説明

プレス機械

【目的】 プレス品の成形精度の高精度化、型寿命の低下防止、成形荷重の減少、材料加工時の振動、騒音の低減を図る。
【構成】 クランク軸8に角度位相差を有する複数の偏心部9を設け、偏心部9にコンロッド10を介して互いに分離されたスライド12を連結する。スライド12の水平方向位置を圧油が供給されるパッド等からなるスライド水平方向位置調整装置42で調整し、スライド12をコンロッド10に対して油圧シリンダ、受圧部材等からなるスライド昇降装置11で昇降動自在とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、クランク軸の回転でスライドを上下動させて材料を加工するプレス機械に関する。
【0002】
【背景技術】クランク軸にコンロッドを介して連結されたスライドをクランク軸の回転により上下動させ、これによりスライドに取り付けられた上型とボルスタに取り付けられた下型とで材料を加工するプレス機械では、ベッドとクラウンとを結合するコラムに設けたギブとスライドに設けたギブとで構成されるスライドガイドによりスライドの上下動を案内させ、また、上型と下型からなる金型装置にガイドポストを設け、このガイドポストで上型を下型に対して案内させて上下動させている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】プレス加工される材料には厚さのばらつきや硬さのばらつきがあり、このため、スライドの下降により材料を加工するときにおける材料からの反力として、上型、スライドには水平方向のスラスト荷重が作用する。このスラスト荷重は、従来、前述のスライドガイドやガイドポストで受けられ、これにより、上型、スライドの水平方向移動を阻止してプレス品の成形精度を得ようとしていた。しかし、この従来技術は、スラスト荷重による上型、スライドの水平方向移動を弾性変形するスライドガイド、ガイドポストで阻止しようとする消極的な問題解決手段であり、プレス品を一定精度以上に高精度成形することは困難であった。
【0004】また、材料を間欠送りしてこの材料を複数の加工ステージで順番に加工する従来のプログレッシブ加工用プレス機械では、1個のスライドに各加工ステージと対応して複数の上型が取り付けられているため、このスライドの下降によりこれらの上型がボルスタに取り付けられた複数の下型と共に材料を加工する際、一つの加工ステージにおける上型に前記スラスト荷重が作用すると、このスラスト荷重はスライドを介して他の上型に伝達されてしまい、このため、上型同士は互いに悪影響を及ぼし合い、この結果、プレス品の高精度成形を実現することは難しかった。また、上型は下型に対して芯ずれした状態で材料を加工することになるため、上型と下型は大きな摩擦力を受けることになり、この結果、金型の寿命が低下するという問題もあった。
【0005】また、従来の前記プログレッシブ加工用プレス機械では、スライドが下死点に達したとき各加工ステージにおける上型と下型とで材料は同時に加工されるため、プレス機械の成形荷重は大きくなり、このため、プレス機械に発生する振動、騒音が大きくなるという問題があった。
【0006】また、プレス機械には、金型交換で上型、下型の高さ寸法が変わった場合におけるスライドアジャスト作業やプレス加工熱でスライド等が熱膨張変形してスライドの下死点が変化した場合における下死点補正作業を行うためのスライド調整装置が必要であるとともに、上型が材料を打ち抜いたときにプレス機械に生じる振動、騒音を低減するためのブレークスルー対策装置も必要である。従来、これらは個別の装置としてプレス機械に設けられており、それだけプレス機械の構造が複雑になっていた。
【0007】本発明の目的は、材料の加工時におけるスラスト荷重によって上型、スライドが水平方向に移動するのを積極的に阻止でき、上型と下型の芯合せ状態を確保しながら材料をプレス加工できて高精度加工を達成できるプレス機械を提供するところにある。
【0008】また、本発明の目的は、上型が各加工ステージと対応して複数設けられている場合、一つの加工ステージにおける上型にスラスト荷重が作用しても、このスラスト荷重が他の上型に伝達されず、上型同士が互いに悪影響を及ぼすことがなく、これによりプレス品の成形精度を高精度にできるプレス機械を提供するところにある。
