説明

ペットフード組成物及び方法

本明細書では、ステアリドン酸(SDA)を利用する組成物及び方法を記載する。
一実施形態では、本開示は、SDAを含むペットフード組成物を対象とする。任意の実施形態では、該組成物は、栄養的にバランスのとれた組成物、又はサプリメントである。
さらに他の実施形態では、本開示は、ペットへのSDAを含む組成物の投与を含む、ペットにおける、骨若しくは関節の健康の促進、軟骨細胞の機能の促進、オメガ−3脂肪酸の組織中濃度の維持、オメガ−3脂肪酸の組織中濃度の促進、及びそれらの組み合わせなどから選択される方法を対象とする。任意の実施形態では、ペットは、子イヌ、子ネコ、大型犬、又は高齢動物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリドン酸を含むペットフード組成物、並びにそれらの使用方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
食餌脂肪は、プロスタグランジン生合成IGF作用、並びに遺伝子及びタンパク質の発現を変化させることによって、骨代謝に影響を及ぼす場合がある。骨形成原細胞中で炭素数20の必須脂肪酸前駆体(アラキドン酸及びエイコサペンタエン酸)から局所的に産生されるプロスタグランジンは、骨形成と骨吸収の両方を調節する。食餌多価不飽和脂肪酸と、プロスタグランジンと、骨代謝との間の関係を裏付けて、食餌脂質が、エクスビボ骨PGE産生及び骨組織中のIGF−I濃度を調節し、成長期のニワトリヒナ及びラットで骨形成速度の変化をまねくことが報告されている。これらの実験では、長鎖n−3脂肪酸を給与された動物は、骨芽細胞活性に対する刺激効果を示唆する、骨形成速度の増加を示した。成長期の動物における骨モデリングに対するn−3脂肪酸の好ましい効果は、エイコサペンタエン酸(大抵、「20:5n−3」又は「EPA」と呼ばれる)及びドコサヘキサエン酸(大抵、「22:6n−3」又は「DHA」と呼ばれる)を補給された卵巣摘出ラットにおける骨塩喪失の低減という観察結果によって裏付けられた。ワトキンス(Watkins)ら、「オメガ−3多価不飽和脂肪酸及び骨格の健康(Omega-3 polyunsaturated fatty acids and skeletal health)」、P.S.E.B.M.、第226(6)巻、485〜497頁(2001)を参照のこと。これらの調査は、長鎖n−3脂肪酸の骨節約効果と骨吸収の減少及び骨形成の増加とを関連付けられることを示す。骨組織で観察される反応は、長鎖n−3脂肪酸又はCLAによってn−6脂肪酸(例えば、リノール酸)の作用を抑制すると、骨再形成に有益な可能性があることを示す。
【0003】
イヌ、ニワトリヒナ、ヒツジ、及びラットにおける研究で、食餌脂質が、骨区画の脂肪酸組成を変化させ、また骨形成/再形成に影響を及ぼす剤(例えば、プロスタグランジン)の局所的産生に影響を与え得ることが示されている。さらに、食餌n−3多価不飽和脂肪酸(PUFA)が、骨及び軟骨組織中のアラキドン酸(しばしば、「20:4n−6」若しくは「AA」と呼ばれる)の濃度を低下させ、骨器官培養においてエクスビボPGE産生を抑制したことが報告されている。ワトキンス(Watkins)ら、「生理活性脂肪酸:骨生物学及び骨細胞機能における役割(Bioactive fatty acids: Role in bone biology and bone cell function)」、脂質研究の進展(Prog. Lipid Res.)、第40巻、125〜148頁(2001)を参照のこと。別のラットの研究では、骨器官培養下のエクスビボPGE産生は、より高い食餌比(n−6/n−3=10〜24)の食餌を与えられたラットに比べ、より低い食餌n−6/n−3脂肪酸比(n−6/n−3=1.2〜2.6)の食餌を与えられたラットで著しく減少した。
【0004】
回帰分析で、PGEのエクスビボ産生と骨内のAA/EPA比との間には有意な正の相関があるが、骨形成速度と骨内のAA/EPA比又はPGEとの間には有意な負の相関があることが明らかになった。さらに、血清骨特異的アルカリホスファターゼの活性は、n−3脂肪酸を多く含む食餌を与えられたラットでより大きかったが、このことが、骨形成に対するこれらの脂肪酸のプラスの作用をさらに裏付けている。これらの結果は、食餌のn−6/n−3脂肪酸比が、成長期のラットにおいて骨PGE産生及び血清骨特異的アルカリホスファターゼの活性を調節することを明示した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの進歩にもかかわらず、当該技術分野では、炎症の制御及び関連利益を含め、骨の健康及び関節の健康の促進に関与する脂肪酸のさらなる理解が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、オメガ−3−脂肪酸であるステアリドン酸(SDA)を利用する組成物及び方法を対象とする。
