マイクロ波加熱装置、及びこれを用いた画像定着装置
【課題】効率的にマイクロ波のエネルギーの伝送を可能にすることで、消費エネルギー量の低減と加熱効率の向上の両立を可能にしたマイクロ波加熱装置を提供する。
【解決手段】 マイクロ波を出力するマイクロ波発生部3と、マイクロ波が導かれ、前記マイクロ波の進入方向の終端部5aが短絡されている導電性の加熱室5と、マイクロ波発生部3と加熱室5の間に設けられた整合器7と、を有する。加熱室5は、その内部を被加熱体が通過するための開口部6を有し、整合器7は、加熱室5の終端部5aで反射された反射マイクロ波を加熱室5側に再反射する構成であり、マイクロ波発生部3のマイクロ波出力端から整合器7までの間は導電性材料で構成された筒状の導波管で連結され、整合器7から加熱室5の終端部5aまでの間は、前記被加熱体を通過させるための開口部6を除いて導電性材料で構成された筒状の導波管で連結されている。
【解決手段】 マイクロ波を出力するマイクロ波発生部3と、マイクロ波が導かれ、前記マイクロ波の進入方向の終端部5aが短絡されている導電性の加熱室5と、マイクロ波発生部3と加熱室5の間に設けられた整合器7と、を有する。加熱室5は、その内部を被加熱体が通過するための開口部6を有し、整合器7は、加熱室5の終端部5aで反射された反射マイクロ波を加熱室5側に再反射する構成であり、マイクロ波発生部3のマイクロ波出力端から整合器7までの間は導電性材料で構成された筒状の導波管で連結され、整合器7から加熱室5の終端部5aまでの間は、前記被加熱体を通過させるための開口部6を除いて導電性材料で構成された筒状の導波管で連結されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱効率を高めたマイクロ波加熱装置に関する。また、本発明は、このような加熱効率を高めたマイクロ波加熱装置を現像剤(トナー)定着に利用した画像定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像定着装置においては、トナー材料を用紙(被印刷物)に定着させることで画像を用紙上に定着させる。従来の画像定着装置では、定着用ローラによって用紙に対して熱又は圧力を加えることで、用紙上にトナーの定着を行っている。
【0003】
しかし、かかる従来構成においては、経年による定着用ローラの摩耗という問題があり、かかる問題を解消するための一つの方法として、マイクロ波を用いた非接触によるトナー定着方法の開発が近年行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図10A及び図10Bは、特許文献1に開示されたマイクロ波装置の構成を示す概念図である。
【0005】
図10Aに示すように、マイクロ波装置100は、マイクロ波を発生させるマグネトロン110,マグネトロン110から発生されたマイクロ波を共振器チャンバ103に入力結合する入力結合変換器113,貯水庫111及びサーキュレータ112を設けている。入力結合変換器113と共振器チャンバ103の間には絞りを備えた結合開口114が位置している。共振器チャンバ103の側面109には、用紙101を通過案内するための通過部107を有している。共振器チャンバ103の下流側には金属からなる終端スライダ115が位置しており、終端スライダ115は共振器チャンバ103に対して水平な方向で可動であり、共振器チャンバ103内に達している。
【0006】
図10Bは、共振器チャンバ103部分の概略斜視図である。マグネトロン110より発生されたマイクロ波が、共振器チャンバ103内に導かれる。図10Bには、概略的に正弦波の形で図示されている。
【0007】
共振器チャンバ103には、互いに対向する両側面109及び109’に、夫々一つの通過部107,107’が設けられている。用紙101は、通過部107’を通過して共振器チャンバ103内に導かれ、対向する位置に設けられた通過部107を通して排出される。用紙101の移動方向が矢印にて図示されている。
【0008】
通過部107,107’内には、移動可能なエレメント104が設けられている。エレメント104はテフロン(登録商標)という商品名で知られるポリテトラフルロエチレン(PTFE)からなるバーであって、共振器チャンバ103内に達している。
【0009】
特許文献1においては、このエレメント104の位置を共振器チャンバ103内の長手方向に移動可能に構成されている。このエレメント104の位置を移動させて、共振器チャンバ103内の共振条件を調整することで、用紙101によるマイクロ波の吸収を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−295692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の技術では、入力結合変換器113と共振器チャンバ103との間に絞りを備えた結合開口114を設けることで、共振器チャンバ103内に定在波を形成させている。しかし、絞り部分の側面は斜度を有しているため、かかる側面でマイクロ波の反射が生じ、これによって伝送効率が低下していることが分かった。つまり、高いエネルギー量のマイクロ波をチャンバ内に導くためには、更に高いマイクロ波エネルギーをマグネトロンより発生させなければならず、消費エネルギーの面で問題を有していた。
【0012】
紙をマイクロ波に晒すと紙の温度が上昇することはマイクロ波の分野においては公知である。しかし、例えばプリンタやコピー機のように、極めて短時間の間にトナーを紙の上に定着させる必要がある用途において、当該短時間の間にトナーを定着させ得るだけの温度上昇を可能にする手法は、現時点で確立されているとはいえない。例えば、マイクロ波を利用して加熱を行う電子機器の代表例として電子レンジが知られているが、電子レンジに紙を入れて1秒〜数秒程度マイクロ波を当てたとしても、かかる紙を100℃以上温度上昇させることはできない。
【0013】
特許文献1の技術においても、極めて短時間の間にトナーを定着させることは困難であり、また、当該技術を利用して定着時間を短縮させるためには、極めて高いマイクロ波エネルギーをマグネトロンより発生させなければならない。
【0014】
本発明は、効率的にマイクロ波のエネルギーの伝送を可能にすることで、消費エネルギー量の低減と加熱効率の向上の両立を可能にしたマイクロ波加熱装置を提供することを目的とする。また、本発明は、かかるマイクロ波加熱装置を現像剤定着に利用することで、加熱効率の高い非接触型の画像定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく、本発明に係るマイクロ波加熱装置は、
マイクロ波を出力するマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波が導かれ、前記マイクロ波の進入方向の終端部が短絡されている導電性の加熱室と、
前記マイクロ波発生部と前記加熱室の間に設けられた整合器と、を有し、
前記加熱室は、当該加熱室の内部を被加熱体が前記マイクロ波の進入方向とは非平行方向の向きに通過するための開口部を有し、
前記整合器は、前記加熱室の終端部で反射された反射マイクロ波を前記加熱室側に再反射する構成であり、
前記マイクロ波発生部のマイクロ波出力端から前記整合器までの間は導電性材料で構成された筒状の導波管で連結され、
前記整合器から前記加熱室の終端部までの間は、前記被加熱体を通過させるための前記開口部の部分を除いて導電性材料で構成された筒状の導波管で連結されていることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、加熱室の終端部で反射されたマイクロ波が整合器によって再び加熱室側に再反射させるため、加熱室内においてマイクロ波を多重反射させることができる。これにより、マイクロ波発生部から発生させるマイクロ波エネルギーを極めて大きくすることなく、加熱室内におけるマイクロ波の定在波の電界強度を高めることができる。よって、短時間の間に加熱室内の温度を急激に上昇させることが可能となる。
【0017】
なお、上記構成において、前記整合器をE−H整合器で実現するのが好適である。
【0018】
かかる構成とすることで加熱室の終端部で反射されたマイクロ波を、極めて高い割合で加熱室側に再反射させることができる。
【0019】
また、上記構成に加えて、前記整合器と前記加熱室の間において、空気よりも誘電率の高い高誘電体で構成された電界変成器を、前記高誘電体内における定在波の波長をλg’、自然数をN(N>0)としたときに、(4N−3)λg’/8より大きく、(4N−1)λg’/8未満の幅で、マイクロ波の定在波の節を含む位置に挿入する構成とするのが好適である。
【0020】
より好ましくは、前記電界変成器が、λg’/4の奇数倍の大きさの幅で、且つ、前記加熱室の終端部側の面が前記マイクロ波の定在波の節の位置となるように設置される構成としてもよい。
【0021】
かかる構成とすることで、電界変成器の下流側、すなわち加熱室側において、上流側よりも電界強度を高める効果が得られる。これにより、短時間の間に加熱室内の温度を急激に上昇させる効果をより高めることが可能となる。
