ホログラム光学素子およびその製造方法
【課題】感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性が得られるホログラム光学素子およびその製造方法、を提供する。
【解決手段】ホログラム光学素子10は、透光性を有する基板110と、基板110上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層120と、感光性記録層120に対して基板110の反対側に設けられ、透光性を有する基板140と、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する密着層130とを備える。密着層130の屈折率と、感光性記録層120の屈折率とは略同じである。
【解決手段】ホログラム光学素子10は、透光性を有する基板110と、基板110上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層120と、感光性記録層120に対して基板110の反対側に設けられ、透光性を有する基板140と、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する密着層130とを備える。密着層130の屈折率と、感光性記録層120の屈折率とは略同じである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホログラム光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホログラム光学素子に関して、たとえば、特開平8−211822号公報には、干渉縞記録時におけるホログラム感光材料の変形を防止し、回折効率が高く、かつホログラムの製造を容易にすることを目的としたホログラム感光材料が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示されたホログラム感光材料においては、基板フィルムの表側面に、ホログラムを形成するための感光層が形成されている。基板フィルムの裏側面には、ホログラム感光材料の湾曲を防止できる程度に感光層と等しい収縮率と膨張率とを有する湾曲防止層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−211822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ホログラム光学素子は、高密度記録素子としてだけでなく、3次元ディスプレイもしくは光変調素子としての利用が考えられており、盛んにその研究が行なわれている。
【0005】
図33から図36は、ホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。ホログラム光学素子の製造方法について簡単に説明すると、まず、基板560上に感光性材料を塗布し、これを乾燥させることにより感光性記録層520を得る(図33)。乾燥工程の後、別の基板510を、感光性記録層520が基板510と基板560との間で挟まれるように配置する(図34)。
【0006】
基板510および基板560は、記録用の可干渉光570が透過可能なように透明でなければならない。可干渉光570を用い、感光性記録層520に対して二光束干渉露光を実施する。この露光工程により、感光性記録層520の露光領域521に干渉縞を形成する(図35)。可干渉性を有しないポストキュア光571を用い、露光領域521以外の部分に対して露光することでポストキュアを行なう。(図36)。ポストキュア光571としては、たとえば、ランプ光もしくはLED(Light Emitting Diode)光が利用される。以上の工程により、ホログラム光学素子が完成する。
【0007】
しかしながら、上記のホログラム光学素子の製造方法においては、基板560上に塗布した感光性材料を乾燥させる際に、感光性材料が熱や力などによって収縮する。この収縮の影響が大きい場合、収縮に伴う感光性材料の変形が、ホログラム光学素子の性能にまで影響することになる。
【0008】
すなわち、図33および図34中に示すように、基板560上に塗布した感光性材料を乾燥させる際、溶媒の蒸発および重合の進行によって、感光性記録層520の面内には圧縮応力580が残存する。図35中に示すように、この状態で感光性記録層520に対して露光工程を実施すると、露光領域521においてのみ圧縮応力580が解放される。その結果、露光領域521が周囲の露光されていない部分から圧縮されることにより、感光性記録層520が変形する。この場合、ホログラム光学素子の回折効率が低下したり、回折光や透過光の波面が歪んだりする懸念が生じるため、ホログラム光学素子の性能上好ましくない。また、湾曲した感光性記録層520によって,ホログラム光学素子の取り扱いに支障を来す場合がある。
【0009】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性が得られるホログラム光学素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に従ったホログラム光学素子は、透光性を有する第1基板と、第1基板上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層と、感光性記録層に対して第1基板の反対側に設けられ、透光性を有する第2基板と、感光性記録層と第2基板との間に設けられ、透光性を有する緩衝層とを備える。緩衝層の屈折率と、感光性記録層の屈折率とは略同じである。
【0011】
このように構成されたホログラム光学素子によれば、ホログラム光学素子の製造時、緩衝層に、感光性記録層と第2基板との間に隙間を設けることなく両者を密着させる機能を持たせたり、感光性記録層に発生する内部応力を吸収する機能を持たせたりすることができる。この際、緩衝層の屈折率と感光性記録層の屈折率とが略同じであるため、緩衝層と感光性記録層との境界で光が反射することを抑制できる。結果、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴って生じる弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0012】
また好ましくは、ホログラム光学素子は、第1基板上に設けられ、第1基板と感光性記録層との間に配置され、干渉縞が形成される別の感光性記録層と、別の感光性記録層と感光性記録層との間に設けられ、透光性を有する別の緩衝層とをさらに備える。別の緩衝層の屈折率と、別の感光性記録層の屈折率とは、緩衝層および感光性記録層の屈折率と略同じである。
【0013】
このように構成されたホログラム光学素子によれば、上記効果を奏しつつ、単一のホログラム光学素子に、波長の異なる光による複数の干渉縞を形成することが可能となる。
【0014】
また好ましくは、第1基板および第2基板は、感光性記録層よりも高いガスバリア性を有する。このように構成されたホログラム光学素子によれば、基板を透過した酸素に起因して、感光性記録層の露光時に干渉縞の形成が阻害されたり、基板を透過した水分に起因して、感光性記録層が劣化したりすることを抑制できる。
【0015】
また好ましくは、第1基板および第2基板は、感光性記録層よりも高い硬度を有する。このように構成されたホログラム光学素子によれば、ホログラム光学素子の機械的強度を確保することにより、耐衝撃性や耐擦傷性を高めることができる。
【0016】
この発明に従ったホログラム光学素子の製造方法は、仮基板上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層を形成する工程と、第1基板を、仮基板と第1基板との間に感光性記録層が配置されるように設ける工程と、可干渉光の照射によって、感光性記録層に干渉縞を形成する工程と、感光性記録層に干渉縞を形成する工程の後、感光性記録層から仮基板を剥離する工程と、透光性を有する緩衝層および第2基板を準備し、仮基板が剥離された感光性記録層の表面上に、緩衝層を介して第2基板を重ね合わせる工程とを備える。仮基板の熱膨張係数と、感光性材料の熱膨張係数とは略同じである。
【0017】
このように構成されたホログラム光学素子の製造方法によれば、仮基板の熱膨張係数と、感光性材料の熱膨張係数とが略同じであるため、仮基板上に塗布した感光性材料を乾燥させる際に、感光性材料の温度変化に伴う変形に追随させて仮基板を変形させることができる。これにより、感光性記録層に内部応力が発生することを抑制できる。
【0018】
また、仮基板が剥離された感光性記録層の表面上に、緩衝層を介して第2基板を積層することにより、感光性記録層と第2基板との間に隙間を設けることなく、感光性記録層に対して第2基板を重ね合わせることができる。この際、緩衝層を介して第2基板を重ね合わせる工程を、感光性記録層に干渉縞を形成する工程の後に実施するため、可干渉光の照射によって変形した感光性記録層の形状に追随させて緩衝層を設けることができる。
【0019】
したがって、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴って生じる弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上に説明したように、この発明に従えば、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性が得られるホログラム光学素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第5工程を示す断面図である。
【図7】基板材料の種類と、回折効率およびビームパターンの測定結果とを示す表である。
【図8】比較例1において、露光領域の様子を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図10】この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図12】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図13】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図14】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図15】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図16】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第5工程を示す断面図である。
【図17】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第6工程を示す断面図である。
【図18】図11中のホログラム光学素子の変形例を示す断面図である。
【図19】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第1工程を示す断面図である。
【図20】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第2工程を示す断面図である。
【図21】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第3工程を示す断面図である。
【図22】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第4工程を示す断面図である。
【図23】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第5工程を示す断面図である。
【図24】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図25】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図26】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図27】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図28】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図29】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図30】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図31】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図32】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図33】ホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図34】ホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図35】ホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図36】ホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子10は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、密着層130と、スペーサ151とを有する。
【0024】
基板110および基板140は、互いに間隔を設けて配置されている。基板110および基板140は、それぞれ、各基板が有する複数の側面のうち最も大きい面積を有する側面として、主表面110aおよび主表面140aを有する。基板110および基板140は、主表面110aと主表面140aとが向かい合わせとなるように配置されている。
【0025】
感光性記録層120は、基板110上に設けられている。感光性記録層120は、基板110の主表面110aに設けられている。感光性記録層120は、基板110と基板140との間に配置されている。
【0026】
感光性記録層120に対する記録光(信号光・参照光)の照射によって、感光性記録層120の露光領域121には干渉縞が形成されている。再生時には、露光領域121に再生光を照射し、干渉縞で回折された光のパターンを読み取ることによって感光性記録層120に記録されたデータを再生する。
【0027】
