説明

プロジェクタ用光学系および色合成素子

【課題】 高品質な画像の提供を保証しつつも単板式プロジェクタ等の小型化や軽量化に寄与することができるプロジェクタ用光学系を提供すること。
【解決手段】 プロジェクタ光学系は、所定の画像信号に基づいて投影画像を生成するプロジェクタ用光学系において、第一の直線偏光状態にある白色光を照射する光源部と、該白色光を、偏光状態を維持しつつ、色の三原色に対応する第一から第三の色成分に分離する色分離手段と、分離された各色成分を、該所定の画像信号に基づいて変調すると共に、該第一の直線偏光状態を90°回転した第二の直線偏光状態にする、各色成分に対応した第一から第三の液晶素子と、第一から第三の液晶素子によって変調された各色成分を合成する色合成手段と、を備え、色合成手段を、屈折率nが1.00より大きく1.40以下であり、所定の色成分のみを反射するコーティングが施されている複数の薄肉板状光学素子で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定の画像信号に基づいて投影画像を生成するプロジェクタ用光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カラープロジェクタとして、白色光を照射する光源、該白色光をR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の三つの成分に分離する色分離手段、各成分をそれぞれ独立して変調する3つの液晶素子、各液晶素子により変調された各色成分を合成する色合成手段を備える3板式プロジェクタが知られている。3板式プロジェクタは、以下の特許文献1に例示される。
【0003】
【特許文献1】特開2002−98937号公報
【0004】
特許文献1に記載の3板式プロジェクタにおいて、色合成手段は、各液晶素子で変調された各成分のうち、二つを残りの一つの成分の直進方向に偏向させることにより、色合成を行っている。色合成は、プロジェクタにより投影される画像の色ずれ等が起きないように、非常に高い精度をもって実現される必要がある。そのため、特許文献1に記載の3板式プロジェクタのように、従来の色合成手段は、同一材料、同一形状の4つの直角プリズムを貼り合わせたキューブ形状を有している。そして、X字状に表れる貼り合わせ面を偏向面とすることにより、各成分の光路長を揃えてずれのない精度の高い色合成を実現し、投影画像の高画質を保証している。
【0005】
上記プロジェクタは、近年、持ち運びを容易にする等の利便性向上のため、より一層の小型化、軽量化を図ることが強く要望されている。該要望に応えるためには、プロジェクタ内の部品点数の削減や部品自体の小型化等が重要となる。しかも、小型化、軽量化した場合であっても高品質な画像の提供が保証される必要がある。
【0006】
また、カラープロジェクタとして単板式プロジェクタも知られている。単板式プロジェクタとしては、例えば、白色光を照射する光源、該白色光をR、G、Bの各成分に分離する回転円板、各成分を変調するDMD(登録商標)、回転円板から射出された各成分をDMDに斜入射させる導光手段を備える構成が知られている。単板式プロジェクタであっても、上記3板式プロジェクタと同様に、高品質な画像の提供が保証されつつも小型化、軽量化を図ることが要望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、高品質な画像の提供を保証しつつも単板式プロジェクタや3板式プロジェクタの小型化や軽量化に寄与することができるプロジェクタ用光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載のプロジェクタ光学系は、所定の画像信号に基づいて投影画像を生成するプロジェクタ用光学系において、第一の直線偏光状態にある白色光を照射する光源部と、該白色光を、偏光状態を維持しつつ、色の三原色に対応する第一から第三の色成分に分離する色分離手段と、分離された各色成分を、該所定の画像信号に基づいて変調すると共に、該第一の直線偏光状態を90°回転した第二の直線偏光状態にする、各色成分に対応した第一から第三の液晶素子と、第一から第三の液晶素子によって変調された各色成分を合成する色合成手段と、を備え、色合成手段を、屈折率nが1.00より大きく1.40以下であり、所定の色成分のみを反射するコーティングが施されている複数の薄肉板状光学素子で構成したこと、を特徴とする。
【0009】
