説明

ポリマーフィルムの性状調整装置

【課題】光学特性が均一であり、湿熱耐久試験の前後におけるレターデーションの変動が小さい位相差フィルムを製造する。
【解決手段】供給室4に収納されるTACフィルム3はテンタ部5に送られる。テンタ部5はTACフィルム3をY方向に延伸する。テンタ部5から送り出されたTACフィルム3は性状調整装置6に送られる。性状調整装置6には水蒸気接触ケーシング40が設けられる。水蒸気供給機64は水蒸気400を水蒸気接触ケーシング40の内部へ供給する。水蒸気接触ケーシング40には入口41及び出口42が形成される。入口41から出口42にかけてフィルム搬送路が形成される。水蒸気接触ケーシング40の内壁面における入口41及び出口42の上部には、受け部51、52が設けられる。受け部51、52は、結露によって水蒸気接触ケーシング40の内壁面に生じ、フィルム搬送路に向かって流下する水滴を受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムの性状調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用の支持体として利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れることから、市場が急激に拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,位相差フィルム,及び視野角拡大フィルムなどの光学フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法として、溶液製膜方法や溶融製膜方法が知られている。溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延し、流延膜を形成し、流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとし、湿潤フィルムを乾燥しフィルムとして巻き取る方法である。溶液製膜方法は、溶解したポリマーを押出機で押し出してフィルムを製造する溶融押出方法と比べて、光学特性の等方性や膜厚の均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、フィルム、特に光学機能性フィルムの製造方法には、溶液製膜方法が採用されている。
【0004】
また、溶液製膜方法は、流延膜に自己支持性を発現させる方法により、乾燥方式と冷却ゲル化方式とに大別される。乾燥方式は、流延膜の残留溶剤量を所定の範囲になるまで、支持体上の流延膜から溶剤を蒸発させるものである。一方、冷却ゲル化方式では、支持体上の流延膜を冷却して、流延膜をなすドープをゲル化させるものである(例えば、特許文献1)。
【0005】
更に、フィルムの光学特性の調整方法として、フィルムを水中に浸漬する、或いはフィルムを水蒸気に曝し、含水率が所定の範囲内となったフィルムを延伸する方法等が知られている(例えば、特許文献2、3)。
【特許文献1】特開2002−179819号公報
【特許文献2】特開2003−90915号公報
【特許文献3】特開2003−62899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、液晶表示装置に対して、所定の環境条件下で一定の特性、品質を確保できるか否かを調べる湿熱耐久試験が行われる。同様にして、液晶表示装置等に用いられるフィルムに対しても、湿熱耐久試験が行われる。ところが、このフィルムに湿熱耐久試験を行うと、フィルムの光学特性が変動してしまうことがわかった。特に、高温高湿の条件(例えば、温度60℃以上湿度90%RH)下における湿熱耐久試験の前後において、厚み方向のレターデーションRthの変動量が増大する結果、フィルムのレターデーションRthが液晶表示装置に適した範囲から大きく外れてしまう現象が多発した。
【0007】
特許文献1には、溶液製膜方法によって得られたフィルムに加湿処理を施して、高温高湿環境下におけるフィルムの寸法変化を抑制する方法が開示されている。これは、フィルムの含水率の増大に起因してガラス転移温度Tgが低下する現象を利用して、フィルム内の歪を除去するものである。このような加湿処理を行うことにより、位相差フィルムにおいて重要な光学特性である面内レターデーションReや厚み方向のレターデーションRthが変動すると考えられるが、特許文献1では、加湿処理に起因するレターデーションRe、Rthの変動について言及していない。したがって、特許文献1に記載の方法は、位相差フィルムのレターデーションRe、Rthの変動を考慮したものではない。
【0008】
また、特許文献2、特許文献3に記載の方法は、λ/4近傍のレターデーションReで異なったNzファクターを得るフィルムの製造方法に関するものであり、湿熱耐久試験前後における光学特性の変動を抑えることを考慮したものではない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、湿熱耐久試験前後におけるレターデーションRthの変動量が小さい位相差フィルムを製造することのできるポリマーフィルムの性状調整装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリマーフィルムの性状調整装置は、外ケーシングと、この外ケーシングの中空部に配される内ケーシングと、この内ケーシングの中空部へ水蒸気を供給する水蒸気供給部と、前記外ケーシングの中空部のうち、前記内ケーシングの外側にある第1雰囲気の温度が前記内ケーシングの中空部にある第2雰囲気の露点よりも高い状態となるように、前記第1雰囲気の温度を調節する雰囲気温度調節部と備えることを特徴とする。
