説明

プレス工程の荷重変曲点検出方法及び装置

【課題】プレス工程において、荷重変曲点を高精度に検出する。
【解決手段】プレス工程の荷重プロファイル15とともに荷重の傾きの変化量17を算出して表示装置に表示する。傾きの変化量17のピークbを2つのしきい値L1、L2(L1>L2)を用いて検出することで変曲点を検出する。傾きの変化量17がしきい値L1、L2を超え、かつ、その後にしきい値L2を下回る時点でピークbを変曲点と確定する。変曲点を確定すると、プレス工程を終了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス工程の検出方法及び装置に関し、特にプレス工程の荷重変曲点を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレス工程において時間あるいは変位とともに変化する荷重を所定サンプリングタイミングでサンプリングし、サンプリング値が正常か異常かによりプレス工程が正常か異常かを判定する技術が知られている。プレス工程に限らず、ある物理量を検出し、検出値が正常か否かを判定する技術は周知である。一方、アルミニウム等の柔らかい材料や薄い材料のプレス・圧入を行う場合には、余分な荷重がかかると材料が破断することがあるため、荷重の変曲点付近の荷重でプレスを終了させる必要がある。
【0003】
荷重変曲点の定義は、一般に測定期間中の荷重の変化が最大になった点であり、測定終了以前に変曲点を決定するためには荷重や変位の値が特定の値を超えた点を検出する必要がある。しかしながら、この方法ではプレス・圧入する条件毎に測定終了の荷重や変位の値を設定する必要が生じるが、値のマージンを大きくとると余分な荷重がかかってしまい、逆にマージンを小さくとると値のバラツキにより変曲点以前で測定終了となってしまう問題がある。
【0004】
特許文献1には、かしめ加工方法において、かしめ時に、ハウジングをかしめるパンチのストローク量とパンチにかけるかしめ荷重との関係を示す特性曲線の変曲点を検出し、この変曲点基準としてパンチのストローク量を一定とする定寸加工を行うことが記載されている。変曲点の検出方法として、かしめストロークとかしめ荷重を随時サンプリングし、あるサンプリング時における傾きと、その前後のサンプリングにおける傾きとの変化量を演算し、その演算結果が一定のしきい値を超えたときを変曲点とすること、あるいは、サンプリングした時の傾きの絶対値が所定のしきい値を超えたときを変曲点とすることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−35864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に変化量が一定のしきい値を超えたことをもって変曲点とするのでは、変曲点を精度よく検出することができない。その理由は、荷重の変化量はノイズ等の影響により多様に変化し、単一のピーク値だけでなく複数のピーク値が近接して混在する場合も多いからである。
【0007】
本発明の目的は、プレス(圧入を含む)工程において、荷重変曲点を高精度に検出し、これによりアルミニウム等の柔らかい材料や薄い材料のプレスを行う場合にも変曲点付近の荷重でプレスを確実に終了させることができる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プレス工程の荷重変曲点を検出する方法であって、プレス工程時に検出された、時間あるいは変位の関数としての荷重値を入力するステップと、前記荷重値の傾きの変化量を算出するステップと、算出された前記荷重値の傾きの変化量から荷重変曲点を検出するステップであって、第1の正のしきい値と前記第1のしきい値よりも小さい第2の正のしきい値を用い、前記荷重値の傾きの変化量が前記第1のしきい値及び前記第2のしきい値を超え、かつ、その後に前記第2のしきい値を下回る時点を検出することで前記荷重変曲点を検出するステップとを有する。
本発明の1つの実施形態では、前記第2のしきい値は、前記第1のしきい値を基準として設定される。
【0009】
また、本発明の他の実施形態では、さらに、前記荷重変曲点が検出されない場合に、第3の負のしきい値を用い、前記荷重値の傾きの変化量が前記第3のしきい値を下回る時点を検出することで前記プレス工程の終了時点を検出するステップとを有する。
【0010】
