説明

プレス機械

【課題】作業者安全の確実担保と、段取作業の迅速・容易化を図る。
【解決手段】段取位置停止実行宣言が成されかつ検出スライド位置と設定段取位置とが等しいことを条件に成形動作指令操作が継続されているにも拘らずモータ回転駆動制御を強制的に中断させて段取位置停止制御に切換可能で、成形動作指令操作が一旦解除されかつその後に再び成されたことを条件に、段取位置停止制御を解除しかつ中断されていた回転駆動制御に戻し切換可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スライド駆動制御装置を備え、成形動作情報に基づきモータを回転駆動制御しかつスライド駆動機構を介してモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつ設定領域内でプレス成形可能に形成されたプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータを用いたプレス機械は、各種スライドモーションを容易に設定(選択)変更可能である(例えば、特許文献1)。スライドを一時停止、低速下降さらには昇降反転等もできるから、プレス成形態様に対する適応性を拡大できかつ高品質製品を生産できる。
【0003】
かかるプレス機械では、スライド駆動制御装置(モータ回転制御部)が、予め設定された成形動作情報(成形動作指令信号)にしたがってモータを回転制御する。スライド駆動機構部は、モータ回転により発生されるモータ回転動力を入力として、スライドを駆動する。スライド駆動機構部としては、クランク機構、リンク機構あるいはねじ機構が知られているが、いずれのスライド駆動機構の場合でも、成形動作情報は、工程(時間、角度等)ごとのスライド位置として規定(作成)される。
【0004】
図8、図9は、スライド駆動機構部がクランク機構とされた場合の、プレス成形(生産)用のスライドモーションとモータ速度の一例を示す。図8の1工程(時間t1〜t2)は、最下位置(下死点)をゼロ(0mm)としたとき、スライドはA点高さ(100)からB点(50)まで下降される。2工程(時間t2〜t3)では、B点(50)からC点(0)まで下降される。3工程はスライドを最上位置(上死点…図示省略)まで上昇させる。スライド速度は、加減速域を除き一定である。
【0005】
ところで、最初のプレス生産前には、実際プレス運転と同様な試運転によりスライド駆動を行ないつつ、いわゆる段取作業(例えば、A点で金型や周辺機器との干渉が生じるか否かをチェックする。B点で成形状態に関する予測確認をする。)が行なわれている。
【0006】
A点にスライドを一旦停止させるには、いわゆる寸動モードでスライドを下降させている。なお、実際プレス運転が寸動モード、安全一行程モードあるいは連続モードのいずれで行なわれる場合でも、段取作業に限っては寸動モードと同じ運転態様でスライドを下降させている。
【0007】
つまり、A点の手前に来ると、運転ボタンを極短時間だけ押下してスライド下降量を小さくし、この繰返しによりスライドを次第にA点(100mm)に近づけつつ、その位置で停止させている。B点に停止させる場合も同様である。したがって、慎重な作業が求められ、長時間を要する。作業者の経験と慣れによるところが大きいので、作業時間にバラツキが多い。
【0008】
サーボプレスの優位性を十二分に発揮させかつ一段の普及拡大を図るには、生産に先立つ段取作業のために必要とするスライド位置決め停止の容易化と時間短縮化が重要である。
【0009】
ここに、実際プレス運転用の成形動作情報にスライドをA点、B点で自動的に停止させるための情報を予め組込んでおく。そして、段取作業用の一定時間が経過すると、成形動作情報に基づく実際プレス運転に自動復帰させるという考え方がある。
【特許文献1】特開2003−205395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、かかる考え方は、段取作業位置(例えば、A点)におけるスライドの停止時間を設定しておくことになる。これを経験と慣れに任せると、設定時間が短く設定された場合は段取作業が未完成になる事態を招き易く、長く設定された場合は無駄時間を費やすことになるで生産性を低下させる虞が強い。
【0011】
また、自動的に発せられる電気信号(例えば、搬送終了信号)により、自動復帰させる方法がとられる。つまり、段取作業中にスライドが突然に動き出してしまう事態が発生する。危険極まりない。
【0012】
