説明

ベビーカー用の車輪保持機構およびベビーカー

【課題】車輪の回転をより安定して規制することが可能となるベビーカー用車輪保持機構を提供する。
【解決手段】車輪保持機構40は、車軸41と、車軸に取り付けられた車輪45と、車軸に貫通され、車軸に対して車軸の軸線方向adに摺動可能な制動部材60と、を有する。制動部材は、車軸の軸線方向に摺動することによって、車輪から離間した位置と、車輪に接触して前記車輪の回転を規制する位置と、の間を移動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベビーカーに使用される車輪保持機構に係り、とりわけ、車輪の回転を安定して規制することが可能となるベビーカー用車輪保持機構に関する。また、本発明は、車輪の回転を安定して規制することが可能となるベビーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
ベビーカーの脚の下端には、車輪を回転可能に保持した車輪保持機構(車輪保持装置)が設けられている。ベビーカー用の車輪保持機構は、通常、ベビーカーの意図しない走行または移動を規制するため、車輪の回転を規制するための制動機構を有している。
【0003】
典型的には、特許文献1や特許文献2に開示された制動機構が例示される。特許文献1および特許文献2に開示された制動機構は、車輪の回転軸線を中心として放射状に延び出た多数の突起部(特許文献1における係合受部25、引用文献2におけるリブ33)と、所定の方向のみに移動可能に保持されたブレーキピン(特許文献1におけるストッパー30、引用文献2における係合部材31)と、を有している。この制動機構では、ブレーキピンが、半径方向外方から突起部に接近し、さらには、隣接する二つの突起部間に入り込むことによって、車輪の回転を規制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP9−277938A
【特許文献2】JP2005−14894A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のベビーカーでは、車輪の回転位置しだいで、ブレーキピンが突起部の頂部に衝突することがある。この場合、車輪の回転を規制してベビーカーにブレーキを掛けるためには、単にブレーキピンを操作するだけでなく、車輪の回転位置を予め調節することにより、ブレーキピンが二つの突起部間に進入可能にしておく必要がある。
【0006】
また、従来の制動機構では、微細な構造からなるブレーキピンと突起部との係合によって、車輪の回転を規制している。このため、ベビーカーに搭乗する乳幼児の体重や、ベビーカーが載置される場所に応じて、ブレーキピンおよび突起部に対して大きな荷重が付加されることもある。この場合、荷重によって、ブレーキピンと突起部との係合が意図せず解除される可能性や、さらには、ブレーキピンまたは突起部が破損してしまう可能性すらある。
【0007】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、車輪の回転をより安定して規制することが可能となるベビーカー用車輪保持機構、並びに、車輪の回転をより安定して規制することが可能となるベビーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構は、
車軸と、
前記車軸に取り付けられた車輪と、
前記車軸に貫通された制動部材であって、前記車軸に対して前記車軸の軸線方向に摺動可能な制動部材と、を備え、
前記制動部材は、前記車軸の軸線方向に摺動することによって、車輪から離間した位置と、前記車輪に接触して前記車輪の回転を規制する位置と、の間を移動可能である。
【0009】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構において、前記車軸の軸線方向に沿って前記車輪に対面する前記制動部材の面が、複数の凸部によって形成された凹凸面として構成されており、前記凸部が、前記車軸の軸線方向に沿って観察した場合に、前記車軸を中心として放射状に延びていてもよい。このような車輪保持機構において、前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記車輪に向けて突出した頂角を含む三角形形状となっていてもよい。このような車輪保持機構において、前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記車輪に向けて突出した頂角を含んでおり、当該断面における前記頂角の角度が90°未満となっていてもよい。
【0010】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構において、前記車軸の軸線方向に沿って前記制動部材に対面する前記車輪の面が、複数の凸部によって形成された凹凸面として構成されており、前記凸部が、前記車軸の軸線方向に沿って観察した場合に、前記車軸を中心として放射状に延びていてもよい。このような車輪保持機構において、前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記制動部材に向けて突出した頂角を含む三角形形状となっていてもよい。このような車輪保持機構において、前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記制動部材に向けて突出した頂角を有しており、当該断面における前記頂角の角度が90°未満となっていてもよい。
【0011】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構において、前記車軸の軸線方向に沿って前記車輪に対面する前記制動部材の面と、前記車軸の軸線方向に沿って前記制動部材に対面する前記車輪の面と、は互いに相補的な凹凸面として形成され、前記車軸を中心とした周状の領域において噛み合うことができてもよい。
【0012】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構において、前記車輪は、車輪本体と、前記車輪本体に取り付けられたアダプターと、を有し、前記アダプターが、前記車軸の軸線方向に沿って前記制動部材に対面する前記車輪の面を形成してもよい。
【0013】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構が、前記車軸の軸線方向における前記車輪とは反対の側から前記制動部材に接触する位置に設けられた操作部材を、さらに備え、前記操作部材は、前記車軸の軸線方向と交差する方向に移動可能であり、前記操作部材が前記方向へ移動することにより、前記操作部材と接触する前記制動部材が前記車軸の軸線方向に摺動して、前記車輪に接近することができてもよい。このような車輪保持機構において、前記操作部材は前記車軸に貫通されていてもよい。このような車輪保持機構において、前記操作部材および前記制動部材の少なくとも一方は、他方と接触する面として、前記操作部材の移動方向および前記制動部材の摺動方向の両方向に対して傾斜した傾斜部を含んでもよい。
