説明

ポリエステルの製造方法

【課題】微小異物を抑制した、液晶ディスプレイ用の反射板用白色フィルムとして好適なポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とジオール成分からポリエステルを製造するに際して、エステル化反応後あるいはエステル交換反応後に、リン原子換算で1〜100ppm(得られるポリエステルに対して)のリン化合物を重縮合反応して得られる重合体と実質的に同一成分の重合体からなる容器に充填したものを、重縮合反応装置の撹拌機を停止した後に投入し、次いで撹拌を再開することを特徴とするポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン化合物により微小異物の発生を抑制したポリエステルの製造方法である。更に詳しくは、リン化合物をポリエステル容器に充填して、ポリエステル重縮合反応装置の撹拌機を停止した後に投入することにより微小異物の発生を抑制したポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、近年、各種光学用フィルム、例えば液晶ディスプレイの部材のプリズムシート、光拡散シート、反射板、タッチパネル等のベースフィルム、反射防止用ベースフィルムやディスプレイの防爆用ベースフィルム、PDPフィルター用フィルム等の各種用途に用いられており、特に液晶ディスプレイ用の反射板用白色フィルムとして使用されている。
液晶ディスプレイ用の反射板の要求特性としては、液晶ディスプレイ全体の明るさが等しくなるように、フィルム全体面での反射率や輝度、光沢度の均一性が求められるが、ここで極微小な異物であってもフィルム中に存在すると部分的に反射性能が低下し、部分的に画面が黒くなり、見えにくくなる等の品質上の問題が生じる。
【0003】
一方、ポリエステルの色調改善および耐熱性向上のための添加剤として、リン化合物が用いられるが、リン化合物は高温にさらされると単独でも黒色の異物となり、また添加したリン化合物の種類によっては、例えば、酸性の強いリン化合物などでは、ポリエステルの劣化を促進し、異物が発生するという問題がある。
【0004】
ポリエステルおよびフィルム中の異物を抑制するための方法として、例えば特許文献1では、主原料や添加剤等を投入する際に、重縮合反応槽の撹拌機を、主原料や添加剤等を投入するノズルと異なる特定の位置で停止させる方法が提案されている。特許文献1の異物は、主原料や添加剤が攪拌翼に当り、飛散したものが、高温の器壁に付着・変質し、剥離して落ちた黒色や茶色の変色異物、すなわち剥離物である。従って、特許文献1は、0.1mm以上の比較的大きな異物に規定しているが、近年ますますその要求特性が厳しくなっている液晶ディスプレイ用の反射板用白色フィルムにおいては微小異物の抑制が不十分である。またその実施例では、リン化合物を使用していないため、ポリエステルの耐熱性も不十分である。
【0005】
また、特許文献2では、特定のリン化合物を使用する方法が提案されている。この通常の添加方法ではポリエステルへ添加されるまでに一部が飛散し、あるいは高温の添加ノズル部分や攪拌翼、重縮合反応槽の壁面で特定のリン化合物が付着して分解するので、100μm(0.1mm)と比較的大きな異物の抑制には効果的であるが、微細な異物抑制には不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−51683号公報
【特許文献2】特開2010−120995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決するとともに、従来は問題とならないレベルの微小異物の生成を抑制した、液晶ディスプレイ用の反射板用白色フィルムとして好適に用いることが可能であるポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した本発明の目的は、ジカルボン酸成分とジオール成分からエステル化反応後あるいはエステル交換反応後に重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、リン化合物を得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm、重縮合反応して得られる重合体と実質的に同一成分の重合体からなる容器に充填して、重縮合反応装置の撹拌機を停止した後に該容器を投入し、次いで撹拌を再開することを特徴とするポリエステルの製造方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リン化合物の特定の添加方法によりポリエステル製造時の劣化により発生する微小な異物を抑制したポリエステルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエステルとは、ジカルボン酸成分およびジオール成分からなるポリエステルである。
ジカルボン酸成分およびジオール成分からなるポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリ−1−メチルエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリテトラメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリ−1−メチルエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリ−1,2−プロピレンテレフタレート等が挙げられるが、好ましくはジオール成分として、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1つを用いた、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、または各々主としてエチレンテレフタレート単位、トリメチレンテレフタレート単位、テトラメチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体である。そのなかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体において特に好適である。ここで主としてとは、各々のポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートにおいて、エチレンテレフタレート単位、トリメチレンテレフタレート単位、テトラメチレンテレフタレート単位が80モル%以上含有されたポリエステル共重合体を指す。