【0011】
前記内ケーシングに断熱材を設けることが好ましい。また、前記内ケーシングの温度が前記第1雰囲気の露点より高い状態となるように、前記内ケーシングの温度を調節する内ケーシング温度調節部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、延伸処理を施されたポリマーフィルムに水蒸気を接触させる水蒸気接触処理を行うため、湿熱耐久試験前後におけるレターデーションRthの変動が小さい光学フィルムを製造することが可能になる。また、水蒸気接触処理が行われるケーシングは、貫通孔及びこの貫通孔よりも上方に受け部を有するため、結露によってケーシングに生じた水滴が貫通孔に向かって流れても、受け部がこの水滴を受け止める結果、水滴は貫通孔を通過するポリマーフィルムに到達しない。したがって、本発明によれば、ポリマーフィルムの表面に異物が付着しにくいため、表面状態が良好の光学フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(オフライン延伸設備)
図1に示すように、オフライン延伸設備2は、TACフィルム3を延伸するものであり、供給室4と、テンタ部5と、性状調整装置6と、冷却室7と、巻取室8とを備える。供給室4には、後述するフィルム製造設備で製造された長尺状のTACフィルム3が巻き芯に巻き取られた状態で収納されている。供給ローラ9は、巻き芯からTACフィルム3を取り出して、テンタ部5に供給する。
【0014】
(テンタ部)
図2に示すように、テンタ部5は、TACフィルム3をX方向に搬送するフィルム搬送路を有し、このフィルム搬送路にあるTACフィルム3をX方向と直交する方向(以下、Y方向と称する)に延伸する延伸処理を行うものであり、第1レール11と、第2レール12と、これらレール11,12に案内される1対のエンドレスチェーン(以下、第1、第2チェーンと称する)13,14とを備えている。第1、第2チェーン13,14には、複数のクリップ15が一定の間隔で取り付けられている。
【0015】
レール11、12は、フィルム搬送路のY方向両端に沿うように設けられ、フィルム搬送路を介して互いに対向するように配される。レール11,12のX方向上流側には、テンタ入口26が設けられ、レール11,12のX方向下流側には、テンタ出口27が設けられる。テンタ出口27のフィルム搬送路のY方向両側には、原動スプロケット21,22が設けられ、テンタ入口26のフィルム搬送路のY方向両側には、従動スプロケット23,24が設けられる。第1、第2チェーン13,14は、原動スプロケット21,22及び従動スプロケット23,24の間に掛け渡されており、これらスプロケット21〜24の間では、第1チェーン13は第1レール11によって、第2チェーン14は第2レール12によって案内される。各スプロケット21〜22が回転すると、第1、第2チェーン13、14はレール11、12に沿って移動する。第1、第2チェーン13、14の移動により、クリップ15はレール11、12に沿って移動する。
【0016】
テンタ入口26近傍のレール11,12には把持開始位置Paが設けられ、テンタ出口27近傍のレール11,12には把持解除位置Pbが設けられる。クリップ15が把持開始位置Paを通過すると、クリップ15はTACフィルム3の耳部を把持する状態となる。そして、クリップ15が把持解除位置Pbを通過すると、クリップ15はTACフィルム3の耳部の把持を解除する状態となる。レール11,12は、把持解除位置PbにおけるTACフィルム3のY方向の幅Wbが、把持開始位置PaにおけるTACフィルム3のY方向の幅Waよりも大きくなるように配される。各レール11,12に沿って移動するクリップ15により、把持開始位置Paから把持解除位置Pbでは、TACフィルム3はY方向に延伸される。なお、X方向における位置Pa及び位置Pbの間に位置Pcを設け、この位置PcにおけるTACフィルム3のY方向の幅Wcが、幅Waより大きくなるようにレール11、12を配してもよい。幅Wcは、幅Wbよりも大きくてもよいし、幅Wbと等しくてもよい。
【0017】
図示しない空調機により、テンタ部5の内部の雰囲気の条件を所定範囲内で一定となるように保持する。また、必要に応じて、テンタ部5を、X方向で複数のゾーンを分けて、ゾーン毎に、フィルム加熱条件を変えるようにしてもよい。例えば、X方向に順に、TACフィルム3を予熱するための予熱ゾーン、延伸可能な程度までTACフィルム3を加熱するための加熱ゾーン、及びTACフィルム3を延伸する延伸ゾーンを設けてもよいし、これらに加えて、TACフィルム3の延伸を停止し、TACフィルム3に残留する歪が緩和するようにTACフィルム3を加熱する熱緩和ゾーンを、延伸ゾーンよりもX方向下流側に設けてもよい。
【0018】
図1に示すように、テンタ部5と性状調整装置6との間には、耳切装置30が設けられる。耳切装置30は、TACフィルム3のY方向(図2参照)の側縁部をスリット状の耳屑として切り離す。耳切装置30に接続するカットブロア31は、この耳屑を細かく切断する。図示しない風送装置は、カットブロア31を経た耳屑をクラッシャ32に送り、クラッシャ32は耳屑を更に細かく切断して、チップとする。このチップはドープ調製用に再利用されるので、この方法はコストの点において有効である。
