることができる。以上により、本発明の目的を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図1から図4に基づいて説明する。
【0032】
図1は、本発明が適用されるプレスラインを示す全体図と運転制御用のコントローラの関連を示すブロック図である。図2は、搬送用コントローラにおいて複数軸を駆動するモータを制御するための概念を示す制御ブロック図である。図3は、本発明の運転制御方法での実施例を示す制御ブロック図である。図4は、本発明の運転制御方法での第二の実施例を示す制御ブロック図である。
【0033】
図1は、複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置と、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置を統括制御する上位コントローラで構成されたプレスラインの例である。ワークが夫々の搬送装置により右方向から左方向へプレス間ピッチと同一或いは任意に設定された送り長さ分だけの1ピッチ分だけ搬送され、プレスはワークがプレスの金型内に搬送装置によりセットされたことを確認してからプレス成形を1サイクル運転分だけ行い、搬送装置はプレス動作が完了したことを確認してから1ピッチ分だけ搬送を行なう、つまり、連続的にワークのプレス成形と搬送動作とを交互に行ない、ワークを順次後の工程に送りながら生産を行なうプレスラインである。
【0034】
理解し易いようにワークが1枚だけの運転例を説明する。第1搬送装置52は前工程からワークを取り出して第1プレス53に供給し、第1プレス53で第1段階の成形が行われる。第2搬送装置54は第1プレス53で成形されたワークを第1プレス53から取り出して第2プレス55に供給し、第2プレス55で第2段階の成形が行われる。第3搬送装置56は第2プレス55で成形されたワークを第2プレス55から取り出して第3プレス57に供給し、第3プレス57で第3段階の成形が行われる。第4搬送装置58は第3プレス57で成形されたワークを第3プレス57から取り出して第4プレス59に供給し、第4プレス59で第4段階の成形が行われる。第5搬送装置60は第4プレス59で成形されたワークを第4プレス59から取り出して次工程へ搬送する。以上が、ワークが1枚の時の運転パターンであるが、実際に生産を行うプレスラインでは、第1搬送装置52が第1プレス53にワークを供給する動作が完了すると、前工程から次のワークを取り出す準備に入る。
【0035】
つまり、プレスラインで高効率な生産をするためには、プレスや搬送装置をできるだけ止めないで運転することが必要となる。しかしながら、プレス仕様や搬送装置仕様、そして運転するための諸条件が異なる複雑なプレスラインにおいて、プレスや搬送装置を止めないで、プレスや搬送装置そしてワークの各相互間で干渉を避けながら運転することは、現実には容易ではない。このため、プレス全体の中で最も遅い動作のプレスを基準に他のプレスの動作を合わせ込むような方法が取られているのが現状である。プレス成形時におけるスライド速度は良品を生産する成形加工を行う上で重要な要素であるにもかかわらず、前記方法ではプレス全体の中で最も遅い動作のプレスを基準に他のプレスの動作を合わせ込むため、他のプレスの成形時のスライド速度は必ずしも夫々の成形を行なうに適した速度にはならない。従って従来のプレスラインの運転制御方法は、プレスラインとして本来目指すべきプレス成形品の品質向上にはつながらないという問題がある。
【0036】
また、図1には、プレスや搬送装置を運転制御するコントローラの関連を表すブロック図が記載されている。第1搬送装置52を運転するための制御装置は搬送用コントローラ(T−1)2で、第1プレス53を運転するための制御装置はプレス用コントローラ(P−1)3であるように、1台の搬送装置に1台の制御装置を持ち、1台のプレスに1台の制御装置を持っている。但し、必ずしも図1のように1台の装置に1台の制御装置を持つ必要は無く、複数台の装置を1台の制御装置で運転しても良い。複数プレスと複数搬送装置の全体を統括して制御するために上位コントローラ1を設けている。前記上位コントローラ1と各プレス用コントローラ間、前記上位コントローラ1と各搬送用コントローラ間は、通信線又は専用信号線で相互に接続されており、信号やデータの受渡しを相互にできるようになっている。
【0037】
図2は、搬送用コントローラにおいて複数軸を駆動するモータを制御するための概念を示す制御ブロック図である。この例では、搬送用コントローラ(T−1)2の中で、X軸を動作させるための搬送モーション制御部(X)21と、Y軸を動作させるための搬送モーション制御部(Y)22とを含む2軸からなる搬送装置を制御する場合の制御ブロック図を示す。搬送用コントローラ(T−1)2は、X軸とY軸とで補間制御をするためにX軸の目標位置情報に対するY軸の目標位置情報が設定されている搬送用モーションパラメータ208の情報が搬送装置のX軸とY軸の夫々の運転に必要なモーションデータとして、搬送モーションデータ(X)204と、搬送モーションデータ(Y)205とに展開される。搬送モーション制御部(X)21と搬送モーション制御部(Y)22の内部構成は同一であるため、搬送モーション制御部(X)21を対象に説明する。