また、本発明は、プレス工程の荷重変曲点を検出する装置であって、プレス工程時に検出された、時間あるいは変位の関数としての荷重値を入力する手段と、前記荷重値の傾きの変化量を演算する手段と、算出された前記荷重値の傾きの変化量から荷重変曲点を検出する手段であって、第1の正のしきい値と前記第1のしきい値よりも小さい第2の正のしきい値を用い、前記荷重値の傾きの変化量が前記第1のしきい値及び前記第2のしきい値を超え、かつ、その後に前記第2のしきい値を下回る時点を検出することで前記変曲点を検出する手段とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷重変曲点を高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態におけるプレス工程評価装置の構成図を示す。図1に示す装置1は、デジタル指示計としても機能し、プレス工程における荷重の変化あるいはプレス機の変位をグラフ表示あるいはデジタルの数値として視覚的に表示する。デジタル指示計は、プレス工程を制御するプレス工程制御機構に組み込まれ、プレス時の荷重を測定するひずみゲージ式トランスデューサからの荷重信号、または、プレス機の変位を測定する変位計(センサ)からの変位信号を入力する。
【0013】
本実施形態の装置1は、入出力インタフェースI/F10、メモリ12、表示装置14、CPU16、ROM18及びRAM20を有して構成される。
【0014】
入出力インタフェースI/F10は、トランスデューサからの荷重信号、または変位計からの変位信号を入力する。
【0015】
CPU16は、ROM18に記憶されたプログラムに従い、RAM20をワーキングメモリとして用いて入力した荷重信号をデジタル信号に変換し、さらに所定のタイミングでデジタル信号の値(荷重値)をホールドしてメモリ12に格納する。
【0016】
また、CPU16は、順次取得した荷重値を時間あるいは変位の関数として表示装置14に表示する。時間あるいは変位の関数としての荷重値は、荷重プロファイルと呼ばれる。表示装置14は液晶モニタあるいは有機ELモニタで構成される。
【0017】
図2に、表示装置14に表示される荷重プロファイル15の一例を示す。横軸Xは時間あるいは変位であり、縦軸Yは荷重値である。荷重プロファイル15は、X−Y座標系における曲線として示される。ユーザは、この荷重プロファイル15を視認することで、プレス工程の状況を把握することができる。
【0018】
さらに、CPU16は、荷重プロファイル15に加え、荷重の傾きの変化量を算出してRAM20に順次格納するとともに表示装置14に表示する。荷重の傾きの変化量は、あるサンプリング時における荷重の傾きと、その前後のサンプリングにおける荷重の傾きとの変化量であり、荷重プロファイルの2階微分値である。そして、CPU16は、順次算出してRAM20に格納した荷重の傾きの変化量17をしきい値と比較することで、荷重の変曲点を検出する。但し、本実施形態では、CPU16は荷重の傾きの変化量を単一のしきい値と比較するのではなく、複数のしきい値と比較することで荷重変曲点を検出する。
【0019】
図3に、表示装置14に荷重プロファイル15と荷重の傾きの変化量17とが同期して並列表示された状態を示す。荷重プロファイル15の上部に、この荷重プロファイル15と同期して荷重の傾きの変化量17が表示される。荷重プロファイル15において、区間t0は金型と材料が接触していない区間であり、荷重の傾きも0である。区間t1は金型と材料が接触し材料が変形している区間であり、荷重の傾きはある有限の値となる。時間d0において荷重の傾きの変化量もある有限の値となり、ピークaが出現する。区間t2は金型と材料が接触し材料の変形が終了しているが荷重は増加し続けている区間である。時間d1において材料の変形が終了するため傾きが変化する。この時間d1における傾きの変化点が変曲点であり、傾きの変化としてピークbが出現する。区間t3はプレス機の荷重が設定値に達して一定の値になる区間であり、傾きは0である。時間d2において有限の傾きから傾き0に変化するため、負のピークcが出現する。
【0020】
このように、荷重の変化量17にはピークa、b、cが出現することになり、これら封数のピークから変曲点に相当するピークbのみを検出すればよい。図3から分かるように、ピークbは正のピークであって比較的大きな振幅を有しているから、傾きの変化量17を正のしきい値と比較し、しきい値を超えた部分を荷重変曲点として検出することが考えられる。しかしながら、傾きの変化量17には種々のノイズが混入しており、ピークbについても単一のピーク波形ではなく複数のピークが混在した複雑な波形となることは少なくない。荷重変曲点を検出する目的は、既述したようにアルミニウム等の柔らかい材料や薄い材料のプレス・圧入を行う場合において、余分な荷重がかかると材料が破断することがあるため、荷重の変曲点付近の荷重でプレスを終了させる必要があることから正確に変曲点を検出するためであり、単に傾きの変化量17と単一のしきい値とを大小比較したのでは複数のピーク状波形の場合に正確に真の荷重変曲点を検出することができない。
【0021】
例えば、荷重変曲点に対応する真のピークの直前にノイズとしてのピークが存在する場合を想定する。傾きの変化量17をしきい値と大小比較して荷重変曲点を検出する処理では、直前のノイズピークを荷重変曲点として誤検出してしまい、このタイミングでプレスを終了してしまうおそれがある。この場合、荷重変曲点を経ることなくプレスが終了してしまうことから、プレス工程としては正常に終了せず異常となってしまう。