【0019】
性状調整装置6に送られたTACフィルム3には所定の処理が施され、TACフィルム3は光学フィルム35となる。性状調整装置6にて行われる所定の処理の詳細は後述する。光学フィルム35は、冷却室7に送られ、所定の温度になるまで冷却された後、巻取室8に送られる。
【0020】
巻取室8には、巻取り軸を有する巻取機36とプレスローラ37とが設けられている。巻取り軸には巻き芯36aが取り付けられる。巻取室8に送られた光学フィルム35は、プレスローラ37によって押圧されながら、巻き芯36aに巻き取られる。
【0021】
(性状調整装置)
図1に示すように、性状調整装置6は性状調整ケーシング6aを有する。性状調整ケーシング6aの中空部には水蒸気接触ケーシング40が設けられる。
【0022】
(水蒸気接触ケーシング)
水蒸気接触ケーシング40は、ステンレス鋼(例えば、SUS304)等から形成され、第1貫通孔41及び第2貫通孔42を側面に有する。水蒸気接触ケーシング40の天井は、第1貫通孔41及び第2貫通孔42を有する側面に向かうに従って低くなるように形成される。また、複数のローラ43は、水蒸気接触ケーシング40の中空部に設けられ、第1貫通孔41から第2貫通孔42に向かって千鳥状に並べられる。複数のローラ43により、水蒸気接触ケーシング40には、第1貫通孔41から第2貫通孔42にかけてフィルム搬送路が形成される。第1貫通孔41の上方及び第2貫通孔42よりも上方の水蒸気接触ケーシング40の内部には、第1受け部51及び第2受け部52がそれぞれ設けられる。
【0023】
複数のローラ(図示しない)は、性状調整ケーシング6aの中空部に設けられ、第1貫通孔41からX方向の上流側に向かって、及び第2貫通孔42からX方向の下流側に向かって、それぞれ並べられる。これらの複数のローラにより、性状調整ケーシング6aにはフィルム搬送路が形成される。性状調整ケーシング6aのフィルム搬送路は、第1貫通孔41及び第2貫通孔42を介して、水蒸気接触ケーシング40のフィルム搬送路と接続する。
【0024】
図3及び図4に示すように、第2受け部52は、受け板52a及び第1〜3側板52b〜52dから構成される。受け板52aは水蒸気接触ケーシング40の内壁面40aから突出するように設けられる。受け板52aの突出方向は、内壁面40aから水平方向でもよいし、内壁面40aから水平方向に対し斜め上の方向でもよい。また、受け板52aの上面の高さは、Y方向において一定でもよいし、Y方向において異なっていてもよい。Y方向における受け板52aの長さは、水蒸気接触ケーシング40のフィルム搬送路のY方向における長さよりも長いことが好ましい。
【0025】
第1〜第2側板52b〜52cは略垂直に設けられ、受け板52aのY方向の両端部に配される。第3側板52dは略垂直に設けられ、受け板52aのX方向の下流側に配される。こうして、第2貫通孔42よりも上方には、受け板52a、第1〜3側板52b〜52d、及び内壁面40aに囲まれる第2溜め部57が形成される。なお、第1〜3側板52b〜52dを省略してもよい。
【0026】
また、受け板52aよりも上方の内壁面40aには、内壁面40aにある水滴を第2溜め部57に案内する凸条61が設けられる。凸条61は、垂直方向に形成され、第2溜め部57まで伸びている。凸条61は垂直方向に対し斜めの方向に形成されてもよい。
【0027】
受け板52aには図示しない貫通孔が厚み方向に形成され、この貫通孔には排水管62が挿通される。なお、受け板52aの上面が水平方向と交差する場合には、受け板52aの上面のうち最も低い部分を貫通するように、貫通孔を設けることが好ましい。
【0028】
各溜め部56、57に溜まった水は、排水管62を介して、外部へ排出される。なお、排出した水を水蒸気供給機へ送り、所定の処理を経た後、水蒸気として再利用してもよい。
【0029】
同様にして、第1貫通孔41よりも上方にも、第1受け部51により、第2溜め部57と同様の第1溜め部56(図1参照)が形成される。そして、図示は省略するが、第1貫通孔41よりも上方の内壁面にも、凸条61と同様の凸条が設けられる。
【0030】
(水蒸気供給機)
図1に示すように、水蒸気供給機64は、加熱部、制御部、及び送り部を有する。加熱部は、水を加熱して所定の温度の水蒸気400を得る。送り部は、所定の流量の水蒸気400を水蒸気接触ケーシング40の中空部へ供給する。制御部は、水蒸気接触ケーシング40の中空部に設けられた温湿度センサから、温度及び湿度を読み取る。そして、制御部は、読み取った温度及び湿度に基づいて、水蒸気接触ケーシング40の中空部の雰囲気の温度T1及び湿度H1が所望の範囲となるように、加熱部による加熱量や、送り部による流量を調節する。
【0031】
次に、オフライン延伸設備2における本発明の作用について説明する。図1に示すように、供給ローラ9は、供給室4からTACフィルム3をテンタ部5に供給する。
【0032】
