説明

マイクロチップ及び微小粒子分析装置

【課題】高価な材料や煩雑な成形工程を要することなく、安価かつ簡便に、オリフィスから一定の大きさ及び形状を有する液滴を一定の方向に安定的に吐出可能な微小粒子分析用マイクロチップの提供。
【解決手段】微小粒子Pを含む液体が通流されるサンプル流路11と、サンプル流路11を通流する液体を液滴化された状態で外部に吐出するオリフィス12と、が形成され、積層された基板層の端面方向に開口するオリフィス12の開口位置と、前記端面と、の間に、オリフィス12の開口よりも径が大である切欠部121が設けられたマイクロチップ1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、マイクロチップに関する。より詳しくは、細胞等の微小粒子の分析に用いられるマイクロチップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコン製あるはガラス製などの基板に化学的又は生物学的な分析のための領域あるいは流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)、ラボ・オン・チップあるいはバイオチップなどと称され、分析の高速化、高効率化あるいは集積化、さらには分析装置の小型化などを可能にする技術として注目されている。
【0003】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、マイクロチップの使い捨てが可能なことなどから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。μ−TASの応用例として、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器及び医療現場における小型の電気化学センサーなどがある。
【0004】
また、他の応用例として、マイクロチップに配設された流路内で細胞やマイクロビーズなどの微小粒子の特性を光学的、電気的あるいは磁気的に分析する微小粒子分析技術がある。この微小粒子分析技術では、分析により所定の条件を満たすと判定されたポピュレーション(群)を微小粒子中から分別回収することも行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、「微小粒子を含む液体が通流される流路と、この流路を通流する液体をチップ外の空間に排出するオリフィスと、が配設され、流路の所定部位に微小粒子の光学特性を検出するための光照射部が構成されたマイクロチップ」が開示されている。このマイクロチップは、オリフィスから吐出される微小粒子を含む液滴の移動方向を制御することにより、所定の光学特性を有すると判定された微小粒子を分別回収するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−190680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるような微小粒子分析用マイクロチップでは、オリフィスから吐出される液滴の移動方向を高精度に制御して微小粒子を精度良く分取するため、オリフィスから一定の大きさ及び形状を有する液滴を一定の方向に安定的に吐出する必要がある。
【0008】
そこで、本技術は、高価な材料や煩雑な成形工程を要することなく、安価かつ簡便に、オリフィスから一定の大きさ及び形状を有する液滴を一定の方向に安定的に吐出可能なマイクロチップを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、液体が通流される流路と、該流路を通流する前記液体を外部に吐出する吐出部と、が形成され、積層された基板層の端面方向に開口する前記吐出部の開口位置と、前記端面と、の間に、前記開口よりも径が大である切欠部が設けられたマイクロチップを提供する。このマイクロチップにおいて、前記流路の前記吐出部への接続部は、直線状に形成されていることが好ましい。
吐出部の開口位置と基板層端面との間に切欠部を設け、基板層の射出成形時に成形不良が生じ易い基板層端面から所定長陥凹した位置に吐出部を設けることにより、吐出部の開口形状の不整を防止して、所望の形状を有する吐出部を形成できる。
また、切欠部を設け、基板層の熱圧着時に変形が生じ易い基板層端面から所定長内側に吐出部を設けることにより、吐出部の形状及び吐出部への流路の接続部の形状の変形を防止して、所望の形状を有する吐出部及び流路を形成できる。
このマイクロチップにおいて、前記開口位置から前記端面までの距離に相応する前記切欠部の幅は、0.2mm以上であることが好ましい。
