説明

プロパン−1−スルホン酸{3−[5−(4−クロロ−フェニル)−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−カルボニル]−2,4−ジフルオロ−フェニル}−アミド組成物とその用途

本発明は、化合物プロパン−1−スルホン酸{3−[5−(4−クロロ−フェニル)−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−カルボニル]−2,4−ジフルオロ−フェニル}−アミド及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含むマイクロ沈殿バルク粉末(MBP)の改善された製造方法に関する。本発明は上記MBPを含む薬学的組成物、並びに癌の治療のための医薬の製造におけるその使用に更に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物プロパン−1−スルホン酸{3−[5−(4−クロロ−フェニル)−1H−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−カルボニル]−2,4−ジフルオロ−フェニル}−アミド(式1)及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を含む、固体分散体、特にマイクロ沈殿バルク粉末(Micro-precipitated Bulk Powder)(MBP)の改善された製造方法に関する。

【0002】
式1の化合物、それを合成する方法、並びにその化合物を含む従来の薬学的製剤は国際公開第2007002433号及び国際公開第2007002325号に開示されている。式1の化合物は癌の増殖、特に固形腫瘍の増殖に対する潜在的な医薬としての貴重な薬学的性質を示す。
【背景技術】
【0003】
水への溶解度が低い化合物(例えば結晶形のある種の化合物)は低い溶解速度を有しており、その結果、乏しい生物学的利用能を示しうる。乏しい生物学的利用能の化合物は、しばしば患者による化合物の異常な吸収によって引き起こされる投薬/治療作用が予測不可能であるため、患者への治療的投与に対して問題を提示しうる。例えば、食物の摂取は、患者のそのような乏しい生物学的利用能の化合物を吸収する能力に影響を及ぼす場合があり、よって潜在的に投薬レジメンにおいて食物の影響を考慮する必要がある。また、投薬の際、予測できない投薬効果の結果、用量に対して大きな安全マージンが必要とされうる。更に、乏しい生物学的利用能のため、所望の治療効果を達成するには大きな用量の化合物が必要とされる場合があり、潜在的に望まれない副作用を生じうる。
【0004】
化合物1の非晶質形は結晶形と比較して水における溶解度が改善されているが、結晶化する傾向を有しているため、不安定である。よって、化合物Iは、それが主として非晶質形で安定して存在しうるように処方することが望ましい。
【0005】
HPMCASは、薬剤の固体分散体(SD)の製造に使用されているポリマーである(例えばH. Konno, L. S. Taylor, Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 95, No.12, 2006, 2692-2705を参照)。
【0006】
欧州特許第0901786B1号は、難水溶性薬物とHPMCASの噴霧乾燥固体分散体を含有する組成物を開示している。開示された薬物はそれぞれ国際公開第96/39385号及び国際公開第95/05360号に開示されているようなグリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤及び5−リポキシゲナーゼ阻害剤である。
【0007】
欧州特許第1368001B1号は薬剤ビカルタミドとHPMCASのような腸溶性ポリマーを含有する薬学的製剤を開示する。溶媒を蒸発させるための開示された方法は、ロータリーエバポレーション、凍結乾燥及び薄膜蒸発を含む。例えば溶媒制御沈殿、pH制御沈殿、噴霧凝結及び超臨界技術(例えば超臨界流体による溶液促進分散(SEDS)法)のような他の技術を使用することができることが更に開示されている。
【0008】
欧州特許第0344603B1号は、NZ−105と命名された薬剤を用いてHPMCASを製剤化することを開示している。該特許は、有機溶媒にNZ−105とHPMCASを溶解させ、溶媒を真空乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等によって除去することによって調製される製剤を開示している。より詳細には、HPMCASとNZ−105の分散体が、(1)リン酸水素カルシウム粒子又はラクトース結晶の何れかの被覆による流動床造粒又は(2)ラクトースと共に真空乾燥して固形ケーキを形成し、これをついで微粉砕して粉末材料を形成することにより形成されている。粒径は100から400メッシュ(0.037mmから0.149mm)の範囲にあると記載されている。