図2に示すように、図示しない空調機は、テンタ部5内の雰囲気の温度、湿度等を調節する。これにより、テンタ部5を通過するTACフィルム3の温度を所望の範囲内に調節することができる。図示しない駆動機構は、スプロケット21〜24を回転駆動し、第1、第2チェーン13、14は、第1、第2レール11、12に沿って移動する。第1、第2チェーン13、14に取り付けられるクリップ15は、把持開始位置PaにてTACフィルム3の方向Yの両側縁部を把持し、把持解除位置Pbにて両側縁部の把持を解除する。こうして、テンタ部5では、把持開始位置Paから把持解除位置Pbまでの間で、方向Yへの延伸処理がTACフィルム3に施される。テンタ部5におけるTACフィルム3の延伸率Lx{=(Wb/Wa)×100}は、100.5%以上300%以下であることが好ましく、110%以上180%以下であることがより好ましい。
【0033】
図1に示すように、テンタ部5から送られたTACフィルム3は、耳切装置30により、両側縁部が切り離され、性状調整装置6へ送られる。性状調整装置6にて所定の処理が行われる。この処理の詳細は後述する。性状調整装置6から送り出されたTACフィルム3は冷却室7に送られる。TACフィルム3は、冷却室7で略室温まで冷却される。冷却されたTACフィルム3は、光学フィルム35となって、巻取室8に送られ、プレスローラ37によって押圧されながら、巻取機36の巻き芯36aに巻き取られる。
【0034】
図1及び図3に示すように、性状調整装置6へ送られたTACフィルム3は、性状調整ケーシング6a及び水蒸気接触ケーシング40に設けられたフィルム搬送路に案内される。水蒸気供給機64は水蒸気400を水蒸気接触ケーシング40に供給する。水蒸気接触ケーシング40内では、所定の温度T1及び湿度H1に調節された湿潤気体がTACフィルム3と接触する。こうして、水蒸気接触ケーシング40内では水蒸気接触処理が施される。
【0035】
水蒸気接触処理によって、TACフィルム3は水分子を吸収し、ガラス転移温度Tgが低下するとともに、一定以上の熱エネルギーを得るため、TACフィルム3における水分子の拡散が促進される。TACフィルム3における水分子の拡散の促進により、ポリマー分子の高次構造がより安定な構造に遷移しやすくなる結果、乾いたTACフィルム3を単に加熱する処理に比べ、ポリマー分子の構造の安定化を短時間で行うことができる。
【0036】
したがって、本発明によれば、湿熱耐久試験の前後における厚み方向レターデーションRthの変動量が小さいTACフィルム3を製造することができる。
【0037】
また、水蒸気接触ケーシング40の内壁面40aの温度が、水蒸気接触ケーシング40の中空部にある雰囲気の露点よりも低い場合には、内壁面40aに結露が生じてしまう。内壁面40aのうち、第2貫通孔42よりも上方にて生じた水滴は、第2貫通孔42に向かって流下する。そして、この水滴が第2貫通孔42を通過するTACフィルム3に到達すれば、最終的に、水滴に付着した異物が光学フィルム35に残留してしまう。
【0038】
本発明では、第2貫通孔42よりも上方の内壁面40aに第2受け部52を設けるため、第2貫通孔42に向かって流れる水滴は、TACフィルム3に到達する前に、受け板52aによって受け止められる。こうして、第2貫通孔42に向かって流れる水滴を、第2溜め部57により溜めることができる。同様にして、第1貫通孔41よりも上方の内壁面40aに第1受け部51を設けるため、第1貫通孔41に向かって流れる水滴は、TACフィルム3に到達する前に、第1受け部51によって受け止められる。したがって、本発明によれば、結露によって生じた水滴がTACフィルム3へ到達することを防ぐことができるため、光学フィルム35の表面における異物の残留が抑えられ、最終的に、表面状態が良好の光学フィルムを製造することができる。
【0039】
なお、水蒸気接触ケーシング40の外部にある雰囲気との温度差によって内壁面40aの温度が低下することを避けるために、断熱材を水蒸気接触ケーシング40に設けることが好ましい。特に、水蒸気接触ケーシング40のうち、第1貫通孔41及び第2貫通孔42よりも上方に断熱材を設けることが好ましい。また、断熱材は、水蒸気接触ケーシング40の内壁面40a及び外壁面のいずれに設けてもよいし、水蒸気接触ケーシング40の内部、すなわち内壁面及び外壁面の間に設けてもよい。水蒸気接触ケーシング40に断熱材を設けることにより、水蒸気接触ケーシング40及びこの中空部にある熱が、水蒸気接触ケーシング40の外部へ拡散することを防ぐことができるため、内壁面40aの温度の低下を抑え、結果として、内壁面40aにおける結露の発生を抑えることができる。
【0040】
断熱材の材料として、例えば、グラスウールやロックウールを用いることが好ましい。
【0041】
また、水蒸気接触ケーシング40の外部にある雰囲気との温度差によって内壁面40aの温度が低下することを避けるために、水蒸気接触ケーシング40の温度を調節する温度調節機を設けてもよい。これらの断熱材及び温度調節機は、いずれか一方のみを用いてもよいし、併用してもよい。
【0042】
上記実施形態では、第1貫通孔41及び第2貫通孔42を矩形状に形成した(図4参照)が、本発明はこれに限られず、各貫通孔の内壁面のうち上方の部分が水平方向に対して斜めになるような形状に形成してもよい。これにより、貫通孔の内壁面のうち上方の部分に生成した水滴は、より低い部分、すなわち貫通孔の内壁面のうち側方の部分に向かって流れる結果、貫通孔を通過するTACフィルム3等への水滴の流下を防ぐことができる。
【0043】
上記実施形態では、性状調整ケーシング6aの中空部に水蒸気接触ケーシング40を1つ設けたが、本発明はこれに限られず、性状調整ケーシング6aの中空部に水蒸気接触ケーシングを複数設けてもよい。複数の水蒸気接触ケーシングを並べる方向は、性状調整ケーシング6a内に設けられたフィルム搬送路上に設けられることが好ましく、水平方向であってもよいし、垂直方向であってもよい。
