説明

ポリマー電池用複合包材の製造方法

【課題】一層優れた耐電解液特性、耐溶剤性をそなえ、電解液に接触してもアルミニウム箔と熱可塑性樹脂層とが剥離することがなく、ヒートシール性、電極端子との接着性、密着性に優れたポリマー電池用複合包材の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔3の表面を、ジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属の金属塩を含む塗布型表面処理剤で処理し、加熱乾燥することにより、アルミニウム箔の表面にジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属が付着した表面処理層6を形成して、アルミニウム箔の表面に付着している金属の付着量を1〜100mg/mとし、ついで、表面処理層を形成したアルミニウム箔の表面に無水マレイン酸変性ポリプロピレン(マレイン化PP)をグラビアコート法またはロールコート法により0.2〜10g/mの塗布量で塗布してマレイン化PP層4を形成し、マレイン化PP層に熱可塑性樹脂層5を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー電池用複合包材、詳しくは、複合アルミニウム箔からなるポリマー電池用複合包材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー電池は、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラなどの電子機器の電源に使用されているリチウムイオン二次電池のうち、導電性ポリマーなどの固体、半固体の電解質を用いた電池はポリマー電池と呼ばれており、電解液としてPC(プロピレンカーボネート)、DEC(ジエチレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、γ−BL(ガンマブチロラクトン)などの非水溶媒にLiBF4 、LiPF6 などの錯フッ化物を添加したものを使用する通常のリチウムイオン二次電池に比べて、薄肉化、軽量化の達成が可能で、電解液の液漏れなどの危険性も少なく安全性の面でも優れているという特徴を有し、今後の発展が期待されている。
【0003】
ポリマー電池のケースとしては、従来、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂をヒートラミネートによりアルミニウム箔に貼り合わせた複合アルミニウム箔から形成した包材をヒートシールしてなるものが使用されているが、電解質に前記のLiBF4 、LiPF6 などの錯フッ化物を添加したPC、DEC、EC、γ−BLなどの溶剤を含有するものが用いられるため、とくに溶剤中の錯フッ化物の一部が電極や包材表面に吸着した水と反応して生じるフッ化水素酸(HF)が、ヒートシール性をもつ熱可塑性樹脂層を透過してアルミニウム箔の表面に達し、アルミニウム箔を腐食させるため、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂層との密着性が低下し、熱可塑性樹脂層の剥離に至ることもある。
【0004】
上記の問題を解決するために、先に、発明者の一部は、アルミニウム箔、マレイン化PP層および押出コートポリプロピレン層の順で積層された複合アルミニウム箔からなるポリマー電池用包装材料を提案した(特願平11−275827号)。この包材によれば、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂層との間にマレイン化PPを介挿させることにより、耐電解液特性、耐溶剤性が改善され、フッ化水素酸の透過によるアルミニウム箔と熱可塑性樹脂層との密着性の低下を低減することができるが、使用条件によっては、なお、耐電解液特性、耐溶剤性が十分でない場合があり、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂層との間の密着性低下による剥離が生じることが経験されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、複合アルミニウム箔からなるポリマー電極用包材における上記の問題点を解消するために、上記の特願平11−275827号に記載されるポリマー電極用包装材料をベースとし、ポリマー電池用包装材に要求される特性、とくに耐電解液特性、耐溶剤性と複合アルミニウム箔の層間の密着性との関係を再検討した結果としてなされたものであり、その目的は、一層優れた耐電解液特性、耐溶剤性をそなえ、電解液に接触してもアルミニウム箔と熱可塑性樹脂層とが剥離することがなく、ヒートシール性、電極端子との接着性、密着性に優れたポリマー電池用複合包材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明によるポリマー電池用複合包材の製造方法は、アルミニウム箔の表面を、ジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属の金属塩を含む塗布型表面処理剤で処理し、加熱乾燥することにより、アルミニウム箔の表面にジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属が付着した表面処理層を形成して、アルミニウム箔の表面に付着している前記金属の付着量を1〜100mg/mとし、ついで、表面処理層を形成したアルミニウム箔の表面に無水マレイン酸変性ポリプロピレン(マレイン化PP、以下同じ)をグラビアコート法またはロールコート法により0.2〜10g/mの塗布量で塗布してマレイン化PP層を形成し、マレイン化PP層に熱可塑性樹脂層を積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