説明

マイクロホン装置

【課題】小型で高S/N比のマイクロホン装置を提供すること。
【解決手段】本発明のマイクロホン装置30は、音を電気信号に変換する複数の半導体プロセスを利用して微細加工を行うことにより作成された収音素子31を立方体構造体の各面に1つずつ配置するとともに、出力信号をそれぞれの極性をもつ中継端子32a、32bにワイヤ−33で電気的接続を行うようにしており、前記収音素子31の出力信号はそれぞれ加算され、小型で高S/N比の音響性能を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン装置に係り、特に高S/N比の収音を可能とするマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロホン装置としては、図5に示すようなものが知られている。図5は、従来のマイクロホン装置の構成図である。
【0003】
図5に従来のマイクロホン装置の構造を示す。このマイクロホン装置は、金属製のケース40内に、音波による音圧変化に応じて振動する振動板41と、空隙部42を介して振動板41と対抗配置された背面板43と、空隙部を設けるために振動板41と背面板43との間に配置されたスペーサ44と、背面板43には複数の貫通穴45が設けられたものである。そして振動板41と背面板43とが形成する静電容量をインピーダンス変換する能動素子(インピーダンス変換素子)46を備え、この能動素子46は、配線47で背面板43への電気的接続が確保されている。このマイクロホン装置は、振動板41と背面板43との間の静電容量の変化に基づいて音を電気信号に変換し、能動素子46を介して出力するものである。
【0004】
この従来のマイクロホン装置においては、マイクロホンの固有ノイズNは能動素子46の固有ノイズ値によって支配的に決定される。一方、マイクロホンの感度Sは、振動板41の有効面積Sef、振動板の無効面積Sst、空隙部42の高さd、振動板41と背面板43との電位差vとの間で、以下の関係を有している。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、振動板の有効面積Sef、振動板の無効面積Sst、空隙部の高さd、振動板と背面板の電位差vを変化させてマイクロホンの感度Sを大きくしようとすると以下の問題がある。
振動板の有効面積Sefを大きくするとそれに伴いマイクロホンが大きくなってしまうため小型化が困難である。また、振動板の無効面積Sstを小さくしようとすると、背面板の一部を削る必要があり背面板の平面度が低くなる。一方、振動板と背面板の電位差vを大きくしようとすると静電引力が大きくなり振動板が背面板に吸着し易くなりマイクロホンが不安定になる。
【0007】
空隙部の高さdを小さくすると静電引力が大きくなり振動板が背面板に吸着し易くなりマイクロホンの音響特性が不安定になる。
また、従来のマイクロホンでは空隙部の高さdはスペーサの厚みで決まるが、製造可能なスペーサの薄さには限界があり空隙部の高さdを小さくしようとしても限界があった。 また、従来のマイクロホンは回折の影響で無指向性を広域まで保つことが出来ないという問題があった。また、従来のマイクロホンを集積・信号加算して高S/N比を得ようとすると大きくなってしまうという問題があった。(特許文献1)
【0008】
また、近年、半導体プロセスを用いて製造される収音素子、いわゆるMEMS素子を用いたマイクロホン装置が提案されている(特許文献2)。この収音素子は、半導体基板に対してフォトリソグラフィおよびエッチング工程を経て形状加工することによって得られる微細な素子であるが、微細化、薄型化は可能であるものの、やはり回折の影響により、無指向性を広帯域まで保つことは出来ないという問題があった。
【0009】
汎用マイクロホンユニットを集積実装して高S/N比で収音が可能なマイクロホン装置を構築しようとする場合、マイクロホンユニット単体が充分に小さくないために、前記マイクロホン装置が大きくなってしまう問題があった。
【0010】
また、一般的な無指向性マイクロホンでは、回折の影響のために、高周波領域まで無指向性を保つことが出来なかった。
【0011】
【特許文献1】特開2001−324815
【特許文献2】特開2004−128957