【0044】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図5に示すように、性状調整ケーシング6aには、複数のローラ43が並べられ、各ローラ43の間のフィルム搬送路には、複数の水蒸気接触ケーシング70が設けられている。複数の水蒸気接触ケーシング70は、それぞれ水蒸気供給機64(図1参照)と接続する。水蒸気供給機64は、各水蒸気接触ケーシング70の内部における雰囲気の温度及び湿度が所定の範囲内となるように、所定の温度の水蒸気400を所定の流量で、それぞれ水蒸気接触ケーシング70へ個別に供給する。水蒸気400の温度及び流量の調節は、供給する水蒸気接触ケーシング70ごとに個別に行ってもよい。
【0045】
水蒸気接触ケーシング70は、天板70a、底板70b、及び側板70cから構成される。天板70aには第1貫通孔71が設けられ、底板70bには第2貫通孔72が設けられる。水蒸気接触ケーシング70の内部には、第1貫通孔71から第2貫通孔72にかけてフィルム搬送路が形成される。
【0046】
天板70aの上面及び下面は、第1貫通孔71が形成される部分から側板70cに向かって低くなるように形成されることが好ましい。同様にして、底板70bの上面及び下面は、第2貫通孔72が形成される部分から側板70cに向かって低くなるように形成されることが好ましい。
【0047】
また、側板70cを貫通する排出孔73が、水蒸気接触ケーシング70の内壁面のうち最も低い部分から水蒸気接触ケーシング70の外壁面に向かうに従って低くなるように形成される。底板70bの下面のうち最も低い部分(以下、最低部分と称する)よりも下方には、結露により生じた水滴を受ける容器74が設けられる。容器74にある水滴は、図示しない送液装置により、水蒸気接触ケーシング70の外部へ送られる。なお、側板70cを貫通する排出孔73に代えて、底板70bを貫通する排出孔を設けてもよい。
【0048】
水蒸気接触ケーシング70をなす天板70a及び底板70bの上面及び下面が、各貫通孔71、72が形成される部分から側板70cに向かって低くなるように形成されるため、天板70a及び底板70bの上面及び下面において結露により生じた水滴は側板70cに向かって流れる。側板70cの内側の面及び外側の面では、天板70aからの水滴とともに、側板70cにて結露により生じた水滴が流下する。側板70cの内側の面を流下する水滴は、排出孔73を介して、側板70cの外側の面に到達する。こうして、水蒸気接触ケーシング70に生成した水滴は、底板70bの最低部分に集まる。本発明では、底板70bの最低部分よりも下方に容器74を設けるため、水蒸気接触ケーシング70において結露により生じた水滴を、容器74に受けることができる。したがって、本発明によれば、結露によって生じた水滴がTACフィルム3に到達することを防ぐことができるため、最終的に、表面状態が良好の光学フィルムを製造することができる。
【0049】
以下、各処理の詳細について説明する。
【0050】
(水蒸気接触処理)
水蒸気接触処理におけるTACフィルム3の温度Tf1の下限は、100℃以上であることが好ましく、102℃以上であることがより好ましく、104℃以上であることが特に好ましい。また、温度Tf1の上限は、150℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることが特に好ましい。温度Tf1が100℃未満となると、湿熱耐久試験前後における光学特性の変化量を低減するのに必要な水蒸気接触処理の時間が長くなるため好ましくない。温度Tf1が150℃を超えると、TACフィルム3のカールが顕著となるため好ましくない。したがって、水蒸気接触ケーシング40内における雰囲気の温度T1は、温度Tf1が上記の範囲となるように適宜調節すればよい。
【0051】
水蒸気接触ケーシング40内における雰囲気の相対湿度H1は、20%RH以上100%RH以下であることが好ましく、40%RH以上100%RH以下であることがより好ましく、70%RH以上100%RH以下であることが特に好ましい。相対湿度H1が20%RH未満である場合には、ΔRthWETを抑制する効果が小さいため好ましくない。
【0052】
また、水蒸気接触処理の処理時間P1の範囲は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。処理時間P1の上限として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間P1の下限として、例えば、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、30秒以上であることが特に好ましい。
【0053】
(結露防止処理)
性状調整ケーシング6aの中空部において、水蒸気接触ケーシング40よりも上流側に結露防止処理を行う結露防止ゾーンを設けてもよい。また、性状調整ケーシング6aの中空部をX方向に複数のゾーンに仕切る仕切り板を設け、X方向上流側から順に結露防止ゾーン及び水蒸気接触ゾーンを設けてもよい。結露防止ゾーンにある雰囲気の露点が、水蒸気接触ケーシング40の温度よりも高い場合には、水蒸気接触ケーシング40の外壁面において結露が生じてしまう。このような場合には、水蒸気接触ケーシング40の外壁面のうち第1貫通孔41の上方の部分に、第1受け部51と同様の構造の受け部を設けてもよい。
