説明

ボールペンチップ

【課題】 筆記部材としてのボールを設置後に叩きつけるハンマリング工程にて、ボール受け座部をボールの曲率様に凹状に形成することによって発生する圧延バリにボールを前方付勢するコイルスプリングが引っ掛かかり、ボールを押し上げ不良となることを抑制する。
【解決手段】 ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が軸心に対して30゜を越え50°以下であると共に、ボール転写部の外縁から内縁までの距離がボール径の11%以上32%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてのボールと、このボールを貫通孔であるインキ通孔の先端開口部から一部突出して抱持し、インキ通孔の先端開口部をボールの直径よりも小径に形成すると共にインキ通孔の内壁中腹部分に複数の内方突出部を形成することによってボールの前後移動可能範囲を規定するボールハウス部を形成したボールホルダーとを有し、内方突出部に前記ボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成したものであると共に、複数の内方突出部の中心に形成される中孔部を通じてボールを背面より押して前方付勢するコイルスプリングを備えるボールペンチップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記部材としてのボールを、先端開口部より一部突出して抱持するボールホルダーは、貫通孔として形成されるインキ通孔の途中である内壁の中腹部分に形成した内方突出部を、ボールの後退規制部として配置し、ボール設置後にボールホルダーの先端部分を、カシメ加工と呼ばれる周状の圧延加工にて、開口部の径をボールの直径よりも小径に加工してボールの抜け止めをなしてボールの抱持状態を形成しているが、ボールが内方突出部と縮径された先端部とにて挟持されている状態ではボールの回転が阻害されることや、筆記時に紙面に押されてボールが後退して必要なインキ吐出のための隙間を確保するために、カシメ加工の後にボールに衝撃力を加えるハンマリング加工と呼ばれる工程を配することによって、ボールを内方突出部に打ちつけ、該部にボールの曲率と略同曲率の凹部を形成しつつ後退させ、ボールの前後移動距離を稼いでいる(例えば、特許文献1;特開2002−321485号公報)。
また、従来、水性インキを用いたノック式ボールペンのように、キャップを被嵌しないでペン先が外気にさらされているものではボールペンチップの先端開口部からインキが乾燥することでの筆跡のカスレ防止やインキ漏れ防止等の目的から、インキ通孔の後方から先端にストレート部を有するコイルスプリングを配置して、ボールを前方付勢し、ボールをボールペンチップの先端開口部に圧接させて密閉させるようにしたものが知られている。
また、近年、油性インキにおいても軽く滑らかな書き味を特徴とした低粘度油性インキを用いたノック式ボールペンが開発されており、数百〜数千(mPa・s)という粘度の低さから、上記水性インキ同様コイルスプリングを配置するものが知られている。
【0003】
そのようなコイルスプリングを配置したボールペンチップでは、挿入設置しようとしたコイルスプリングが、インキ通孔の途中に引っ掛かり、ボールを十分に付勢できなかったり、先端のストレート部の傾斜や曲りによって、ボールの中心を押せずにボールとボールホルダーとの間に引っ掛かり、ボールの回転を阻害するなどの問題が散見されるものであった。
これらの問題を解決せんとして、例えば、特開2000−108574号公報(特許文献2)には、ボール抱持室と後孔とを連通する中心孔の後孔側小径部により、コイルスプリングの先端ストレート部とボールとの当接部位のズレを規制するボールペンチップが開示されている。
また、特開2002−356083号公報(特許文献3)には、中心孔の内周壁に、軸心方向に向けて、突起を形成し、コイルスプリングの先端ストレート部の先端が、中心孔の内周壁に触れることなく、ボールをチップの先端内縁に押圧付勢する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−321485号公報
【特許文献2】特開2000−108574号公報
【特許文献3】特開2002−356083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2及び特許文献3に記載の発明とも、ボールの後退規制部となるボール受座より後孔側後方にコイルスプリングの先端ストレート部をボールの中心側に規制する部分を形成しているため、特許文献1に記載されているようなインキ吐出に必要なボールの前後移動可能な空間の形成や、書き味向上を目的にボールを受座に押し付け、凹状の受座を形成する所謂ハンマリングによって中孔側に突出状態に発生する圧延バリにコイルスプリングのストレート部先端が引っ掛かる可能性がある。