さらに、起動(立ち上げ)の度に、スライドが必ず停止することになる。その停止時間が無駄であるケースもある。生産性向上に反すると指摘されている。
【0013】
特に、作業要員の人材不足等との関係も相俟って、作業性と生産性との観点から段取作業についての運用上の実務的観点から、見直しが求められている。
【0014】
本発明の目的は、作業者の安全を確実に担保した上で、段取作業を迅速かつ容易に行えるプレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明に係るプレス機械は、成形動作情報に基づきモータを回転駆動制御するスライド駆動制御装置を備え、スライド駆動機構を介してモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつ設定領域内でプレス成形可能に形成されたプレス機械において、作業者の成形動作指令操作が継続している限りにおいて前記回転駆動制御を継続実行可能に形成し、段取位置停止実行宣言が成されかつスライド位置と予め設定された段取位置とが等しいと判別されたことを条件に成形動作指令操作が継続されているにも拘らず前記モータ回転駆動制御を強制的に中断させてスライドを設定段取位置に停止させる段取位置停止制御に切換可能に形成し、段取位置停止制御中に成形動作指令操作が一旦解除されかつその後に再び成されたことを条件に段取位置停止制御を解除しかつ中断されていた前記回転駆動制御に戻し切換可能に形成されている。
【0016】
また、請求項2に係るプレス機械は、成形動作情報に基づきモータを回転駆動制御するスライド駆動制御装置を備え、スライド駆動機構を介してモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつ設定領域内でプレス成形可能に形成されたプレス機械において、作業者の成形動作指令操作が成されている場合に成形動作指令信号を発生する成形動作指令信号発生手段を設けかつ前記スライド駆動制御装置を成形動作指令信号が継続して発生されている限りにおいて前記回転駆動制御を継続実行可能に形成し、段取位置を設定する段取位置設定手段と、設定された段取位置を記憶する記憶手段と、段取位置停止実行宣言を成すための段取位置停止実行宣言手段と、検出されたスライド位置と記憶手段に記憶された設定段取位置とが等しいか否かを判別可能な判別手段と、段取位置停止実行宣言が成されかつ判別手段により検出スライド位置と記憶設定段取位置とが等しいと判別されたことを条件に成形動作指令信号が継続して発生されているにも拘らず前記スライド駆動制御装置の前記モータ回転駆動制御を強制的に中断させてスライドを記憶設定段取位置に停止させるための段取位置停止制御を行なう段取位置停止制御手段と、段取位置停止制御中に成形動作指令信号が一旦消滅しかつその後に再び発生されたことを条件に段取位置停止解除信号を発生する段取位置停止解除信号発生手段と、段取位置停止解除信号が発生された場合に段取位置停止制御を解除しかつ中断されていた前記回転駆動制御に戻し切換する戻し切換制御手段と、を設けてなる。
【0017】
また、請求項3の発明は、前記成形動作指令信号発生手段が、2つの押しボタンを両手で同時に押下操作されていることを条件に前記成形動作指令信号を発生可能に形成されている。さらに、請求項4の発明は、前記記憶手段が、複数段階の設定段取位置を記憶可能に形成されている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、作業者の安全を確実に担保した上で、段取作業を迅速かつ容易に行なうことができる。段取作業の時間短縮を促進できるので生産性を大幅に向上できる。
【0019】
請求項2の発明よれば、請求項1の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、作業者の意思確認が反映されるので、適応性が広くかつ取扱いが容易である。
【0020】
また、請求項3の発明によれば、請求項2の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、作業者の上半身の安全確保が完璧となる。さらに、請求項4の発明によれば、請求項2および3の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらに運用上の適応性が広い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