密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に配置されている。密着層130は、基板140の主表面140aに設けられている。密着層130は、感光性記録層120に接触して設けられている。感光性記録層120および密着層130は、基板110と基板140との間に挟持されている。
【0028】
スペーサ151は、基板110と基板140との間に挟持されている。スペーサ151は、基板110の主表面110aおよび基板140の主表面140aに接触して設けられている。スペーサ151は、基板110と基板140との間の距離を一定に保持するように設けられている。なお、スペーサ151はホログラム光学素子10の必須の構成ではない。
【0029】
感光性記録層120は、感光性材料から形成されている。すなわち、感光性記録層120は、光の作用によって物理的もしくは化学的な変化を生ずる樹脂から形成されている。一例を挙げれば、感光性記録層120は、アクリルまたはポリエチレンテレフタレート(PET)などの基剤に、重合開始剤および増感剤などの添加剤を加えた感光性樹脂から形成されている。
【0030】
密着層130は、樹脂材料から形成されている。密着層130は、感光性記録層120に対する記録光および再生光が密着層130を透過可能なように、透光性を有する。密着層130は、可干渉光が照射された場合にも干渉縞が形成されない特性を備える樹脂から形成されている。
【0031】
本実施の形態におけるホログラム光学素子10においては、感光性記録層120の屈折率と密着層130の屈折率とが略同じである。そのような一例としては、感光性記録層120が、基剤としてのアクリルに各種の添加剤を加えた感光性樹脂から形成される場合に、密着層130は、感光性記録層120を形成する感光性樹脂の基剤と同じアクリルから形成される。また、別の例としては、密着層130を形成する樹脂材料に屈折率を調整するための添加剤を加えることによって、感光性記録層120の屈折率と密着層130の屈折率とが同じに調整される。
【0032】
基板110および基板140は、ガラスなどの無機材料から形成されている。基板110および基板140は、感光性記録層120に対する記録光および再生光が各基板を透過可能なように、透光性を有する。
【0033】
続いて、図1中のホログラム光学素子10を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図2から図6は、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0034】
図2を参照して、まず、基板160を準備する。本実施の形態では、基板160は、感光性記録層120を得るための感光性材料の乾燥工程時に、その感光性材料を支持するための仮基板として用いられている。基板160は、樹脂材料から形成されている。基板160は、樹脂フィルムから形成されている。基板160は、たとえば、アクリルやPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフレタート)から形成されている。
【0035】
基板160上に感光性材料を塗布する。本実施の形態では、バーコートにて基板160上に感光性材料を塗布する。次に、基板160をオーブンにて加熱することにより、感光性材料を乾燥させ、感光性記録層120を得る。
【0036】
図3を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120が基板110と基板160との間で挟まれるように配置する。この際、基板110と基板160との間の感光性記録層120の傍らにスペーサ152を配置する。この状態で、基板110と基板160とを近接させる方向に加熱プレスする。これにより、感光性記録層120を軟化、成形し、感光性記録層120の膜厚の調整と、感光性記録層120の表面形状の精度確保とを実施する。
【0037】
なお、スペーサ152は、感光性記録層120の膜厚調整のために用いたが、感光性材料の塗布時のコート条件や、感光性材料の乾燥後の加熱プレス条件により膜厚調整が可能であれば、省略することができる。
【0038】
次に、このように作製した基材に対して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。
【0039】
図4を参照して、ポストキュア工程を実施した後、感光性記録層120から基板160を剥離する。この剥離工程により、感光性記録層120は、基板160が剥離された表面120aを有する。
【0040】
図5を参照して、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が感光性記録層120の表面120aと接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。この際、基板110と基板140との間の感光性記録層120および密着層130の傍らにスペーサ151を配置する。
【0041】
図6を参照して、後で詳細に説明するが、本実施の形態では、密着層130が光硬化性樹脂から形成される。本工程では、密着層130を形成する材料を硬化可能な波長を有するキュア光171を用いて、密着層130を硬化させる。密着層130を形成する材料は、密着層130の硬化工程によって感光性記録層120の特性に影響を与えない点を考慮して選択される。以上の工程により、図1中のホログラム光学素子10が完成する。
【0042】
本実施の形態では、図2中に示す感光性材料の乾燥工程時に、感光性材料が、樹脂フィルムから形成された基板160によって支持されている。このような構成により、図3中に示す露光工程時に感光性記録層120が変形するという現象を回避し、回折効率が高く、波面精度も良好なホログラム光学素子10を作製することができる。
【0043】
この理由について詳細に説明すると、感光性記録層120の成膜時に用いられる基板160として熱膨張係数が小さい基板(たとえば、ガラス基板)を用いた場合、感光性材料の乾燥時や、膜厚調整のための加熱プレス時に感光性記録層120の内部に残留応力が発生する。これは、感光性材料に含有される溶剤が揮発して感光性記録層120が体積収縮するにもかかわらず、加熱された基板がほとんど変形せず、感光性記録層120の面内に圧縮応力が残留するためである。このような圧縮応力は、図3中に示す露光工程時に露光領域121を圧縮する方向に働いて、感光性記録層120の変形をもたらす。
【0044】
これに対して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法では、基板160として、熱膨張係数が大きい基板、たとえば樹脂フィルムが利用される。これにより、感光性材料が乾燥に伴って収縮する際に、基板160が感光性材料の変形に追随して容易に変形するため、乾燥後に得られる感光性記録層120の内部に発生する在留応力を小さくできる。特に、オーブンなどを用いて感光性材料を加熱して乾燥させる場合には、加熱時に基板160が膨張し、冷却時に基板160が感光性材料と同様に収縮するため、感光性記録層120の内部に発生する在留応力をさらに小さくすることが可能となる。
【0045】
このような観点から、図2中に示す感光性材料の乾燥工程時に、基板160の熱膨張係数と、感光性記録層120を形成するための感光性材料の熱膨張係数とが略同じとなるような基板160を選択することが好ましい。そのような一例としては、感光性記録層120が、基剤としてのアクリルに各種の添加剤を加えた感光性樹脂から形成される場合に、基板160は、感光性記録層120を形成する感光性樹脂の基剤と同じアクリルから形成される。また、別の例としては、基板160を形成する樹脂材料に熱膨張係数を調整するための添加剤を加えることによって、感光性記録層120の熱膨張係数と基板160の熱膨張係数とが同じに調整される。
【0046】
一方、樹脂フィルムから形成された基板160をそのままホログラム光学素子の側面に配置した場合、そのような基板は、一般的に剛性が不足しているため、ホログラム光学素子の機械的強度が十分に確保されないという問題が生じる。この場合、ホログラム光学素子の耐擦傷性や耐衝撃性などが十分に確保されないだけでなく、使用中のホログラム光学素子が変形することによって、素子機能が低下する可能性もある。また、ホログラム記録層の変形が、回折光の角度選択性の低下を招くという懸念も生じる。
【0047】
加えて、樹脂フィルムから形成された基板160は、ガラスなどの無機材料から形成された基板と比較して、ガスバリア性が劣る。このため、干渉縞の形成およびホログラム光学素子の機能保持という点で不利になる。たとえば、ラジカル重合を利用して露光領域121における反応を進行させ、干渉縞を形成する場合には、基板に酸素が透過すると、感光性記録層120の表面に硬化阻害が生じて重合反応が進行しない。また、基板が吸湿性を有する場合、水分が感光性記録層120と反応することによって、ホログラム光学素子に経時劣化が生じる。
【0048】
これらの問題を解決するために、本実施の形態では、図4中に示す基板160の剥離工程および図5中に示す基板140の重ね合わせ工程を実施することによって、樹脂フィルムから形成された基板160をガラスなどの無機材料から形成された基板140に置き換えている。
【0049】
基板110、基板140および基板160を形成する材料について説明すると、基板110および基板140は、感光性記録層120よりも高硬度を有することが好ましい。硬度は、ビッカース硬度により判断する。基板110および基板140のビッカース硬度は、1000N/mm2以上に設定されることが好ましい。
【0050】
基板110および基板140は、感光性記録層120よりも高いガスバリア性を有することが好ましい。さらに、基板160は、感光性記録層120よりも高いガスバリア性を有することが好ましい。
【0051】
本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法においては、素子完成後にホログラム光学素子の側面に配置される基板110および基板140の透湿度は、1g・mm/m2/日以下でありことが好ましい。また、素子形成のプロセスに用いられる基板160の酸素透過性は、1000cm3・mm/m2/日/MPa以下であることが好ましい。基板160としては、酸素に対するガスバリア性が高いPETフィルムやPENフィルムを用いることが好ましい。また、酸素に対するガスバリア性を高めるという観点からいえば、基板160として、ガラスなどの無機材料を用いることも可能である。
【0052】
基板110および基板140は、露光時および再生時の光吸収を抑えてホログラムの回折効率を高めるために、高い光透過率を有する材料から形成されることが好ましい。基板110および基板140は、記録光および再生光の波長における光透過率が90%以上となる材料、たとえば石英から形成されることが好ましい。
【0053】
以上の内容と、ホログラム光学素子の素子特性およびコスト面とを考慮すると、基板110および基板140としては、ガラス基板などの透明な無機材料を用いることが最も好適である。
【0054】
次に、密着層130が果たす役割について説明する。本実施の形態では、図5中に示す基板140の重ね合わせ工程において、基板140と感光性記録層120との間に密着層130を介挿している。このような構成によれば、密着層130は、感光性記録層120の表面120aの表面形状に追随して変形するため、主に露光工程で悪化すると考えられる表面120aの形状精度に起因して感光性記録層120と基板140との間に隙間が生じることを防止できる。また、基板140の積層時に、表面120a上に気泡が混入することを防止できる。
【0055】
さらに、感光性記録層120を形成する感光性材料の収縮率が高い場合、図4中に示す基板160の剥離工程時に、感光性記録層120内部の圧縮応力によって干渉縞に沿ったレリーフが表面120aに形成され、結果として、不要回折光が発生する懸念がある。密着層130は、このような不要回折光の発生を防ぐ役割も果たしている。
【0056】
本実施の形態におけるホログラム光学素子10においては、密着層130の屈折率と、感光性記録層120の屈折率とが略同じとなるように、密着層130を形成する材料が選択される。このような構成により、密着層130と感光性記録層120との境界面で光の反射成分が生じてノイズホログラムが形成されることを防止できる。
【0057】
なお、上記の理由から、感光性記録層120の屈折率と、密着層130の屈折率との差は、小さいほど好ましく、感光性記録層120の屈折率をn1とし、密着層130の屈折率をn2とした場合に、|n1−n2|≦0.1n1の関係を満たすように各層の屈折率を設定することも可能である。密着層130の屈折率と基板140の屈折率との関係、および感光性記録層120の屈折率と基板110の屈折率との関係についても、感光性記録層120の屈折率と密着層130の屈折率との関係と同様である。
【0058】
密着層130は、光硬化性樹脂から形成されることが好ましい。この場合、ホログラム光学素子の製造工程時に、基板140に硬化していない材料を塗布することにより、基板160を剥離した際の感光性記録層120の形状変化にも追随して密着層130を設けることができる。また、熱硬化性樹脂を用いた場合、密着層130を加熱硬化する際に、感光性記録層120に形成された干渉縞が変形するおそれがあるが、光硬化性樹脂の使用によりこのような懸念を解消できる。
【0059】
以上に説明した、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の構造についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるホログラム光学素子10は、透光性を有する第1基板としての基板110と、基板110上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層120と、感光性記録層120に対して基板110の反対側に設けられ、透光性を有する第2基板としての基板140と、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層としての密着層130とを備える。密着層130の屈折率と、感光性記録層120の屈折率とは略同じである。
【0060】