また、この圧延バリの縦断面長さは数十μm程度発生し、それに対し、ボールの前後移動可能な距離は数μm〜数十μmと圧延バリの縦断面長さとほぼ一致しているため、筆記時にコイルスプリングのストレート部先端は圧延バリ部を上下移動することとなり、チップホルダー内にコイルスプリングを配置した時は、圧延バリにコイルスプリングのストレート部先端が引っ掛からなかったとしても筆記により引っ掛かり、ボールを前方付勢が完全にされず、筆跡のカスレやインキ漏れが発生する危険があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筆記部材としてのボールと、このボールを貫通孔であるインキ通孔の先端開口部から一部突出して抱持し、インキ通孔の先端開口部をボールの直径よりも小径に形成すると共にインキ通孔の内壁中腹部分に複数の内方突出部を形成することによってボールの前後移動可能範囲を規定するボールハウス部を形成したボールホルダーとを有し、内方突出部に前記ボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成したものであると共に、複数の内方突出部の中心に形成される中孔部を通じてボールを背面より押して前方付勢するコイルスプリングを備えるボールペンチップにおいて、前記ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が軸心に対して30゜を越え50°以下であると共に、ボール転写部の外縁から内縁までの距離がボール径の11%以上32%以下であるボールペンチップを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
ボールハウス部の側壁と凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が軸心に対して30゜を越え50°以下とすることによって、ボールを押し付けることによる凹状のボール転写部を形成する前の内方突出部にて、ボールが接する点を中孔の縁より遠くすることができる。即ち、この連結部の傾斜面は、ボールを押し付けることによる凹状のボール転写部が形成された後も、ボール転写部が形成される前の内方突出部の先端側の傾斜面の傾斜角度を反映した部分として痕跡として残る部分であるので、該部の傾斜角度が凹状のボール転写部を形成する前の内方突出部とボールとが初期に接する点を特定する要素となる。尚、連結部の面傾斜斜角度は、鋭角になるほど中孔の縁からのボール設置点は遠くなり圧延バリが中孔より突出することを抑制する効果が大きくなるが30°を下回るとボールを押し付けることによる凹状のボール転写部を形成する工程でボールが連結部の傾斜面に喰い付く所謂、圧入状態となる。この圧入状態を加工工程の中で解除させボールペンとしたとしても、筆記による荷重がボールを介し、凹状のボール転写部に掛り、ボールが喰い付きボールの回転を阻害し、書き味低下となる。
また、ボールを押し付けることによるボール転写部の外縁から内縁までの距離がボール径の11%以上32%以下にすることによって、内方突出部にボールを押し付ける加工であるボールを押し付けることによる変形体積を極力少なくし、圧延バリが中孔より突出することを抑制し、この圧延バリにコイルスプリングが引っかかったり挟まったりすることを極力抑制できるものである。尚、11%を下回ると結果的に凹状のボール転写部が小さくなり、潤滑剤としてのインキ膜を有する面積が微小となるため、凹状のボール転写部とボールとが直接的に近い状態で接触・回転し、書き味低下となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のボールペンの一例の縦断面図。
【図2】本発明のボールペンチップの一例の縦断面図。
【図3】図2のI部拡大図。
【図4】図3のI−I’線断面矢視図。
【図5】図3のII部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のボールペンチップを製造する方法としては、基本的には、貫通孔を形成して外形をある程度整えた素材の貫通孔内に複数の内方突出部を形成し、インキ通孔の先端開口部をボールの直径よりも小径に形成することによってボールの前後移動可能範囲を規定するボールハウス部を形成する工程と、内方突出部にボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成する工程と、複数の内方突出部の中心に形成される中孔部を通じてボールを背面より押して前方付勢するコイルスプリングとを配置する工程を有するものである。