【0009】さらに、本発明の目的は、成形荷重を小さくでき、このため、振動、騒音を少なくできるプレス機械を提供するところにある。
【0010】また、本発明の目的は、スライド調整装置とブレークスルー対策装置とを個別の装置として設ける必要がなく、このため、構造の簡単化を達成できるプレス機械を提供するところにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明に係るプレス機械は、クランク軸にコンロッドを介してスライドが連結され、このスライドに取り付けられた上型とボルスタに取り付けられた下型とで材料を加工するプレス機械において、クランク軸に複数の偏心部を角度位相差をもたせて形成し、これらの偏心部にコンロッドを介して互いに分離、独立状態となった複数のスライドを連結し、プレス機械フレームにこれらのスライドと水平方向に対向配置されてスライドの水平方向の位置を調整するスライド水平方向位置調整装置を設け、スライドとコンロッドとの間にコンロッドに対してスライドを昇降可能とするスライド昇降装置を設けたことを特徴とするものである。
【0012】以上において、前記スライド水平方向位置調整装置は、一例として、2つの直交水平方向におけるスライドの位置を検出するセンサと、前記2つの直交水平方向に向いたスライドの4つの垂直面と僅少の隙間を開けてプレス機械フレームに取り付けられ、供給される圧油の圧力をこれらの垂直面に作用させる複数のパッドと、これらのパッドに圧油を供給する油圧回路中に設けられ、前記センサにより検出されたスライドの水平方向位置に応じて前記パッドへの圧油の供給を規定してスライドの位置を適正な水平方向位置とする制御バルブとを含んで構成されている。
【0013】また、前記スライド昇降装置は、一例として、スライドの上端に固設された油圧シリンダと、この油圧シリンダの内部室を上室、下室に区画するピストン部を有し、油圧シリンダから突出した上部にコンロッドの下部が連結された上下動自在な受圧部材と、上室と下室とを接続する油圧回路中に設けられ、下室中の圧油を上室に流入させる切換バルブとを含んで構成されている。
【0014】また本発明に係るプレス機械は、スライドを1個とし、かつ、前記スライド水平方向位置調整装置だけまたは前記スライド昇降装置だけを設けたものである。
【0015】
【作用】スライドが複数設けられたプレス機械では、それぞれのスライドは角度位相差を有するクランク軸の偏心部にコンロッドを介して連結されているため、これらのスライドは角度位相差分だけずれたタイミングで上下動し、上型と下型とによる材料の加工時期にずれが生じ、スライドの下降による材料の加工は同時に行われないため、プレス機械の成形荷重は小さくなる。また、それぞれのスライドは分離された独立状態となっているため、一つの加工ステージにおける上型にスラスト荷重が作用しても、これらのスライドに取り付けられた上型同士は互いに悪影響を及ぼし合うことはなく、また、それぞれのスライドはスライド水平方向位置調整装置により水平方向の位置が調整されるため、上型と下型は芯ずれが解消されて材料の加工を行い、材料の加工時にスライド水平方向位置調整装置により上型と下型とが自動調芯されることによってプレス品は高精度に成形され、また型寿命も長期化する。さらに、スライド昇降装置によりスライドをコンロッドに対して昇降させることにより、スライドアジャスト作業、スライド下死点補正作業を行え、また、材料の打ち抜き時にスライド昇降装置を作動させることによってブレークスルーにおける振動、騒音を減少できる。
【0016】スライドが1個で、スライド水平方向位置調整装置だけが設けられたプレス機械では、スライド水平方向位置調整装置による前述の上型と下型の芯ずれの解消を行え、またはスライド昇降装置だけが設けられたプレス機械では、スライド昇降装置による前述のスライドアジャスト作業、スライド下死点補正作業をおよびブレークスルーにおける振動、騒音の減少を達成できる。
【0017】