【0014】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構において、前記制動部材は前記車軸の軸線方向に沿って前記車輪から離間する側へ付勢されていてもよい。
【0015】
本発明によるベビーカー用の車輪保持機構が、前記制動部材を収容するケーシングを、さらに備え、前記ケーシングは、前記制動部材に対面する位置に開口を形成されており、前記車輪の前記制動部材と接触するようになる部分は、前記開口を介して前記ケーシング内に配置されていてもよい。
【0016】
本発明によるベビーカーは、
ハンドルと、
前脚および後脚と、
上述した本発明によるベビーカー用車輪保持機構のいずれかであって、前脚および後脚の少なくとも一方に取り付けられた車輪保持機構と、を備える。
【0017】
本発明によるベビーカーが、前記ハンドルに揺動可能に取り付けられた遠隔操作レバーと、前記遠隔操作レバーと前記車輪保持機構との間に設けられ、前記遠隔操作レバーを用いた前記車輪の回転の規制および規制解除の切り換えを可能にする操作伝達手段と、をさらに備え、前記操遠隔作レバーが前記ハンドルの長手方向に沿って延びている状態で、前記車輪の回転が規制解除されるようにしてもよい。
【0018】
本発明によるベビーカーが、一対の後脚を備え、上述した本発明によるベビーカー用車輪保持機構のいずれかが、前記一対の後脚のうちの一方の後脚に設けられ、上述した本発明によるベビーカー用車輪保持機構のいずれかが、前記一対の後脚のうちの他方の後脚に設けられ、前記第1の車輪保持機構と前記第2の車輪保持機構との間に、補助伝達手段が設けられ、前記第1の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制されると前記第2の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制され、前記第1の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制解除されると前記第2の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制解除されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車輪の回転をより安定して規制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態を説明するための図であって、ベビーカーおよびベビーカー用車輪保持機構を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示された右側の車輪保持機構を示す斜視図である。
【図3】図3は、車輪の回転が規制されていない状態において、図1に示された車輪保持機構の概略構成を示す模式図である。
【図4】図4は、車輪の回転が規制された状態において、図1に示された車輪保持機構の概略構成を示す模式図である。
【図5】図5は、図2の車輪保持機構の主たる構成要素を示す分解斜視図である。
【図6】図6は、車軸の軸線方向から図5の車輪保持機構の一部の構成要素を示す図である。
【図7】図7は、図5の車輪保持機構の制動部材を示す平面図である。
【図8】図8は、図7におけるVIII−VIII線に沿った断面を示す図である。
【図9】図9は、図2の車輪保持機構の車輪を示す斜視図である。
【図10】図10は、図9におけるX−X線に沿った断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
【0022】
図1〜図10は本発明によるベビーカーおよび車輪保持機構(車輪保持装置)の一実施の形態を説明するための図である。このうち、図1には、ベビーカーの全体構成が示されている。図1に示されたベビーカー10は、一対の前脚22および一対の後脚24を有するフレーム部20と、フレーム部20に揺動可能に連結された手押しハンドル36と、を有するベビーカー本体11を備えている。ベビーカー本体11の各前脚22の下端には、車輪(前輪)16を回転可能且つ旋回可能に保持するキャスター15が取り付けられている。一方、ベビーカー本体11の各後脚24の下端には、車輪(後輪)を回転可能に保持する車輪保持機構(車輪保持装置)40が取り付けられている。この車輪保持機構40は、詳しくは後述するように、車輪の回転を規制する制動機構を有している。
【0023】
本実施の形態のベビーカー10においては、ハンドル36がフレーム部20に対して揺動可能となっている。ハンドル36は、図1に実線で示す背面押し位置と、図1に二点鎖線で示す対面押し位置と、に固定され得る。ハンドル36をフレーム部材20に対して揺動可能とする構成は、既知の構成、例えば、JP2008−254688Aに開示された構成を、採用することができる。したがって、本明細書においては、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0024】
また、本実施の形態において、ベビーカー10は、広く普及しているように、例えばJP2008−254688Aに開示されているように、折り畳み可能に構成されている。具体的な一例として、ベビーカー10は、以下のように構成され得る。
【0025】
ベビーカー本体11(ベビーカー10)は、全体的に、前後方向に沿った横方向中心面を中心として概ね対称な構成となっている。図1に示すように、本実施の形態におけるフレーム部20は、それぞれ左右に配置された一対の前脚22と、それぞれ左右に配置された一対の後脚24と、それぞれ左右に配置された一対のアームレスト28と、それぞれ左右に配置された一対の連結部材26と、を有している。前脚22の上方端部は、対応する側(左側または右側)に配置されたアームレスト28に回動可能(揺動可能)に連結されている。同様に、後脚24の上方端部が、対応する側(左側または右側)に配置されたアームレスト28に回動可能(揺動可能)に連結されている。また、連結部材26の上方部分が、対応する側(左側または右側)に配置されたアームレスト28の後方部分に回動可能(揺動可能)に連結されている。
【0026】
フレーム部20は、左前脚と左連結部材とを連結する左側方部材、および、右前脚22と右連結部材26とを連結する右側方部材32をさらに有している。各側方部材32は、その前方部分を前脚22の中間部分に回動可能に連結され、その後方部分を連結部材26の下方部分に回動可能に連結されている。なお、図示する例では、一対の前脚22の間および一対の後脚24の間に配置された板状の部材の側部分によって、側方部材32が構成されている。すなわち、左連結部材および右側方部材32は、一体的に形成されている。
【0027】
また、フレーム部20は、左後脚と左連結部材とを連結する左ブラケット、および、右後脚24と右連結部材26とを連結する右ブラケット34と、をさらに有している。各ブラケット34は、その一部分において後脚24の中間部分に回動可能(揺動可能)に連結され、他の部分において連結部材26の下方部分に回動可能に連結されている。
【0028】
このような構成からなるフレーム部20に対し、ハンドル36が揺動可能に連結されている。ハンドル36は、U字の両端部を対応する側のブラケット34に回動可能(揺動可能)に連結されている。なお、ハンドル36のブラケット34に対する回動軸線(揺動中心)は、ブラケット34と連結部材26との回動軸線、および、連結部材26と側方部材32との回動軸線と一致している。また、背面押し位置にあるハンドル36は、アームレスト28または連結部材26と回動可能に連結されるようになる。