【0010】
本発明のボールペンチップは、紙面などの被筆記面と接触してインキを転写する筆記部材となるボールと、これを回転自在に抱持するボールホルダーとを有しており、インキの通り道であるボールホルダーの貫通孔を通じて被筆記面にインキを付与する。
ボールホルダーは、ステンレスや黄銅、洋白などの合金製の線材を、適宜長さに切断した円柱状部材に各種加工を施すことによって形成される。
ボールホルダーの貫通孔はインキ流通路であり、ドリルなどで形成される。先ず、比較的小径のドリルにて中孔となる部分を円柱材の全長に渡り形成し、次いで大径のドリルにて一方の端部にボールハウス部となる大径の孔を、所定寸法まで掘り進める。
ボールハウス部となる大径の穴を形成することでボールハウス部に設置されるボールの後退規制をなす内方突出部を形成することとなる。内方突出部によって、中孔は、最も小径なインキ流通路となるためインキの流通量を制限する部分となる。
内方突出部にボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成する工程は、内方突出部を凹状に塑性変形させるため、凹んだ分の体積がいずれかに逃げることとなり、中孔の縁に圧延バリとして突出することになるが、凹状のボール転写部を形成する前の内方突出部にボールが接する点をボール転写部内縁である中孔までの距離が長くなるように遠のけるほど、中孔側に突出状態に発生する圧延バリが形成されることや大きく成長することを抑制することができる。しかし、中孔の縁と凹状のボール転写部を形成する前の内方突出部にボールが接する点との距離を稼ぐことは、中孔を小径にする場合にはインキの流通できる有効横断面積が減少する。
また、ボールを前方付勢するコイルスプリングのような他部材を挿入すると、その挿入物の横断面積分インキの流通できる有効横断面積が更に減少することになるのでインキ吐出量も考慮した中孔の径や長さに調整することが望まれる。
中孔の長さは、ボールハウス部と反対側の端部側から、大径のドリルにて大径の後穴を形成することによって調節することができる。ボールペンチップとして、インキタンク部材と接続されるための接続部分の長さなどの都合よりボールペンチップの全長は決定されるので、それに応じて後穴の深さを調節して、中孔の長さを調整することとなる。
尚、後穴を深く掘る必要がある場合には、大径のドリルで深く掘り進むのには大きな力が必要であったり、ドリルへの負担も大きいものとなるので、大径から小径へ径を次第に小径とするようにドリルを替えて、徐々に深く掘り進めることが好ましい。更に、ボールを配置した後にボールを前方付勢するコイルスプリングなどを挿入配置する時、中孔と後穴との間に形成される径の差分の段部分をボールホルダーの軸心に対して30°〜45°の鋭角な傾斜上に形成しておくとコイルスプリングが引っかかり難く、挿入の障害とならず好ましい。
【0011】
続いて、ボールハウス部の側壁及び底面に該当する段部表面にドリル又はバイト等の切削刃で再切削し、仕上げ加工する。この加工は、仕上げ寸法の精度を向上させると共に、次工程の放射状溝加工時、その加工抵抗によりボールハウス部の底面が側壁と底面との接続点を支点に後穴側に倒れ、設計で意図した先端開口部からの一部ボール突出高さに生じるズレを矯正することができる。また、放射状溝を加工した部分の延長線上にあるボールハウス部の側壁も中孔方向に倒れが発生し、真円度が損なわれるため、このボールハウス部の歪みを除去する重要な加工と言える。
この際、仕上げ加工前のボールハウス部加工ドリルの先端部分の開き角度と仕上げ加工で最終的に形成するボールハウス部の切削刃の先端部分の開き角度は、近似したものにしておくと仕上げ加工代が少なくて済み、切削刃の耐久性上好ましいが、前述した放射状溝加工時の加工抵抗によるボールハウス部の底面が後穴側に倒れる度合いによっては、仕上げ加工前のボールハウス部加工ドリルの先端部分の開き角度より仕上げ加工で最終的に形成するボールハウス部の切削刃の先端部分の開き角度を10°〜30°鋭角にすることで、中孔付近のボールハウス部の底面の削り残しがなく好ましい。
また、仕上げ加工で最終的に形成するボールハウス部の切削刃の先端部分の開き角度を鋭角にするほど、ボールをボールハウス内に設置した際、内方突出部にボールが接する点を中孔の縁から遠くすることができ、後述する内方突出部にボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成する工程で、中孔側に突出状態に発生する圧延バリを抑制することができ、仕上げ加工で最終的に形成するボールハウス部の切削刃の先端部分の開き角度を60°〜90°とすると好ましい。この仕上げ加工の切削刃の先端部分の開き角度は、後述するボールを押し付け凹状のボール転写部が形成された後も、ボールハウス部の側壁と凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度として痕跡として残る部分である。