【実施例】以下に本発明の一実施例を添付図面に基づいて説明する。図1は本実施例に係るプログレッシブ加工用プレス機械1を示す。プレス機械1のクラウン2上にはモータ3が配置され、モータ3の駆動力はベルト4、フライホイール5、クラッチ6を介してブレーキ7付きのクランク軸8に伝達される。クラウン2の内部で回転自在に軸承されたクランク軸8には合計3個9A,9B,9Cの偏心部9が設けられ、これらの偏心部9にコンロッド10の上部が回転自在に嵌合され、コンロッド10の下部にはスライド昇降装置11を介してスライド12が連結されている。スライド12は偏心部9と同じく3個12A,12B,12Cあり、これらのスライド12は互いに分離した独立状態となっている。
【0018】偏心部9Aと9Cはクランク軸8の円周方向に同じ角度位相で形成されているが、偏心部9Bはこれらの偏心部9A,9Cに対しクランク軸8の回転方向に進んだ角度位相で形成されており、このため偏心部9A,9Cと9Bとの間には角度位相差があり、クランク軸8が回転したとき、スライド12Bが最も早く下死点に達し、次いでスライド12A,12Cが下死点が達するようになっている。
【0019】それぞれのスライド12の下面には上型13が取り付けられ、また、ボルスタ14の上面には上型13と対応する下型15が取り付けられ、これらの上型13、下型15により材料16をプログレッシブ加工するための加工ステージA,B,Cが形成されている。コイル材からなる材料16はフィードローラ装置17によりスライド12が上下動する毎に間欠送りされ、各加工ステージA,B,Cの上型13、下型15で順番に加工される。本実施例に係る上型13、下型15は材料16を打ち抜き加工するためのパンチ、ダイスとなっている。
【0020】図2はスライド12の形状を示す一部破断の正面図で、図3は図2のIII −III 線断面図、図4はスライド12の全体形状を示す斜視図である。図4において、スライド12は、下部の箱型ケース18内に収納された円形のプラテン19と、プラテン19に垂直に立設されたガイド部材20とを含んで構成され、ガイド部材20は前後方向、左右方向に延びる前方延出部20A、後方延出部20B、左方延出部20C、右方延出部20Dを有する平面十字形となっている。これらの延出部20A,20B,20C,20Dは、図3の通り、互いに反対側に向いた2つの面21と22、23と24、25と26、27と28を有しており、面25と28、面26と27、面21と24、面22と23により、スライド12には2つの直交水平方向である前後方向、左右方向に向いた4つの垂直面D,E,F,Gが設けられている。
【0021】プレス機械1のフレーム29には面21〜28と僅少の隙間を開けて対向するパッド30が取り付けられ、これらのパッド30には油圧源31からの高圧の圧油が油圧回路32を介して供給されるようになっており、それぞれのパッド30に供給された圧油の圧力が面21〜28に作用するようになっている。前記4つの垂直面D〜Gのうちの1つの垂直面を形成している面21〜28中の2つの面と対向している図3の2つのパッド30には、油圧回路32の分岐回路から圧油が共通して供給されるようになっている。具体的に説明すると、前後方向の前側に向いた垂直面Dを形成している面25と28に対向している2つのパッド30には油圧回路32の分岐回路32Aから圧油が供給され、前後方向の後側に向いた垂直面Eを形成している面26と27に対向している2つのパッド30には油圧回路32の分岐回路32Bから圧油が供給され、同様にして、左右方向の左側、右側に向いた垂直面F,Gを形成している面21と24、22と23と対向しているそれぞれの2つのパッド30には分岐回路32C,32Dから圧油が供給されるようになっている。なお、本実施例では、図4の通り、パッド30は上下二段に設けられており、このため、実際には1つの分岐回路から4つのパッド30に圧油が共通して供給されるようになっている。
【0022】図3の通り、以上の分岐回路32A〜32Dには制御バルブ33〜36が設けられている。これらの制御バルブ33〜36は図示しない制御装置からの電気信号によりオン、オフ作動し、オン作動したときには圧油をパッド30に供給し、オフ作動したときには油圧回路32からの圧油をタンク37に逃がすようになっている。また、制御バルブ33〜36はオン、オフ切換速度が極めて早い高応答性バルブであり、短時間内にオフ作動を多数回行えるものとなっている。