【0038】
搬送用コントローラ(T−1)2は内部に全体を動作する基準信号となる内部クロック206を持っている。位相信号出力部207は、前記内部クロック206により位相信号が0度から359度に進み、359度を過ぎると再び0度になる時計の角度と同様な特性を持っている。従って、前記内部クロック206をゆっくり変化させれば、位相信号の進みもゆっくりとなる。一方、X軸を制御するための基本モーションデータは前記搬送モーションデータ(X)204にあるが、この前記搬送モーションデータ(X)204の中には前記位相信号出力部207から出力される前記位相信号に対応する目標位置情報がデータテーブルとして記憶されている。この目標位置情報の更新時間は、通常は数ミリセコンドの微小時間単位で目標位置指令として位置制御209に送り込まれる。
【0039】
前記位置制御209はモータ軸或いは対象制御軸に設けられた検出器213から位置情報を取り込み、前記目標位置指令から得られた目標位置と前記位置情報から得られた現在位置を比較し、“目標位置>現在位置”の場合は位置を追従させるために+側の速度指令を、“目標位置<現在位置”の場合は位置を追従させるために−側の速度指令を、目標速度指令として速度制御210に送り込む。
【0040】
前記速度制御210は前記検出器213から取り込んだ位置情報を微分処理して速度情報とするか或いは前記検出器213から直接に速度情報を取り込み、前記目標速度指令から得られた目標速度と前記速度情報から得られた現在速度とを比較し、“目標速度>現在速度”の場合は速度を追従させるために+側の電流指令を、“目標速度<現在速度”の場合は速度を追従させるために−側の電流指令を、目標電流指令として電流制御211に送り込む。前記電流制御211によりモータ212への電流がコントロールされ、その結果モータは前記搬送モーションデータ(X)204の前記位相信号に対する前記目標位置情報の状態となるようにコントロールされる。
【0041】
図3は、本発明の運転制御方法での実施例を示す制御ブロック図である。ここでは上位コントローラ1と、搬送用コントローラの(T−1)2、(T−2)4と、プレス用コントローラ(P−1)3、(P−2)5で構成された場合の実施例であるが、搬送用コントローラとプレス用コントローラは図1のようにさらに多数台あっても良い。上位コントローラ1は、複数のプレスの夫々と複数の搬送装置の夫々である各装置の動作を最適にするために、モーションパラメータと位相信号とを最適な状態に自動生成するための全体モーション演算部11と、各装置への動作タイミングとなる位相信号を決めるための同期信号生成用マスタクロック110と、前記同期信号生成用マスタクロック110で決められたタイミングを基本に各装置へ位相信号112を出力する位相信号出力部111で構成される。前記モーションパラメータとは各装置の動作パターンを決めるためのデータ情報であり、前記位相信号とは各装置の起動/停止や起動時の動作速度からなる動作タイミングを決めるための指令信号である。
【0042】
前記全体モーション演算部11は、各装置間の位相をシフトしながら各装置の動作が最適となるモーションパラメータと位相信号とを自動生成する同期位相情報生成部107と、前記同期位相情報生成部107で搬送装置とプレス等が干渉しないように調整された搬送用モーションパラメータ108とプレス用モーションパラメータ109とで構成される。
【0043】
前記上位コントローラ1の詳細について説明すると、前記全体モーション演算部11では、プレスを運転するための基本的な設定情報であるプレスモーション設定と、搬送装置がワークを搬送するための基本的な設定情報である搬送モーション設定と、金型やワークの形状データであるワーク情報設定とから各装置のモーションパラメータと位相信号を自動生成する。前記プレスモーション設定と前記搬送モーション設定と前記ワーク情報設定を、前記全体モーション演算部11側で記憶しているか或いは前記各装置側で記憶しているかはどちらでも良い。
【0044】
前記各装置側で記憶している場合は、プレスラインの運転を始める前に前記プレスモーション設定と前記搬送モーション設定と前記ワーク情報設定の記憶情報が各装置側から前記全体モーション演算部11側に記憶情報が転送されて、前記全体モーション演算部11は転送された前記記憶情報を基に各装置のモーションパラメータと位相信号を自動生成する。
【0045】