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、小型で、高S/N比を実現し、一般的なマイクロホンでは回折の影響により無指向性を保つことの出来ない程度の高周波領域まで無指向性を保ち、かつ振動ノイズに強いマイクロホン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明のマイクロホン装置は、半導体プロセスを用いて製造される少なくとも2つの収音素子が、所定の角度をなすように、集積実装されたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、複数のMEMS素子を異なる面に配置することにより、指向性の向上をはかることができる。特にMEMS素子の場合、薄型化が可能であり、容易に所望の角度をなすように配置することができる。すなわち、収音素子を立方体構造に集積実装することで、回折の影響の方向性を無くし、高周波領域まで指向性パターンを無指向性に保つマイクロホン装置を提供することが出来る。
【0015】
また、本発明は、上記マイクロホン装置において、前記複数の収音素子が、多面体の少なくとも2つの面に集積実装されるものを含む。
この構成によれば、小型で高S/N比をもつマイクロホン装置を得ることができる。
【0016】
また、本発明は、上記マイクロホン装置において、前記複数の収音素子が、立方体の各面に集積実装されるものを含む。
この構成によれば、構造が安定で携帯端末などの機器への装着も容易である。
【0017】
また、本発明は、上記マイクロホン装置において、前記収音素子が、立方体の各面に複数集積実装されるものを含む。
この構成によれば、より収音特性の良好なマイクロホン装置を提供することが可能となる。
【0018】
また、本発明は、上記マイクロホン装置において、前記複数の収音素子は、支持体の外表面に装着されているものを含む。
この構成によれば、支持体の形状を高精度に規定しておくことにより、実装が容易で、安定な形状を得ることができる。
【0019】
また、本発明は、上記マイクロホン装置において、前記複数の収音素子は前記支持体に形成された配線を介して相互接続されたものを含む。
この構成によれば、多面体表面を有効に利用することができ、さらなる小型化をはかることができる。
【0020】
また、本発明は、上記マイクロホン装置において、前記収音素子が相対向する2つの面に設けられ、相対向する2つの面に設けられた組の収音素子ごとに出力を足し合わせるように構成されたものを含む。
この構成によれば、収音素子を立体的にそれぞれの収音素子部を対向する様に配置し、その対向する出力信号を足し合わせることにより振動雑音を低減することが出来る。
【0021】
また、本発明のマイクロホン装置は、半導体プロセスを用いて製造される少なくとも2つの収音素子が、湾曲面を有する基板上に、集積実装される。
この構成によれば、さらなる高周波領域まで無指向性を維持することができる。
【0022】
また、本発明のマイクロホン装置は、前記収音素子は可撓性基板表面に形成されたアモルファス半導体層を形状加工することによって形成された音響トランスデューサであるものを含む。
この構成によれば、半導体プロセスを用いて製造される小さな収音素子を集積実装し、小型で高S/N比の収音が可能なマイクロホン装置を提供することが出来る。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、半導体プロセスを用いて製造される複数の収音素子を互いに所定の角度をなすように形成するとともに、前記収音素子の出力を足し合わせる回路とを備えたマイクロホン装置であり、小型で高S/N比を有するマイクロホン装置を提供することができる。
【0024】
さらに、収音素子を立方体構造体として集積実装することにより小型化が可能となり、マイクロホンの収音特性として回折効果の少ないマイクロホンを提供することができる。
【0025】
さらに、前記、収音素子を複数それぞれの方向の立方構造体の各面に配置し、出力を足し合わせることにより、S/N比が約9dB高いマイクロホンを提供することが出来る。ちなみに、音の波長に比べて十分小さい領域に置かれたn個のマイクロホン出力の、足し合わせによるS/N比の増加は、次式で示される。
【0026】
【数2】

【0027】
さらに、立体構造面上の収音素子の背面板を各面において接続、共通化することにより接続および、ワイヤ−数の低減をはかることができ、組み立て工数の低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0029】
