説明

プレス装置

【課題】レバー操作によるストロークを押圧ヘッドが加工対象物に当接するまでの送りストロークと当接後の加工対象物に押圧力を加える押圧ストロークとに分離し、押圧ストロークの長さを必要最小限とすることで、ピニオンの小径化を可能とし、従来よりも大きな押圧力を生じさせることを可能とする。

【解決手段】プレス装置に適用されるラック・ピニオン機構を少なくとも一対のラック2aと、この一対のラック2a相互間に配置され互いに直列的に噛み合う歯車群7とから構成する。この歯車群7には大径の送りストローク用歯車71と小径の押圧ストローク用歯車72が含まれ、それぞれを別々のハンドルレバーにより駆動して送りストロークと押圧ストロークを分離させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物に押圧力を加えてカシメや型抜き、圧入等の作業や加工を行なうプレス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
そのようなプレス装置として、下記特許文献1に記載のプレス装置が既に公知となっている。
特許文献1に記載されたプレス装置は、ラック・ピニオン機構を採用したもので、ピニオンの半径とハンドルレバーの長さの比を梃子比として梃子の原理により増力された押圧力をピニオンが噛み合うラックの設けられた押圧ロッドの下端部から取り出すようになっている。
【0003】
このようなラック・ピニオン機構を採用する場合、ピニオンを小径化すると共にハンドルレバーの長さを延長することにより、大きな押圧力を得ることができるが、ピニオンの小径化はピニオンの回転に伴うラックの移動量(ストローク)が小さくなることを意味する。
このため、従来は押圧力とラックの移動量のいずれか一方を大きく設定すれば、他方を犠牲にせざるを得なかった。
【0004】
ここで、ラックのストロークについて、少し詳しく観察すると、上方の停止位置から加工対象物に押圧ロッドが当接するまでの押圧ロッドを移動させるだけの送りストロークと、押圧ロッドが加工対象物に当接した後の加工対象物に押圧力を加える押圧ストロークとに分けて考えることができる。
【0005】
そして、この送りストロークを押圧ストロークに用いるハンドルレバーの操作によらず行なうことができれば、押圧ストロークを短くすることが可能となる。このことは、ピニオン径をより小径化することが可能であることを意味し、同時により高い押圧力をプレス装置に生じさせ得ることを意味する。
【0006】
また、上述した従来のプレス装置では、押圧ロッドに高い押圧力が掛ると、互いに噛み合っているピニオンとラックが相対的に遠ざかる方向に移動しようとする傾向があり、ピニオンとラックの歯同士の間でこじれが生じたり偏摩耗が生じたりする原因となっていた。
【特許文献1】特開平7−178599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑み、送りストロークを押圧ストロークに用いるハンドルレバーの操作に依らず行なうことが可能で、しかもピニオンとラックが相対的に遠ざかろうとする動きを抑制し得るプレス装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるプレス装置においては、プレス装置を構成するラック・ピニオン機構が、少なくとも一対のラックと、この一対のラック相互間に設けられ互いに直列的に噛み合うと共に両端の歯車がそれぞれラックと噛み合う歯車群を有し、この歯車群には大きさの異なる少なくとも2個以上の歯車が含まれていることが最も主要な特徴となっている。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明のプレス装置は、そのラック・ピニオン機構に大きさの異なる2個以上の歯車を備えているので、大きい歯車を駆動する送り用ハンドルレバーと小さい歯車を駆動する押圧用ハンドルレバーを別々に備えることができ、送りストロークを押圧用ハンドルレバーの操作によらず行なうことが可能となる。これにより、押圧用ハンドルレバーの操作によるストロークを短くすることが可能となり、ピニオン径を従来よりも小径化することが可能となる。したがって、従来よりも大きな梃子比を得ることができるので、従来よりも高い押圧力を生じさせることが可能となる。
【0010】
また、一対のラックの相互間に設けられた歯車群を構成する歯車同士の間にピニオンとラックが相対的に遠ざかろうとする動きを抑制する力が生じるので、そのような動きに起因してピニオンとラックの歯の間で生じるこじれや偏摩耗も抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明によるプレス装置を実施するための最良の形態について、添付の図1〜6に示した実施例を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜3はその順に本発明によるプレス装置の一実施例を示した側面図、正面図及び平面図及びであり、図4は本発明の主要部であるラック・ピニオン機構を示した断面図である。
【0013】
