説明

ホルムアルデヒド捕捉剤および木質材料

【課題】ホルムアルデヒド捕捉剤の製造、保管、使用条件に影響されることなく、ホルムアルデヒドの放散を高効率で長期間抑制するホルムアルデヒド捕捉剤を提供する。
【解決手段】ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物を有効成分とするホルムアルデヒド捕捉剤、および、ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物を有効成分とするホルムアルデヒド捕捉剤を含有する木質材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒド捕捉剤および木質材料に関し、詳しくは、木質材料の製造の際に使用されるホルムアルデヒド系接着剤に起因するホルムアルデヒドの放散を防止するホルムアルデヒド捕捉剤およびホルムアルデヒドの放散が少ない木質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
木質材料の製造には、ホルムアルデヒド系接着剤などが使用されることがある。このような場合、ホルムアルデヒド系接着剤に起因して遊離したホルムアルデヒドが木質材料から放散されて、環境や健康に害を与え、化学物質に過敏に反応するシックハウス症候群として社会問題となっている。このため、ホルムアルデヒドの除去するための組成物が提案されており、その具体例として、ヒドラジン系化合物とカルボン酸金属塩またはホウ酸金属塩などの弱酸金属塩とから成る、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を除去する消臭性組成物が知られている。
【特許文献1】特開2000−152979号公報
【0003】
しかしながら、上述の組成物は、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を除去するものの、その除去効果は未だ十分高いものとは言えず、前述の社会問題を考慮すると、より一層除去効果の向上が望まれている。また、組成物の製造、保管または使用条件に影響されることなく、その除去効果が安定して発揮されることも望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ホルムアルデヒド捕捉剤の製造、保管、使用条件に影響されることなく、ホルムアルデヒドの放散を高効率で長期間抑制するホルムアルデヒド捕捉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物を有効成分とするホルムアルデヒド捕捉剤は、意外にも、ホルムアルデヒド系接着剤に起因するホルムアルデヒドの放散を高効率で長期間抑制する。
【0006】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物を有効成分とすることを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤に存する。
【0007】
そして、本発明の第2の要旨は、上述のホルムアルデヒド捕捉剤を含有することを特徴とする木質材料に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、材料から発生するホルムアルデヒドを長期間抑制するのみならず、ホルムアルデヒド捕捉剤の製造、保管、使用条件に影響されることなく、ホルムアルデヒド捕捉効果を安定して発揮することができる。また、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を含有する木質材料は、ホルムアルデヒドの放散が少ないため、シックハウス症候群などの問題の発生を防ぐことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
【0010】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物をを有効成分とする。
【0011】
(A)ヒドラジン系化合物:
本発明で使用するヒドラジン系化合物としては、分解などによってヒドラジンを発生しうる化合物であれば、特に限定されない。具体的には、−NHNH基を有するヒドラジド類であり、分子中に1個のヒドラジド基を有するモノヒドラジド化合物、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物、分子中に3個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物が挙げられる。
【0012】
(1)モノヒドラジド化合物:
モノヒドラジド化合物は、例えば、下記式(I)で表される化合物である。
【0013】
【数1】

【0014】
式(I)において、Rで示されるアルキル基としては、通常炭素数1〜12、好ましくは1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などの直鎖状アルキル基が挙げられる。当該アルキル基は、置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば、塩素などハロゲン原子、水酸基が挙げられる。
【0015】
Rで示されるアリール基としては、通常炭素数6以上のアリール基が挙げられ、具体的には、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。当該アリール基は、置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば、塩素などのハロゲン原子、水酸基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基などが挙げられる。
【0016】
式(I)のヒドラジド化合物としては、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド等が例示できる。
【0017】
(2)ジヒドラジド化合物:
ジヒドラジド化合物としては、下記式(II)で表される化合物である。
【0018】
【数2】