【0012】
次に、放射状に配置された切削刃を有する切削冶具をボールハウス部側から後穴に向け挿入し、ボールハウス部と中孔との間の段部側から内方突出部を部分的に剥ぎ取り、該部に中孔に連通する放射状の溝を形成する。この放射状溝は、筆記用ボールの設置によって塞がれる中孔からボール抱持室にインキを供給する通路となる部分であり、ボールが後退した状態でもボールハウス部に開口する部分が存在するように形成される。また、後穴へ貫通した溝とした場合にはインキ流通の妨げになる部分がないが、反面、インキが後退しやすくもなり、また、コイルスプリングを設置する時、後穴への開口部分にバリが発生する場合があり、コイルスプリングの挿入の妨げになる場合があるが、非貫通の溝とした場合には、インキ後退の抑制や、コイルスプリングの中孔への誘導など好ましい場合もある。
使用する切削刃は、中心部分より放射状に切削刃が形成されている形状であるが、全体の外形としては、円柱の先に同径の底面の円錐が接続された形状である。円柱部分に該当する部分は後方に従い若干小径となる所謂バックテーパーと呼ばれる傾斜を形成しておくと、切削の進行中の抵抗を少なくできるが、切削応力に対する反作用である所謂スプリングバックがある場合には寸法制度が犠牲になる場合もある。但し、ボールペンチップに使用されるような、快削性のステンレスなどの材料では、切削のような剪断加工に対するスプリングバックは比較的少ないといえる。切削刃の材質は、ダイス鋼、超硬合金、超微粒子超硬合金等があるが、加工量に応じ硬度と靭性のバランスを適度のものとする。耐久性向上や被切削材との滑り性向上のためTiC、TiCN等のコーティングを施したものとするとより良い。
尚、放射状の溝の中孔への開口稜線に切削バリが発生したり、切削刃により押し広げられた内方突出部の肉が行き場を失い、中孔壁面に凹凸として残る。非貫通の溝とした場合には、溝の深さを深くするに従い、貫通の溝では、中孔の長さが長くなるに従い増大し、コイルスプリングの挿入の妨げになる場合があるので中孔径と同径のドリルによる切削を施すと、より好ましい。
【0013】
続いて、ボールホルダーの先端開口部の縁部分は、圧接工具によるカシメと呼ばれる塑性変形加工によってボールの直径よりも小径に縮径され、ボールの抜け止めがなされる。カシメられた先端部分は、筆記時に紙面と接触することがあるため、該部にエッジやバリが発生していると、書き味を損なったり、紙繊維を削ってしまい、その紙繊維がボールの回転と共にボール抱持室の内部に侵入して放射状溝の一部を塞いでしまうこともあるため、曲面状に形成してR面取り形状にしたり、カシメ部の表面粗さを5〜50nmと凹凸の極めて少ない鏡面状態に加工することが好ましい。
また、このカシメ加工にて、ボールホルダーの先端内縁部分を帯状にボールに押し付けることができ、その場合、ボールホルダーのボールに当接する部分にボールと同曲率である幅を持った帯状のボール転写部を形成することができる。この帯状のボール転写部の表面粗さが、5〜30nmと凹凸の極めて少ない鏡面であれば、ボールの回転が円滑となるし、また、ボールホルダーの内部にボールを前方付勢するコイルスプリングを挿入して、そのコイルスプリングの一部でボールを押圧して、未筆記時におけるインキの乾燥性を防止する場合に、この帯状のボール転写部にてボールと密接することになるので密閉性が保たれ、経時的に安定したボールペンを得ることができる。尚、この工程は、後述する内方突出部にボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成する工程の後に施してもよい。
【0014】
次に、筆記部材となるボールを、ボールハウス部に配置し、ハンマー工具によってボールに衝撃力を付与する所謂ハンマリング工程を配して、ボールを内方突出部に押し付けることによってボールの形状に塑性変形させて凹状のボール転写部を形成する。
この凹状のボール転写部の大きさは、ボールを強く押圧することによって内方突出部の変形量を多く(深く)でき、ボールを支える表面積が大きくなり、筆記時のボール回転によるボールハウス部の摩耗の抑制に効果がある反面、内方突出部の変形体積が増加し、中孔側に突出状態に発生する圧延バリの増大となる。