一層優れた耐電解液特性、耐溶剤性をそなえ、電解液に接触してもアルミニウム箔と熱可塑性樹脂層とが剥離することがなく、ヒートシール性、電極端子との接着性、密着性に優れたポリマー電池用複合包材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明により製造されるポリマー電池用複合包材の一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明により製造されるポリマー電池用複合包材においては、図1に示すように、アルミニウム箔3、マレイン化PP層4、熱可塑性樹脂層5の順に積層された複合アルミニウム箔であって、アルミニウム箔3とマレイン化PPとがジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属を含む表面処理層6を介して接着された複合アルミニウム箔2により複合包材1を構成する。
【0010】
アルミニウム箔3としては、厚さが6〜300μmの純アルミニウム系のアルミニウム箔(JIS H4160 1N30など)、Al−Fe合金箔などの調質O〜H18のものが使用される。
【0011】
アルミニウム箔3の表面に形成される表面処理層6は、アルミニウム箔の表面を、ジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属の金属塩を含む塗布型表面処理剤で処理することにより得られる。塗布型表面処理剤は、前記金属塩の他、還元剤、無機酸、有機化合物などを組合わせて調製される。
【0012】
金属塩としては、ジルコニウム、チタン、ケイ素のフッ化物の塩(ZrF2−、TiF2−、SiF2−)、ケイ酸塩などが使用され、還元剤としては、アルコール類、多糖類などで水酸基を有する有機化合物、例えばタンニン酸、メタノール、ヒドラジン、ショ糖など、無機酸としては、リン酸、フッ化水素酸、ケイ酸など、有機化合物としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸およびメタクリル酸の共重合物、セルロース、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。耐食性向上のために、気相シリカ、コロイダルシリカなどのシリカ粒子を含有させることもできる。
【0013】
アルミニウム箔の表面に前記表面処理層を介して積層されるマレイン化PP層4は、耐電解液特性、耐溶剤性の役割を果たすものであり、マレイン化PPのアルミニウム箔3面へのコーティングは、トルエン、キシレンなど、芳香族有機溶媒に溶解または分散したマレイン化PPをアルミニウム箔の表面に塗布することにより行われる。塗布方法としては、量産性の観点からはグラビアコート法が好ましいが、その他、ロールコート法も適用される。塗布量は0.2〜10g/m2 が好ましく、0.2g/m2 未満の塗布では均一に塗布するのが難しく、塗布量が10g/m2 を越えると密着性向上の効果が飽和するから、10g/m2 を越える塗布は経済的にも不利となる。
【0014】
マレイン化PP層4への熱可塑性樹脂層5の積層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂などのフィルムを熱ラミネート法により熱圧着することにより行われ、あるいは、溶融した樹脂をダイスから押出して成膜する押出コート法により行われる。熱可塑性樹脂層5は、耐熱ヒートシール性、電極端子との接着性に優れ、ポリマー電池用複合包材1に、固体電解質、電極を包み、電極端子を含めて包材をヒートシールするためのヒートシール層としての役割を果たす。熱可塑性樹脂層5は15〜100μm厚さで形成するのが好ましい。
【0015】
ポリマー電池用複合包材においては、アルミニウム箔3の表面(電池の外側)に、ナイロンフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムなど、熱可塑性樹脂の耐熱性二軸延伸フィルム層(例えば厚さ6〜100μm)を、ウレタン系接着剤などの接着剤でドライラミネートすることにより形成してもよく、熱可塑性樹脂フィルムの形成により耐突き破り性を向上させることができる。
【0016】
本発明のポリマー電池用複合包材の製造について説明すると、まず、アルミニウム箔を、必要に応じて脱脂、洗浄、下地処理した後、前記のように調製された塗布型表面処理剤をロールコート法、グラビアコート法を適用して塗布する。塗布温度は、とくに限定されないが、室温〜40℃の温度で行うのが好ましい。塗布後、アルミニウム箔の最高温度が60〜250℃の温度に達するように加熱して乾燥する。60℃未満では十分な造膜ができず、250℃を越えると十分な密着性付与効果が得られなくなる。
【0017】
アルミニウム箔の表面を、ジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属の金属塩を含む塗布型表面処理剤で処理することにより、アルミニウム箔の表面にジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属が付着した表面処理層が形成されるが、処理後に、アルミニウム箔の表面に付着している前記金属の付着量が1〜100mg/mとなるように塗布量を選択するのが好ましい。1mg/m未満では十分な密着性が得られず、100mg/mを越えると、密着性向上効果が飽和するため、100mg/mを越える塗布は経済的にも不利となる。
【0018】
マレイン化PP粒子を溶解または分散させたコーティング剤を調製して、マレイン化PPを、前記にように、グラビアコート法などにより塗布し、180〜250℃程度の温度で5〜10秒程度乾燥して、アルミニウム箔の表面に表面処理層を介してマレイン化PP層4を形成する。
【0019】
つぎに、マレイン化PP層4に、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー樹脂などのフィルムを熱ラミネート法により熱圧着、あるいは、溶融した樹脂を押出コート法によりダイスから押出して成膜することにより、熱可塑性樹脂層5を積層する。
【0020】
得られた複合アルミニウム箔2に、必要に応じて、アルミニウム箔3の外面(電池の外側)に、ウレタン系の接着剤を介してナイロンフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムなどの熱可塑性樹脂フィルムをドライラミネートする。
【0021】
本発明により製造されるポリマー電池用複合包材を、ポリマー電池の包装材として使用する場合には、Al、CuまたはNiからなる電極板の両面にマレイン化PP層を被覆した電極端子を適用し、本発明により製造される複合包材で電解質を挟むとともに、当該複合包材で電極端子をヒートシールするのが好ましく、この構成により、ヒートシール部における複合包材と電極端子の接着強度を高めることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。なお、本実施例は、本発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本発明が制限されるものではない。
【0023】
実施例1
アルミニウム箔(JIS H4160、8021、調質O材、厚さ50μm)の一方の面(艶面)に、塗布型表面処理剤をロールコート法により塗布し、200℃の温度で1分間加熱、乾燥することにより表面処理層を形成した。塗布型表面処理剤の種類(含有金属)および当該金属の付着量を表1に示す。
【0024】
ついで、表面処理層を介して、マレイン化PPを乾燥塗布量が1g/m2 となるようロールコート法により塗布し、200℃で30秒間乾燥して、マレイン化PP層を形成し、さらに、マレイン化PP層上にポリプロピレンフィルム(厚さ40μm)を熱圧着することにより積層して複合アルミニウム箔を得た。
【0025】
得られた複合アルミニウム箔(試験材)を15mm幅の短冊に切断して接着試験片を作製した。電解液として、ECとDECの混合溶媒(混合比は、容積比でEC:DEC=1:1)にLiPF6 を1モル/リットル溶解したものを使用した。接着試験片を、60℃の電解液中に浸漬し、アルミニウム箔とポリプロピレンフィルム層が剥離するまでの日数を調査した。結果を表1に示す。
【0026】
表1にみられるように、本発明に従う複合アルミニウム箔からなる複合包材によれば、層間、とくにアルミニウム箔とマレイン化PPとの接着性が良好なため剥離が生じ難く、優れた耐電解液特性、耐溶剤性をそなえていることが認められた。
【0027】
【表1】

【0028】
比較例1
アルミニウム箔(JIS H4160、8021、調質O材、厚さ50μm)の一方の面(艶面)に、塗布型表面処理剤をロールコート法により塗布し、200℃の温度で1分間加熱、乾燥することにより表面処理層を形成した。塗布型表面処理剤の種類(含有金属)および当該金属の付着量を表2に示す。
【0029】
ついで、表面処理層を介して、マレイン化PPを乾燥塗布量が1g/m2 となるようロールコート法により塗布し、200℃で30秒間乾燥して、マレイン化PP層を形成し、さらに、マレイン化PP層上にポリプロピレンフィルム(厚さ40μm)を熱圧着することにより積層して複合アルミニウム箔を得た。
【0030】
得られた複合アルミニウム箔(試験材)を15mm幅の短冊に切断して接着試験片を作製し、実施例1と同じ電解液を使用し、接着試験片を、60℃の電解液中に浸漬して、アルミニウム箔とポリプロピレンフィルム層が剥離するまでの日数を調査した。結果を表2に示す。
【0031】
表2に示すように、本発明の条件を外れた試験材から採取した接着試験片はいずれも、短期間で剥離が生じた。
【0032】
【表2】

【符号の説明】
【0033】
1 ポリマー電池用複合包材
2 複合アルミニウム箔
3 アルミニウム箔
4 マレイン化PP層
5 熱可塑性樹脂層
6 塗布型表面処理剤による表面処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔の表面を、ジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属の金属塩を含む塗布型表面処理剤で処理し、加熱乾燥することにより、アルミニウム箔の表面にジルコニウム、チタン、ケイ素のうちの1種の金属が付着した表面処理層を形成して、アルミニウム箔の表面に付着している前記金属の付着量を1〜100mg/mとし、ついで、表面処理層を形成したアルミニウム箔の表面に無水マレイン酸変性ポリプロピレン(マレイン化PP、以下同じ)をグラビアコート法またはロールコート法により0.2〜10g/mの塗布量で塗布してマレイン化PP層を形成し、マレイン化PP層に熱可塑性樹脂層を積層することを特徴とするポリマー電池用複合包材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−164676(P2012−164676A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98563(P2012−98563)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【分割の表示】特願2000−266462(P2000−266462)の分割
【原出願日】平成12年9月4日(2000.9.4)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(000183026)住軽アルミ箔株式会社 (7)
【Fターム(参考)】