【0029】
また、ベビーカー10の横方向(幅方向)に延びる部材として、一対の前脚22の間を連結するフットレスト17と、一対の車輪保持機構40の間を連結する後方連結部材19と、が設けられている。
【0030】
以上のような全体構成を有したベビーカー10は、各構成部材を互いに回動させることにより、折り畳むことができる。具体的には、背面押し位置に配置されたハンドル36をいったん後上方に引き上げ、その後、下方に押し下げることによって、ブラケット34を後脚24に対し図1において反時計回り方向に回動させる。この操作にともなって、アームレスト28および側方部材32は連結部材26に対し図1において反時計回り方向に回動する。このような操作により、側面視においてハンドル36と前脚22とが接近して略平行に配置されるとともに、ハンドル36の配置位置が下げられるようになる。以上のようにして、ベビーカー10を折り畳むことができ、ベビーカーの前後方向および上下方向に沿った寸法を小型化することができる。一方、ベビーカー10を折り畳み状態から展開するには、上述した折り畳み操作と逆の手順を踏めばよい。
【0031】
なお、本明細書中において、ベビーカーに対する「前」、「後」、「上」および「下」の用語は、特に指示がない場合、展開状態にあるベビーカー10に乗車する乳幼児を基準とした「前」、「後」、「上」および「下」を意味する。したがって、ベビーカー10の「前後方向」とは、図1における紙面の左下と右上とを結ぶ方向に相当する。そして、特に指示がない限り、「前」とは、乗車した乳幼児が向く側であり、図1における紙面の右上側がベビーカー10の前側となる。一方、ベビーカー10の「上下方向」とは前後方向に直交するとともにベビーカー10の接地面に直交する方向である。したがって、ベビーカー10の接地面が水平面である場合、「上下方向」とは垂直方向をさす。また、「横方向」とは幅方向であって、「前後方向」および「上下方向」のいずれにも直交する方向である。
【0032】
次に、主に図2〜図8を参照しながら、車輪保持機構40について説明する。
【0033】
図1に示すように、右側の後脚24の下端には、右側の車輪保持機構40aが取り付けられ、左側の後脚24の下端には、左側の車輪保持機構40bが取り付けられている。二つの車輪保持機構40a,40bは、対称的に構成されているものの、同一の構成要素を含んでおり、制動機能を発揮する上での構成は本質的に同一となっている。そこで、左右の車輪保持機構40a,40bで相違する箇所については適宜説明を加えることとし、ここでは、まず、右側の後脚24に取り付けられた右側の車輪保持機構40aが示された図面を参照しながら、車輪保持機構40の構成を、車輪保持機構単体での動作とともに説明する。なお、右側の車輪保持機構40aおよび左側の車輪保持機構40bを区別することなく説明する場合には、車輪保持機構に対して符号「40」を付すこととする。
【0034】
上述したように、車輪保持機構(車輪保持装置)40は、回転可能に保持された車輪(後輪)45を有し、且つ、この車輪45の回転を規制する制動機構を含んだ機構である。具体的には、以下のように構成されている。
【0035】
図3および図4によく示されているように、後脚24の下端に取り付けられた車輪保持機構40は、車軸41と、車軸41に取り付けられた車輪45と、車軸41に貫通された制動部材60と、を有している。車輪45は、車軸41の軸線方向adを中心として回転可能となっている。制動部材60は、車軸41に対して車軸41の軸線方向adに摺動可能となっている。制動部材60は、車軸41の軸線方向に摺動することによって、車輪41から離間した非規制位置(図3の位置)と、車輪41に接触する規制位置(図4の位置)と、の間を移動可能となっている。車輪45に接触するようになる制動部材60の接触面(制動面)61と、制動部材60の制動面61と接触するようになる車輪45の接触面46と、が噛み合うことにより、規制位置に配置された制動部材60が、車輪45の回転を規制するようになる。
【0036】
また、図3および図4に示すように、車輪保持機構40は、制動部材60と接触する位置に設けられた操作部材70を、さらに有している。操作部材70は、車軸41の軸線方向adにおける車輪45とは反対の側から制動部材60に接触している。すなわち、車軸41の軸線方向adに沿って、制動部材60が、操作部材70と車輪45との間に位置している。
【0037】
さらに、図2〜図6に示すように、車輪保持機構40は、制動部材60を収容するケーシング80を有している。図3、図4、図6に示されているように、操作部材70も、ケーシング80内に収容されている。図5によく示されているように、ケーシング80は、内部に収容した制動部材60に対面する位置に開口(貫通孔)81を形成されている。開口81は、車軸41の軸線方向adに沿って、制動部材60の接触面61に対面する位置に設けられている。図2〜図4に示されているように、制動部材60が接触するようになる車輪45の接触面46は、この開口81を介して、ケーシング80内に配置されている。
【0038】
図5に示された例において、ケーシング80は、後脚24に取り付けられたケーシング本体82と、ケーシング本体82に装着されるケーシング蓋体83と、から構成されている。そして、車輪45の接触面46が形成されている部分を受ける開口81は、ケーシング蓋体83に形成されている。
【0039】
以下、制動部材60、車輪45、操作部材70の順で、これら構成要素の構成および動作についてさらに詳述していく。
【0040】
図5および図7に示されているように、制動部材60は、車軸41が貫通する開口(貫通孔)67を形成されている。また、制動部材60は、ケーシング80と係合する側片68を有している。ケーシング80には、この側片68に係合する案内部(案内溝)84aが形成されている。図7によく示されているように、制動部材60には、その対向する縁部からそれぞれ延び出した一対の側片68が設けられている。側片68は、図5に示すように、円筒状に形成されている。一方、側片68を受ける案内部84aは、各側片68に対応してケーシング本体82に一対設けられている。案内溝84aは、車軸41の軸線方向と平行に延び且つ側片68を受けることが可能な溝として形成されている。制動部材60は、側片68が案内部84aと係合するようにしてケーシング80の内部に収容されている。このため、制動部材60は、ケーシング80の内部において、車軸41の軸線方向adと平行な方向にのみ移動可能となり、車軸41の軸線方向adを中心とした回転や、車軸41の軸線方向adと直交する方向への移動を規制される。
【0041】
車輪45に接触するようになる制動部材60の接触面61は、その開口67を中心とした周状の領域内に形成されている。図3、図4、図5および図7に示すように、接触面61は、複数の凸部(第1凸部)62によって形成された凹凸面として構成されている。とりわけ図示する例では、接触面61は、複数の凸部62のみによって形成された凹凸面として構成されている。図7に示すように、凸部62は、車軸41の軸線方向adに沿って制動部材60を観察した場合に、車軸41を中心として、より厳密には車輪45の回転中心を中心として放射状に延びている。すなわち、各凸部62は、車軸41の軸線方向adに沿って制動部材60を観察した場合に、車軸41の中心(車輪の回転中心)から延び出る放射線に沿って延びている。