本プレス機械1は、図1〜図6に示す如く、スライド駆動制御装置30を成形動作指令信号Sが継続して発生されている限りにおいて回転駆動制御を継続実行可能に形成し、成形動作指令信号発生手段10(10L,10R)と段取位置設定手段25Pと記憶手段23Pと段取位置停止実行宣言手段25Dと判別手段(21,22,23)と段取位置停止制御手段(21,22,23)と段取位置停止解除信号発生手段(10)と戻し切換制御手段(21,22,23)とを設け、段取位置停止実行宣言が成されかつ検出されたスライド位置と予め設定された段取位置とが等しいと判別されたことを条件に成形動作指令操作が継続されているにも拘らずモータ回転駆動制御を強制的に中断させて段取位置停止制御に切換可能で、成形動作指令操作が一旦解除されかつその後に再び成されたことを条件に、段取位置停止制御を解除しかつ中断されていた回転駆動制御に戻し切換可能に形成されている。
【0023】
確認的に、プレス機械1は、成形動作情報に基づきモータ7を回転駆動制御するスライド駆動制御装置30を備え、スライド駆動機構(2)を介してモータの回転運動をスライド6の昇降運動に変換しつつ設定領域内でプレス成形可能に形成されている。
【0024】
図1において、スライド駆動機構は、クランク軸3(クランク部4)を含むクランク機構2から構成されている。このクランク軸3は、軸受に回転自在に支持されかつ直接連結されたAC(交流)サーボモータ7の回転制御により可逆回転(正回転,逆回転)駆動制御可能である。サーボモータ7はDC(直流)サーボモータやリアクタンスモータとしてもよい。
【0025】
なお、クランク軸3とモータ7とは、ギヤ(減速機)を介して間接的に連結させてもよい。ギヤ(減速機)を介せば、一段と高い加圧力を得ることができる。また、スライド駆動機構は、リンク機構やボールねじ機構から形成しても実施することができる。
【0026】
スライド6は、フレーム本体に上下方向に摺動自在に装着され、バランス装置に係合されている。クランク軸3を回転駆動すれば、コネクティングロッド5を介してスライド6を昇降駆動することができる。金型はスライド6側の上型とボルスタ(図示省略)側の下型とからなる。
【0027】
ACサーボモータ7に連結されたエンコーダ8は、原理的には多数の光学的スリットと光学式検出器とを有し、モータ7(クランク軸3)の回転角度(クランク角度)θを出力するが、この実施形態では、回転角度(パルス信号)をスライド6の上下方向位置(パルス信号)に変換して出力する信号変換器(図示省略)を含むものとされている。
【0028】
図1において、プレス制御盤20は、CPU21,不揮発性のメモリ(ROMやHDD等)22,電源断でもデータを記憶保持可能なメモリ(フラッシュRAM等)23,タッチパネル24(操作部25および表示部26)およびインターフェース27・28を含み、メモリ22に格納されたプレス運転プログラムによりスライド駆動制御装置(モータ回転制御部)30にスライド駆動制御指令信号Smtnを生成出力してサーボモータ7を回転制御し、スライド6を昇降運動させることができる。なお、図1ではワーク搬送装置等に関する事項は記載省略している。
【0029】
スライド6の成形動作情報(モーション軌跡)は、図5に示すように経過時間t(あるいは角度θとしてもよい。)とスライド位置Pとを対応させたデータであり、操作部25を用いて設定できる。設定された成形動作情報は、不揮発性メモリ22内の成形動作情報エリア22mtnに後で選択利用可能に記憶される。プレス運転に先立ち選択された成形動作情報は、記憶保持可能なメモリ23に展開される。
【0030】
プレス運転に際して、操作部25を用いて希望の成形動作情報を選択すると、位置パルスの払出し方式構造のスライド駆動制御指令部(21,22,23)は、メモリ22mtnに格納されたプレス運転プログラム(駆動制御指令信号生成出力制御プログラム)に従いスライド駆動制御指令信号Smtnをスライド駆動制御装置30に出力する。
【0031】
例えば、モータ回転速度が120RPMで、エンコーダ8から1回転(360度)当りに出力されるパルス数が100万パルスで、払出しサイクルタイムが5mSである場合は、1サイクル(5mS)毎に出力されるパルス数は、10000パルス[=(1000000×120)/(60×0.005)]となる。
【0032】
なお、急激なトルク変化を防止する策として、図6に示す如く起動直後に加速区間(出力パルス数を漸次増加)を、停止直前に減速区間(出力パルス数を漸次減少)を設けている。
【0033】