【0009】
欧州特許出願公開第0580860号は、ポリマーに溶解させた薬剤の固体分散体の調製方法を開示しており、そのポリマーはとりわけHPMCASである。請求項記載の方法は、パドル手段を備えた二軸スクリュー押出機を使用することを特徴としている。
【0010】
F. Tanno等は固体分散体において担体としてHPMCASを使用することを開示している。研究においてモデル物質として使用された特定の薬剤はニフェジピンである。固体分散体は、テフロン(商標)シート上に有機溶媒中のHPMCASと薬剤の混合物を噴霧し、溶媒を蒸発させ、得られた膜を除去し粉砕することによって得られている(Drug Development and Industrial Pharmacy, Vol.30, No.1, 2004, 9-17)。Molecular Pharmaceutics, Vol. 5, No. 6, 2008, 1003-1019はまた数種の難水溶性薬剤を使用するHPMCAS噴霧乾燥分散体を開示している。
【0011】
Bruno C. Hancock, George Zografi, Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol 86, No.1, 1997, 1-12は、例えば噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥又は沈殿を含むいわゆる溶媒法を使用して固体分散体を製造する際に溶媒を除去する方法を開示している。
【発明の概要】
【0012】
ある態様及び実施態様では、HPMCASと式1の化合物を含む固体分散体を調製する方法が提供される。多くの実施態様では、該方法は、他の方法と比較して、低量の有機溶媒を使用し得、よってより環境に優しく;工業的規模で使用される場合に安全であり;及び/又は再結晶化に対する安定性のような改善された性質を示す。多くの態様及び実施態様において、該方法は、ここに記載される条件及びプロセスパラメータを使用しての水性相内におけるHPMCASと式1の化合物の混合物のマイクロ沈殿を含む。
【0013】
一実施態様では、式1の化合物の非晶質形とHPMCASを含む固体分散体の製造方法が提供され、ここで、固体分散体は、式1の化合物とHPMCASの同じ有機溶媒中の溶液を水性相内に導入し、続いて沈殿させ、上記水性相から上記固体分散体を分離することによって得られる。
【0014】
所定のより特定の実施態様では、上記方法は、次の工程、
(a)式1の化合物とHPMCASを同じ有機溶媒に溶解させて単一の有機相を得る工程と;
(b)混合チャンバに存在する水性相中に(a)で得られた有機相を連続的に加える工程であって、該混合チャンバは高剪断混合ユニットと該混合チャンバを閉ループで接続する2つの更なる開口部を備え、該水性相が循環され混合チャンバを通過する工程と;
(c)(b)に記載の水性相から、高剪断ミキサーを操作し上記水性相を閉ループで混合チャンバを通過させながら、式1の化合物の非晶質形とHPMCASからなる混合物を沈殿させ、沈殿物の水性懸濁液を生じさせる工程と;
(d)定まった粒径及び/又は粒度分布が得られるまで、高剪断混合ユニットを操作し、(a)で調製された有機相が水性相に完全に添加された後に水性懸濁液を混合チャンバに連続的に循環させる工程と;
(e)懸濁液から固相を分離させる工程;
(f)分離された固相を0.01NのHCl及び/又は水で洗浄する工程;及び
(g)固相の破塊(デランピング)及び乾燥工程
を含む。
【0015】
更により特定の実施態様では、本方法は、
−(a)の有機相が、化合物1とHPMCASのDMA中の10から40%溶液であり、化合物1対HPMCASの比が約10対90%(w/w)から約60対40%(w/w)であり;かつ
−工程(b)の連続添加が、約15から約25m/secの先端速度で操作される上記高剪断ミキサーのローターから約1から約10mmの距離を有し、高剪断ミキサーの長軸に対して40から50°の角度で配向しているインジェクタノズルによって達成される、
工程を含む。
【0016】
更により特定の実施態様では、本方法は、
−工程(b)の連続添加が、約25m/secの先端速度で操作される上記高剪断ミキサーのローターから約2から約4mmの距離を有し、高剪断ミキサーの長軸に対して約45°の角度で配向しているインジェクタノズルによって達成される、
工程を含む。
【0017】
他の特定の実施態様では、本方法は、
−上記工程(g)の乾燥が流動床乾燥によって達成される
工程を含む。
【0018】