本発明の実施の形態1のマイクロホン装置の構成について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図1に本発明の実施の形態1のマイクロホン装置を示す。図2は本実施の形態1のマイクロホン装置に用いられる各収音素子を示す断面拡大図である。複数の半導体プロセスを利用して微細加工を行うことにより作成された音を電気信号に変換する、いわゆるMEMS型の収音素子31を立方体構造体の各面に1つずつ配置し、出力信号をそれぞれの極性をもつ中継端子32a、32bにワイヤ−33で電気的接続を行うようにしたものである。
各面に配置される収音素子は図2に示すように、MEMS素子で構成される。この収音素子14は、半導体基板に対してフォトリソグラフィおよびエッチング工程を経て形状加工することによって得られる微細な素子であり、音波による音圧変化に応じて振動する振動板15aを含む半導体基板(シリコン基板)15と、空隙部19を介して振動板15aと対抗配置された背面板16と、半導体基板15と背面板16との間に設けられた電気的絶縁膜17と、半導体基板15上に設けられた電極20と、背面板16上に設けられた電極21とを備え、背面板16には複数の貫通穴18が設けられてなるものである。半導体基板15としては不純物濃度を高めて電気的導電性を高くした材料を使用することにより半導体基板15上に設けられた電極20と振動板15aとは電気的導電性が確保されている。また、背面板16としても電気的導電性の高い材料を使用することにより背面板16上に設けられた電極21とは電気的導通が確保されている。
【0031】
収音素子14と、振動板15aと背面板16とが形成する静電容量をインピーダンス変換する能動素子22と、半導体基板15上に形成された電極20と能動素子25とを電気接続する配線23と、背面板16上に形成された電極21と能動素子22とを電気接続することにより、配線24によって電気的接続を確保する。そして収音素子14上の振動板15aと背面板16との間の静電容量の変化に基づいて音を電気信号に変換する収音素子14の出力信号を、能動素子22を介して出力するものである。
【0032】
この構成により、収音素子31の出力信号はそれぞれ積算され、小型で高S/N比で優れた音響性能を有する無指向性マイクロホンを提供することができる。
【0033】
さらに、上記構造においては小型の収音装置を構成するため、構造体に起因する回折効果による音響特性劣化を低減することができる。
【0034】
さらに、立方構造体上で対向する吸音素子の出力を足し合わせることにより外部振動を起因とする振動ノイズを低減することが出来る。
【0035】
本発明によって、高S/N比であってかつ小型、回折効果が少ないために音響特性が良好であり、かつ、振動ノイズに強いマイクロホンを実現することができる。
【0036】
(実施の形態2)
図3に本発明の実施の形態2のマイクロホン装置を示す。音を電気信号に変換する複数の半導体プロセスを活用して微細加工を行うことにより、作成された複数の収音素子31を立方体構造体の各面に同数配置し、前記複数の収音素子31の出力信号をそれぞれの極性をもつ中継端子32aと、中継基板32上に形成された中継端子32bにワイヤ−33で電気的接続を行っている。
【0037】
この構造により、各面にそれぞれ複数の収音素子が配設されているため、前記の収音素子31の出力信号はそれぞれ足し合わされ、実施の形態1よりも、さらに高S/N比の出力を得ることができる。
本発明により、高S/N比の音響性能を有する無指向性マイクロホンを提供することができる。
【0038】
(実施の形態3)
次に、本発明のマイクロホン装置の実施の形態3について説明する。本発明のマイクロホン装置は、図4に示すように、複数の半導体プロセスを活用して微細加工を行うことにより作成され、音を電気信号に変換するように構成された複数の収音素子31を備えた半導体ウエハ34は、各収音素子の出力を半導体ウエハ34上で導通し、この半導体ウエハ34を立方体構造体の各面に一枚ずつ配置し、半導体ウエハ34の出力信号をそれぞれの極性をもつ中継端子32aと、中継基板32上に形成された中継端子32bにワイヤ−33で電気的接続を行うことにより、前記の半導体ウエハ34の出力信号はそれぞれ足し合わされ、小型でより高S/N比の音響性能を有する無指向性マイクロホンを提供することができる。
【0039】
さらに、一枚の半導体ウエハ34に搭載される収音素子31の出力は、半導体ウエハ34上で接続されていることにより、図4に示すマイクロホン装置では、立方体構造体の1つの面に複数の収音素子31を実装することにより得られる効果と同様の効果を、より少ない組み立て工数で得ることが出来、安価に作成することが可能となる。
【0040】
本発明により、高S/N比の音響性能を有する無指向性マイクロホンを安価で提供することができる。
【0041】
