説明

プロセス特性変化に対応できる制御方法および制御装置

【課題】塗工機の制御では、塗工量と制御信号との関係が逆転する逆転範囲が時間と共に移動するので、ブレードポジションの制御範囲を、逆転範囲を含まないように狭くせざるを得なかった。また、逆転範囲と制御範囲が重なるとオペレータが手動で操作しなければならなかった。そのための、ブレード交換の頻度が増加し、コストの増大、操業率の低下、オペレータの負担増のない技術を提供する。
【解決手段】現在および過去のプロセス量測定値と制御信号から逆転範囲に入っているかどうかを判定し、逆転範囲に入っていると、通常範囲で用いるゲインとは異なる逆転ゲインを設定し、この設定したゲインと、プロセス量設定値と測定値の差分から制御信号を演算するようにした。また、プロセスの特性を推定し、境界付近にあると制御信号を一時的に大きくして境界付近から脱出させ、この特性が変化するとその変化を補償するように制御信号を変化させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス量と制御信号の関係を表す特性が変化したときに、その変化に対応することができる制御方法および制御装置に関し、特に紙やプラスティックフィルムにサイズ等を塗布する塗工機の制御装置に用いて好適な制御方法および制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に紙にサイズを塗布する塗工機の構成を示す。図5において、10はバッキングロール、11はこのバッキングロール10に一部巻き付けられ、サイズが塗布される紙、12は塗布量を調整するブレードである。このブレード12を矢印13の方向に移動させることにより、サイズの塗工量を調整する。φ1はローディングアングル、φ2はブレードアングルである。なお、紙11の幅方向に複数のアクチュエータ(図示せず)が配置されており、これらのアクチュエータでブレード12を移動させる。
【0003】
サイズを塗付するモードには、ベベルモードとベントモードがあり、使用するブレードによって使い分ける。ベベルモードとベントモードでは、ブレードの位置(ブレードポジション)と塗工量との関係が異なる。図6(A)はベベルモードでの塗工量とブレードポジションの関係を示す特性グラフであり、縦軸が塗工量、横軸がブレードポジションである。右に行くほどブレード12と紙11の間隔が広くなる。ベベルモードではブレードポジションの全範囲に渡って、塗工量はブレードポジションに比例する。従って、ブレードポジションの全範囲を制御範囲とすることができる。
【0004】
図6(B)は、ベントモードの塗工量とブレードポジションとの関係を表す特性グラフである。ブレードポジションがPminで塗工量が最小になり、ブレードポジションがこのPminよりどちらの方向に移動しても塗工量は増加する。位置Pminより右側が通常範囲であり、左側が塗工量の増減が逆転している逆転範囲になる。ベントモードでは、通常範囲でブレートポジションと塗工量が略比例する範囲のみを制御範囲とする。
【0005】
ベベルモードでは、ローディングアングルφ1を制御するローディングアングル制御と、ブレード12の位置を制御するポジション制御がある。通常、運転開始時はローディングアングル制御を行い、一定時間後にポジション制御に移行する。ポジション制御に移行した後は、ブレードを交換するまでポジション制御を続行する。図6(A)に示すように、ベベルモードではブレードポジションが増加すると塗工量は減少する。例えば、ブレードポジションが20μm増加すると、塗工量は0.3g/m減少する。
【0006】
ベントモードでは、運転開始からブレード12を交換するまでポジション制御を行う。ブレードポジションと塗工量の関係は図6(B)に示すようになるが、通常はブレードポジションが増加すると塗工量も増加する通常範囲の一部のみを使用する。従って、ブレードポジションの制御範囲はベベルモードより狭くなる。ブレードポジションと塗工量の関係は、例えばブレードポジションが20μm増加すると、塗工量は0.3g/m増加する。なお、ベントモードでは、図3のφ1とφ2の和をブレードアングルとする。
【0007】
図7に塗工機の構成を示す。図7において、設定値などを入力するマンマシンインターフェイス20、紙11の幅方向の塗工量を測定する測定装置21および測定装置21が測定した塗工量を塗工量設定値に近づけるように制御する制御装置22は、バス25に接続されている。
【0008】
制御装置22が出力する制御信号は、バッキングローラ10とブレード12間の距離を調節するプロファイラ23に出力される。このプロファイラ23には、バッキングローラ10、ブレード12を含む制御対象であるコータヘッダ24が接続される。
【0009】