プレスラインを高効率に運転するためには、できるだけプレスや搬送装置を止めずに動かすことが必要であるが、その場合には必ず干渉の問題が起きてくる。簡単な例としては、プレスのスライドに取付けられた上型が搬送装置が進入するに十分な高さ以上の位置に無い状態で搬送装置がワークを取り出すためにプレス内に進入した場合、搬送装置と上型との干渉は当然であるが避けられない。この干渉を避けるためには、プレススライドが上昇するモーションと搬送装置が進入するモーションに位相差(時間差)を付けて、搬送装置の進入タイミングを遅らせることが必要になる。
【0046】
前記同期位相情報生成部107には、プレススライドが上昇するモーションと搬送装置が進入するモーションに、干渉具合に応じて自動的に位相差(時間差)を付ける機能がある。前記同期位相情報生成部107では干渉を回避するために位相差(時間差)が付けられた情報を基に、各装置が運転するための基となるモーションデータを前記搬送用モーションパラメータ108と前記プレス用モーションパラメータ109として生成し、各装置に受け渡す。
【0047】
前記位相信号出力部111では、前記同期位相情報生成部107で位相差(時間差)が付けられた情報と、前記同期信号生成用マスタクロック110で決められた動作タイミングとなる位相信号112を作り出して各装置に受け渡す。前記同期位相情報生成部107は、干渉を回避するために位相差(時間差)が付けられた情報を基に各装置のモーションパラメータと位相信号を自動生成するが、この位相差を前記モーションパラメータ側で付けるか、或いは前記位相信号側で付けるか、或いはそれらの両方で付けるか、いずれの方法でも良い。
【0048】
前記搬送用コントローラ(T−1)2は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記搬送用モーションパラメータ108の情報をモーションデータ展開部202で受け取り、XY2軸の合成で駆動される搬送装置の運転に必要なモーションデータとして、搬送モーションデータ(X)204と、搬送モーションデータ(Y)205とに展開する。図3の実施例は、搬送装置が2軸制御の場合を想定しているために展開データが2箇所であるが、制御する軸数に応じて展開するデータも増やすのは当然である。また前記搬送用コントローラ(T−1)2は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記位相信号112を位相信号入力部201で受取り、前記搬送モーションデータ(X)204と、前記搬送モーションデータ(Y)205とに位相信号を送る。
【0049】
前記搬送モーションデータ(X)204は、前記モーションデータ展開部202と前記位相信号112からX軸が動作すべき目的位置情報を割出し、搬送モーション制御部(X)21へ位置指令情報を送り、前記搬送モーション制御部(X)21は位置指令情報を基にモータを制御する。同様に、前記搬送モーションデータ(Y)205は、前記モーションデータ展開部202と前記位相信号112からY軸が動作すべき目的位置情報を割出し、搬送モーション制御部(Y)22へ位置指令情報を送り、前記搬送モーション制御部(Y)22は位置指令情報を基にモータを制御する。各軸を駆動するモータの位置情報又は速度情報は、モーションデータ結合部203で合成結合され、前記上位コントローラ1の前記同期位相情報生成部107にフィードバックされる。
【0050】
例として、各軸を駆動するモータから出力される情報が位置情報の場合には、前記モーションデータ結合部203で合成結合されたデータとは、X軸の位置情報とY軸の位置情報との組合せからなる目標位置の集合データとなる。一つ或いは複数の各装置のモーションが何らかの外乱等を受けてモーションデータの軌跡上から外れてしまった場合に起こりうる、各装置、金型、ワークの間の干渉を避けるため、前記集合データの情報である前記フィードバック信号を基に前記同期位相情報生成部107は、各装置の実際のモーションが自動生成されたモーション軌跡上にあるか否かを常に監視している。万が一、各装置の実際のモーションが自動生成されたモーション軌跡から外れた場合は、プレスライン全体を停止させるか、或いは前記フィードバック信号を基に前記同期位相情報生成部107で各装置のモーションデータを自動で再生成しても良い。
【0051】
前記プレス用コントローラ(P−1)3は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記プレス用モーションパラメータ109の情報をモーションデータ展開部302で受け取り、プレスの運転に必要なモーションデータとして、プレスモーションデータ304に展開する。また前記プレス用コントローラ(P−1)3は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記位相信号出力部111の情報を位相信号入力部301で受取り、前記プレスモーションデータ304に位相信号を送る。
【0052】
前記プレスモーションデータ304は、位相信号に応じた位置信号を割出し、プレスモーション制御部31へ位置指令情報を送り、前記プレスモーション制御部31は位置指令情報を基にモータを制御する。モータの位置情報は、モーションデータ結合部303を経由して、前記上位コントローラ1の前記同期位相情報生成部107にフィードバックされる。