前記幅を0.2mm以上とすることにより、基板層の射出成形時の成形不良及び熱圧着時の変形によって、吐出部の形状及び吐出部への流路の接続部の形状が不整となることを確実に防止できる。
このマイクロチップは微小粒子の分析に好適に用いられるものであり、本技術はこのマイクロチップが搭載された微小粒子分析装置をも併せて提供する。
【0010】
本技術において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0011】
本技術により、高価な材料や煩雑な成形工程を要することなく、安価かつ簡便に、オリフィスから一定の大きさ及び形状を有する液滴を一定の方向に安定的に吐出可能なマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本技術に係る微小粒子分析装置Aの構成を説明する模式図である。
【図2】微小粒子分析装置Aの構成を説明する模式図である。
【図3】微小粒子分析装置Aの構成を説明する模式図である。
【図4】微小粒子分析装置Aの構成を説明する模式図である。
【図5】マイクロチップ1の構成を説明する模式図である。
【図6】オリフィス12の構成を説明する模式図である。
【図7】オリフィス12から吐出される液滴Dを説明する模式図である。
【図8】微小粒子分析装置Aにおける微小粒子の分取動作を説明する模式図である。
【図9】本技術に係るマイクロチップ1(A)と、図10に示す従来のマイクロチップ(B)とから吐出される液滴の形状の一例を示す図面代用写真である。
【図10】従来のマイクロチップのオリフィスの構成を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.微小粒子分析装置
2.マイクロチップ
3.微小流分析装置の動作

【0014】
1.微小粒子分析装置
図1〜4は、本技術に係る微小粒子分析装置の構成を模式的に説明する図である。図中、符号Aで示す微小粒子分析装置は、本体AのカバーAによって保護される部位に、さらにソーティングカバーAによって保護される微小粒子分取場が設けられている。この微小粒子分取場は、ソーティングカバーAの上部開口に挿入して取り付けられるマイクロチップ1を含んで構成される。図2中、ブロック矢印は、マイクロチップ1を構成要素とするマイクロチップモジュールのソーティングカバーAへの挿入方向を示す。なお、図3では、便宜上、ソーティングカバーAの図示を省略し、さらにソーティングカバーAに差し込まれたマイクロチップモジュールのうち、マイクロチップ1以外の部分を省略して図示した。
【0015】
微小粒子分取場は、マイクロチップ1と、マイクロチップ1の所定部位に光を照射する光学検出部3と一対の対電極4,4、3つの回収部(容器51,52,53)を含む。光学検出部3及び対電極4,4は本体Aに配設されており、容器51〜53は本体Aに着脱可能に取り付けられている。
【0016】
微小粒子分取場の構成について、図4を参照しながら詳しく説明する。図には、マイクロチップ1と光学検出部3、対電極4,4、容器51〜53が示されている。図中、符号2は、マイクロチップ1上に配設された振動素子を示している。また、符号6,6は、グランド接地された接地電極を示す。
【0017】
マイクロチップ1には、分取対象とする微小粒子を含む液体(サンプル液)が通流されるサンプル流路11が形成されている。光学検出部3は、サンプル流路11の所定部位に光(測定光)を照射し、サンプル流路11を通流する微小粒子から発生する光(測定対象光)を検出する。以下、サンプル流路11において光学検出部3からの測定光が照射される部位を「光照射部」というものとする。
【0018】
光学検出部3は、従来の微小粒子分析装置と同様の構成とできる。具体的には、レーザー光源と、微小粒子に対してレーザー光を集光・照射する集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等からなる照射系と、レーザー光の照射によって微小粒子から発生する測定対象光を検出する検出系と、によって構成される。検出系は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成される。なお、図では、光学検出部3として集光レンズのみを示している。また、図では、照射系と検出系を同一の光学経路により構成した場合を示したが、照射系と検出系は別個の光学経路により構成してもよい。
【0019】
光学検出部3の検出系により検出される測定対象光は、測定光の照射によって微小粒子から発生する光であって、例えば、前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などとすることができる。これらの測定対象光は電気信号に変換され、微小粒子の光学特性はこの電気信号に基づいて検出される。
