説明

ポリ乳酸系積層フィルム

【課題】汚染から保護すべき面を被覆することにより、その表面が平滑であっても汚れの付着を防止することで、保護対象物の汚染を防ぐことができるフィルム、さらには、いわゆるIT機器などの表示画面に利用されるタッチパネル表面に備えられ、高品質な視認性を落とすことなく、表面が平滑であっても防指紋効果を有する防指紋フィルムを提供する。
【解決手段】表層(i)、中間層(ii)及びプラスチック層(iii)を含み、表層の厚さが5〜100μm、中間層の厚さが10〜1000μmの範囲にあり、表層(i)がポリ乳酸でありかつ湿水性を有することを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染から保護すべき面に貼ることにより汚染物の付着を防止する防汚フィルムに関する。さらにタッチパネル式表示面に貼ることにより、表示面の視認性を損なうことなく、操作時に表面への指紋の付着を防止できる防指紋性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の内外壁面、窓、家具などの調度品、あるいは家電製品や通信端末機器、光学機器などは人が触れることが多く指脂や汗などの人体からの汚れや外界の汚染物が付着することが多い。
さらに近年の技術革新で進歩が著しいタッチパネルは、表示画面をそのまま指などで触れることで操作ができるので、その簡便さからパソコン端末や携帯端末などでマンマシーンインターフェースとしての利用が増えている。しかし画面を直に触るために指脂による指紋の付着が問題になる。
【0003】
それを回避する方法として表面のハードコート層を構成する高分子樹脂に2種類の微粒子を添加して表面にランダムな凹凸を形成することにより効果的に皮脂・油脂を除外したり、またはその存在を目立たなくする方法(特許文献1)や、成分間の相分離により生じるランダムな凹凸を有する防眩層を形成しかつ防指紋効果を有する技術(特許文献2)が開示されている。これらの技術はいずれも表面に凹凸を形成してこれを利用するものであり、表面の平滑性が損なわれる。
【0004】
一方、生分解可能なプラスチックとして、汎用性の高い脂肪族ポリエステルが注目されており、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)などが上市されている。
これら生分解性脂肪族ポリエステルの用途の一つとして包装用、農業用、食品用などのフィルム分野があり、用途に応じた高強度、耐熱性および生分解性が基本性能として要求されている。
上記脂肪族ポリエステルの中では、PLAは透明性が特に優れ、170℃付近に融点を持ち耐熱性を有しているが、さらに耐熱性を上げる技術としてステレオコンプレックス構造のポリ乳酸延伸フィルムが提案されている。(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−044687
【特許文献2】特開2010−191370
【特許文献3】WO2006/095923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、汚染から保護すべき面を被覆することにより、その表面が平滑であっても汚れの付着を防止することで、保護対象物の汚染を防ぐことができるフィルムを提供することを目的とする。
さらには、いわゆるIT機器などの表示画面に利用されるタッチパネル表面に備えられ、高品質な視認性を落とすことなく、表面が平滑であっても防指紋効果を有する防汚フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水透過性の大きいポリ乳酸を外層としその内側に水性の溶液を保持する層を設けることによりフィルム表面となるポリ乳酸の外表面にごく微量の液体が存在し、フィルム表面を指で触れた場合でもフィルム表面への指表面の指脂などの汚れの移行を防ぐことができ、また油系の汚れをはじくことを見出した。
これは推測として、次のように考えられる。すなわち指がフィルム表面に触れた時、指表面の汚れとフィルム表面の間には濡れによる液体が存在している。ここで汚れがフィルム表面に移行するには汚れの少なくとも一部が指表面から離脱して液体面に残る必要がある。しかし液体の方が汚れよりも分子量が小さく、粘性が小さく、運動性に富んでいるため、指が触れたときに液体の一部がフィルム表面から離脱して指表面に移行することで、指表面からの汚れの離脱を防ぐ機能があると推測する。
更に汚れが油性であり、親水性である液体と相溶性の乏しいものであれば液体への汚れの拡散も防ぐことができると考えられる。
【0008】
ここでフィルム表面にごく微量の液体を存在させる方法として、密度が小さく、その構造のため水性の液体を保持しやすいポリ乳酸(A)をフィルムの表層素材とし、それに中間層に液体成分(B)として沸点100℃以上のアルコール、ケトン、エーテルからなる群から選ばれる1種または2種以上を存在させることで表層(i)をなすポリ乳酸(A)の外表面に微小な濡れを生じさせることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、次に示す表面層(i)、中間層(ii)及びプラスチック層(iii)からなり、表層の厚みが5〜100μm、中間層の厚が10〜1000μmであり、表層(i)が湿水性を有することを特徴とする防指紋用積層フィルムを提供する。
表層(i):ポリ乳酸(A)からなる。
中間層(ii): 水といずれも沸点が100℃以上で好ましくは300℃以下であるアルコール、ケトン、エーテルからなる群より選ばれる1種または2種以上の液体成分(B)を含むことが好ましい。さらに中間層は液体成分(B)を保持するためにエーテル系高分子化合物(C)を含んでもよい。このことから液体成分(B)は0.1〜100質量%、エーテル系高分子化合物(C)は99.9〜0質量%(液体成分とエーテル系高分子化合物の合計が100質量%とする。)の範囲を取り得る。
プラスチック層(iii) プラスチック(D)からなるプラスチック層の厚みは特に限定されないが、タッチパネル用塗の場合は20〜100μmの範囲にあることが好ましい。
また本発明の積層フィルムは防汚フィルムまたは防指紋フィルムとして用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ポリ乳酸(A) ここでポリ乳酸にはポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸(SC−PLA)と言った種類がある。 PLAは透明性が特に優れ、170℃付近に融点を持ち耐熱性を有しているので本発明の表面層(i)、裏面層(iii)をなす素材としていずれのポリ乳酸でも構わない。
しかしあえて言えば、ここで本用途は生分解性というよりも植物由来であることが重要であり、産業資材として諸行程で熱履歴を受けることを考慮すると特にステレオコンプレックス構造のポリ乳酸延伸フィルムが適している。
【0011】
ポリ−L−乳酸 本発明においてポリ−L−乳酸(PLLA)は、L−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。L−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリ−D−乳酸(PLDA)と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物を延伸して得られる延伸フィルムの耐熱性、ガスバリア性、その他成形品の耐熱性が劣る虞がある。