前述したボールハウス仕上げ加工工程でのボールハウス部の側壁と凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度と当工程での凹状のボール転写部の大きさを適正に設定することにより必要なボール転写部の外縁を保ちながら中孔側に突出状態に発生する圧延バリを極力抑制し、この圧延バリにコイルスプリングが引っかかったり挟まったりすることを極力抑制できるものである。
尚、使用するハンマー工具の硬度は、ハンマー加工時にボールの表面に亀裂が発生しないように、ボール硬度より若干硬度の低い材質が好ましい。
【0015】
このようにして得られたボールペンチップのボールホルダーのインキ通孔に、コイルスプリングを挿入し、ボールホルダーの後端をカシメたり、インキタンクや、インキタンクとの接続部材に形成した段部にてコイルスプリングの後方移動規制がなされる。
コイルスプリングの先端は、直線状に起立したものとしたり、棒状の他部材を接続したものとすることができるが、複数の内方突出部の中心に形成される中孔を通じてボールを背面より押して前方付勢するため、狭い通路を通過させる必要があるので、先端部分を直線状に起立した形状とするほうが挿入し易く好ましい。
また、ボールと接触する先端にバレル研磨などを施し、切断バリのない平滑で角のない先端面にしておくと、より挿入し易く、ボールが回転した際の摩擦抵抗も少なくなり好ましい。
コイルスプリングの材料として、ばね用ステンレス鋼線やピアノ線や硬鋼線やりん青銅線などが使用でき、線径としては0.08mmから0.20mmが望ましい。
【0016】
ボールペンとして使用するインキとしては、水を主媒体とした水性インキ、アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり、これに着色成分である顔料及びまたは染料、凍結防止などのための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤などが配合されたものであり、誤字修正などを目的とした酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合したものであってもよい。
また、インキの粘度や残量確認などの必要に応じて、インキ界面に接触させて、インキと相溶しない、ポリブテンやそのゲル化物、シリコーンオイルなどの高粘度流体などをインキ界面に追従して移動するように層状に充填配置することもできる。この高粘度流体は、インキの逆流を抑制する働きをも担いうる。
【実施例】
【0017】
以下、図面に基づいて一例を説明する。
筆記部材としてのボール1を、先端開口部2aより一部突出した状態で回転自在に抱持してなるボールホルダー2とインキ収容部3が接合されている。外装体に収容されて使用される、所謂リフィルと称されるものとして示してあるが、外装についての図示及び説明は省略する。
タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなど、セラミックス焼結体や超硬材などによって形成されているボール1とボールホルダー2とコイルスプリング4とからなるボールペンチップは、その後端の小径部を、ポリプロピレン樹脂などの押し出し成形パイプであるインキ収容部3の先端に圧入して固定されている。
インキ収容部3内には、インキ5が収容されており、インキ5の後端界面に接して、インキと相溶しない高粘度流体である逆流防止体組成物6が配置されている。特に、低粘度のインキを使用した場合には、インキが後方に移動することを抑制するために、ポリブテンやαオレフィンなどを基材として適宜シリカなどのゲル化剤などで高粘度とした流体や、これに固体の浮き栓を浸漬したものなどの逆流防止体を配置することは有効である。
【0018】
ボールホルダー2の内部には、ボール1を背面より押して前方付勢するコイルスプリング4が配設されている。このコイルスプリング4は、ボールホルダー2に挿入された後に、押し込まれて全長を圧縮された状態で、ボールホルダー2の後端開口部2bを縮径するカシメ加工を施すことによって、ボール1の後端を付勢した状態で固定されている。コイルスプリング4は、伸縮する巻き部4aと先端に直線状に起立した先端直状部4bを備えており、先端直状部4bが、ボールホルダー2のインキ通路である貫通孔を通ってボール1の後端を直接押し、ボール1をボールホルダー2の先端開口部2aの内縁に周接させている。
【0019】
図3は、ボールペンチップのみのI部拡大図であり、説明の都合上、ボール1の外形を破線にて表示し、透過視した状態を示している。図4は、図3のI−I’線断面矢視図である。図5は、図3のII部拡大図である。
ボールホルダー2は、前述した円柱状金属部材に貫通孔を形成する製法にて貫通したインキの通路として、先端側よりボールハウス部7、中孔8、後穴9を有している。ボールハウス部7と後穴9との間には、内方突出部10が形成されている。