図8に制御装置22の構成を示す。制御装置22は通常偏差処理部26、適正ゲイン決定処理部27および制御出力部28で構成される。通常偏差処理部26はマンマシンインターフェイス20から入力された塗工量設定値と測定装置21が測定した塗工量測定値の差分を計算し、適正ゲイン決定処理部27に出力する。適正ゲイン決定部27は、入力された差分から最適なゲインを決定し、差分にこの決定したゲインを乗算して制御出力部28に出力する。制御出力部28は、入力された値からブレード12を制御する制御信号を作成し、出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−263462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような塗工機の制御装置には次のような課題があった。図6(B)に示すように、ベントモードではブレードポジションと塗工量との関係はPminを境に通常範囲と逆転範囲に分けられ、これらの範囲ではブレードポジションと塗工量の関係が逆転している。そのため、ブレードポジションの一部の範囲しか制御に用いることができないという課題があった。
【0012】
また、一定時間以上経過すると、ブレードポジションと塗工量との関係が変化する。このことを、図9を用いて説明する。図9はブレードポジションと塗工量の関係を表す特性図の一例であり、30〜33はそれぞれブレード交換後8時間後、12時間後、16時間後、20時間後のブレードポジションと塗工量の関係を表す特性グラフである。この図から判るように、塗工量が最小になるブレードポジションPminは時間が経過するに従ってシフトする。このため、交換直後は通常範囲のみで制御していたが、時間が経過するに従って逆転範囲が制御範囲に入ってしまい、制御特性が悪化してしまうという課題もあった。
【0013】
このことを図10(A)を用いて説明する。図10(A)はブレードポジションと塗工量の関係を表すグラフが時間と共にシフトする例であり、34はブレード交換直後の特性グラフ、35は交換してから一定時間が経過した後の特性グラフである。
【0014】
ブレードポジションがP1の位置では、交換直後はブレードポジションが増加すると塗工量も増加するが、一定時間が経過するとブレードポジションが増加すると塗工量が減少する逆転現象が発生する。例えば、ブレードポジションがP1からP2に変化すると、交換直後は塗工量がA2だけ増加するが、一定時間が経過するとA1だけ減少してしまう。
【0015】
このため、逆転範囲が制御範囲に入る前にブレードを交換するか、逆転範囲を制御範囲として使用するためにオペレータが手動で制御していたが、ブレードの価格が高いので前者ではコスト増になり、後者では熟練オペレータでないと対応できず、かつオペレータの負担が増大するという課題もあった。また、ブレードの数カ所で逆転範囲と通常範囲の境界が移動すると、対応が極度に難しくなるという課題もあった。
【0016】
また、図10(B)は特性グラフの傾きが変化する例である。ブレードが消耗すると、逆転範囲がシフトするだけでなく、特性グラフの傾きが小さくなる。図10(B)の36は交換直後の特性グラフ、37はブレードが消耗したときの特性グラフである。
【0017】
37のような状態になると、ブレードポジションを変化させても塗工量の変化は小さくなるために、制御特性が悪化するという課題があった。特に、通常範囲と逆転範囲の境界点近くではブレードポジションを変えても塗工量はほとんど変化しないので、制御特性が極度に悪化してしまうという課題があった。
【0018】
従って本発明の目的は、プロセス量と制御信号の関係を表す特性が変化したときに、その変化に対応することができる制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
現在および過去の制御信号とプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量との関係が逆転範囲であるかどうかをチェックする工程と、
前記逆転範囲が連続して発生した回数と予め定められた所定回数を比較して、逆転範囲になったと判定する工程と、
逆転範囲でないと判定したときに通常ゲインを設定し、逆転範囲になったと判定したときに前記通常ゲインとは異なる逆転ゲインを設定して、プロセス量設定値とプロセス量測定値の差分および前記設定したゲインを用いて制御信号を演算する工程と、
を具備したものである。制御信号とプロセス量との間の特性が逆転しても、自動的に対応することができる。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量測定値との関係を表す特性を推定し、この推定した特性から通常範囲と逆転範囲の境界付近にあるかどうかを判定する工程と、
境界付近にあると判定したときに、この境界付近から抜け出すように制御信号を大きくする工程と、
を具備したものである。境界付近で制御信号に対するプロセス量の変化が小さくなっても、すぐに境界付近から脱出できる。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2記載の発明において、