請求項1に記載のプロジェクタ用光学系によれば、空気との屈折率差を小さく抑えた薄肉板状光学素子を用いて光合成手段を構成している。従って、従来のキューブ形状よりも軽量かつ小型化された光合成手段を提供できる。よって、3板式プロジェクタ全体としての小型化や軽量化に寄与することができる。しかも、色合成手段によって色合成される際、各色成分は色合成手段と空気との界面で無用な屈折作用を受けたり、光路長差を生じたりすることがないため、高品質な画像を投影することができる。
【0010】
請求項2に記載のプロジェクタ用光学系によれば、上記屈折率nは、1.05以上1.10以下であることが望ましい。上記の屈折率を満足する光学材料として、エアロゲルが好適である(請求項3)。
【0011】
請求項4に記載のプロジェクタ用光学系によれば、色合成手段は、第一の色成分のみを反射する第一反射面、および該第一反射面に直交し第二の色成分のみを反射する第二反射面が形成されるように、複数の薄肉板状光学素子を組み合わせて構成することができる。
【0012】
より詳しくは、上記色合成手段は、互いに同一形状である四つの薄肉板状光学素子から構成され、四つの薄肉板状光学素子のうち、二つは第一の色成分のみを反射する性質を持つコーティングが施されており、残りの二つは第二の色成分のみを反射する性質を持つコーティングが施される(請求項5)。
【0013】
また、請求項5に記載の構成を採用した場合、四つの薄肉板状光学素子は、互いの一辺が接する状態であって、かつ同一の性質を持つコーティングが施された二つの薄肉板状光学素子が該一辺上にある点を基準として点対称な関係にあるように組み合わされる(請求項6)。
【0014】
請求項7に記載のプロジェクタ用光学系によれば、第一の直線偏光をS偏光、第二の直線偏光をP偏光として構成することができる。
【0015】
なお、第一から第三の液晶素子は、透過型であっても反射型であっても良い。反射型の液晶素子を使用した場合、色合成手段を前記色分離手段と同一にすることができる(請求項10)。
【0016】
また、別の観点から本発明に係るプロジェクタ用光学系は、所定の画像信号に基づいて投影画像を生成するプロジェクタ用光学系において、第一の直線偏光状態にある白色光を照射する光源部と、該白色光を、偏光状態を維持しつつ、赤成分、緑成分、青成分に順次分離する色分離手段と、分離された各色成分を、該所定の画像信号に基づいて変調する光空間変調素子と、変調された各色成分を拡大投影する投影レンズ群と、色分離手段により分離された、第一の直線偏光状態にある各色成分を光空間変調素子に導くと共に、該光空間変調素子により変調された、該第一の直線偏光状態を90°回転した第二の直線偏光状態にある各色成分を投影レンズ群に導く偏向素子と、を備え、偏向素子を、屈折率nが1.00より大きく1.4以下の光学材料で形成したことを特徴とする(請求項11)。
【0017】
請求項11に記載のプロジェクタ用光学系は、高品質な画像の投影を保証しつつも単板式のプロジェクタの小型化、軽量化に寄与することができる。
【0018】
請求項12に記載のプロジェクタ用光学系によれば、上記屈折率nは、1.05以上1.10以下であることが望ましい。上記の屈折率を満足する光学材料として、エアロゲルが好適である(請求項13)。
【0019】
請求項14に記載のプロジェクタ用光学系によれば、偏向素子と前記光空間変調素子間に1/4波長板をさらに有することができる。
【0020】
なお、上記偏向素子としては、色分離手段を介した各色成分が入射する第一端面と、主として第一の直線偏光を反射し、第二の直線偏光は透過するコーティングが施された第二端面と、第二端面で反射した各色成分を1/4波長板を介して光空間素子に導く第三端面と、を有する偏光プリズムとすることができる(請求項15)。
【0021】
より好ましくは、上記偏向素子は第二端面を斜面とする直角プリズムとして構成する(請求項16)。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、3板式プロジェクタにあっては色合成手段、単板式プロジェクタにあっては偏向素子、をそれぞれ空気との屈折率差が小さい材料によって構成し、従来の形状よりも小型化することにより、プロジェクタから投影される画像の画質を高く維持しつつ、該プロジェクタの小型化、軽量化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は反射型液晶プロジェクタに搭載される本発明の第一実施形態のプロジェクタ用光学系の概略構成を表す図である。
【0024】