PLLAの分子量は後述のポリ−D−乳酸と混合したポリ乳酸系組成物がフィルム形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6万〜100万の範囲にある。重量平均分子量が6万未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞があり、一方、100万を越えるものは溶融粘度が大きく成形加工性が劣る虞がある。
【0012】
ポリ−D−乳酸

本発明においてポリ−D−乳酸(PDLA)は、D−乳酸を主たる構成成分、好ましくは95モル%以上を含む重合体である。D−乳酸の含有量が95モル%未満の重合体は、後述のポリ−L−乳酸と溶融混練して得られるポリ乳酸系組成物を延伸して得られる延伸フィルム、その他成形品の耐熱性が劣る虞がある。

PDLAの分子量は前述のPLLAと混合したポリ乳酸系組成物がフィルム形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量平均分子量(Mw)は6万〜100万の範囲にある。重量平均分子量が6万未満のものは得られる延伸フィルムの強度が劣る虞があり、一方、100万を越えるものは溶融粘度が大きく成形加工性が劣る虞がある。

本発明においてPLLA及びPDLAには、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他の共重合成分、例えば、多価カルボン酸若しくはそのエステル、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を共重合させておいてもよい。

多価カルボン酸としては、具体的には、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、セバシン酸、ジグリコール酸、ケトピメリン酸、マロン酸及びメチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸並びにテレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。

多価カルボン酸エステルとしては、具体的には、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、ピメリン酸ジメチル、アゼライン酸ジメチル、スベリン酸ジメチル、スベリン酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、デカンジカルボン酸ジメチル、ドデカンジカルボン酸ジメチル、ジグリコール酸ジメチル、ケトピメリン酸ジメチル、マロン酸ジメチル及びメチルマロン酸ジメチル等の脂肪族ジカルボン酸ジエステル並びにテレフタル酸ジメチル及びイソフタル酸ジメチル等の芳香族ジカルボン酸ジエステルが挙げられる。
【0013】

多価アルコールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、へキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール及び分子量1000以下のポリエチレングリコール等が挙げられる。

ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、例えば、グリコール酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸及びヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。