【0053】
搬送装置やプレスを動かすモーションデータを搬送用コントローラやプレス用コントローラで作成するため、前記上位コントローラ1と各装置のコントローラを結ぶ通信線の負荷が軽減できるだけでなく、前記上位コントローラ1でモーションデータを作成する演算量を少なくすることができる。図3の形態は、モーションデータの展開を各装置のコントローラ側で行ったものであるが、これとは別にモーションデータの展開を前記上位コントローラ1側で行い、各装置毎に展開されたモーションデータをモーション指令情報として前期上位コントローラ1から各装置のコントローラへ送るようにしても良い。
【0054】
以上のようにして搬送モーションデータとプレスモーションデータが自動生成されるので、各装置で夫々の機械仕様が異なり、また複数からなる各プレス工程で対象ワークを最適に成形するために必要とされるプレス運転条件が夫々のプレス工程で異なる複雑なプレスラインにおいても、オペレータの煩雑な設定入力作業や運転準備のために行う確認作業の負担を軽減するとともに、運転中のプレスラインの生産効率も大幅に高めることができる。
【0055】
図4は、本発明の運転制御方法での第二の実施例を示す制御ブロック図である。ここで、図3と同一番号の部分は同一物を表す。ここでは上位コントローラ1と、搬送用コントローラの(T−1)2、(T−2)4と、プレス用コントローラ(P−1)3、(P−2)5で構成された場合の実施例であるが、搬送用コントローラとプレス用コントローラは図1のようにさらに多数台あっても良い。
【0056】
上位コントローラ1は、複数のプレスの夫々と複数の搬送装置の夫々である各装置の動作を最適にするために、モーションパラメータと位相信号とを最適な状態に自動生成するための全体モーション演算部11aと、各装置への動作タイミングとなる位相信号を決めるための同期信号生成用マスタクロック110と、前記同期信号生成用マスタクロック110で決められたタイミングを基本に各装置へ位相信号112を出力する位相信号出力部111と、自動生成された複数のプレスと複数の搬送装置のモーションデータ状態を表示するモニタ113とで構成される。前記モーションパラメータとは各装置の動作パターンを決めるためのデータ情報であり、前記位相信号とは各装置の起動/停止や起動時の動作速度からなる動作タイミングを決めるための指令信号である。
【0057】
前記全体モーション演算部11aは、スライド位置を特定できるパラメータとスライド速度を特定できるパラメータからなるプレスモーション設定101のデータを基に、前記プレスモーション設定101のデータでプレスがどのように動作するのかを演算して求めるプレスモーション演算部104と、フィード位置及びフィード速度を特定できるパラメータ並びにリフト位置及びリフト速度を特定できるパラメータ、またはフィード位置及びフィード速度を特定できるパラメータからなる搬送モーション設定102のデータを基に、前記搬送モーション設定102のデータで搬送装置がどのように動作するのかを演算して求める搬送モーション演算部105と、金型送り線高さ、金型形状寸法、ワーク形状寸法のうち少なくとも一つを含むワーク情報設定103と、各装置間やワークと各装置、そしてワーク間での干渉状態を仮想空間上で動的に監視する干渉チェック部106と、前記干渉チェック部106の情報を基に干渉を回避させるために、各装置間の位相を自動的にシフトしながら各装置の動作を最適にするモーションパラメータと位相信号を自動生成する同期位相情報生成部107aと、前記同期位相情報生成部107aで搬送装置とプレス等が干渉しないように調整された搬送用モーションパラメータ108とプレス用モーションパラメータ109とで構成される。
【0058】
前記上位コントローラ1の詳細について説明すると、前記全体モーション演算部11aでは、プレスを運転するための基本的な設定情報である前記プレスモーション設定101から演算された前記プレスモーション演算部104のデータと、ワークを搬送するための基本的な設定情報である前記搬送モーション設定102から演算された前記搬送モーション演算部105のデータと、前記ワーク情報設定103のデータとを基に、前記干渉チェック部106で干渉状態を仮想空間上で動的に監視する。プレスラインを高効率に運転するためには、できるだけプレスや搬送装置を止めずに動かすことが必要であるが、その場合には必ず干渉の問題が起きてくる。簡単な例としては、プレスのスライドに取付けられた上型が搬送装置が進入するに十分な高さ以上の位置に無い状態で搬送装置がワークを取り出すためにプレス内に進入した場合、搬送装置と上型との干渉は当然であるが避けられない。
【0059】
この干渉を避けるためには、プレススライドが上昇するモーションと搬送装置が進入するモーションに位相差(時間差)を付けて、搬送装置の進入タイミングを遅らせることが必要になる。前記同期位相情報生成部107aには、プレススライドが上昇するモーションと搬送装置が進入するモーションに、干渉具合に応じて自動的に位相差(時間差)を付ける機能がある。上記の如き搬送装置と上型との干渉を回避する他の方策として、プレススライドが上昇するモーションの速度をより早くしても良い。この場合前記プレスモーション設定101で予め設定されたプレスを運転するための基本的な設定情報を自動変更して干渉回避をしても良い。前記同期位相情報生成部107aは、干渉を回避するために位相差(時間差)が付けられた情報を基に、各装置が運転するための基となるモーションデータを前記搬送用モーションパラメータ108と前記プレス用モーションパラメータ109として生成し、各装置に受け渡す。
【0060】
前記位相信号出力部111では、前記同期位相情報生成部107aで位相差(時間差)が付けられた情報と、前記同期信号生成用マスタクロック110で決められた動作タイミングとなる位相信号112を作り出して各装置に受け渡す。前記同期位相情報生成部107aは、干渉を回避するために位相差(時間差)が付けられた情報を基に各装置のモーションパラメータと位相信号を自動生成するが、この位相差を前記モーションパラメータ側で付けるか、或いは前記位相信号側で付けるか、或いはそれらの両方で付けるか、いずれの方法でも良い。
【0061】
前記搬送用コントローラ(T−1)2は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記搬送用モーションパラメータ108の情報をモーションデータ展開部202で受け取り、XY2軸の合成で駆動される搬送装置の運転に必要なモーションデータとして、搬送モーションデータ(X)204と、搬送モーションデータ(Y)205とに展開する。図4の実施例は、搬送装置が2軸制御の場合を想定しているために展開データが2箇所であるが、制御する軸数に応じて展開するデータも増やすのは当然である。また前記搬送用コントローラ(T−1)2は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記位相信号112を位相信号入力部201で受取り、前記搬送モーションデータ(X)204と、前記搬送モーションデータ(Y)205とに位相信号を送る。
【0062】
前記搬送モーションデータ(X)204は、前記モーションデータ展開部202と前記位相信号112からX軸が動作すべき目的位置情報を割出し、搬送モーション制御部(X)21へ位置指令情報を送り、前記搬送モーション制御部(X)21は位置指令情報を基にモータを制御する。同様に、前記搬送モーションデータ(Y)205は、前記モーションデータ展開部202と前記位相信号112からY軸が動作すべき目的位置情報を割出し、搬送モーション制御部(Y)22へ位置指令情報を送り、前記搬送モーション制御部(Y)22は位置指令情報を基にモータを制御する。各軸を駆動するモータの位置情報又は速度情報は、モーションデータ結合部203で合成結合され、前記上位コントローラ1の前記同期位相情報生成部107aにフィードバックされる。例として、各軸を駆動するモータから出力される情報が位置情報の場合には、前記モーションデータ結合部203で合成結合されたデータとは、X軸の位置情報とY軸の位置情報との組合せからなる目標位置の集合データとなる。
【0063】
一つ或いは複数の各装置のモーションが何らかの外乱等を受けてモーションデータの軌跡上から外れてしまった場合に起こりうる、各装置、金型、ワークの間の干渉を避けるため、前記集合データの情報である前記フィードバック信号を基に前記同期位相情報生成部107aは、各装置の実際のモーションが自動生成されたモーション軌跡上であるか否かを常に監視している。万が一、各装置の実際のモーションが自動生成されたモーション軌跡から外れた場合は、プレスライン全体を停止させるか、或いは前記フィードバック信号を基に前記干渉チェック部106と前記同期位相情報生成部107aで各装置のモーションデータを自動で再生成しても良い。
【0064】
前記プレス用コントローラ(P−1)3は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記プレス用モーションパラメータ109の情報をモーションデータ展開部302で受け取り、プレスの運転に必要なモーションデータとして、プレスモーションデータ304に展開する。また前記プレス用コントローラ(P−1)3は、前記上位コントローラ1から受け渡された前記位相信号出力部111の情報を位相信号入力部301で受取り、前記プレスモーションデータ304に位相信号を送る。前記プレスモーションデータ304は、位相信号に応じた位置信号を割出し、プレスモーション制御部31へ位置指令情報を送り、前記プレスモーション制御部31は位置指令情報を基にモータを制御する。モータの位置情報は、モーションデータ結合部303を経由して、前記上位コントローラ1の前記同期位相情報生成部107aにフィードバックされる。