現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量の関係を表す特性が変化したことを判定する工程と、
前記特性が変化したと判定したときに、この特性変化を補償するように前記制御信号を変化させる工程と、
を具備したものである。操業中に特性が変化しても、自動的に対応することができる。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3いずれかに記載の発明において、
過去の制御信号を参照して制御信号の安全な範囲を設定し、制御信号をこの安全な範囲内に制限するようにしたものである。プロセスに過大な制御信号が加えられることを防ぐことができる。
【0023】
請求項5記載の発明は、
プロセス量測定値および制御信号が入力され、前記プロセス量測定値および制御信号を保存すると共に、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量との関係が逆転範囲にあるかどうかを判定する逆転発生判定部と、
前記プロセス量設定値およびプロセス量測定値が入力され、前記逆転発生判定部が逆転範囲でないと判定したときに、入力されたプロセス量設定値とプロセス量測定値の差分、および通常ゲインを用いて演算を行い、その演算結果を出力する通常範囲処理部と、
前記プロセス量設定値およびプロセス量測定値が入力され、前記逆転発生判定部が逆転範囲であると判定したときに、入力されたプロセス量設定値とプロセス量測定値の差分、および前記通常ゲインとは異なる逆転ゲインを用いて演算を行い、その演算結果を出力する逆転範囲処理部と、
前記通常範囲処理部と前記逆転範囲処理部の出力が入力され、これら入力された値から制御信号を作成して出力する制御出力部と、
を具備したものである。制御信号とプロセス量との間の特性が逆転しても、自動的に対応することができる。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、
前記逆転発生判定部にはプロセス量設定値が入力され、この逆転発生判定部は、逆転範囲でないと判定したときに前記プロセス量設定値とプロセス量測定値を前記通常範囲処理部に出力し、逆転範囲であると判定したときに前記プロセス量設定値とプロセス量測定値を逆転範囲処理部に出力するようにしたものである。制御信号とプロセス量との間の特性が逆転しても、自動的に対応することができる。
【0025】
請求項7記載の発明は、請求項5若しくは請求項6記載の発明において、
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量測定値との関係を表す特性を推定し、この推定した特性から通常範囲と逆転範囲の境界付近にあるかどうかを判定して、境界付近にあると判定したときに境界点信号を前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部に出力し、
前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部は、前記境界点信号が入力されたときに、この境界点付近から抜け出せるようにその出力を大きくするようにしたものである。境界付近で制御信号に対するプロセス量の変化が小さくなっても、すぐに境界付近から脱出できる。
【0026】
請求項8記載の発明は、請求項5若しくは請求項6記載の発明において、
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量測定値との関係を表す特性を推定し、この推定した特性から通常範囲と逆転範囲の境界付近にあるかどうかを判定して、境界点付近にあると判定したときに境界点信号を前記制御出力部に出力し、
前記制御出力部は、前記境界点信号が入力されたときに、この境界点付近から抜け出せるように制御信号を大きくするようにしたものである。境界付近で制御信号に対するプロセス量の変化が小さくなっても、すぐに境界付近から脱出できる。
【0027】
請求項9記載の発明は、請求項5乃至請求項8いずれかに記載の発明において、
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量の特性が変化したかどうかを判定し、変化したと判定したときに特性変化信号を前記通常範囲処理部と逆転範囲処理部に出力し、
前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部は、前記特性変化信号が入力されたときに、前記特性の変化を補償するようにその出力を変化させるようにしたものである。操業中に特性が変化しても、自動的に対応することができる。
【0028】
請求項10記載の発明は、請求項5乃至請求項8いずれかに記載の発明において、
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量の特性が変化したかどうかを判定し、変化したと判定したときに特性変化信号を前記制御出力部に出力し、