【0022】
なお、前記電界変成器としては、高密度ポリエチレンで構成するのが好適である。
【0023】
かかる構成とすることで、加工性に優れ、また、比較的安価に入手できるため製造コストを抑制する効果が得られる。
【0024】
また、本発明に係る画像定着装置は、上記特徴を有したマイクロ波発生装置を備え、前記開口部を介して通過する現像剤付き記録シートが前記加熱室で加熱されることで、現像剤を記録シートに定着させることを特徴とする。
【0025】
かかる構成とすることで、短時間の間に現像剤を記録シートに定着させることが可能となり、機械的な定着機構を有しない画像定着装置が実現される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、加熱室の終端部で反射されたマイクロ波が整合器によって再び加熱室側に再反射させるため、加熱室内においてマイクロ波を多重反射させることができる。これにより、マイクロ波発生部から発生させるマイクロ波エネルギーを極めて大きくすることなく、加熱室内におけるマイクロ波の定在波の電界強度を高めることができる。よって、短時間の間に加熱室内の温度を急激に上昇させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態のマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。
【図2】加熱室の構成を示す斜視図である。
【図3】加熱室をマイクロ波の進行方向から見たときの管内電界分布を示す概念図である。
【図4】整合器の概念的構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態のマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。
【図6】電界変成器を設置したときの管内電界分布を示す概念図である。
【図7A】導波管内の終端部を短絡したときの管内の電界状態を説明するための概念図である。
【図7B】導波管内の終端部に誘電率の異なる材料を満たしたときの管内の電界状態を説明するための概念図である。
【図7C】導波管内に誘電率の異なる材料を満たしたときの、当該誘電体の上流、誘電体内、及び下流の各電界状態を説明するための概念図である。
【図8】電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9A】電界変成器を挿入していない場合の定在波の波形を示すグラフである。
【図9B】0.06λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9C】0.13λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9D】0.25λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9E】0.37λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9F】0.44λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9G】電界変成器の前後における電界強度の比と、電界変成器の幅の関係を示すグラフである。
【図9H】電界変成器の前後における電界強度の比と、電界変成器の幅の関係を示す表である。
【図10A】従来のマイクロ波装置の構成を示す概念図である。
【図10B】従来のマイクロ波装置が備える共振器チャンバ部分の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明に係るマイクロ波加熱装置の概念的構成図であり、一の側面から見た状態を示している。図1に示されるマイクロ波加熱装置1は、マグネトロン等で構成されるマイクロ波発生部3と、マイクロ波によって加熱対象物を加熱させるための加熱室5の間の位置に、整合器7を設けている。また、本実施形態においては、マイクロ波発生部3と整合器7の間にアイソレータ4を設けている。アイソレータ4は、整合器7からマイクロ波発生部3側の方向にマイクロ波が反射した場合に、当該反射されたマイクロ波の電力を熱エネルギーに変換して、マイクロ波発生部3を安定的に動作させるための保護機器である。ただし、本発明の装置において、アイソレータ4は必ず必要な構成要素というわけではない。
【0029】
また、図1に示すように。加熱室5の最も下流側は、導体によって終端されている(5a)。なお、この終端5aも加熱室5と同じ金属材料で構成されているものとして構わない。
【0030】
マイクロ波発生部3から整合器7までの間、整合器7から加熱室5までの間は、いずれも導電性材料(金属等)の筒状の枠体で連結されており、発生したマイクロ波を閉じ込めることができる構成となっている。ただし、加熱室5には後述のスリット6(「開口部」に対応)が設けられている。
【0031】
本実施形態では、図10A及び図10Bで示した従来構成と同様に、加熱室5内に用紙(「被加熱体」に相当)を通過させるためのスリット6を備えており、用紙が図1の紙面上奥から手前に向かって矢印d1の向きに通過することを想定している。すなわち、加熱室5は、奥側の側面にもスリット6に対向する位置に同様のスリットが設けられており、奥側の側面に設けられたスリットより加熱室5内に進入してきた用紙は、加熱室5内において加熱された後、手前側の側面に設けられたスリット6より加熱室5の外へと排出される構成である。なお、この用紙には面上にトナー粒子が付着しており、加熱室5内において加熱されることで、付着されたトナーが用紙に定着される。
【0032】
図2は、加熱室5の構成を示す斜視図である。加熱室5は、スリット6、及びマイクロ波導入口8を所定の面上に設けた状態で、金属等の導体で周囲を覆われた筒形状を有している。すなわち、加熱室5は、マイクロ波発生部3から見て最も下流側に位置する、マイクロ波導入口8と対向する面において導体により短絡されている。加熱室5の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の純度の高い非磁性金属(透磁率が真空の透磁率とほぼ等しい金属)、導電率が高い合金の他、前記の金属や合金を表皮深さの数倍の厚みを持たせた一層若しくは多層のメッキ又は箔又は表面処理(導電性塗料の塗装を含む)を施した金属、真鍮等の合金、又は樹脂が利用可能である。
【0033】
加熱室5は、マイクロ波発生部3側の側面には、マイクロ波を内部に導くための開口部であるマイクロ波導入口8が設けられている。マイクロ波発生部3より出力されたマイクロ波は、矢印d2の向きにマイクロ波導入口8より加熱室5内へと導かれる。マイクロ波導入口8は、用紙10の進行方向d1に垂直な向きの寸法をa,d1に平行な向きの寸法をbとする、ほぼ長方形状を有している。
【0034】
なお、本実施形態では、加熱室5内を伝搬するマイクロ波は、基本モード(H10モード、又はTE10モード)であるものとする。
【0035】
スリット6は、加熱対象となる用紙10を通過させるのに必要な最小限の寸法で構成されているのが好ましい。なぜなら、必要以上に開口されてしまうと、導入されたマイクロ波が当該スリット6を介して漏洩してしまい、加熱室5内でのマイクロ波のパワーが減少するおそれがあるためである。
【0036】
図3は、加熱室5をマイクロ波の進行方向から見たときの管内電界分布を示す概念図である。なお、図3には、加熱室5内に存在する定在波Wの電界強度を概念的に図示している。
【0037】
図3に示されるように、定在波Wのパワーの大小は、加熱室5内の位置に応じて変化する。スリット6は、a方向において最もパワーが大きくなる位置に設けられるのが望ましい。
【0038】
図4は、本実施形態における整合器7の概念的構成図である。本実施形態の整合器7としては、マイクロ波の進行方向d2に直交する2面に夫々T字分岐型の突出部を設けたいわゆるE−H整合器を採用している。すなわち、整合器7は、金属等の導体で周囲を覆われた筒形状の導波管に対し、用紙の進行方向d1に平行な側面P1上に第1T分岐路11を、d1及びd2に垂直な側面P2上に第2T分岐路12を夫々設けた構成となっている。整合器7の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の純度の高い非磁性金属(透磁率が真空の透磁率とほぼ等しい金属)、導電率が高い合金の他、前記の金属や合金を表皮深さの数倍の厚みを持たせた一層若しくは多層のメッキ又は箔又は表面処理(導電性塗料の塗装を含む)を施した金属、真鍮等の合金、又は樹脂が利用可能である。
【0039】
本実施形態のように、マイクロ波発生部3と加熱室5の間にE−H整合器で構成された整合器7を設けたことで、加熱室5内に形成される定在波のパワーを著しく大きくする効果が得られる。より詳細には、入射されたマイクロ波が加熱室5の終端5aで反射された後、E−H整合器7において当該反射波が加熱室5側に再反射される。これらの反射が幾度となく繰り返されることで、加熱室5内に生じる定在波の電界を大きくすることが可能となる。これにより、マイクロ波発生部3から出力されるマイクロ波のエネルギーを極めて大きくすることなく、トナーを完全に定着させるのに必要な時間を短縮することができた。詳細な結果は実施例にて後述される。