【0054】
水蒸気接触処理中のTACフィルム3における結露を抑えるために、水蒸気接触処理が施される前のTACフィルム3に高温気体をあて、上記実施形態のTACフィルム3の温度を所定の範囲内にする結露防止処理を行うことが好ましい。結露防止処理と水蒸気接触処理とを順次連続して行うことが好ましい。
【0055】
結露防止処理の完了時におけるTACフィルム3の温度Tf0の範囲は、水蒸気接触ケーシング40内における雰囲気の露点よりもΔT0だけ高い温度にすることが好ましい。ΔT0は5℃以上150℃以下であることが好ましく、10℃以上150℃以下であることがより好ましい。ΔT0が5℃未満となると、結露防止効果が薄れるため好ましくない。ΔT0が150℃を超えるとフィルムが軟化しやすくなるため好ましくない。より具体的には、Tf0は80℃以上160℃以下であることが好ましく、100℃以上140℃以下であることがより好ましい。
【0056】
(熱処理)
同様にして、性状調整ケーシング6aの中空部において、水蒸気接触ケーシング40よりも下流側に、熱処理を行う熱処理ゾーンを設けてもよい。また、性状調整ケーシング6aの中空部をX方向に複数のゾーンに仕切る仕切り板を設け、X方向上流側から順に水蒸気接触ゾーン及び熱処理ゾーンを設けてもよい。そして、水蒸気接触ケーシング40の外壁面のうち第2貫通孔42の上方の部分に、受け部51と同様の構造の受け部を設けてもよい。
【0057】
水蒸気接触処理を経たTACフィルム3に乾燥気体をあて、TACフィルム3の温度を所定の範囲内にする熱処理を行うことが好ましい。水蒸気接触処理と熱処理とを順次連続して行うことが好ましい。この熱処理により、湿熱耐久試験の前後のみならず、乾熱耐久試験の前後における各レターデーションの変動量、X方向、又はY方向の寸法変化量の小さいTACフィルム3を製造することができる。ここで、乾熱耐久試験とは、高温低湿度の条件(例えば、温度80℃以上湿度5%RH以下)下で行われる耐久試験を指す。
【0058】
熱処理におけるTACフィルム3の温度Tf2の下限は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また、温度Tf2の上限は160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。したがって、乾燥気体の温度は、温度Tf2と同等の範囲内とすることが好ましい。温度Tf2が110℃未満となる、或いは、温度Tf2が160℃を超えると、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験の前後における各レターデーションの変動量、X方向の寸法変化量、及びY方向の寸法変化量を抑えることができないため好ましくない。また、温度Tf2は、温度Tf1よりも高いことが好ましい。
【0059】
熱処理における乾燥気体の相対湿度H2は、20%RH以下であることが好ましく、10%RH以下であることがより好ましい。乾燥気体の相対湿度H2が20%RHを超える場合には、フィルムの含水率を増加させ、ロールの巻き姿など経時で変形するため好ましくない。
【0060】
また、熱処理の処理時間P2の上限は、5分以下であることが好ましく、4分以下であることがより好ましい。一方、処理時間P2の下限は、1分以上であることが好ましい。処理時間P2が5分を超える、或いは、1分未満であると、湿熱耐久試験及び乾熱耐久試験の前後における各レターデーションの変動量、X方向、又はY方向の寸法変化量を抑えることができないため好ましくない。
【0061】
上記実施形態では、性状調整ケーシング6a、及び性状調整ケーシング6aの中空部に配された水蒸気接触ケーシング40から構成される性状調整装置6を用いたが、本発明はこれに限られず、性状調整ケーシング6aを省略し、水蒸気接触ケーシング40を性状調整装置としてもよい。
【0062】
上記実施形態の延伸処理では、TACフィルム3をY方向に延伸したが、本発明はこれに限られず、TACフィルム3をX方向に延伸してもよいし、TACフィルム3をX方向及びY方向に延伸してもよい。また、延伸手段としては、テンタ部5のように、TACフィルム3に所定のテンションを付与することができるものであればよい。
【0063】
水蒸気接触処理が施されるTACフィルム3は、十分乾燥された、すなわち溶剤がほとんど残っておらず、ポリマー分子の流動性がほとんど消失しているものを用いることが好ましく、乾量基準の残留溶剤量が5重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましく、0.3重量%以下であることが特に好ましい。ここで、乾量基準の残留溶剤量とは、湿潤フィルムやTACフィルム3に残留する溶剤の量を示したものを指す。残留溶剤量は、対象となるフィルムからサンプルフィルムを採取し、採取時のサンプルフィルムの重量をx、サンプルフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。
【0064】
TACフィルム3の幅は600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましく、2500mmより大きい場合にも本発明の効果が発現する。また、TACフィルム3の厚みが20μm以上200μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0065】