【0020】
光照射部を通過したサンプル液は、サンプル流路11の一端に設けられたオリフィス(吐出部)12からチップ外の空間に排出される。この際、ピエゾ素子などの振動素子2によってマイクロチップ1を振動させることで、サンプル液を液滴化してチップ外の空間に吐出することができる。図中、符号Dは、チップ外の空間に吐出された液滴を示している。
【0021】
液滴Dには、分取対象とする微小粒子が含まれ得る。対電極4,4は、チップ外の空間に吐出された液滴の移動方向に沿って配設されており、移動する液滴を挟んで対向するように配置されている。吐出された液滴には不図示の荷電手段によって電荷が付与され、対電極4,4は液滴に付与された電荷との電気的な反発力(又は吸引力)によって液滴の移動方向を制御し、液滴を容器51〜53のいずれかに誘導する。
【0022】
微小粒子分析装置Aでは、光学検出部3により検出された微小粒子の光学特性に基づいて、その微小粒子が含まれる液滴の移動方向を対電極4,4により制御することで、所望の特性を備えた微小粒子を容器51〜53のいずれかに回収し、分取することができる。
【0023】
なお、微小粒子分析装置Aにおいて、光学検出部3は、例えば、電気的又は磁気的な検出手段に置換されてもよい。微小粒子の特性を電気的又は磁気的に検出する場合には、サンプル流路11に両側に微小電極を対向させて配設し、抵抗値、容量値(キャパシタンス値)、インダクタンス値、インピーダンス、電極間の電界の変化値、あるいは、磁化、磁界変化、磁場変化等を測定する。この場合、微小粒子の分取は、微小粒子の電気的又は磁気的な特性に基づいて行われる。
【0024】
2.マイクロチップ
図5は、マイクロチップ1の構成を模式的に説明する図であり、(A)は上面模式図、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面模式図を示す。また、図6は、マイクロチップ1のオリフィス12の構成を模式的に説明する図であり、(A)は上面模式図、(B)は断面模式図、(C)は正面図を示す。図6(B)は、図5(A)中P−P断面に対応する。
【0025】
マイクロチップ1は、サンプル流路11が形成された基板層1a、1bが貼り合わされてなる。基板層1a、1bへのサンプル流路11の形成は、金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形により行うことができる。なお、サンプル流路11は、基板層1a、1bのどちらか一方のみに形成されていてもよく、基板層1a、1bの双方にそれぞれ一部ずつ形成されていてもよい。
【0026】
熱可塑性樹脂には、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリメチルジシラザン(PDMS)などの従来マイクロチップの材料として公知のプラスチックを採用できる。
【0027】
射出成形は、従来公知の手法によって行うことができる。例えば、射出成形装置(住友重機械工業株式会社製、SE75DU)を用いてポリオレフィン(日本ゼオン株式会社、ZEONEX1060R)を射出成形する場合、典型的な成形条件としては、樹脂温度270℃、金型温度80℃、型締め力500kNが用いられる。
【0028】
また、サンプル流路11を形成した基板層1a、1bの貼り合わせは、従来公知の手法に従って熱圧着することによって行うことができる。例えば、上述のポリオレフィン基板層をナノインプリント装置(キャノン株式会社、Eitre 6/8)を用いて熱圧着する場合、典型的な圧着条件としては、貼り合わせ温度95℃、押圧力10kNで数分間の押圧が用いられる。
【0029】
サンプル液は、サンプルインレット13から導入され、シースインレット14から導入されるシース液と合流して、サンプル流路11を送液される。シースインレット14から導入されたシース液は、2方向に分かれて送液された後、サンプルインレット13から導入されたサンプル液との合流部において、サンプル液を2方向から挟み込むようにしてサンプル液に合流する。これにより、合流部において、シース液層流の中央にサンプル液層流が位置された3次元層流が形成される。
【0030】
符号15は、サンプル流路11に詰まりや気泡が生じた際に、サンプル流路11内に負圧を加えて流れを一時的に逆流させて詰まりや気泡を解消するための吸引流路を示す。吸引流路15の一端には、真空ポンプ等の負圧源が接続される吸引アウトレット151が形成され、他端は連通口152においてサンプル流路11に接続している。
【0031】