更に他の特定の好ましい実施態様では、(a)の有機相は、DMA、式1の化合物及びHPMCAS−Lを含み、工程(b)が、約80/1から200/1(水性相/有機相)の範囲の質量流量比で上記有機相を水性(0.01N)HCl中に上記水性HClを約2−8℃の温度に維持しながら、加えることを含む。
【0019】
更なる実施態様では、上述の方法によって得られる固体分散体が提供される。
【0020】
乾燥された沈殿物は、当業者に知られている任意のタイプの固体医薬品又は投薬形態に更に加工されうる。特に好ましいものは、錠剤、カプセル剤、丸薬、散剤、懸濁剤、ペースト剤等のような経口投薬形態である。適切な賦形剤並びにそのような医薬品(薬学的調製物)を製造する方法の詳細な説明は、例えばRaymond C. Rowe等, Handbook of Pharmaceutical Excipients, 6版, 2009, Pharmaceutical Press (Publ.); ISBN-10: 0853697922に見出すことができる。
【0021】
従って、このようにして得られた医薬品がここで提供される更なる実施態様を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
活性な薬学的成分(API)である式1の化合物と賦形剤ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)が、供給ホッパーにおいて有機の水混和性溶媒に溶解させられる。第2の容器において、定められた温度の水性相が、高剪断ミキサー(HSM、ローター/ステーターユニット)を通過しながら、容器の外側のループにポンプ移送される。プロセスの概略図は図1から分かる。両溶液の温度は製造プロセスが完了するまで制御された。API及び賦形剤を有する溶液(有機相)は、高剪断ユニット(分散ユニット)が操作されながら、定まった流量で、ローター/ステーターツールを含む混合チャンバ中にドージングされる。二つの液体(水性相と有機相)の混合中に、定まった比での非晶質形APIとHPMCASの混合物であるほぼ水不溶性の沈殿物が形成され、外側の相(水と有機溶媒の混合物)中にマイクロ沈殿バルク粉末(MBP)の懸濁液を生じる。有機相の添加の完了後、粒径を調整するために懸濁液は分散ユニットを多くの流路を強制的に通過させた。続いて、有機溶媒を除去するために、懸濁液を遠心分離し、数回水相で洗浄し、最後に更に純水で洗浄した。得られた湿ったMBPを破塊し、2重量%(w/w)以下の含水量まで乾燥させた。MBPは白色の自由に流れる粉末として得られた。
【0023】
式1の化合物は国際公開第2007002433号又は国際公開第2007002325号に開示された方法によって合成することができる。
【0024】
「HPMCAS」なる用語は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(商品名:AQOATで、信越化学工業株式会社(日本)又は指定販売業者から入手可能)を意味し、これは次のグレードで入手可能である:AS−LF、AS−MF、AS−HF、AS−LG、AS−MG及びAS−HG。異なったHPMCASグレードの溶解度並びにその薬剤放出挙動は環境のpH値に依存する。従って、薬剤の放出挙動は、適切なHPMCASグレード(AQOATの製品情報カタログを参照のこと)の選択によりpH約5.2からpH約6.5の範囲で仕立てられうる。従って、一実施態様では、式1の化合物はHPMCASグレードAS−L、AS−M、AS−Hから選択される少なくとも一のポリマーとの固体分散体中にある。しかしながら、二以上の様々なHPMCASグレードの混合物を本発明においてまた使用することができることは理解される。
【0025】
ここで使用される「固体分散体」なる用語は、式1の化合物のような低分子量化合物が分子的に分散している、ポリマー、好ましくはHPMCASのような高分子量化合物によって形成される固体状態の材料を意味する。本発明に係る特に好ましい固体分散体は、主としてその非晶質形である式1の化合物とHPMCASから本質的になるマイクロ沈殿バルク粉末(MBP)である。
【0026】
工程(a)の元で述べられた「有機溶媒」は、式1の化合物とHPMCASの双方が混和性である任意の有機溶媒を意味する。好ましい有機溶媒はN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド(DMA)であり、DMAが最も好ましい。有機相中の式1の化合物とHPMCASの一緒に併せた量は、約10から40重量%、好ましくは約15から40重量%、より好ましくは約25から40重量%の範囲内、最も好ましくは約35重量%でありうる。有機溶媒中の式1の化合物/HPMCASの重量比は、それぞれ約10/90から約60/40重量%、より好ましくは約30/70から約60/40重量%、最も好ましくは約30/70重量%でありうる。好ましくは、有機溶媒の温度は、工程(b)で述べた混合チャンバへのその添加の前に、50から110℃、好ましくは60から90℃、最も好ましくは約70℃に調整される。有機溶媒中の式1の化合物とHPMCASの混合物はここではまた「有機相」又は「DMA相」とも命名される。