【0042】
図8は、凸部62の延在方向(長手方向)に直交する断面において、言い換えると、車軸41の中心から延び出る放射線に直交する断面において、凸部62を示している。図8に示された断面における凸部62の断面形状は、車軸41の軸線方向adにおいて車輪45の側に向けて突出した頂角62aを含んでいる。制動部材60の接触面61が車輪45と噛み合って車輪45の回転をより確実に規制するといった観点からは、凸部62の延在方向に沿った断面において、凸部62の頂角62aによってなされる角度θa(図8参照)は、0°より大きく90°未満であることが好ましい。この場合、図8に示すように、制動部材60が接触面61を介して車輪45から受ける力Faが、車軸41の軸線方向adよりも、車軸41の軸線方向adを中心とした円周方向へより大きく働くことになる。すなわち、制動部材60を用いて車輪45の回転を規制する際に、車軸41の軸線方向adに沿って制動部材60を押す力Falが小さくなり、車軸41の軸線方向adを中心とした円周方向に制動部材60を押す力Farが大きくなる。
【0043】
上述したように、制動部材60は、ケーシング80内において、車軸41の軸線方向adを中心とした回転を規制されている一方で、車軸41の軸線方向adに移動可能となっている。また、制動部材60が車輪45に押されて車軸41の軸線方向adに移動すると、制動部材60が車輪45から離間して、車輪45の回転の規制が解除されることになる。したがって、凸部62の頂角62aの角度θa(図8参照)を90°未満に設定して、車軸41の軸線方向adに沿って制動部材60を押す力Falを低減させることが、車輪45の回転をより確実に規制するといった観点から好ましい。
【0044】
また、図8に示すように、凸部62の延在方向に沿った断面における断面形状は、車軸41の軸線方向adにおいて車輪45の側に向けて突出した頂角62aを有した三角形形状、とりわけ二等辺三角形形状となっている。さらに、図示する例では、制動部材60の接触面61は、放射状に隙間無く配置された凸部62によって構成されている。また、接触面61を形成する複数の凸部62は、互いに同一に構成されている。したがって、車軸41の軸線方向adを中心とした円周に沿った断面において、制動部材60の接触面61は、対称的な角度で逆側に傾斜した二種類の線を交互に配置してなる折れ線状の外輪郭を有する。このような接触面61の構成によれば、制動部材60が車輪45に接触する際に、制動部材60と噛み合う位置に向けて車輪45を回転させることが可能となる。すなわち、制動部材60を車輪45に接近させると、車輪45の回転位置によらず車輪45および制動部材60が噛み合うように自動的に位置決めされ、車輪45の回転をより安定して規制することが可能となる。
【0045】
なお、本明細書において用いる形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、「三角形」、「平行」、「直交」および「対称」等の用語は、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の誤差を含めて解釈することとする。
【0046】
次に、制動部材60と係合するようになる車輪45について説明する。図8に示すように、車輪45は、ホイール49aおよびホイール49aに装着されたタイヤ49bを有する車輪本体48と、車輪本体48の回転中心となる位置に装着されたアダプター50と、を有している。図3および図4に示すように、アダプター50が、車軸41の軸線方向adに沿って制動部材60と対面する車輪45の接触面46を形成し、制動部材60と接触するようになる。このようなアダプター50を設けることによって、制動部材60と噛み合って比較的に大きな荷重が加えられる車輪45の接触面46を、他の部分とは異なる材料から構成することができ、製造コストを低下させ得る観点からも都合が良い。
【0047】
また、図2〜図4に示されているように、接触面46を構成するようになるアダプター50の少なくとも一部が、開口81を介して、ケーシング80の内部に配置されている。このような態様によれば、制動部材60の摺動にともなった制動部材60と車輪45との接触がケーシング80内にて行われるようになる。したがって、制動部材60と車輪45との間に何かが挟まれてしまうことを効果的に防止することができ、これにより、車輪45の回転の規制をより安定して実現することが可能となる。
【0048】
制動部材60に接触するようになる車輪45の接触面46は、車軸41の回転軸線adを中心とした周状の領域内に形成されている。図9に示すように、接触面46は、複数の凸部(第2凸部)47によって形成された凹凸面として構成されている。とりわけ図示する例では、接触面46は、複数の凸部47のみによって形成された凹凸面として構成されている。図9から理解され得るように、凸部47は、車軸41の軸線方向adに沿って車輪45を観察した場合に、車軸41を中心として、より厳密には車輪45の回転中心を中心として放射状に延びている。すなわち、各凸部47は、車軸41の軸線方向adに沿って制動部材60を観察した場合に、車軸41の中心(車輪45の回転中心)から延び出る放射線に沿って延びている。
【0049】
図10は、凸部47の延在方向(長手方向)に沿った断面において、言い換えると、車軸41の中心から延び出る放射線に直交する断面において、凸部47を示している。図10に示された断面における凸部47の断面形状は、車軸41の軸線方向adにおいて制動部材60の側に向けて突出した頂角47aを含んでいる。この車輪45の接触面46が制動部材60と噛み合って車輪45の回転をより確実に規制するといった観点からは、凸部47の延在方向に沿った断面において、凸部47の頂角47aによってなされる角度θb(図10参照)は、0°より大きく90°未満であることが好ましい。この場合、図10に示すように、車輪45がその接触面46を介して制動部材60から受ける力Fbが、車軸41の軸線方向adよりも、車軸41の軸線方向adを中心とした円周方向へより大きく働くことになる。すなわち、車輪45の回転を規制する際に、車軸41の軸線方向adに沿って車輪45を押す力Fblが小さくなり、車軸41の軸線方向adを中心とした円周方向に車輪45を押す力Fblが大きくなる。このため、凸部47の頂角47aの角度θb(図10参照)を90°未満に設定することにより、制動部材60から車輪45へ働く力を、車輪45の回転の規制する力として有効に利用することができる。
【0050】
