説明

マイクロポンプ

【課題】 送液機構に弁や多くのアクチュエータを備えることなく、微量の液体を一方向に向けて精度よく送ることができるようにする。
【解決手段】 液体を順方向に送る流路部16と流体の逆流を阻止する逆流阻止部18とを内周面に有し、液体の流路10を構成するケーシング12と、ケーシング12を振動させる加振源14とを備え、ケーシング12を振動させて流体を順方向に送るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療や化学分析等において、微量の流体を一方向に向けて精度よく送るのに使用されるマイクロポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療や化学分析等に用いられて、微量の流体を一方向に向けて精度よく送るのに使用されるマイクロポンプとしては、例えば、流路を構成する弾性体からなるパイプの壁中に、形状記憶合金ばねをパイプと同心状に一体に埋込み、パイプの吸込口と排出口に一方向弁をそれぞれ設けて、形状記憶合金ばねを介してパイプを収縮・伸長させることで液体を一方向に送るようにしたもの(特許文献1参照)等、送液機構(ポンプ部)の出入り口に弁を設けて送液効果を生じさせるようにしたものが一般に知られている。また、流路を構成するパイプ等の壁中または外周面等の長さ方向に沿った所定の位置に、形状記憶合金や圧電素子等からなる複数のアクチュエータを配置し、コントローラを介して複数のアクチュエータの動きを個別に制御して、液体を一方向に送るようにしたもの(特許文献2,3参照)等、送液機構(ポンプ部)に複数のアクチュエータを備え、アクチュエータの動きを個別に制御することで、弁を設けることなく、液体を一方向に送るようにしたものも知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−159250号公報
【特許文献2】特開2003−184755号公報
【特許文献3】特開2003−286958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、送液効果を生じさせるため、送液機構の出入り口に弁を設けた従来例にあっては、弁によって流体の流路が狭められて、ここが詰まりやすくなるばかりでなく、弁の作動不良が生じるリスクがある。また、送液機構に多くのアクチュエータを備え、アクチュエータの動きをコントローラで個別にコントロールするようにした従来例にあっては、動きが制御される可動部分が多くあるため、構造が複雑化するばかりでなく、故障が発生する要因が大きくなるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて為されてもので、送液機構に弁や多くのアクチュエータを備えることなく、微量の液体を一方向に向けて精度よく送ることができるようにしたマイクロポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、液体を順方向に送る流路部と流体の逆流を阻止する逆流阻止部とを内周面に有し、液体の流路を構成するケーシングと、前記ケーシングを振動させる加振源とを備え、前記ケーシングを振動させて流体を順方向に送るようにしたことを特徴とするマイクロポンプである。
これにより、流路を構成するケーシングの内周面に設けた逆流阻止部に、流体の逆流を阻止する弁としての役割を果たさせることで、故障するリスクの大きい弁を設ける必要をなくし、しかも、アクチュエータとして加振源のみを備えることで、コンパクト化を図りつつ、マイクロポンプとしての信頼性を高めることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記流路部と前記逆流阻止部は、傾斜の異なるテーパ面からなり、該傾斜の異なるテーパ面が前記ケーシングの内周面に交互に連続して形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロポンプである。
流路抵抗が順方向と逆方向で異なるようにした、傾斜の異なるテーパ面で流路部と逆流阻止部を形成することで、ケーシングの内周面に流路部と逆流阻止部を簡易に設けることができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記加振源は、超音波発振器、表面進行波素子または加振器からなることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロポンプである。