【0007】
一実施形態では、本発明は、SDAを含むペットフード組成物を対象とする。任意の実施形態では、該組成物は、栄養的にバランスのとれた組成物、又はサプリメントである。
【0008】
本明細書のさらに他の実施形態では、本発明は、ペットへのSDAを含む組成物の投与を含む、ペットにおける、骨の健康の促進、軟骨細胞の機能の促進、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の維持、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の促進、及びそれらの組み合わせなどから選択される方法を対象とする。任意の実施形態では、ペットは、子イヌ、子ネコ、大型犬、又は高齢動物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
例えば刊行物及び特許を含めた様々な文献が、本開示全体にわたって引用される。そのようなすべての文献を本明細書に参考として組み込む。
【0010】
百分率及び比率はすべて、特に指示しない限り、重量で計算される。百分率及び比率はすべて、特に指示しない限り、組成物全体を基準にして計算される。
【0011】
本明細書で参照するのは、本発明で用いられる様々な成分を包含する構成要素の商標名である。本発明者らは、本明細書で、特定の商標名の物質だけに制限されることを意図していない。商標名によって参照されるものと同等の物質(例えば、異なる供給元から異なる名称又は参照番号で得られるもの)を、本明細書の記載において置き換えて使用してもよい。
【0012】
本発明の説明では、様々な実施形態又は個々の特徴が開示される。当業者には明らかなように、そのような実施形態及び特徴のすべての組み合わせが可能であり、本発明の好ましい手法をもたらすことができる。
【0013】
本明細書の組成物は、本明細書に記載されるいずれの要素を含んでもよく、いずれの要素から本質的になってもよく、又はいずれの要素からなってもよい。
【0014】
本発明の様々な実施形態及び個々の特徴を説明し記載したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の様々な変更及び修正が可能である。やはり明らかなように、先行する開示で教示された実施形態及び特徴のすべての組み合わせが可能であり、本発明の好ましい手法をもたらすことができる。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「ペット」は、飼いイヌ又は飼いネコを意味する。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「高齢動物」などは、当該技術分野において一般的に使用されている基準にしたがって中年以上とみなされるペットであり、次を条件とする:高齢イヌとは、約5年齢以上の飼いイヌである;高齢ネコとは、約6年齢以上の飼いネコである。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「大型犬」は、3歳の年齢に達したときに体重約13.6kg(30ポンド)以上になる、又はそのように推定される飼いイヌを意味する。所望により、用語「大型犬」は、3歳の年齢に達したときに体重約18.1kg(40ポンド)以上になる、又はそのように推定される飼いイヌを意味する。ゆえに、大型犬には、3歳の年齢に達したときに規定体重に達すると推定されるのであれば、3年齢未満のイヌが含まれることになる。大型犬の非限定例としては、スポーツ群、狩猟群、作業群、狩猟群、牧畜群、又はアメリカン・ケネル・クラブ(American Kennel Club)によって記載される種々雑多な部類のものが挙げられる。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「子ネコ」は、約3歳以下、或いは約2歳以下、或いは約1歳以下の飼いネコを指す。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「子イヌ」は、約3歳以下、或いは約2歳以下、或いは約1歳以下の飼いイヌを指す。
【0020】