また、図10に示すように、凸部47の延在方向に沿った断面における断面形状は、車軸41の軸線方向adにおいて制動部材60の側に向けて突出した頂角47aを有した三角形形状、とりわけ二等辺三角形形状となっている。さらに、図示する例では、車輪45の接触面46は、放射状に隙間無く配置された凸部47によって構成されている。また、接触面46を形成する複数の凸部47は、互いに同一に構成されている。したがって、車軸41の軸線方向adを中心とした円周に沿った断面において、車輪45の接触面46は、対称的な角度で逆側に傾斜した二種類の線を交互に配置してなる折れ線状の外輪郭を有する。このような接触面46の構成によれば、制動部材60が車輪45に接触する際に、車輪45が、制動部材60と噛み合う位置へ向けて自動的に回転することが可能となる。すなわち、制動部材60を車輪45に接近させると、車輪45の回転位置によらず車輪45および制動部材60が噛み合うように自動的に位置決めされ、車輪45の回転をより安定して規制することが可能となる。
【0051】
さらに、図4に示すように、車軸41の軸線方向adに沿って対面し合う車輪45の接触面46および制動部材60の接触面61は、互いに相補的な凹凸面として形成されている。すなわち、車輪45の接触面46および制動部材60の接触面61は、車軸41の軸線adを中心とした周状の領域にて噛み合うことができるように構成されている。したがって、車輪45の回転を規制する際に制動部材60と車輪45とが周状の領域にて係合するため、車輪45の回転を規制するための力を、この周状の領域で分散して受けることができる。このため、互いに接触する制動部材60および車輪45の破損を極めて効果的に防止することができる。加えて、上述した構成から明らかなように、車輪45の接触面46の立体構造は、車軸41の軸線方向adを中心とした回転対称となっており、同様に、制動部材60の接触面61の立体構造も、車軸41の軸線方向を中心とした回転対称となっている。このため、車輪45の回転位置によらず、制動部材60と車輪45とが係合することができる。これらのことから、車45輪の回転を飛躍的に安定して規制することが可能となる。
【0052】
ところで、図3および図4に示すように、車輪45を保持する車軸41は、車輪45のアダプター50とともに、開口41を介してケーシング80内に延び入っている。車軸41は、ケーシング80内で所定の位置に保持されるようになっている。車軸41は、ケーシング80によって、その軸線方向adを中心として回転可能に保持されていてもよいし、或いは、回転を規制されるようにして保持されていてもよい。また、車輪45は、車軸41によって、回転可能に保持されていてもよいし、回転不可能に保持されていてもよい。ただし、車軸41がケーシング80によって回転不可能に保持されている場合には、車輪45は車軸41に回転可能に取り付けられる。
【0053】
また、図3および図4に示された例では、右側の車輪保持機構40aの車軸41および左側の車輪保持機構40bの車軸41が同一の軸部材によって構成されている。すなわち、車軸41は、右側の車輪保持機構40aのケーシング80および左側の車輪保持機構40aのケーシング80の両方を貫通して、ベビーカー10の幅方向に延びている。図2〜図4に示すように、上述した後方連結部材19は、左右の車輪保持機構40a,40bの間を延びており、車軸41は、筒状部材からなる後方連結部材19の内部を通過して車輪保持機構40a,40bの間を延びている。
【0054】
次に、操作部材70について説明する。図3および図4に示すように、操作部材70は、制動部材60と接触するようにしてケーシング80内に配置されている。操作部材70は、車輪41の軸線方向adと交差する方向に移動可能となっている。そして、操作部材70が移動方向へ移動することによって、操作部材70と接触する制動部材60が車軸41の軸線方向adに摺動し、車輪45に接近するようになっている。
【0055】
図3および図4に示すように、ケーシング80の内部には、第1の付勢部材86が設けられている。この付勢部材86は、ケーシング80の内壁と制動部材60の受け部69との間を、車軸41の軸線方向adと平行な方向に延びており、車輪45の側から操作部材70の側へ向けて制動部材60を付勢している。具体的な構成として、付勢部材86は圧縮バネとして構成され、制動部材60の受け部69はこの圧縮バネを受けるバネ受け部として構成されている。このような構成により、操作部材70は、ケーシング80内において、制動部材60を介し、車軸41の軸線方向adに沿って車輪45から離間する側へ向けて押圧される。
【0056】
一方、図6に示すように、ケーシング80のケーシング本体82に、操作部材70の移動を案内する案内壁84bが設けられている。この案内壁84bに誘導されることにより並びに制動部材60によって車軸41の軸線方向adと平行な方向に押圧されることにより、操作部材70は、ケーシング80内において、一方向のみに摺動可能となっている。
【0057】
図3および図4の比較から理解され得るように、図示された例において、操作部材70の移動方向は、車軸41の軸線方向adと直交する方向となっている。すなわち、図示された例では、操作部材70の移動方向が、操作部材70によって移動させられる制動部材60の移動方向(摺動方向)と直交している。そして、操作部材70および制動部材60の少なくとも一方が、他方と接触する面として、操作部材70の移動方向および制動部材60の摺動方向の両方に対して傾斜した傾斜部65,73を含んでいる。このような構成により、操作部材70の移動を、制動部材60の移動に変換している。
【0058】
図示された例では、図3〜図6に示すように、操作部材70は、車軸41の軸線方向adにおいて制動部材60の側へ向けて突出した二つの突出片72を有している。二つの突出片72は、操作部材70の移動方向に離間して配置されている。各突出片72が、操作部材70の移動方向および制動部材60の摺動方向の両方に対して傾斜した傾斜面(傾斜部)73を形成している。
【0059】
一方、図3および図4に示すように、制動部材60は、車軸41の軸線方向adにおいて操作部材70の側へ向けて突出した二つの突出片64を有している。制動部材60の突出片64は、操作部材70の突出片72と対面する位置に配置され、付勢部材86からの付勢によって操作部材70の突出片72の傾斜面73に当接するようになっている。すなわち、制動部材60および操作部材70は、互いの突出片64,72を介して、互いに接触する。そして、操作部材70が所定の移動方向に移動すると、操作部材70の傾斜面73に当接した制動部材60の突出片64が、操作部材70の傾斜面73によって押圧されて、制動部材60が、車軸41の軸線方向adに沿って操作部材70から離間して車輪45に接近する側へ移動するようになる。とりわけ、図示された例では、制動部材60の突出片64は、操作部材70の傾斜面73と対応する位置に操作部材70の傾斜面73と平行な傾斜部(傾斜面)65を含んでいる。そして、制動部材60の傾斜面65は、操作部材70の傾斜面73に対して摺動可能に、操作部材70の傾斜面73と接触している。このような構成によれば、車輪保持機構40を大型化させることなく、操作部材70の移動を、車軸41の軸線方向adに沿った制動部材60の移動により安定して変換することが可能となる。
【0060】
このようにして、車軸41の軸線方向adと交差する方向に移動可能な操作部材70によって、車軸41の軸線方向adに制動部材60を摺動させることが可能となる。このような構成により、操作部材70を特定の移動方向に移動させることによって、制動部材60を車軸41の軸線方向adに摺動させて車輪45と接触させることができる。すなわち、操作部材70を特定の移動方向に移動させることによって、車輪45の回転を規制することができる。このような例によれば、車軸41の軸線方向adと交差する方向に移動可能な操作部材70によって、制動部材60を操作するようにしたので、車輪保持機構40をコンパクトに構成することも可能となる。