このスライド駆動制御指令信号Smtnを受けたスライド駆動制御装置30では、位置比較器31が目標値であるスライド駆動制御指令信号Smtnとエンコーダ8で検出された実際のスライド位置信号(フィードバック信号f)とを比較して位置偏差信号を生成出力する。位置速度制御部(位置制御部)32は、入力された位置偏差信号を累積し、それに位置ループゲインを乗じ、速度信号を生成出力する。速度比較器(図示省略)は速度信号と速度検出器(エンコーダ8)からの速度信号(この場合は信号fの速度成分)とを比較して速度偏差信号を生成出力する。
【0034】
速度制御部は、入力された速度偏差信号に速度ループゲインを乗じ電流指令信号を電流制御部(アンプ33)に生成出力する。この電流指令信号は、実質的にはトルク信号である。
【0035】
アンプ33は、各相目標電流信号を生成しかつ電流偏差信号を生成出力する。引続き、PWM制御、パルス幅変調により各相の電流偏差信号からPWM信号が生成される。最終的には、各PWM信号でスイッチング(ON/OFF)制御され、各相モータ駆動電流U,V,Wを出力することができる。かくして、サーボモータ7を回転駆動制御することができる。
【0036】
ここに、成形動作指令信号発生手段10は、作業者の成形動作指令操作が成されている場合に、成形動作指令信号Sを発生する手段である。この手段としては、両手で押える1つの押しボタン型,ナイフスイッチ型やフートスイッチ型など種々あるが、この実施の形態では作業者の作業性と上半身(主に、手首)の保護との観点から、図1に示す2つの押しボタン10L,10Rから形成してある。
【0037】
すなわち、両手で左右の押しボタン10L,10Rを同時に押し続けている間は、成形動作指令信号Sを継続して発生することができる。スライド駆動制御装置30は、成形動作指令信号Sが継続して発生されている限りにおいて、スライド駆動制御指令信号Smtnに従う回転駆動制御を継続実行可能に形成されている。
【0038】
次に、段取位置設定手段は、段取位置(スライド位置)を設定する手段であり、操作部25内の置数キー等25Pから形成され、段取位置(例えば、図5の“A点”,“B点”,“C点”の各スライド位置)を設定することができる。この設定段取位置は、図2に示す如く記憶手段(メモリ23P)に記憶保持される。この実施の形態では、速度もリンクさせて記憶する。
【0039】
段取位置停止実行宣言手段は、宣言キー25Dから形成され、設定段取位置においてスライド6を強制的に停止させるための実行宣言を成す(図3のST15でYES)ために供される。この実行宣言は、プレスサイクルに1回で済むように形成することができるが、この実施の形態では、設定段取位置(Pin)ごとに宣言可能である(図3のST15で、YESまたはNO)。
【0040】
判別手段(21,22,23)は、判別制御プログラムを格納させたメモリ22および展開用のメモリ23と当該プログラムを実行するCPU21とから形成され、検出されたスライド位置Piと記憶手段23Pに記憶された設定段取位置(例えば、“A点=100”、“B点=50”、“C点=0”mm)とが等しいか否かを判別(図3のST16〜ST18)する。
【0041】
段取位置停止制御手段(21,22,23…判別手段の場合と同様である。以下、同様。)は、段取位置停止実行宣言が成され(ST15でYES)かつ判別手段により検出スライド位置Piと記憶設定段取位置(Pin)とが等しいと判別されたことを条件(ST18でYES)に、段取位置停止制御を行なう。
【0042】
スライド6を記憶設定段取位置(Pin)に停止させるための段取位置停止制御は、成形動作指令信号発生手段(21,22,23)から成形動作指令信号Sが継続して発生されているにも拘らず、強制停止信号Sstpを出力してスライド駆動制御装置30のモータ回転駆動制御を強制的に中断させかつ停止させる。作業者の経験や慣れに優先する。中断停止は、位置速度制御部32に入力される位置偏差をゼロ(モータロック)とする状態である。
【0043】
段取位置停止解除信号発生手段(21,22,23)は、段取位置停止制御中(図4のST30でYES)に、成形動作指令信号Sが一旦消滅(ST31でYES)しかつその後に再び発生(ST32でYES)されたことを条件に段取位置停止解除信号(S)を発生する(ST33、図3のST20でYES)。一旦消滅から再びの発生までの許容時間(例えば、1秒以内)を管理するのが好ましい。
【0044】