本発明の組成物
本組成物は、ペットにおける炎症の制御及び関連利益を含め、骨の健康及び関節の健康の促進を含めた様々な目的に有用である。かかる方法は、すべてのペット、特に飼いイヌ及び飼いネコを対象としているが、高齢動物、大型犬、又は成長期の子イヌ若しくは子ネコに特に有用な可能性がある。
【0021】
本発明の組成物は、ステアリドン酸(本明細書ではしばしば「SDA」と呼ぶ)を含むペットフード組成物である。SDAは、オメガ−3−脂肪酸である。当該技術分野でよく理解されているように、オメガ−3−脂肪酸は、オメガ−3二重結合を有する脂肪酸物質であり、その際、炭素鎖内の第1の二重結合は、鎖のオメガ(末端)メチル炭素原子から数えたときに、脂肪酸の鎖の第3と第4炭素原子との間に位置付けられる。SDAは、炭素数18のオメガ−3−脂肪酸であり、当該技術分野では6Z、9Z、12Z、15Z−オクタデカテトラエン酸又はモロクチン酸(moroctic acid)と呼ばれることがある。
【0022】
本明細書ではSDAのすべての形態が企図される。例えば、SDAは、遊離脂肪酸又はトリグリセリドとして提供されてよい。したがって、本明細書でSDA又は他のいずれかの脂肪酸が言及される場合、そのような脂肪酸には、脂肪酸の遊離形態、並びに他の形態、例えば、エチル(若しくは他の)エステル又は天然に存在するトリグリセリド又はその他の形態が含まれる。用語SDA又は他の具体的な用語は、当該技術分野において一般的に理解されるように、便宜上、そのような名称の物質のすべての形態を包含するように用いられる。
【0023】
本発明の特定の実施形態では、組成物は、該組成物中に存在するSDAのすべて又は一部を提供するために、SDAの濃縮供給源を含む。本明細書で使用するとき、用語「ステアリドン酸の濃縮供給源」「SDAの濃縮供給源」などは、該濃縮供給源の少なくとも約0.1重量%のSDAを含む、組成物への添加物である構成成分を指す。任意で、濃縮供給源は、該濃縮供給源の少なくとも約0.4重量%、又は少なくとも約0.7重量%、又は少なくとも約1重量%のSDAを含む。
【0024】
容易に入手可能な濃縮供給源としては、例えば、木の実(nut)、種子(seed)、それらの抽出物(例えば種子油)、形質転換植物油及び脂肪種子、様々な魚油、又はそれらの混合物が挙げられる。本明細書の特定の実施形態では、濃縮供給源は、カナビス・サティバ(Cannabis sativa)(例えば、約0.3%〜約2%のSDAを含む)、リベス・ニギウム(Ribes nigium)(例えば、約2%〜約4%のSDAを含む)、エキウム・プランタギネウム(Echium plantagineum)(例えば、約12%〜約14%のSDAを含む)、又はエキウム・ブルガリス(Echium vulgaris)(例えば、約18%〜約20%のSDAを含む)からなる群から選択される植物ファミリーから選択されてよい。本明細書の例示的な濃縮供給源としては、クロスグリ種子油(balck currant seed oil)、麻実油(hemp seed oil)、エキウム油(chium oil)及びそれらの混合物(すべての変種を含める)からなる群から選択されるものが挙げられる。エキウム油は、英国のクローダ・インターナショナルPLC(Croda International PLC)から市販されており、他の例示的な濃縮供給源は、様々な商業的供給源から広く入手可能である。
【0025】
本明細書の代替又は追加の実施形態では、ペットフード組成物は、ペットへの投与(好ましくは経口投与)後に、ペットにおける、骨の健康の促進、軟骨細胞機能の促進、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の維持、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の促進、及びそれらの組み合わせから選択される機能を提供するのに有効な量のSDAを含む。これらの機能については、以下で本発明の方法に即してさらに説明する。本明細書で使用するとき、本明細書で使用されるSDAに関する用語「有効量」は、言及される利益を提供するのに十分なSDAの量を意味する。具体的な「有効量」は、ペットの身体的条件、生理学的状態、年齢、性別、品種、処置期間、併用療法(もしあれば)の性質、使用されるべき組成物の具体的な形態などの因子によって異なるが、そのことは、本明細書に与える開示を考慮すれば当業者にはよく理解されよう。
【0026】
