説明

ペンタエリスリチオールの製造法

【目的】 ペンタエリスリチオールを工業的に有利で、かつ高収率で製造する方法を提供する。
【構成】 一般式1のペンタエリスリトールテトラハライドと一般式2のトリチオ炭酸塩を、極性溶媒中で反応させ、次いで、これを酸で加水分解する。


(Xは塩素または臭素を表す)


(Mはアルカリ金属を表す)
【効果】 ペンタエリスリチオールは、高屈折率プラスチックレンズ用のモノマーやオレフィン類の重合時の分子量調節剤などに利用できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高屈折率プラスチックレンズ用のモノマーや、オレフィン類の重合時の分子量調節剤として有用なペンタエリスリチオールの製造法に関する。本発明により得られるペンタエリスリチオールは、例えば、架橋剤、エポキシ樹脂硬化剤、加硫剤、重合調整剤、合成樹脂原料、酸化防止剤、金属錯体生成、生化学的薬物、潤滑油添加剤等として、広範囲な用途を有する化合物である。
【0002】
【従来の技術】従来、ペンタエリスリチオールの製造法としては、ペンタエリスリトールテトラブロマイドをアルコール中で四硫化二ナトリウムと反応させ、ついで金属硫化物触媒で高温高圧水添して得る方法(U.S.P. 2,402,614号)、あるいはペンタエリスリトールテトラブロマイドをアルコール中で四硫化二ナトリウムと反応させ、さらに部分脱硫して2,3,7,8-テトラチア−5-スピロノナンを得、これを液体アンモニア中で金属ナトリウムを作用させて得る方法( Birch還元)〔レキュイル・デス・トラバウクス・チミキュース・デス・パイス−バス(Recueil des Tra-vaux Chimiques des Pays-Bas )56, 174-80、681-90 (1937)〕等が知られている。しかしながら、これらの製造法では、原料物質及び中間体のアルコールへの溶解度が低く、デカンテーションなどの操作が必要となり、工業的に有利な方法とはいえない。
【0003】またこの方法では、中間体の収率が低く、54%であり、さらに脱硫を行なうと、収率は40%以下とさらに低くなってしまう。また、この中間体からペンタエリスリチオールを得るには、オートクレーブ中で2500lbs./sq.in、150℃の高温高圧下で、5時間の水素化反応をおこなうか、あるいは液体アンモニア中で金属ナトリウムを作用させなければならず、どちらも工業的に有利な方法であるとはいえない。さらに、本発明者らの検討によれば、これらの方法では、より安価なペンタエリスリトールテトラクロライドでは反応が十分に進行せず、原料物質として、高価なペンタエリスリトールテトラブロマイドを使用する必要があり、高価にならざるを得なかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、高収率で、安価なペンタエリスリチオールの製造法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、目的を達成すべく、鋭意研究を行なった結果、ペンタエリスリトールテトラブロマイドまたはペンタエリスリトールテトラクロライドのいずれを原料物質として用いた場合にも、高収率でペンタエリスリチオールの合成が可能な製造法を見いだし、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、一般式(1)で示されるペンタエリスリトールテトラハライドに、極性溶媒中で、トリチオ炭酸塩を反応させ、式(2)(化3)で表される化合物を得、ついで、酸により加水分解するペンタエリスリチオールの製造法に関するものである。
【0006】
【化3】