戻し切換制御手段(21,22,23)は、段取位置停止解除信号が発生された場合(ST20でYES)に、段取位置停止制御を解除しかつ中断されていたスライド駆動制御指令信号Smtnに基づく回転駆動制御に戻し切換する(ST21)。
【0045】
なお、図3のST14に記載した“Pin”は、最終の設定段取位置を示す。設定段取位置が3つ場合(一番目のA点と二番目のB点と三番目のC点)は、Pinは三番目のC点(0)である。
【0046】
但し、ST22の場合は、任意の設定段取位置を示す。一番目の動作(ST10〜ST21)が終了した時に次は二番目と更新(Pin=Pin+1)させる。二番目から三番目への更新(歩進)も同じである。
【0047】
この実施の形態では、現在のスライド位置Piが三番目の設定段取位置(C=0)以上でない場合(ST14でNO)は、段取位置停止制御動作(ST15〜ST22)には進まず、通常運転側(ST10)に戻す。
【0048】
なお、スライド上昇中のスライド位置Piは取扱い便宜上、マイナス(−)の位置とする。
【0049】
かかる構成の実施の形態では、成形動作指令信号発生手段10を形成する押しボタン10L,10Rを両手で同時に押下すると、成形動作指令信号Sが発生される(図3のST10でYES)。すると、スライド駆動制御指令部(21,22,23)が、スライド駆動制御指令信号Smtnをスライド駆動制御装置30に出力する。
【0050】
かくして、モータ7の回転駆動制御が開始される(ST11でNO、ST12、ST13)。スライド6は図5に示すA点に向かって下降する。モータ速度は、図6に示す台形状である。回転駆動制御(ST11でYES)中の場合は、ST14へ進む。なお、途中に、押しボタン10L,10Rから片手または両手を離せば、回転駆動制御は停止される(ST10でNO、ST23)。
【0051】
検出スライド位置Piが一番目(A点)の設定段取位置Pin(=100mm)である場合(ST14でYES)でかつ段取位置停止実行宣言手段(25D)を用いた段取位置停止実行宣言が成されている場合(ST15でYES)は、スライド下降中に、判別手段がスライド6の検出(読取り)位置Piと一番目の設定段取位置Pinとが等しいと判別する(ST16、ST17、ST18でYES)。
【0052】
すると、段取位置停止制御手段(21,22,23)は、段取位置停止制御により成形動作指令信号Sが継続して発生されているにも拘らずモータ回転駆動制御を強制的に中断させて、スライド6を記憶設定段取位置(A点…100mm)に停止(ST19)させる。経過時間はt1である。
【0053】
つまり、作業者が、スライド6の現在位置Piを目視確認し、経験と慣れにより押しボタン10L,10Rの押下、手放しを頻繁に繰り返しつつ、スライド6を一番目の段取位置(A点)に位置決めする手動運転をする必要がなくなる。手間と時間を大幅に削減できる。精神的肉体的にも解放されるので、本来的目的(段取作業)に集中できる。
【0054】
この強制的な中断・停止は、スライド駆動制御装置30内の偏差をゼロとするモータロック状態であるから、スライド6を確実に固定化できる。作業の安全を確約できる。
【0055】
一方において、強制的な中断・停止時間の長短は、作業者の熟練度に応じて選択(指定)ができるように形成されている。すなわち、作業者が、自ら段取作業が完璧であると信じられるタイミングにおいて、自らの意思により作業終了宣言およびスライド下降許可宣言を行なう。
【0056】
スライド6が停止された図5に示すA点から停止解除点(A1点)までの停止継続時間は、作業者の総合能力によって決まる。つまり、熟練度の低い作業者(者)には慎重作業(比較的に長時間)を許し、高い者には生産性向上(短時間化)に対する貢献度を認める運用ができる。極めて、現実的で適応性の広いものであると理解できる。
【0057】
そして、押しボタン10L,10Rから手を離すと、成形動作指令信号Sが一旦消滅(図4のST31でYES)する。その後(例えば、1秒以内)に、再び押しボタン10L,10Rを押下すると、再び成形動作指令信号Sが発生(ST32でYES)される。これらの宣言行為が成されたことを条件に、段取位置停止解除信号(S)が発生される(ST33、図3のST20でYES)。作業者(人身)の安全も担保される。
【0058】
かくして、段取位置停止制御が解除されかつスライド駆動制御指令信号Smtnに基づくスライド駆動(下降)に戻る(ST21)。点Bに向かって下降する。この際、Pin(一番目A点=100)を次のPin(二番目B点=50)に更新(Pin→Pin+1)しておく(ST22)。