【0065】
プレスに取り付けられた上金型が成形前のワークにタッチするスライド位置を加工開始位置とし、プレス成形過程を経て上金型と成形済みのワークが離れる位置を加工終了位置とすると、前記加工開始位置から前記加工終了位置までの間がプレス加工域であり、前記加工終了位置を過ぎた位置から前記加工開始位置の手前までの位置がプレス非加工域となる。前記プレスモーション設定101で設定されるスライド位置を特定できるパラメータとスライド速度を特定できるパラメータは、前記プレス加工域の範囲内のプレスモーションを決めるためのパラメータとして使用される。
【0066】
従ってオペレータは、プレス成形に最低限必要となる前記プレス加工域内だけの、スライド位置を特定できるパラメータとスライド速度を特定できるパラメータの設定入力作業を行なえば良いので、前記プレス加工域と前記プレス非加工域の両方に亘った複数パラメータの設定入力作業と比較してオペレータの負荷を大幅に軽減できる。但し、本発明の実施方法として前記プレスモーション設定101で設定入力するパラメータを、前記プレス加工域と前記プレス非加工域の両方の範囲に設定入力し、プレス加工域の区間であることを特定できるパラメータを別に設けても構わない。
【0067】
一方、複数のプレスと複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置とからなるプレスラインを構成する上で、最終工程のプレスから搬出装置がワークを取り出した後に、取り出したワークを自動で整列するための製品整列装置を組合せて使用する場合がある。この前記製品整列装置の仕様によっては、最終工程のプレスから搬出装置がワークを取り出す1サイクルに要する時間よりも、ワークを自動で整列させる1サイクルに要する時間の方が長くなる場合もある。このような条件下では前記プレスライン全体のアウトプット速度を前記製品整列装置に合わせて下げる必要がある。
【0068】
前記プレスライン全体のアウトプット速度を調整するライン制御機能は前記上位コントローラ1に含まれており、前記製品整列装置に合わせて前記プレスライン全体のアウトプット速度を下げる場合には、前記プレス加工域の設定条件は変更せずに、前記プレス非加工域の動作時間を自動的に延ばしながら調整される。前記プレス加工域の設定条件を変更しない理由は、プレス成形時におけるスライド速度が良品を生産する成形加工を行う上で重要な要素であるからである。
【0069】
前記上位コントローラ1には、自動生成された複数のプレスと複数の搬送装置のモーションデータ状態を表示するモニタ113が設けられている。前記モーションデータ状態とは、前記上位コントローラ1から前記各装置へ送られる各装置の動作パターン状態及び各装置の動作タイミング状態、並びに前記各装置から前記上位コントローラ1へフィードバックされるX軸の位置情報とY軸の位置情報との組合せからなる目標位置の集合データの状態のことである。前記モニタ113の表示によって、前記各装置の動作が常に最適な状態で運転されているのか、前記各装置が何らかの外乱等を受けてモーションデータの軌跡上から外れる恐れが無いのかをオペレータが容易に確認することができる。
【0070】
本発明で前記各装置の動作が最適になるプレスラインは実現できるものの、実際の製造現場ではワークの材料特性のバラツキや、各装置で使われている部品の寿命や故障等で、常に最適化された動作で生産し続けることができるとは限らない。このような場合でも前記モニタ113の表示によって、プレスラインの中で使用されているある搬送装置の、モーションデータの軌跡上から外れそうな異常の兆候をオペレータが確認できるので、プレスラインが生産稼動していない間に異常の兆候が出ている搬送装置の点検や不具合部品の交換をすることができる。つまり、プレスラインが異常で停止する前に、異常個所を事前に発見して対策を取ることができるため、プレスラインにおける生産停止という重大なトラブルを未然に防ぐことが可能となる。
【0071】
搬送装置やプレスを動かすモーションデータを搬送用コントローラやプレス用コントローラで作成するため、前記上位コントローラ1と各装置のコントローラを結ぶ通信線の負荷が軽減できるだけでなく、前記上位コントローラ1の演算の負担を、モーションデータを作成する演算量分だけ少なくすることができる。図4の形態では、モーションデータの展開を各装置のコントローラ側で行っているが、モーションデータの展開を前記上位コントローラ1側で行い、各装置毎に展開されたモーションデータをモーション指令情報として前期上位コントローラ1から各装置のコントローラへ送るようにしても良い。
【0072】