加振源を、例えば電気的に表面弾性波を発生させる表面進行波素子とすることで、送液駆動力をより高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロポンプによれば、送液機構に弁を設ける必要をなくして、弁を設けることに伴って生じる弁詰まりや弁の作動不良をなくし、しかも、アクチュエータの数を最小限で済まして、コンパクト化を図りつつ、マイクロポンプとしての信頼性を高め、ケーシングを振動させることで、微量の液体を一方向に向けて精度よく送ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロポンプの斜視図を示し、図2は、マイクロポンプの縦断正面図を示す。図1及び図2に示すように、マイクロポンプは、内部に液体の流路10を構成するマイクロチューブからなるケーシング12と、このケーシング12を上下方向(ケーシング12の半径方向)に振動させる加振源としての一対の超音波発振器14を有している。ケーシング12の一端は、吸込管(図示せず)が接続される吸込口12aに、他端は、吐出管が接続される吐出口12bになっており、流路10は、ケーシング12の内部を吸込口12aから吐出口12bに向けて延びている。
【0011】
ケーシング12の流路10を区画する内周面には、共にケーシングの軸方向に沿って傾斜するテーパ面からなる流路部16と逆流阻止部18が交互に連続して設けられている。この流路部16の軸方向に沿った長さLは、例えばmmオーダである。流路部16を形成するテーパ面のケーシング12の軸心となす角度θと、逆流阻止部18を形成するテーパ面のケーシング12の軸心となす角度θは、
0゜<θ<θ<180゜−θ
の関係が成り立つように設定されている。
【0012】
これにより、角度θのテーパ面からなる流路部16と、角度θのテーパ面からなる逆流阻止部18での流路抵抗が異なり、流体が逆流する方向に対する流路抵抗が逆流阻止部18で大きくなって、この結果、超音波発振器14によりケーシング12を上下に振動させた時、流路部16は、流体を順方向、つまり吸込口12aから吐出口12bに送り、逆流阻止部18は、流体の逆流を阻止するように作用する。このため、弁を設けることなく、送液効果をもたらすことができる。
【0013】
しかも、流路抵抗が順方向と逆方向で異なるようにした、傾斜の異なるテーパ面で流路部16と逆流阻止部18を形成することで、ケーシング12の内周面に流路部16と逆流阻止部18を簡易に設けることができる。
【0014】
この例のマイクロポンプによれば、液貯留部から延びる吸込管にケーシング12の吸込口12aを、液供給部に達する吐出管に吐出口12bをそれぞれ接続し、ケーシング12内の流路10に液体を満たした状態で、超音波発振器14を作動させて、ケーシング12を上下方向に振動させる。これにより、ケーシング12内の液体は、逆流阻止部18で逆流が阻止されつつ、流路部16を通して、吸込口12aから吐出口12bに向けて順次送り出される。
【0015】
このように、流路10を構成するケーシング12の内周面に設けた逆流阻止部18に、流体の逆流を阻止する弁としての役割を果たさせることで、故障するリスクの大きい弁を設ける必要をなくし、しかも、送液に際して、超音波発振器14でケーシング12を振動させるだけでよいの、多数のアクチュエータを備える必要をなくして、コンパクト化を図りつつ、マイクロポンプとしての信頼性を高めることができる。
【0016】
なお、この例では、角度θのテーパ面からなる流路部16と、角度θのテーパ面からなる逆流阻止部18を交互に設けているが、角度の異なるテーパ面(平面が含まれていてもよい)からなる2つ以上の流路部及び/または逆流阻止部を設けるようにしてもよい。また、一方の超音波発振器14を省略してもよい。更に、ケーシング12を弾性体で構成し、超音波発振器14でケーシング12を前後方向(ケーシング12の軸方向)に振動させるようにしてもよく、この場合、ケーシング12の前後方向の振動によって、液体の進行効果を得るようにすることができる。超音波発振器14でケーシング12を前後方向(ケーシング12の軸方向)に振動させるようにして、下記の図8に示す例のように、弾性チューブで挟まれた位置に配置して使用するようにしてもよい。超音波発振器の代わりに加振器を使用してもよい。
【0017】
ケーシング12は、一体に成形したものでも良いが、図3に示すように、片面に流路部用テーパ面20と逆流阻止部用テーパ面22を形成した板状素材24を用意し、この板状素材24をロール状に加工した後、突合せ面26を溶着や溶接等により気密的に接合するようにしてもよい。また、図4に示すように、前述の板状素材24を半円状に曲げた一対の片側ケーシング28を用意し、この一対の片側ケーシング28の両端面を互いに突合せ、この突合せ面30を溶着や溶接等により気密的に接合するようにしてもよい。これにより、共にテーパ面からなり、流路10を区画する流路部16と逆流阻止部18を内周面に有するマイクロチューブからなるケーシング12を容易に製造することができる。
【0018】