【0027】
工程(b)の元で述べられた「水性相」は、好ましくは酸性水(pH<7)、最も好ましくは0.01Nの塩酸(HCl)からなる。水性相は、約2から約60℃、好ましくは約5から約20℃、最も好ましくは約5℃の温度に維持される。水性相は、高剪断ミキサーによってつくられた流れによって、又は補助ポンプ、好ましくはロータリーポンプを用いてそのリザーバ(図1の(1))の底のバルブから循環し、ついで高剪断ミキサーを流通し、リザーバに戻る。好ましくは、ループの出口は、発泡を防止するためにリザーバ中に維持された流体レベルの下に配される。
【0028】
上記の工程(b)に述べられた混合チャンバへの有機相の添加は、水性相中に直接向けられたインジェクタノズルを介して達成される。当業者に知られている任意の一般的なノズルを使用することができる。好ましいインジェクタノズルは中心又は偏心幾何構造を示し、約1から10mmの直径を有している。偏心(中心ではない)幾何構造及び5mmの直径が特に好ましい。インジェクタノズルは高剪断混合ユニットのローターに0から90°、好ましくは40から50°、最も好ましくは45℃の角度(α,図2)で向けられうる。本発明に係る方法中、高剪断ミキサーのローターの先端とインジェクタノズルの先端の間の距離は約1から10mm、好ましくは約2から4mm、最も好ましくは約2.6mmである。有機相の添加は、好ましくは約60/1から約300/1(つまり、沈殿中の水性相/有機相の質量流量比)、好ましくは約70/1から約120/1、最も好ましくは約100/1のドージング速度で実施される。沈殿後の水性相/有機相の最終比は約5/1−12/1、好ましくは7/1−10/1の範囲、最も好ましくは8.5/1である。
【0029】
有機相が混合チャンバの水性相中に加えられる(注入される)間、高剪断混合ユニットは操作される。当業者に知られている任意の一般的な高剪断混合ユニット(ローター/ステーターユニット)を適用することができる。特に好ましいものは歯付きディスク分散ユニットである。本発明に係る好ましいローター幾何構造は、ラジアル単歯列又は二重歯列又はその組み合わせを有するローター/ステーターを使用する。円錐歯列を有するローターをまた適用することができる。ローターの先端速度は約15から約25m/sec、好ましくは25m/secである。
【0030】
水性相中への有機相の添加の完了に続いて、得られた懸濁液、よって水性相中の式1の非晶質形化合物からなる沈殿物が、高剪断混合ユニットを含む閉ループで更に循環される。高剪断混合ユニットの外部では、循環は補助ポンプ、好ましくはロータリーポンプを用いて実施されなければならない。懸濁液は、所望の粒径及び/又は粒度分布が得られる瞬間まで、数回、高剪断混合ユニットを通過する。通常は、懸濁液は約1から60回、最も好ましくは6回、高剪断混合ユニットを通過する。粒径及び/又は粒度分布は当業者によく知られた標準的な技術、例えば動的光散乱によって制御することができる。本発明に係る好ましい粒径は、D50=80−230μm、好ましくはD50=80−160μmの範囲である。
【0031】
上記工程(e)による固体分散体(MBP)の分離は、一般的なフィルター技術又は遠心機を使用して実施することができる。分離前に、懸濁液は好ましくは約5から10℃に調整される。ついで、分離された固体分散体は、有機溶媒を実質的に除去するために、酸性水と、好ましくは0.01NのHClで洗浄され、ついで純水で更に洗浄される(工程(f))。分離された(湿った)固体分散体(MBP)は通常は60から70%(w/w)の含水量を示し、これは、任意の更なる加工の前に乾燥を必要とする。乾燥は、当業者に知られた任意の標準的な技術を使用して、例えば30から50℃、好ましくは約40℃の温度と減圧下、好ましくは20mbar以下でキャビネットドライヤーを使用して、実施することができる。数種の乾燥手順を順次組み合わせ又は使用することができ、ここで、流動床乾燥の使用が本発明に係る最終乾燥工程として特に好ましい。
【0032】