【0059】
以下、図5に示す二番目(B−B1点)、三番目(C−C1点)に関しても、一番目(A−A1点)の場合と同様に実行される。なお、停止実行宣言をしない(ST15でNO)ことにより、3つの設定段取位置の一部について、段取停止制御を実行しないことも、選択できる。生産プレス運転では、全部について停止実行宣言をしない。
【0060】
しかして、この実施の形態によれば、成形動作指令信号発生手段10(10L,10R)と段取位置設定手段25Pと記憶手段23Pと段取位置停止実行宣言手段25Dと判別手段(21,22,23)と段取位置停止制御手段(21,22,23)と段取位置停止解除信号発生手段(10)と戻し切換制御手段(21,22,23)とを設け、段取位置停止実行宣言が成されかつ検出スライド位置と設定段取位置とが等しいと判別されたことを条件に成形動作指令操作が継続されているにも拘らず段取位置停止制御に切換可能で、成形動作指令操作が一旦解除されかつその後に再び成されたことを条件に回転駆動制御に戻し切換可能であるから、作業者の安全を確実に担保した上で、段取作業を迅速かつ容易に行なうことができる。段取作業の時間短縮を促進できるので生産性を大幅に向上できる。
【0061】
段取位置停止実行宣言をしておけば、成形動作指令操作が継続中でもスライド6を設定位置に正確に停止できので、金型や周辺機器との干渉を容易に確認できる。すなわち、作業者の経験と慣れによる技量にのみ左右されることがなく、安定した段取作業を行えかつ作業時間を短縮できる。スライドを加圧位置で停止させれば、停留時間の検証も可能である。
【0062】
また、段取位置停止実行宣言手段25Dを用いた段取位置停止実行宣言と、成形動作指令信号発生手段10(10L,10R)を用いた段取位置停止解除宣言という形で、作業者の意思確認を反映することができるから、適応性が広くかつ取扱いが容易である。
【0063】
また、成形動作指令信号発生手段が、2つの押しボタン10L、10Rを両手で同時に押下操作されていることを条件に成形動作指令信号を発生可能に形成されているので、作業者の上半身の安全確保が完璧となる。
【0064】
さらに、記憶手段23Pが、複数段階の設定段取位置を記憶可能であるから、運用上の適応性が広い。
【0065】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、基本的な構成・機能が第1の実施形態の場合と同様とされているが、第1の実施形態の場合(エンコーダ8を用いたスライド6の検出位置と記憶手段23Pを用いた設定段取位置とを比較してスライド停止制御を実行可能に構築されている。)と異なり、電子カムを用いて設定記憶させた段取位置においてスライド停止制御を実行可能に形成されている。
【0066】
電子カムに設定した位置で発生される信号により、当該スライド位置で停止制御させることができる。図7の場合は、スライドの下降中にスライド位置が80mmとなったときにONとなりかつ70mmでOFFとなる信号を発する。つまり、スライド下降中は、80mmと70mmの2段階で停止制御可能である。
【0067】
また、上昇中にスライド位置が70mmでONとなり90mmでOFFとなる信号を発する。つまり、スライド上昇中は、70mmと90mmの2段階で停止制御可能である。
【0068】
なお、その他の構成・動作については、第1の実施の形態から容易に理解できるので、説明を省略する。
【0069】
しかして、この実施の形態によれば、第1の実施の形態の場合と同様な効果を奏することができる。また、電子カムの取り扱いを熟知する者に対する本発明の利用性を高められる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、段取作業の迅速・容易化並びに人身安全担保の確実化を企図する各種のプレス機械として利用できかつ生産性の向上に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するためのブロック図である。
【図2】同じく、記憶手段と記憶内容を説明するための図である。
【図3】同じく、作用・動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】同じく、段取位置停止制御解除の発生動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】同じく、スライドモーションを説明するためのタイミングチャートである。
