説明

ポリオレフィン系繊維製品の撥水撥油加工用浸透剤

【課題】ポリオレフィン系繊維製品を撥水撥油加工する際に、撥水撥油加工剤がポリオレフィン繊維に高い浸透効果を発揮すると共に、加工された繊維製品の撥水撥油性能及び耐水圧性能の発現を阻害せず、かつ低臭気である撥水撥油加工用浸透剤を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表されるポリオキシプロピレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレンアリールエーテルを含有することを特徴とする撥水撥油加工用浸透剤。
R1O-(C3H6O)m- H (I)
(ただし、R1は炭素数4〜8のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、
mは2〜8の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性繊維製品の撥水撥油加工用浸透剤に関する。より詳しくは、ポリオレフィン系繊維製品の撥水撥油加工用浸透剤、当該浸透剤を含む撥水撥油加工用組成物及び当該組成物によって加工されたポリオレフィン系繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン繊維不織布等に代表されるポリオレフィン繊維製品は、ディスポーザブル上の利点から手術用衣服や手術用ドレープ、マスク等の医療・衛生用品用途で使用される。これらの用途においては、製品が病原菌の侵入防止性能に優れていることが重要である。例えば、わずかな液滴であってもHIV、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、エンテロコッカス(腸菌)などの病原菌を含んでいる可能性があり、液滴の付着を防止するために製品が優れた撥水撥油性能を備えている必要がある。また、例えば不織布では、外層が濡れた場合に繊維の隙間から病原菌が浸透し易いため、繊維表面から液滴の浸透を防止するために優れた耐水圧性能を備えている必要がある。
【0003】
従来、繊維製品に撥水撥油性能と耐水圧性能を付与する方法として繊維製品へ撥水撥油剤を加工付与する方法が採用されている。通常、加工には水系の撥水撥油加工剤が使用されているが、水系の撥水撥油加工剤は疎水性繊維製品に対する浸透効果が弱く、処理ムラ無く繊維全体への撥水撥油性能と耐水圧性能を付与することは困難である。そこで、疎水性繊維製品の撥水撥油加工においては、撥水撥油加工剤の浸透効果の向上のため浸透剤が併用される。
【0004】
疎水性繊維製品の撥水撥油加工用の浸透剤としては、一般にポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類等に代表されるノニオン性界面活性剤及びアルコール類が使用される。
【0005】
ノニオン性界面活性剤の浸透剤としては、例えば特許文献1に疎水性繊維用の泡加工用撥水剤組成物に含まれる浸透剤として下記構造式1で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテル類
構造式1:R6-(OCH2CH2)n-OR7 [式中、RはC〜Cの炭化水素基であり、RはHまたはC〜Cの炭化水素基であり、nは1〜4の整数である] が開示されており、これらの化合物を含む撥水剤組成物をポリプロピレン繊維製品に泡加工法にて処理する方法が実施例にて記載されている。しかし、構造式1で示されるポリオキシエチレンアルキルエーテル類は、ポリプロピレン繊維製品をポリプロピレン繊維製品を泡加工する場合に良好な浸透効果を発揮する一方、その使用により繊維製品の撥水撥油性能と耐水圧性能を低下させる問題がある。
【0006】
また、特許文献2には噴霧処理用撥水剤組成物に含まれる浸透剤として下記構造式2で示されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類
構造式2:R5O(C2H4O)s[CH2CH(CH3)O]pH[式中、R5は炭素数8以上のアルキル基またはアルケニル基sは5〜30の整数、pは0〜20の整数である] が開示されている。
構造式2で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類は、ポリエステル等の疎水性繊維製品に対して良好な浸透効果を発揮し加工ムラをなくすことができるが、ポリオレフィン系繊維製品に対してその効果は不十分であり、その使用により撥水撥油性能と耐水圧性能を低下させる。
特許文献3においても、撥水撥油加工用組成物の構成成分として下記構造式3で示されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類