また、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の工程についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法は、仮基板としての基板160上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、第1基板としての基板110を、基板160と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程と、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程の後、感光性記録層120から基板160を剥離する工程と、透光性を有する緩衝層としての密着層130および第2基板としての基板140を準備し、基板160が剥離された感光性記録層120の表面120a上に、密着層130を介して基板140を重ね合わせる工程とを備える。
【0061】
好ましくは、基板160の熱膨張係数と、感光性記録層120を形成するための感光性材料の熱膨張係数とは略同じである。
【0062】
このように構成された、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子10およびホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0063】
続いて、図1中のホログラム光学素子10によって奏される作用、効果を確認するために行なった実施例について説明する。図7は、基板材料の種類と、回折効率およびビームパターンの測定結果とを示す表である。
【0064】
図7を参照して、本実施例では、まず、図2から図6中に示す製造工程によりホログラム光学素子10を作製した。この際、基板160としてPETフィルムを用い、基板110および基板140としてガラス基板を用いた。図2中に示す乾燥工程における加熱条件は、80℃の温度で30分間とした。図3中に示す加熱プレス工程の条件は、0.4MPaの圧力、70℃の温度で5分間とした。スペーサ152の高さは、20μmに設定した。図3中に示す露光工程では、露光光源として、633nmの波長を有するHe−Neレーザを用いた。信号光の露光角度を0°とし、参照光の露光角度を30°とした。露光領域121をφ4mmの範囲に設定し、露光量を300mJ/cm2とした。
【0065】
さらに、図2および図3中に示す製造工程により、比較例1および比較例2におけるホログラム光学素子を作製した。比較例1では、基板160および基板110としてガラス基板を用いた。比較例2では、基板160としてPETフィルムを用い、基板110としてガラス基板を用いた。
【0066】
実施例、比較例1および比較例2におけるホログラム光学素子を作製後、各ホログラム光学素子に対して、露光時と同じ角度からレーザ光を照射し、透過光および回折光の波面形状を観察し、回折効率を測定した。また、ガスバリア性を評価するため、恒温恒湿試験機を用いて、40℃の温度、90%RHの湿度条件下に160時間、ホログラム光学素子を配置する耐湿試験を実施した。
【0067】
図8は、比較例1において、露光領域の様子を示す図である。比較例1では、耐湿試験による回折効率の変化は生じなかった。この結果から、高いガスバリア性を有することを確認できた。
【0068】
一方、図3中に示す露光工程において、露光領域が圧縮応力により変形したため、回折光および透過光の波面に歪みが生じた。比較例1と同様の条件でホログラム光学素子を形成した後、基板160を剥離し、露光領域付近を顕微鏡により観察した。図8中に示すように、点線で囲んだ領域101において、干渉縞が形成されたホログラム層自体の変形が確認できた。図8中の点線部の高さについて測定した結果、変形している箇所は、周囲と比較して1μm程度隆起していることが確認できた。
【0069】
比較例2では、透過光および回折光の波面は一様となり、露光領域における変形も観測されなかった。この結果から、乾燥工程時に感光性材料を支持する基板160としてPETフィルムを用いることにより、感光性記録層120に発生する圧縮応力が、比較例1と比べて小さくなっていることが確認できた。外部回折効率ηは、η>45%となった。
【0070】
一方、比較例2のホログラム光学素子に対して耐湿試験を行なった結果、外部回折効率は、元の値と比較して約14%変化した。これは、基板160として用いたPETフィルムが水蒸気を透過したことによって、ホログラム層が水分と反応し、変質したためと考えられる。
【0071】
実施例においては、透過光および回折光のビーム強度分布の変化、ならびに耐湿試験による回折効率の変化のいずれについても観測されなかった。外部回折効率は、η>50%となった。この結果から、圧縮応力による露光領域121の形状変化、および基板への水分の透過による悪影響の両方が改善されており、ホログラム光学素子の機能が良好であることを確認できた。
【0072】
(実施の形態2)
本実施の形態におけるホログラム光学素子は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較して、基本的には同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り替えさない。
【0073】
図9は、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図9を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子20は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、密着層130と、スペーサ151と、基板160とを有する。ホログラム光学素子20は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較した場合に、基板160をさらに有している点が異なる。
【0074】
基板160は、実施の形態1における図2中の工程で準備される基板160であり、透光性を有する樹脂材料から形成されている。基板160は、感光性記録層120と密着層130との間に介挿されている。基板160は、感光性記録層120と接触して設けられている。本実施の形態におけるホログラム光学素子20においては、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層として、密着層130および基板160が設けられている。
【0075】
続いて、図9中のホログラム光学素子20を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図10は、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0076】
まず、実施の形態1における図2および図3中の工程を実施することにより、基板160と、基板160に対向配置される基板110と、基板110と基板160との間に配置され、露光領域121に干渉縞が形成された感光性記録層120とを有する基材を作製する。
【0077】
図10を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が基板160と接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。次に、実施の形態1における図6中の硬化工程を実施することにより、図9中のホログラム光学素子20が完成する。
【0078】
すなわち、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子の製造方法は、基板160上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、基板110を、基板160と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程と、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程の後、透光性を有する密着層130および基板140を準備し、基板160上に、密着層130を介して基板140を重ね合わせる工程とを備える。
【0079】
本実施の形態では、基板160の剥離工程を実施することなく、図10中に示す工程において、基板160に対して密着層130および基板140を重ね合わせる。これにより、ホログラム光学素子の製造方法の工程を簡易化することができる。密着層130は、図10中に示す工程において、基板160と基板140との間に隙間を生じさせることなく両者を密着させる役割を果たす。
【0080】
なお、本実施の形態におけるホログラム光学素子20では、基板160と基板140との間に密着層130を設けたが、密着層130を設けることなく、基板160上に直接、基板140を配置する構成としてもよい。この場合、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層として、基板160が設けられる。このようなホログラム光学素子の製造方法は、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程の後に、感光性記録層120とは反対側に配置された基板160の表面を平面状に処理する工程と、透光性を有する基板140を準備し、その平面状に処理された基板160の表面上に、基板140を重ね合わせる工程とを備える。
【0081】
このように構成された、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子20およびホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0082】
(実施の形態3)
本実施の形態におけるホログラム光学素子は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較して、基本的には同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り替えさない。
【0083】
図11は、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図11を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子30は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、応力吸収層135と、スペーサ151とを有する。ホログラム光学素子30は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較した場合に、図1中の密着層130の替わりに応力吸収層135を有する。
【0084】
応力吸収層135は、感光性記録層120と基板140との間に配置されている。応力吸収層135は、基板140の主表面に設けられている。応力吸収層135は、感光性記録層120に接触して設けられている。感光性記録層120および応力吸収層135は、基板110と基板140との間に挟持されている。
【0085】
応力吸収層135は、樹脂材料から形成されている。応力吸収層135は、感光性記録層120に対する記録光および再生光が応力吸収層135を透過可能なように、透光性を有する。応力吸収層135は、可干渉光が照射された場合にも干渉縞が形成されない特性を備える樹脂から形成されている。感光性記録層120の屈折率と応力吸収層135の屈折率とは略同じである。
【0086】
本実施の形態におけるホログラム光学素子30においては、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層として、応力吸収層135が設けられている。
【0087】
続いて、図11中のホログラム光学素子30を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図12から図17は、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0088】
図12を参照して、まず、ダミー基板180を準備する。ダミー基板180は、応力吸収層135を形成する樹脂材料よりも大きい熱膨張係数を有する。ダミー基板180の表面上に応力吸収層135を形成するための樹脂材料を塗布し、乾燥させる。乾燥時に、応力吸収層135を形成する樹脂材料が収縮する一方で、その樹脂材料よりもさらに大きい熱膨張係数を有するダミー基板180は応力吸収層135よりも大きく収縮する。このとき、応力吸収層135の内部には、図中の矢印に示すように引っ張り応力が発生する。
【0089】
次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を、応力吸収層135がダミー基板180と基板140との間で挟まれるように配置する。図13を参照して、次に、応力吸収層135からダミー基板180を剥離する。
【0090】
図14を参照して、図13中に示す剥離工程により、応力吸収層135がダミー基板180から基板140に転写される。応力吸収層135には、図中の矢印に示すように引っ張り応力が生じた状態が引き継がれている。
【0091】
図15を参照して、応力吸収層135上に、感光性材料を塗布し、乾燥させることにより、感光性記録層120を得る。このとき、応力吸収層135の内部には予め引っ張り応力が生じているため、乾燥に伴って収縮する感光性材料に追随させて感光性記録層120を変形させることができる。これにより、感光性記録層120の内部に残留応力が発生することを防ぐ。
【0092】
本実施の形態では、緩衝層として設けられた応力吸収層135が、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥時に生じる内部応力を吸収する役割を果たす。
【0093】
図16を参照して、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120上に重ね合わせる。図17を参照して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図11中のホログラム光学素子30が完成する。
【0094】
すなわち、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法は、基板140上に応力吸収層135を形成する工程と、応力吸収層135上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、基板110を、基板140と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程とを備える。
【0095】
基板140上に応力吸収層135を形成する工程は、基板140の主表面に平行な方向の引っ張り応力が応力吸収層135の内部に生じるように、応力吸収層135を形成する工程を含む。
【0096】