【0023】制御バルブ33〜36は通常時オン作動しており、このため、全てのパッド30には同圧の圧油が供給され、スライド12は圧油の圧力のバランスによって前後、左右の一定位置にあり、また垂直な軸を中心として回転することもない。制御バルブ33〜36のうちの1つの制御バルブがオフ作動すると、このオフ作動されている間だけその制御バルブに接続されているパッド30には圧油が供給されないため、圧油の圧力のバランスがくずれ、スライド12には圧油が供給されないパッド30側への水平方向押圧力が生ずるようになっている。制御バルブが短時間にオフ作動を多数回繰り返せば、スライド12は大きく水平方向に移動し、スライド12の移動量は制御バルブのオフ作動回数によって設定できる。
【0024】このように、制御バルブ33〜36はパッド30への圧油の供給を規定するためのバルブとなっており、これらの制御バルブ33〜36のオン、オフ切換作動によりスライド12の位置を適正な水平方向位置に修正できるものとなっている。
【0025】それぞれのパッド30に供給された圧油は図5に示されているパッド30とスライド12の前記面21〜28との間の僅少の隙間38から流出し、流出した油は前記プラテン19の上面に落下する。図4の通り、プラテン19の外周縁には側壁19Aが形成されていて、プラテン19の上部は油受け部39となっているため、油はこの油受け部39に溜まり、そして、プラテン19に接続されている油吸引回収回路によりタンクに戻されるようになっている。
【0026】図3の通り、プレス機械1の前記フレーム29にはスライド12の前記後方延出部20B、左方延出部20Cと隙間を開けて水平方向に対向する前後位置検出センサ40、左右位置検出センサ41が取り付けられ、これらのセンサ40,41によりスライド12の前後方向位置、左右方向位置が検出されるようになっている。検出されたスライド12の前後方向位置、左右方向位置に関する電気信号はセンサ40,41から前記制御装置に送られ、この電気信号に基づき制御装置は制御バルブ33〜36をオン、オフ切換作動させる電気信号を発信するようになっている。
【0027】以上のようにスライド12と水平方向に対向してプレス機械1のフレーム29に設けられたパッド30と、前後位置検出センサ40と、左右位置検出センサ41とは、スライド12の2つの直交水平方向の位置を調整するためのスライド水平方向位置調整装置42を構成するものとなっており、このスライド水平方向位置調整装置42は制御バルブ33〜36と、前記制御装置とを含んで構成されている。
【0028】図2の通り、プレス機械1のフレーム29にはスライド12の高さ位置を検出するための高さ位置検出センサ43も取り付けられ、このセンサ43は本実施例ではスライド12の前記ガイド部材20の右方延出部20Dと隙間を開けてフレーム29に取り付けられている。センサ43から発信されるスライド12の高さ位置に関する電気信号は前記制御装置に入力される。
【0029】図6は図1、図2で示した前記コンロッド10とスライド12との間に設けられている前記スライド昇降装置11を示す。このスライド昇降装置11は、スライド12の上端に固設された油圧シリンダ44と、油圧シリンダ44内の油圧を受ける上下動自在な受圧部材45とを含んで構成されている。受圧部材45の下部にはピストン部46が設けられ、このピストン部46で油圧シリンダ44の内部室は上室47と下室48とに区画されている。ピストン部46は上側の大径部46Aと下側の小径部46Bとからなる段付き状であり、大径部46Aが上下動する上室47は大面積を有し、小径部46Bが上下動する下室48は小面積を有する。受圧部材45の上部45Aは油圧シリンダ44から上方へ突出し、この上部45Aに前記コンロッド10の下部がリストピン49で回動自在に連結されている。