【0011】
本発明の目的を損なわない範囲での共重合成分としてのジカルボン酸成分は具体的には、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸等のジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いても良い。なお、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分とは、スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、ホスホニウム塩、さらにそれらの誘導体のことを指し、具体的には5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸、およびその誘導体である5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−リチウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸ジメチルが挙げられる。
【0012】
一方、本発明の目的を損なわない範囲での共重合成分としてのジオール成分は具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオールが挙げられ、これらの2種以上を混合して用いても良い。また、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸等のオキシカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法では、リン化合物を得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm添加することが必要である。好ましい添加量は5〜80ppmであり、より好ましくは10〜60ppmである。100ppmを超えると、重合時間が延長し、結果として異物が増えたり、色調が悪化したりする。1ppm未満では耐熱性向上の効果を発現せず、得られたポリエステルの色調や耐熱性が悪化する。
【0014】
本発明に用いられるリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸もしくはこれらのメチルエステル又はエチルエステル、フェニルエステル、さらにはハーフエステルより成る群から選ばれた一種以上であり、特にリン酸、トリエチルホスホノアセテート、フェニルホスホン酸ジメチルが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法では、微小な異物を抑制する目的で、リン化合物を重縮合反応装置に添加する際、本発明方法で得られる重合体と実質的に同一成分の重合体からなる容器に充填して投入する必要がある。容器に充填して投入することで、リン化合物が、高温に加熱されている添加ノズルや重縮合反応装置の缶壁および撹拌翼に付着し、長時間高温にさらされて劣化し、異物が発生することを抑制できる。またリン化合物を充填した容器は、投入直後にポリエステル反応液中に沈むため、液中で容器が溶融することでリン化合物を短時間で均一に分散できる。微小異物はリン化合物がポリエステル反応液と長時間局所的に接触することにより発生すると考えられるので、かかるポリエステルが劣化した微小な異物の発生を抑制することが可能となる。
【0016】
本発明でいう容器とは、得られる重合体と実質的に同一成分の重合体からなる容器であり、リン化合物を充填してポリエステルの製造工程に投入できるものであればその形状などに特に制限はなく、例えば、ふたや栓を有する射出成形容器が挙げられる。この容器の厚さは、厚すぎると溶解、溶融時間が長くかかるため厚さは薄いほうがよいが、リン化合物の封入・投入作業の際に破裂しない程度の厚さを確保する。そのためには10〜500μm厚さで均一で偏肉のないものが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法では、微小な異物を抑制する観点から、重縮合反応装置の撹拌機を停止した後にリン化合物を充填した容器を投入し、次いで撹拌を再開する必要がある。
容器の投入時に撹拌機を停止することで、容器が撹拌翼と接触して破損し、リン化合物が飛散することを防ぐことが出来る。
また、リン化合物を充填した容器の投入終了後に撹拌を再開することで、ポリエステルの低重合体と気相部の界面でリン化合物が局所的に滞留し、高温で高濃度のリン化合物による局所的な分解反応による微小異物の発生を防止できるとともに、リン化合物を短時間で均一に分散することが可能となるので、かかる点からも微小異物の発生を抑制することができる。
撹拌翼の停止および容器投入後の撹拌再開までの時間については特に限定されないが、ポリエステルの熱分解による劣化を抑制する観点から、撹拌翼を停止して1分以内にリン化合物を充填した容器を投入し、容器を投入した後から1分以内に撹拌を再開することが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では、微小な異物を抑制する観点から、リン化合物を主原料に用いたジオールにより1〜40重量%の濃度として容器に充填し、投入することが好ましい。かかる範囲の濃度のリン化合物を添加することにより、添加直後の高濃度リン化合物による局所的なポリエステルの劣化が緩和でき、更に容器を投入した際にポリエステルの液中に沈みやすくすることが可能となるため、一層微小な異物を抑制する効果を得られる。リン化合物の濃度は、5〜38重量%がより好ましく、7〜36重量%がさらに好ましい。
【0019】