本発明に係る固体分散体(MBP)の安定性を、従来の噴霧沈殿によって得られたMBPの安定性と比較した。「従来の噴霧沈殿」とは、多くの一般的な噴霧沈殿技術の場合のように、有機相が、水性相の外側でその表面より上に位置せしめられたノズルを介して水性相上に噴霧されたことを意味する。全ての更なるプロセスパラメータは双方の方法に対して同じである。安定性、よって式1の化合物の再結晶化の阻害は、当業者によく知られているように、一般的な広角X線散乱装置を使用して、X線回折測定によって決定される。試料調製は双方のMBPに対して同一であった。試料をX線測定前に人工気候チャンバ(50℃及び90%湿度(RH))中において数通りの時間ないしは日(0時間、14時間、41時間、4日、6日、13日)の間、処理した。結果は、本発明に従って得られたMBPに対しては図3(a)に、従来の方法によって得られたMBPに対しては(b)に示す。双方のMBPの最初のX線曲線は、シャープなシグナルがない広角領域に広域ハローを示し、よって双方の材料が非晶質状態にあることを裏付けている。数日内に、従来の方法によって製造されたMBPから得られたX線曲線(図3の(b))においてシャープなシグナルが発生しているが、ここに開示された方法を使用して調製されたMBPから得られたX線曲線(図3の(a))においては発生していない。
【0033】
ここで提供される新規なプロセスは、好ましくは添付の図1に示される装置を使用して実施されうる。
【0034】
提供された方法にしたがって得ることができる固体分散体、特にMBPは、難水溶性であり、特に経口投薬形態である薬剤を含む式1の化合物のような薬剤の投与のために広範な形態で使用されうる。例示的な投薬形態は、乾燥されるか又は水の添加によって再構成されてペースト剤、スラリー剤、懸濁剤又は溶液が形成される粉末又は顆粒;錠剤、カプセル剤、又は丸薬を含む。上記投薬形態に適した材料を形成するために、様々な添加剤をここに記載の固体分散体と共に混合し、粉砕し、又は造粒することができる。潜在的に有用な添加剤は次のクラスに一般に入りうる:他のマトリックス材料又は希釈剤、界面活性剤、薬剤錯化剤又は可溶化剤、フィラー、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、及びpH調整剤(例えば酸、塩基、又はバッファー)。他のマトリックス材料、フィラー、又は希釈剤の例は、ラクトース、マンニトール、キシリトール、微結晶性セルロース、二リン酸カルシウム、及びデンプンを含む。界面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウム及びポリソルベート80を含む。薬剤錯化剤又は可溶化剤の例は、ポリエチレングリコール、カフェイン、キサンテン、ゲンシチン酸及びシクロデキストリンを含む。崩壊剤の例は、デンプングリコール酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、及びクロスカルメロースナトリウムを含む。結合剤の例は、メチルセルロース、微結晶性セルロース、デンプン、及びガム類、例えばグアーガム、及びトラガカントを含む。滑沢剤の例は、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムを含む。pH調整剤の例は、酸、例えばクエン酸、酢酸、アスコルビン酸、乳酸、アスパラギン酸、コハク酸、リン酸等;塩基、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等、及び酸と該酸の塩の混合物を一般に含むバッファーを含む。そのようなpH調整剤を含有させる少なくとも一つの機能は、薬剤、マトリックスポリマー、又は双方の溶解速度を制御し、それによって溶解中の局所的な薬剤濃度を制御することである。
【0035】
先に述べたように、固体非晶質分散体中に、その形成中又は形成後に添加剤を導入することができる。上記添加剤又は賦形剤に加えて、当業者に知られているここに開示された組成物を使用しての製剤化及び経口投薬形態の調製のための任意の一般的材料及び手順の使用は潜在的に有用である。
従って、更なる実施態様はここに記載された方法によって得られた固体分散体を含む医薬品を含む。
【0036】
一実施態様では、固体分散体は、ここに開示された方法によって得ることができるMBPを92%まで含むフィルムコート錠剤に加工することができ、そこで、MBPは約30%の式(1)の化合物と約70%のHPMCASからなる。錠剤の残りの部分は、一般的な崩壊剤、例えばクロスカルメロースナトリウム;流動促進剤、例えばコロイド状無水シリカ;結合剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムの混合物;及びフィルムコートからなる。当業者に知られている任意の常套的なフィルムコート混合物、例えばOpadry IIピンク85F14411を適用することができる。フィルムコート錠に対する代表的な混合物は実施例6に与える。
【0037】
更に他の実施態様では、医薬として使用される本方法によって得られうる固体分散体が提供される。
【0038】