TACフィルム3は、溶液製膜方法によって製造されたものを用いることが好ましく、特に、冷却ゲル化方式により製造されたものを用いることが好ましい。以下、冷却ゲル化方式の概要について説明する。なお、上記実施形態と同一の部材などには同一の符号を付しその詳細の説明は省略する。
【0066】
図6に示すように、フィルム製造設備80は、冷却ゲル化方式の溶液製膜方法を行う。ポリマーと溶剤とを含む流延ドープ81の温度は、30℃以上40℃以下の範囲内でほぼ一定となるように維持されている。図示しない制御部の制御の下、流延ドラム82は軸82aを中心に回転する。この回転により、周面82bは、所定の速度(50m/分以上200m/分以下)で方向Z1へ走行する。また、伝熱媒体循環装置83により、周面82bの温度は、−10℃以上10℃以下の範囲内で略一定に保持される。
【0067】
流延ダイ84は、流延ドープ81を周面82bへ吐出する。減圧チャンバ85は、吐出された流延ドープ81が形成するビードの方向Z1下流側を減圧し、ビードの安定化を図る。吐出した流延ドープ81により、周面82b上に流延膜86が形成する。流延膜86をなす流延ドープ81は、周面82b上での冷却によりゲル化が進行する。流延ドープ81のゲル化の結果、流延膜86には自己支持性が発現する。本明細書において、ゲル化とは、流延ドープ81に含まれる溶剤がポリマーの分子鎖の中で保持された状態で流動性を失い、結果的に流延ドープ81の流動性が失われた状態にあることを意味する。流延膜86は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム88として剥取ローラ89で支持されながら周面82bから剥ぎ取られる。剥ぎ取り時の流延膜86の残留溶剤量は、250重量%以上280重量%以下であることが好ましい。
【0068】
ゲル化状態が維持された湿潤フィルム88は、渡り部90、ピンテンタ91、及びテンタ部5へ順次送られる。なお、テンタ部5は省略してもよい。渡り部90、ピンテンタ91、及びテンタ部5では、湿潤フィルム88に所定の乾燥空気をあてて、湿潤フィルム88に含まれる溶剤を蒸発させる。渡り部90におけるドローテンション(=V2/V1)は、1.00以上1.05以下とすることが好ましい。ここで、V1は、第1の搬送ローラの周速度であり、V2は、第1の搬送ローラの下流側に設けられた第2の搬送ローラの周速度である。
【0069】
また、ピンテンタ91やテンタ部5では、溶剤の蒸発を行いつつ、湿潤フィルム88を所定の方向に延伸する延伸処理を行う。ピンテンタ91に導入される湿潤フィルム88の残留溶剤量は、200重量%以上250重量%以下であることが好ましい。テンタ部5に導入される湿潤フィルム88の残留溶剤量は、30重量%以上200重量%以下であることが好ましい。
【0070】
乾燥室97では、湿潤フィルム88に所定の乾燥空気をあてて、湿潤フィルム88に含まれる溶剤を蒸発させる。乾燥室97における湿潤フィルム88の温度は140℃以上180℃以下であることが好ましい。
【0071】
乾燥室97にて十分に乾燥した湿潤フィルム88は、TACフィルム3となり、冷却室7では所定の温度になるまで冷却処理が施される。また、強制除電装置98は、TACフィルム3の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように除電する。ナーリング付与ローラ99は、TACフィルム3の両縁にエンボス加工でナーリングを付与する。その後、TACフィルム3は、巻取室8に送られ、プレスローラ37によって押圧されながら、巻取機36の巻き芯36aに巻き取られる。
【0072】
フィルム製造設備80では、テンタ部5を、ピンテンタ91と乾燥室97との間に設けたが、本発明はこれに限られず、乾燥室97と冷却室7の間に設けてもよい。
【0073】
上記実施形態では、オフライン延伸設備2(図1参照)において、溶液製膜方法によって製造されたTACフィルム3に延伸処理を施し、その後に水蒸気接触処理を行ったが、本発明はこれに限られない。オフライン延伸設備2において、供給室4(図1参照)に収納されているTACフィルム3が延伸処理を経ている場合には、テンタ部5を省略し、巻き芯から取り出したTACフィルム3について、そのまま水蒸気接触処理を行ってもよい。
【0074】
上記実施形態では、フィルム製造設備80における支持体として流延ドラム82を用いたが、本発明はこれに限られず、走行するエンドレスバンドを用いても良い。また、流延膜86に乾燥空気を接触させて、流延膜86から溶剤を蒸発させることにより、流延膜86に自己支持性を発現させてもよい。
【0075】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0076】
上記実施形態では、TACフィルムを用いたが、本発明はTACフィルムに限られず、セルロースアシレートや環状オレフィン等、他のポリマーからなり、溶液製膜方法によって得られるポリマーフィルムや、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフィルムにも用いることができる。
【0077】