【0030】上室47、下室48には油圧源31から延びる油圧回路50,51が接続され、油圧回路50には上流側から第1切換バルブ52、第1可変絞り弁53が設けられ、油圧回路51には上流側から減圧弁54、第2可変絞り弁55が設けられている。油圧回路50,51の間には上室47と下室48とを接続するための接続回路56が設けられ、この接続回路56に第2切換バルブ57が設けられている。第1、第2切換バルブ52,57はオン作動、オフ作動することにより回路50,56を開閉するものであり、これらのバルブ52,57のオン作動、オフ作動は前記制御装置による自動作業あるいは手動作業により行われ、特に、第2切換バルブ57の作動は前記制御装置に送られる前記高さ位置検出センサ43からのスライド12の高さ位置に関する電気信号に基づいても行われるようになっている。
【0031】油圧シリンダ44内に油圧源31からの油圧を供給するためには、以下の通り行う。第1、第2切換バルブ52,57をオフ作動させて油圧回路50と接続回路56を閉じた後、油圧源31から高圧の圧油を送ると、この圧油は減圧弁54で所定圧力まで減圧されてから油圧回路51を介して上室47に供給され、受圧部材45は油圧によって下降限まで下降する。次いで、第1切換バルブ52をオン作動させて油圧回路50を開くと、油圧源31からの高圧の圧油は油圧回路50を介して下室48に送られる。この下室48に供給された圧油の圧力は減圧弁54で減圧されていないため、上室47よりも下室48の面積が小さくても、受圧部材45は下室48内の油圧によって上昇する。上室47から押し出された圧油は減圧弁54からタンク37に戻る。受圧部材45が所定量上昇した後、第1切換バルブ52をオフ作動させて油圧回路50を閉じる。これにより上室47には低圧の圧油が充填され、下室48には高圧の圧油が充填されたことになる。
【0032】この後、第2切換バルブ57をオン作動させて接続回路56を開くと、下室48の圧油が接続回路56を通って上室47に流入し、受圧部材45は下降する。高応答性の制御バルブである第2切換バルブ57を多数回オン、オフ作動させると、上室47に多量の圧油が流入するため、受圧部材45は大きなストローク分下降することになり、第2切換バルブ57のオン、オフ回数によって受圧部材45の下降量を決定できる。
【0033】これにより、スライド12はコンロッド10に対してスライド昇降装置11で昇降動することになり、このため、前記上型13、下型15の高さ寸法に応じてスライド12の高さ位置を定めるためのスライドアジャスト作業や、プレス加工熱でスライド12等が熱膨張変形してスライド12の下死点が変化した場合の下死点補正作業を行えることになる。従って、スライド昇降装置11はこれらの作業を行えるスライド調整装置としての機能を有する。
【0034】以上のようにコンロッド10に対するスライド12の昇降動は下室48の圧油を第2切換バルブ57が設けられた接続回路56を通して上室47に流入させることにより行われるため、スライド昇降装置11は接続回路56および第2切換バルブ57を含んで構成されている。
【0035】次に本実施例に係るプレス機械1の作用について説明する。
【0036】初めに、互いに分離されて独立状態となった3個の前記スライド12A,12B,12Cをクランク軸8の角度位相差が設けられた偏心部9A,9B,9Cにより上下動させることによる作用について説明する。
【0037】図1で示したモータ3からの駆動力でクランク軸8が回転すると、偏心部9A,9B,9Cによりコンロッド10を介してスライド12A,12B,12Cが上下動し、偏心部9Bは偏心部9A,9Cに対してクランク軸8の回転方向に進んだ角度位相差を有しているため、スライド12Bが最も早く下死点に達して材料16を打ち抜き加工し、次いでスライド12A,12Cが下死点に達して材料16を打ち抜き加工する。このため、各加工ステージA,B,Cにおける材料16の加工タイミングはずれることになる。
【0038】このように各加工ステージA,B,Cにおける材料16の加工は同時に行われないため、プレス機械1の成形荷重はこれらの加工ステージA,B,Cにおける加工荷重を合計したものにはならず、本実施例では成形荷重は2つの加工ステージA,Cにおける加工荷重を合計したものとなり、成形荷重は減少する。このため、本実施例によれば、材料16を加工するときに生ずるプレス機械1の振動、騒音は減少することになる。