以上のようにして搬送モーションデータとプレスモーションデータが自動生成されるので、各装置で夫々の機械仕様が異なり、また複数からなる各プレス工程で対象ワークを最適に成形するために必要とされるプレス運転条件が夫々のプレス工程で異なる複雑なプレスラインにおいても、オペレータの煩雑な設定入力作業や運転準備のために行う確認作業の負担を軽減するとともに、運転中のプレスラインの生産効率も大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明が適用されるプレスラインを示す全体図と運転制御用のコントローラの関連を示すブロック図である。
【図2】搬送用コントローラにおいて複数軸からなるモータを動かすための概念を示す制御ブロック図である。
【図3】本発明の運転制御方法での実施例を示す制御ブロック図である。
【図4】本発明の運転制御方法での第二の実施例を示す制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0074】
1 上位コントローラ
2 搬送用コントローラ(T−1)
3 プレス用コントローラ(P−1)
4 搬送用コントローラ(T−2)
5 プレス用コントローラ(P−2)
6 搬送用コントローラ(T−3)
7 プレス用コントローラ(P−3)
8 搬送用コントローラ(T−4)
9 プレス用コントローラ(P−4)
10 搬送用コントローラ(T−5)
11 全体モーション演算部
11a 全体モーション演算部
21 搬送モーション制御部(X)
22 搬送モーション制御部(Y)
101 プレスモーション設定
102 搬送モーション設定
103 ワーク情報設定
104 プレスモーション演算部
105 搬送モーション演算部
106 干渉チェック部
107 同期位相情報生成部
107a 同期位相情報生成部
108 搬送用モーションデータ
109 プレス用モーションパラメータ
110 同期信号生成用マスタクロック
111 位相信号出力部
112 位相信号
113 モニタ
201 位相信号入力部
202 モーションデータ演算部
203 モーションデータ結合部
204 搬送モーションデータ(X)
205 搬送モーションデータ(Y)
206 内部クロック
207 位相信号出力部
208 搬送用モーションパラメータ
209 位置制御
210 速度制御
211 電流制御
212 モータ
213 検出器
301 位相信号入力部
302 モーションデータ演算部
303 モーションデータ結合部
304 搬送モーションデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置と、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置を統括制御する上位コントローラ(1)とにおいて、前記上位コントローラ(1)が前記各装置の動作が最適になるプレス用モーションパラメータ(109)と搬送用モーションパラメータ(108)からなるモーションパラメータと位相信号(112)とを自動生成し、前記各装置を制御することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項2】
請求項1のプレスラインの運転制御方法において、前記各装置の動作が最適になるプレス用モーションパラメータ(109)と搬送用モーションパラメータ(108)からなる前記モーションパラメータと位相信号(112)とを自動生成するにあたり、搬送装置とプレスとの干渉チェックと、搬送装置と金型との干渉チェックと、搬送装置同士の干渉チェックと、ワークとプレスとの干渉チェックと、ワークと金型との干渉チェックと、ワーク同士の干渉チェックのうち少なくとも一つを実施していることを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項3】
複数のプレスと、複数のプレス間でワークを搬送するために設けられた複数の搬送装置と、前記複数のプレスの夫々と前記複数の搬送装置の夫々である各装置を統括制御する上位コントローラ(1)とにおいて、前記上位コントローラ(1)がプレスモーション設定(101)の設定内容からプレスモーションを演算した結果と、搬送モーション設定(102)の設定内容から搬送モーションを演算した結果と、ワーク情報設定(103)の設定内容とから干渉チェックを実施して前記各装置の動作が最適になる前記モーションパラメータと位相信号(112)を自動生成することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項4】
請求項3のプレスラインの運転制御方法において、前記プレスモーション設定101は、スライド位置を特定できるパラメータとスライド速度を特定できるパラメタからなることを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項5】
請求項3のプレスラインの運転制御方法において、前記搬送モーション設定102は、フィード位置及びフィード速度を特定できるパラメータ並びにリフト位置及びリフト速度を特定できるパラメータ、またはフィード位置及びフィード速度を特定できるパラメータからなることを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項6】