本明細書の代替又は追加の実施形態では、ペットフード組成物は、すべて前記組成物の少なくとも約0.001重量%のSDA、或いは少なくとも約0.01重量%のSDA、或いは少なくとも約0.1重量%のSDAを含んでよい。さらに、ペットフード組成物は、該組成物の約0.001重量%〜約75重量%、或いは約0.001重量%〜約5重量%、或いは約0.001重量%〜約1重量%、或いは約0.01重量%〜約0.5重量%のSDAを含んでよい。サプリメントであるペットフード組成物は、日常給餌用の栄養的にバランスのとれたペットフード組成物に比べ、より高いレベルのSDAを有する傾向にあってよい。さらに、錠剤やカプセルなどのサプリメント形態は、しばしば、例えば、ビスケット、チューズ(chews)、グレイビー(gravies)、又は乳若しくは代用乳を含めた他の類似トリーツ(treats)に比べ、或いは日常給餌用のペットフード組成物に比べ、より高いレベルのSDAを含むことがある。当業者は、適切に決定することができる。
【0027】
本明細書のさらに他の代替又は追加の実施形態では、ペットフード組成物は、該組成物の総多価不飽和脂肪酸の重量に基づいて、あるレベルのSDAを含んでおり、例えば、一実施形態では、組成物は、該組成物の総多価不飽和脂肪酸の約0.1重量%〜約5重量%のSDAを含んでよい。多価不飽和脂肪酸は、当該技術分野ではよく理解されており、それには、オメガ−3−脂肪酸及びオメガ−6−脂肪酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
ペットフード組成物は、いずれの形態であってもよいが、経口投与可能な形態であることが好ましい。例えば、組成物は、栄養的にバランスのとれたペットフード組成物又はサプリメントであってよい。本明細書で使用するとき、ペットフード組成物に関する用語「栄養的にバランスのとれた」は、該組成物が、ペットの栄養学分野の第一人者の推奨に基づいた適切な量及び割合で、生命を維持するために必要な既知の栄養素を有することを意味する。栄養的にバランスのとれたペットフード組成物は、当該技術分野では容易に理解され、例えば、固形フード、半固形フード、及び水分含有フードすべてが、ペットの日常食として用いられる。サプリメントとしては、錠剤やカプセルなどの剤形、又は他の形態、例えば、ビスケット、チューズ、グレイビー(若しくは他のトッピング(toppers))、ヨーグルト、代用乳、若しくはその他の形態が挙げられる。サプリメントは、通常、栄養的にバランスがとれてはいないが、そのようなサプリメントが栄養的にバランスがとれている場合、確実に許容可能である。
【0029】
他の構成成分は、本明細書で使用される組成物に含めるのに有益であるが、本発明の目的にとっては任意である。例えば、日常給餌用のペットフード組成物は、栄養的にバランスがとれていることが好ましい。一実施形態では、そのようなペットフード組成物は、乾燥物質基準で、該ペットフード組成物の約20重量%〜約50重量%のタンパク質、又は約22重量%〜約40重量%のタンパク質を含んでよい。他の実施例として、ペットフード組成物は、乾燥物質基準で、該ペットフード組成物の約5重量%〜約35重量%の脂肪、又は約10重量%〜約30重量%の脂肪を含んでよい。他の実施形態では、ビスケット、チューズ、及びそのような他の形態などのサプリメント組成物は、乾燥物質基準で、該サプリメント組成物の約20重量%〜約50重量%のタンパク質、又は約22重量%〜約40重量%のタンパク質を含んでよい。他の実施例として、これらの種類のサプリメント組成物は、乾燥物質基準で、該サプリメント組成物の約5重量%〜約35重量%の脂肪、又は約10重量%〜約30重量%の脂肪を含んでよい。さらに他の実施例として、グレイビー若しくは他のトッピングなどのサプリメント組成物は、しばしば、該サプリメント組成物の少なくとも約0.5重量%以上のタンパク質、又は少なくとも約0.8重量%のタンパク質を含んでよい。さらに他の実施例として、グレイビー若しくは他のトッピングなどのサプリメント組成物は、しばしば、該サプリメント組成物の少なくとも約1重量%以上の脂肪、又は少なくとも約2重量%の脂肪、又は約1重量%〜約5重量%の脂肪を含んでよい。さらに他の実施例として、グレイビー若しくは他のトッピングなどのサプリメント組成物は、しばしば、少なくとも約50%の水分、又は少なくとも約70%の水分、又は約70%〜約99%の水分を含んでよい。ペットによる使用が意図される日常給餌及びサプリメント組成物は、言うまでもなく、当該技術分野において一般的に知られている。
【0030】
本発明の方法