ラクトン類としては、具体的には、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β又はγ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン等の各種メチル化カプロラクトン;β−メチル−δ−バレロラクトン、エナントラクトン、ラウロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の環状1量体エステル;グリコリド、L−ラクチド、D−ラクチド等の上記ヒドロキシカルボン酸の環状2量体エステル等が挙げられる。

また、本発明に係わるPLLA及びPDLAには、それぞれD−乳酸若しくはL−乳酸を前記範囲以下であれば少量含まれていてもよい。
【0014】

ステレオコンプレックス型ポリ乳酸系組成物

本発明のポリ乳酸系組成物は、DSC測定において250℃で10分経過後の降温(cooling)時(10℃/分)のピークが45mJ/mg以上、特に好ましくは50mJ/mg以上であることを特徴とする。

さらに、本発明の好適な組成物は、そのDSCの第2回昇温(2nd-heating)時の測定(250℃で10分経た後に10℃/分で降温を行い、0℃から再度10℃/分で昇温)においてTm=150〜180℃のピーク(ピーク1)とTm=200〜240℃のピーク(ピーク2)のピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2以下であるという熱特性を有することが望ましい。これは、この組成物がステレオコンプレックス晶を選択的に形成しているためと考えられる。

ピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2より大きいと、結晶化後にPLLA、PDLA単体結晶の形成量が大きく、上記混練が十分でない虞がある。

またピーク比(ピーク1/ピーク2)が0.2より大きい組成物からなる成形品は結晶化後のα晶の形成量が大きいため、耐熱性に劣る虞がある。

このようなポリ乳酸系組成物は、前記PLLAを45〜55重量部、好ましくは47〜53重量部及びPDLAを55〜45重量部、好ましくは53〜47重量部(PLLA+PDLA=100重量部)から構成されている、即ち調製されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明のポリ乳酸系組成物は、例えば、これらPLLAとPDLAを、230〜260℃で二軸押出機、バンバリーミキサー、プラストミルなどで溶融混練することにより得ることができる。

PLLAの量が55重量部を超える組成物及び45重量部未満の組成物は上述の方法で混練しても、得られる組成物の耐熱性が十分でない場合がある。得られる組成物からなる成形品がα晶の結晶体を含み、耐熱性が不十分となるおそれがある。ステレオコンプレックス構造はPLLAとPDLAの等量から構成されるためあると考えられる。

一方、PLLAとPDLAを溶融混練するときの温度は好ましくは230〜260℃であり、より好ましくは235〜255℃である。溶融混練する温度が230℃より低いとステレオコンプレックス構造物が未溶融で存在する虞があり、250℃より高いとポリ乳酸が分解する虞がある。

また、本発明のポリ乳酸系組成物を調製する際に、PLLAとPDLAを十分に溶融混練することが望ましい。
【0016】
本発明に係る組成物は、ステレオコンプレックスの結晶化が早く、かつステレオコンプレックス結晶化可能領域も大きいので、PLLAあるいはPDLAの単独結晶(α晶)が生成し難いと考えられる。

更に本発明に係わるポリ乳酸系組成物は、DSCによる250℃で10分経過後の降温(cooling)時での測定(10℃/分)において結晶化によるピークが45mJ/mg以上、特に好ましくは50mJ/mg以上であり、ポリ乳酸系組成物の結晶化が速やかに起こる。

また結晶化によるピークが45mJ/mgより小さいと結晶化速度が小さく、上記混練が十分でない虞がある。

さらにDSCの250℃で10分経過後の降温(cooling)時での測定(10℃/分)において結晶化によるピークが45mJ/mgより小さい組成物からなる成形品は結晶化速度が小さく、成形品の結晶化後の結晶体の形成量が小さいため、耐熱性に劣る虞がある。
【0017】
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸系延伸フィルム

本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、前記ポリ乳酸系組成物からなり、熱処理後の広角X線回折による回折ピーク(2θ)が12°近辺、21°近辺及び24°近辺(SSC)にあり、且つ回折ピークの面積(SSC)が16°近辺の回折ピークの面積(SPL)との合計量(総面積)に対して90%以上({SSC/(SSC +SPL)}×100)である。かかる広角X線回折における16°近辺のピーク(PPL)はPLLA及びPDLAの結晶に基づくピークであり、12°近辺、21°近辺及び24°近辺のピークはPLLAとPDLAとが共結晶した所謂ステレオコンプレックスの結晶に基づくピーク(PSC)である。