3次元層流は、送液方向に対する垂直断面の面積が送液方向上流から下流へ次第にあるいは段階的に小さくなるように形成された絞込部161(図5参照),162(図6参照)において層流幅を絞り込まれた後、流路の一端に設けられたオリフィス12から排出される。図7に、オリフィス12からチップ外の空間に吐出された液滴Dを示す。図中、符号Fは、オリフィス12からの液滴Dの吐出方向を示す。
【0032】
サンプル流路11のオリフィス12への接続部は、直線状に形成されたストレート部17とされている。ストレート部17は、オリフィス12から液滴Dを矢印F方向に真っ直ぐ吐出するために機能する。ストレート部17の長さ(図6(B)符号k参照)は、例えばオリフィス12の開口径(図6(C)符号l参照)が30〜250μmである場合、100〜500μmとされる。ストレート部が100μmである場合、オリフィス12からの液滴Dの吐出方向が安定せず、チップ外の空間に吐出された液滴Dの移動方向の制御を精度良く行うことができない。
【0033】
オリフィス12は基板層1a、1bの端面方向に開口しており、その開口位置と基板層端面との間には切欠部121が設けられている。切欠部121は、オリフィス12の開口位置と基板端面との間の基板層1a、1bを、切欠部121の径Lがオリフィス12の開口径lよりも大きくなるように切り欠くことによって形成されている(図6(C)参照)。切欠部121の径Lは、オリフィス12から吐出される液滴の移動を阻害しないように、オリフィス12の開口径lよりも2倍以上大きく形成することが望ましい。ただし、切欠部121の径Lをあまりに大きくし過ぎると、基板層1a、1bを熱圧着する際の熱分布及び圧力分布の均一性が悪くなったり、切欠部121内にガスがたまったりして、オリフィス12の形状不整の原因となる。従って、オリフィス12の開口径lを通常の200μm程度とする場合、切欠部121の径Lは400μm〜2mm程度が好ましい。
【0034】
ここでは、オリフィス12の開口形状を円形とし、切欠部121を八角柱形状に基板層1a、1bを切り欠いて形成する場合を示した。ただし、オリフィス12の開口形状は、円形に限られず、楕円、正方形、矩形あるいは多角形などの形状であってよい。基板層1a、1bを熱圧着する際の熱伝導及び圧力負荷の対称性のため、オリフィス12の開口形状は、開口を中心として対称であることが望ましい。また、切欠部121も、八角柱形状に限られず、オリフィス12の開口に連通する空間を構成し、オリフィス12から吐出される液滴の移動を阻害しない限り、任意形状とできる。切欠部121は、オリフィス12と同軸上に設けることが好ましいが、これに限定されることはない。また、マイクロチップ1の厚さが薄い場合、切欠部121は、基板層1a、1bを厚み方向に全層切欠いて形成してもよい。
【0035】
一般に、基板層を射出成形する際、熱可塑性樹脂の金型に接する部分で、「ばり」あるいは「だれ」と称される成形不良が発生することが知られている。特に、成形時に発生するガスは、成形後に基板層の端面となる部分及びその周辺の形状を著しく変形させる。このため、オリフィスの開口位置を基板層端面に設ける場合には、成形不良の影響によってオリフィスの形状が不整となり易い。
【0036】
マイクロチップ1では、オリフィス12の開口位置と基板層端面との間に切欠部121を設け、オリフィス12を基板層端面から所定長陥凹した位置に設けている。このため、基板層端面及びその周辺で仮に成形不良が生じたとしても、オリフィス12の形状には影響が及ばない。従って、マイクロチップ1では、オリフィス12の開口形状を所望の形状に安定して成形することができ、オリフィス12から一定の大きさ及び形状を有する液滴Dが吐出されるようにできる。
【0037】
基板層端面及びその周辺で生じる成形不良の影響を完全に排除するため、オリフィス12の開口位置から基板層端面までの距離に相応する切欠部121の幅(図6(B)符号w参照)は、例えばオリフィス12から基板層端面への方向におけるマイクロチップ1の幅(図5符号W参照)が75mmである場合(マイクロチップサイズ:横75mm×縦25mm×厚さ2mm)、0.2mm以上とすることが好ましい。なお、射出成形時に生じる「ばり」やガスは、熱可塑性樹脂の種類や成形条件によって異なるため、切欠部121の幅wは、熱可塑性樹脂の種類や成形条件に応じて広い範囲で変更され、最適化され得るものとする。
【0038】
さらに、基板層を熱圧着する際、基板層の端面及び辺縁では、基板層の中央に比べて熱収縮による変形が大きくなることが知られている。このため、オリフィスの開口位置やこれに接続する流路を基板端面及びその近傍に設ける場合には、熱収縮によって成形されたオリフィスの形状や流路の形状が変形し易い。
【0039】