請求項3のプレスラインの運転制御方法において、前記ワーク情報設定(103)は、金型送り線高さ、金型形状寸法、ワーク形状寸法のうち少なくとも一つを含むことを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のプレスラインの運転制御方法において、前記プレス用モーションパラメータ(109)を各々のプレス毎に生成し、前記搬送用モーションパラメータ(108)を各々の搬送装置毎に作成することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項8】
請求項7のプレスラインの運転制御方法において、前記プレス用モーションパラメータ(109)と前記搬送用モーションパラメータ(108)は、少なくとも1サイクル分のモーションデータを持つことを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のプレスラインの運転制御方法において、前記上位コントローラ(1)は前記各装置を制御するために設けられたプレス用コントローラ(3)や搬送用コントローラ(2)からなる複数の下位コントローラ群へ各装置のモーション指令情報をリアルタイムに送り、前記下位コントローラ群は前記モーション指令情報を受けて動作することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項10】
請求項9のプレスラインの運転制御方法において、前記モーション指令情報は前記各装置に作られた前記搬送用モーションパラメータ(108)又は前記プレス用モーションパラメータ(109)と、前記位相信号(112)とからなることを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項11】
請求項10のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群は、前記上記コントローラ(1)から受けた各装置の前記搬送用モーションパラメータ(108)又は前記プレス用モーションパラメータ(109)が複数軸を制御するモーションパラメータである場合は、前記モーションパラメータを制御対象の各軸毎に展開したモーションデータで動作することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項12】
請求項11のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群は、前記上記コントローラ(1)から受けた前記各装置の前記搬送用モーションパラメータ(108)又は前記プレス用モーションパラメータ(109)が複数軸を制御するモーションパラメータである場合は、前記モーションパラメータを制御対象の各軸毎に展開したモーションデータと、前記上位コントローラ(1)から送られる各装置の前記位相信号(112)とで動作することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群で得られた位置情報又は速度情報をモーションデータ結合部(203)で合成して前記上位コントローラ(1)の同期位相情報生成部(107)へフィードバック情報として送り、前記同期位相情報生成部(107)は前記フィードバック情報に基づいて前記モーションパラメータをリアルタイムに修正することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項14】
請求項11又は請求項12のプレスラインの運転制御方法において、前記下位コントローラ群で得られた位置情報又は速度情報をモーションデータ結合部(203)で合成して前記上位コントローラ(1)の同期位相情報生成部(107)へフィードバック情報として送り、前記同期位相情報生成部(107)は前記フィードバック情報に基づいて前記位相信号(112)をリアルタイムに修正することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項15】
請求項9から請求項14のプレスラインの運転制御方法において、前記位相信号(112)は前記同期位相情報生成部(107)のデータと、同期信号生成用マスタクロック(110)から発信される基準クロックを前記位相信号出力部(111)が受けて出力することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。
【請求項16】
請求項1から請求項15のプレスラインの運転制御方法において、自動生成された複数のプレスと複数の搬送装置のモーションデータ状態を前記上位コントローラ(1)で表示することを特徴とするプレスラインの運転制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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