図5は、本発明の他の実施の形態のマイクロポンプを示す。この図5に示すマイクロポンプの図1及び図2に示すマイクロポンプと異なる点は、チューブ状のケーシング12の外周面に、円筒状の超音波発振器(加振源)32を取付け、この超音波発振器32によって、ケーシング12を上下方向(ケーシング12の半径方向)に振動させるようにした点である。これにより、超音波発振器32の数を一つで済ますことができる。この例にあっても、超音波発振器32でケーシング12を前後方向(ケーシング12の軸方向)に振動させるようにしてもよい。
【0019】
図6は、本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す。この図6に示すマイクロポンプの図1及び図2に示すマイクロポンプと異なる点は、マイクロチューブからなるケーシング12を弾性体で構成し、ケーシング12の外周面に、一対の表面進行波素子(加振源)34を取付け、この表面進行波素子34によって、ケーシング12に表面進行波を発生させるようにした点にある。
【0020】
表面進行波素子34は、制御部(図示せず)から電気信号を受けて、ケーシング12との当接面に電気的に進行波(弾性波)を発生させるようになっている。このため、表面進行波素子34のケーシング12との当接面で発生した進行波は、ケーシング12を介して流路中の液体に与えられ、これによって、ケーシング12内の液体は、逆流阻止部で逆流が阻止されつつ、進行波の進行に伴って順方向に送られる。このように、流路中の液体に進行波を与えることで、送液駆動力をより高めることができる。
なお、図示しないが、図5に示す例と同様に、表面進行波素子として、円筒形のものを使用するようにしてもよい。
【0021】
図7は、本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す。この例は、内部に流路を形成した扁平なケーシング40の両端部に、共に円筒状の吸込部42と吐出部44を設け、更に、ケーシング40の上下両面に、ケーシング40を前後方向(ケーシングの長さ方向)に振動させる加振源としての一対の超音波発振器46を取付けている。なお、図示しないが、ケーシング40の流路を区画する内周面には、図2に示す、共にテーパ面からなる流路部と逆流阻止部が長さ方向に沿って交互に連続して設けられている。
【0022】
更に、図8に示すように、液貯留室から延びる吸込管48とマイクロポンプの吸込部42との間に、軸方向に伸縮自在な弾性チューブ50を、液供給部に達する吐出管52とマイクロポンプの吐出部44との間に、軸方向に伸縮自在な弾性チューブ54をそれぞれ介装する。そして、ケーシング40内の流路に液体を満たした状態で、超音波発振器46を作動させて、ケーシング40を前後方向に振動させる。これにより、ケーシング40内の液体は、ケーシング40の内部の逆流阻止部で逆流が阻止されつつ、流路部を通して、吸込部42から吐出部44に向けて順次送り出される。
この時、超音波発振器46の作動に伴ってケーシング40に発生する前後方向の振動は、弾性チューブ50,54で吸収され、この振動が吸込管48及び吐出管52に伝わることが防止される。また、ケーシングはマイクロチューブからなるケーシング12に置換してもよい。
【0023】
なお、吸込管48及び吐出管52として、超音波発振器46の作動に伴ってケーシング40に発生する前後方向の振動を吸収できる屈曲自在なフレキシブルチューブを使用した場合には、弾性チューブを省略することができる。また、超音波発振器46の一方を省略してもよい。更に、超音波発振器46として、ケーシング40を上下方向(ケーシング40の厚さ方向)に振動させるようにしたものを使用してもよい。このことは、以下の例においても同様である。
【0024】
ケーシング40は、例えば、図9に示すように、内周面に流路部と逆流阻止部を構成するテーパ面を形成した、2つ割り形状の一対の片側ケーシング56を用意し、この両片側ケーシング56の端面を互いに突合せつつ、突合せ面を溶接や接着等で気密的に接合して製造される。図10に示すように、吸込部42を構成する単管58及び吐出部44を構成する単管60を別途用意し、この単管58,60を所定の位置に配置した状態で、両片側ケーシング62の端面及び単管58,60の外周面と片側ケーシング62との間を気密的に接合することで、片側ケーシング62の製造の便を図るようにしてもよい。
【0025】
なお、ケーシング40の内周面における平面側の一方を平坦にしてもよい。つまり、図9における片側ケーシング56及び図10における片側ケーシング62の一方として、その内周面にテーパ面のない平板状のものを使用しても良い。
【0026】
図11は、本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す。この図11に示すマイクロポンプの図8に示すマイクロポンプと異なる点は、扁平なケーシング40を弾性体で構成し、このケーシング40の上下両面(または片面)に、前述の図7に示す例と同様な構成の表面進行波素子(加振源)64を取付け、この表面進行波素子64によって、ケーシング40に進行波を発生させるようにした点にある。この表面進行波素子64によって発生した表面進行波は、ケーシング40を介して、ケーシング40の内部の流体に伝えられる。