【0040】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係るマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。なお、以下においては、d2方向に関し、終端部5a側を「下流」、マイクロ波発生部3側を「上流」と称することがある。
【0041】
本実施形態は、第1実施形態と比較して、整合器7より下流側(終端部5a側)に更に電界変成器15を備えた点が異なる。
【0042】
電界変成器15は、誘電率の高い材料で構成されており、本実施形態では高密度ポリエチレン(UHMW)を利用しているが、テフロン(登録商標)という名称で知られるポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材料、石英、その他の高誘電率材料を利用することができる。また、できるだけ加熱されにくい材料で構成されるのが好ましい。加工容易性並びにコスト面の観点から、実用的には高密度ポリエチレンを用いるのが好適である。
【0043】
電界変成器15は、電界変成器15と同じ誘電体内に形成される定在波の波長(以下において「誘電体内波長」という。)をλg’としたときに、マイクロ波の進行方向d2の向きの幅として、λg’/4の奇数倍(λg’/4,3λg’/4,……)の長さを有する構成である。なお、この電界変成器15の幅をλg’/4の奇数倍とすることで、その挿入効果を最も高めることができるものであるが、後述する関係式を満たすように電界変成器15の幅を設定することで、電界変成器15の挿入効果を得ることができる。
【0044】
なお、マイクロ波発生部3から発生するマイクロ波波長をλ、電界変成器15の誘電率をε’、遮断波長をλc,誘電体内波長をλg’とすると、下記数1が成立する。この関係式により、誘電体内波長λg’を算出することができる。
【0045】
【数1】
【0046】
図6に示すように、本実施形態では、この電界変成器15を固定的に設置する。より具体的には、加熱室5内に形成される定在波の節となる位置20に電界変成器15を設置する。更に具体的には、電界変成器15の終端部5a側(下流側)の面が節となる位置20となるように設置する。
【0047】
電界変成器15は、空気よりも誘電率が高いため、当該電界変成器15内を通過する定在波の波長が短くなる。これにより、電界変成器15よりも下流側(終端部5a側)の定在波W’の電界を更に高めることができる。特に変圧器の幅Lを下記関係式の範囲内で設定した場合に定在波W’の電界を顕著に高める効果が得られる。なお、下記関係式においてNは自然数である。
【0048】
(関係式)
(4N−3)λg’/8 < L < (4N−1)λg’/8
【0049】
これらの結果は、後述する実施例によって明らかとなる。
【0050】
第1実施形態及び本実施形態のように、加熱室5内にマイクロ波の定在波を生じさせる構成においては、終端部5aからのマイクロ波発生部3に向かう方向の距離に応じて電界強度の強い部分(腹)と弱い部分(節)が生じてしまう。そこで、図6に示すように、特に定在波の節の位置に電界変成器15を設置することで、電界変成器15より下流側の定在波W’の電界強度が高められ、トナーの定着性を向上させることが可能となる。
【0051】
つまり、電界変成器15よりも下流側にスリット6を設け、この位置において用紙10を通過させることで、パワーが増大された定在波W’に基づく加熱処理が施されるため、トナー定着時間を短縮化することができる。
【0052】
電界変成器15の設置により、その下流側の電界を高める効果が得られる点については、以下の理論によっても裏付けられる。
【0053】
(理論説明)
長方形導波管の負荷端を図7Aに示すように、インピーダンスZrで終端した場合を想定する。TE10モードを考え、負荷端における入射電界及び反射電界の振幅をそれぞれEi,Erで表した場合、導波管のZ軸の各点のEy及びHxは以下の数2で表される。なお、図2におけるa方向がX軸、b方向がY軸、d2方向がZ軸にそれぞれ対応しており、Eyとは電界のY軸成分、Hxとは磁界のX軸成分に相当する。
【0054】
【数2】
【0055】
なお、数2において、Z01は特性インピーダンス、γ1は伝搬定数である。
【0056】
ここで、図7Bに示すように、領域Iを大気とし、領域IIにインピーダンスZRとして終端部cで短絡された誘電体が満たされている状況を想定する。領域Iでの入射電界をEi1、反射電界をEr1、領域IIでの入射電界をEi2、反射電界をEr2とすると、上記数1及びz=0における境界条件より、以下の数3が成立する。
【0057】
【数3】
【0058】
ここで、図7Bにおいて終端部c面は短絡されているため、以下の数4が成立する。なお、領域IIの先頭位置(マイクロ波発生側)のZ座標を0とし、領域IIのZ軸方向の幅をdとしている。
【0059】
【数4】
【0060】
上記数4をEi2について解くと、数5が成立する。
【0061】
【数5】
【0062】
上記数5において、損失を無視してその絶対値を取ると、数6が成立する。
【0063】
【数6】
【0064】
数6において、β1gは領域I内における管内波長λ1gの複素成分(位相定数)、β2gは領域II内における管内波長λ2gの複素成分(位相定数)である。また、Kは定数である。
【0065】
数6により、β2gdがπ/2の奇数倍の場合、領域IIの電界強度は入射電界に等しく、β2gdがπ/2の偶数倍の場合、領域IIの電界強度は入射電界の1/Kになっている。よって、誘電率が異なる領域の境界面が電界の腹に当たる場合には、その両側での電界強度は等しくなり、節に当たる場合にはそれぞれの領域での位相定数βgの比に反比例することが分かる。
【0066】
よって、図7Cのように、基準面aの下流側にλ2g/4の厚みを有する誘電体で導波管を満たし(領域II)、更にその下流側(領域III)のλ1g/4の距離の位置に短絡面cを置くと、数7が成立する。なお、EI, EII, EIIIは、それぞれ領域I, II, IIIにおける電界強度を示す。
【0067】
【数7】
【0068】
これに、|EI|=|EII|の条件を考慮すると、下記数8が成立する。
【0069】
【数8】
【0070】
数8により、領域IIIの電界強度は領域Iの電界強度のK倍となることが分かる。つまり、λ2g/4の厚みを有する誘電体、すなわち電界変成器15を挿入することで、その上流側の電界強度が増幅されて下流側に伝搬することが分かる。
【0071】
なお、領域Iを大気、領域IIを誘電率εrの誘電体とすると、定数Kは以下の数9により規定される。
【0072】
【数9】
【0073】
〔別実施形態〕
〈1〉上記実施形態では、用紙へのトナー定着にマイクロ波を利用する実施形態を説明したが、短い時間の間に急激に加熱を行うことを要求される他の一般的な用途(例えば、セラミックスの仮焼や焼結、高温を必要とする化学反応の他、トナーを金属粉末として配線(導電)パターンを製作する用途)に利用することが可能である。
【0074】
〈2〉第2実施形態において、電界変成器15の幅をλg’/4の奇数倍とするのが好ましいと記載したが、少なくとも上述した関係式を満たすように構成されていればよく、λg’/4の奇数倍に近ければ近いほど望ましい。なお、電界変成器15の幅がλg’/4の偶数倍である場合には、インピーダンス変換が行われず、その後段(終端部5a)側の電界を高める効果が発揮されない。
【0075】
また、電界変成器15の終端部5a側の面が定在波の節の位置となるのが最も好ましい構成であるが、少なくとも腹の位置でなければよい。
【0076】
〈3〉上記の実施形態では、加熱室5に開口部としてのスリット6を設ける構成としたが、開口部の形状は上記スリット形状に限られない。例えば、円形や正方形、その他の多角形状の開口部であっても構わない。特に、被加熱体が紙や布のようなシート形状の場合にはスリット形状の開口部が好ましく、糸のような線形状の場合には、円形、正方形、多角形といった形状の開口部が好ましい。
【実施例】
【0077】
(第1実施例)
以下、上記各実施形態の構成を想定して行った実施例と比較例の実験結果を示す。なお、各実施例及び比較例においては、以下の装置を共通して利用した。
【0078】
・マイクロ波発生部3: マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品を利用した。また発生条件として、出力エネルギーを400Wとし、出力周波数を2.45GHzとした。
・アイソレータ4: マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品を利用した。
・加熱室5: アルミニウム製の導波管にスリット6を設けたもの
・用紙10: 「中性紙」と称される市販のPPC用紙を利用した。
【0079】
(実施例1)