図1〜3に示した本発明の実施例においては、図示したように、プレス装置全体を支える基台1に一対のガイドポール2が鉛直上方に向かって平行に立設されている。基台1には図示しない加工対象物が載置される載置部1aが設けられている。ガイドポール2の相対向する面には後述する歯車群と噛み合うラック2aがそれぞれ刻設されている。一対のガイドポール2は、昇降ブロック3を鉛直方向に摺動自在に貫通している。昇降ブロック3には昇降ブロックの下方で載置部1aの上方に押圧ヘッド5が保持されている。押圧ヘッド5は加載置部1aに載置された加工対象物に直接又は間接に押圧力を加えるためのものである。昇降ブロック3の下方でガイドポール2の外周にはコイルスプリング4が設けられている。コイルスプリング4は、所定のプレス作業後に昇降ブロック3を上方の停止位置へ自動的に復帰させるためのものである。
【0014】
昇降ブロック3がガイドポール2に案内され鉛直方向に平行移動する結果、押圧ヘッド5が基台1の載置部1aに対して昇降するようになっている。押圧ヘッド5は昇降ブロック3からの突き出し量を調整機構6により調整することができるようになっている。調整機構6には従来から周知の機構を採用することが可能である。
【0015】
昇降ブロック3内には、図4に示したように、歯車群7が配置されている。この実施例においては、歯車群7は大径の送りストローク用歯車(以下、単に「送り歯車」と称す。)71と小径の押圧ストローク用歯車(以下、単に「押圧歯車」と称す。)72とから構成される。送り歯車71及び押圧歯車72はそれぞれ回転自在に昇降ブロック3に取り付けられ、互いに噛み合うと共に、それぞれガイドポール2に刻設されたラック2aと噛み合っている。
【0016】
また、送り歯車71及び押圧歯車72の回転軸には、それぞれの歯車を回転駆動するための送り用ハンドルレバー(以下、単に「送りレバー」と称す。)81及び押圧用ハンドルレバー(以下、単に「押圧レバー」と称す。)82が取り付けられている(図1〜3を参照。)。なお、押圧レバー82は、押圧レバー82と押圧歯車72の回転軸とを断続するクラッチ10を介して押圧歯車72の回転軸に取り付けられることが好ましい。その理由は後述する。
【0017】
図1〜3に戻り説明する。一対のガイドポール2の上端部は、ガイドポール2の平行度を維持することができるように天板11に固定されている。また、天板11を設けることにより、プレス作業中に昇降ブロック3が誤ってガイドポール2の上端から抜け落ちるのが防止されている。
【0018】
このような構造のプレス装置で、プレス作業を行なう場合のプレス装置の動作について説明する。まず、作業者が載置部1aに加工対象物を設置し、送りレバー81を図1に示した矢印12の方向に操作して大径の送り歯車71を駆動し、押圧ヘッド5を加工対象物に当接させる(送りストローク)。このとき、図4に示した送り歯車71は反時計方向に回転する。送りストロークでは、押圧ヘッド5を加工対象物に当接させるだけで、実質的にプレス作業をするわけではないので、送りレバー81の操作には大きな力を必要としない。このため、送り歯車71の半径を押圧歯車72の約6倍とし、送りレバー81も押圧レバー82より短くなっている。このようにすることにより、送りレバー81のより小さな操作で押圧ヘッド5を加工対象物に迅速に当接させることができる。
【0019】
次いで、押圧レバー82を図2に示した矢印14の左方向に操作してクラッチ10を接続させ、図1に示した矢印13の方向に操作してプレス作業に必要な所定の押圧力を加工対象物に加える(押圧ストローク)。このとき、図4に示した押圧歯車72は時計方向に回転する。押圧ストロークでは、加工対象物に所定の押圧力を加えるため、押圧レバー82の操作には相応の力が必要となる。しかし、従来のブレス装置に比べると、発明の効果の欄にも記載した通り、
送りストロークを押圧ストロークから分離して新たに設けた送りレバーの操作によって行なうこととした分、1本のハンドルレバーで送りストローク及び押圧ストロークを行なっていた従来に比べると押圧レバー82の操作によるストロークを短縮することができるので、押圧歯車72の径も従来に比べ小径化されているので、より小さな操作力でより大きな押圧力を得ることができる。
【0020】
プレス作業が終了して、作業者が押圧レバー82から手を離すと、押圧レバー82の自由端はクラッチ10内に設けられたバネの力により図2に示した矢印14の右方向に自動的に振られ、クラッチ10が切れる。そしてコイルスプリング4の反発力によって昇降ブロック3及び押圧ヘッド5が上方の停止位置へ復帰させられる。
【0021】
この上方の停止位置への復帰の際、クラッチ10によって押圧レバー82と押圧歯車72の回転軸との結合が切られているので、押圧レバー82が回転して他物と接触し復帰動作の妨げとなることが無いようになっている。
【0022】
ところで、従来のこの種のプレス装置においては、1本のラックと1個のピニオンを用いるものが通常である。これに対し、本実施例の場合には、少なくとも一対(2本)のラックとこれに噛み合う複数の歯車をその構成要素としている。このため、同じ押圧力を生じさせる場合を考えると、ラックとピニオンの歯にかかる荷重は従来のプレス装置に比べ本発明の場合は半分となっている。
2本のラックとの噛合部の歯に加重が分散されるからである。したがって、本発明によるプレス装置の場合、高い押圧力を得ようとする場合に、ラック・ピニオンの歯の強度の面からも従来のプレス装置に比し有利となっている。
【0023】
また、一対のラック2aの間に配置された歯車群に荷重が掛かると、それぞれの歯車に互いに遠ざかる向きの力が働く。この力がそれぞれの歯車をラック2aに押し付けるように働くことになる。したがって、荷重が掛かったときに歯車71及び72がそれぞれ噛み合っているラック2aから遠ざかろうとする動きが抑制されるようになっている。