プロジェクタ用光学系100は、光源1、ライトトンネル(登録商標)2、リレーレンズ群3、単一偏光板4、第一ダイクロイックミラー5、第二ダイクロイックミラー6、ミラー7、R用偏光ビームスプリッタ8R、G用偏光ビームスプリッタ8G、B用偏光ビームスプリッタ8B、R用反射型液晶素子9R、G用反射型液晶素子9G、B用反射型液晶素子9B、色合成素子10、投影レンズ群11、吸収偏光板12を有する。
【0025】
光源1は、高圧水銀ランプ1aと楕円リフレクタ1bとを有する。高圧水銀ランプ1aから照射された白色光は、楕円リフレクタ1bで反射してライトトンネル2に導かれる。ライトトンネル2は、入射する白色光を、強度分布を均一にしつつ後段にあるリレーレンズ群3に導く。リレーレンズ群3は、ライトトンネル2を介して入射する白色光を平行光束にしつつ単一偏光板4に導く。単一偏光板4は、入射する白色光を第一ダイクロイックミラー5に対してS偏光となるように偏光状態を揃える。
【0026】
単一偏光板4によってS偏光状態に変換された白色光束は、第一と第二のダイクロイックミラー5、6によってR、G、Bの各色成分に色分離される。具体的には、第一ダイクロイックミラー5は、入射する白色光束のうち、R成分のみ何ら偏向することなく透過させ、それ以外の色成分(G、B)を略直角に偏向する。第二ダイクロイックミラー6は、第一のダイクロイックミラー5で反射した二種類の色成分のうち、B成分を何ら偏向することなく透過させ、G成分を略直角に偏向する。なお図1中、R成分の光路を実線で、G成分の光路を一点鎖線で、B成分の光路を破線で、それぞれ示す。
【0027】
第一ダイクロイックミラー5を透過したR成分は、ミラー7で直角に偏向されてR用偏光ビームスプリッタ8Rに入射する。偏光ビームスプリッタ8Rは、S偏光を反射し、P偏光を透過する性質を持つ。ここで、第一ダイクロイックミラー5を透過したR成分は、単一偏光板4によりS偏光状態にあるため、R用偏光ビームスプリッタ8Rで反射し、R用反射型液晶素子9Rに入射する。
【0028】
R用反射型液晶素子9Rは、図示しない制御部から送信される変調信号に従って、ONビットに入射したR成分を変調する。変調信号は、所定のR用の映像情報に基づいて生成される。
【0029】
なお変調の際、液晶の性質によって、反射光束の偏光状態は、入射光束の偏光状態が90°回転したP偏光状態となる。P偏光状態のR成分は、該液晶素子9Rで反射して再びR用偏光ビームスプリッタ8Rに入射し、透過する。そして、P偏光状態のR成分は、色合成素子10に入射する。
【0030】
なお、第二ダイクロイックミラー6で反射したG成分がG用偏光ビームスプリッタ8G、G用反射型液晶素子9Gを経て色合成素子10に入射するまでの光路、および第二ダイクロイックミラー6を透過したB成分がB用偏光ビームスプリッタ8B、B用反射型液晶素子9Bを経て色合成素子10に入射するまでの光路は、上述したR成分の光路と共通している。そこで、ここでは詳説しない。
【0031】
図2は、色合成素子10を詳細に示す図である。図2(A)は、色合成素子10を拡大して示す斜視図、図2(B)は、色合成素子10を拡大して示す平面図である。色合成素子10は、空気に近い屈折率nを持つ光学材料により形成された4つの薄肉状光学素子10a〜10dから構成される。詳しくは、図2(A)、(B)に示すように、各薄肉状光学素子10a〜10dは、矩形状の平行平面板として構成される。そして、各薄肉状光学素子10a〜10dの各面P1〜P4に特定の色成分のみを反射する性質のコーティングが施されている。本実施形態では、面P1、P3にB成分のみを反射するコーティングが、面P2、P4にR成分のみを反射するコーティングが、それぞれ施されている。
【0032】
色合成素子10は、各薄肉状光学素子10a〜10dの一辺Lが接する状態であって、かつ同一の性質を持つコーティング面(P1とP3、P2とP4)が同一平面上に位置するように、各薄肉状光学素子10a〜10dを組み合わせることにより構成される。従って、図2(B)に示すように、色合成素子10を俯瞰した場合、同一の性質のコーティング面を持つ薄肉状光学素子(10aと10c、10bと10d)は、辺L上の点を対称の中心とした点対称な位置関係にある。なお、同一平面上に配設されたコーティング面P2、P4は、R成分のみを反射させる第一反射面10Rとして作用し、コーティング面P1、P3は、B成分のみを反射させる第二反射面10Bとして作用する。
【0033】
ここで、従来の構成において色合成素子10に相当する色合成プリズムは、空気との界面で屈折が起きることにより各色成分間にずれが生じる、あるいは屈折率差により各色成分で光路長差が発生する、などにより高品質な画像が再現できないおそれを回避すべく、同一材料により構成された直角プリズムを4つ組み合わせたキューブ形状を有する。従って、高品質な画像を再現する代償として、プロジェクタの大型化、重量化を招いていた。これに対し、本実施形態の色合成素子10は、上記の薄肉状光学素子10a〜10dにより構成される。各薄肉状光学素子10a〜10dの屈折率nは、以下の条件(1)を満たす。
1.00<n≦1.40・・・(1)
【0034】
本実施形態の各薄肉状光学素子10a〜10dは、屈折率nが以下の条件(2)、
1.05≦n≦1.10・・・(2)
を満たす光学材料、例えばエアロゲルを用いて形成される。従って、空気との界面での屈折の影響や屈折率差という問題を略無視することが可能になった。そのため、色合成素子10を、色合成に必要最低限な部位のみの形状であって、キューブ形状よりも軽量かつ小型化された形状(本実施形態ではX字状)に形成することを可能にしている。よって、プロジェクタ全体としての小型化、軽量化も達成される。
【0035】
色合成素子10に入射したON光であるP偏光状態のR成分は、第一反射面10Rで直角に反射される。色合成素子10に入射したON光であるP偏光状態のB成分は、第二反射面10Bで直角に反射する。色合成素子10に入射したON光であるP偏光状態のG成分Gpは、いずれの反射面10R、10Bも透過する。これにより、各反射型液晶素子9R、9G、9Bにより変調されたR、G、Bの各色成分は合成される。
【0036】
色合成素子から射出された合成光は、吸収偏光板12を介して投影レンズ群11に入射する。吸収偏光板12は、各偏光ビームスプリッタ8R、8G、8Bを透過してしまったS偏光成分を略全てカットし、投影レンズ群11に入射するのを回避している。各偏光ビームスプリッタ8R、8G、8Bおよび吸収偏光板12の作用により、R、G、Bの各色のON光成分のみが色合成素子10によって合成され、投影レンズ群11に入射する。投影レンズ群11によってスクリーンSには、大画面の明るいフルカラー映像が投影される。
【0037】
上記の第一実施形態は、反射型液晶素子を用いた反射型液晶プロジェクタに好適に搭載されるプロジェクタ用光学系である。本発明に係るプロジェクタ光学系は、以下の第二実施形態に示すように、透過型液晶素子を用いた透過型液晶プロジェクタにも適用でき、該透過型液晶プロジェクタの小型化、軽量化に寄与することができる。図3は、透過型液晶プロジェクタに搭載される第二実施形態のプロジェクタ用光学系200の概略構成を示す図である。なお、図3に示すプロジェクタ用光学系200において、第一実施形態のプロジェクタ用光学系100と同一部材には同一の符号を付し、ここでの詳しい説明はしない。
【0038】
プロジェクタ用光学系200において、光源1から照射され、ライトトンネル2、リレーレンズ群3、単一偏光板4を介してS偏光状態にある白色光は、B成分のみ反射させる第三ダイクロイックミラー31、G成分のみを反射させる第四ダイクロイックミラー32を介して、R、G、Bの各色成分に分離される。第三ダイクロイックミラー31で反射したB成分は、ミラー33を介してB用透過型液晶素子36Bに入射する。第四ダイクロイックミラー32で反射したG成分は、G用透過型液晶素子36Gに入射する。第四ダイクロイックミラー32を透過したR成分は、ミラー34、35を介してR用透過型液晶素子36Rに入射する。各透過型液晶素子36R、36G、36Bで変調された各色成分は、本発明の主たる特徴である色合成素子10により合成され、吸収偏光板12、投影レンズ群11を介してスクリーンSに画像として投影される。
【0039】
上記の第一実施形態および第二実施形態は、いずれも3板式プロジェクタに好適に搭載されるプロジェクタ用光学系である。本発明に係るプロジェクタ光学系は、以下の第三実施形態に示すように、単板式プロジェクタにも適用でき、該単板式プロジェクタの小型化、軽量化に寄与することができる。図4は、単板式プロジェクタに搭載される第三実施形態のプロジェクタ用光学系300の概略構成を示す図である。図4に示す第三実施形態においても、図3に示す第二実施形態と同様、既述の部材に関しては、同一の符号を付しここでの詳しい説明はしない。
【0040】
プロジェクタ光学系300は、光空間変調素子としてDMD(登録商標)53を使用している。DMD53は、水平状態を基準として約10度程度傾けることが可能な微少ミラーを複数有している。そして、該複数の微少ミラーは、所定の画像情報に基づき生成された変調信号により駆動制御される。つまり、DMD53は、ON光とOFF光で偏光方向を変化させることにより、変調している。
【0041】
プロジェクタ光学系300において、光源1から照射され、ライトトンネル2、リレーレンズ群3、単一偏光板4を介してS偏光状態にある白色光は、回転色分離板51によってR、G、Bの各色成分に順次色分離される。回転色分離板51から射出された各色成分は、偏光プリズム50に順次入射する。
【0042】
偏光プリズム50は、上記第一および第二実施形態における色合成素子10と同一材料(ここでは、エアロゲル)により構成される。偏光プリズム50は、回転色分離板51から射出された各色成分が入射する第一端面50a、S偏光を反射しP偏光を透過する性質のコーティングが施された第二端面50b、DMD53に対向し1/4波長板52が当接される第三端面50cを持つ三角プリズムである。なお、本実施形態では、各部材との相対的位置決めを容易にするため、偏光プリズム50として、第二端面50bが斜面である直角プリズムを採用している。
【0043】
第一端面50aを介して偏光プリズム50内部に入射した各色成分は、S偏光状態にあるため、第二端面50bで反射する。そして、第三端面50c、1/4波長板52を介してDMD53に斜入射する。
【0044】
DMD53により変調された各色成分のON光は、1/4波長板52および偏光プリズム50(より具体的には第三端面50c)に直角に入射する。そして、偏光プリズム50の第二端面50bに向かう。ここで、各色成分のON光は、1/4波長板52を2度透過しているため、偏光状態が90度回転した状態(P偏光状態)にある。従って、第三端面50cからの各色成分は、第二端面50bを透過する。
【0045】
ここで、従来の構成であれば、偏光プリズムはプロジェクタ内部の熱上昇等に高い耐久性能を持つガラス等といった空気との屈折率差が比較的大きい光学材料により形成されていた。従って、図5(A)に示すように第二端面50bから空気に射出される各色成分は屈折作用を受けてしまう。そのため、各部材間の相対的位置決めが非常に煩雑となることが指摘されていた。そこで従来は、図5(B)に示すように、偏光プリズム50と同一形状の光路補正用プリズムを互いの斜面を貼り合わせることにより、変調された色成分が屈折作用を受けることなく投影レンズ群に導かれるようにしていた。但し、該光路補正用プリズムを使用する分、どうしてもプロジェクタ全体としての大型化、重量化を招いていた。
【0046】
これに対し、第三実施形態では、偏光プリズム50を屈折率nが上記条件(1)さらには条件(2)を満たすエアロゲルにより形成している。従って、色成分は、第二端面50bにおいて屈折作用を殆ど受けることがない。つまり、上記従来の構成のように光路補正用プリズムを使用することなく、また各部材の相対的位置決めを煩雑にすることなく、変調された各色成分を投影レンズ群に導くことができる。
【0047】
なお、OFF光は、DMD53の偏向作用によって、1/4波長板52および偏光プリズム50(より具体的には第三端面50c)に鋭角で入射する。そのため、ON光とは異なる光路を進む、つまり、投影レンズ群11には導かれない。
【0048】
以上が本発明の実施形態である。本発明にかかるプロジェクタ用光学系は、上記の実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形を行っても同様の効果を奏する。
【0049】
第一および第二実施形態において、3板式プロジェクタに搭載されるプロジェクタ用光学系は、必ずしも上記構成に限定されるものではない。例えば、種々の光学部材を適宜組み合わせることによって上記各実施形態のプロジェクタ用光学系とは異なる構成で色分離を行うことも可能である。図6は、第一実施形態の変形例のプロジェクタ用光学系100’の色合成素子10近傍の概略構成を表す図である。変形例のプロジェクタ用光学系100’は、第一実施形態のプロジェクタ用光学系100とは異なる構成によって光源からの白色光を色分離する。図6に示すプロジェクタ用光学系100’は、第一実施形態における5、6、7の代替として、偏光ハーフミラー70を有する。光源1から照射され単一偏光板4によってS偏光状態にある白色光は、偏光ハーフミラー70により偏向され、色合成素子10に入射する。そして、色合成素子10の第一反射面10RによってR成分を色分離し、第二反射面10BによってB成分を色分離する。つまり、本変形例では、色合成素子10が、各色成分を合成するだけでなく、各色成分を分離する機能を併せ持つ。