【0022】
そこで、本実施形態では、図4に示すように複数のしきい値、具体的には第1のしきい値L1と第2のしきい値L2を用いて荷重変曲点を検出する。図4は、図3におけるピークbの一部拡大図であり、複数のピークが生じていることを示す。第1しきい値L1と第2しきい値L2の大小関係は、L1>L2である。以下の判定基準で荷重変曲点を検出する。
(1)第1のしきい値L1を超えたらピークホールドを行い、最大値位置を保持する。
(2)傾きの変化量17が一旦、しきい値L1を下回り再度超えた場合、最大値位置をクリアし再びピークホールドを行う。
(3)第2のしきい値L2を超えた状態から下回ったときに保持されている最大位置を荷重変曲点として確定する。
【0023】
図4に即して説明すると、まず傾きの変化量17が第1のしきい値L1を超えた時点(時間)d3でピークホールドを開始し、L1を下回った時点(時間)d3’で最大位置P3を記憶する。次に、第1のしきい値L1を下回り、再度第1のしきい値L1を超えた時点(時間)d4で最大位置P3をクリアし、再びピークホールドを開始して、L1を下回った時点(時間)d4’で最大位置P4を記憶する。次に、第2のしきい値L2を超えた状態から下回った時点(時間)d5において荷重変曲点を確定し、最大位置P4を荷重変曲点位置として検出する。なお、時間d3’の時点で最大位置P3を荷重変曲点位置として確定してもよいが、荷重変曲点を検出したときにプレス工程を終了させることを考慮し、より確実性を担保するために時間d5の時点で最大位置P4を荷重変曲点位置として確定している。
【0024】
なお、第2のしきい値L2は、第1のしきい値L1と独立に設定することもできるが、第1のしきい値L1を超えた変化量最大値L1Pと関連付けて動的に設定することもできる。すなわち、ΔThを所定量として、L2=L1P−ΔThと設定してもよい。図4には、L1P−ΔThとして設定される第2のしきい値L2’を併せて示す。L2’を用いる場合、上記の(3)は、
(3)’第1のしきい値L1を超えて保持されている変化量の最大値L1PからΔThだけ下回ったときに保持されている最大位置を荷重変曲点として確定する。
と言い換えることもできる。このとき、時間d6の時点でP4が荷重変曲点位置として確定される。(3)あるいは(3)’のいずれを用いるかは、プレス工程の性質に応じて適宜切り替えて決定することができる。ピークが単調に増加・減少することが期待できる場合には(3)を用い、期待できない場合には(3)’を用いる場合等である。ΔThの大きさを調整し、変動が大きいほどΔThを大きく設定することで、ピークの変動分を吸収して荷重変曲点位置を確定することができる。なお、(3)’はピークが単調に増加・減少するときのみ、第1しきい値L1と第2しきい値L2の大小関係がL1<L2であっても、L1P>L2の条件を満たしていれば、正しく変曲点を確定することができる。
【0025】
図5に、他のプレス工程における荷重プロファイル15と傾きの変化量17を示す。荷重変曲点が2つ存在する場合である。この場合、傾きの変化量17にはピークa、b、c、dが出現する。検出すべきピークは、1番目の荷重変曲点と2番目の荷重変曲点であり、ピークb、dである。ピークbは上記の(1)〜(3)の基準で検出することができる。ピークdは、ピークbが検出された場合に、その次に検出されたピークとして確定できる。ピークdのレベルが小さくピークaと同程度の場合、ピークdのレベルが第1のしきい値L1を超えない場合もあり得る。したがって、この場合には、ピークbが検出された場合、第1のしきい値L1のレベルを下げてピークdを検出するようにしてもよい。第1のしきい値L1を下げる場合、第2のしきい値L2あるいはL2’も同時に下げることは言うまでもない。あるいは、第1のしきい値L1を当初より十分低い値に設定しておき、プレス開始から所定時間経過した後に大小比較を開始することで、ピークaを検出から除外するようにしてもよい。
【0026】
一方、プレス工程に何らかの異常が生じ、荷重変曲点が検出できない事態も生じ得る。この場合、本実施形態では荷重変曲点を検出してプレス工程を終了させるため、いつまでもプレス工程が終了しない事態が想定される。もちろん、プレス開始からの経過時間によりプレス工程を強制的に終了させることも考えられるが、より早期に終了できれば好ましい。そこで、図6に示すように、傾きの変化量17のピークcに着目し、このピークcを検出してプレス工程を終了するようにする。ピークcは負のピークであり、負のしきい値L3を設定してこれを下回ったか否かを判定することでピークcを検出できる。ピークbやピークdを検出できず荷重変曲点を確定できない場合であって、ピークcを検出した場合に、速やかにプレス工程を終了させればよい。要するに、ピークcは、荷重変曲点を検出できない場合にプレス工程を迅速に終了させるためのトリガとして利用することが可能である。