図11中のホログラム光学素子30の変形例について説明する。図18は、図11中のホログラム光学素子の変形例を示す断面図である。
【0097】
図18を参照して、本変形例におけるホログラム光学素子40は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、応力吸収層135と、スペーサ151とを有する。
【0098】
基板110と基板140とが向かい合う方向の長さを厚みという場合に、応力吸収層135は厚みH1を有し、感光性記録層120は厚みH2を有する。本変形例では、感光性記録層120および応力吸収層135が、H1>H2の関係を満たすように形成されている。
【0099】
続いて、図18中のホログラム光学素子40を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の工程について説明する。図19から図23は、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の工程を示す断面図である。
【0100】
図19を参照して、まず、ガラスなどの無機材料からなる基板140の表面上に、応力吸収層135を形成するための樹脂材料を塗布し、乾燥させる。この際、後の工程で形成する感光性記録層120よりも厚膜となるように、応力吸収層135を形成する。
【0101】
図20を参照して、次に、応力吸収層135上に感光性材料を塗布し、乾燥させることにより、感光性記録層120を得る。図21を参照して、このとき、応力吸収層135は厚膜に形成されているため、乾燥に伴って収縮する感光性材料に追随させて応力吸収層135を容易に変形させることができる。これにより、感光性記録層120の内部に残留応力が発生することを防ぐ。応力吸収層135は、感光性材料の収縮に追随して変形することにより、感光性記録層120に近づくほど先細りとなる形状に成形される。
【0102】
本変形例においても、緩衝層として設けられた応力吸収層135が、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥時に生じる内部応力を吸収する役割を果たす。
【0103】
図22を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120上に重ね合わせる。図23を参照して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図18中のホログラム光学素子40が完成する。
【0104】
すなわち、本変形例におけるホログラム光学素子の製造方法では、基板140上に応力吸収層135を形成する工程は、応力吸収層135の厚みH1が感光性記録層120の厚みH2よりも大きくなるように、応力吸収層135を形成する工程を含む。
【0105】
なお、本変形例では、応力吸収層135の膜厚調整を通じて、応力吸収層135に感光性材料の乾燥時に発生する内部応力を吸収する機能を持たせたが、このような構成に限られず、感光性記録層120よりも低ヤング率を有する応力吸収層135を用いることによって、応力吸収層135にそのような機能を持たせてもよい。
【0106】
このように構成された、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子40およびホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0107】
(実施の形態4)
図24から図27は、この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。本実施の形態におけるホログラム光学素子50は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と同じ構造を有する。以下、本実施の形態におけるホログラム光学素子50の製造方法について説明する。
【0108】
まず、実施の形態1における図2中に示す工程を実施することにより、基板160の主表面に感光性記録層120が形成された積層体を得る。図24を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120が基板110と基板160との間で挟まれるように配置する。図25を参照して、次に、感光性記録層120から基板160を剥離する。この剥離工程により、感光性記録層120は、基板160が剥離された表面120aを有する。
【0109】
基板160は、樹脂材料から形成されている。基板160を形成する材料としては、感光性記録層120から剥離しやすく、感光性記録層120を形成するための感光性材料と同じもしくは近似する熱膨張係数を有する材料が選択される。本実施の形態では、基板160が透光性を有する必要はない。
【0110】
図26を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が感光性記録層120の表面120aと接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。このとき、密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に隙間が生じることを防止し、両者を密着させる役割を果たす。
【0111】
図27を参照して、次に、このように作製した基材に対して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図1中のホログラム光学素子10が完成する。
【0112】
このように本実施の形態では、図2中に示す乾燥工程時に、感光性材料を支持する基板として樹脂フィルムからなる基板160を用いる。これにより、乾燥後に得られる感光性記録層120の内部に圧縮応力が発生することを抑制する。そして、乾燥工程が終了した時点で、感光性記録層120を基板160からガラスなどの無機材料からなる基板110に転写する。感光性記録層120の内部に発生した内部応力が小さいため、図27中に示す露光工程時に感光性記録層120が大きく変形するということがない。
【0113】
すなわち、この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法は、樹脂材料からなる基板160上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、基板110を、基板160と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、感光性記録層120から基板160を剥離する工程と、透光性を有する密着層130および基板140を準備し、基板160が剥離された感光性記録層120の表面120a上に、密着層130を介して基板140を重ね合わせる工程と、基板140を重ね合わせる工程の後、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程とを備える。
【0114】
このように構成された、この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0115】
(実施の形態5)
本実施の形態におけるホログラム光学素子は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較して、基本的には同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り替えさない。
【0116】
図28は、この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図28を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子60は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、別の感光性記録層としての感光性記録層210と、緩衝層としての密着層130と、別の緩衝層としての基板160と、スペーサ151とを有する。
【0117】
基板110上には、感光性記録層210および感光性記録層120が挙げた順に積み重ねられている。感光性記録層210は、感光性記録層120と基板110との間に配置されている。基板160は、感光性記録層210と感光性記録層120との間に配置されている。基板160は、感光性記録層210および感光性記録層120に接触して設けられている。密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に配置されている。密着層130は、感光性記録層210および基板140に接触して設けられている。
【0118】
基板160は、実施の形態1における図2中の工程で準備される基板160であり、透光性を有する樹脂材料から形成されている。基板160および密着層130は、樹脂材料から形成されている。基板160および密着層130は、感光性記録層210および感光性記録層120に対する記録光および再生光が基板160および密着層130を透過可能なように、透光性を有する。
【0119】
感光性記録層120には、第1の幅を有する干渉縞が形成され、感光性記録層210には、第1の幅とは異なる第2の幅を有する干渉縞が形成されている。
【0120】
本実施の形態におけるホログラム光学素子60においては、感光性記録層120の屈折率と、感光性記録層210の屈折率と、密着層130の屈折率と、基板160の屈折率とが略同じである。
【0121】
このような感光性記録層の多層構造により、単一のホログラム光学素子60に、波長の異なる光による複数の干渉縞を形成することが可能となる。なお、本実施の形態では、感光性記録層を2層構造としたが、ホログラム光学素子は、2層以上の複数層構造を有してもよい。
【0122】
続いて、図28中のホログラム光学素子60を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図29から図32は、この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0123】
図29を参照して、まず、実施の形態1における図2および図3中の工程を実施することにより、基板160と、基板160に対向配置される基板110と、基板110と基板160との間に配置され、露光領域121に干渉縞が形成された感光性記録層210とを有する基材を作製する。感光性記録層210を形成するための感光性材料は、樹脂材料からなる基板160により支持されるため、感光性材料の乾燥に伴って感光性記録層210に内部応力が発生することを抑制できる。
【0124】
図30を参照して、次に、基板160上に感光性材料を塗布し、これを乾燥させることにより、感光性記録層120を得る。この際、感光性記録層120を形成するための感光性材料は、樹脂材料からなる基板160に支持されるため、感光性記録層120に内部応力が発生することを抑制できる。
【0125】
図31を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が感光性記録層120と接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。このとき、密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に隙間が生じることを防止し、両者を密着させる役割を果たす。
【0126】
図32を参照して、このように作製した基材に対して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板140を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図28中のホログラム光学素子60が完成する。
【0127】
このように、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法においては、最上層に配置される基板としては、ガラスなどの無機材料を用い、感光性記録層の層間に配置される基板としては、熱膨張係数の観点から樹脂材料からなる基板を用いる。
【0128】
なお、以上の実施の形態1から5に説明したホログラム光学素子の構造やその製造方法の工程を適宜組み合わせて、新たなホログラム光学素子やホログラム光学素子の製造方法を構成することが可能である。
【0129】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
この発明は、主に、ピックアップ用回折格子向けの多波長ホログラム光学素子などに適用可能であり、さらに、ホログラム光学素子の作製方法としても広く産業上で有効に利用できる。
【符号の説明】
【0131】
10,20,30,40,50,60 ホログラム光学素子、101 領域、110 基板、110a 主表面、120,210 感光性記録層、120a 表面、121 露光領域、130 密着層、135 応力吸収層、140 基板、140a 主表面、151,152 スペーサ、160 基板、170 可干渉光、171 キュア光、180 ダミー基板、210 感光性記録層。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホログラム光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホログラム光学素子に関して、たとえば、特開平8−211822号公報には、干渉縞記録時におけるホログラム感光材料の変形を防止し、回折効率が高く、かつホログラムの製造を容易にすることを目的としたホログラム感光材料が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示されたホログラム感光材料においては、基板フィルムの表側面に、ホログラムを形成するための感光層が形成されている。基板フィルムの裏側面には、ホログラム感光材料の湾曲を防止できる程度に感光層と等しい収縮率と膨張率とを有する湾曲防止層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−211822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ホログラム光学素子は、高密度記録素子としてだけでなく、3次元ディスプレイもしくは光変調素子としての利用が考えられており、盛んにその研究が行なわれている。
【0005】
図33から図36は、ホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。ホログラム光学素子の製造方法について簡単に説明すると、まず、基板560上に感光性材料を塗布し、これを乾燥させることにより感光性記録層520を得る(図33)。乾燥工程の後、別の基板510を、感光性記録層520が基板510と基板560との間で挟まれるように配置する(図34)。