更に他の実施態様では、癌、特に固形腫瘍、より詳細には悪性メラノーマの治療のための医薬の製造における、本方法によって得られうる固体分散体が提供される。
【0039】
更に他の実施態様では、癌、特に固形腫瘍、より詳細には悪性(転移性)メラノーマの治療のための医薬として使用される、本方法によって得られる固体分散体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る固体分散体(MBP)の製造装置の概略図を示す。該装置は、温度制御手段を有する2つのリザーバ(容器)を提供し、その一方は制御された温度の水性相を提供し(1)、他方は制御された温度の有機相を提供する(2)。双方の容器には自動攪拌機(3)が更に装備されている。水性相は、ポンプ(5)を使用して、高剪断混合ユニット(6)を通過しながら、閉ループ(4)で循環される。有機相は、ドージングポンプ(7)によって、図2により詳細に示すインジェクタノズルを介して、高剪断混合装置内の水性相中に加えられる。
【図2】高剪断混合ユニット(図1の(6))の細部の概略図である。ノズル(8)は高剪断混合ユニットの内部の水性相内に位置せしめられる。該ノズル(8)は高剪断混合ユニットのロータ(9)に対して異なった角度(α)で、ローター先端から定まった距離(d)内に配向可能である。
【図3a】本発明に係る高剪断ミキサー沈殿(3a)によって製造された2ロットの固体分散体(MBP)から得られたX線回折図の比較を示す。この図に提示された結果は、(b)の回折図において、式(1)の化合物の結晶形に割り当て可能な初期のシャープなシグナルが生じていることより裏付けられるように、高剪断沈殿MBPよりも噴霧沈殿MBPが再結晶化に対して安定性が少ないことを証明している。各図の下のラインは初期試料を示し、下から上への次のラインは人工気候チャンバ(50℃ 90%RH)でのそれぞれ14時間、41時間、96時間、6日、13日の保存後のものである。
【図3b】従来の噴霧沈殿(3b)によって製造された2ロットの固体分散体(MBP)から得られたX線回折図の比較を示す。各図の下のラインは初期試料を示し、下から上への次のラインは人工気候チャンバ(50℃ 90%RH)でのそれぞれ14時間、41時間、96時間、6日、13日の保存後のものである。
【実施例】
【0041】
本発明は、その意図した範囲を限定するのでななく本発明の例証のために与える次の実施例によって明らかになるであろう。
【0042】
実施例1:DMA相の調製:
有機溶媒中の式1の化合物及びHPMCASの濃度は35%(w/w)であり、式1の化合物及びHPMCASの比は30対70であった:溶液の温度は70℃に調整した。
250mlの二重ジャケット式ガラス製フラスコ反応器において、21gの式1の化合物を20−25℃で130gのジメチルアセトアミド(DMA)に溶解させた。攪拌下、48.9gのHPMC−ASを溶液に加えた。混合物を70℃まで加熱した。清澄な溶液を得た。
【0043】
実施例2:水性相の調製
二重ジャケット式2.0リットル反応器において、1210gの0.01NのHClを5℃にテンパリングした。反応器の底部のバルブから水性相を高剪断ミキサーによって又は補助ポンプ、好ましくはロータリーポンプと続いて高剪断ミキサーによって循環させ、反応器の上部に戻した。反応器への再循環の入口は発泡を防止するために液体レベルの下にした(図1参照)。
【0044】
実施例3:沈殿
高剪断ミキサー
高剪断ミキサーのローターの先端速度は25m/secに設定した。ローター及びステーターのそれぞれに一つの歯列を有するローター/ステーターの組み合わせを使用した。
DMA溶液のドージング
70℃でテンパリングされたDMA溶液を、高剪断ミキサーの混合チャンバ中に向けられたインジェクタノズルを介してギアポンプを用いて循環水性相中にドージングした。
DMA溶液のドージング速度
DMA溶液を水性相にドージングし、100/1の高剪断ミキサーの混合チャンバ内におけるHCl/DMA比を生じた。
【0045】
実施例4:HSM(沈殿後)における更なる分散、分離及び洗浄
DMA溶液の添加後、得られたMBP懸濁液を、高剪断ミキサーを通過するバッチの相当時間に対応するもう一回の間、分散させた。該一回は6回のバッチの計算された再循環時間の総時間に対応していた。
【0046】
5−10℃に保持された得られた懸濁液を固体MBPから分離した。これは、吸引フィルターを使用して行った。DMAを除去するために、分離したMBPを0.01NのHCl(15kgの0.01NのHCl/kg MBP)で洗浄し、ついで水で(5kg水/kg MBP)洗浄した。分離した(湿った)MBPは60から70%の間の含水量を有していた。
【0047】
実施例5:破塊(デランピング)及び乾燥