【0039】次に前記スライド水平方向位置調整装置42による作用について説明する。それぞれのスライド12の上下動は、スライド12の平面十字形ガイド部材20の前記面21〜28に各パッド30からの圧油の圧力が作用しながら行われ、通常時、全ての制御バルブ33〜36はオン作動しているため、スライド12は各パッド30からの圧油の圧力のバランスで前後方向、左右方向の一定位置にあり、この状態でスライド12は上下動する。図5の通り、上型13が下型15と共に材料16を打ち抜くとき、材料16に厚さのばらつきや硬さのばらつきがあると、材料16からの反力として上型13には例えば左方へのスラスト荷重W1 が作用する。このスラスト荷重W1 により上型13、スライド12は左方へ移動して偏心量eを生じさせようとするが、スライド12のこの移動は図3で示した左右位置検出センサ41で検出され、このセンサ41からの電気信号に基づき前記制御装置は制御バルブ36を短時間の間オフ作動させ、これによりスライド12に作用しているパッド30からの圧油の圧力の左右方向バランスをくずし、スライド12に図5で示した右方への押圧荷重W2 を作用させ、この押圧荷重W2 でスライド12をスラスト荷重W1 に抗して右方へ押し戻すことにより、上型13と下型15が偏心量eが解消された芯合せの状態で材料16を打ち抜く。スラスト荷重W1が大きいときには、制御バルブ36は多数回オン、オフ作動を繰り返し、これにより上型13と下型15の芯合せ状態を確保する。
【0040】このため、上型13と下型15は芯ずれのない状態で材料16を打ち抜き加工し、材料16から成形されるプレス品の成形精度は高精度のものとなる。また、上型13は下型15にこのように自動調芯されて嵌合するため、これらの型13,15が摩擦接触することはなく、このため、型13,15の寿命の低下を防止できる。
【0041】さらに、3個のスライド12A,12B,12Cは互いに分離した独立状態となっているため、ある加工ステージにおける上型13にスラスト荷重W1 が作用しても、このスラスト荷重W1 は他の加工ステージにおける上型13に伝達されることはなく、従って各加工ステージA,B,Cにおける上型13同士は互いに悪影響を及ぼすことがなく、各加工ステージA,B,Cにおける上型13と下型15はそれぞれのスライド12A,12B,12Cに設けられたスライド水平方向位置調整装置42で自動調芯されて材料16を加工するため、プレス品の成形精度を高めることができる。
【0042】なお、上型13と下型15を芯合せさせるための自動調芯は、前述のように材料16の打ち抜き時においてスラスト荷重W1 による上型13、スライド12の移動を前記センサが検出してから行ってもよく、あるいは、上型13と下型15による材料16の打ち抜き前からスライド12の水平方向位置を前記センサで常時検出することにより、芯ずれ量eの検出に基づいてこの自動調芯を行ってもよい。
【0043】次に、スライド昇降装置11の作用を説明する。スライド昇降装置11は前述のスライドアジャスト作業、スライド下死点補正作業の他に以下の作用を行う。スライド12が下降して上型13が材料16に接触しても材料16は直ちには打ち抜かれず、材料16からの加工反力によって前記コンロッド10等には上向きの圧縮力が作用し、図1で示したプレス機械1のクラウン2とベッド58とを結合するコラム59は伸び変形し、このコラム59に弾性エネルギーが蓄積される。クランク軸8の回転が進み、スライド12が材料16を打ち抜く直前の高さまで達すると、この高さが図2で示した高さ位置検出センサ43で検出され、センサ43からの電気信号に基づき前記制御装置は図6の第2切換バルブ57をオン作動させて接続回路56を開く信号を発信する。このときには下室48の圧油の圧力は受圧部材45の下向きの押圧力によって高圧となっているため、第2切換バルブ57がオン作動すると、下室48の圧油は接続回路56を通って上室47に流入し、このときの圧油の流量は可変絞り弁53,55で制限される。
【0044】これにより、コラム59に蓄積されていた弾性エネルギーは受圧部材45で下室48から上室47に押し出される圧油の流速エネルギーに変換されるとともに、可変絞り弁53,55における発熱エネルギーに変換される。このため、上型13が材料16を打ち抜いたときに、コラム59に蓄積された弾性エネルギーはスライド12、上型13の急速下降によるプレス機械1の大きな振動、騒音の発生エネルギーとならず、打ち抜き時におけるプレス機械1のブレークスルーは減少する。このため、スライド昇降装置11はブレークスルー対策装置としての機能を有する。