【0061】
ところで、上述したように、ケーシング80に設けられて第1付勢部材86によって、制動部材60は車輪45から離間する側へ向けて付勢されている。加えて、図3、図4および図6に示されているように、ケーシング80には、第2の付勢部材88が設けられている。第2の付勢部材88は、操作部材70の移動方向に沿った一方の側へ向けて、より詳細には、制動部材60が車輪45から離間して操作部材70に接近し得る位置に向けて操作部材70を付勢している。したがって、図3に示すように、操作部材70に外力が加えられていない状態では、第1付勢部材86および第2付勢部材88からの付勢力によって、制動部材60および操作部材70は互いに接近した位置に配置され、車輪45は回転可能な状態に保たれる。
【0062】
具体的な構成として、第2付勢部材88は引っ張りバネとして構成されている。そして、操作部材70は、第2付勢部材88によって、移動方向に沿った一方の側へ引き寄せられている。なお、図3および図4に示すように、右側の車輪保持機構40aおよび左側の車輪保持機構40bの間で、制動部材60の突出片64および操作部材70の突出片72は対称的に構成されており、車輪45の回転を規制する際における、操作部材70の移動方向も逆向きになっている。このため、右側の車輪保持機構40aは、第2付勢部材88によって、図3および図4において下方へ付勢され、左側の車輪保持機構40bは、第2付勢部材88によって、図3および図4において上方へ付勢されている。
【0063】
また、図3〜図6に示すように、操作部材70に開口(貫通孔)71が形成されており、車軸41は、この開口71を通過して、操作部材70を貫通している。ただし、操作部材70は車軸41の軸線方向adと交差する一方向へ移動可能である。したがって、図6によく示されているように、操作部材70の開口71は、操作部材70の移動方向に延びる長穴として形成されている。このように車軸41が操作部材70を貫通するようにして車軸41および操作部材70を配置することによって、車軸41との干渉を考慮することなく、移動可能な操作部材70をケーシング80内に配置することができ、車輪保持機構40をコンパクトに構成することが可能となる。また、操作部材70の移動を車軸41によって案内することも可能となり、操作部材70の移動を安定化させることができる。これにより、車輪41の回転の規制および規制解除をスムースに切り換えることができる。
【0064】
また、図5および図6によく示されているように、操作部材70は、その移動方向に沿って細長状に形成されており、細長状の操作部材70の両側方を、制動部材60の一対の側片68およびケーシング80の一対の案内部84aが車軸41の軸線方向adに延びている。車軸41の軸線方向adに延びる一対の側片68と案内部84aとの係合によれば、車輪45の回転を規制する際に回転方向への大きな力を受ける制動部材60の車軸41の軸線方向ad以外への移動をより確実に規制することができる。また、車輪41の回転を安定して規制し得る制動機構を有した車輪保持機構40をコンパクトな大きさに形成することができる。
【0065】
ところで、図1に示すように、ハンドル36には、遠隔操作レバー100が揺動可能に取り付けられている。また、図1、図2および図6に示すように、遠隔操作レバー100と右側の車輪保持機構40aとの間には、操作伝達手段95が設けられている。操作伝達手段95は、遠隔操作レバー100の揺動動作を、右側の車輪保持機構40aの操作部材70の移動動作へと変換する。操作伝達手段95は、ベビーカー本体11に保持された筒状部材96と、筒状部材96内を移動可能に挿通するリードワイヤ97と、を有している。リードワイヤ97の一端は、遠隔操作レバー100に取り付けられ、リードワイヤ97の他端は、右側の車輪保持機構40aの操作部材70に取り付けられている。一方、筒状部材96の一端は、遠隔操作レバー100の近傍となるベビーカー本体11に固定され、筒状部材96の他端は、図3、図4および図6に示すように、右側の車輪保持機構40aのケーシング80に固定されている。
【0066】
このような構成によれば、遠隔操作レバー100を揺動させることにより、遠隔操作レバー100に一端を固定されたリードワイヤ97が筒状部材96内を相対移動する。具体的には、遠隔操作レバー100を操作することにより、リードワイヤ97が右側の車輪保持機構40aの側から遠隔操作レバー100の側へと筒状部材96内を移動する。これにより、右側の車輪保持機構40aの操作部材70が、図6において上方側へ移動することになる。結果として、操作部材70の移動にともなって、制動部材60が車輪45に接触し、制動部材60の凹凸面からなる接触面61と車輪45の凹凸面からなる接触面46との噛み合いにより、右側の車輪保持機構40aの車輪45の回転が規制されるようになる。
【0067】
また、遠隔操作レバー100を逆向きに揺動させると、リードワイヤ97が遠隔操作レバー100の側から右側の車輪保持機構40aの側へと筒状部材96内を移動する。このとき、第1付勢部材86からの付勢力および第2付勢部材88からの付勢力によって、操作部材70および制動部材60は互いに接近する位置に向けて移動することが可能となり、制動部材60が車輪45から離間して、車輪45の回転の規制が解除される。すなわち、操作伝達手段95を介し、遠隔操作レバー100を用いた車輪45の回転の規制および規制解除の切り換えを容易に行うことが可能となる。
【0068】
なお、図1に示すように、操遠隔作レバー100がハンドル36の長手方向に沿って延びている状態で、車輪45の回転が規制解除されるようになっている。逆に、図1に二点鎖線で示すように、操遠隔作レバー100が、ハンドル36の長手方向と交差する方向へ向けて、ハンドル36から延び出している状態で、車輪45の回転が規制されるようになる。したがって、ベビーカー10の使用者は、車輪45の回転が規制されていること、すなわち、ベビーカー10にブレーキが掛けられていることを容易に確認することができる。
【0069】
加えて、図3および図4に示すように、右側の車輪保持機構40aと左の車輪保持機構40bとの間に、補助伝達手段90が設けられている。補助伝達手段90は、右側の車輪保持機構40aの操作部材70の移動動作を、左側の車輪保持機構40bの操作部材70の移動動作へと変換する。補助伝達手段90は、右側の車輪保持機構40aと左側の車輪保持機構40bとに両端をそれぞれ固定された筒状部材91と、筒状部材91内を移動可能に挿通するリードワイヤ92と、を有している。リードワイヤ92の両端は、それぞれ、左右の車輪保持機構40a,40bの操作部材70に連結されている。
【0070】