ボールハウス部7の先端開口部2aは、カシメ加工にて縮径化されており、この縮径化された先端開口部2aと、内方突出部10にて前記ボール1の前後方向への移動し得る範囲を規定している。
また、内方突出部10に複数本(図示のものでは6本)、環状に等間隔で切削による放射状溝11が形成されている。この放射状溝11は、中孔8に連通している。
【0020】
内方突出部10にボール1を押し付けることによって凹状のボール転写部12が形成されており、凹状のボール転写部12は、筆記時に紙面などに当接してボール1が後退した状態の時にボールの位置を安定させ、不要な振動等の少ない円滑な回転を保障せんとするものであり、ボール1と凹状のボール転写部12とが略面状に接触するような形状となし、層状に介在するインキ5をボール1の回転に対する潤滑剤として生かすこともできるものである。
また、前述の放射状溝11は、内方突出部10の凹状のボール転写部12より外側に開口部11aを有しており、ボールハウス部7へのインキ供給を確保している。
ボールハウス部7の側壁7aと凹状のボール転写部12との連結部14の傾斜面は、ボール1を押し付けることによる凹状のボール転写部12が形成された後も、ボール転写部が形成される前の内方突出部10の先端側の傾斜面の傾斜角度を反映した部分として痕跡として残っている部分である。
このボールハウス部7の側壁7aと凹状のボール転写部12との連結部14の面傾斜角度θを軸心に対して45゜とした。又、0.7mmボールにおいて、中孔8の径の大きさを0.35mmとし、内方突出部10の凹状のボール転写部12の外縁12aの円弧径の大きさが0.64mmとなるように内方突出部10にボール1を押し付けていく。凹状のボール転写部12の外縁12aから内縁12bまでの距離Lが0.22mmとなり、ボール径の31%となる。
このとき、内方突出部10にボール1を押し付けると、ボール1を押し付けることによる凹状のボール転写部12を形成する前の内方突出部10にボール1が接する点を中心にボールハウス部7の側壁7a方向と中孔8方向に圧延変形が進む。凹状のボール転写部12の内縁12bが中孔8の縁まで到達し、中孔側に圧延バリ13が突出状態に微小に発生することもある。
即ち、ボールハウス部の側壁と凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度θが軸心に対して30゜を越え50°以下であると共に、ボール転写部の外縁から内縁までの距離がボール径の11%以上32%以下であるので、中孔側に突出状態に発生する圧延バリ13の中孔方向へのバリ長さが0.025mm未満の微小なものに抑制でき、この圧延バリ13にコイルスプリング先端直状部4bが引っかかったり挟まったりすることを極力抑制できるものである。
尚、試験用のボールペンチップサンプルの軸心に対する面傾斜角度θの測定は、ボールペンチップを縦に半割り状態にした面の写真を撮影し、連結部14として残る左右両部分が成す角度γを測定し、その測定値を1/2に除する(θ=γ/2)。また、ボール転写部の外縁から内縁までの距離は、同様にボールペンチップを縦に半割り状態とし、オリンパス社製デジタルマイクロスコープVHX−900により200倍で直接測定した。尚、縦に半割りの状態とは、後述の図2のような状態を指すが、不飽和ポリエステル樹脂などの透明性の合成樹脂、具体的には、丸本ストルアス株式会社製冷間埋込樹脂No.105に冷間埋込樹脂No.105用硬化剤を2%程度添加しよく混練したものを隙間に浸透させて固化させた後にサンドペーパなどで徐々に削って測定サンプルを作成するものである。
【0021】
以上の基本的な形状及び寸法のボールペンチップについて、中孔の大きさとボールハウス部の側壁と凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度及び内方突出部の凹状のボール転写部の外縁の大きさを変え、(表1)に示す通りの実施例、比較例に該当するボールペンチップサンプルを製作した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示した各ボールペンチップを、ぺんてる株式会社製の0.7mmボールペン「ドット・イーボール0.7」(製品符号:BK127−A)のインキ収容パイプに取り付け、後述の油性インキを充填して、ペン先の方向に遠心力が働くようにして、遠心分離機(国産遠心器(株)製:卓上遠心機H−103N)で遠心処理を施し、筆記具内に存在する気体を除去して試験用ボールペンサンプルとした。
【0024】
試験に使用したインキの配合は次の通り。尚、組成の単に「部」とあるのは「重量部」を表す。