【0027】
図7に、さらに他の荷重プロファイル15と傾きの変化量17を示す。荷重プロファイル15が区間t1において極大値と極小値を有する場合である。この場合、極大値と極小値に対応して傾きの変化量17にもピークe、fが出現する。したがって、全部でピークa、e、f、b、cが出現する。この場合にも、上記の(1)〜(3)あるいは(3)’の規則を用いてピークbを検出して荷重変曲点を確定してプレス工程を終了することができ、荷重変曲点を確定できない場合にはピークcでプレス工程を終了することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、荷重変曲点を検出できない場合にピークcを検出しているが、荷重変曲点を検出できたか否かによらず、あるいは変曲点検出とは無関係に、ピークcのみを検出することも可能である。荷重変曲点検出と並行してピークcの検出を行い、ピークcが検出された場合であって未だプレス工程が続行されている場合に一律にプレス工程を終了させてもよい。ピークcを検出してプレス工程を終了させることで、装置外部から停止信号を受けることなくプレス工程を終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態の構成図である。
【図2】荷重プロファイル説明図である。
【図3】荷重プロファイルと傾きの変化量の対応関係を示す説明図である。
【図4】ピークbの検出説明図である。
【図5】他の荷重プロファイルと傾きの変化量の対応関係を示す説明図である。
【図6】ピークcの検出説明図である。
【図7】他の荷重プロファイルと傾きの変化量の対応関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 プレス工程評価装置、14 表示装置、15 荷重プロファイル、16 CPU、17 傾きの変化量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス工程の荷重変曲点を検出する方法であって、
プレス工程時に検出された、時間あるいは変位の関数としての荷重値を入力するステップと、
前記荷重値の傾きの変化量を算出するステップと、
算出された前記荷重値の傾きの変化量から荷重変曲点を検出するステップであって、第1の正のしきい値と前記第1のしきい値よりも小さい第2の正のしきい値を用い、前記荷重値の傾きの変化量が前記第1のしきい値及び前記第2のしきい値を超え、かつ、その後に前記第2のしきい値を下回る時点を検出することで前記荷重変曲点を検出するステップと、
を有することを特徴とするプレス工程の荷重変曲点検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
前記第2のしきい値は、前記第1のしきい値を基準として設定されることを特徴とするプレス工程の荷重変曲点検出方法。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載の方法において、さらに、
前記荷重変曲点が検出されない場合に、第3の負のしきい値を用い、前記荷重値の傾きの変化量が前記第3のしきい値を下回る時点を検出することで前記プレス工程の終了時点を検出するステップと、
を有することを特徴とするプレス工程の荷重変曲点検出方法。
【請求項4】
プレス工程の荷重変曲点を検出する装置であって、
プレス工程時に検出された、時間あるいは変位の関数としての荷重値を入力する手段と、
前記荷重値の傾きの変化量を演算する手段と、
算出された前記荷重値の傾きの変化量から荷重変曲点を検出する手段であって、第1の正のしきい値と前記第1のしきい値よりも小さい第2の正のしきい値を用い、前記荷重値の傾きの変化量が前記第1のしきい値及び前記第2のしきい値を超え、かつ、その後に前記第2のしきい値を下回る時点を検出することで前記変曲点を検出する手段と、
を有することを特徴とするプレス工程の荷重変曲点検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、さらに、
前記時間あるいは変位の関数としての荷重値を表示するとともに、前記荷重値と同期させて前記荷重値の傾きの変化量を表示する手段と、
を有することを特徴とするプレス工程の荷重変曲点検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−279603(P2009−279603A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132710(P2008−132710)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003676)ティアック株式会社 (339)
【Fターム(参考)】