このような補助伝達手段90により、右側の車輪保持機構40aの車輪45の回転が規制されると左側の車輪保持機構40bの車輪45の回転が規制され、右側の車輪保持機構40aの車輪45の回転が規制解除されると左側の車輪保持機構40bの車輪45の回転が規制解除されるようになる。すなわち、一つの車輪保持機構40aを操作するだけで、二つの車輪保持機構40a,40bが連動して、車輪45の回転を規制され或いは車輪45の回転の規制が解除されるようになる。これにより、ベビーカー10の走行を規制すること及びベビーカー10の走行を可能にすることの切り換えを容易且つより確実に行うことができる。また、ベビーカー10の走行を規制した際には、ベビーカー10が載置されている路面等の状況によらず、例えば、ベビーカー10が坂道に止められていたとしても、ベビーカー10を安定して停止させておくことができる。
【0071】
なお、図3、図4および図6に示すように、筒状部材91の外部に露出したリードワイヤ92の移動を円滑化するため、車輪保持機構40のケーシング80にはプーリー94が設けられ、このプーリー94によって、リードワイヤ92が誘導されるようになっている。このため、一方の車輪保持機構40aにおける車輪45の回転の規制或いは車輪45の回転規制の解除が、他方の車輪保持機構40bに安定且つ円滑に伝達されるようになる。
【0072】
以上のような本実施の形態によれば、制動部材60が車軸41に貫通され且つ車軸41の軸線方向adに摺動可能であるため、制動部材60および車輪45が、周状の領域あるいは車軸41の軸線方向adを中心とする周方向に離間した複数の位置にて、接触することができる。したがって、車輪45の回転を規制する際に、制動部材60と車輪45との接触箇所へ局所的に大きな荷重が付加されることを防止することができる。このため、互いに接触する制動部材60および車輪45の破損を効果的に防止することができる。また、車輪45の回転位置によらず、制動部材60が、車軸45の軸線方向adから車輪45に接触することができる。このため、車輪45の回転を規制する際に、車輪45の回転位置を予め調節しておく負担を軽減することができる。以上のことから、車輪45の回転をより安定して規制することが可能となる。
【0073】
加えて、制動部材60の摺動を車軸45によって案内することが可能となり、制動部材60の移動を安定化させることができる。このため、車輪45の回転の規制および規制解除をスムースに切り換えることができる。また、車軸45との干渉を考慮することなく、摺動可能な制動部材60を配置することが可能となるので、車輪保持機構40をコンパクトに構成することが可能となる。
【0074】
さらに、互いに対面する制動部材60の接触面61および車輪45の接触面46の少なくとも一方が、複数の凸部62,47によって形成された凹凸面として構成され、且つ、凸部62,47が、車軸41の軸線方向adからの観察において、車軸41を中心として放射状に延びていることによれば、次の作用効果を奏することが可能となる。車輪41の回転位置を事前に調節しておかなくとも、車輪45の回転をより安定して規制することが可能となる。また、制動部材60が車輪45の回転を規制するための力を複数箇所で分散して受けること(すなわち、複数の凸部の間で力を分散して受けること)、及び、車輪45の回転を規制するための局所的な力が制動部材60の常に同一の箇所に加えられないようにすること(すなわち、一つの凸部のみが力を受けないようにすること)、の少なくともいずれか一方が可能となる。これにより、制動部材60の車輪45と接触するようになる凸部62,47の破損を防止して、車輪45の回転をより安定して規制することが可能となる。
【0075】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。
【0076】
上述した実施の形態において、車軸41の軸線方向adに対面する制動部材60の接触面61および車輪45の接触面46が、相補的な凹凸面として形成されている例を示したが、これに限られない。また、制動部材60の接触面61および車輪45の接触面46の上述した構成は、例示に過ぎない。例えば、制動部材60の接触面61および車輪45の接触面46の少なくとも一方が、隙間をあけて配列された凸部62,47によって形成された凹凸面として構成されてもよい。また、凸部62,47の配列は、放射状に限定されることなく、ストライプ状であってもよい。また、凸部の断面形状は、三角形形状に限定されることなく、例えば、四角形形状であってよい。
【0077】
また、上述した実施の形態において、操作部材70の移動方向が、車軸41の軸線方向adに対して直交している例を示した。ただし、操作部材70の移動方向は、車軸41の軸線方向adに対して90°以外の角度で交差する、言い換えると、車軸41の軸線方向adに対して傾斜していてもよい。また、操作部材70および制動部材60の接触部72,73,64,65の構成の一例を示したが、操作部材70の移動動作が車軸41の軸線方向adに沿った制動部材60の移動動作に変更され得る種々の態様に変更可能である。またそもそも、操作部材70を省略して、制動部材70を直接操作するようにしてもよい。
【0078】
さらに、上述した実施の形態で示した、補助伝達手段90、操作伝達手段95および遠隔操作レバー100の構成は、単なる例示であって、配置等を適宜変更することができる。そもそも、補助伝達手段90、操作伝達手段95および遠隔操作レバー100の一以上を省略することもできる。例えば、操作部材70の一部分をケーシング80から露出させ、操作部材70を直接操作することができるようにしてもよい。あるいは、補助伝達手段90を省略するとともに、二つの操作伝達手段95を介して一つの遠隔操作レバー100を二つの車輪保持機構40の各々に接続するようにしてもよい。あるいは、補助伝達手段90を省略して、二つの車輪保持機構40を別々に操作するようにしてもよい。
【0079】
さらに、上述した車輪保持機構40が、前脚22に取り付けられるようにしてもよいし、前脚22および後脚24に取り付けられるようにしてもよい。さらに、上述した車輪保持機構40が、片側の後脚24のみに取り付けられるようにしてもよい。
【0080】
さらに、上述した実施の形態において説明したベビーカー10のベビーカー本体11の構成は、単なる例に過ぎない。例えば、折り畳み不可能にフレーム部20を構成するようにしてもよい。また、上述した実施の形態において説明したベビーカー10のベビーカー本体11において、ハンドル36が背面押し位置と対面押し位置との間を揺動可能に構成されている例を示したが、これに限られず、ハンドル36が背面押し位置に固定されたままに構成されていてもよい。
【0081】
なお、以上において上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 ベビーカー
11 ベビーカー本体
20 フレーム部
22 前脚
24 後脚
36 ハンドル
40 車輪保持機構
40a 右側の車輪保持機構
40b 左側の車輪保持機構
41 車軸
45 車輪
46 接触面
47 凸部、第1凸部
47a 頂角
48 車輪本体
49a ホイール
49b タイヤ
50 アダプター
60 制動部材
61 接触面、制動面
62 凸部、第2凸部
62a 頂角
64 突出片
65 傾斜部、傾斜面
67 開口、貫通孔
68 側片
69 受け部、バネ受け部
70 操作部材
71 開口、貫通孔
72 突出片
73 傾斜部、傾斜面
80 ケーシング
81 開口、貫通孔
82 ケーシング本体