構造式3:R1O-(CH2CH2 O)p-( R2O)q-R3 [式中、R1は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、R2は炭素数3以上のアルキレン基、R3は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基または炭素数2〜22のアルケニル基、pは2以上の数、qは0または1以上の数] が開示されれているが、構造式2で示されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類と同様、その性能は満足できるものではない。
【0007】
特許文献4には撥水撥油剤水性分散液組成物の構成成分として下記構造式4で示されるポリオキシアルキレンポリオキシエチレンアルキルエーテル類
構造式4:(A11O-(R11O)a-(CH2CH2O)b-(R12O)c-A12 [A11及びA12は水素原子、炭素数1〜22のアルキル基又は炭素数2〜22のアルケニル基又はR13C(C=O)- (R13は炭素数1〜22のアルキル基又は炭素数2〜22のアルケニル基)であり、R11及びR12は炭素数3以上のアルキレン基。a、b及びcは2以上の数でありbはコポリマーに対してポリオキシエチレンブロックの重合割合が5〜80重量%になるような数]が開示されるが、これらについても構造式2で示されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類と同様、その性能は満足できるものでない。
【0008】
撥水撥油加工用のアルコール類の浸透剤としては、例えば特許文献5、特許文献6にイソプロピルアルコールやブタノールなどの低級アルコールを浸透剤として使用した例が開示されている。これらは疎水性繊維、特にポリプロピレン繊維製品に対しては浸透効果が発揮されず、繊維に対し十分な撥水撥油性能を付与することができない。またこれら低級アルコールは揮発性が高いため、その使用は環境衛生上問題がある。
【0009】
特許文献7には所謂中級アルコールのヘキサノールとオクタノールを疎水性繊維製品用の浸透剤として使用した例が開示されている。ヘキサノールは特にポリオレフィン系繊維製品に優れた浸透効果を発揮するとされているが、これらの中級アルコールの有する強い臭気と揮発性は環境衛生上好ましくなく、作業環境をひどく悪化させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003-147681号公報
【特許文献2】特開平8-291468号公報
【特許文献3】WO 2006/022122号公報
【特許文献4】特開2002-188545号公報
【特許文献5】特開2001-164469号公報
【特許文献6】特開平9-316784号公報
【特許文献7】特開2003-147681号公報
【0011】
このように、従来のポリオキシエチレンアルキルエーテル類に代表されるノニオン性界面活性剤型の浸透剤をポリオレフィン系繊維製品に使用すると、浸透効果が低く十分な撥水撥油性能及び耐水圧性能を付与できない場合や、高い浸透効果は発揮されても撥水撥油性能や耐水圧性能の発現を阻害する場合がある。また、ヘキサノールのように浸透剤として優れた性能を発揮するものはあるが、強い臭気や揮発性のために作業環境上の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の状況をふまえ、本発明は、ポリオレフィン系繊維製品を撥水撥油加工する際に、撥水撥油加工剤がポリオレフィン系繊維に高い浸透効果を発揮すると共に、加工された繊維製品の撥水撥油性能及び耐水圧性能の発現を阻害せず、かつ低臭気である撥水撥油加工用浸透剤、当該浸透剤を含む撥水撥油加工用組成物及び当該組成物により処理されたポリオレフィン系繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来のポリオキシエチレンアルキルエーテル類に代表されるノニオン性界面活性剤の浸透剤では、水系の撥水撥油剤に使用されることを目的に、エチレンオキサイドを付加することにより親水性を高めることが一般に行われている。しかしながら、本発明者らは従来技術の問題点に鋭意研究を重ねる中、エチレンオキサイドの付加により浸透剤の親水性が向上する結果、浸透剤と水との親和性のため加工によって付与される撥水撥油性能や耐水圧性能が阻害されたりする問題が発生していると考えた。そして従来、検討の中心であったエチレンオキサイドの付加により得られるエチレンオキサイド鎖では無く疎水性のプロピレンオキサイド鎖に着目し研究を重ねた結果、特定の構造を有するポリオキシプロピレンアルキルエーテル及びポリオキシプロピレンアリールエーテルがポリオレフィン系繊維製品の撥水撥油加工用浸透剤として非常に有効に機能することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の撥水撥油加工用浸透剤、当該浸透剤を含む撥水撥油加工用組成物及び当該組成物により処理されたポリオレフィン系繊維製品に関するものである。