前記制御出力部は、特性変化信号が入力されたときに、特性の変化を補償するようにその出力を変化させるようにしたものである。操業中に特性が変化しても、自動的に対応することができる。
【0029】
請求項11記載の発明は、請求項5乃至請求項9いずれかに記載の発明において、
制御信号を保存する制御信号保存部を具備し、
前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部は、この制御信号保存部に保存された値から制御信号の安全な範囲を推定し、この安全範囲を越えないようにその出力を制限するようにしたものである。プロセスに過大な制御信号が加えられることを防ぐことができる。
【0030】
請求項12記載の発明は、請求項5乃至請求項10いずれかに記載の発明において、
制御信号を保存する制御信号保存部を具備し、
前記制御出力部は、この制御信号保存部に保存された値から制御信号の安全な範囲を推定し、この安全範囲を越えないように制御信号を制限するようにしたものである。プロセスに過大な制御信号が加えられることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
請求項1,2、3、4、5、6、7、8、9、10、11および12の発明によれば、現在および過去のプロセス量測定値と制御信号から、プロセス量と制御信号の関係が逆転しているかどうかを判定し、逆転していないときは通常ゲインを設定し、逆転しているときは逆転ゲインを設定して、プロセス量設定値と測定値の差分とこの設定したゲインからプロセスを制御する制御信号を演算するようにした。また、現在および過去のプロセス量設定値と測定値からプロセスの特性を推定し、通常範囲と逆転範囲の境界付近にあると判定したときは、一時的に制御信号を大きくして境界付近から脱出するようにした。さらに、推定したプロセスの特性が当初の特性と異なっていると判定したときは、この変化を補償するように制御信号を変化させるようにした。
【0032】
制御範囲に逆転範囲を含めることができるので、制御範囲を拡大することができる。このため、操業中に逆転範囲が移動するようなプロセスでは連続して操業できる期間を延ばすことができ、生産効率を向上させることができるという効果がある。
【0033】
また、従来はプロセス中に特性が変化したときはオペレータが手動で対応しなければならなかった。そのため、熟練オペレータが必要であり、またオペレータの負担が増大するという課題あった。本発明では自動的にプロセス特性の変化に対応することができるので、オペレータの負担が軽減するという効果もある。
【0034】
さらに、従来はプロセスの特性が変化すると部品を交換するなどの措置を行わなければならず、コストの増大、操業率の低下をきたすという課題があった。本発明によると部品交換の頻度を少なくすることができるので、部品交換のコストが少なくなり、かつ部品交換の時間が少なくなるので、操業率が向上するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例を示すフローチャートである。
【図2】本発明による塗工機の構成図である。
【図3】制御装置の構成図である。
【図4】本発明の効果を説明するための特性図である。
【図5】塗工機の構成図である。
【図6】ベベルモードとベントモードを説明するために特性図である。
【図7】従来の塗工機の構成図である。
【図8】従来の制御装置の構成図である。
【図9】従来の課題を説明するための特性図である。
【図10】従来の課題を説明するための特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る塗工機の制御方法の一実施例を示すフローチャートである。図6(B)で説明したように、ベントモードでは逆転範囲のときはブレードポジションが減少すると塗工量が増加(傾きが負)し、通常範囲ではブレードポジションが増加すると塗工量が増加する(傾きが正)特性を示す。このため、従来は通常範囲の一部のみ制御範囲として使用していた。この実施例では、ブレードポジションの制御範囲を逆転範囲に拡大することができるようにするものである。
【0037】
図1に示す実施例の制御方法は工程(P1−1)〜(P1−8)の8つの工程で構成されており、これらの工程は制御周期毎に繰り返される。まず、工程(P1−1)で現在および過去の制御信号と塗工量測定値から、逆転範囲に入っているかどうかをチェックする。
【0038】
制御信号からブレードポジションが増加しているか減少しているかを知ることができる。また、現在と1つ前の塗工量測定値の差分から、塗工量が増加しているか減少しているかを知ることができる。通常範囲ではブレードポジションと塗工量の関係を表すグラフの傾きが正であり、逆転範囲では負になる。従って、制御信号と塗工量測定値から通常範囲にあるか、逆転範囲にあるかをチェックすることができる。
【0039】
次に、工程(P1−2)で逆転範囲にあるかどうかで処理を分岐する。逆転範囲であると工程(P1−3)に進み逆転回数をカウントするカウンタをインクリメントし、逆転でないと工程(P1−4)に進みカウンタをクリアする。