【0045】打ち抜き完了と同時またはこれより若干遅れて第2切換バルブ57はオフ作動され、また第1切換バルブ52はオン作動され、これにより油圧源31からの高圧の油圧が油圧回路50を介して下室48に流入し、下がっていた受圧部材45を上昇させ、スライド昇降装置11を旧位の状態に戻す。そして第1切換バルブ52はオフ作動され、これにより次の加工作業を行える状態に復帰する。
【0046】以上説明した本実施例では、スライド12に平面十字形のガイド部材20を設け、このガイド部材20の面21〜28によって2つの直交水平方向である前後方向、左右方向に向いた垂直面D,E,F,Gを設けたが、これらの垂直面はスライドを平面四角形とすることによっても形成でき、本発明はこのようなスライド形状をも含むものである。
【0047】さらに、前記実施例ではスライド12の個数は3個12A,12B,12Cであったが、スライドの個数はこれに限定されず、複数であればよい。また、前記実施例ではクランク軸8の偏心部9A,9B,9Cのうち2個の偏心部9A,9Cは同じ角度位相となっていたが、全ての偏心部の角度位相を異ならせてもよい。
【0048】さらに、前記実施例ではコンロッド10とスライド昇降装置11との連結はリストピン49により行われていたが、この連結を球面接触のボール部を有する連結部材で行ってもよい。また、プレス機械にスライド水平方向位置調整装置42とスライド昇降装置11のいずれか一方だけを設けてもよく、スライド12を1個としてもよい。
【0049】すなわち、図7はスライド12が1個のプレス機械にスライド水平方向位置調整装置42を設け、スライド昇降装置11を設けていない場合を示し、図8はスライド12が1個のプレス機械にスライド昇降装置11を設け、スライド水平方向位置調整装置42を設けていない場合を示す。このようにスライド水平方向位置調整装置42とスライド昇降装置11のいずれか一方だけを設けても、プレス機械はこれらの装置の一方の機能を備えることになり、従来よりもプレス機械の性能は高まる。
【0050】
【発明の効果】本発明によれば、スライドが複数設けられたプレス機械では、それぞれのスライドは互いに分離して独立状態となっており、かつ、それぞれのスライドにはスライド水平方向位置調整装置が設けられているため、プレス品の成形精度の高精度化、型寿命の低下防止を達成でき、また、クランク軸の偏心部には角度位相差が設けられているため、スライドが下死点に達して材料を加工するタイミングがずれることによってプレス機械の成形荷重を減少でき、さらに、コンロッドとスライドとの間にスライド昇降装置が設けられているため、材料の打ち抜き時におけるブレークスルーの減少を図ることができ、プレス機械に生ずる振動、騒音を小さくできる。
【0051】また、スライド昇降装置は、スライドアジャスト作業、スライド下死点補正作業を行えるスライド調整装置としての機能と、ブレークスルーにおける振動、騒音を低減するブレークスルー対策装置としての機能とを有するため、プレス機械にスライド調整装置とブレークスルー対策装置の2つを設ける必要がなくなり、それだけプレス機械の構造の簡単を達成できる。
【0052】また、本発明によれば、スライド水平方向位置調整装置だけまたはスライド昇降装置だけを設けたプレス機械でも、これらの装置の一方の機能を備えることになり、従来のプレス機械と比べその性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の一実施例に係るプレス機械の全体を示す正面図である。
【図2】図2はスライド部分を示す一部断面の正面図である。
【図3】図3は図2のIII −III 線断面図であって、油圧回路を含めて示した図である。
【図4】図4はスライドの全体形状を示す斜視図である。
【図5】図5はスライド水平方向位置調整装置により上型と下型の芯ずれをなくす作用を説明する図である。
【図6】図6はスライド昇降装置を油圧回路を含めて示した一部断面図である。
【図7】図7はスライドが1個で、スライド水平方向位置調整装置が設けられ、スライド昇降装置が設けられていないプレス機械を示す正面図である。