【0006】
基板510および基板560は、記録用の可干渉光570が透過可能なように透明でなければならない。可干渉光570を用い、感光性記録層520に対して二光束干渉露光を実施する。この露光工程により、感光性記録層520の露光領域521に干渉縞を形成する(図35)。可干渉性を有しないポストキュア光571を用い、露光領域521以外の部分に対して露光することでポストキュアを行なう。(図36)。ポストキュア光571としては、たとえば、ランプ光もしくはLED(Light Emitting Diode)光が利用される。以上の工程により、ホログラム光学素子が完成する。
【0007】
しかしながら、上記のホログラム光学素子の製造方法においては、基板560上に塗布した感光性材料を乾燥させる際に、感光性材料が熱や力などによって収縮する。この収縮の影響が大きい場合、収縮に伴う感光性材料の変形が、ホログラム光学素子の性能にまで影響することになる。
【0008】
すなわち、図33および図34中に示すように、基板560上に塗布した感光性材料を乾燥させる際、溶媒の蒸発および重合の進行によって、感光性記録層520の面内には圧縮応力580が残存する。図35中に示すように、この状態で感光性記録層520に対して露光工程を実施すると、露光領域521においてのみ圧縮応力580が解放される。その結果、露光領域521が周囲の露光されていない部分から圧縮されることにより、感光性記録層520が変形する。この場合、ホログラム光学素子の回折効率が低下したり、回折光や透過光の波面が歪んだりする懸念が生じるため、ホログラム光学素子の性能上好ましくない。また、湾曲した感光性記録層520によって,ホログラム光学素子の取り扱いに支障を来す場合がある。
【0009】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性が得られるホログラム光学素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に従ったホログラム光学素子は、透光性を有する第1基板と、第1基板上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層と、感光性記録層に対して第1基板の反対側に設けられ、透光性を有する第2基板と、感光性記録層と第2基板との間に設けられ、透光性を有する緩衝層とを備える。緩衝層の屈折率と、感光性記録層の屈折率とは略同じである。
【0011】
このように構成されたホログラム光学素子によれば、ホログラム光学素子の製造時、緩衝層に、感光性記録層と第2基板との間に隙間を設けることなく両者を密着させる機能を持たせたり、感光性記録層に発生する内部応力を吸収する機能を持たせたりすることができる。この際、緩衝層の屈折率と感光性記録層の屈折率とが略同じであるため、緩衝層と感光性記録層との境界で光が反射することを抑制できる。結果、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴って生じる弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0012】
また好ましくは、ホログラム光学素子は、第1基板上に設けられ、第1基板と感光性記録層との間に配置され、干渉縞が形成される別の感光性記録層と、別の感光性記録層と感光性記録層との間に設けられ、透光性を有する別の緩衝層とをさらに備える。別の緩衝層の屈折率と、別の感光性記録層の屈折率とは、緩衝層および感光性記録層の屈折率と略同じである。
【0013】
このように構成されたホログラム光学素子によれば、上記効果を奏しつつ、単一のホログラム光学素子に、波長の異なる光による複数の干渉縞を形成することが可能となる。
【0014】
また好ましくは、第1基板および第2基板は、感光性記録層よりも高いガスバリア性を有する。このように構成されたホログラム光学素子によれば、基板を透過した酸素に起因して、感光性記録層の露光時に干渉縞の形成が阻害されたり、基板を透過した水分に起因して、感光性記録層が劣化したりすることを抑制できる。
【0015】
また好ましくは、第1基板および第2基板は、感光性記録層よりも高い硬度を有する。このように構成されたホログラム光学素子によれば、ホログラム光学素子の機械的強度を確保することにより、耐衝撃性や耐擦傷性を高めることができる。
【0016】
この発明に従ったホログラム光学素子の製造方法は、仮基板上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層を形成する工程と、第1基板を、仮基板と第1基板との間に感光性記録層が配置されるように設ける工程と、可干渉光の照射によって、感光性記録層に干渉縞を形成する工程と、感光性記録層に干渉縞を形成する工程の後、感光性記録層から仮基板を剥離する工程と、透光性を有する緩衝層および第2基板を準備し、仮基板が剥離された感光性記録層の表面上に、緩衝層を介して第2基板を重ね合わせる工程とを備える。仮基板の熱膨張係数と、感光性材料の熱膨張係数とは略同じである。
【0017】
このように構成されたホログラム光学素子の製造方法によれば、仮基板の熱膨張係数と、感光性材料の熱膨張係数とが略同じであるため、仮基板上に塗布した感光性材料を乾燥させる際に、感光性材料の温度変化に伴う変形に追随させて仮基板を変形させることができる。これにより、感光性記録層に内部応力が発生することを抑制できる。
【0018】
また、仮基板が剥離された感光性記録層の表面上に、緩衝層を介して第2基板を積層することにより、感光性記録層と第2基板との間に隙間を設けることなく、感光性記録層に対して第2基板を重ね合わせることができる。この際、緩衝層を介して第2基板を重ね合わせる工程を、感光性記録層に干渉縞を形成する工程の後に実施するため、可干渉光の照射によって変形した感光性記録層の形状に追随させて緩衝層を設けることができる。
【0019】
したがって、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴って生じる弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上に説明したように、この発明に従えば、感光性記録層を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性が得られるホログラム光学素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の第5工程を示す断面図である。
【図7】基板材料の種類と、回折効率およびビームパターンの測定結果とを示す表である。
【図8】比較例1において、露光領域の様子を示す図である。
【図9】この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図10】この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図12】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図13】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図14】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図15】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図16】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第5工程を示す断面図である。
【図17】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の第6工程を示す断面図である。
【図18】図11中のホログラム光学素子の変形例を示す断面図である。
【図19】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第1工程を示す断面図である。
【図20】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第2工程を示す断面図である。
【図21】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第3工程を示す断面図である。
【図22】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第4工程を示す断面図である。
【図23】この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の第5工程を示す断面図である。
【図24】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図25】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図26】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図27】この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図28】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子を示す断面図である。
【図29】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図30】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図31】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図32】この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【図33】ホログラム光学素子の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図34】ホログラム光学素子の製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図35】ホログラム光学素子の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図36】ホログラム光学素子の製造方法の第4工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子10は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、密着層130と、スペーサ151とを有する。
【0024】
基板110および基板140は、互いに間隔を設けて配置されている。基板110および基板140は、それぞれ、各基板が有する複数の側面のうち最も大きい面積を有する側面として、主表面110aおよび主表面140aを有する。基板110および基板140は、主表面110aと主表面140aとが向かい合わせとなるように配置されている。
【0025】
感光性記録層120は、基板110上に設けられている。感光性記録層120は、基板110の主表面110aに設けられている。感光性記録層120は、基板110と基板140との間に配置されている。
【0026】
感光性記録層120に対する記録光(信号光・参照光)の照射によって、感光性記録層120の露光領域121には干渉縞が形成されている。再生時には、露光領域121に再生光を照射し、干渉縞で回折された光のパターンを読み取ることによって感光性記録層120に記録されたデータを再生する。
【0027】
密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に配置されている。密着層130は、基板140の主表面140aに設けられている。密着層130は、感光性記録層120に接触して設けられている。感光性記録層120および密着層130は、基板110と基板140との間に挟持されている。
【0028】
スペーサ151は、基板110と基板140との間に挟持されている。スペーサ151は、基板110の主表面110aおよび基板140の主表面140aに接触して設けられている。スペーサ151は、基板110と基板140との間の距離を一定に保持するように設けられている。なお、スペーサ151はホログラム光学素子10の必須の構成ではない。
【0029】
感光性記録層120は、感光性材料から形成されている。すなわち、感光性記録層120は、光の作用によって物理的もしくは化学的な変化を生ずる樹脂から形成されている。一例を挙げれば、感光性記録層120は、アクリルまたはポリエチレンテレフタレート(PET)などの基剤に、重合開始剤および増感剤などの添加剤を加えた感光性樹脂から形成されている。
【0030】
密着層130は、樹脂材料から形成されている。密着層130は、感光性記録層120に対する記録光および再生光が密着層130を透過可能なように、透光性を有する。密着層130は、可干渉光が照射された場合にも干渉縞が形成されない特性を備える樹脂から形成されている。
【0031】
本実施の形態におけるホログラム光学素子10においては、感光性記録層120の屈折率と密着層130の屈折率とが略同じである。そのような一例としては、感光性記録層120が、基剤としてのアクリルに各種の添加剤を加えた感光性樹脂から形成される場合に、密着層130は、感光性記録層120を形成する感光性樹脂の基剤と同じアクリルから形成される。また、別の例としては、密着層130を形成する樹脂材料に屈折率を調整するための添加剤を加えることによって、感光性記録層120の屈折率と密着層130の屈折率とが同じに調整される。
【0032】
基板110および基板140は、ガラスなどの無機材料から形成されている。基板110および基板140は、感光性記録層120に対する記録光および再生光が各基板を透過可能なように、透光性を有する。
【0033】
続いて、図1中のホログラム光学素子10を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図2から図6は、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0034】