【0019】
式(II)において、Aで示されるアルキレン基としては、通常炭素数1〜12、好ましくは2〜10のアルキレン基であって、具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基などの直鎖状アルキレン基が挙げられる。当該アルキレン基は、置換基を有していてもよく、その置換基としては、例えば、塩素などのハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。
【0020】
Aで示されるアリーレン基としては、通常炭素数6以上アリーレン基であって、具体的には、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
【0021】
式(II)のジヒドラジド化合物としては、具体的には、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン-2酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0022】
(3)ポリヒドラジド化合物:
ポリヒドラジド化合物として、ポリアクリル酸ヒドラジド等を使用することが出来る。
【0023】
ヒドラジド化合物中、ホルムアルデヒド捕捉能および操作性を考慮するに、ジヒドラジド化合物が好ましい。中でも、セバシン酸ジヒドラジドおよびアジピン酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジドがより好ましい。
【0024】
本発明で使用するヒドラジン系化合物の分子量の下限値は、通常30、好ましくは50で、その上限値は、通常500、好ましくは400である。ヒドラジン系化合物は、単独で又は2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0025】
(B)カルボン酸化合物:
本発明で使用するカルボン酸化合物とは、カルボキシル基を有する化合物で、カルボキシル基の数は、通常1〜4、好ましくは1〜3である。
【0026】
カルボン酸化合物としては、具体的には、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸などの飽和カルボン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸、フタル酸などの芳香族カルボン酸などが挙げられる。中でも、溶解性、操作性、安全性および経済性の見地から、コハク酸、フタル酸、アジピン酸が好ましく、アジピン酸が特に好ましい。
【0027】
本発明で使用するカルボン酸化合物の分子量の下限値は、通常50、好ましくは60であり、その上限値は、通常500、好ましくは400以下である。
【0028】
また、本発明で使用するカルボン酸化合物の酸解離定数(pKa)の下限値が通常1、好ましくは2であり、その上限値は、通常6、好ましくは5.5である。酸解離定数が6を超える場合、または、酸解離定数が1未満の場合は、pH値の変動が大きく好ましくない。
【0029】
カルボン酸化合物の酸解離定数(pKa)は、例えば、シュウ酸:1.04(解離段:3.82)、コハク酸:4.00(解離段:5.24)、アジピン酸:4.26(解離段:5.03)、フタル酸:2.89(解離段:5.50)、酒石酸:2.82(解離段:3.96)、クエン酸:2.90(解離段:4.34)、フマル酸:2.85(解離段:4.10)、マロン酸:2.65(解離段:5.28)、リンゴ酸:3.24(解離段:4.71)である。なお、酸解離指数pKaおよび解離段の値は、日本化学会編(丸善発行)化学便覧を参照した。
【0030】
ホルムアルデヒド捕捉剤中のカルボン酸化合物の下限値は、ヒドラジン系化合物1重量部に対して通常0.0005重量部、好ましくは、0.001重量部であり、その上限値は、通常0.1重量部、好ましくは0.05重量部である。0.0005重量部未満の場合は、ホルムアルデヒドの高い捕捉効果を得ることが出来ない。また、0.1重量部を超える場合は、溶解性が悪化すると共に、水溶液にした際、所望のpH範囲に入らない問題がある。
【0031】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤において、ヒドラジン系化合物とカルボン酸化合物とを含有させることにより、材料から発生するホルムアルデヒドを長期間抑制することが出来る。これは、カルボン酸化合物がホルムアルデヒドとの反応を促進するものと推定される。
【0032】
(C)添加剤
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、尿素、防錆剤などの添加剤を含有してもよい。尿素は、ホルムアルデヒド捕捉能を向上させることが出来ると共に、水溶液にした際のpH値を安定化させることが出来る。尿素の添加量の下限値は、ヒドラジン系化合物1重量部に対して通常0.2重量部、好ましくは0.5重量部であり、その上限値は、通常4重量部、好ましくは2重量部である。尿素の添加量が4重量部を超える場合は、ホルムアルデヒド捕捉能を向上させる効果が飽和するため、これを超えて添加する意味がない。また、0.2重量部未満の場合は、ホルムアルデヒド捕捉能を向上させる作用が発現しない。
【0033】
防錆剤としては、ヘテロ原子としてN原子を通常2〜3個有するアゾール化合物などが挙げられる。具体的には、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾイミダゾール、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等が例示できる。
【0034】
防錆剤は、製造設備の金属製部材の腐食を防止する効果を有する。防錆剤の添加量の下限値は、ヒドラジド化合物1重量部に対して通常0.0005重量部、好ましくは0.001重量部で、その上限値は、通常10重量部、好ましくは3重量部である。添加量が10重量部を超える場合は、ホルムアルデヒド捕捉能を向上させる作用が飽和するため、これを超えて添加する意味がない。