【図6】同じく、図5に対応されたモータ速度切換動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る電子カムと設定値例を説明するための図である。
【図8】従来例(スライドモーション)を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】従来例(図8に対応されたモータ速度切換動作)を説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1 サーボプレス
2 クランク機構
6 スライド
7 サーボモータ
10 成形動作指令信号発生手段(段取位置停止解除信号発生手段)
10L,10R 押しボタン
20 プレス制御盤
21 CPU(判別手段、段取位置停止制御手段、戻し切換制御手段)
22 不揮発性メモリ(判別手段、段取位置停止制御手段、戻し切換制御手段)
23 記憶保持可能なメモリ(判別手段、段取位置停止制御手段、戻し切換制御手段)
23P 記憶手段
24 タッチパネル
25 操作部
25D 段取位置停止実行宣言手段
25P 段取位置設定手段
30 スライド駆動制御装置(モータ回転制御部)
32 位置速度制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形動作情報に基づきモータを回転駆動制御するスライド駆動制御装置を備え、スライド駆動機構を介してモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつ設定領域内でプレス成形可能に形成されたプレス機械において、
作業者の成形動作指令操作が継続している限りにおいて前記回転駆動制御を継続実行可能に形成し、
段取位置停止実行宣言が成されかつスライド位置と予め設定された段取位置とが等しいと判別されたことを条件に成形動作指令操作が継続されているにも拘らず前記モータ回転駆動制御を強制的に中断させてスライドを設定段取位置に停止させる段取位置停止制御に切換可能に形成し、
段取位置停止制御中に成形動作指令操作が一旦解除されかつその後に再び成されたことを条件に段取位置停止制御を解除しかつ中断されていた前記回転駆動制御に戻し切換可能に形成された、プレス機械。
【請求項2】
成形動作情報に基づきモータを回転駆動制御するスライド駆動制御装置を備え、スライド駆動機構を介してモータの回転運動をスライドの昇降運動に変換しつつ設定領域内でプレス成形可能に形成されたプレス機械において、
作業者の成形動作指令操作が成されている場合に成形動作指令信号を発生する成形動作指令信号発生手段を設けかつ前記スライド駆動制御装置を成形動作指令信号が継続して発生されている限りにおいて前記回転駆動制御を継続実行可能に形成し、
段取位置を設定する段取位置設定手段と、
設定された段取位置を記憶する記憶手段と、
段取位置停止実行宣言を成すための段取位置停止実行宣言手段と、
検出されたスライド位置と記憶手段に記憶された設定段取位置とが等しいか否かを判別可能な判別手段と、
段取位置停止実行宣言が成されかつ判別手段により検出スライド位置と記憶設定段取位置とが等しいと判別されたことを条件に成形動作指令信号が継続して発生されているにも拘らず前記スライド駆動制御装置の前記モータ回転駆動制御を強制的に中断させてスライドを記憶設定段取位置に停止させるための段取位置停止制御を行なう段取位置停止制御手段と、
段取位置停止制御中に成形動作指令信号が一旦消滅しかつその後に再び発生されたことを条件に段取位置停止解除信号を発生する段取位置停止解除信号発生手段と、
段取位置停止解除信号が発生された場合に段取位置停止制御を解除しかつ中断されていた前記回転駆動制御に戻し切換する戻し切換制御手段と、
を設けたプレス機械。
【請求項3】
前記成形動作指令信号発生手段が、2つの押しボタンを両手で同時に押下操作されていることを条件に前記成形動作指令信号を発生可能に形成されている、請求項2記載のプレス機械。
【請求項4】
前記記憶手段が、複数段階の設定段取位置を記憶可能に形成されている、請求項2または3記載のプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−106962(P2009−106962A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280913(P2007−280913)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】