【図8】図8はスライド1個で、スライド昇降装置が設けられ、スライド水平方向位置調整装置が設けられていないプレス機械を示す正面図である。
【符号の説明】
1 プレス機械
3 モータ
8 クランク軸
9 偏心部
10 コンロッド
11 スライド昇降装置
12 スライド
13 上型
15 下型
16 材料
29 フレーム
30 パッド
33〜36 制御バルブ
40 前後位置検出センサ
41 左右位置検出センサ
42 スライド水平方向位置調整装置
44 油圧シリンダ
45 受圧部材
46 ピストン部
47 上室
48 下室
52,57 切換バルブ
56 接続回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 クランク軸にコンロッドを介してスライドが連結され、このスライドに取り付けられた上型とボルスタに取り付けられた下型とで材料を加工するプレス機械において、前記クランク軸に角度位相差を有する複数の偏心部が設けられ、これらの偏心部に互いに分離して独立状態となった複数の前記スライドが前記コンロッドを介して連結され、プレス機械フレームにこれらのスライドと水平方向に対向配置されてスライドの水平方向の位置を調整するスライド水平方向位置調整装置が設けられているとともに、前記スライドと前記コンロッドとの間にこのコンロッドに対してスライドを昇降可能とするスライド昇降装置が設けられていることを特徴とするプレス機械。
【請求項2】 請求項1に記載のプレス機械において、前記スライド水平方向位置調整装置は、2つの直交水平方向における前記スライドの位置を検出するセンサと、前記2つの直交水平方向に向いた前記スライドの4つの垂直面と僅少の隙間を開けて前記プレス機械フレームに取り付けられ、供給される圧油の圧力をこれらの垂直面に作用させる複数のパッドと、これらのパッドに圧油を供給する油圧回路中に設けられ、前記センサにより検出された前記スライドの水平方向位置に応じて前記パッドへの圧油の供給を規定して前記スライドの位置を適正な水平方向位置とする制御バルブとを含んで構成されていることを特徴とするプレス機械。
【請求項3】 請求項1または請求項2に記載のプレス機械において、前記スライド昇降装置は、前記スライドの上端に固設された油圧シリンダと、この油圧シリンダの内部室を上室、下室に区画するピストン部を有し、前記油圧シリンダから突出した上部に前記コンロッドの下部が連結された上下動自在な受圧部材と、前記上室と前記下室とを接続する接続回路中に設けられ、前記下室中の圧油を前記上室に流入させる切換バルブとを含んで構成されていることを特徴とするプレス機械。
【請求項4】 クランク軸にコンロッドを介してスライドが連結され、このスライドに取り付けられた上型とボルスタに取り付けられた下型とで材料を加工するプレス機械において、2つの直交水平方向における前記スライドの位置を検出するセンサと、前記2つの直交水平方向に向いた前記スライドの4つの垂直面と僅少の隙間を開けて前記プレス機械フレームに取り付けられ、供給される圧油の圧力をこれらの垂直面に作用させる複数のパッドと、これらのパッドに圧油を供給する圧油回路中に設けられ、前記センサにより検出された前記スライドの水平方向位置に応じて前記パッドへの圧油の供給を規定して前記スライドの位置を適正な水平方向位置とする制御バルブとを含んで構成されていることを特徴とするプレス機械。
【請求項5】 クランク軸にコンロッドを介してスライドが連結され、このスライドに取り付けられた上型とボルスタに取り付けられた下型とで材料を加工するプレス機械において、前記スライドの上端に固設された油圧シリンダと、この油圧シリンダの内部室を上室、下室に区画するピストン部を有し、前記油圧シリンダから突出した上部に前記コンロッドの下部が連結された上下動自在な受圧部材と、前記上室と前記下室とを接続する接続回路中に設けられ、前記下室中の圧油を前記上室に流入させる切換バルブとを含んで構成されていることを特徴とするプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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