【0015】
1.ポリオレフィン系繊維製品用の撥水撥油加工用浸透剤で、下記式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする。
R1O-(C3H6O)m- H (I)
(ただし、R1は炭素数4〜8のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、mは2〜8の整数である。)
2.1に記載の撥水撥油処理用浸透剤と撥水撥油剤とを含むポリオレフィン系繊維製品用の撥水撥油加工用組成物。
3.2に記載の撥水撥油剤がフッ素系撥水撥油剤である撥水撥油加工用組成物。
4.2または3に記載の撥水撥油加工用組成物を用いて加工が施されているポリオレフィン系繊維製品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の浸透剤によれば、ポリオレフィン系繊維製品を撥水撥油加工する際に高い浸透効果を発揮すると共に、加工された繊維製品の撥水撥油性能及び耐水圧性能の発現を阻害せず、更には、作業環境上の問題となる臭気が低減される。
また、本発明の浸透剤の使用により加工されたポリオレフィン系繊維製品は良好な撥水撥油性能及び耐水圧性能を発現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の浸透剤は、式(I)で表される化合物を含む。
R1O-(C3H6O)m- H 式(I)
式(I)において、R1は炭素数4〜8のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基である。R1で表されるアルキル基は直鎖構造及び分岐構造のどちらでも良い。プロピレンオキサイドの付加モル数と疎水基であるアルコール類のアルキル基との間には適度なバランスが必要であり、R1の炭素数はアルキル基では4〜8に限定される。炭素数が4未満ではこれにいかなるモル数のプロピレンオキサイドを付加させてもポリオレフィン繊維との親和性が不十分となり、十分な浸透効果が得られない。また、炭素数が9以上ではアルキルアルコール自体の水に対する溶解度が低すぎるか水に対して不溶であるため、これらにいかなるモル数のプロピレンオキサイドを付加させても水に不溶性であり、浸透剤として効果的でない。R1で表される炭素数6〜8のアリール基としては、例えばベンジル基,フェニル基、トリル基又はキシリル基が挙げられ、炭素数が9以上ではアリールアルコール自体の水に対する溶解度が低すぎるか水に対して不溶であるため、これらにいかなるモル数のプロピレンオキサイドを付加させても水に不溶性であり、やはり浸透剤として効果的でない。
式(I)のmは2〜8の整数である。この範囲では浸透剤としての機能が良好であり臭気は低減される。プロピレンオキサイド付加モル数が9以上の場合は水に対する溶解度が低すぎるため浸透剤として効果的でない。一方、プロピレンオキサイド付加モル数が1では臭気が発生し作業環境上の問題を生ずる。これらの化合物は分子内に疎水基であるアルキル基やアリール基と疎水性のプロピレンオキサイド鎖のみを有しており、従来の親水基と疎水基を併せ持つ従来のノニオン界面活性剤とは異なる化学構造を持つものである。これらは水系加工浴で使用されるが、分子全体として疎水性で有り、水に対してわずかに溶解する微溶性の性質を持つように設計されたものである。これらにエチレンオキサイドを付加させた化合物は、分子内に水和性のある親水部分を持つようになる為、撥水撥油性能及び耐水圧性能に悪影響を与えることから、エチレンオキサイドを付加させた化合物は、たとえ1モルの付加であっても好ましくない。
【0018】
式(I)で示される化合物の製造方法は、例えば1LのSUS製オートクレーブに仕込んだ、アルキルアルコール、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール又はキシレノールに対し、苛性カリを触媒として撹拌及び窒素雰囲気下、電熱にて140℃に昇温した後、1L のSUS製ボンベに充填したプロピレンオキサイドを窒素にてオートクレーブ内に圧入、140〜170℃の範囲で反応させて得られる。プロピレンオキサイドの圧入終了後は反応物を40〜50℃に冷却し、酢酸(90%)にて中和後、オートクレーブより取り出し浸透剤として利用する。反応物の水酸基価(KOH mg/g)を測定し目的物が得られていることを確認する。
