説明

ポリマー複合セメント板の製造方法

【課題】セメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料の成形時の成形不良や、ポリマー複合セメント板の耐久性の低下を招くことなく、ポリマー複合セメント板の比重を調整可能なポリマー複合セメント板の製造方法を提供する。
【解決手段】水硬性材料、水及び油性物質を含有するセメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合セメント板を製造する。前記水硬性材料としてセメント及び高炉スラグを含有する混合物を使用する。成形前の前記セメント系成形材料の硬さを、このセメント系成形材料に断面積78.5mmの貫入針を2.94Nの貫入力で貫入した場合の貫入針の貫入深さが3〜20mmの範囲となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁材などとして用いられるポリマー複合セメント板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外壁材などの外装建材は耐透水性等が必要とされるが、セメント系の板は一般に耐透水性が十分に高いとはいえない。そこで従来からセメント系の板の耐透水性を高めることが検討されており、セメントと水と油性物質を主成分とするセメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料を成形することによって、耐透水性に優れたポリマー複合セメント板を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
このようなポリマー複合セメント板を製造する際には、例えばセメント系成形材料を押出成形するなどして成形して成形体を作製し、この成形体を養生硬化することがおこなわれている。
【0004】
このようにポリマー複合セメント板を製造する際は、セメント系成形材料の含水量を調整したり、軽量骨材の含有量を調整したりすることで、ポリマー複合セメント板の比重を調整している。ポリマー複合セメント板の比重を上げると、その強度を向上すると共に軽量骨材の使用量を低減して製造コストを削減することができる。
【0005】
しかし、ポリマー複合セメント板の比重を上げるためにセメント系成形材料の含水量を低くすると、このセメント系成形材料が硬くなってしまって成形性が悪化し、押出成形時に押出金型が詰まってしまうなどして成形不良が発生してしまう。また、セメント系成形材料中の軽量骨材の含有量を低くすると、セメント系成形材料の硬さの上昇は抑制されるが、ポリマー複合セメント板の耐久性が充分に確保できなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−252670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、セメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料の成形時の成形不良や、ポリマー複合セメント板の耐久性の低下を招くことなく、ポリマー複合セメント板の比重を調整し、強度を向上すると共に生産コストを低減することができるポリマー複合セメント板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水硬性材料、水及び油性物質を含有するセメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合セメント板を製造する方法であって、前記水硬性材料としてセメント及び高炉スラグを含有する混合物を使用し、成形前の前記セメント系成形材料の硬さを、このセメント系成形材料に断面積78.5mmの貫入針を2.94Nの貫入力で貫入した場合の貫入針の貫入深さが3〜20mmの範囲となるように調整することを特徴とする。
【0009】
このため、セメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料中に水硬性材料としてセメントに加えて高炉スラグを含有させることで、セメント系成形材料の含水量が低減してもセメント系成形材料の硬さの上昇を抑制することができると共に、ポリマー複合セメント板の耐久性の低下を抑制することができる。
【0010】
本発明においては、前記セメント及び高炉スラグの合計量に対する高炉スラグの割合が20〜70質量%の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料の成形時の成形不良や、ポリマー複合セメント板の耐久性の低下を招くことなく、セメント系成形材料中の含水量を低減し、ポリマー複合セメント板の比重を高くして強度を向上すると共に生産コストを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の一例について説明する。
【0013】
まず、セメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料を調製する。このセメント系成形材料は、水硬性材料と水と油性物質を主成分とする。
【0014】
前記水硬性材料として、セメントと高炉スラグとの混合物が用いられる。セメントとしては、特に制限されるものではないが、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカフュームセメントなどが挙げられる。これらの水硬性材料を一種単独で用いたり、二種以上を併用したりすることができる。
【0015】
このセメント及び高炉スラグの合計量に対する高炉スラグの割合は、20〜70質量%の範囲であることが好ましい。このように高炉スラグの割合を20質量%以上とすると、セメント系成形材料の含水量を低下させた場合でもセメント系成形材料の硬さの上昇を著しく抑制することができるようになり、且つこの割合を70質量%以下とするとポリマー複合セメント板の強度を充分に高く維持することができるようになる。
【0016】
また水は、セメント系成形材料の含水量がこのセメント系成形材料の固形分全量に対して28〜55質量%の範囲となるようにセメント系成形材料に配合することが好ましい。セメント系成形材料の含水量を前記範囲とすることで、セメント系成形材料の成形性を確保しつつポリマー複合セメント板の比重を充分に向上することができる。
【0017】
油性物質は水と逆エマルション(W/Oエマルション)を形成するために使用される。油性物質としては、特に制限されるものではないが、通常は疎水性の液状物質が利用される。油性物質の具体例としては、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの油性物質を一種単独で用いたり、二種以上を併用したりすることができる。油性物質の配合量は、セメント系成形材料中の水と固形分の総量に対して5〜10体積%の範囲が好ましい。
【0018】
セメント系成形材料には上記の成分の他に、乳化剤を配合することが好ましい。乳化剤は逆エマルションに安定性を付与するために配合される。乳化剤の具体例としては、ソルビタンセスキオール、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。乳化剤の配合量はセメント系成形材料中の水と固形分の総量に対して1〜3体積%の範囲が好ましい。
【0019】
また、セメント系成形材料には軽量骨材を含有させることが好ましい。軽量骨材の具体例としては、フライアッシュバルーン、パーライト、シラスバルーン等のほか、発泡ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン発泡体等の有機発泡体等が挙げられる。この軽量骨材の配合量は、水硬性材料100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲とすることが好ましく、この場合、ポリマー複合セメント板の耐久性を充分に確保しつつポリマー複合セメント板の比重を充分に向上することができる。
【0020】
セメント系成形材料中にはさらに、適宜量の補強材や各種添加剤を配合することができる。補強材の具体例として、砂利、ガラス粉、アルミナシリケートなどの骨材、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどの補強繊維が挙げられる。
【0021】
以下に、セメント系成形材料の具体的な調製方法の一例を示す。まず、乳化剤(例えば、ヤシ油1.0〜2.0質量部)、スチレンモノマー4.0〜6.0質量部、適量の水及び適量の架橋剤と重合開始剤とを混合して逆エマルション混合物を調製する。次に、この逆エマルション混合物100質量部と、水硬性材料70〜90質量部と、有機系軽量骨材0.1〜2質量部と、補強繊維1.0〜2.0質量部とを混合すると共に含水量を固形分全量に対して28〜55質量%とする。或いは上記逆エマルション混合物100質量部と、セメント55.0〜75.0質量部と、無機系軽量骨材5〜40質量部と、補強繊維1.0〜2.0質量部とを混合すると共に含水量を固形分全量に対して28〜55質量%とする。この逆エマルション混合物と他の成分とは、例えば強制攪拌機あるいは連続混合機を用いて混合することができる。これにより、セメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料を調製することができる。
【0022】
このようにしてセメント系成形材料を調製する際、このセメント系成形材料の硬さを、このセメント系成形材料に断面積78.5mm(直径10mm)の貫入針を2.94N(300g重)の貫入力で貫入した場合の貫入針の貫入深さが3〜20mmの範囲となるように調整する。この貫入深さが3mmに満たないとセメント系成形材料が硬くなりすぎて成形性が充分に確保されなくなってしまい、また20mmより深くなるとセメント系成形材料の保形成が悪くなってしまう。このセメント系成形材料の硬さの測定は、JIS A 1147で規定されるコンクリートの凝結時間試験方法に使用されるセメント凝結試験機を用いておこなうことができる。セメント系成形材料の硬さ調整は、セメント系成形材料の構成成分に応じ、各構成成分の含有量を上記範囲内で調整することでおこなうことができる。
【0023】
このようにしてセメント成形材料を調製すると、このセメント成形材料の含水量を低減しつつ、セメント系成形材料の硬さの上昇を抑制することができる。
【0024】
このセメント系成形材料を成形して成形体を作製する。成形体の作製にあたっては、例えばセメント系成形材料を押出成形し、或いは更にプレス成形することで、成形体を作製することができる。このセメント系成形材料の成形時には、前記のとおりセメント系成形材料の硬さの上昇が抑制されているため、セメント系成形材料の良好な成形性が確保され、押出成形時に押出金型が詰まってしまうなどの成形不良の発生が抑制される。
【0025】
この成形体を、セメント系成形材料の組成等に応じた適宜の条件で蒸気養生して硬化させた後、必要に応じて表面や端面の仕上げ加工を行うと共に所定の寸法に裁断することで、ポリマー複合セメント板を得ることができる。このポリマー複合セメント板には必要に応じて実加工等を施してもよい。
【0026】
このようにしてポリマー複合セメント板を製造すると、上記のように成形性を悪化させることなくセメント系成形材料の含水量を低減することができるため、ポリマー複合セメント板の比重を上昇させることが容易となり、またポリマー複合セメント板の製造時に成形体から養生に使用されない水分を蒸発させるために要する時間を短縮することができてポリマー複合セメント板の製造効率が向上する。しかもセメント系成形材料中に水硬性材料として高炉セメントが含有されていることで、前記のようにセメント系成形材料の含水量を低減させてもポリマー複合セメント板の耐久性を充分に確保することができるようになる。
【実施例】
【0027】
以下、具体的な実施例を提示することで本発明を更に詳述する。
【0028】
[実施例1〜7、比較例1〜3]
実施例及び比較例それぞれにつき、セメント(比表面積4000±300cm/g)、高炉スラグ(比表面積4000±1000cm/g)、軽量骨材(パーライト;昭和化学工業株式会社製の品番B−03)、ポリプロピレン繊維、スチレン、乳化剤(ソルビタン脂肪酸エステル;第一工業製薬株式会社製の商品名ソルゲン40D)、添加剤(重合開始剤;日本油脂株式会社製の品番PCHO、並びに架橋剤;第一工業製薬株式会社製の品番TMPTM)及び水を表1に示す割合で配合し、アイリッシュミキサーで混練することでセメント系成形材料を調製した。尚、表1における水の配合量は、セメント系成形材料中の固形分量に対する割合で示している。
【0029】
このセメント系成形材料を押出成形して成形体を作製し、この成形体を養生硬化することでポリマー複合セメント板を製造した。
【0030】
[評価]
各実施例及び比較例について、材料硬さ、成形性(金型詰まり)、比重、曲げ強度比、及び耐久性を評価した。
【0031】
材料硬さの評価にあたっては、各セメント系成形材料に、セメント凝結試験機を用いて断面積78.5mmの貫入針を2.94N(300g重)の貫入力で貫入し、貫入針の貫入深さを測定した。
【0032】
成形性(金型詰まり)の評価にあたっては、ポリマー複合セメント板を製造する際に、セメント系成形材料の押出成形時における押出金型内の詰まりの発生の有無を確認し、詰まりが発生しない場合を「○」、詰まりが発生する場合を「×」と評価した。
【0033】
曲げ強度比の評価にあたっては、載荷速度2mm/minの条件で曲げ強度を測定し、後述する参考例1の曲げ強度を100として相対評価した。
【0034】
耐久性の評価にあたっては、JIS A5422 7.9のB法により、100サイクル後のポリマー複合セメント板の外観評価をおこなった。その結果、ポリマー複合セメント板の外観に異常が認められなかった場合を「○」、僅かな膨準が認められた場合を「△」、著しい膨準が認められた場合を「×」と評価した。
【0035】
この結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示されるように、実施例のように水硬性材料としてセメントと共に高炉スラグを用い、且つ成形前のセメント系成形材料の貫入針の貫入深さが3〜20mmの範囲となるようにすると、セメント系成形材料の含水量に対するこのセメント系成形材料の硬さが低減し、セメント系成形材料の含水量が30質量%であっても成形性が良好となった。また、ポリマー複合セメント板の強度及び耐久性が向上した。
【0038】
これに対して、比較例のように水硬性材料としてセメントのみを使用して高炉スラグを使用しない場合には、セメント系成形材料の含水量に対するこのセメント系成形材料の硬さが高く、セメント系成形材料の含水量が30質量%になると成形不良が生じてしまうものであった。またポリマー複合セメント板の強度及び耐久性は実施例に比較して低くなった。
【0039】
[参考例1〜6]
セメント(比表面積4000±300cm/g)、高炉スラグ(比表面積4000±1000cm/g)、軽量骨材(パーライト;昭和化学工業株式会社製の品番B−03)、ポリプロピレン繊維、スチレン、乳化剤(ソルビタン脂肪酸エステル;第一工業製薬株式会社製の商品名ソルゲン40D)、添加剤(重合開始剤;日本油脂株式会社製の品番PCHO、並びに架橋剤;第一工業製薬株式会社製の品番TMPTM)及び水を表1に示す割合で配合し、アイリッシュミキサーで混練することでセメント系成形材料を調製した。水の配合量は、セメント系成形材料中の固形分量に対する割合で50質量%とした。
【0040】
このセメント系成形材料を押出成形して成形体を作製し、この成形体を最高温度90℃、養生時間33時間の条件で養生硬化することでポリマー複合セメント板を製造した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すとおり、セメント系成形材料中のセメント及び高炉スラグの合計量に対する高炉スラグの割合が20〜70質量%の範囲にある参考例3〜5では、セメント系成形材料の貫入針の貫入深さを考慮しなくても、成形性、強度及び耐久性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料、水及び油性物質を含有するセメント含有逆エマルション組成物からなるセメント系成形材料を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合セメント板を製造する方法であって、
前記水硬性材料としてセメント及び高炉スラグを含有する混合物を使用し、成形前の前記セメント系成形材料の硬さを、このセメント系成形材料に断面積78.5mmの貫入針を2.94Nの貫入力で貫入した場合の貫入針の貫入深さが3〜14mmの範囲となるように調整することを特徴とするポリマー複合セメント板の製造方法
【請求項2】
前記セメント及び高炉スラグの合計量に対する高炉スラグの割合が20〜70質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリマー複合セメント板の製造方法。