【0035】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、通常、水に混合溶解した水溶液として使用するが、これに限定されるものではない。水溶液中のホルムアルデヒド捕捉剤の濃度(ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物の濃度)の下限値は、通常1重量%、好ましくは2重量%であり、その上限値は、通常20重量%、好ましくは10重量%である。
【0036】
ホルムアルデヒド捕捉剤の水溶液のpH値は、通常9以下、好ましくは5〜9である。pH値は9を超える場合は、アルカリによる合板の汚染が発生すると共に、二次接着を行う際の接着性能低下を招く恐れがある。
【0037】
ホルムアルデヒド捕捉剤は、通常水溶液または粉体で保存するが、可能なかぎり低温での保存が好ましい。
【0038】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の水溶液を木質材料へ塗布または含浸させる方法としては、公知の塗布または含浸方法が適用され、例えば、刷毛塗り、ローラー塗り、浸漬法、スプレー塗布などの塗布または含浸方法が適用される。中でも、スプレー塗布が好適である。塗布または含浸処理は、木質材料の片面または両面に施工される。特に、両面塗布した場合は、ホルムアルデヒド捕捉効果が大きく好ましい。
【0039】
木質材料への塗布量(ホルムアルデヒド捕捉剤の固形分として)の下限値は、木質材料の片面当たり通常0.01g/m、好ましくは0.1g/mであり、その上限値は、通常100g/m、好ましくは50g/mである。
【0040】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、通常ホルムアルデヒドを放散する材料に対して使用されるが、当該材料として、特に限定されるものではない。本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を木質材料に使用した場合、高い捕捉効果が得られる。木質材料としては、製材、集製材、合板またはOSP、パーティクルボード、繊維板などの木質ボード類が挙げられる。
【0041】
これら木質材料は、特開 2004-155863号公報および特開 2003-311718号公報に記載されている様に、通常、接着剤を使用して製造される。使用される接着剤としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。中でも、尿素樹脂、メラミン樹脂を使用した場合には、ホルムアルデヒドが多く放散されると考えられてる。また、ホルムアルデヒドを含まない接着剤を使用した場合でも、木質材料自身からホルムアルデヒドが放散されることがある。
【0042】
従って、ホルムアルデヒド捕捉剤を木質材料に塗布または含浸させることが好ましい。本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の木質材料への塗布または含浸は、木質材料の製造過程において、木質削片あるいは木質繊維などに行う。また、使用される接着剤に配合してもよい。接着剤に配合する場合には、通常水溶液の形態で配合する。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0044】
ホルムアルデヒドキャッチャー成分としてのアジピン酸ジヒドラジドと尿素とカルボン酸化合物としてのアジピン酸とを25℃の水に溶解して、ホルムアルデヒド捕捉剤水溶液を製造した。なお、水溶液中のアジピン酸ジヒドラジドの濃度は5重量%、尿素の濃度は8重量%(ヒドラジン系化合物1重量部に対して1.6重量部に相当)、アジピン酸の濃度は0.05重量%(ヒドラジン系化合物1重量部に対して0.01重量部に相当)とした。続いて、25℃の温度にて48時間保管後、以下の試験を実施した。
【0045】
(1) 試験片の調整:
市販の20mmパーティクルボード(35cm×35cm)にホルムアルデヒド捕捉剤水溶液を噴霧器を用いて22.2g/m2の割合で両面に均一にスプレーした。試料を室温にて乾燥し、各試料それぞれをビニール袋で密封し、1週間および1ヶ月放置した。放置後、各試料から(15cm×5cm)の長方形状の試験片を8片ずつ切り取った。
【0046】
(2) ホルムアルデヒドの捕集および定量操作:
JIS A 1460(建築用ボード類のホルムアルデヒド放散量の試験方法)、所謂、デシケータ法に記載されている方法に準じてホルムアルデヒド放散量を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
比較例1:
アジピン酸を添加しない以外は、実施例1と同様の方法でホルムアルデヒド捕捉剤水溶液を得た。25℃の温度にて48時間保管後、上述の試験方法にてホルムアルデヒド放散量を測定した。
【0048】
比較例2:
ホルムアルデヒド捕捉剤組成物を処理しない試験片を調整し、上述の試験方法にてホルムアルデヒド放散量を測定した。
【0049】
【表1】

【0050】
以上の結果から、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を塗布した実施例1のホルムアルデヒド放散量は0.09mg/Lで、比較例1および2に比較してホルムアルデヒド放散量が少ないものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドラジン系化合物およびカルボン酸化合物を有効成分とすることを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項2】
該カルボン酸化合物の酸解離定数が1〜6である請求項1に記載のホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のホルムアルデヒド捕捉剤を含有することを特徴とする木質材料。

【公開番号】特開2006−28366(P2006−28366A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210078(P2004−210078)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】