【0019】
本発明における撥水撥油剤は特に限定されないが、撥水撥油性に優れているフッ素系撥水撥油剤を用いるのが特に好ましい。フッ素系撥水撥油剤としてはパーフルオロアルキル基を含有する化合物であれば特に限定されないがフッ素系重合体が好ましく挙げられる。フッ素系重合体は例えば特開2004-262970号公報に示された公知の製法によって合成することができる。また、市販のフッ素系撥水撥油剤を使用することもできる。市販のものであれば、例えば旭硝子株式会社製のアサヒガード 「AG-7000」、「AG-7105」が望ましい。
【0020】
本発明の撥水撥油加工用組成物は、浸透剤と撥水撥油剤を、水性媒体を用いて希釈して調製される。浸透剤は従来の浸透剤と同様の使い方が出来、組成物中に0.1〜1.0重量%が好ましい。少なすぎる場合には十分な浸透性が得られない。また多すぎる場合は浸透剤が均一に溶解しない問題がある。撥水撥油剤の量は撥水撥油加工用組成物の全重量の0.5〜20重量%程度であることが好ましい。撥水撥油剤の量が少なすぎると撥水撥油性能が発現しない場合がる。また多すぎても性能向上が見込めないうえに風合いの粗硬化等の問題が生じる恐れがある。撥水撥油加工用組成物の調製用の水性媒体は蒸留水の他に水道水、地下水を使用することができる。撥水撥油加工用組成物には、浸透剤と撥水撥油剤の他に必要に応じて架橋剤、帯電防止剤、柔軟仕上剤、難燃剤、及び消泡剤等を併用することができる。
【0021】
帯電防止剤としては、例えば高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物リン酸エステル塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物硫酸エステル塩などの化合物を水系媒体に溶解あるいは分散させたもの用いることができるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
架橋剤としては、例えばブロックドイソシアネート系化合物を水系媒体に分散させたものを用いることができる。この場合、原料イソシアネート化合物としては分子内にイソシアネート基を2個以上持つものが好ましく、更にこれらのイソシアネート基をブロック剤に反応させたものが好ましい。しかしながら、架橋剤はブロックドイソシアネート系化合物に限定されるものでは無く、例えばメラミン樹脂等も使用できる。
【0023】
柔軟仕上剤としては、例えばアミノ変性シリコーン系、エポキシ変性シリコーン系、カルボキシ変性シリコーン系などの化合物を水系媒体に溶解あるいは分散させたもの用いることができるがこれらに限定されるものではない。
【0024】
本発明で得られた浸透剤を含む撥水撥油加工用組成物のポリオレフィン系繊維製品への処理方法として、パディング(ディップニップ)法が挙げられるが、これに限定されるものではなく被処理物の形態等に応じて浸漬、スプレーによる吹き付け法、キスロール等任意の処理方法を利用することが出来る。
パディング法とは一般的に非処理物を撥水撥油加工用組成物に浸漬し、絞りローラーで過剰の液を除く方法でその後、加熱処理を実施するのが好ましい。加熱処理の条件は非処理物が乾燥し、かつ撥水撥油皮膜が繊維上に形成されるに十分な温度が好ましく通常は65℃〜180℃であるが、ポリオレフィン系繊維製品の場合は繊維の耐熱性の問題から130℃以下が好ましい。
【0025】
本発明の目的とする撥水撥油性能及び耐水圧性能は各繊維表面に撥水撥油剤が均一で充分に付着することにより発揮される。
【0026】
本発明において、ポリオレフィン系繊維製品とは、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン繊維を少なくとも一部に含む繊維製品を意味するものであり、ポリオレフィン繊維単独から成るものであっても、ポリオレフィン繊維と他の繊維を併用したものであってもよい、なお、製品の形状は、糸状、不織布、織物、編物などのいずれでもよい。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例における性能の測定と評価は下記の方法で行った。
【0028】
撥水性(撥アルコール性):WSP(Worldwide Strategic Partners)、EDANA(欧州不織布協会)とINDA(米国不織布協会)の協定に基づく不織布試験規格80.8(水/イソプロピルアルコール混合溶液、1−10級)により測定。
下記表に示された試験溶液を試料布の上に、滴下(直径約5mm)し、5分後の浸透状態を観察し判定。
浸透を示さない最高の標準試験溶液番号を撥水性とした。
【表1】

【0029】
撥油性:AATCCTest Method−118法に準じ、撥油性は下記表2に示された試験溶液を試料布の上に滴下(直径約5mm)し、30秒後の浸透状態により判定する。評価基準として下記の表2に記載の撥油性評価等級数字を用い、浸透を示さない最高の試験溶液番号を試料布の撥油性とした。
【表2】

【0030】
耐水圧:JIS L1092-98.6.1に準じ 静水圧法にて測定。n=5の平均値を算出。
各撥水撥油加工液にて処理された約18cm×18cmの試験片を耐水度(低水圧用)試験装置に表面が水に当たるように所定の取り付け、水を入れた水準装置を60±3cm/分の速さで上昇させて水位を上昇させ、試験布の裏側に3ヵ所から水が出た時の水位をcm単位にて測定する。
【0031】
臭気:各処方中の浸透剤30gを100mlのガラスビーカーに入れ、臭気を嗅ぎ、その強さを以下の判定基準により評価した。(5人による官能試験)5人の採点の平均値を計算し小数点を四捨五入した。
【表3】

【0032】
水酸基価:表4に基づき試料を採取、ピリジン約10mlに溶解した後、予め調整した無水酢酸/ピリジン混合溶液5mlを加え、1時間、95〜100℃に加温したオイルバスを用い還流させた。冷却後、蒸留水1mlを加え10分間還流させた。冷却後、エチルアルコール5mlを加え、指示薬としてフェノールフタレイン・エチルアルコール溶液を2滴加え、0.5Nのエタノール性水酸化カリウム溶液で滴定した。うす紅色が30秒間消えなくなったときを終点とし、次式で水酸基価を計算した
水酸基価={(B−A)×f×28.05}/W+酸価
A:本試験の0.5Nのエタノール性水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)
B:試料無しで行った空試験の0.5Nのエタノール性水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)
f:0.5Nのエタノール性水酸化カリウム溶液のファクター
W:試料の質量(g)
無水酢酸/ピリジン混合溶液:無水酢酸25gにピリジンを加え100mlとしたもの。
【表4】

【0033】
[合成例1]n-ブタノール・プロピレンオキサイド6モル付加物の合成
1LのSUS製オートクレーブに111.0gのn-ブタノール及び1.9gの苛性カリを仕込み、密閉する。オートクレーブ内を窒素置換後昇温し、140〜170℃の範囲でSUS製ボンベに仕込んだ521.9gのプロピレンオキサイドを窒素にて圧入後、約150℃で1時間熟成を行う。80℃まで冷却後オートクレーブ内を減圧にし、残留プロピレンオキサイドを留去する。その後、更に冷却し40〜50℃にて2.3gの酢酸(90%)にて中和後、取り出しを行ない635.0gの目的物を得た。生成物の水酸基価は132.1 KOH mg/gであった。
【0034】
[合成例2]n-ブタノール プロピレンオキサイド8モル付加物の合成
N−ブタノールの量を90.0g、苛性カリの量を2.0g、プロピレンオキサイドの量を564.3g、酢酸(90%)の量を2.4g使用し、合成例1と同じ方法で合成を行った。656.7gの目的物を得た。
生成物の水酸基価は103.9 KOH mg/gであった。
【0035】
[合成例3]n-ヘキサノールプロピレンオキサイド2モル付加物の合成
n-ヘキサノールを使用し、その使用量を300.0g、苛性カリの量を1.9g、プロピレンオキサイドの量を341.0g、酢酸(90%)の量を2.3g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。
644.1gの目的物を得た。生成物の水酸基価は255.9 KOH mg/gであった。
【0036】
[合成例4]n-ヘキサノールプロピレンオキサイド4モル付加物の合成
n-ヘキサノールを使用しその使用量を200.0g、苛性カリの量を2.0g、プロピレンオキサイドの量を454.8g、酢酸(90%)の量を2.4g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。
657.9gの目的物を得た。生成物の水酸基価は165.9 KOH mg/gであった。
【0037】
[合成例5]n-オクタノールプロピレンオキサイド2モル付加物の合成
Nオクタノールを使用しその使用量を350g、苛性カリの量を2.0g、プロピレンオキサイドの量を312.2g、酢酸(90%)の量を2.4g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。665.7 の目的物を得た。生成物の水酸基価は227.8KOH mg/gであった。
【0038】
[合成例6]ベンジルアルコールプロピレンオキサイド6モル付加物の合成
ベンジルアルコールを使用しその使用量を150g、苛性カリの量を1.9g、プロピレンオキサイドの量を483.4g、酢酸(90%)の量を2.3g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。637.0 の目的物を得た。生成物の水酸基価は123.3KOH mg/gであった。
【0039】
[合成例7]2,6-キシレノールプロピレンオキサイド3モル付加物の合成
2,6-キシレノールを使用しその使用量を250g、苛性カリの量を1.8g、プロピレンオキサイドの量を356.5g、酢酸(90%)の量を2.2g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。610.5 の目的物を得た。生成物の水酸基価は189.4KOH mg/gであった。
【0040】
[合成例8]n-ブタノール プロピレンオキサイド8モル・エチレンオキサイド2モル付加物の合成
1LのSUS製オートクレーブに80.0gのn-ブタノール及び2.0gの苛性カリを仕込み、密閉する。オートクレーブ内を窒素置換後昇温し、140〜170℃の範囲でSUS製ボンベに仕込んだ501.5gのプロピレンオキサイドを窒素にて圧入、次いでSUS製ボンベに仕込んだ95.1gのエチレンオキサイドを140〜170℃の範囲で圧入し、約150℃で1時間熟成を行う。80℃まで冷却後オートクレーブ内を減圧にし、残留プロピレンオキサイド及びエチレンオキサイドを留去する。その後、更に冷却し、40〜50℃にて2.4gの酢酸(90%)にて中和後、取り出しを行なった。680.1gの目的物を得た。生成物の水酸基価は89.7 KOH mg/gであった。
【0041】
[合成例9] n-ヘキサノール エチレンオキサイド3モル付加物の合成
n-ヘキサノールを使用しその使用量を270.0g、苛性カリの量を1.90g、エチレンオキサイドの量を363.6g、酢酸(90%)の量を2.3g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。637.8gの目的物を得た。生成物の水酸基価は239.5 KOH mg/gであった。
【0042】
[合成例10]ラウリルアルコールエチレンオキサイド7モル付加物の合成
ラウリルアルコールを使用しその使用量を250.0g、苛性カリの量を2.0g、エチレンオキサイドの量を413.7g、酢酸(90%)の量を2.4g用い、合成例1と同じ方法で合成を行った。667.5gの目的物を得た。生成物の水酸基価は112.4 KOH mg/gであった。
【0043】
[合成例11]n-プロパノールプロピレンオキサイド8モル付加物の合成
n-プロパノールを使用しその使用量を70.0g、苛性カリの量を1.8g、プロピレンオキサイドの量を541.2g、酢酸(90%)の量を2.2gにて合成例1と同じ方法で合成を行った。612.9gの目的物を得た。生成物の水酸基価は107.3 KOH mg/gであった。
【0044】
[合成例12]n-ヘキサノールプロピレンオキサイド1モル付加物の合成
n-ヘキサノールを使用しその使用量を400.0g、苛性カリの量を1.9g、プロピレンオキサイドの量を236.8g、酢酸(90%)の量を2.3gにて合成例1と同じ方法で合成を行った。640.5gの目的物を得た。生成物の水酸基価は349.4 KOH mg/gであった。
【0045】
[実施例1]
撥水撥油剤としてフッ素系撥水撥油剤アサヒガード AG-7000(旭硝子社製)5重量%、浸透剤としてn-ブタノールプロピレンオキサイド6モル付加物、0.5重量%、蒸留水94.5重量%で示される組成で撥水撥油加工処理液を調整、攪拌した。この撥水撥油加工用組成物をパディング法にてポリプロピレン不織布(SMMS:スパンボンド・メルトブロー・メルトブロースパンボンド構造)に付与し、付与後ピンテンターにて135℃で90秒間熱処理した後、撥水性・撥油性・耐水圧を評価した。尚、撥水撥油加工処理液のポリプロピレン不織布への浸透性を評価するために、ウエットピックアップ率(以後ピックアップと記す)の測定を行なった。
. ピックアップ(%) = [(W2 −W1)/W1] × 100
W1:浸漬前の布の重量、W2:浸漬後マングルロールで絞った布の重量
試験マングル:辻井染機工業製使用。マングルロール圧:3kg/cm
【0046】
[実施例2〜7]
使用浸透剤を表5の通りに変更する以外は、実施例1と同じ方法で処理及び評価を行った。
【0047】
[比較例1]
浸透剤を併用せず。それ以外は実施例1と同じ方法で処理及び評価を行った。
【0048】
[比較例2〜10]