即ち、PLLAとPDLAとが均一に溶融混練されたポリ乳酸系組成物からなる延伸フィルムであるため、ポリ乳酸の結晶が形成されていないか、形成されたとしても少量であり、ほとんどはステレオコンプレックス構造を形成しているものと考えられる。

本発明のポリ乳酸系組成物はPLLAとPDLAを十分に溶融混練し均一な構成になっているので、得られる延伸フィルムは表面平滑性、透明性に優れ、また加熱時の伸縮挙動も一定し、融点が230℃近傍のステレオコンプレックス構造の特性を活かし、優れた耐熱性を有している。

即ち、熱機械分析による熱変形試験で200℃での変形が10%以下であり、当然200℃において溶融しない。

またPLLA及びPDLAの結晶(α晶)の融解を経ずにステレオコンプレックス構造になるため熱処理後も配向した状態を保ち延伸方向の伸びが10%以上、延伸方向の破断エネルギーが0.1mJ以上と靭性の優れたフィルムである。
【0018】
なお、本発明において広角X線回折による回折ピーク(2θ)はX線回折装置(株式会社リガク製 自動X線回折装置RINT−2200)を用いて、シート若しくはフィルムにX線ターゲットとしてCu K―α、出力:1/40kV×40mAで照射し、回転角:4.0°/分、ステップ:0.02°、走査範囲:10〜30°で測定して検出される回折ピークの角度(°)である。本発明のポリ乳酸系延伸フィルムは、好ましくは一方向に2倍以上、より好ましくは2〜12倍、さらに好ましくは3〜6倍延伸されてなる。延伸倍率は2倍未満の延伸フィルムは耐熱性が改良されない虞がある。一方、延伸倍率に上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、12倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。

本発明のポリ乳酸二軸延伸フィルムは、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸されてなる。一方向の延伸倍率が2倍未満の二軸延伸フィルムは耐熱性が改良されない虞がある。一方、延伸倍率に上限は延伸し得る限り、とくに限定はされないが、通常、7倍を超えるとフィルムが破断したりして、安定して延伸できない虞がある。

本発明のポリ乳酸延伸フィルムの厚さは用途により種々決め得るが、通常5〜500μm、好ましくは10〜100μmの範囲にある。
【0019】

ポリ乳酸延伸フィルムの製造方法

本発明のポリ乳酸延伸フィルムの製造方法は、前記ポリ乳酸系組成物からなるシートを、通常50〜110℃、好ましくは60〜90℃の温度で一方向に2倍以上、好ましくは3〜12倍に延伸して得られる延伸フィルムを通常140〜220℃、好ましくは150〜200℃で、1秒以上、好ましくは3秒〜60秒、より好ましくは3〜20秒熱処理してポリ乳酸延伸フィルムとする方法である。

延伸倍率が2倍未満では、耐熱性に優れた延伸フィルムが得られない虞があり、一方、延伸倍率の上限は特に限定はされないが、12倍を超えると安定して延伸できない虞がある。延伸温度が50℃未満では、安定して延伸できない虞があり、また、得られる延伸フィルムの透明性、平滑性が劣る虞がある。

一方、110℃を超えるとフィルムが加熱ロールに付着し、フィルム表面が汚れ、また安定して延伸ができない虞があり、得られる延伸フィルムの靭性が劣る虞がある。熱処理時間が1秒未満では延伸フィルムに熱が伝わらず、熱処理の効果が発現されない虞がある。
【0020】
また、予熱時間は長くても問題はないが、工程上60秒以下が好ましい。

本発明のポリ乳酸延伸フィルム製造方法の他の態様は、前記ポリ乳酸系組成物からなるシートを、通常50〜110℃、好ましくは60〜90℃の温度で、好ましくは縦方向に2倍以上及び横方向に2倍以上、より好ましくは縦方向に2〜7倍及び横方向に2〜7倍、さらに好ましくは縦方向に2.5〜5倍及び横方向に2.5〜5倍延伸して得られる延伸フィルムを、通常140〜220℃、好ましくは150〜200℃で、1秒以上、好ましくは3秒〜60秒、より好ましくは3〜20秒熱処理してポリ乳酸延伸フィルムとする方法である。

熱処理時間が1秒未満では延伸フィルムに熱が伝わらず、熱処理の効果が発現されない虞がある。また、予熱時間は長くても問題はないが、工程上60秒以下が好ましい。二軸延伸は、同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
【0021】
本発明のポリ乳酸系延伸フィルムの製造にあたっては、前記ポリ乳酸系組成物からなり、広角X線回折による回折ピークが12°近辺、21°近辺及び24°近辺には検出されない〔(PSC)が検出されない〕原料シート或いはフィルムを用いることが好ましい。

広角X線回折による回折ピーク(2θ)が12°近辺、21°近辺及び24°近辺に検出されるシート、即ちステレオコンプレックスが形成されたシートを用いた場合は、その形成量にもよるが、得られる延伸フィルムの透明性が劣り、又、靭性にも劣る虞がある。

ポリ乳酸系組成物からなるシートあるいはフィルムを広角X線回折による回折ピーク(2θ)が12°近辺、21°近辺及び24°近辺には検出されない〔(PSC)が検出されない〕状態にする方法としては、例えば、前記のポリ乳酸系組成物をステレオコンプレックスの融点である220℃以上、好ましくは230〜260℃の範囲で溶融した後、5〜30℃で急冷してシートあるいはフィルムとする方法を採ることにより、ステレオコンプレックスの形成を抑えることができる。
【0022】
液体成分(B)本発明で用いる液体成分(B)は、いずれも沸点が100℃以上で好ましくは300℃以下のアルコール、ケトン、エーテルの中から選ばれる1種または複数種と水との混合液であり、これらは親水性を有し、ポリ乳酸からなる表面層で浸透して表面にて極薄の濡れを生じる。表面層表面が液体(B)で濡れていることから指脂による指紋の汚れを防ぎ、また油系の汚れをはじく事ができる。
【0023】
エーテル系高分子化合物(C)本発明に用いられるエーテル系高分子化合物(C)としては、ポリアルキレングリコールポリエチレングリコールがあり、ポリエチレンオキシド、若しくはそのカップリング重合体又はそれらの2種以上の混合物などが、安定した重合で得られるカップリング重合体が均質のフィルムが得られる等の観点から特に好ましい。ポリエチレングリコールはポリエチレンオキシド重合した構造をもつ高分子化合物の一つである。これらの分子量は特に限定されないが、ポリエチレンオキシドも基本的に同様の構造を有する化合物であるがポリエチレングリコールは分子量50,000g/mol以下のものであり、本発明に使用するエーテル系高分子化合物の平均分子量は10,000g/mol以上であることが、積層フィルムの機械的強度を確保し、また積層フィルムのしわやよれを防止する観点から好ましい。液体成分とエーテル系高分子化合物を混合する場合は、その比率は0.1/99.9質量%〜100/0質量%が好ましい。
【0024】
プラスチック(D)
本発明に用いられるプラスチック(D)としては、液体成分(B)及びエーテル系高分子化合物(C)が漏れることない樹脂であればどのような樹脂でも良い。
例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン;ポリスチレン;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
また使用目的によっては、表層と同じポリ乳酸であっても良い。
【0025】
本発明のプラスチック(D)には、必要に応じて耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機または有機の充填剤等の通常熱可塑性樹脂に用いる各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することも行われる。
これらのプラスチックフィルムは使用目的に応じて選択されるが、この中でも表面層であるポリ乳酸(A)との融着が可能であることからポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレンが好ましい。
また、タッチパネルへの用塗であれば透明フィルムであることが好ましい。フィルムの好ましい透明度は、全可視光に対して光線透過率で80%以上であることが望ましい。
【0026】
積層フィルム
本発明の積層フィルムは表層(i)、プラスチック層(iii)をそれぞれ単体でフィルム成形し、後に一方または双方の表面に予め均一に溶解した液体成分(B)0.1〜100質量%及びエーテル系高分子化合物(C)99.9〜0質量%を塗り、塗布面を貼り合わせることで成形される。貼り合わせ方法としてホットラミネート、コールドラミネート、ドライラミネート法、ウエットラミネート法、エクストルージョンラミネート法、ホットメルトラミネート法等の種々の方法を取りうる。しかし液体成分を含んだままラミネートするのであれば、熱をかけないコールドラミネート法が好ましい。
また本発明の積層フィルムの別の成形方法として、表面層(i)としてポリ乳酸(A)、中間層(ii)としてエーテル系高分子化合物(C)、プラスチック層(iii)としてプラスチック(D)を共押出溶融押出成形法により得られる3層フィルムを液体成分(B)を入れた槽に通すことで3層内部に液体成分を浸漬し、中間層(ii)をなすエーテル系高分子化合物(C)に液体成分(B)を含浸させて成形させる方法もある。
【0027】
表層の厚みは液体成分(B)の漏れ防止のため5μm以上であるが、10μm以上が好ましい。また液体(B)が表層を浸透するためには100μm以下であるが、80μm以下が好ましい。
中間層(ii)の厚みは、液体(B)の保持量を確保し積層フィルムの十分な防汚効果を確保し、もしくは防汚効果を長期間維持するためには10μm以上である。積層フィルムの可撓性を持たせるためには中間層の厚みは1000μm以下が好ましい。
プラスチック層(iii)の厚みは特に限定されない。液体(B)の浸透を防ぐためには20以上が好ましく、積層フィルムの可撓性を持たせるためや用途により透明性を損なわないためには100μm以下が好ましい。
【0028】
本積層フィルムの表層に用いられるポリ乳酸は植物由来である。そして製造工程で熱履歴を受けることを考慮すると、ステレオコンプレックス構造のポリ乳酸延伸フィルムが好ましい。
また本発明の積層フィルムの表層表面は基本的に平滑であっても防汚効果を有するが、防汚効果を損なわない限り反射防止性能等の必要に応じて表面に凹凸をつける等の加工を施してもよい。
本発明の積層フィルムは防汚フィルムとして利用できる。汚染から保護すべき面を防汚フィルムから被覆するために、積層フィルムのプラスチック層側にさらに粘着機能あるいは接着機能を持たせることができる。例えばプラスチック層の外面に粘着層または接着層を形成すればよい。または接着性または粘着性を有するプラスチックをプラスチック層に用いてもよい。
本発明の積層フィルムは、家具、壁、窓などに貼ることにより汚染物の付着を防止し美観が保護される。
またATM自動預け払い機の画面、テレビ画面、その他IT機器の表示画面、窓等の人の触れる場所などに貼ることにより汚染を防止でき視認性を確保できる。
【0029】
防指紋フィルム
防指紋フィルムも前記防汚フィルムの一つである。防汚処置がなされてないタッチパネルなどに指で触れると、指の指脂などがパネル面に移行して指紋の跡がついたりして視認性が悪くなる。そこで防指紋フィルムとして、本発明の積層フィルムのプラスチック層の外面に粘着層または接着層を形成したものを、パソコンや携帯端末を含むIT端末などのタッチパネル式表示装置に貼って表示画面を指脂などの汚れから保護することができる。または接着性または粘着性を有するプラスチックをプラスチック層に用いてもよい。さらにはプラスチック層に導電機能を持たせてもよい。タッチパネルで用いる時に液体成分(B)が指圧を吸収せず操作性を低減させないためには、中間層の厚みは1000μm以下が好ましい。またタッチパネル用塗の場合、防指紋フィルムの平行光線透過率は80%以上が好ましい。
【0030】
実施例
(イ)ポリ乳酸(PLAC1)
D−乳酸含有量:1.9重量%、MFR(温度190℃、荷重2160g):6.7g/10分、融点(Tm):168.0℃、Tg:59.8℃、密度:1.3g/cm
(ロ)液体成分(B)
(B−1): 2ブトキシエタノール
和光純薬工業(株)製 純度98.0%以上
沸点: 171−172℃
(B−2): ジブチルエーテル
和光純薬工業(株)製 純度98.0%以上
沸点:140−143℃
(B−3) 精製水
(ハ)エーテル系高分子化合物(D)ポリエチレングリコールカップリング重合体(E−1)(第一工業製薬株式会社製:商品名パオゲンPP−15)、溶融粘度:約200(Pa・s)(200℃)、約2000(Pa・s)(100℃)融点(Tm):55℃、ガラス転移温度(Tg):−36℃、密度:1.07g/cm
【0031】
評価方法1.透明性測定日本電色工業社製ヘイズメーター300Aを用いて、ヘイズ(HZ:%)、平行光線透過率(PT:%)及びグロス(%)を測定した。測定値は5回の平均値である。測定波長:550nm2.防指紋効果測定 積層フィルムに指紋をつけて防指紋効果を測定した。 (テスト1) 指紋(油):サラダ油にインク1%を入れて指につけた。その後、2度紙に指を押しつけて表面の過剰な汚れを取った後に積層フィルムに押し付けた。 (テスト2) 指紋(水):墨汁を指につけた。その後、2度紙に指を押しつけて表面の過剰な汚れを取った後に積層フィルムに押し付けた。 (テスト3)指紋(油菓子):市販のポテトチップを粉砕してプリンターカートリッジ用のトナーを入れて指につけた。その後、2度紙に指を押しつけて表面の過剰な汚れを取った後に積層フィルムに押し付けた。
【0032】
(実施例1)積層フィルムの製造
ポリ乳酸(A)を200℃でキャスト成形し、設定温度65℃でMD方向に3.0倍延伸し、次に68℃でTD方向に3.0倍の逐時延伸を行った。更に165℃で雰囲気中で10秒間ヒートセットし、フィルムを得た。
また(B−1)2ブトキシアルコールにエーテル系高分子化合物(D)を添加したところ、液体に対して17%が溶解した。その溶液をポリ乳酸フィルムに挟み、4cm角でインパルスシーラーを用いてヒートシールし、溶液を内封した。得られた積層体の厚みは約100μmであり、液体(B)とエーテル系高分子からなる中間層(ii)の厚みは約20μmであった。(実施例2) 実施例1の(B−1)2ブトキシアルコールを(B−2)ジブチルエーテルに変えて他は実施例1と同じにした。液体成分への溶解度は8%であった。(実施例3) 実施例1の(B−1)2ブトキシアルコールを(B−3)精製水に変えて他は実施例1と同じにした。液体成分への溶解度は45%であった。(比較例1)実施例1で得たポリ乳酸(A)単体のフィルムを用いた。(比較例2)25μm厚みの市販のPETフィルム表面に平均高低差0.5μm程度の凹凸処理を施した市販のフィルムを用いた。表1に各実施例、及び比較例の配合組成、層構成を示し、さらに上記各試験結果を示す。
【0033】
【表1】