前記実施の形態では、立方体構造のマイクロホン装置について説明したが、立方体構造に限定されることなく、4面体の各面にそれぞれマイクロホン装置を実装してもよく、また、所定の角度をなすように配置された2面にそれぞれ無志向性マイクロホンを配設した
ものでも有効である。
【0042】
さらにまた、平面のみならず、湾曲面に各素子を配設してもよく、可撓性基板例えばフィルムキャリア表面に薄膜形成、フォトリソグラフィ、エッチングを繰り返すことにより、パターン形成を行い、多数個のマイクロホンを配設して、各素子を形成し、湾曲させて支持することにより、曲面に多数個のマイクロホンを配置するようにしてもよい。
【0043】
さらにまた、球面上に多数個のMEMS構造の収音素子を配設するようにしてもよい。具体的には例えば、ボール状のシリコン粒を用いて球面をなすように加工し、この表面にマイクロホンを多数個配設することにより、より無志向性の高いマイクロホン装置を形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、無志向性であってかつ占有面積が小さく信頼性の高いマイクロホンを提供することができることから、携帯端末などに用いられる超小型のマイクロホン装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1のマイクロホン装置の構造図
【図2】同マイクロホン装置に搭載されるマイクロホンを示す断面拡大図
【図3】本発明の実施の形態2のマイクロホン装置の構造図
【図4】本発明の実施の形態3のマイクロホン装置の構造図
【図5】従来の積算式マイクロホンアレイの系統を示す図
【符号の説明】
【0046】
14 収音素子
15 半導体基板
15a 振動板
16 背面板
17 絶縁膜
18 貫通穴
19 空隙部
20 電極
21 電極
22 能動素子
23 配線
24 配線
30 マイクロホン装置
31 収音素子
32 中継基板
32a 中継端子
32b 中継端子
33 ワイヤ
34 半導体ウエハ
41 振動板
42 空隙部
43 背面板
44 スペーサ
45 貫通穴
46 能動素子
47 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体プロセスを用いて製造される少なくとも2つの収音素子が、所定の角度をなすように、集積実装されたマイクロホン装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロホン装置であって、
前記複数の収音素子が、多面体の少なくとも2つの面に集積実装されるマイクロホン装置。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロホン装置であって、
前記複数の収音素子が、立方体の各面に集積実装されるマイクロホン装置。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロホン装置であって、
前記収音素子が、立方体の各面に複数集積実装されるマイクロホン装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のマイクロホン装置であって、
前記複数の収音素子は、支持体の外表面に装着されているマイクロホン装置。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロホン装置であって、
前記複数の収音素子は前記支持体に形成された配線を介して相互接続されたマイクロホン装置。
【請求項7】
請求項1に記載のマイクロホン装置であって、
前記収音素子は相対向する2つの面に設けられ、相対向する2つの面に設けられた組の収音素子ごとに出力を足し合わせるように構成されたマイクロホン装置。
【請求項8】
半導体プロセスを用いて製造される少なくとも2つの収音素子が、湾曲面を有する基板上に、集積実装されたマイクロホン装置。
【請求項9】
請求項8に記載のマイクロホン装置であって、
前記収音素子は可撓性基板表面に形成されたアモルファス半導体層を形状加工することによって形成された音響トランスデューサであるマイクロホン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−104562(P2007−104562A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295050(P2005−295050)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】