【0050】
各反射型液晶素子9R、9G、9Bで変調されたR、G、Bの各色成分は、色合成素子10により合成され、偏光ハーフミラー70に再入射する。偏光ハーフミラー70に再入射するとき、各反射型液晶素子9R、9G、9Bの作用により各色成分はP偏光状態にある。そのため、各色成分は、偏光ハーフミラー70を透過し、投影レンズ群11に導かれる。
【0051】
さらに、例えば、上記第一および第二実施形態では、光源1からの光束は単一偏光板4によりS偏光状態に変換されると説明したが、P偏光状態に変換される構成であってもよい。また、上記各実施形態における各色成分の光路は任意に置換可能である。すなわち、例えば図1であれば、第一ダイクロイックミラー5を透過するのはR成分以外の色成分であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第一実施形態のプロジェクタ用光学系の概略構成を表す図である。
【図2】本発明の第一実施形態の色合成素子を示す図である。
【図3】本発明の第二実施形態のプロジェクタ用光学系の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第三実施形態のプロジェクタ用光学系の概略構成を表す図である。
【図5】本発明の第三実施形態のプロジェクタ用光学系に対応する従来の構成を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 光源
5、6 ダイクロイックミラー
8R、8G、8B 偏光ビームスプリッタ
9R、9G、9B 反射型液晶素子
10 色合成素子
11 投影レンズ群
10a〜10d 薄肉状光学素子
50 偏光プリズム
51 回転色分離板
53 DMD
100、100’、200 3板式プロジェクタ
300 単板式プロジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の画像信号に基づいて投影画像を生成するプロジェクタ用光学系において、
第一の直線偏光状態にある白色光を照射する光源部と、
該白色光を、偏光状態を維持しつつ、色の三原色に対応する第一から第三の色成分に分離する色分離手段と、
分離された各色成分を、該所定の画像信号に基づいて変調すると共に、該第一の直線偏光状態を90°回転した第二の直線偏光状態にする、各色成分に対応した第一から第三の液晶素子と、
前記第一から第三の液晶素子によって変調された各色成分を合成する色合成手段と、を備え、
前記色合成手段を、屈折率nが1.00より大きく1.40以下であり、所定の色成分のみを反射するコーティングが施されている複数の薄肉板状光学素子で構成したこと、を特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項2】
前記屈折率nは、1.05以上1.10以下であることを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ用光学系。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記薄肉板状光学素子は、エアロゲルを用いて形成されていることを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のプロジェクタ用光学系において、
前記色合成手段は、第一の色成分のみを反射する第一反射面、および該第一反射面に直交し第二の色成分のみを反射する第二反射面が形成されるように、前記複数の薄肉板状光学素子を組み合わせて構成されることを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項5】
請求項4に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記色合成手段は、互いに同一形状である四つの薄肉板状光学素子から構成され、
前記四つの薄肉板状光学素子のうち、二つは前記第一の色成分のみを反射する性質を持つコーティングが施されており、残りの二つは前記第二の色成分のみを反射する性質を持つコーティングが施されていることを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項6】