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0078】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0079】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0080】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0081】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0082】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0083】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0084】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0085】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0086】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0087】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0088】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0089】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0090】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0091】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0092】
【化1】

【0093】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0094】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0095】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0096】
【化2】

【0097】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0098】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【0099】
(用途)
本発明の光学フィルムは、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして有用である。この光学フィルムに光学的異方性層、反射防止層、防眩機能層等を付与して、視野角拡大フィルムや防眩フィルム等の高機能フィルムとしてもよい。
【0100】
位相差フィルムとして用いる場合、面内レターデーションReは30nm以上100nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRthは70nm以上300nm以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】オフライン延伸設備の概要を示す説明図である。
【図2】テンタ部の概要を示す平面図である。
【図3】第1の水蒸気接触ケーシングの内部の概要を示す斜視図である。
【図4】第1の水蒸気接触ケーシングの内部に設けられた受け部の分解斜視図である。
【図5】第2の水蒸気接触ケーシングの概要を示す部分断面図である。
【図6】フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0102】
2 オフライン延伸設備
3 TACフィルム
5 テンタ部
6 性状調整装置
35 光学フィルム
40 水蒸気接触ケーシング
41、42 貫通孔
51、52 受け部
56、57 溜め部
64 水蒸気供給機
80 フィルム製造設備
400 水蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外ケーシングと、
この外ケーシングの中空部に配される内ケーシングと、
この内ケーシングの中空部へ水蒸気を供給する水蒸気供給部と、
前記外ケーシングの中空部のうち、前記内ケーシングの外側にある第1雰囲気の温度が前記内ケーシングの中空部にある第2雰囲気の露点よりも高い状態となるように、前記第1雰囲気の温度を調節する雰囲気温度調節部と備えることを特徴とするポリマーフィルムの性状調整装置。
【請求項2】
前記内ケーシングに断熱材を設けることを特徴とする請求項1記載のポリマーフィルムの性状調整装置。
【請求項3】
前記内ケーシングの温度が前記第1雰囲気の露点より高い状態となるように、前記内ケーシングの温度を調節する内ケーシング温度調節部を有することを特徴とする請求項1または2記載のポリマーフィルムの性状調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−158788(P2010−158788A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−764(P2009−764)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】