【実施例2】
【0024】
上述した実施例とは異なる実施例について、図5を参照しつつ説明する。図5は、主にラック・ピニオンの配置をについて、プレス装置の上方から見た状態を模式的に示した図である。実施例1と共通する部位には実施例1と同じ符号を付して示されている。
【0025】
この実施例においては、上述の実施例1では1セットであった一対のラックを含むラック・ピニオン機構が3セット設けられている点で異なっている。
【0026】
このように、複数セットのラック・ピニオン機構を設けることで、ラック・ピニオンの歯に掛かる荷重を 分散させることができるので、より大きい押圧力に耐え得るプレス装置とすることができる。
【実施例3】
【0027】
更に、上記した実施例1及び2とは異なる実施例について図6を 参照しながら説明する。図6は、主に本発明のプレス装置に適用されるラック・ピニオン機構の構造を示した模式図である。実施例1及び2と共通する部位には実施例1及び2と同じ符号を付して示されている。
【0028】
この実施例においては、ラック・ピニオン機構を構成する歯車群に含まれる歯車の数が上述した実施例1及び2とは異なっている。実施例1及び2のラック・ピニオン機構では、一対のラック相互間に配置される歯車は大径の送り歯車71と小径の押圧歯車72の2つであったが、この実施例においては大径の送り歯車71及び小径の押圧歯車72の他にアイドル歯車73を2つ追加し、全ての歯車が一対のラック2aの相互間で直列的に噛み合った構造となっている。また、実施例1及び2では、送り歯車71及び押圧歯車72は直接噛み合っていたため互いに反対方向に回転する構造となっていたのに対し、この実施例では、送り歯車71と押圧歯車72は、それらの間にアイドル歯車73が1つ噛み合っているので同方向に回転する構造となっている。
【0029】
このように、送り歯車71と押圧歯車72の回転方向が同じなので、これらを駆動する送りレバー81及び押圧レバー82の操作方向も同じとなり、作業者にとって使い勝手の良いプレス装置を提供することが可能となる。
【0030】
これまでの説明においては、本発明を人力により動作させるハンドプレス装置に適用した実施例に基づき説明したが、上述した送り歯車及び押圧歯車を電動機等で駆動することとすれば、電動プレス装置とすることも可能である。
上述の実施例では、ラック・ピニオン機構のラックを固定し、ピニオン軸を可動とした構造を採用しているが、これとは逆に昇降ブロックをスタンド等に固定してピニオン側を固定とし、ラックをピニオンに対してスライドさせる構造とすることも可能である。
また、上述の実施例では、送りレバー81や押圧レバー82として棒状の細長いレバーを採用しているが、これらの代わりに円環状のハンドルや多数のハンドルレバーが放射状に配置されたハンドルを採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によるプレス装置は、工業的に生産が可能であると共に、工業的に試用することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を示した側面図である。(実施例1)
【図2】本発明の一実施例を示した正面図である。(実施例1)
【図3】本発明の一実施例を示した平面図である。(実施例1)
【図4】図3のA−A断面を示した断面図である。(実施例1)
【図5】本発明の実施例1とは異なる実施例を模式的に示した模式図である。(実施例2)
【図6】本発明の本発明の実施例1及び2とは異なる実施例を示した模式図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0033】
1 基台
2 ガイドポール
2a ラック
3 昇降ブロック
4 コイルスプリング
5 押圧ヘッド
6 調整機構
7 歯車群
10 クラッチ
11 天板
71 送り歯車
72 押圧歯車
81 送りレバー
82 押圧レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物が載置される載置部と、前記載置部の鉛直方向上方に設けられ前記載置部に載置された加工対象物を直接又は間接的に押圧する押圧ヘッドと、前記押圧ヘッドを前記載置部に対して昇降させるラック・ピニオン機構とを備えたプレス装置であって、
前記ラック・ピニオン機構は、少なくとも一対のラックと、前記一対のラックの相互間に設けられ互いに直列的に噛み合うと共に両端の歯車がそれぞれ前記ラックと噛み合う歯車群とを有し、
前記歯車群は大きさの異なる少なくとも2個以上の歯車からなることを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
請求項1記載のプレス装置であって、
前記ラック・ピニオン機構を複数セット備えることを特徴とするプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−95868(P2009−95868A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270949(P2007−270949)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(302007046)仲精機株式会社 (4)
【Fターム(参考)】