請求項5に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記四つの薄肉板状光学素子は、互いの一辺が接する状態であって、かつ同一の性質を持つコーティングが施された二つの薄肉板状光学素子が前記一辺上にある点を基準として点対称な関係にあるように組み合わされることを特徴とするプロジェクタ光学系。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のプロジェクタ用光学系において、
前記第一の直線偏光がS偏光であり、前記第二の直線偏光がP偏光であることを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載のプロジェクタ用光学系において、
前記第一から第三の液晶素子は、透過型であることを特徴とするプロジェクタ光学系。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載のプロジェクタ用光学系において、
前記第一から第三の液晶素子は、反射型であることを特徴とするプロジェクタ光学系。
【請求項10】
請求項9に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記色合成手段と前記色分離手段は、同一であることを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項11】
所定の画像信号に基づいて投影画像を生成するプロジェクタ用光学系において、
第一の直線偏光状態にある白色光を照射する光源部と、
該白色光を、偏光状態を維持しつつ、赤成分、緑成分、青成分に順次分離する色分離手段と、
分離された各色成分を、該所定の画像信号に基づいて変調する光空間変調素子と、
変調された各色成分を拡大投影する投影レンズ群と、
前記色分離手段により分離された、第一の直線偏光状態にある各色成分を前記光空間変調素子に導くと共に、該光空間変調素子により変調された、該第一の直線偏光状態を90°回転した第二の直線偏光状態にある各色成分を前記投影レンズ群に導く偏向素子と、を備え、
前記偏向素子を、屈折率nが1.00より大きく1.4以下の光学材料で形成したことを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項12】
前記屈折率nは、1.05以上1.10以下であることを特徴とする請求項11に記載のプロジェクタ用光学系。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記光学材料は、エアロゲルであることを特徴とするプロジェクタ用光学系。
【請求項14】
前記偏向素子と前記光空間変調素子間に1/4波長板をさらに有することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれかに記載のプロジェクタ用光学系。
【請求項15】
請求項14に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記偏向素子は、
前記色分離手段を介した各色成分が入射する第一端面と、
主として前記第一の直線偏光を反射し前記第二の直線偏光は透過するコーティングが施された第二端面と、
前記第二端面で反射した各色成分を前記1/4波長板を介して前記光空間変調素子に導く第三端面と、を有する偏光プリズムであることを特徴とするプロジェクタ光学系。
【請求項16】
請求項15に記載のプロジェクタ用光学系において、
前記偏向素子は、前記第二端面を斜面とする直角プリズムであることを特徴とするプロジェクタ光学系。
【請求項17】
光源からの光を色の三原色に対応する第一から第三の色成分に分離し、色成分毎に変調する3板式プロジェクタにおける色合成素子であって、
エアロゲルにより形成される同一形状の四つの薄肉状光学素子からなり、
前記四つの薄肉板状光学素子のうち、二つは前記第一の色成分のみを反射する性質を持つコーティングが施されており、残りの二つは前記第二の色成分のみを反射する性質を持つコーティングが施されており、
互いの一辺が接する状態であって、かつ同一の性質を持つコーティングが施された二つの薄肉板状光学素子が前記一辺上にある点を基準として点対称な関係にあるように組み合わされることにより構成される色合成素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−293071(P2006−293071A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114596(P2005−114596)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】