本発明の方法は、本明細書に記載される1つ以上の健康上の利益をもたらすために、本発明の組成物をペットに投与すること、好ましくは経口投与すること(すなわち、摂食による)を含む。具体的には、本方法は、ペットへのSDAを含む組成物の投与を含む、ペットにおける、骨の健康の促進、軟骨細胞の機能の促進、オメガ−3脂肪酸の組織中濃度の維持、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の促進、及びそれらの組み合わせなどからなる群から選択される方法である。かかる方法は、すべてのペット、特に飼いイヌ及び飼いネコを対象としているが、高齢動物、大型犬、又は成長期の子イヌ若しくは子ネコに特に有用である。SDAを含む組成物は、本明細書で前述した様々な組成物のうちのいずれであってもよい。
【0031】
意外にも本明細書で見出されたように、ペットにSDAを給与すると、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度を維持又は促進することになる。したがって、一実施形態では、本方法は、この発見を対象とする。オメガ−3−脂肪酸は、当該技術分野において一般的に知られており、それには、ドコサヘキサエン酸(一般に「DHA」と呼ばれる)及びエイコサペンタエン酸(一般に「EPA」と呼ばれる)が挙げられる。
【0032】
代替的に、又は追加的に、本発明は、軟骨細胞の機能を促進する方法を対象とする。当該技術分野において周知のように、長骨内の成長軟骨は、カルシウムイオンと結合する高い親和性を示す酸性リン脂質を含有する脂質によって囲まれた微小環境として説明されている基質小胞を通じて骨の石灰化を開始する軟骨細胞を含有する。
【0033】
代替的に、又は追加的に、本発明は、ペットにおいて骨若しくは関節の健康を促進する方法を対象とする。骨若しくは関節の健康上の利益としては、骨の喪失の予防、抑制、停止、及び/若しくは回復、並びに/又は骨量の増大及び/若しくは骨形成の改善、並びに/又は骨粗鬆症及び/若しくは関節の炎症の予防、抑制、停止、及び/若しくは回復が挙げられるが、これらに限定されない。ゆえに、骨の健康の改善は、例えば、健康な骨、より強い骨、及び/又は骨量の増加をもたらす可能性がある。炎症関節疾患及び骨の喪失は、処置されていないペットでは危険であるので、骨又は関節の健康上の利益としては、また、炎症に随伴した作用の予防、抑制、停止、及び/又は回復も挙げられるが、これらに限定されない。したがって、骨又は関節の健康の促進は、例えば、痛みの軽減若しくは維持、関節の柔軟性の促進若しくは維持、又はより強い骨若しくは骨の維持をもたらす可能性がある。子イヌ及び子ネコにおいて骨量を増大させること及び/又は骨形成を改善することは、成体のペット又は高齢のペットで骨量を維持することと同様に、本明細書では特に興味深い。
【0034】
本明細書で使用するとき、本発明の方法に関して、用語「投与する」「投与」などは、言及されたペットが本明細書の1つ以上の組成物を給与されることを意味しており、そのような給与は、即時的又は全身的であってよい。本明細書で使用するとき、本発明のプロセスに関して、用語「経口投与する」「経口投与」などは、言及されたペットが、本明細書に記載の1つ以上の組成物を摂取する、若しくは摂取するように仕向けられること(ペットへの組成物の単なる給与を包含するものとして広く解釈される)、又はそのような動物の所有者若しくは管理者(guardian)がペットに1つ以上の組成物を給与するように指示されることを意味する。所有者が給与するように指示される場合、そのような指示は、組成物の使用が、骨若しくは関節の健康の促進、軟骨細胞の機能(軟骨の健康を含む)の促進、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の維持、オメガ−3−脂肪酸の組織中濃度の促進、それらの組み合わせなど、本明細書に記載される1つ以上の利益をもたらす可能性がある、及び/又はもたらすことになることを、所有者に教える且つ/又は知らせるものであってよい。例えば、こうした指示は、口頭指示(例えば、獣医、他の保健専門家、専門販売員若しくは組織、及び/又はラジオ若しくはテレビ媒体(すなわち、広告)からの口頭指導を通じて、或いは書面での指示(例えば、獣医若しくは他の保健専門家からの書面での指示(例えば、手書きメモ)、専門販売員若しくは組織からの書面での指示(例えば、広告用チラシ、パンフレット、若しくは他の教育用品を通じて)、文字媒体からの書面での指示(例えば、インターネット、電子メール、若しくは他のコンピュータ関連媒体)、及び/又は組成物に付随する収容手段からの書面での指示(例えば、組成物を収容する包装上に存在するラベル)を通じてであってもよい。