図2を参照して、まず、基板160を準備する。本実施の形態では、基板160は、感光性記録層120を得るための感光性材料の乾燥工程時に、その感光性材料を支持するための仮基板として用いられている。基板160は、樹脂材料から形成されている。基板160は、樹脂フィルムから形成されている。基板160は、たとえば、アクリルやPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフレタート)から形成されている。
【0035】
基板160上に感光性材料を塗布する。本実施の形態では、バーコートにて基板160上に感光性材料を塗布する。次に、基板160をオーブンにて加熱することにより、感光性材料を乾燥させ、感光性記録層120を得る。
【0036】
図3を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120が基板110と基板160との間で挟まれるように配置する。この際、基板110と基板160との間の感光性記録層120の傍らにスペーサ152を配置する。この状態で、基板110と基板160とを近接させる方向に加熱プレスする。これにより、感光性記録層120を軟化、成形し、感光性記録層120の膜厚の調整と、感光性記録層120の表面形状の精度確保とを実施する。
【0037】
なお、スペーサ152は、感光性記録層120の膜厚調整のために用いたが、感光性材料の塗布時のコート条件や、感光性材料の乾燥後の加熱プレス条件により膜厚調整が可能であれば、省略することができる。
【0038】
次に、このように作製した基材に対して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。
【0039】
図4を参照して、ポストキュア工程を実施した後、感光性記録層120から基板160を剥離する。この剥離工程により、感光性記録層120は、基板160が剥離された表面120aを有する。
【0040】
図5を参照して、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が感光性記録層120の表面120aと接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。この際、基板110と基板140との間の感光性記録層120および密着層130の傍らにスペーサ151を配置する。
【0041】
図6を参照して、後で詳細に説明するが、本実施の形態では、密着層130が光硬化性樹脂から形成される。本工程では、密着層130を形成する材料を硬化可能な波長を有するキュア光171を用いて、密着層130を硬化させる。密着層130を形成する材料は、密着層130の硬化工程によって感光性記録層120の特性に影響を与えない点を考慮して選択される。以上の工程により、図1中のホログラム光学素子10が完成する。
【0042】
本実施の形態では、図2中に示す感光性材料の乾燥工程時に、感光性材料が、樹脂フィルムから形成された基板160によって支持されている。このような構成により、図3中に示す露光工程時に感光性記録層120が変形するという現象を回避し、回折効率が高く、波面精度も良好なホログラム光学素子10を作製することができる。
【0043】
この理由について詳細に説明すると、感光性記録層120の成膜時に用いられる基板160として熱膨張係数が小さい基板(たとえば、ガラス基板)を用いた場合、感光性材料の乾燥時や、膜厚調整のための加熱プレス時に感光性記録層120の内部に残留応力が発生する。これは、感光性材料に含有される溶剤が揮発して感光性記録層120が体積収縮するにもかかわらず、加熱された基板がほとんど変形せず、感光性記録層120の面内に圧縮応力が残留するためである。このような圧縮応力は、図3中に示す露光工程時に露光領域121を圧縮する方向に働いて、感光性記録層120の変形をもたらす。
【0044】
これに対して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法では、基板160として、熱膨張係数が大きい基板、たとえば樹脂フィルムが利用される。これにより、感光性材料が乾燥に伴って収縮する際に、基板160が感光性材料の変形に追随して容易に変形するため、乾燥後に得られる感光性記録層120の内部に発生する在留応力を小さくできる。特に、オーブンなどを用いて感光性材料を加熱して乾燥させる場合には、加熱時に基板160が膨張し、冷却時に基板160が感光性材料と同様に収縮するため、感光性記録層120の内部に発生する在留応力をさらに小さくすることが可能となる。
【0045】
このような観点から、図2中に示す感光性材料の乾燥工程時に、基板160の熱膨張係数と、感光性記録層120を形成するための感光性材料の熱膨張係数とが略同じとなるような基板160を選択することが好ましい。そのような一例としては、感光性記録層120が、基剤としてのアクリルに各種の添加剤を加えた感光性樹脂から形成される場合に、基板160は、感光性記録層120を形成する感光性樹脂の基剤と同じアクリルから形成される。また、別の例としては、基板160を形成する樹脂材料に熱膨張係数を調整するための添加剤を加えることによって、感光性記録層120の熱膨張係数と基板160の熱膨張係数とが同じに調整される。
【0046】
一方、樹脂フィルムから形成された基板160をそのままホログラム光学素子の側面に配置した場合、そのような基板は、一般的に剛性が不足しているため、ホログラム光学素子の機械的強度が十分に確保されないという問題が生じる。この場合、ホログラム光学素子の耐擦傷性や耐衝撃性などが十分に確保されないだけでなく、使用中のホログラム光学素子が変形することによって、素子機能が低下する可能性もある。また、ホログラム記録層の変形が、回折光の角度選択性の低下を招くという懸念も生じる。
【0047】
加えて、樹脂フィルムから形成された基板160は、ガラスなどの無機材料から形成された基板と比較して、ガスバリア性が劣る。このため、干渉縞の形成およびホログラム光学素子の機能保持という点で不利になる。たとえば、ラジカル重合を利用して露光領域121における反応を進行させ、干渉縞を形成する場合には、基板に酸素が透過すると、感光性記録層120の表面に硬化阻害が生じて重合反応が進行しない。また、基板が吸湿性を有する場合、水分が感光性記録層120と反応することによって、ホログラム光学素子に経時劣化が生じる。
【0048】
これらの問題を解決するために、本実施の形態では、図4中に示す基板160の剥離工程および図5中に示す基板140の重ね合わせ工程を実施することによって、樹脂フィルムから形成された基板160をガラスなどの無機材料から形成された基板140に置き換えている。
【0049】
基板110、基板140および基板160を形成する材料について説明すると、基板110および基板140は、感光性記録層120よりも高硬度を有することが好ましい。硬度は、ビッカース硬度により判断する。基板110および基板140のビッカース硬度は、1000N/mm2以上に設定されることが好ましい。
【0050】
基板110および基板140は、感光性記録層120よりも高いガスバリア性を有することが好ましい。さらに、基板160は、感光性記録層120よりも高いガスバリア性を有することが好ましい。
【0051】
本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法においては、素子完成後にホログラム光学素子の側面に配置される基板110および基板140の透湿度は、1g・mm/m2/日以下でありことが好ましい。また、素子形成のプロセスに用いられる基板160の酸素透過性は、1000cm3・mm/m2/日/MPa以下であることが好ましい。基板160としては、酸素に対するガスバリア性が高いPETフィルムやPENフィルムを用いることが好ましい。また、酸素に対するガスバリア性を高めるという観点からいえば、基板160として、ガラスなどの無機材料を用いることも可能である。
【0052】
基板110および基板140は、露光時および再生時の光吸収を抑えてホログラムの回折効率を高めるために、高い光透過率を有する材料から形成されることが好ましい。基板110および基板140は、記録光および再生光の波長における光透過率が90%以上となる材料、たとえば石英から形成されることが好ましい。
【0053】
以上の内容と、ホログラム光学素子の素子特性およびコスト面とを考慮すると、基板110および基板140としては、ガラス基板などの透明な無機材料を用いることが最も好適である。
【0054】
次に、密着層130が果たす役割について説明する。本実施の形態では、図5中に示す基板140の重ね合わせ工程において、基板140と感光性記録層120との間に密着層130を介挿している。このような構成によれば、密着層130は、感光性記録層120の表面120aの表面形状に追随して変形するため、主に露光工程で悪化すると考えられる表面120aの形状精度に起因して感光性記録層120と基板140との間に隙間が生じることを防止できる。また、基板140の積層時に、表面120a上に気泡が混入することを防止できる。
【0055】
さらに、感光性記録層120を形成する感光性材料の収縮率が高い場合、図4中に示す基板160の剥離工程時に、感光性記録層120内部の圧縮応力によって干渉縞に沿ったレリーフが表面120aに形成され、結果として、不要回折光が発生する懸念がある。密着層130は、このような不要回折光の発生を防ぐ役割も果たしている。
【0056】
本実施の形態におけるホログラム光学素子10においては、密着層130の屈折率と、感光性記録層120の屈折率とが略同じとなるように、密着層130を形成する材料が選択される。このような構成により、密着層130と感光性記録層120との境界面で光の反射成分が生じてノイズホログラムが形成されることを防止できる。
【0057】
なお、上記の理由から、感光性記録層120の屈折率と、密着層130の屈折率との差は、小さいほど好ましく、感光性記録層120の屈折率をn1とし、密着層130の屈折率をn2とした場合に、|n1−n2|≦0.1n1の関係を満たすように各層の屈折率を設定することも可能である。密着層130の屈折率と基板140の屈折率との関係、および感光性記録層120の屈折率と基板110の屈折率との関係についても、感光性記録層120の屈折率と密着層130の屈折率との関係と同様である。
【0058】
密着層130は、光硬化性樹脂から形成されることが好ましい。この場合、ホログラム光学素子の製造工程時に、基板140に硬化していない材料を塗布することにより、基板160を剥離した際の感光性記録層120の形状変化にも追随して密着層130を設けることができる。また、熱硬化性樹脂を用いた場合、密着層130を加熱硬化する際に、感光性記録層120に形成された干渉縞が変形するおそれがあるが、光硬化性樹脂の使用によりこのような懸念を解消できる。
【0059】
以上に説明した、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の構造についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるホログラム光学素子10は、透光性を有する第1基板としての基板110と、基板110上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層120と、感光性記録層120に対して基板110の反対側に設けられ、透光性を有する第2基板としての基板140と、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層としての密着層130とを備える。密着層130の屈折率と、感光性記録層120の屈折率とは略同じである。
【0060】
また、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子の製造方法の工程についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法は、仮基板としての基板160上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、第1基板としての基板110を、基板160と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程と、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程の後、感光性記録層120から基板160を剥離する工程と、透光性を有する緩衝層としての密着層130および第2基板としての基板140を準備し、基板160が剥離された感光性記録層120の表面120a上に、密着層130を介して基板140を重ね合わせる工程とを備える。
【0061】
好ましくは、基板160の熱膨張係数と、感光性記録層120を形成するための感光性材料の熱膨張係数とは略同じである。
【0062】
このように構成された、この発明の実施の形態1におけるホログラム光学素子10およびホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0063】
続いて、図1中のホログラム光学素子10によって奏される作用、効果を確認するために行なった実施例について説明する。図7は、基板材料の種類と、回折効率およびビームパターンの測定結果とを示す表である。
【0064】
図7を参照して、本実施例では、まず、図2から図6中に示す製造工程によりホログラム光学素子10を作製した。この際、基板160としてPETフィルムを用い、基板110および基板140としてガラス基板を用いた。図2中に示す乾燥工程における加熱条件は、80℃の温度で30分間とした。図3中に示す加熱プレス工程の条件は、0.4MPaの圧力、70℃の温度で5分間とした。スペーサ152の高さは、20μmに設定した。図3中に示す露光工程では、露光光源として、633nmの波長を有するHe−Neレーザを用いた。信号光の露光角度を0°とし、参照光の露光角度を30°とした。露光領域121をφ4mmの範囲に設定し、露光量を300mJ/cm2とした。
【0065】
さらに、図2および図3中に示す製造工程により、比較例1および比較例2におけるホログラム光学素子を作製した。比較例1では、基板160および基板110としてガラス基板を用いた。比較例2では、基板160としてPETフィルムを用い、基板110としてガラス基板を用いた。
【0066】
実施例、比較例1および比較例2におけるホログラム光学素子を作製後、各ホログラム光学素子に対して、露光時と同じ角度からレーザ光を照射し、透過光および回折光の波面形状を観察し、回折効率を測定した。また、ガスバリア性を評価するため、恒温恒湿試験機を用いて、40℃の温度、90%RHの湿度条件下に160時間、ホログラム光学素子を配置する耐湿試験を実施した。
【0067】