使用浸透剤の種類と量を表5の通りに変更する以外は、実施例1と同じ方法で処理及び評価を行った。ただし、比較例3では撥水撥油剤の量を多くした。
【0049】
表5に実施例及び比較例で使用した処理液の成分及び得られた製品の評価結果を示すが、表5に示す処理液の撥水撥油剤及び浸透剤の濃度は重量%である。
【表5】

【0050】
AG-7000:アサヒガードAG-7000 (旭硝子社製フッ素系撥水撥油剤 有効成分約20%)
表1、2中のPOはプロピレンオキサイドを示し、EOはエチレンオキサイドを示す。
PO、EOの前に書かれた数字はそれぞれの付加モル数を示す(例えば、n-ブタノール6POは、n-ブタノールのプロピレンオキサイド6モル付加物を示す)。
【0051】
実施例1〜4の方法では、比較例1の浸透剤を併用しない処方と比較しピックアップが大幅に向上しており、撥水撥油加工処理液の試験布への浸透性が非常に良好であることが分かる。撥水撥油性能が大きく向上しており、耐水圧も未処理布の耐水圧とほぼ同等か若干低下する程度である。
比較例2において、低級アルコール類であるイソプロパノールを浸透剤に使用すると、ピックアップが向上せず、撥水撥油性能も向上しない。
比較例3において、撥水剤の濃度を2倍にしてもイソプロパノールの使用では撥水撥油性能の向上は見られなかった。
比較例5において、エチレングリコールモノブチルエーテルを浸透剤とした場合についても同様にピックアップの向上が見られず撥水撥油性能も向上しなかった。
比較例4において、n-ヘキサノール(溶解度0.6重量%)を浸透剤に使用した場合、ピックアップは向上しているが、撥水撥油性能が実施例1〜4よりも劣っており、臭気も非常に強い。
【0052】
実施例5〜7の方法においても、表5の比較例1の浸透剤を併用しない処方と比較しピックアップが大幅に向上しており、撥水撥油加工処理液の試験布への浸透性が非常に良好であることが分かる。撥水撥油性能が大きく向上しており、耐水圧も未処理布の耐水圧とほぼ同等か若干低下する程度である。
浸透剤として、n-ブタノール8PO2EOを使用した比較例6では、特に耐水圧が実施例1〜4と比較して大きく低下しており、撥水撥油性能も低下傾向にある。n-ヘキサノールのエチレンオキサイド3モル付加物を使用した比較例7、及び比較的大きなアルキル基とEO付加モル数を持つラウリルアルコール7EOを使用した比較例8も同様である。
【0053】
比較例9で、n-プロパノール8POを使用した場合には、ピックアップが向上せず、撥水撥油性能も向上しない。
比較例10で、n-ヘキサノール1POを使用した場合には、ピックアップは向上しているが、撥水撥油性能が実施例1〜4よりも劣っており、臭気も強い。
【0054】
比較例にn-ヘキサノール9PO及びn-ノナール2POを使用した試験を試みたが、これらの化合物は水に対して不溶であり試験を実施できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明による浸透剤は低臭気性で有り、ポリオレフィン系繊維製品に対する撥水撥油加工剤の浸透性を著しく向上させ、高い撥水撥油性能の付与を可能とし、良好な耐水圧を維持するので、ポリオレフィン系繊維製品を様々な用途に応用することが可能となる。代表例として、手術用衣服や手術用ドレープ、マスク等の医療・衛生用品等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を含むことを特徴とするポリオレフィン系繊維製品用の撥水撥油加工用浸透剤。
R1O-(C3H6O)m- H (I)
(ただし、R1は炭素数4〜8のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、mは2〜8の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の撥水撥油処理用浸透剤と撥水撥油剤を含むポリオレフィン系繊維製品用撥水撥油加工用組成物。
【請求項3】
前記撥水撥油剤がフッ素系撥水撥油剤である請求項2記載の撥水撥油加工用組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の撥水撥油加工用組成物を用いて加工が施されているポリオレフィン系繊維製品。

【公開番号】特開2011−106038(P2011−106038A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259567(P2009−259567)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(591018051)明成化学工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】