【0035】
組成物は、様々な頻度又は持続時間にしたがって投与されてよい。例えば、組成物が日常給餌用のフード組成物である場合、該組成物は、通常、1日に1回〜1日に約4回、或いは1日に1回〜1日に約3回、或いは1日に1回〜1日に約2回、或いは適宜投与される。ただし、本明細書のペットフード組成物のいずれについても、毎日投与する必要はない。例えば、本発明の栄養的にバランスのとれたペットフード組成物を、本発明によるものではない、栄養的にバランスのとれたフード組成物と置き換えてよい(例えば、予め定められたスケジュールでの給与、及び交代スケジュールでの給与)。サプリメントは、毎日給与してもよく、毎日給与しなくてもよい。
【0036】
本明細書の利益を達成するために、組成物が、少なくとも約1週間、又は少なくとも約2週間、又は少なくとも約3週間、又は少なくとも約4週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約8週間、又は期間無制限に投与されることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下の諸実施例は、本発明を説明するために与えるものであって、いかなる形でも本発明の範囲を制限しようとするものではない。諸実施例は、例えば骨細胞及び骨組織に対するSDAの効果を決定するために使用できる実験方法を記載する。
【0038】
実験は、培養下の骨芽細胞様細胞のSDA処理が多価不飽和脂肪酸(PUFA)組成物にどのように影響を与えるかを決定するために実施される。骨芽細胞株MC3T3−E1を、10%ウシ胎児血清(FBS)、アスコルビン酸、β−グリセロール−ホスフェート、及び1%抗菌剤溶液を添加されたDMEMからなる増殖培地(GM)中で培養する。細胞を24ウェルプレートで1mL当たり細胞1.2×10個の密度で3日間平板培養して融合性(confluent)にする。融合性になったら、骨芽細胞表現型の初期化に対応して、培地をSDA若しくはリノール酸(LNA)処理のために交換し、又は様々な処理を受けるまでGM中でさらに培養する。3日間の脂肪酸処理期間の終了後、培養物を、COX−2発現を誘発する剤にさらす。用いられる2つの剤は、フォルスコリン(FSK)及びインターロイキン−1(IL−1)である。これらの剤は、COX−2遺伝子に対するそれぞれの作用に基づいて選択される。アデニル酸シクラーゼの活性化因子であるフォルスコリンは、環状AMP(cAMP)濃度を増大させる。インターロイキン−1は、それ自体が細胞膜上のその受容体に結合する骨吸収剤であるが、転写因子である核因子κ−B(NFκB)の活性化をもたらすカスケードを開始させる。環状AMP及びNFκBは、ともに、COX−2遺伝子の発現を活性化する。環状AMPは、COX−2プロモータ中のcAMP応答エレメント(CRE)に結合するcAMP応答エレメント結合タンパク質(CREBP)を介して、COX−2遺伝子の発現を活性化する。COX−2プロモータは、また、NFκB結合エレメントを含有する。ゆえに、これら2つの化合物は、異なる2つの経路を介するものの、遺伝子活性化を通じてCOX−2を誘発し、またCOX−2タンパク質のレベルを増大させるので、COX−2発現に関係するシグナル伝達経路と栄養補助食品の脂肪酸との相互作用を実証するまたとない機会を提供する。
【0039】
以下を結果指標として決定する:
骨芽細胞の脂肪酸組成分析。PUFA処理(SDA及びLNA)にさらされた骨芽細胞に、洗浄された細胞の抽出脂質からのFAMEのガスクロマトグラフィ分析を実施する。
【0040】
MTSアッセイ。脂肪酸処理が骨芽細胞に対する増殖阻害となるかどうかを決定するために、MTS(セル・タイター96アクエアス(Cell Titer 96 Aqueous)、プロメガ(Promega)、ウィスコンシン州マディソン(Madison, WI))としても知られる、テトラゾリウム化合物、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルフェニル(sulphenyl))−2H−テトラゾリウム、分子内塩を用いるアッセイを使用する。MTSは、生細胞によって有色産物に変換される。吸収は、分光分析法によって容易に測定され、これは生存細胞の数と直接関係している。このアッセイの結果は、H−チミジン取込みアッセイを使用して得られる結果に匹敵する。骨芽細胞MC3T3−E1を96ウェルプレートで培養して融合性にする。融合性になったら、培地を、様々な濃度の脂肪酸を添加されたGMに交換し、3日間置く。3日後、MTS溶液を直接ウェルに加え、プレートを37℃で60分間インキュベートし、次いでマイクロプレートリーダ(モレキュラー・ダイナミクス(Molecular Dynamics)、アマシャム・バイオサイエンス社(Amersham Biosciences Corporation)、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway, NJ))を使用してA490を読み取る。