図8は、比較例1において、露光領域の様子を示す図である。比較例1では、耐湿試験による回折効率の変化は生じなかった。この結果から、高いガスバリア性を有することを確認できた。
【0068】
一方、図3中に示す露光工程において、露光領域が圧縮応力により変形したため、回折光および透過光の波面に歪みが生じた。比較例1と同様の条件でホログラム光学素子を形成した後、基板160を剥離し、露光領域付近を顕微鏡により観察した。図8中に示すように、点線で囲んだ領域101において、干渉縞が形成されたホログラム層自体の変形が確認できた。図8中の点線部の高さについて測定した結果、変形している箇所は、周囲と比較して1μm程度隆起していることが確認できた。
【0069】
比較例2では、透過光および回折光の波面は一様となり、露光領域における変形も観測されなかった。この結果から、乾燥工程時に感光性材料を支持する基板160としてPETフィルムを用いることにより、感光性記録層120に発生する圧縮応力が、比較例1と比べて小さくなっていることが確認できた。外部回折効率ηは、η>45%となった。
【0070】
一方、比較例2のホログラム光学素子に対して耐湿試験を行なった結果、外部回折効率は、元の値と比較して約14%変化した。これは、基板160として用いたPETフィルムが水蒸気を透過したことによって、ホログラム層が水分と反応し、変質したためと考えられる。
【0071】
実施例においては、透過光および回折光のビーム強度分布の変化、ならびに耐湿試験による回折効率の変化のいずれについても観測されなかった。外部回折効率は、η>50%となった。この結果から、圧縮応力による露光領域121の形状変化、および基板への水分の透過による悪影響の両方が改善されており、ホログラム光学素子の機能が良好であることを確認できた。
【0072】
(実施の形態2)
本実施の形態におけるホログラム光学素子は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較して、基本的には同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り替えさない。
【0073】
図9は、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図9を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子20は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、密着層130と、スペーサ151と、基板160とを有する。ホログラム光学素子20は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較した場合に、基板160をさらに有している点が異なる。
【0074】
基板160は、実施の形態1における図2中の工程で準備される基板160であり、透光性を有する樹脂材料から形成されている。基板160は、感光性記録層120と密着層130との間に介挿されている。基板160は、感光性記録層120と接触して設けられている。本実施の形態におけるホログラム光学素子20においては、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層として、密着層130および基板160が設けられている。
【0075】
続いて、図9中のホログラム光学素子20を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図10は、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0076】
まず、実施の形態1における図2および図3中の工程を実施することにより、基板160と、基板160に対向配置される基板110と、基板110と基板160との間に配置され、露光領域121に干渉縞が形成された感光性記録層120とを有する基材を作製する。
【0077】
図10を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が基板160と接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。次に、実施の形態1における図6中の硬化工程を実施することにより、図9中のホログラム光学素子20が完成する。
【0078】
すなわち、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子の製造方法は、基板160上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、基板110を、基板160と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程と、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程の後、透光性を有する密着層130および基板140を準備し、基板160上に、密着層130を介して基板140を重ね合わせる工程とを備える。
【0079】
本実施の形態では、基板160の剥離工程を実施することなく、図10中に示す工程において、基板160に対して密着層130および基板140を重ね合わせる。これにより、ホログラム光学素子の製造方法の工程を簡易化することができる。密着層130は、図10中に示す工程において、基板160と基板140との間に隙間を生じさせることなく両者を密着させる役割を果たす。
【0080】
なお、本実施の形態におけるホログラム光学素子20では、基板160と基板140との間に密着層130を設けたが、密着層130を設けることなく、基板160上に直接、基板140を配置する構成としてもよい。この場合、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層として、基板160が設けられる。このようなホログラム光学素子の製造方法は、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程の後に、感光性記録層120とは反対側に配置された基板160の表面を平面状に処理する工程と、透光性を有する基板140を準備し、その平面状に処理された基板160の表面上に、基板140を重ね合わせる工程とを備える。
【0081】
このように構成された、この発明の実施の形態2におけるホログラム光学素子20およびホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0082】
(実施の形態3)
本実施の形態におけるホログラム光学素子は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較して、基本的には同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り替えさない。
【0083】
図11は、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図11を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子30は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、応力吸収層135と、スペーサ151とを有する。ホログラム光学素子30は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較した場合に、図1中の密着層130の替わりに応力吸収層135を有する。
【0084】
応力吸収層135は、感光性記録層120と基板140との間に配置されている。応力吸収層135は、基板140の主表面に設けられている。応力吸収層135は、感光性記録層120に接触して設けられている。感光性記録層120および応力吸収層135は、基板110と基板140との間に挟持されている。
【0085】
応力吸収層135は、樹脂材料から形成されている。応力吸収層135は、感光性記録層120に対する記録光および再生光が応力吸収層135を透過可能なように、透光性を有する。応力吸収層135は、可干渉光が照射された場合にも干渉縞が形成されない特性を備える樹脂から形成されている。感光性記録層120の屈折率と応力吸収層135の屈折率とは略同じである。
【0086】
本実施の形態におけるホログラム光学素子30においては、感光性記録層120と基板140との間に設けられ、透光性を有する緩衝層として、応力吸収層135が設けられている。
【0087】
続いて、図11中のホログラム光学素子30を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図12から図17は、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0088】
図12を参照して、まず、ダミー基板180を準備する。ダミー基板180は、応力吸収層135を形成する樹脂材料よりも大きい熱膨張係数を有する。ダミー基板180の表面上に応力吸収層135を形成するための樹脂材料を塗布し、乾燥させる。乾燥時に、応力吸収層135を形成する樹脂材料が収縮する一方で、その樹脂材料よりもさらに大きい熱膨張係数を有するダミー基板180は応力吸収層135よりも大きく収縮する。このとき、応力吸収層135の内部には、図中の矢印に示すように引っ張り応力が発生する。
【0089】
次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を、応力吸収層135がダミー基板180と基板140との間で挟まれるように配置する。図13を参照して、次に、応力吸収層135からダミー基板180を剥離する。
【0090】
図14を参照して、図13中に示す剥離工程により、応力吸収層135がダミー基板180から基板140に転写される。応力吸収層135には、図中の矢印に示すように引っ張り応力が生じた状態が引き継がれている。
【0091】
図15を参照して、応力吸収層135上に、感光性材料を塗布し、乾燥させることにより、感光性記録層120を得る。このとき、応力吸収層135の内部には予め引っ張り応力が生じているため、乾燥に伴って収縮する感光性材料に追随させて感光性記録層120を変形させることができる。これにより、感光性記録層120の内部に残留応力が発生することを防ぐ。
【0092】
本実施の形態では、緩衝層として設けられた応力吸収層135が、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥時に生じる内部応力を吸収する役割を果たす。
【0093】
図16を参照して、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120上に重ね合わせる。図17を参照して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図11中のホログラム光学素子30が完成する。
【0094】
すなわち、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法は、基板140上に応力吸収層135を形成する工程と、応力吸収層135上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、基板110を、基板140と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程とを備える。
【0095】
基板140上に応力吸収層135を形成する工程は、基板140の主表面に平行な方向の引っ張り応力が応力吸収層135の内部に生じるように、応力吸収層135を形成する工程を含む。
【0096】
図11中のホログラム光学素子30の変形例について説明する。図18は、図11中のホログラム光学素子の変形例を示す断面図である。
【0097】
図18を参照して、本変形例におけるホログラム光学素子40は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、応力吸収層135と、スペーサ151とを有する。
【0098】
基板110と基板140とが向かい合う方向の長さを厚みという場合に、応力吸収層135は厚みH1を有し、感光性記録層120は厚みH2を有する。本変形例では、感光性記録層120および応力吸収層135が、H1>H2の関係を満たすように形成されている。
【0099】
続いて、図18中のホログラム光学素子40を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の工程について説明する。図19から図23は、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子の製造方法の変形例の工程を示す断面図である。
【0100】
図19を参照して、まず、ガラスなどの無機材料からなる基板140の表面上に、応力吸収層135を形成するための樹脂材料を塗布し、乾燥させる。この際、後の工程で形成する感光性記録層120よりも厚膜となるように、応力吸収層135を形成する。
【0101】
図20を参照して、次に、応力吸収層135上に感光性材料を塗布し、乾燥させることにより、感光性記録層120を得る。図21を参照して、このとき、応力吸収層135は厚膜に形成されているため、乾燥に伴って収縮する感光性材料に追随させて応力吸収層135を容易に変形させることができる。これにより、感光性記録層120の内部に残留応力が発生することを防ぐ。応力吸収層135は、感光性材料の収縮に追随して変形することにより、感光性記録層120に近づくほど先細りとなる形状に成形される。
【0102】
本変形例においても、緩衝層として設けられた応力吸収層135が、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥時に生じる内部応力を吸収する役割を果たす。
【0103】
図22を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120上に重ね合わせる。図23を参照して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図18中のホログラム光学素子40が完成する。
【0104】
すなわち、本変形例におけるホログラム光学素子の製造方法では、基板140上に応力吸収層135を形成する工程は、応力吸収層135の厚みH1が感光性記録層120の厚みH2よりも大きくなるように、応力吸収層135を形成する工程を含む。
【0105】
なお、本変形例では、応力吸収層135の膜厚調整を通じて、応力吸収層135に感光性材料の乾燥時に発生する内部応力を吸収する機能を持たせたが、このような構成に限られず、感光性記録層120よりも低ヤング率を有する応力吸収層135を用いることによって、応力吸収層135にそのような機能を持たせてもよい。
【0106】
このように構成された、この発明の実施の形態3におけるホログラム光学素子40およびホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0107】
(実施の形態4)
図24から図27は、この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。本実施の形態におけるホログラム光学素子50は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と同じ構造を有する。以下、本実施の形態におけるホログラム光学素子50の製造方法について説明する。
【0108】
まず、実施の形態1における図2中に示す工程を実施することにより、基板160の主表面に感光性記録層120が形成された積層体を得る。図24を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板110を、感光性記録層120が基板110と基板160との間で挟まれるように配置する。図25を参照して、次に、感光性記録層120から基板160を剥離する。この剥離工程により、感光性記録層120は、基板160が剥離された表面120aを有する。
【0109】
基板160は、樹脂材料から形成されている。基板160を形成する材料としては、感光性記録層120から剥離しやすく、感光性記録層120を形成するための感光性材料と同じもしくは近似する熱膨張係数を有する材料が選択される。本実施の形態では、基板160が透光性を有する必要はない。
【0110】
図26を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が感光性記録層120の表面120aと接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。このとき、密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に隙間が生じることを防止し、両者を密着させる役割を果たす。
【0111】
図27を参照して、次に、このように作製した基材に対して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板110を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図1中のホログラム光学素子10が完成する。
【0112】
このように本実施の形態では、図2中に示す乾燥工程時に、感光性材料を支持する基板として樹脂フィルムからなる基板160を用いる。これにより、乾燥後に得られる感光性記録層120の内部に圧縮応力が発生することを抑制する。そして、乾燥工程が終了した時点で、感光性記録層120を基板160からガラスなどの無機材料からなる基板110に転写する。感光性記録層120の内部に発生した内部応力が小さいため、図27中に示す露光工程時に感光性記録層120が大きく変形するということがない。
【0113】
すなわち、この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法は、樹脂材料からなる基板160上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層120を形成する工程と、基板110を、基板160と基板110との間に感光性記録層120が配置されるように設ける工程と、感光性記録層120から基板160を剥離する工程と、透光性を有する密着層130および基板140を準備し、基板160が剥離された感光性記録層120の表面120a上に、密着層130を介して基板140を重ね合わせる工程と、基板140を重ね合わせる工程の後、可干渉光170の照射によって、感光性記録層120に干渉縞を形成する工程とを備える。
【0114】
このように構成された、この発明の実施の形態4におけるホログラム光学素子の製造方法によれば、感光性記録層120を形成するための感光性材料の乾燥に伴う弊害を解消しつつ、良好な素子特性を得ることができる。
【0115】
(実施の形態5)
本実施の形態におけるホログラム光学素子は、実施の形態1におけるホログラム光学素子10と比較して、基本的には同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り替えさない。
【0116】
図28は、この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子を示す断面図である。図28を参照して、本実施の形態におけるホログラム光学素子60は、基板110と、基板140と、感光性記録層120と、別の感光性記録層としての感光性記録層210と、緩衝層としての密着層130と、別の緩衝層としての基板160と、スペーサ151とを有する。
【0117】
基板110上には、感光性記録層210および感光性記録層120が挙げた順に積み重ねられている。感光性記録層210は、感光性記録層120と基板110との間に配置されている。基板160は、感光性記録層210と感光性記録層120との間に配置されている。基板160は、感光性記録層210および感光性記録層120に接触して設けられている。密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に配置されている。密着層130は、感光性記録層210および基板140に接触して設けられている。
【0118】
基板160は、実施の形態1における図2中の工程で準備される基板160であり、透光性を有する樹脂材料から形成されている。基板160および密着層130は、樹脂材料から形成されている。基板160および密着層130は、感光性記録層210および感光性記録層120に対する記録光および再生光が基板160および密着層130を透過可能なように、透光性を有する。
【0119】
感光性記録層120には、第1の幅を有する干渉縞が形成され、感光性記録層210には、第1の幅とは異なる第2の幅を有する干渉縞が形成されている。
【0120】
本実施の形態におけるホログラム光学素子60においては、感光性記録層120の屈折率と、感光性記録層210の屈折率と、密着層130の屈折率と、基板160の屈折率とが略同じである。
【0121】
このような感光性記録層の多層構造により、単一のホログラム光学素子60に、波長の異なる光による複数の干渉縞を形成することが可能となる。なお、本実施の形態では、感光性記録層を2層構造としたが、ホログラム光学素子は、2層以上の複数層構造を有してもよい。
【0122】
続いて、図28中のホログラム光学素子60を製造する場合を想定して、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法の工程について説明する。図29から図32は、この発明の実施の形態5におけるホログラム光学素子の製造方法の工程を示す断面図である。
【0123】
図29を参照して、まず、実施の形態1における図2および図3中の工程を実施することにより、基板160と、基板160に対向配置される基板110と、基板110と基板160との間に配置され、露光領域121に干渉縞が形成された感光性記録層210とを有する基材を作製する。感光性記録層210を形成するための感光性材料は、樹脂材料からなる基板160により支持されるため、感光性材料の乾燥に伴って感光性記録層210に内部応力が発生することを抑制できる。
【0124】
図30を参照して、次に、基板160上に感光性材料を塗布し、これを乾燥させることにより、感光性記録層120を得る。この際、感光性記録層120を形成するための感光性材料は、樹脂材料からなる基板160に支持されるため、感光性記録層120に内部応力が発生することを抑制できる。
【0125】
図31を参照して、次に、ガラスなどの無機材料からなる基板140を準備する。基板140上に密着層130を形成するための樹脂材料を塗布する。密着層130が感光性記録層120と接触するように、基板140を基板110に対して重ね合わせる。このとき、密着層130は、感光性記録層120と基板140との間に隙間が生じることを防止し、両者を密着させる役割を果たす。
【0126】
図32を参照して、このように作製した基材に対して、可干渉光170による二光束干渉露光を実施する。可干渉光170が基板140を通じて感光性記録層120に照射されることにより、感光性記録層120の露光領域121に干渉縞を形成する。その後、可干渉性を有しないポストキュア光を用いて、露光領域121以外の部分に対して露光することにより、ポストキュア工程を実施する。以上の工程により、図28中のホログラム光学素子60が完成する。
【0127】
このように、本実施の形態におけるホログラム光学素子の製造方法においては、最上層に配置される基板としては、ガラスなどの無機材料を用い、感光性記録層の層間に配置される基板としては、熱膨張係数の観点から樹脂材料からなる基板を用いる。
【0128】
なお、以上の実施の形態1から5に説明したホログラム光学素子の構造やその製造方法の工程を適宜組み合わせて、新たなホログラム光学素子やホログラム光学素子の製造方法を構成することが可能である。
【0129】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0130】
この発明は、主に、ピックアップ用回折格子向けの多波長ホログラム光学素子などに適用可能であり、さらに、ホログラム光学素子の作製方法としても広く産業上で有効に利用できる。
【符号の説明】
【0131】
10,20,30,40,50,60 ホログラム光学素子、101 領域、110 基板、110a 主表面、120,210 感光性記録層、120a 表面、121 露光領域、130 密着層、135 応力吸収層、140 基板、140a 主表面、151,152 スペーサ、160 基板、170 可干渉光、171 キュア光、180 ダミー基板、210 感光性記録層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する第1基板と、
前記第1基板上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層と、
前記感光性記録層に対して前記第1基板の反対側に設けられ、透光性を有する第2基板と、
前記感光性記録層と前記第2基板との間に設けられ、透光性を有する緩衝層とを備え、
前記緩衝層の屈折率と、前記感光性記録層の屈折率とは略同じである、ホログラム光学素子。
【請求項2】
前記第1基板上に設けられ、前記第1基板と前記感光性記録層との間に配置され、干渉縞が形成される別の感光性記録層と、
前記別の感光性記録層と前記感光性記録層との間に設けられ、透光性を有する別の緩衝層とをさらに備え、
前記別の緩衝層の屈折率と、前記別の感光性記録層の屈折率とは、前記緩衝層および前記感光性記録層の屈折率と略同じである、請求項1に記載のホログラム光学素子。
【請求項3】
前記第1基板および前記第2基板は、前記感光性記録層よりも高いガスバリア性を有する、請求項1または2に記載のホログラム光学素子。
【請求項4】
前記第1基板および前記第2基板は、前記感光性記録層よりも高い硬度を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のホログラム光学素子。
【請求項5】
仮基板上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層を形成する工程と、
第1基板を、前記仮基板と前記第1基板との間に前記感光性記録層が配置されるように設ける工程と、
可干渉光の照射によって、前記感光性記録層に干渉縞を形成する工程と、
前記感光性記録層に干渉縞を形成する工程の後、前記感光性記録層から前記仮基板を剥離する工程と、
透光性を有する緩衝層および第2基板を準備し、前記仮基板が剥離された前記感光性記録層の表面上に、前記緩衝層を介して前記第2基板を重ね合わせる工程とを備え、
前記仮基板の熱膨張係数と、前記感光性材料の熱膨張係数とは略同じである、ホログラム光学素子の製造方法。
【請求項1】
透光性を有する第1基板と、
前記第1基板上に設けられ、干渉縞が形成される感光性記録層と、
前記感光性記録層に対して前記第1基板の反対側に設けられ、透光性を有する第2基板と、
前記感光性記録層と前記第2基板との間に設けられ、透光性を有する緩衝層とを備え、
前記緩衝層の屈折率と、前記感光性記録層の屈折率とは略同じである、ホログラム光学素子。
【請求項2】
前記第1基板上に設けられ、前記第1基板と前記感光性記録層との間に配置され、干渉縞が形成される別の感光性記録層と、
前記別の感光性記録層と前記感光性記録層との間に設けられ、透光性を有する別の緩衝層とをさらに備え、
前記別の緩衝層の屈折率と、前記別の感光性記録層の屈折率とは、前記緩衝層および前記感光性記録層の屈折率と略同じである、請求項1に記載のホログラム光学素子。
【請求項3】
前記第1基板および前記第2基板は、前記感光性記録層よりも高いガスバリア性を有する、請求項1または2に記載のホログラム光学素子。
【請求項4】
前記第1基板および前記第2基板は、前記感光性記録層よりも高い硬度を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のホログラム光学素子。
【請求項5】
仮基板上に感光性材料を塗布し、その材料を乾燥させることにより、感光性記録層を形成する工程と、
第1基板を、前記仮基板と前記第1基板との間に前記感光性記録層が配置されるように設ける工程と、
可干渉光の照射によって、前記感光性記録層に干渉縞を形成する工程と、
前記感光性記録層に干渉縞を形成する工程の後、前記感光性記録層から前記仮基板を剥離する工程と、
透光性を有する緩衝層および第2基板を準備し、前記仮基板が剥離された前記感光性記録層の表面上に、前記緩衝層を介して前記第2基板を重ね合わせる工程とを備え、
前記仮基板の熱膨張係数と、前記感光性材料の熱膨張係数とは略同じである、ホログラム光学素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図8】
【公開番号】特開2012−88643(P2012−88643A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237292(P2010−237292)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]