マイクロチップ1では、オリフィス12の開口位置と基板層端面との間に切欠部121を設け、オリフィス12の開口位置が基板層端面から所定長内側とされている。このため、基板層の熱圧着時にオリフィス12の形状及びこれに接続するストレート部17の形状が変形することがない。従って、マイクロチップ1では、オリフィス12の形状及びストレート部17の形状を所望の形状に維持し、オリフィス12から一定の大きさ及び形状を有する液滴Dが真っ直ぐに吐出されるようにできる。
【0040】
比較のため、切欠部121を設けない従来のマイクロチップ9におけるオリフィスの構成を図10に示す。また、参考のため、本技術に係るマイクロチップ1と従来のマイクロチップ9から吐出される液滴の形状を図9に示す。図9(A)はマイクロチップ1、(B)はマイクロチップ9の液滴形状の典型例を示す。
【0041】
以上のように、本技術に係るマイクロチップは、切欠部を設けることにより、基板層の射出成形及び熱圧着に起因したオリフィス及び流路の形状の不整あるいは変形が生じることがないようにされている。従って、本技術に係るマイクロチップでは、均一な形状のオリフィスから一定の大きさ及び形状の液滴を一定の方向に真っ直ぐに吐出できる。
【0042】
また、本技術に係るマイクロチップは、高価な石英、及び、アルミナ及びジルコニア等のセラミックなどの研磨加工によることなく、熱可塑性樹脂の射出成形及び熱圧着によって、均一な形状のオリフィス及び流路を形成できるため、安価で量産性に優れる。さらに、本技術に係るマイクロチップでは、オリフィスがチップ端面に存在しないため、製造プロセスにおける不慮の接触などによるオリフィスの破壊が起こり難く、高い生産性が得られる。
【0043】
3.微小粒子分析装置の動作
最後に、微小粒子分析装置Aの動作について図8を参照しながら説明する。
【0044】
サンプル流路11の光照射部を通過したサンプル液及びシース液は、オリフィス12からチップ外の空間に排出される。光照射部では、光学検出部によって、微小粒子の光学特性の検出と同時に、微小粒子の送流速度(流速)及び微小粒子の間隔等の検出が行われている。検出された微小粒子の光学特性、流速及び間隔等は電気的信号に変換され、装置の全体制御部(不図示)に出力される。全体制御部は、この信号に基づいて振動素子2(図4参照)の振動数を制御し、オリフィス12において形成される液滴D中に微小粒子Pがひとつずつ含まれるようにマイクロチップ1を振動させる。
【0045】
さらに、全体制御部は、振動素子2の振動周波数に同調させて、サンプル流路11を通流するシース液及びサンプル液に付与される電荷の正負を切り換え、オリフィス12において形成される液滴Dに正又は負の電荷を付与する。
【0046】
光学検出部によって検出された微小粒子の光学特性は、電気信号に変換されて全体制御部に出力される。全体制御部は、この信号に基づき、各液滴に含まれる微小粒子の光学特性に応じて液滴に付与する電荷を決定する。具体的には、全体制御部は、例えば、所望の特性を有する分取対象微小粒子を含む液滴を正に、分取対象微小粒子を含まない液滴を負に帯電させる。
【0047】
この際、液滴Dの荷電状態を安定化させるため、微小粒子分析装置Aでは、オリフィス12近傍に、チップ外の空間に吐出された液滴の移動方向に沿って、接地電極6,6を配置している。接地電極6,6は、移動する液滴を挟んで対向するように配置されており、微小粒子の移動方向を制御するための対電極41,42とオリフィス12との間に配設される。
【0048】
オリフィス12から荷電されて吐出される液滴Dは、対電極41,42との間に作用する電気的力によって移動方向を制御される。この際、移動方向の制御を正確に行うためには、安定した電荷が液滴に付与されていることが必要である。対電極41,42には、非常に高い電圧が印加されるため、対電極41,42の高電位が液滴Dに付与される電荷に影響を与えると、液滴Dの荷電状態が不安定になるおそれがある。そこで、微小粒子分析装置Aでは、オリフィス12と対電極41,42との間に接地された接地電極6,6を配することで、このような対電極41,42の高電位による影響を排除している。
【0049】
オリフィス12から吐出される液滴Dの移動方向の制御は、例えば、以下のように行われる。すなわち、所望の特性を有する分取対象微小粒子が含まれる液滴を正に、分取対象微小粒子を含まない液滴を負に帯電させる先の例では、対電極41を正に、対電極42を負に帯電させることにより、分取対象微小粒子のみを容器53に分取することができる。具体的には、正電荷が付与された分取対象微小粒子を含む液滴は、対電極41との電気的反発力及び対電極42との電気的吸引力によって、移動方向を矢印f方向に制御され容器53に誘導される。一方、負電荷が付与された分取対象微小粒子を含まない液滴は、移動方向を矢印f方向に制御され容器52に誘導される。