プリンテックス35(カーボンブラック、デグサヒュルスジャパン(株)製)
6.0部
SPILON VIOLET C−RH(油性染料、保土谷化学工業(株)製)
16.3部
VALIFAST YELLOW C−GNH(油性染料、オリエント化学工業(株)
3.1部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 50.1部
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 16.0部
エスレックBL−1(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 1.6部
エスレックBH−3(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 0.4部
フォスファノールLB400(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、活性剤、東邦化学工業(株)製) 1.5部
ナイミーンL201(ポリエチレングリコール−1ラウリルアミン、日油(株)製)
1.0部
ヒタノール1501(アルキルフェノール樹脂、日立化成工業(株)製) 0.5部
FZ−7002(ポリエーテル変性シリコーンオイル、東レダウコーニング(株)製)
0.25部
ニッコールHCO−10(POE硬化ひまし油、日光ケミカルズ(株)製)2.0部
上記成分のうち、ジエチレングリコールモノメチルエーテルの全量と、エスレックBL−1の全量を70゜Cで攪拌、混合溶解した後、これを室温まで放冷してからプリンテックス35の全量を加えダイノーミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い黒色のペーストを得た。
次いで、このペーストに残りの材料の全量を加え、70℃で3時間攪拌して黒色のボールペン用油性インキを得た。
尚、インキを製造するにあたり、分散した顔料と他の成分、例えば粘度調整用樹脂や溶剤、潤滑剤等を混合し、ホモミキサー等の撹拌機にて均一になるまで溶解・混合することで得られるが、場合によって混合したインキをさらに分散機にて分散したり、得られたインキを濾過や遠心分離機に掛けて粗大粒子や不溶解成分を除いたりすることは何ら差し支えない。
【0025】
(インキ漏れ試験)
前述した各試験用ボールペンサンプル200個を、ペン先が床面に当たらない状態で下向きに温度40℃湿度80%の恒温恒湿槽に放置し、24時間後にインキ漏れがあるか目視判定した。
尚、インキ漏れとは、床にインキが、ぼた落ちしたり、ぼた落ちはないが、ボールペンチップの先端開口部からのインキ漏れ出し長さがボールペンチップの先端開口部からボールが突出している距離以上の漏れ長さであり、当試験に使用するボールの直径が0.7mmであるボールペンチップの場合0.2mmを超える漏れ長さの場合インキ漏れとした。
○:インキが全く漏れていない。または、インキの漏れ出し長さが0.2mm以下のもの。
×:インキ漏れ出し長さが0.2mmを超えるもの。または、床にインキが、ぼた落ちしたもの。
【0026】
(書き味試験)
前述のインキ漏れ試験終了後、各試験用ボールペンサンプルから20個抜き取り、約30mmの丸を螺旋状に4丸手書きし、官能により筆記感の滑らかさを判定。
○:滑らかな書き味
△:重い書き味を時々感じる
×:重い書き味
参考に筆記抵抗値を測定した。
測定方法としては、ボールペンチップを保持しつつ、ボールペンチップの先端を紙面に当て、ボールを紙面に押しつける力を150g、紙面とボールペンサンプルとのなす角度を70°、紙の移動速度を7cm/secの条件で、15cm紙を移動させることによって筆記し、その際に紙の移動によってボールペン本体が紙の移動方向に引っ張られる力の大きさをロードセルにて筆記方向の荷重を感知し、筆記開始から0.5secから2.5sec間の0.005secごとに検出した400個の測定点の抵抗値を平均したものを一回の測定における測定値とした。一本の試験用ボールペンサンプルについて、測定ごとに紙の移動方向に対するボールペンチップの向きを120°ずつ変えて3回試験し、同様の作業を一つの実施例、比較例として作成したボールペンサンプルに対して3本実施した結果、得られる9回の測定値の平均を筆記抵抗値とした。
【0027】
(コイルスプリング引っ掛かり試験)
前述の書き味試験終了後、各試験用ボールペンサンプル200個をヤマト科学株式会社の3次元計測X線CT装置(型番TDM−1000−IS/S)を使用し、管電圧80KV、管電流4μAの条件で試験用ボールペンサンプルの軸心に対し360°回転させながら、X線透過画像でコイルスプリング先端が中孔内壁に引っ掛かっているか否かを観察した。
○:コイルスプリング先端がボールの後端を押し前方付勢されている
×:コイルスプリング先端が中孔内壁に引っ掛かっている
尚、中孔側に突出状態に発生する圧延バリを測定し、試験の結果(表2)に参考として記載した。圧延バリの測定方法は、(表1)に示す各ボールペンチップサンプルから各1個、ボールペンチップを縦半分に切断し、オリンパス社製デジタルマイクロスコープVHX−900により200倍で測定した。
各試験の結果を(表2)に記載する。
【0028】
【表2】

【0029】
各実施例は、ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が軸心に対して30゜を越え50°以下であると共に、ボール転写部の外縁から内縁までの距離がボール径の11%以上32%以下であり、圧延バリが中孔より突出することを極力抑制でき、この圧延バリにコイルスプリングが引っかることがなく、ボールの前方付勢が完全になされ、インキ漏れの発生がない。
特に、ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が小さくなるにつれ、ボール径に対するボール転写部の外縁から内縁までの距離の比率が同一でも中孔側に突出状態に発生する圧延バリの長さは短くなり、ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が軸心に対して45°である実施例1、2は、圧延バリの発生がなく、コイルスプリングの引っかかりの発生がないため、インキの漏れがなく良好である。但し、実施例1は、凹状のボール転写部面積は、適度に有しているがボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が小さい。また実施例2は、逆に、連結部の面傾斜角度は適度であるが凹状のボール転写部面積の減少により、書き味が時々重くなる軽度の書き味低下となり、筆記抵抗値も17gf後半となった。実施例3、4も圧延バリがなく、コイルスプリングの引っかかりの発生がなく、インキの漏れがない上、適度な凹状のボール転写部面積を有しているため、書き味も良く、筆記抵抗値が17gf以下となり、更に良好である。
これに対し、比較例3〜6では、圧延バリの長さが0.025mm以上発生し、コイルスプリングが引っかかるものが発生し、インキ漏れが発生した。
比較1は、圧延バリの発生はなくインキ漏れもないが、ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が小さ過ぎてボールの回転が阻害され書き味が重く、筆記抵抗値が19gfを越えた。
また、比較2も圧延バリの発生はなくインキ漏れもないが、凹状のボール転写部面積が微小のため、比較例1同様、筆記抵抗値が18gfを越え書き味が重くなった。
【符号の説明】
【0030】
1 ボール
2 ボールホルダー
2a 先端開口部
2b 後端開口部
2c テーパー部
3 インキ収容部
4 コイルスプリング
4a 巻き部
4b 先端直状部
5 インキ
6 逆流防止体組成物
7 ボールハウス部
7a 側壁
8 中孔
9 後穴
10 内方突出部
11 放射状溝
11a 開口部
12 凹状のボール転写部
12a 外縁
12b 内縁
13 圧延バリ
14 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記部材としてのボールと、このボールを貫通孔であるインキ通孔の先端開口部から一部突出して抱持し、インキ通孔の先端開口部をボールの直径よりも小径に形成すると共にインキ通孔の内壁中腹部分に複数の内方突出部を形成することによってボールの前後移動可能範囲を規定するボールハウス部を形成したボールホルダーとを有し、内方突出部に前記ボールを押し付けることによって凹状のボール転写部を形成したものであると共に、複数の内方突出部の中心に形成される中孔部を通じてボールを背面より押して前方付勢するコイルスプリングを備えるボールペンチップにおいて、前記ボールハウス部の側壁と前記凹状のボール転写部との連結部の面傾斜角度が軸心に対して30゜を越え50°以下であると共に、ボール転写部の外縁から内縁までの距離がボール径の11%以上32%以下であるボールペンチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49232(P2013−49232A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189492(P2011−189492)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】