【0040】
工程(P1−3)でカウンタをインクリメントすると、次に工程(P1−5)でカウンタのカウント値が規定値以上であるかを判断する。この規定値はプロセスの状態に応じて変更することができるが、通常1〜2が用いられる。
【0041】
カウント値が規定値以上であると、工程(P1−6)で逆転範囲にあると判定し、逆転ゲインを設定して、塗工量設定値と測定値の差分にこの逆転ゲインを乗算し、この乗算値に基づいて制御信号を生成する。工程(P1−4)でカウントをクリアしたとき、およびカウント値が規定値以上でないときは、工程(P1−7)で逆転範囲に入っていないと判定し、通常ゲインを設定して、塗工量設定値と測定値の差分にこの通常ゲインを乗算し、この乗算値に基づいて制御信号を生成する。そして、工程(P1−8)で塗工量測定値と制御信号を保存し、工程(P1−1)に戻る。
【0042】
図6(B)からわかるように、通常範囲ではブレードポジションと塗工量の関係を表すグラフの傾きが正になり、逆転範囲では負になる。従って、通常ゲインと逆転ゲインはその符号が逆になる。また、通常範囲と逆転範囲における傾きの絶対値の平均値が異なる場合は、通常ゲインと逆転ゲインの絶対値を異ならせるようにすることもできる。
【0043】
通常範囲と逆転範囲の境界点(図6(B)のPmin)付近ではブレードポジションと塗工量の関係を表す特性グラフの傾きが小さいので、ブレードポジションが変化しても塗工量はほとんど変化しない。このような状態になると制御信号が一定になり、境界点付近から抜け出すことができなくなる場合がある。
【0044】
過去の制御信号と塗工量測定値から、制御信号と塗工量との関係がわかる。制御信号とブレードポジションの間には所定の関係があるので、過去の制御信号と塗工量測定値から、ブレードポジションと塗工量との関係を表す特性グラフを推定することができる。この特性グラフを用いることにより、通常範囲と逆転範囲の境界点付近に捕らわれているかどうか判定することができる。境界点付近に捕らわれていると判定されると、通常ゲインあるいは逆転ゲインの絶対値を一時的に大きくし、ブレードを大きく動かして境界点付近から脱出させるようにする。
【0045】
また、この推定した特性グラフを用いると、図10(B)に示すように時間と共に特性グラフの傾きが減少する程度を見積もることができる。傾きが減少すると、通常ゲインあるいは逆転ゲインの絶対値を増加させ、傾きの減少を補うことができる。
【0046】
なお、通常/逆転ゲインの絶対値が大きくなりすぎると、操業上支障をきたすばあいがある。このような場合は制御信号を保存しておき、この保存した値から安全な制御信号の範囲を推定し、制御信号がこの安全範囲を越えないようにする。また、規定値が1の場合は、工程(P1−3)〜(P1−5)は不要であるが、逆転範囲に入っている回数と規定回数を比較して判定していることは同じである。
【0047】
図2に本発明に係る塗工機の構成を示す。なお、図7と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。図2において、40は制御装置であり、バス25に接続されている。この制御装置40にはプロファイラ23が接続されている。制御装置40以外の部分は、従来の塗工機と同じ構成を有している。
【0048】
図3に制御装置40の構成を示す。図3において、制御装置40は逆転発生判定部41、この逆転発生判定部41内に配置されている記憶部42、通常範囲処理部43、逆転範囲処理部44、制御出力部45、制御信号保存部46で構成されている。
【0049】
逆転発生判定部41はマンマシンインターフェイス20から入力された塗工量設定値および測定装置21が測定した塗工量測定値が入力される。また、記憶部42には塗工量測定値と、制御出力保存部46を介して制御信号が入力される。記憶部42はこれらの入力値を保存する。
【0050】
逆転発生判定部41は、記憶部42に保存された塗工量測定値および制御信号に基づいて逆転範囲に入っているかどうかを判定し、逆転範囲に入っていると逆転範囲処理部44に入力された塗工量設定値/測定値を出力し、逆転範囲に入っていないとこれらの値を通常範囲処理部43に出力する。通常範囲処理部43、逆転範囲処理部44は入力された塗工量設定値と測定値の差分を演算し、この差分に適切なゲインを乗算して制御出力部45に出力する。
【0051】
制御出力部45は、入力された値からブレード12を動かす制御信号を生成する。この制御信号はプロファイラ23に出力されると共に、制御信号保存部46に出力される。制御信号保存部46は入力された制御信号を記憶すると共に、記憶部42に入力された制御信号を出力する。記憶部42はこの制御信号を保存する。
【0052】
次に、図2実施例の動作を説明する。逆転発生判定部41は、記憶部42に記憶された過去の塗工量測定値と制御信号および入力された塗工量測定値と制御信号から逆転範囲であるかどうかをチェックし、規定回数以上連続して逆転範囲に入っていると、逆転範囲に入っていると判定する。このチェックは制御周期毎に行われる。