整合器7としてE−H整合器(マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品)を利用し、加熱室8の寸法をa=109.2mm、b=54.6mmとした。電界変成器15は設けていない。なお、下記実施例及び比較例においてE−H整合器を用いる場合には、同じE−H整合器を利用した。
【0080】
(実施例2)
整合器7としてE−H整合器を利用し、加熱室8の寸法をa=109.2mm、b=54.6mmとし、電界変成器15として高密度ポリエチレン(誘電率εr=2.3)を用いた。より具体的には、加熱室5内において、幅25mmの大きさの高密度ポリエチレンを、終端部5aからの距離が500mmとなる位置から上流側に向けて挿入した。
【0081】
(実施例3)
加熱室8の寸法をa=70mm、b=54.6mmとしたほかは実施例1と同じ条件とした。ただし、E−H整合器の寸法と加熱室8の寸法が異なるため、整合器7と加熱室8の間をテーパー形状の導波管で接続した。
【0082】
(実施例4)
加熱室8の寸法をa=70mm、b=54.6mmとしたほかは実施例2と同じ条件とした。ただし、実施例3と同様の理由により、整合器7と加熱室8の間をテーパー形状の導波管で接続した。
【0083】
(実施例5)
整合器7としてアイリス(マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品)を利用した他は実施例1と同一の条件とした。
【0084】
(比較例1)
整合器を設置しない他は、実施例1と同一の条件とした。
【0085】
上記各条件の下、加熱室5のスリット6に、所定領域にトナーを載せた用紙10をセットし、トナー定着に要する時間を計測すると共に、当該計測された時間に対し前記所定領域の面積とA4用紙の面積の比率を乗じることで、A4用紙にトナーを定着させる時間を測定した。結果を下記表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
整合器を設置しなかった場合、120(秒)経過後においても、A4用紙にトナーを定着させることは困難であった。これに対し、整合器7を設置した実施例1〜5においては、いずれも120秒を遥かに下回る時間でトナーが定着している。これにより、整合器7を設置することで、加熱室5内に形成される定在波のパワーを著しく大きくする効果が得られていることが分かる。
【0088】
(第2実施例)
図8は、実施例2における加熱室8内の電界強度を示すグラフである。横軸は加熱室8内におけるマイクロ波進入方向(Z軸方向)の位置を、縦軸は電界強度をそれぞれ示している。図8によれば、電界変成器15よりも下流側において、電界強度が大きく上昇していることが分かる。なお、図8及び以下の図9A〜図9Fにおいて、縦軸が示す電界強度は所定の値を基準としたときの相対値(無次元値)である。
【0089】
図9A〜図9Fは、実施例2において、電界変成器15の幅を変化させたときの加熱室8内の電界強度を示すグラフである。なお、本実施例では、短絡板の直前に同一幅の誘電体を挿入しているが、これは実験条件を揃えるために行ったものであり、本実施例が示す効果に影響を及ぼすものではない。また、グラフによっては定在波の谷の位置にける電界強度の大きさに多少のバラツキがあるが、これは計算誤差の範囲内である。
【0090】
また、図9Gは、電界変成器15の幅を変化させたときの、電界変成器15の上流側と下流側における電界強度の大きさの比の変化を示すグラフであり、図9Hはこれを表にしたものである。
【0091】
図9A、図9B、図9C、図9D、図9E及び図9Fは、それぞれ、電界変成器15の幅を、0、6mm、13mm、25mm、37mm、44mmとしたときのグラフである。
【0092】
図9Aでは電界変成器15を挿入していないため、当然に電界変成器15の前後で電界強度が変化するということはない(電界強度=4.2のままである)。
【0093】
電界変成器15の幅を6mm(これは0.06λg’に相当する)とした図9Bでは、電界変成器15の上流側において電界強度=4.2であったのが、下流側において電界強度=5.3となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.26倍となっている。
【0094】
電界変成器15の幅を13mm(これは0.13λg’に相当する)図9Cでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.8であったのが、下流側において電界強度=6.8となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.79倍となっている。
【0095】
電界変成器15の幅を25mm(これは0.25λg’に相当する)図9Dでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.4であったのが、下流側において電界強度=6.2となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.82倍となっている。
【0096】
電界変成器15の幅を37mm(これは0.37λg’に相当する)図9Eでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.5であったのが、下流側において電界強度=6.0となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.7倍となっている。
【0097】
電界変成器15の幅を44mm(これは0.44λg’に相当する)図9Fでは、電界変成器15の上流側において電界強度=4.2であったのが、下流側において電界強度=4.5となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.1倍となっている。
【0098】
なお、グラフ上には示していないが、電界変成器15の幅を50mm(これは0.50λg’に相当する)とした場合、電界変成器15の上流側端点と下流側端点が共に定在波の谷の位置となるため、電界変成器15の下流側と上流側で電界強度は変化しない。
【0099】
以上の結果によれば、電界変成器15の幅Lを、上述した関係式、すなわち自然数Nを用いて (4N−3)λg’/8 < L < (4N−1)λg’/8 を満たすように設定することで、電界変成器15の下流側の定在波の電界強度を大きくする効果が得られることが分かる。これにより、加熱室5内の電界強度が高められ、トナー定着に要する時間を大きく短縮する効果が得られる。
【符号の説明】
【0100】
1 : マイクロ波加熱装置
3 : マイクロ波発生部
4 : アイソレータ
5 : 加熱室
5a: 加熱室の終端部
6 : スリット
7 : 整合器
8 : マイクロ波導入口
d1: 用紙通過方向
d2: マイクロ波進行方向
10 : 用紙
11 : 第1T分岐路
12 : 第2T分岐路
15 : 電界変成器
20 : 定在波の節
100 : マイクロ波装置
101 : 用紙
103 : 共振器チャンバ
104 : エレメント
107 : 通過部
107’: 通過部
109 : 共振器チャンバの側面
109’: 共振器チャンバの側面
110 : マグネトロン
111 : 貯水庫
112 : サーキュレータ
113 : 入力結合変換器
114 : 結合開口
115 : 終端スライダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱効率を高めたマイクロ波加熱装置に関する。また、本発明は、このような加熱効率を高めたマイクロ波加熱装置を現像剤(トナー)定着に利用した画像定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像定着装置においては、トナー材料を用紙(被印刷物)に定着させることで画像を用紙上に定着させる。従来の画像定着装置では、定着用ローラによって用紙に対して熱又は圧力を加えることで、用紙上にトナーの定着を行っている。
【0003】
しかし、かかる従来構成においては、経年による定着用ローラの摩耗という問題があり、かかる問題を解消するための一つの方法として、マイクロ波を用いた非接触によるトナー定着方法の開発が近年行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図10A及び図10Bは、特許文献1に開示されたマイクロ波装置の構成を示す概念図である。
【0005】
図10Aに示すように、マイクロ波装置100は、マイクロ波を発生させるマグネトロン110,マグネトロン110から発生されたマイクロ波を共振器チャンバ103に入力結合する入力結合変換器113,貯水庫111及びサーキュレータ112を設けている。入力結合変換器113と共振器チャンバ103の間には絞りを備えた結合開口114が位置している。共振器チャンバ103の側面109には、用紙101を通過案内するための通過部107を有している。共振器チャンバ103の下流側には金属からなる終端スライダ115が位置しており、終端スライダ115は共振器チャンバ103に対して水平な方向で可動であり、共振器チャンバ103内に達している。
【0006】
図10Bは、共振器チャンバ103部分の概略斜視図である。マグネトロン110より発生されたマイクロ波が、共振器チャンバ103内に導かれる。図10Bには、概略的に正弦波の形で図示されている。
【0007】
共振器チャンバ103には、互いに対向する両側面109及び109’に、夫々一つの通過部107,107’が設けられている。用紙101は、通過部107’を通過して共振器チャンバ103内に導かれ、対向する位置に設けられた通過部107を通して排出される。用紙101の移動方向が矢印にて図示されている。
【0008】
通過部107,107’内には、移動可能なエレメント104が設けられている。エレメント104はテフロン(登録商標)という商品名で知られるポリテトラフルロエチレン(PTFE)からなるバーであって、共振器チャンバ103内に達している。
【0009】
特許文献1においては、このエレメント104の位置を共振器チャンバ103内の長手方向に移動可能に構成されている。このエレメント104の位置を移動させて、共振器チャンバ103内の共振条件を調整することで、用紙101によるマイクロ波の吸収を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−295692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の技術では、入力結合変換器113と共振器チャンバ103との間に絞りを備えた結合開口114を設けることで、共振器チャンバ103内に定在波を形成させている。しかし、絞り部分の側面は斜度を有しているため、かかる側面でマイクロ波の反射が生じ、これによって伝送効率が低下していることが分かった。つまり、高いエネルギー量のマイクロ波をチャンバ内に導くためには、更に高いマイクロ波エネルギーをマグネトロンより発生させなければならず、消費エネルギーの面で問題を有していた。
【0012】
紙をマイクロ波に晒すと紙の温度が上昇することはマイクロ波の分野においては公知である。しかし、例えばプリンタやコピー機のように、極めて短時間の間にトナーを紙の上に定着させる必要がある用途において、当該短時間の間にトナーを定着させ得るだけの温度上昇を可能にする手法は、現時点で確立されているとはいえない。例えば、マイクロ波を利用して加熱を行う電子機器の代表例として電子レンジが知られているが、電子レンジに紙を入れて1秒〜数秒程度マイクロ波を当てたとしても、かかる紙を100℃以上温度上昇させることはできない。
【0013】
特許文献1の技術においても、極めて短時間の間にトナーを定着させることは困難であり、また、当該技術を利用して定着時間を短縮させるためには、極めて高いマイクロ波エネルギーをマグネトロンより発生させなければならない。
【0014】
本発明は、効率的にマイクロ波のエネルギーの伝送を可能にすることで、消費エネルギー量の低減と加熱効率の向上の両立を可能にしたマイクロ波加熱装置を提供することを目的とする。また、本発明は、かかるマイクロ波加熱装置を現像剤定着に利用することで、加熱効率の高い非接触型の画像定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成すべく、本発明に係るマイクロ波加熱装置は、
マイクロ波を出力するマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波が導かれ、前記マイクロ波の進入方向の終端部が短絡されている導電性の加熱室と、
前記マイクロ波発生部と前記加熱室の間に設けられた整合器と、を有し、
前記加熱室は、当該加熱室の内部を被加熱体が前記マイクロ波の進入方向とは非平行方向の向きに通過するための開口部を有し、
前記整合器は、前記加熱室の終端部で反射された反射マイクロ波を前記加熱室側に再反射する構成であり、
前記マイクロ波発生部のマイクロ波出力端から前記整合器までの間は導電性材料で構成された筒状の導波管で連結され、
前記整合器から前記加熱室の終端部までの間は、前記被加熱体を通過させるための前記開口部の部分を除いて導電性材料で構成された筒状の導波管で連結されていることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、加熱室の終端部で反射されたマイクロ波が整合器によって再び加熱室側に再反射させるため、加熱室内においてマイクロ波を多重反射させることができる。これにより、マイクロ波発生部から発生させるマイクロ波エネルギーを極めて大きくすることなく、加熱室内におけるマイクロ波の定在波の電界強度を高めることができる。よって、短時間の間に加熱室内の温度を急激に上昇させることが可能となる。
【0017】
なお、上記構成において、前記整合器をE−H整合器で実現するのが好適である。
【0018】
かかる構成とすることで加熱室の終端部で反射されたマイクロ波を、極めて高い割合で加熱室側に再反射させることができる。
【0019】
また、上記構成に加えて、前記整合器と前記加熱室の間において、空気よりも誘電率の高い高誘電体で構成された電界変成器を、前記高誘電体内における定在波の波長をλg’、自然数をN(N>0)としたときに、(4N−3)λg’/8より大きく、(4N−1)λg’/8未満の幅で、マイクロ波の定在波の節を含む位置に挿入する構成とするのが好適である。
【0020】
より好ましくは、前記電界変成器が、λg’/4の奇数倍の大きさの幅で、且つ、前記加熱室の終端部側の面が前記マイクロ波の定在波の節の位置となるように設置される構成としてもよい。
【0021】
かかる構成とすることで、電界変成器の下流側、すなわち加熱室側において、上流側よりも電界強度を高める効果が得られる。これにより、短時間の間に加熱室内の温度を急激に上昇させる効果をより高めることが可能となる。
【0022】
なお、前記電界変成器としては、高密度ポリエチレンで構成するのが好適である。
【0023】
かかる構成とすることで、加工性に優れ、また、比較的安価に入手できるため製造コストを抑制する効果が得られる。
【0024】
また、本発明に係る画像定着装置は、上記特徴を有したマイクロ波発生装置を備え、前記開口部を介して通過する現像剤付き記録シートが前記加熱室で加熱されることで、現像剤を記録シートに定着させることを特徴とする。
【0025】
かかる構成とすることで、短時間の間に現像剤を記録シートに定着させることが可能となり、機械的な定着機構を有しない画像定着装置が実現される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、加熱室の終端部で反射されたマイクロ波が整合器によって再び加熱室側に再反射させるため、加熱室内においてマイクロ波を多重反射させることができる。これにより、マイクロ波発生部から発生させるマイクロ波エネルギーを極めて大きくすることなく、加熱室内におけるマイクロ波の定在波の電界強度を高めることができる。よって、短時間の間に加熱室内の温度を急激に上昇させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態のマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。
【図2】加熱室の構成を示す斜視図である。
【図3】加熱室をマイクロ波の進行方向から見たときの管内電界分布を示す概念図である。
【図4】整合器の概念的構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態のマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。
【図6】電界変成器を設置したときの管内電界分布を示す概念図である。
【図7A】導波管内の終端部を短絡したときの管内の電界状態を説明するための概念図である。
【図7B】導波管内の終端部に誘電率の異なる材料を満たしたときの管内の電界状態を説明するための概念図である。
【図7C】導波管内に誘電率の異なる材料を満たしたときの、当該誘電体の上流、誘電体内、及び下流の各電界状態を説明するための概念図である。
【図8】電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9A】電界変成器を挿入していない場合の定在波の波形を示すグラフである。
【図9B】0.06λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9C】0.13λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9D】0.25λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9E】0.37λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9F】0.44λg’の幅の電界変成器を挿入したことによる電界強度の変化を示すためのグラフである。
【図9G】電界変成器の前後における電界強度の比と、電界変成器の幅の関係を示すグラフである。