ポリエステルの製造方法において重縮合の原料の製造としては、(1)ジカルボン酸とジオールをエステル化反応させる方法、および(2)ジカルボン酸のエステル化物とジオールをエステル交換反応させる方法があるがいずれの方法も採用できる。ここで、エステル交換反応よりもエステル化反応はリン化合物を添加する際の反応液の温度が高温であり異物が発生しやすいことから、本願はジカルボン酸とジオールをエステル化反応させる方法においてより高い効果が得られる。
【0020】
この場合、エステル化反応物を重縮合反応装置に移行した後、重縮合反応開始前に添加すると、エステル化反応率が高く温度が低い状態でリン化合物を添加することが可能であり、異物が少なくなるので好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、リン化合物を充填した容器の投入する前にシリコーンを添加すると、一層微小な異物の発生を抑制できるので好ましい。これはシリコーンを添加することで、重縮合反応時のポリエステルの発泡による液面上昇による異物の発生を抑制し、さらに重縮合反応装置の缶壁等にシリコーン被膜を形成することで、リン化合物およびポリエステルの缶壁等への直接的な付着を抑制することが可能となる。また、本発明の製造方法ではリン化合物を充填した容器を添加する際に撹拌機を停止する。そのため、ポリエステルの低重合体が発泡、あるいは突沸する可能性が高くなるので、リン化合物を充填した容器を投入する直前にシリコーンを添加することが好ましい。
【0022】
本発明に用いるシリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン、およびポリジメチルシロキサンの側鎖あるいは末端の少なくとも1つのメチル基が、水素元素、アルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、またはトリフロロメチル基の選ばれる少なくとも1つの基により変性された変性ポリシロキサン、またはこれらの混合物を挙げることができる。特に耐熱性の観点からポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンが好ましい。
【0023】
本発明におけるシリコーンの添加量は、ポリエステルの発泡を抑制する観点から、得られるポリエステルに対して0.05〜1重量%の範囲が好ましく、さらには0.1〜0.5重量%の範囲が好ましい。かかる範囲のシリコーンを添加することにより、ポリエステルの発泡、あるいは突沸を抑制し、一層微小な異物の発生を抑制する効果を得られる。
【0024】
本発明の製造方法では、ポリエステルにポリアルキレングリコールを共重合することが好ましい。ポリアルキレングリコールを共重合したポリエステルはポリオレフィン等と混練した場合に相溶性が向上し、光学特性が向上するため、液晶ディスプレイ用の反射板用途として高い性能を得られる。ただし、ポリアルキレングリコールは、リン酸などの酸性の強いリン化合物により分解しやすい。そのためポリエステルにポリアルキレングリコールを共重合した場合、ポリエステルが分解して異物が発生しやすくなるが、本発明の製造方法では異物を抑制することが可能となる。
【0025】
本発明に用いるポリアルキレングリコールとしては、例えば数平均分子量が500〜2000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールあるいはこれらの混合物を挙げることができる。特に光学特性を向上させる目的で得られたポリエステルとポリオレフィン等の異種ポリマーを混合した場合、ポリエステルと異種ポリマーの相溶性を向上させることで更に光学特性を向上させることが可能となることからポリエチレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールの添加量については特に限定されないが、得られるポリエステルの熱特性の点から、得られるポリエステルに対して1〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%である。
【0026】
本発明の製造方法では、微小な異物を抑制する観点から、重縮合反応槽内の温度が235〜265℃の範囲でリン化合物を充填した容器を投入した後、重縮合反応槽内の温度を215℃〜225℃に低下させてから重縮合反応を開始することが好ましい。
リン化合物を充填した容器を投入する際の温度は、245〜260℃がより好ましく、250〜255℃がさらに好ましい。かかる範囲の温度とすることで、投入した容器が速やかに溶融してリン化合物を分散させることが可能であり、さらに微小異物の発生を抑制する効果が得られる。
【0027】
充填容器を添加した後のリン化合物を充填した容器を投入した後、重縮合反応を開始する際の温度は、217〜223℃がより好ましく、218〜222℃がさらに好ましい。かかる範囲の温度とすることで、重縮合反応時の急激なリン化合物の蒸発、飛散を抑制し、リン化合物による異物の発生を抑制することが可能となる。
【0028】
本発明のポリエステルの具体的な製造方法をポリエチレンテレフタレートにポリエチレングリコールを共重合したポリエステルで具体的に説明する。
製造方法としては、テレフタル酸およびエチレングリコ−ルとポリエチレングリコールとを直接エステル化反応させた後、この反応生成物を重縮合反応させる方法か、テレフタル酸とエチレングリコ−ルとをエステル化反応させた後、この反応生成物にポリエチレングリコールを添加して重縮合反応させる方法等を挙げることができる。
この際、反応触媒として、従来公知のアルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物等が用いられ、さらに容器に充填したリン酸が投入される。
【0029】
本発明の製造方法では必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤を添加してもよく、さらには滑り性などを付与する目的でクレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、湿式および乾式法シリカさらにはコロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナなどの無機粒子さらにはアクリル、スチレンなどを構成成分とする有機粒子等を添加してもよい。
【0030】
本発明に用いる酸化防止剤は、特に限定されるものではないが、ポリアルキレングリコールの分解抑制の観点から、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤または芳香族アミン系酸化防止剤を挙げることができ、ポリエステルとの親和性、さらに得られるポリエステルの特性や熱安定性および色調等からフェノール系酸化防止剤が好適である。添加量としては、耐熱性などの観点から0.01〜1重量%が好ましく、0.05〜0.5重量%がより好ましい。中でも、酸化防止剤としては、ペンタエリスリトール=テトラキス[3−(tert−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート]が好適である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0032】
(1)ポリエステル中の、リンを含有する微小異物個数
ポリエステルチップ1kgを倍率10倍のルーペで観察して、ポリエステル中にある異物(最大直径10〜50μm)の有無を確認し、異物が確認されたポリエステルチップをヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、異物のみを取り出し、SEMに付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDX:堀場製作所社製、EMAX−7000型)および赤外顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、NICOLET CONTINUμM型)を備えたフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、NICOLET6700型)を用いて組成分析を行い、エネルギー分散型X線分析装置でリンのピークを検出し、かつフーリエ変換赤外分光光度計でポリエチレンテレフタレートのピークを検出した異物の個数をカウントした。
【0033】
(2)ポリエステルの濾過性
濾過性試験機(富士フィルター工業社製、MELT SPINNING TESTER)を用いて、フィルター目開き20μm、濾過面積4.9cm、温度設定252℃、濾過速度10g/分において、ポリエステル組成物6kg通過時の圧力と初期圧力の差を濾過圧力ΔPとして判定した。濾過圧力が小さいほど、異物が少なく良好である。
【0034】
(3)ポリエステル中の金属元素量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)を用いて、各元素に対する蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線より求めた。
【0035】
実施例1
テレフタル酸86重量部、エチレングリコール39重量部とのエステル反応物。即ちビスヒドロキシエチルテレフタレート(低重合体)をエステル化反応槽で255℃で溶融し、これにテレフタル酸86重量部、エチレングリコール39重量部の組成からなる混合物を加え、255℃で攪拌しながらエステル化反応を行った。エステル化反応を続け、水の留出量がエステル化反応率で97%以上となる理論留出量に達したところで、テレフタル酸86重量部に相当する反応物を重縮合反応装置に移行した。重縮合反応装置に移行した反応物に、ポリメチルフェニルシロキサン0.15重量部を添加した。ポリエチレンテレフタレートシートを用いて厚さ200μmの容器およびそのふたを射出成形して、エチレングリコールで15重量%に希釈したリン酸をリン原子換算で40ppmとなる量に充填した。重縮合反応装置の温度が252℃の時点で重縮合反応装置の撹拌機を停止して30秒後にリン酸を充填した容器を投入し、容器の投入終了から30秒後に撹拌を再開した。さらに三酸化アンチモンを0.040重量部、酢酸マグネシウム4水塩を0.060重量部、ペンタエリスリトール=テトラキス[3−(tert−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート]を0.10重量部添加した。重縮合反応装置内の温度が220℃となった時点で重縮合反応装置の内容物を撹拌しながら減圧および昇温を開始し、エチレングリコールを留出させながら重合をおこなった。なお、減圧は60分かけて常圧から133Pa以下に減圧し、昇温は60分かけて280℃まで昇温した。
重縮合反応装置の撹拌トルクが所定の値に達したら重縮合反応装置内を窒素ガスにて常圧へ戻し、重縮合反応装置下部のバルブを開けてガット状のポリマーを水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、ポリエチレンテレフタレートチップを得た。
得られたポリエステルの特性を表1および2に示す。本発明のポリエステルには微小異物は確認されず、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaと良好であった。
【0036】
実施例2
リン化合物としてトリエチルホスホノアセテートを使用した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。本発明のポリエステルには微小異物は確認されず、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaと良好であった。
【0037】
実施例3
リン化合物としてフェニルホスホン酸ジメチルを使用した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。本発明のポリエステルには微小異物は確認されず、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaと良好であった。
【0038】
実施例4〜6
容器に充填する際のリン酸の濃度を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数および濾過性による濾過圧力ΔPは良好であった。
【0039】
実施例7
ポリメチルフェニルシロキサンを添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数は2個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaと良好であった。
【0040】
実施例8
シリコーンとしてポリジメチルシロキサンを使用した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数は1個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.2MPaと良好であった。
【0041】
実施例9、10
リン酸を充填した容器を投入する際の重縮合反応装置内温度を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数は1個および2個、濾過性による濾過圧力ΔPは共に0.1MPaと良好であった。
【0042】
実施例11、12
重縮合反応を開始する際の重縮合反応装置内温度を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数は1個および2個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaおよび0.2MPaと良好であった。
【0043】
実施例13〜16
ポリエステルへのリン酸の添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数および濾過性による濾過圧力ΔPは良好であった。
【0044】
実施例17
重縮合反応を開始する直前に数平均分子量1000のポリエチレングリコール6重量部を添加するよう変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。本発明のポリエステルには微小異物は確認されず、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaと良好であった。
【0045】
実施例18、19
容器に充填する際のリン酸の濃度を変更した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表1および2に示す。微小異物個数は2個および1個、濾過性による濾過圧力ΔPは共に0.1MPaと良好であった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
実施例20
ポリメチルフェニルシロキサンを添加しない以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示す。微小異物個数は3個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.2MPaと良好であった。
【0049】
実施例21、22
表2のポリエチレングリコールの数平均分子量を添加した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示す。微小異物個数は2個および0個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.2MPaおよび0.1MPaと良好であった。
【0050】
実施例23、24
リン酸を充填した容器を投入する際の重縮合反応装置内温度を変更した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示す。微小異物個数は1個および2個、濾過性による濾過圧力ΔPは共に0.2MPaと良好であった。
【0051】
実施例25、26
重縮合反応を開始する際の重縮合反応装置内温度を変更した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示す。微小異物個数は共に1個、濾過性による濾過圧力ΔPは共に0.1MPaと良好であった。
【0052】
実施例27、28
ポリエステルへのリン酸の添加量を変更した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示す。微小異物個数は1個および4個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.1MPaおよび0.3MPaと良好であった。
【0053】
実施例29
実施例1と同様の方法で得た、テレフタル酸86重量部に相当するエステル化反応物を重縮合反応装置に移行した。重縮合反応装置に移行した反応物に、ポリメチルフェニルシロキサン0.15重量部、三酸化アンチモンを0.040重量部、酢酸マグネシウム4水塩を0.060重量部、ペンタエリスリトール=テトラキス[3−(tert−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート]を0.10重量部、数平均分子量1000のポリエチレングリコール6を重量部添加した。重縮合反応装置の内容物を撹拌しながら減圧および昇温を開始し、エチレングリコールを留出させながら重合をおこなった。なお、減圧は60分かけて常圧から133Pa以下に減圧し、昇温は60分かけて242℃から280℃まで昇温した。
【0054】
重縮合反応装置の撹拌トルクが所定の値に達したら、ポリエチレンテレフタレートシートを用いて厚さ200μmの容器およびそのふたを射出成形して、エチレングリコールで15重量%に希釈したリン酸をリン原子換算で40ppmとなる量に充填した。重縮合反応装置の撹拌機を停止して30秒後にリン酸を充填した容器を投入し、容器の投入終了から30秒後に撹拌を再開した。この時の重縮合反応装置の温度は279℃であった。さらに減圧下で撹拌を15分行った後、重縮合反応装置内を窒素ガスにて常圧へ戻し、実施例1と同様の方法でポリエチレンテレフタレートチップを得た。
結果を表3および4に示す。リン酸を充填した容器を投入する際および重縮合反応を開始する際の重縮合反応装置内温度が規定の範囲外であったため、微小異物個数は7個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.5MPaと若干高めであったが問題ないレベルであった。
【0055】
実施例30
テレフタル酸ジメチル101重量部、エチレングリコール56重量部、ポリメチルフェニルシロキサン0.15重量部、三酸化アンチモン0.030重量部、酢酸カルシウム0.090重量部、ペンタエリスリトール=テトラキス[3−(tert−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート]0.10重量部を145℃で溶融、撹拌しながら235℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させてエステル交換反応を行った。エステル交換反応を続け、メタノールの留出量がエステル交換反応率で97%以上となる理論留出量に達したところで、エステル交換反応物を重縮合反応装置に移行した。ポリエチレンテレフタレートシートを用いて厚さ200μmの容器およびそのふたを射出成形して、エチレングリコールで15重量%に希釈したリン酸をリン原子換算で70ppmとなる量に充填した。重縮合反応装置に移行した反応物に、重縮合反応装置の温度が252℃の時点で重縮合反応装置の撹拌機を停止して30秒後にリン酸を充填した容器を投入し、容器の投入終了から30秒後に撹拌を再開した。さらに数平均分子量1000のポリエチレングリコール6重量部添加した。重縮合反応装置内の温度が220℃となった時点で重縮合反応装置の内容物を撹拌しながら減圧および昇温を開始し、実施例1と同様の方法で重縮合反応を行いポリエチレンテレフタレートチップを得た。
得られたポリエステルの特性を表3および4に示す。本発明のポリエステルの微小異物個数は3個、濾過性による濾過圧力ΔPは0.2MPaと良好であった。
【0056】
比較例1
実施例1のポリエステルの重合において、リン酸を容器に充填せずに重縮合反応装置に添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示すが、リン酸を容器に充填しなかったため、微小異物個数が31個、濾過性による濾過圧力ΔPが2.3MPaと不良であった。また、重縮合反応装置の缶壁および撹拌翼にリン酸が付着、高温で分解して黒色化した異物が確認された。
【0057】
比較例2
実施例1のポリエステルの重合において、重縮合反応装置の撹拌機を停止せずにリン酸を充填した容器を投入した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示すが、リン酸を充填した容器を投入する際に撹拌機を停止しなかったため、微小異物個数が33個、濾過性による濾過圧力ΔPが2.6MPaと不良であった。
【0058】
比較例3
実施例10のポリエステルの重合において、リン酸を容器に充填せずに重縮合反応装置に添加した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示すが、リン酸を容器に充填しなかったため、微小異物個数が45個、濾過性による濾過圧力ΔPが4.4MPaと不良であった。また、重縮合反応装置の缶壁および撹拌翼にリン酸が付着、高温で分解して黒色化した異物が確認された。
【0059】
比較例4
実施例10のポリエステルの重合において、重縮合反応装置の撹拌機を停止せずにリン酸を充填した容器を投入するよう変更した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示すが、リン酸を充填した容器を投入する際に撹拌機を停止しなかったため、微小異物個数が47個、濾過性による濾過圧力ΔPが4.5MPaと不良であった。
【0060】
比較例5、6
実施例10のポリエステルの重合において、ポリエステルへのリン酸の添加量を0.5ppmおよび110ppmに変更した以外は実施例17と同様にしてポリエステルを重合した。結果を表3および4に示すが、リン酸の添加量が規定の範囲外であったため、微小異物個数が24個および28個、濾過性による濾過圧力ΔPが1.8MPaおよび2.1MPaと不良であった。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジオール成分からエステル化反応後あるいはエステル交換反応後に重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、リン化合物を得られるポリエステルに対してリン原子換算で1〜100ppm、重縮合反応して得られる重合体と実質的に同一成分の重合体からなる容器に充填して、重縮合反応装置の撹拌機を停止した後に該容器を投入し、次いで撹拌を再開することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
ジカルボン酸と、ジオールをエステル化反応させて、エステル化反応物を重縮合反応装置に移行した後、重縮合反応開始前にリン化合物を添加することを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
リン化合物を、原料のジオール成分により1〜40重量%の濃度の溶液とすることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
容器を投入する前に、シリコーンを添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
ポリエステルにポリアルキレングリコールを共重合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
重縮合反応槽内のポリエステルの温度が235〜265℃の範囲でリン化合物を充填した容器を投入した後、重縮合反応槽内の温度を215℃〜225℃に低下させてから重縮合反応を開始することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2013−67727(P2013−67727A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207537(P2011−207537)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】