【0053】
逆転範囲に入っていると判定すると、入力された塗工量設定値と塗工量測定値を逆転範囲処理部44に出力し、逆転範囲に入っていないと判定すると、入力された塗工量設定値と塗工量測定値を通常範囲処理部43に出力する。なお、前記規定回数はプロセスの状況によって変更できるが、通常1〜2回が用いられる。逆転が発生したかどうかのチェック方法は、図1実施例と同じなので、説明を省略する。
【0054】
通常範囲処理部43は、入力された塗工量設定値と測定値の差分を演算し、この差分に適切な通常ゲインを乗算して制御出力部45に出力する。逆転範囲処理部44は、入力された塗工量設定値と測定値の差分を演算し、この差分に適切な逆転ゲインを乗算して制御出力部45に出力する。
【0055】
図1で説明したように、通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44が用いるゲインは、少なくとも符号が逆になっている。また、ブレードポジションと塗工量の特性グラフに応じて、ゲインの絶対値を異ならせてもよい。
【0056】
また、逆転発生判定部41は、記憶部42に保存された過去の制御信号と塗工量測定値からブレードポジションと塗工量との関係を表す特性グラフを推定し、このグラフを用いて通常範囲と逆転範囲の境界点付近に捕らわれているかどうか判定する。境界点付近に捕らわれていると判定すると、境界点信号を通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44に出力する。通常範囲処理部43および逆転範囲処理部44はゲインの絶対値を一時的に大きくし、ブレードを大きく動かして境界点付近から脱出させるようにする。
【0057】
さらに、この推定した特性グラフを用いると、図10(B)に示すように時間と共に特性グラフの傾きが減少する程度を見積もることができる。傾きが減少すると、特性変化信号を通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44に出力する。通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44は、この特性変化信号が入力されると、通常ゲインあるいは逆転ゲインの絶対値を増加させ、傾きの減少を補う。
【0058】
なお、制御信号が大きくなりすぎると、操業上支障をきたすばあいがある。このため、通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44は制御信号保存部46に保存された過去の制御信号を参照して安全な制御信号の範囲を推定し、制御信号がこの安全範囲を越えないようにゲインを調整する。
【0059】
なお、この実施例では塗工量設定値と測定値を逆転発生判定部41に入力し、この逆転発生判定部41から通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44に出力したが、逆転発生判定部41には塗工量設定値を入力せず、通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44に直接塗工量設定値と測定値を入力するようにしてもよい。この場合、逆転発生判定部41から制御出力部45に逆転範囲に入っているかどうかの信号を出力し、制御出力部45はこの信号に基づいて通常範囲処理部43と逆転範囲処理部44の出力を選択して制御信号を生成するようにすればよい。
【0060】
また、境界点信号を制御出力部45に出力し、制御出力部45はこの境界点信号が入力されると、境界付近から脱出するように制御信号を一時的に大きくするようにしてもよい。さらに、特性変化信号を制御出力部45に出力して、制御出力部45がブレードポジションと塗工量の特性グラフの傾きの減少を補償するように制御信号を増加させるようにしてもよい。
【0061】
なお、図5では省略したが、ブレード12には複数のアクチュエータが設置され、このアクチュエータによってブレード12と紙11の間隔が制御される。また、測定装置21は紙の幅方向の塗工量プロファイルを測定する。制御装置40はこのプロファイルから各アクチュエータを制御する制御信号を生成する。このため、紙11の幅方向の各部で通常範囲と逆転範囲の境界点が異なり、また特性グラフの傾きが異なっても、調整することができる。
【0062】
図4を用いて、これらの実施例の効果を説明する。図4(A)はブレードポジションと塗工量の特性グラフが平行移動した場合であり、図9と同じグラフである。50〜53はそれぞれブレード交換後8時間、12時間、16時間、20時間後の特性グラフである。特性グラフが逆転する位置は時間の経過に従って移動する。
【0063】
従来は、ブレードポジションの制御範囲はブレードの全使用時間で通常範囲を維持する範囲に限定されていた。そのため、ブレードポジションは制御範囲1の狭い範囲に限定せざるを得なかった。本発明では制御範囲に逆転範囲を含むことができるので、制御範囲2のようにブレードの可動範囲のほぼ全域を制御範囲とすることができる。