【0007】本発明により、高屈折率プラスチックレンズ用のモノマーやオレフィン類の重合時の分子量調節剤として有用なペンタエリスリチオールを容易に高収率で製造することが可能となった。本発明で用いる一般式(1)で表わされるペンタエリスリトールテトラハライドは、クロル体、ブロム体のいづれも市販されており、容易に入手できる。
【0008】本発明で用いるトリチオ炭酸塩は、トリチオ炭酸のアルカリ金属塩で、例えば、トリチオ炭酸ナトリウム、トリチオ炭酸カリウムである。例えば、トリチオ炭酸ナトリウムは、水硫化ナトリウムと苛性ソーダから硫化ナトリウムとした後、二硫化炭素と反応させるか、直接硫化ナトリウムに二硫化炭素を反応させて容易に得ることができる。この反応は、窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。この際、反応溶媒として、一般に水を用いるが、本発明においては、次の反応に用いる極性溶媒、特に非プロトン性極性溶媒を用いることもできる。
【0009】本発明で用いられる極性溶媒としては、非プロトン性極性溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)や、水と前記の非プロトン性極性溶媒の混合溶媒、またはアルコールなどが挙げられる。原料物質の溶解性、反応の進み易さ、あるいは溶媒の取扱易さや経済性の面からN,N−ジメチルホルムアミド、あるいは、水とN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶媒が好ましく用いられる。本発明の第1段目の反応は、極性溶媒中で、ペンタエリスリトールテトラハライド1モルに対して、トリチオ炭酸塩を4モル以上、好ましくは4〜10モルを、反応温度40〜150℃、好ましくは80〜120℃で1〜10時間加熱することにより行なわれる。
【0010】本発明のペンタエリスリチオールを得るには、第1段目の反応で得られた式(2)で表される化合物1モルに対して、酸を4モル以上用い、反応温度5〜60℃、好ましくは20〜40℃で加水分解した後、40℃以上、好ましくは40〜60℃で生じる二硫化炭素を留去する。その後、トルエン、クロロホルムなどの有機溶媒による抽出後、必要に応じて、アルカリ洗浄、水洗等の一般的手法を施した後、有機溶媒を留去して取り出すことができる。こうして生成するペンタエリスリチオールは、不純物質として、ペンタエリスリチオールが、ジスルフィドあるいはポリスルフィド化したものなどを含んでいることがあるため、必要に応じて、還元反応を行なってもよい。還元反応は、一般の還元方法を用いても良いが、本願では、金属粉を用いた接触還元や、金属粉と鉱酸を用いた還元法を用いる。接触還元では、金属粉として遷移金属(白金、パラジウム、ニッケル、スズ、亜鉛、鉄等)の中から選ばれたものを用いるが、鉱酸を用いる還元法では、スズ、亜鉛、鉄等が好ましい。この時の反応溶媒は、溶解性を考慮して、反応系を均一にするため、必要ならば、トルエンなどの有機溶媒にアルコールを加えたものを反応溶媒として用いればよい。得られたペンタエリスリチオールは必要により再結晶、蒸留などによって精製することも可能である。
【0011】
【実施例】以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示す部は重量部を示す。
実施例1N,N−ジメチルホルムアミド150部に、水硫化ナトリウム38.4部(0.48モル)を加温溶解し、これに50%苛性ソーダ水溶液38.4部(0.48モル)を徐々に加えた。これを30℃以下になるまで撹拌しながら冷却した後に、二硫化炭素38.4部(0.50モル)を徐々に滴下した。滴下終了後、40℃に加温し、2時間反応させた。その後、N,N−ジメチルホルムアミド70部にペンタエリスリトールテトラブロマイド12.6部(0.06モル)を溶解したものを徐々に加え、100℃で2時間加熱した。室温まで冷却した後、36%塩酸160部を加えて、30℃で1時間加水分解した後、55℃に加熱して二硫化炭素を回収した。さらに30℃まで冷却した後、クロロホルム300部、水500部を加えて抽出し、クロロホルム層を分取した。これを1%アンモニア水で中和し、さらに水300部で3回洗浄した後、クロロホルムを減圧留去した。これをトルエン100部、エタノール500部に溶解し、亜鉛粉3.0部を加えた。温度をおよそ30℃に保ち、撹拌を続けながら、36%塩酸30部を滴下した。水150部を加えて、トルエン層に抽出した後、水100部で3回洗浄を行ない、トルエンを減圧留去して、白色のペンタエリスリチオール10.8部(0.054モル、収率90.4モル%)を得た。融点は72.5〜73.0℃であった。
【0012】実施例2純水100部に、水硫化ナトリウム38.4部(0.48モル)を溶解し、これに50%苛性ソーダ水溶液38.4部(0.48モル)を徐々に加えた。これを30℃以下に保ちながら、二硫化炭素38.4部(0.50モル)を徐々に滴下した。滴下終了後、40℃に加温し2時間反応させた。反応系が均一になった後、この水溶液を、N,N−ジメチルホルムアミド400部にペンタエリスリトールテトラブロマイド12.6部(0.06モル)を溶解したものに徐々に加え、100℃で4時間加熱した。室温まで冷却した後、36%塩酸160部を加えて30℃で1時間加水分解した後、55℃に加熱して二硫化炭素を回収した。さらに30℃まで冷却した後、クロロホルム300部、水500部を加えて抽出し、クロロホルム層を分取した。これを1%アンモニア水で中和し、さらに水300部で3回洗浄した後、クロロホルムを減圧留去して、ペンタエリスリチオール10.9部(0.54モル、収率90.6モル%)を得た。
【0013】比較例1エタノール100部に、水硫化ナトリウム20部(0.25モル)を加温溶解し、これに硫黄粉12部(0.38モル)を加え還流下で40分間加熱した。これを40℃以下になるまで冷却した後に、ペンタエリスリトールテトラブロマイド19.4部(0.05モル)を徐々に加え、還流下で1時間加熱した。室温まで冷却した後、クロロホルム200部、水300部を加えて抽出し、クロロホルム層を分取した。これを水300部で3回洗浄した後、クロロホルムを減圧留去し、ペンタエリスリチオールの合成中間体5.4部を得た。これをトルエン50部に加熱溶解し、銅粉6.0部を加え、還流下で1時間脱硫を行なった。室温まで冷却した後に、過剰の銅および沈澱を吸引濾過して、トルエンを減圧留去し、2,3,7,8-テトラチア−5-スピロノナン3.6部(0.018モル、収率37モル%)を得た。これを還元して、ペンタエリスリチオール3.4部(0.017モル、収率33モル%)を得たが、得られたペンタエリスリチオールは黄色く着色していた。
【0014】比較例2エタノール80部に、水硫化ナトリウム12部(0.15モル)を加温溶解し、これに硫黄粉7.4部(0.23モル)を加え還流下で40分間加熱した。これを40℃以下になるまで冷却した後に、ペンタエリスリトールテトラクロライド6.5部(0.03モル)を徐々に加え、還流下で4時間加熱した。室温まで冷却した後、クロロホルム200部、水200部を加えて抽出し、クロロホルム層を分取した。これを水100部で3回洗浄した後、クロロホルムを減圧留去した。得られた生成物には原料であるペンタエリスリトールテトラクロライドがかなり残っていた。
【0015】
【発明の効果】本発明のペンタエリスリチオールの製造法により、高屈折率プラスチックレンズ用のモノマーやオレフィン類の重合時の分子量調節剤などに利用できるペンタエリスリチオールを、工業的に容易に、かつ、高収率で製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(1)(化1)で表されるペンタエリスリトールテトラハライドに、
【化1】


(式中、Xは塩素または臭素を表す)極性溶媒中、トリチオ炭酸塩を反応させ、式(2)(化2)で表される化合物
【化2】


(式中、Mはアルカリ金属を表す)を得、ついで、酸により加水分解することを特徴とするペンタエリスリチオールの製造法。

【公開番号】特開平6−72989
【公開日】平成6年(1994)3月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−226960
【出願日】平成4年(1992)8月26日
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)