83 ケーシング蓋体
84a 案内部、案内溝
84b 案内壁
86 付勢部材、第1付勢部材
88 付勢部材、第2付勢部材
90 補助伝達手段
91 筒状部材
92 リードワイヤ
94 プーリー
95 操作伝達手段
96 筒状部材
97 リードワイヤ
100 遠隔操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸と、
前記車軸に取り付けられた車輪と、
前記車軸に貫通された制動部材であって、前記車軸に対して前記車軸の軸線方向に摺動可能な制動部材と、を備え、
前記制動部材は、前記車軸の軸線方向に摺動することによって、車輪から離間した位置と、前記車輪に接触して前記車輪の回転を規制する位置と、の間を移動可能である、ベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項2】
前記車軸の軸線方向に沿って前記車輪に対面する前記制動部材の面が、複数の凸部によって形成された凹凸面として構成されており、
前記凸部は、前記車軸の軸線方向に沿って観察した場合に、前記車軸を中心として放射状に延びている、請求項1に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項3】
前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記車輪に向けて突出した頂角を含む三角形形状となっている、請求項2に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項4】
前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記車輪に向けて突出した頂角を含んでおり、
当該断面における前記頂角の角度は90°未満である、請求項2または3に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項5】
前記車軸の軸線方向に沿って前記制動部材に対面する前記車輪の面が、複数の凸部によって形成された凹凸面として構成されており、
前記凸部は、前記車軸の軸線方向に沿って観察した場合に、前記車軸を中心として放射状に延びている、請求項1〜4に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項6】
前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記制動部材に向けて突出した頂角を含む三角形形状となっている、請求項5に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項7】
前記凸部の延在方向に直交する断面での断面形状は、前記制動部材に向けて突出した頂角を有しており、
当該断面における前記頂角の角度は90°未満である、請求項5または6に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項8】
前記車軸の軸線方向に沿って前記車輪に対面する前記制動部材の面と、前記車軸の軸線方向に沿って前記制動部材に対面する前記車輪の面と、は互いに相補的な凹凸面として形成され、前記車軸を中心とした周状の領域において噛み合うことができる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項9】
前記車輪は、車輪本体と、前記車輪本体に取り付けられたアダプターと、を有し、
前記アダプターが、前記車軸の軸線方向に沿って前記制動部材に対面する前記車輪の面を形成している、請求項1〜8のいずれか一項に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項10】
前記車軸の軸線方向における前記車輪とは反対の側から前記制動部材に接触する位置に設けられた操作部材を、さらに備え、
前記操作部材は、前記車軸の軸線方向と交差する方向に移動可能であり、
前記操作部材が前記方向へ移動することにより、前記操作部材と接触する前記制動部材が前記車軸の軸線方向に摺動して、前記車輪に接近することができる、請求項1〜9に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項11】
前記操作部材は、前記車軸に貫通されている、請求項10に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項12】
前記操作部材および前記制動部材の少なくとも一方は、他方と接触する面として、前記操作部材の移動方向および前記制動部材の摺動方向の両方向に対して傾斜した傾斜部を含む、請求項10または11に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項13】
前記制動部材は、前記車軸の軸線方向に沿って前記車輪から離間する側へ付勢されている、請求項1〜12のいずれか一項に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項14】
前記制動部材を収容するケーシングを、さらに備え、
前記ケーシングは、前記制動部材に対面する位置に開口を形成されており、
前記車輪の前記制動部材と接触するようになる部分は、前記開口を介して前記ケーシング内に配置されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載のベビーカー用の車輪保持機構。
【請求項15】
ハンドルと、
前脚および後脚と、
前脚および後脚の少なくとも一方に取り付けられた請求項1〜14のいずれか一項に記載の車輪保持機構と、を備える、ベビーカー。
【請求項16】
前記ハンドルに揺動可能に取り付けられた遠隔操作レバーと、
前記遠隔操作レバーと前記車輪保持機構との間に設けられ、前記遠隔操作レバーを用いた前記車輪の回転の規制および規制解除の切り換えを可能にする操作伝達手段と、をさらに備え、
前記操遠隔作レバーが前記ハンドルの長手方向に沿って延びている状態で、前記車輪の回転が規制解除される、請求項15に記載のベビーカー。
【請求項17】
一対の後脚を備え、
前記一対の後脚のうちの一方の後脚に、請求項1〜14のいずれか一項に記載された第1の車輪保持機構が設けられ、
前記一対の後脚のうちの他方の後脚に、請求項1〜14のいずれか一項に記載された第2の車輪保持機構が設けられ、
前記第1の車輪保持機構と前記第2の車輪保持機構との間に、補助伝達手段が設けられ、前記第1の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制されると前記第2の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制され、前記第1の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制解除されると前記第2の車輪保持機構の前記車輪の回転が規制解除される、請求項15または16に記載のベビーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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