【0064】
図4(B)は特性グラフの傾きが変わる場合であり、54はブレード交換直後の特性グラフ、55は20時間後の特性グラフである。従来の制御装置は操業中に特性グラフの傾きが変化することに対応することができなかった。そのため、傾きが変化する前にブレードを交換するか、オペレータが手動で対応せざるを得なかった。本発明によって過去の塗工量測定値と制御信号から特性グラフの変化を見積もり、傾きの減少を補償するようにゲインを増加させることにより、特性グラフの傾きが変化しても自動的に対応することができる。但し、ブレードが消耗して使用が不適切になる範囲まで自動調整を拡大することは行わない。
【0065】
このような利点のために、次のような効果が得られる。
(1)逆転が発生しても適切に対応することができるので、24時間連続で常に高品質のシートを連続して生産することができる。
(2)制御範囲に逆転範囲を含むことができるので、ブレードポジションの制御範囲を大幅に拡大することができる。そのため、ブレードの寿命を増加させ、また交換頻度を少なくすることができるので、損紙の減少、コストの削減、操業率の向上を図ることができる。
(3)ブレードポジションと塗工量の特性グラフが変化しても自動的に対応することができるので、オペレータが手動で操作する必要がなくなる。そのため、熟練オペレータでなくても操作することができ、かつオペレータの負担を大幅に削減することができる。
【0066】
なお、これらの実施例は紙の塗工について説明したが、プラスティック等紙以外のシート状製品の塗工機にも適用することができる。また、抄紙機の坪量、厚さ、水分、カラー等塗工量以外のプロセス量で、操業中にプロセス量と制御信号との間の特性が逆転する制御方法、制御装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0067】
20 マンマシンインターフェイス
21 測定装置
23 プロファイラ
24 コータヘッダ
25 バス
40 制御装置
41 逆転発生判定部
42 記憶部
43 通常範囲処理部
44 逆転範囲処理部
45 制御出力部
46 制御信号保存部
50〜55 ブレードポジションと塗工量の特性グラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在および過去の制御信号とプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量との関係が逆転範囲であるかどうかをチェックする工程と、
前記逆転範囲が連続して発生した回数と予め定められた所定回数を比較して、逆転範囲になったと判定する工程と、
逆転範囲でないと判定したときに通常ゲインを設定し、逆転範囲になったと判定したときに前記通常ゲインとは異なる逆転ゲインを設定して、プロセス量設定値とプロセス量測定値の差分および前記設定したゲインを用いて制御信号を演算する工程と、
を具備したことを特徴とするプロセス特性変化に対応できる制御方法。
【請求項2】
現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量測定値との関係を表す特性を推定し、この推定した特性から通常範囲と逆転範囲の境界付近にあるかどうかを判定する工程と、
境界付近にあると判定したときに、この境界付近から抜け出すように制御信号を大きくする工程と、
を具備したことを特徴とする請求項1記載のプロセス特性変化に対応できる制御方法。
【請求項3】
現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量の関係を表す特性が変化したことを判定する工程と、
前記特性が変化したと判定したときに、この特性変化を補償するように前記制御信号を変化させる工程と、
を具備したことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載のプロセス特性変化に対応できる制御方法。
【請求項4】
過去の制御信号を参照して制御信号の安全な範囲を設定し、制御信号をこの安全な範囲内に制限するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載のプロセス特性変化に対応できる制御方法。
【請求項5】
プロセス量測定値および制御信号が入力され、前記プロセス量測定値および制御信号を保存すると共に、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量との関係が逆転範囲にあるかどうかを判定する逆転発生判定部と、
前記プロセス量設定値およびプロセス量測定値が入力され、前記逆転発生判定部が逆転範囲でないと判定したときに、入力されたプロセス量設定値とプロセス量測定値の差分、および通常ゲインを用いて演算を行い、その演算結果を出力する通常範囲処理部と、
前記プロセス量設定値およびプロセス量測定値が入力され、前記逆転発生判定部が逆転範囲であると判定したときに、入力されたプロセス量設定値とプロセス量測定値の差分、および前記通常ゲインとは異なる逆転ゲインを用いて演算を行い、その演算結果を出力する逆転範囲処理部と、
前記通常範囲処理部と前記逆転範囲処理部の出力が入力され、これら入力された値から制御信号を作成して出力する制御出力部と、
を具備したことを特徴とするプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項6】
前記逆転発生判定部にはプロセス量設定値が入力され、この逆転発生判定部は、逆転範囲でないと判定したときに前記プロセス量設定値とプロセス量測定値を前記通常範囲処理部に出力し、逆転範囲であると判定したときに前記プロセス量設定値とプロセス量測定値を逆転範囲処理部に出力するようにしたことを特徴とする請求項5記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項7】
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量測定値との関係を表す特性を推定し、この推定した特性から通常範囲と逆転範囲の境界付近にあるかどうかを判定して、境界付近にあると判定したときに境界点信号を前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部に出力し、
前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部は、前記境界点信号が入力されたときに、この境界点付近から抜け出せるようにその出力を大きくするようにしたことを特徴とする請求項5若しくは請求項6記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項8】
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量測定値との関係を表す特性を推定し、この推定した特性から通常範囲と逆転範囲の境界付近にあるかどうかを判定して、境界点付近にあると判定したときに境界点信号を前記制御出力部に出力し、
前記制御出力部は、前記境界点信号が入力されたときに、この境界点付近から抜け出せるように制御信号を大きくするようにしたことを特徴とする請求項5若しくは請求項6記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項9】
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から制御信号とプロセス量との関係を表す特性が変化したかどうかを判定し、変化したと判定したときに特性変化信号を前記通常範囲処理部と逆転範囲処理部に出力し、
前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部は、前記特性変化信号が入力されたときに、前記特性の変化を補償するようにその出力を変化させるようにしたことを特徴とする請求項5乃至請求項8いずれかに記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項10】
前記逆転発生判定部は、現在および過去の制御信号およびプロセス量測定値から、制御信号とプロセス量との関係表す特性が変化したかどうかを判定し、変化したと判定したときに特性変化信号を前記制御出力部に出力し、
前記制御出力部は、特性変化信号が入力されたときに、特性の変化を補償するようにその出力を変化させるようにしたことを特徴とする請求項5乃至請求項8いずれかに記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項11】
制御信号を保存する制御信号保存部を具備し、
前記通常範囲処理部および逆転範囲処理部は、この制御信号保存部に保存された値から制御信号の安全な範囲を推定し、この安全範囲を越えないようにその出力を制限するようにしたことを特徴とする請求項5乃至請求項9いずれかに記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。
【請求項12】
制御信号を保存する制御信号保存部を具備し、
前記制御出力部は、この制御信号保存部に保存された値から制御信号の安全な範囲を推定し、この安全範囲を越えないように制御信号を制限するようにしたことを特徴とする請求項5乃至請求項10いずれかに記載のプロセス特性変化に対応できる制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−39919(P2011−39919A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188380(P2009−188380)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】