【図9H】電界変成器の前後における電界強度の比と、電界変成器の幅の関係を示す表である。
【図10A】従来のマイクロ波装置の構成を示す概念図である。
【図10B】従来のマイクロ波装置が備える共振器チャンバ部分の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明に係るマイクロ波加熱装置の概念的構成図であり、一の側面から見た状態を示している。図1に示されるマイクロ波加熱装置1は、マグネトロン等で構成されるマイクロ波発生部3と、マイクロ波によって加熱対象物を加熱させるための加熱室5の間の位置に、整合器7を設けている。また、本実施形態においては、マイクロ波発生部3と整合器7の間にアイソレータ4を設けている。アイソレータ4は、整合器7からマイクロ波発生部3側の方向にマイクロ波が反射した場合に、当該反射されたマイクロ波の電力を熱エネルギーに変換して、マイクロ波発生部3を安定的に動作させるための保護機器である。ただし、本発明の装置において、アイソレータ4は必ず必要な構成要素というわけではない。
【0029】
また、図1に示すように。加熱室5の最も下流側は、導体によって終端されている(5a)。なお、この終端5aも加熱室5と同じ金属材料で構成されているものとして構わない。
【0030】
マイクロ波発生部3から整合器7までの間、整合器7から加熱室5までの間は、いずれも導電性材料(金属等)の筒状の枠体で連結されており、発生したマイクロ波を閉じ込めることができる構成となっている。ただし、加熱室5には後述のスリット6(「開口部」に対応)が設けられている。
【0031】
本実施形態では、図10A及び図10Bで示した従来構成と同様に、加熱室5内に用紙(「被加熱体」に相当)を通過させるためのスリット6を備えており、用紙が図1の紙面上奥から手前に向かって矢印d1の向きに通過することを想定している。すなわち、加熱室5は、奥側の側面にもスリット6に対向する位置に同様のスリットが設けられており、奥側の側面に設けられたスリットより加熱室5内に進入してきた用紙は、加熱室5内において加熱された後、手前側の側面に設けられたスリット6より加熱室5の外へと排出される構成である。なお、この用紙には面上にトナー粒子が付着しており、加熱室5内において加熱されることで、付着されたトナーが用紙に定着される。
【0032】
図2は、加熱室5の構成を示す斜視図である。加熱室5は、スリット6、及びマイクロ波導入口8を所定の面上に設けた状態で、金属等の導体で周囲を覆われた筒形状を有している。すなわち、加熱室5は、マイクロ波発生部3から見て最も下流側に位置する、マイクロ波導入口8と対向する面において導体により短絡されている。加熱室5の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の純度の高い非磁性金属(透磁率が真空の透磁率とほぼ等しい金属)、導電率が高い合金の他、前記の金属や合金を表皮深さの数倍の厚みを持たせた一層若しくは多層のメッキ又は箔又は表面処理(導電性塗料の塗装を含む)を施した金属、真鍮等の合金、又は樹脂が利用可能である。
【0033】
加熱室5は、マイクロ波発生部3側の側面には、マイクロ波を内部に導くための開口部であるマイクロ波導入口8が設けられている。マイクロ波発生部3より出力されたマイクロ波は、矢印d2の向きにマイクロ波導入口8より加熱室5内へと導かれる。マイクロ波導入口8は、用紙10の進行方向d1に垂直な向きの寸法をa,d1に平行な向きの寸法をbとする、ほぼ長方形状を有している。
【0034】
なお、本実施形態では、加熱室5内を伝搬するマイクロ波は、基本モード(H10モード、又はTE10モード)であるものとする。
【0035】
スリット6は、加熱対象となる用紙10を通過させるのに必要な最小限の寸法で構成されているのが好ましい。なぜなら、必要以上に開口されてしまうと、導入されたマイクロ波が当該スリット6を介して漏洩してしまい、加熱室5内でのマイクロ波のパワーが減少するおそれがあるためである。
【0036】
図3は、加熱室5をマイクロ波の進行方向から見たときの管内電界分布を示す概念図である。なお、図3には、加熱室5内に存在する定在波Wの電界強度を概念的に図示している。
【0037】
図3に示されるように、定在波Wのパワーの大小は、加熱室5内の位置に応じて変化する。スリット6は、a方向において最もパワーが大きくなる位置に設けられるのが望ましい。
【0038】
図4は、本実施形態における整合器7の概念的構成図である。本実施形態の整合器7としては、マイクロ波の進行方向d2に直交する2面に夫々T字分岐型の突出部を設けたいわゆるE−H整合器を採用している。すなわち、整合器7は、金属等の導体で周囲を覆われた筒形状の導波管に対し、用紙の進行方向d1に平行な側面P1上に第1T分岐路11を、d1及びd2に垂直な側面P2上に第2T分岐路12を夫々設けた構成となっている。整合器7の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の純度の高い非磁性金属(透磁率が真空の透磁率とほぼ等しい金属)、導電率が高い合金の他、前記の金属や合金を表皮深さの数倍の厚みを持たせた一層若しくは多層のメッキ又は箔又は表面処理(導電性塗料の塗装を含む)を施した金属、真鍮等の合金、又は樹脂が利用可能である。
【0039】
本実施形態のように、マイクロ波発生部3と加熱室5の間にE−H整合器で構成された整合器7を設けたことで、加熱室5内に形成される定在波のパワーを著しく大きくする効果が得られる。より詳細には、入射されたマイクロ波が加熱室5の終端5aで反射された後、E−H整合器7において当該反射波が加熱室5側に再反射される。これらの反射が幾度となく繰り返されることで、加熱室5内に生じる定在波の電界を大きくすることが可能となる。これにより、マイクロ波発生部3から出力されるマイクロ波のエネルギーを極めて大きくすることなく、トナーを完全に定着させるのに必要な時間を短縮することができた。詳細な結果は実施例にて後述される。
【0040】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係るマイクロ波加熱装置の概念的構成図である。なお、以下においては、d2方向に関し、終端部5a側を「下流」、マイクロ波発生部3側を「上流」と称することがある。
【0041】
本実施形態は、第1実施形態と比較して、整合器7より下流側(終端部5a側)に更に電界変成器15を備えた点が異なる。
【0042】
電界変成器15は、誘電率の高い材料で構成されており、本実施形態では高密度ポリエチレン(UHMW)を利用しているが、テフロン(登録商標)という名称で知られるポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材料、石英、その他の高誘電率材料を利用することができる。また、できるだけ加熱されにくい材料で構成されるのが好ましい。加工容易性並びにコスト面の観点から、実用的には高密度ポリエチレンを用いるのが好適である。
【0043】
電界変成器15は、電界変成器15と同じ誘電体内に形成される定在波の波長(以下において「誘電体内波長」という。)をλg’としたときに、マイクロ波の進行方向d2の向きの幅として、λg’/4の奇数倍(λg’/4,3λg’/4,……)の長さを有する構成である。なお、この電界変成器15の幅をλg’/4の奇数倍とすることで、その挿入効果を最も高めることができるものであるが、後述する関係式を満たすように電界変成器15の幅を設定することで、電界変成器15の挿入効果を得ることができる。
【0044】
なお、マイクロ波発生部3から発生するマイクロ波波長をλ、電界変成器15の誘電率をε’、遮断波長をλc,誘電体内波長をλg’とすると、下記数1が成立する。この関係式により、誘電体内波長λg’を算出することができる。
【0045】
【数1】
【0046】
図6に示すように、本実施形態では、この電界変成器15を固定的に設置する。より具体的には、加熱室5内に形成される定在波の節となる位置20に電界変成器15を設置する。更に具体的には、電界変成器15の終端部5a側(下流側)の面が節となる位置20となるように設置する。
【0047】
電界変成器15は、空気よりも誘電率が高いため、当該電界変成器15内を通過する定在波の波長が短くなる。これにより、電界変成器15よりも下流側(終端部5a側)の定在波W’の電界を更に高めることができる。特に変圧器の幅Lを下記関係式の範囲内で設定した場合に定在波W’の電界を顕著に高める効果が得られる。なお、下記関係式においてNは自然数である。
【0048】
(関係式)
(4N−3)λg’/8 < L < (4N−1)λg’/8
【0049】
これらの結果は、後述する実施例によって明らかとなる。
【0050】
第1実施形態及び本実施形態のように、加熱室5内にマイクロ波の定在波を生じさせる構成においては、終端部5aからのマイクロ波発生部3に向かう方向の距離に応じて電界強度の強い部分(腹)と弱い部分(節)が生じてしまう。そこで、図6に示すように、特に定在波の節の位置に電界変成器15を設置することで、電界変成器15より下流側の定在波W’の電界強度が高められ、トナーの定着性を向上させることが可能となる。
【0051】
つまり、電界変成器15よりも下流側にスリット6を設け、この位置において用紙10を通過させることで、パワーが増大された定在波W’に基づく加熱処理が施されるため、トナー定着時間を短縮化することができる。
【0052】
電界変成器15の設置により、その下流側の電界を高める効果が得られる点については、以下の理論によっても裏付けられる。
【0053】
(理論説明)
長方形導波管の負荷端を図7Aに示すように、インピーダンスZrで終端した場合を想定する。TE10モードを考え、負荷端における入射電界及び反射電界の振幅をそれぞれEi,Erで表した場合、導波管のZ軸の各点のEy及びHxは以下の数2で表される。なお、図2におけるa方向がX軸、b方向がY軸、d2方向がZ軸にそれぞれ対応しており、Eyとは電界のY軸成分、Hxとは磁界のX軸成分に相当する。
【0054】
【数2】
【0055】
なお、数2において、Z01は特性インピーダンス、γ1は伝搬定数である。
【0056】
ここで、図7Bに示すように、領域Iを大気とし、領域IIにインピーダンスZRとして終端部cで短絡された誘電体が満たされている状況を想定する。領域Iでの入射電界をEi1、反射電界をEr1、領域IIでの入射電界をEi2、反射電界をEr2とすると、上記数1及びz=0における境界条件より、以下の数3が成立する。
【0057】
【数3】
【0058】
ここで、図7Bにおいて終端部c面は短絡されているため、以下の数4が成立する。なお、領域IIの先頭位置(マイクロ波発生側)のZ座標を0とし、領域IIのZ軸方向の幅をdとしている。
【0059】
【数4】
【0060】
上記数4をEi2について解くと、数5が成立する。
【0061】
【数5】
【0062】
上記数5において、損失を無視してその絶対値を取ると、数6が成立する。
【0063】
【数6】
【0064】
数6において、β1gは領域I内における管内波長λ1gの複素成分(位相定数)、β2gは領域II内における管内波長λ2gの複素成分(位相定数)である。また、Kは定数である。
【0065】
数6により、β2gdがπ/2の奇数倍の場合、領域IIの電界強度は入射電界に等しく、β2gdがπ/2の偶数倍の場合、領域IIの電界強度は入射電界の1/Kになっている。よって、誘電率が異なる領域の境界面が電界の腹に当たる場合には、その両側での電界強度は等しくなり、節に当たる場合にはそれぞれの領域での位相定数βgの比に反比例することが分かる。
【0066】
よって、図7Cのように、基準面aの下流側にλ2g/4の厚みを有する誘電体で導波管を満たし(領域II)、更にその下流側(領域III)のλ1g/4の距離の位置に短絡面cを置くと、数7が成立する。なお、EI, EII, EIIIは、それぞれ領域I, II, IIIにおける電界強度を示す。
【0067】
【数7】
【0068】
これに、|EI|=|EII|の条件を考慮すると、下記数8が成立する。
【0069】
【数8】
【0070】
数8により、領域IIIの電界強度は領域Iの電界強度のK倍となることが分かる。つまり、λ2g/4の厚みを有する誘電体、すなわち電界変成器15を挿入することで、その上流側の電界強度が増幅されて下流側に伝搬することが分かる。
【0071】
なお、領域Iを大気、領域IIを誘電率εrの誘電体とすると、定数Kは以下の数9により規定される。
【0072】
【数9】
【0073】
〔別実施形態〕
〈1〉上記実施形態では、用紙へのトナー定着にマイクロ波を利用する実施形態を説明したが、短い時間の間に急激に加熱を行うことを要求される他の一般的な用途(例えば、セラミックスの仮焼や焼結、高温を必要とする化学反応の他、トナーを金属粉末として配線(導電)パターンを製作する用途)に利用することが可能である。
【0074】
〈2〉第2実施形態において、電界変成器15の幅をλg’/4の奇数倍とするのが好ましいと記載したが、少なくとも上述した関係式を満たすように構成されていればよく、λg’/4の奇数倍に近ければ近いほど望ましい。なお、電界変成器15の幅がλg’/4の偶数倍である場合には、インピーダンス変換が行われず、その後段(終端部5a)側の電界を高める効果が発揮されない。
【0075】
また、電界変成器15の終端部5a側の面が定在波の節の位置となるのが最も好ましい構成であるが、少なくとも腹の位置でなければよい。
【0076】
〈3〉上記の実施形態では、加熱室5に開口部としてのスリット6を設ける構成としたが、開口部の形状は上記スリット形状に限られない。例えば、円形や正方形、その他の多角形状の開口部であっても構わない。特に、被加熱体が紙や布のようなシート形状の場合にはスリット形状の開口部が好ましく、糸のような線形状の場合には、円形、正方形、多角形といった形状の開口部が好ましい。
【実施例】
【0077】
(第1実施例)
以下、上記各実施形態の構成を想定して行った実施例と比較例の実験結果を示す。なお、各実施例及び比較例においては、以下の装置を共通して利用した。
【0078】
・マイクロ波発生部3: マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品を利用した。また発生条件として、出力エネルギーを400Wとし、出力周波数を2.45GHzとした。
・アイソレータ4: マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品を利用した。
・加熱室5: アルミニウム製の導波管にスリット6を設けたもの
・用紙10: 「中性紙」と称される市販のPPC用紙を利用した。
【0079】
(実施例1)
整合器7としてE−H整合器(マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品)を利用し、加熱室8の寸法をa=109.2mm、b=54.6mmとした。電界変成器15は設けていない。なお、下記実施例及び比較例においてE−H整合器を用いる場合には、同じE−H整合器を利用した。
【0080】
(実施例2)
整合器7としてE−H整合器を利用し、加熱室8の寸法をa=109.2mm、b=54.6mmとし、電界変成器15として高密度ポリエチレン(誘電率εr=2.3)を用いた。より具体的には、加熱室5内において、幅25mmの大きさの高密度ポリエチレンを、終端部5aからの距離が500mmとなる位置から上流側に向けて挿入した。
【0081】
(実施例3)
加熱室8の寸法をa=70mm、b=54.6mmとしたほかは実施例1と同じ条件とした。ただし、E−H整合器の寸法と加熱室8の寸法が異なるため、整合器7と加熱室8の間をテーパー形状の導波管で接続した。
【0082】
(実施例4)
加熱室8の寸法をa=70mm、b=54.6mmとしたほかは実施例2と同じ条件とした。ただし、実施例3と同様の理由により、整合器7と加熱室8の間をテーパー形状の導波管で接続した。
【0083】
(実施例5)
整合器7としてアイリス(マイクロデバイス社(現マイクロ電子社)製の製品)を利用した他は実施例1と同一の条件とした。
【0084】
(比較例1)
整合器を設置しない他は、実施例1と同一の条件とした。
【0085】
上記各条件の下、加熱室5のスリット6に、所定領域にトナーを載せた用紙10をセットし、トナー定着に要する時間を計測すると共に、当該計測された時間に対し前記所定領域の面積とA4用紙の面積の比率を乗じることで、A4用紙にトナーを定着させる時間を測定した。結果を下記表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
整合器を設置しなかった場合、120(秒)経過後においても、A4用紙にトナーを定着させることは困難であった。これに対し、整合器7を設置した実施例1〜5においては、いずれも120秒を遥かに下回る時間でトナーが定着している。これにより、整合器7を設置することで、加熱室5内に形成される定在波のパワーを著しく大きくする効果が得られていることが分かる。
【0088】
(第2実施例)
図8は、実施例2における加熱室8内の電界強度を示すグラフである。横軸は加熱室8内におけるマイクロ波進入方向(Z軸方向)の位置を、縦軸は電界強度をそれぞれ示している。図8によれば、電界変成器15よりも下流側において、電界強度が大きく上昇していることが分かる。なお、図8及び以下の図9A〜図9Fにおいて、縦軸が示す電界強度は所定の値を基準としたときの相対値(無次元値)である。
【0089】
図9A〜図9Fは、実施例2において、電界変成器15の幅を変化させたときの加熱室8内の電界強度を示すグラフである。なお、本実施例では、短絡板の直前に同一幅の誘電体を挿入しているが、これは実験条件を揃えるために行ったものであり、本実施例が示す効果に影響を及ぼすものではない。また、グラフによっては定在波の谷の位置にける電界強度の大きさに多少のバラツキがあるが、これは計算誤差の範囲内である。
【0090】
また、図9Gは、電界変成器15の幅を変化させたときの、電界変成器15の上流側と下流側における電界強度の大きさの比の変化を示すグラフであり、図9Hはこれを表にしたものである。
【0091】
図9A、図9B、図9C、図9D、図9E及び図9Fは、それぞれ、電界変成器15の幅を、0、6mm、13mm、25mm、37mm、44mmとしたときのグラフである。
【0092】
図9Aでは電界変成器15を挿入していないため、当然に電界変成器15の前後で電界強度が変化するということはない(電界強度=4.2のままである)。
【0093】
電界変成器15の幅を6mm(これは0.06λg’に相当する)とした図9Bでは、電界変成器15の上流側において電界強度=4.2であったのが、下流側において電界強度=5.3となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.26倍となっている。
【0094】
電界変成器15の幅を13mm(これは0.13λg’に相当する)図9Cでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.8であったのが、下流側において電界強度=6.8となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.79倍となっている。
【0095】
電界変成器15の幅を25mm(これは0.25λg’に相当する)図9Dでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.4であったのが、下流側において電界強度=6.2となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.82倍となっている。
【0096】
電界変成器15の幅を37mm(これは0.37λg’に相当する)図9Eでは、電界変成器15の上流側において電界強度=3.5であったのが、下流側において電界強度=6.0となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.7倍となっている。
【0097】
電界変成器15の幅を44mm(これは0.44λg’に相当する)図9Fでは、電界変成器15の上流側において電界強度=4.2であったのが、下流側において電界強度=4.5となっており、電界変成器15の前後で電界強度は1.1倍となっている。
【0098】
なお、グラフ上には示していないが、電界変成器15の幅を50mm(これは0.50λg’に相当する)とした場合、電界変成器15の上流側端点と下流側端点が共に定在波の谷の位置となるため、電界変成器15の下流側と上流側で電界強度は変化しない。
【0099】
以上の結果によれば、電界変成器15の幅Lを、上述した関係式、すなわち自然数Nを用いて (4N−3)λg’/8 < L < (4N−1)λg’/8 を満たすように設定することで、電界変成器15の下流側の定在波の電界強度を大きくする効果が得られることが分かる。これにより、加熱室5内の電界強度が高められ、トナー定着に要する時間を大きく短縮する効果が得られる。
【符号の説明】
【0100】
1 : マイクロ波加熱装置
3 : マイクロ波発生部
4 : アイソレータ
5 : 加熱室
5a: 加熱室の終端部
6 : スリット
7 : 整合器
8 : マイクロ波導入口
d1: 用紙通過方向
d2: マイクロ波進行方向
10 : 用紙
11 : 第1T分岐路
12 : 第2T分岐路
15 : 電界変成器
20 : 定在波の節
100 : マイクロ波装置
101 : 用紙
103 : 共振器チャンバ
104 : エレメント
107 : 通過部
107’: 通過部
109 : 共振器チャンバの側面
109’: 共振器チャンバの側面
110 : マグネトロン
111 : 貯水庫
112 : サーキュレータ
113 : 入力結合変換器
114 : 結合開口
115 : 終端スライダ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を出力するマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波が導かれ、前記マイクロ波の進入方向の終端部が短絡されている導電性の加熱室と、
前記マイクロ波発生部と前記加熱室の間に設けられた整合器と、を有し、
前記加熱室は、当該加熱室の内部を被加熱体が前記マイクロ波の進入方向とは非平行方向の向きに通過するための開口部を有し、
前記整合器は、前記加熱室の終端部で反射された反射マイクロ波を前記加熱室側に再反射する構成であり、
前記マイクロ波発生部のマイクロ波出力端から前記整合器までの間は導電性材料で構成された筒状の導波管で連結され、
前記整合器から前記加熱室の終端部までの間は、前記被加熱体を通過させるための前記開口部の部分を除いて導電性材料で構成された筒状の導波管で連結されていることを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記整合器がE−H整合器であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記整合器と前記加熱室の間において、空気よりも誘電率の高い高誘電体で構成された電界変成器を、前記高誘電体内における定在波の波長をλg’、自然数をN(N>0)としたときに、(4N−3)λg’/8より大きく、(4N−1)λg’/8未満の幅で、マイクロ波の定在波の節を含む位置に挿入したことを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記電界変成器が、λg’/4の奇数倍の大きさの幅で、且つ、前記加熱室の終端部側の面が前記マイクロ波の定在波の節の位置となるように設置されていることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記電界変成器が、高密度ポリエチレンで構成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項の記載のマイクロ波発生装置を備え、
前記開口部を介して通過する現像剤付き記録シートが前記加熱室で加熱されることで、現像剤を記録シートに定着させることを特徴とする画像定着装置。
【請求項1】
マイクロ波を出力するマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波が導かれ、前記マイクロ波の進入方向の終端部が短絡されている導電性の加熱室と、
前記マイクロ波発生部と前記加熱室の間に設けられた整合器と、を有し、
前記加熱室は、当該加熱室の内部を被加熱体が前記マイクロ波の進入方向とは非平行方向の向きに通過するための開口部を有し、
前記整合器は、前記加熱室の終端部で反射された反射マイクロ波を前記加熱室側に再反射する構成であり、
前記マイクロ波発生部のマイクロ波出力端から前記整合器までの間は導電性材料で構成された筒状の導波管で連結され、
前記整合器から前記加熱室の終端部までの間は、前記被加熱体を通過させるための前記開口部の部分を除いて導電性材料で構成された筒状の導波管で連結されていることを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記整合器がE−H整合器であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記整合器と前記加熱室の間において、空気よりも誘電率の高い高誘電体で構成された電界変成器を、前記高誘電体内における定在波の波長をλg’、自然数をN(N>0)としたときに、(4N−3)λg’/8より大きく、(4N−1)λg’/8未満の幅で、マイクロ波の定在波の節を含む位置に挿入したことを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記電界変成器が、λg’/4の奇数倍の大きさの幅で、且つ、前記加熱室の終端部側の面が前記マイクロ波の定在波の節の位置となるように設置されていることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記電界変成器が、高密度ポリエチレンで構成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項の記載のマイクロ波発生装置を備え、
前記開口部を介して通過する現像剤付き記録シートが前記加熱室で加熱されることで、現像剤を記録シートに定着させることを特徴とする画像定着装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図10A】
【図10B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図10A】
【図10B】
【公開番号】特開2013−97976(P2013−97976A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238951(P2011−238951)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】
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