○:指紋の付着無し △:指紋の付着小程度 ×:指紋の付着中程度 ××:指紋の付着顕著
表1から明らかなように、中間層に液体を保持した実施例1〜3のフィルムは液体層を含まない比較例1及び表面処理をしたPETフィルム(市販品)に比べて透明性が優れ、かつ指紋の付着が小さいことは明らかである。
これは実施例1〜3のフィルム表面にごく微量の溶液を存在することで指表面の指脂の移行を防ぐことができ、また油系の汚れをはじくからと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の、中間層に液体を保持するフィルムを使用することで、タッチパネル式パソコン、携帯端末画面、家具、壁、ATM自動預け払い機の画面、テレビ画面、窓等の人の触れる場所の視認性を損なうことなく、操作時における指紋の付着を防止できる。従来の表面凹凸方式に比べて透明性が高いため、きわめて綿密な画像が供与される有機EL等、将来を予想展開される市場は大きく、工業的価値は極めて高い。また本フィルムはポリ乳酸からなり、植物由来であるため、環境への配慮した製品である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層(i)、中間層(ii)及びプラスチック層(iii)を含み、表層の厚さが5〜100μm、中間層の厚さが10〜1000μmの範囲にあり、表層(i)がポリ乳酸でありかつ湿水性を有することを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記中間層が水と沸点100℃以上アルコール、ケトン、エーテルからなる群から選ばれる1種以上の液体成分(B)を含むことを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記中間層がさらにエーテル系高分子化合物(C)を含むことを特徴とする請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
ポリ乳酸(A)が、ポリ−L−乳酸70〜30重量部及びポリ−D−乳酸30〜70重量部とのポリ乳酸組成物からなり、得られたポリ乳酸(A)からなる層が広角X線回折による回折ピーク(2θ)が16°近辺にあり、且つ12°近辺、21°近辺及び24°近辺の回折ピーク(2θ)の総面積(SSC)が、16°近辺の回折ピークの面積(SPL)と(SSC)との合計量に対して10%未満であるポリ乳酸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4の積層フィルムを用いた防汚または防指紋フィルム。


【公開番号】特開2012−228829(P2012−228829A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98885(P2011−98885)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000220099)三井化学東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】