【0050】
あるいは、例えば、所望の特性を有する分取対象微小粒子が含まれる液滴に電荷を付与せず、分取対象微小粒子を含まない液滴を正又は負に帯電させ、対電極41,42を正又は負に帯電させれば、分取対象微小粒子のみを容器51に分取することができる。その他、液滴Dに付与する電荷と、対電極41,42による液滴の移動方向の制御は、従来のフローサイトメトリーと同様に様々な組合せにおいて行うことができる。なお、液滴Dを回収するための容器は2以上設けられ、3つに限定されることはないものとする。さらに、これらの容器は、回収した液滴を貯留することなく排出する排出路として構成されていてもよく、回収された分取対象でない微小粒子が破棄されるようにしてもよい。
【0051】
上述のように、マイクロチップ1では、均一な形状のオリフィス12から一定の大きさ及び形状の液滴Dを一定の方向に真っ直ぐに吐出できる。このため、微小粒子分析装置Aでは、液滴Dの移動方向の制御を高精度に行うことができ、所望の特性を有する微小粒子を正確に分取することが可能とされている。
【0052】
ここでは、液滴Dに、その液滴に含まれる微小粒子の特性に基づいて正又は負の電荷を切り換えて付与して分取を行う場合を例に説明した。液滴の分取は、光学検出部を電気的又は磁気的な検出手段に置換した場合にも、微小粒子の電気的又は磁気的特性に基づき同様にして液滴の移動方向を制御することで、所望の特性を備えた微小粒子を容器51〜53のいずれかに回収し、分取することが可能である。
【0053】
本技術に係るマイクロチップ及び微小粒子分析装置は以下のような構成をとることもできる。
(1)液体が通流される流路と、該流路を通流する前記液体を外部に吐出する吐出部と、が形成され、積層された基板層の端面方向に開口する前記吐出部の開口位置と、前記端面と、の間に、前記開口よりも径が大である切欠部が設けられたマイクロチップ。
(2)前記流路の前記吐出部への接続部が、直線状に形成された上記(1)記載のマイクロチップ。
(3)前記基板層が、射出成形により形成された上記(1)又は(2)記載のマイクロチップ。
(4)前記基板層が、熱圧着により積層された上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマイクロチップ。
(5)前記開口位置から前記端面までの距離に相応する前記切欠部の幅が、0.2mm以上である上記(1)〜(4)のずれかに記載のマイクロチップ。
(6)微小粒子の分析に用いられる上記(1)〜(5)のいずれかに記載のマイクロチップ。
(7)上記(1)〜(6)に記載のマイクロチップが搭載された微小粒子分析装置。
【符号の説明】
【0054】
A:微小粒子分析装置、A:本体、A:カバー、A:ソーティングカバー、D:液滴、P:微小粒子、1:マイクロチップ、1a,1b:基板層、11:サンプル流路、12:オリフィス、121:切欠部、13:サンプルインレット、14:シースインレット、15:吸引流路、151:吸引アウトレット、152:連通口、161,162:絞込部、17:ストレート部、2:振動素子、3:光学検出部、4,41,42:対電極、51,52,53:回収部(容器)、6:接地電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が通流される流路と、該流路を通流する前記液体を外部に吐出する吐出部と、が形成され、
積層された基板層の端面方向に開口する前記吐出部の開口位置と、前記端面と、の間に、前記開口よりも径が大である切欠部が設けられたマイクロチップ。
【請求項2】
前記流路の前記吐出部への接続部が、直線状に形成された請求項1記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記基板層が、射出成形により形成された請求項2記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記基板層が、熱圧着により積層された請求項3記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記開口位置から前記端面までの距離に相応する前記切欠部の幅が、0.2mm以上である請求項4記載のマイクロチップ。
【請求項6】
微小粒子の分析に用いられる請求項5記載のマイクロチップ。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロチップが搭載された微小粒子分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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