【0041】
シス−パリナリン酸アッセイ。PUFAは、それらの構造の結果として、酸化及びその後のフリーラジカル化合物の形成を起こしやすく、遺伝毒性のおそれがある。したがって、濃PUFA処理が下流の酸化損傷に影響を与えるかどうかを調べるための実験を実施した。酸化損傷の起こしやすさを決定するための独特の一方法は、細胞膜に取り込まれると自然に蛍光を発し、脂質酸化を試験するために使用される脂肪酸である、シス−パリナリン酸[cPnA、共役テトラエン18:4(9,11,13,15)]を用いるものである。これらの実験では、細胞を融合性になるまで培養し、培地を、PUFAを添加されたGMに交換して24時間置き、その後、20μMのcPnAを培地に直接加え、2〜4時間置いて、膜リン脂質へとエステル化させる。cPnAのローディング後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2回洗浄する。洗浄後、100μMの過酸化水素(H、酸化ストレスの誘導物質)をPBSに加え、蛍光マイクロプレートリーダを使用してcPnA蛍光を30分間測定する。
【0042】
ウエスタンブロット。融合性になった後、細胞培養物にCOX及びPLAタンパク質の分析を実施する。COX−1、COX−2、及び細胞質ホスホリパーゼA(cPLA)タンパク質の発現に対するFBSの影響(COX−2の発現、誘導時間、誘導物質の種類、及び誘導物質の濃度を誘発する可能性がある)を評価するための誘導法は、様々である。オプティマス(Optimus)画像解析ソフトウェア(バージョン6.1)を使用して光学密度を決定する。COX−1、COX−2、及びcPLAタンパク質バンドについての光学密度値を、アクチンについて得られたものに対して標準化する。
【0043】
COX遺伝子発現。全RNAを増幅するために、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、COX遺伝子発現レベルを評価する。全細胞RNAを、キット(アンビオン(Ambion)、テキサス州オースティン(Austin, TX))によって単離し、24ウェルプレートからの3つの同一のウェルからためる。全RNA100ng、並びにCOX−1、COX−2、及びアクチンについての遺伝子特異的プライマそれぞれ100ngを、レディ・トゥ・ゴー RT−PCRビード(Ready-To-Go RT-PCR bead)(アマシャム・バイオサイエンス社(Amersham Biosciences Corporation)、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway, NJ))に、製造業者の取扱説明書にしたがって加える。COX−1及びCOX−2 mRNAのレベルをアクチンの発現に対して標準化し、UN SCAN−ITソフトウェア(バージョン5.1、シルク・サイエンティフィック社(Silk Scientific Inc.)、ユタ州オレム(Orem, UT))を、3%アガロースゲルを通じて分解されて臭化エチジウムで染色されたPCRバンドの分析で使用する。
【0044】
PGE形成。既にウエスタンブロットの項で詳述した実験で、酵素イムノアッセイキット(ケイマン・ケミカル(Cayman Chemical)、ミシガン州アナーバー(Ann Arbor,MI))を使用して、誘導細胞及び非誘導細胞の培地中のPGEレベルを決定する。
【0045】
酵素活性:ラウリー(Lowry)の方法によってアルカリホスファターゼ(ALP)活性を決定する。
【0046】
コラーゲン合成コラーゲン合成は、骨芽細胞の骨形成活性について、一般的に使用されるもう1つのマーカである。コラーゲン産生は、マトリックス成熟段階でピークに達する。融合性になってから脂肪酸添加GM中で5日間培養された骨芽細胞(より長い脂肪酸処理時間がコラーゲンの集合体(assembly)の蓄積を可能にする)を、実験で使用する。
【0047】
以上の非限定的実施例の結果は、増大していく処理レベルでSDAを添加すると、骨芽細胞中の総オメガ−3脂肪酸濃度が増大することを示す。これらの結果は、SDAが、特に、骨組織及び骨芽細胞中のプロスタノイド合成を直接的又は間接的に加減できる2つの脂肪酸である、EPA及び22:5n−3を上昇させることを明示する。他の細胞培養では、SDAは、リノレン酸(18:3n−3)よりも、オメガ−3脂肪酸の濃度を変化させる際により有効である。さらに、SDAは、骨芽細胞でのPGE産生を減少させる生物活性を有する脂肪酸である。さらに、SDAは、リノレン酸に比べ、評価されるすべての点についてアルカリホスファターゼの最高の活性をもたらす。
【0048】
また、イヌやネコなどのペットに対するSDAの効果を評価するために、実験を設計する。一例として、ビーグルに低必須脂肪酸食餌を90日間にわたって給与する。その後、SDA又はリノレン酸添加食餌を30日間給与する。結果は、リノレン酸添加食餌を給餌されたイヌと比較して、SDA添加食餌を給餌されたイヌにおいて、赤血球膜、血漿、及び肝臓組織中のEPA及び22:5n−3の濃度上昇を示す。同様に、SDA添加食餌を給餌されたイヌの血漿及び肝臓中のアラキドン酸は、減少する傾向にある。理論に制限されるものではないが、これらの結果は、食餌SDAが、δ−6−デサチュラーゼ酵素の後に代謝経路に入ることによって、リノレン酸に比べてより大きな程度まで、鍵となるオメガ−3脂肪酸の組織中濃度の増大をもたらすことを示す。これらイヌにおけるオメガ−3脂肪酸の増加及びアラキドン酸の減少傾向は、ペットの大きな健康上の利益を示唆する変化を表しており、既存のオメガ−3脂肪酸源に勝る、ペットフード組成物中の食餌構成成分としてSDAを使用する利点を反映する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペットフード組成物である、ステアリドン酸を含む組成物。
【請求項2】
ステアリドン酸の濃縮供給源を含む、請求項1に記載のペットフード組成物。
【請求項3】
前記濃縮供給源が、種子、木の実、それらの抽出物、及びそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1又は2に記載のペットフード組成物。
【請求項4】
前記濃縮供給源が、クロスグリ種子油、麻実油、エキウム油、及びそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペットフード組成物。
【請求項5】
前記濃縮供給源が、該濃縮供給源の少なくとも約0.4重量%のステアリドン酸を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペットフード組成物。
【請求項6】
前記組成物の少なくとも約0.01重量%のステアリドン酸を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のペットフード組成物。
【請求項7】
前記組成物の少なくとも約0.1重量%のステアリドン酸を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のペットフード組成物。
【請求項8】
栄養的にバランスのとれたペットフード組成物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のペットフード組成物。
【請求項9】
サプリメントである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のペットフード組成物。
【請求項10】
ペットにおける、骨若しくは関節の健康の促進、軟骨細胞の機能の促進、オメガ−3脂肪酸の組織中濃度の維持、オメガ−3脂肪酸の組織中濃度の促進、又はそれらの組み合わせに有用な薬剤の製造における、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2007−537763(P2007−537763A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527579(P2007−527579)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/018702
【国際公開番号】WO2005/117603
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(595056859)ザ・アイムス・カンパニー (52)
【氏名又は名称原語表記】The Iams Company
【Fターム(参考)】