乾燥の前に(湿った)MBPを篩いミルを使用して破塊した。その(湿った)MBPをキャビネットドライヤーで乾燥させた。MBPの乾燥過程中、製品の温度はAPIの再結晶化を避けるために40℃以下であった。キャビネットドライヤー内の圧力は20mbar以下であった。乾燥後のMBPの含水量は2.0%以下であり、XRPDパターンの非晶質形を示した。
【0048】
実施例6:フィルムコート錠

上述の成分を混合し、常套的手段によって錠剤に圧密化した。フィルムコートは、ポリビニルアルコール(8.00mg)、二酸化チタン(4.98mg)、Macrogol3350(4.04mg)、タルク(2.96mg)及びベンガラ(0.02mg)からなる。例えばOpadry IIピンク85F14411のような任意の他の一般的なフィルムコート混合物をまた使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1

の化合物の非晶質形とHPMCASを含む固体分散体を製造する方法であって、
(a)式1の化合物とHPMCASを同じ有機溶媒に溶解させて単一の有機相を得る工程と;
(b)混合チャンバに存在する水性相中に(a)で得られた有機相を連続的に加える工程であって、該混合チャンバは高剪断混合ユニットと該混合チャンバを閉ループで接続する2つの更なる開口部を備え、該水性相が循環され混合チャンバを通過する工程と;
(c)(b)に記載の水性相から、高剪断ミキサーを操作し上記水性相を閉ループで混合チャンバを通過させながら、式1の化合物の非晶質形とHPMCASからなる混合物を沈殿させ、沈殿物の水性懸濁液を生じさせる工程と;
(d)定まった粒径及び/又は粒度分布が得られるまで、高剪断混合ユニットを操作し、(a)で調製された有機相が水性相に完全に添加された後に水性懸濁液を混合チャンバに連続的に循環させる工程と;
(e)懸濁液から固相を分離させる工程;
(f)分離された固相を0.01NのHCl及び/又は水で洗浄する工程;及び
(g)固相の破塊及び乾燥工程
を含む方法。
【請求項2】
−(a)の有機相が、化合物1とHPMCASのDMA中の10から40%溶液であり、化合物1対HPMCASの比が約10対90%(w/w)から約60対40%(w/w)であり;かつ
−工程(b)の連続添加が、約15から約25m/secの先端速度で操作される上記高剪断ミキサーのローターから約1から約10mmの距離を有し、高剪断ミキサーの長軸に対して40から50°の角度で配向しているインジェクタノズルによって達成される
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(a)の有機相が、化合物1とHPMCASのDMA中の35%溶液であり、化合物1対HPMCASの比が30%対70%(w/w)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(a)の有機相が、DMA、式1の化合物及びHPMCAS−Lを含み、工程(b)が約80/1から200/1(水性相/有機相)の範囲の質量流量比で上記有機相を水性(0.01N)HCl中に上記水性HClを約2−8℃の温度に維持しながら、加えることを含む、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の方法によって得ることができる固体分散体。
【請求項6】
式1の化合物がその非晶質形で主に存在するマイクロ沈殿バルク粉末(MBP)であることを特徴とする請求項5に記載の固体分散体。
【請求項7】
請求項1から4に記載の方法によって得ることができる固体分散体を、場合によっては更なる薬学的に許容可能なアジュバントと共に含む医薬品。
【請求項8】
医薬として使用される請求項1から4に記載の方法によって得ることができる固体分散体。
【請求項9】
癌、特に固形腫瘍、より特定的には悪性メラノーマの治療のための医薬として使用される請求項1から4に記載の方法によって得ることができる固体分散体。
【請求項10】
実質的に明細書に記載された新規組成物、方法及び使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate


【公表番号】特表2013−510813(P2013−510813A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538291(P2012−538291)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066965
【国際公開番号】WO2011/057974
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(306021192)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】