【0027】
図12は、本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す。このマイクロポンプは、前述の同様な構成のマイクロチューブからなるケーシング12と、ケーシング12を前後方向(ケーシング12の軸方向)に振動させる加振源としての加振器70を備えている。加振器70は、ケーシング12の外周面に固着した平板リング状の磁性材72と、この磁性材72を挟んでケーシング12の吸込口12a側に設けられ、磁性材72を吸引してケーシング12を後方(吸込口12a側)に移動させる電磁石74と、ケーシング12の吐出口12b側に位置して磁性材72と固定側部材との間に設けられ、ケーシング12を前方(吐出口12b側)に付勢する引張りばね76と、この引張りばね76の付勢力を減衰させるダンパ78とを有している。
【0028】
これにより、電磁石74に通電させることで、ケーシング12を電磁石74で吸引して高速で後方に移動させ、電磁石74への通電と解くことで、ケーシング12を引張りばね76の付勢力で前方に移動させ、しかもこの付勢力をダンパ78で減衰させることで、このケーシング12の前方への移動速度が後方への移動速度よりも遅くなるようにしている。
【0029】
この例のマイクロポンプは、例えば、図8に示すように、弾性チューブに挟まれた位置に配置されて使用される。この例のマイクロポンプによれば、ケーシング12内の液体を慣性によってほぼ静止させたまま、ケーシング12を後方に高速で移動させ、この時、ケーシング12内の流体を流路部16に沿ってスムーズに移動させ、次に、ケーシング12を前進よりも遅い速度で前方へ移動させることで、ケーシング12内の液体を逆流阻止部18で前方に押出して、液体を移送することができる。
【0030】
なお、加振器70は、ケーシング12を後方に高速で移動させ、ケーシング12の前方への移動に伴って、ケーシング12内の液体を前方に押出すようにしたものであれば上記構成に限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態のマイクロポンプを示す斜視図である。
【図2】図1に示すマイクロポンプの縦断正面図である。
【図3】図1に示すマイクロポンプのケーシングの製造例を示す例である。
【図4】図1に示すマイクロポンプのケーシングの他の製造例を示す図である。
【図5】本発明の他の実施の形態のマイクロポンプを示す斜視図である。
【図6】本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す斜視図である。
【図7】本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す斜視図である。
【図8】本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す斜視図である。
【図9】図8に示すマイクロポンプのケーシングの製造例を示す図である。
【図10】図8に示すマイクロポンプのケーシングの他の製造例を示す図である。
【図11】本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプを示す斜視図である。
【図12】本発明の更に他の実施の形態のマイクロポンプの概要を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 流路
12,40 ケーシング
14,32,46 超音波発振器(加振源)
16 流路部
18 逆流阻止部
20 流路部用テーパ面
22 逆流阻止部用テーパ面
24 板状素材
34,64 表面進行波素子(加振源)
48 吸込管
50,54 弾性チューブ
52 吐出管
70 加振器(加振源)
72 磁性材
74 電磁石
76 引張りばね
78 ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を順方向に送る流路部と流体の逆流を阻止する逆流阻止部とを内周面に有し、液体の流路を構成するケーシングと、
前記ケーシングを振動させる加振源とを備え、
前記ケーシングを振動させて流体を順方向に送るようにしたことを特徴とするマイクロポンプ。
【請求項2】
前記流路部と前記逆流阻止部は、傾斜の異なるテーパ面からなり、該傾斜の異なるテーパ面が前記ケーシングの内周面に交互に連続して形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
前記加振源は、超音波発振器、表面進行波素子または加振器からなることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate