説明

マグネット製造装置及びマグネット製造方法

【課題】スラリーの移送容易さを確保しつつ、スラリー中の凝集物を除去することができるマグネット製造装置及びマグネット製造方法を提供する。
【解決手段】マグネット製造装置1は、粉砕機2と第1フィルタ付きストックタンク5との間に、スラリー中の凝集物をフィルタによって分離するフィルタ装置8が設けられている。フィルタ装置8は、スラリー内の粉砕流体を、流体供給部9から供給される流体で流動化させ、スラリーの移送方向A1に対して直交方向に延びる複数のフィルタ孔7を有するフィルタ部14によって、スラリー内の凝集物を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料をスラリー状にしてマグネット成形するマグネット製造装置及びマグネット製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば酸化鉄や炭酸ストロンチウム等の原料を所定の配合比で混合したものを仮焼してフェライト化させ、得られた焼結体を粉砕し、この粉末を磁場中で圧縮成形してフェライト磁石を製造するマグネット製造装置が周知である(特許文献1等参照)。この種のマグネット製造装置には、磁場成功の工程において、材料をスラリー状にして成形を行う湿式がある(特許文献2等参照)。
【0003】
湿式の場合、スラリー移送中、スラリーに凝集物が混在する可能性があり、スラリーに凝集物が混在したままフェライト成形すると、これが粒界破壊に繋がる可能性があった。凝集物は、ストロンチウムやカルシウム等からなり、主にスラリー移送経路の配管内面に付着→乾燥したものが剥がれ落ちて生じる。よって、一般的なマグネット製造装置は、スラリー移送経路上においてスラリーを一時的に溜めるストックタンクの前段にタンクフィルタを設け、このタンクフィルタによって凝集物を取り除く対策がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4278098号公報
【特許文献2】特公昭46−17118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タンクフィルタのフィルタ孔(網の目)がスラリーの移送方向と同一方向に並ぶ向きをとっている場合、凝集物の除去率確保を狙ってフィルタ孔を小さくすると、フィルタ抵抗が大きくなり、スラリーの移送が容易でなくなる。また、直ぐに目詰まりを起こし、フィルタの損傷に繋がる。逆に、フィルタ孔を大きくすると、凝集物の除去率が悪くなってしまう。このため、スラリー中の凝集物の高い除去率とスラリーの移送容易さとを両立することができる新たな技術の開発ニーズがあった。
【0006】
本発明の目的は、スラリーの移送容易さを確保しつつ、スラリー中の凝集物を除去することができるマグネット製造装置及びマグネット製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記問題点を解決するために、本発明では、マグネット材料を仮焼することで得た仮焼体を粉砕し、その粉砕粒子を分散媒に分散することでスラリー化し、このスラリーを移送途中のフィルタ部材に通すことで凝集物を除去し、当該スラリーを脱水して成型することによってマグネットを製造するマグネット製造装置において、スラリーの移送途中に設けられ、前記粉砕粒子を比重がこれよりも小さい流体で流動化させ、スラリーの移送方向に対して交差する方向でスラリーから凝集物を分離する分離装置を備えたことを要旨とする。
【0008】
本発明の構成によれば、スラリー内の粉砕粒子を、これよりも比重が小さい流体で流動化させ、スラリーの移送方向に対して交差する方向でスラリーから大粒径の粉砕粒子(例えば凝集物)を分離する。このため、本発明の場合は、スラリー内の大粒径の粉砕粒子を、スラリーの移送方向とは異なる方向で分離するので、分離装置にスラリーの移送の負荷がかかり難い状態で、スラリーから大粒径の粉砕粒子を分離することが可能となる。よって、スラリーの移送容易さ確保とスラリー中の凝集物の高い除去率確保とを、ともに両立することが可能となる。
【0009】
本発明では、前記分離装置は、スラリーの移送方向に対して交差する方向に延びるフィルタ孔を複数有したフィルタ部によって、スラリー中の凝集物を分離するフィルタ装置を備えたことを要旨とする。この構成によれば、スラリー内の粉砕粒子を、スラリーの移送方向に対して交差する方向に延びるフィルタ孔を有するフィルタ部によって、スラリー内の大粒径の粉砕粒子を分離する。このため、凝集物の高い除去率を狙ってフィルタ孔の開口径を小さくしても、粉砕粒子が勢いよく衝突する状況が生じ難くなるので、仮にフィルタ孔を小径化しても目詰まりや破損等が発生し難くなる。よって、スラリー移送容易さ確保とスラリー中の凝集物の高い除去率確保との両立が可能となる。
【0010】
本発明では、前記フィルタ装置は、振動によってスラリー内の粉砕粒子の分離が促進可能であることを要旨とする。この構成によれば、フィルタ装置に振動が加えられるので、流体内における粉砕粒子の流動化が促進される。よって、スラリーから凝集物が分離され易くなるので、凝集物の除去率向上に効果が高くなる。
【0011】
本発明では、前記分離装置は、スラリーを弁部材によって飛散させることにより、粒径の小さいスラリーを手前に落下させ、粒径の大きいスラリーを遠くに飛ばすことで、スラリー中の凝集物を分離するスラリー飛散装置を備えたことを要旨とする。この構成によれば、フィルタを使用しなくても、スラリー中の凝集物を分離することが可能となる。よって、凝集物の分離方式がフィルタ方式のみに限定されず、本構成のようなスラリー飛散式でも凝集物の除去が可能となる。
【0012】
本発明では、前記弁部材は、電磁弁であることを要旨とする。この構成によれば、電磁弁を制御することによって、効率よくスラリーから凝集物を分離することが可能となる。
本発明では、前記成型の前段には、前記脱水によって高濃度となったスラリーを粉砕する粉砕装置が設けられていることを要旨とする。この構成によれば、マグネットの成型直前はスラリー濃度が高いので、成型前段でスラリーを粉砕するようにすれば、粉砕粒子の微細化が一層確保される。
【0013】
本発明では、マグネット材料を仮焼することで得た仮焼体を粉砕し、その粉砕粒子を分散媒に分散することでスラリー化し、このスラリーを移送途中のフィルタ部材に通すことで凝集物を除去し、当該スラリーを脱水して成型することによってマグネットを製造するマグネット製造方法において、スラリーの移送途中に設けられた分離装置により、前記粉砕粒子を比重がこれよりも小さい流体で流動化させ、スラリーの移送方向に対して交差する方向でスラリーから凝集物を分離することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スラリーの移送容易さを確保しつつ、スラリー中の凝集物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態のマグネット製造装置の構成図。
【図2】フィルタ装置の概略を示す構成図。
【図3】フィルタ装置のフィルタ形状を示す斜視図。
【図4】フィルタ装置の動作態様を示す模式図。
【図5】フィルタ装置の別の動作態様を示す模式図。
【図6】第2実施形態のスラリー飛散装置の概略を示す構成図。
【図7】スラリー飛散装置の動作態様を示す模式図。
【図8】別例のフィルタ孔の形状を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化したマグネット製造装置及びマグネット製造方法の第1実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0017】
図1に示すように、マグネット製造装置1には、マグネット材料を粉砕してスラリー化する粉砕機2と、粉砕機2から移送されるスラリー中の凝集物を分離する凝集物分離機4とが設けられている。また、マグネット製造装置1には、凝集物分離機4を経由したスラリーを貯留する第1フィルタ付きストックタンク5と、第1フィルタ付きストックタンク5から移送されたスラリーを貯留する第2フィルタ付きストックタンク6とが設けられている。なお、凝集物分離機4が分離装置を構成する。
【0018】
フェライト磁石を製造する際、まず前段で酸化鉄や炭酸ストロンチウム等のマグネット材料(原料)を所定の配合比で混合した素材を仮焼してフェライト化させ、得られたフェライト仮焼体が粉砕機2に投入される。原料は、例えば酸化物粉末、または焼結により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硫酸塩等の粉末が使用される。また、仮焼は、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行う。
【0019】
粉砕機2は、例えばボールミル、スタンプミル、アトライタ、アトマイザ等が使用されている。粉砕機2は、投入されたフェライト仮焼体を、粗粉砕工程及び微粉砕工程を経ることで、サブミクロンサイズのフェライト粒子からなる仮焼粉末にする。本例の場合、粗粉砕工程を乾式で行い、微粉砕工程を湿式で行う。そして、粗粉砕工程で仮焼体を所定以下の粒径となるまで粗粉砕した後、微粉砕工程で粗粉砕粉と水とを含む粉砕用スラリーを調製し、これを所定以下の粒径となるまで微粉砕する。生成されたスラリーは、凝集物分離機4に送られる。なお、水がスラリーの分散媒に相当する。
【0020】
図2及び図3に示すように、本例の凝集物分離機4は、スラリーをフィルタによって濾すことにより、スラリーから凝集物(例えば、ストロンチウムやカルシウム等)を分離するフィルタ式である。この場合、凝集物分離機4は、スラリーの移送方向(図2の矢印A1方向)に対して直交する方向に延びる複数のフィルタ孔7,7…を有するフィルタ装置8と、スラリーに流体(水)を供給してスラリー内の微粉砕粒子を流動化させる流体供給部9とを備える。なお、流体供給部9が分離装置を構成する。
【0021】
フィルタ装置8には、粉砕機2に接続される配管10が設けられている。図3に示すように、配管10は、スラリーの移送方向A1に延びる底壁11と、底壁11の幅方向両端に形成された一対の溝壁12,12とからなり、底壁11及び溝壁12,12に囲まれる領域がスラリーの流路13となる。
【0022】
図2及び図3に示すように、フィルタ装置8には、配管10の底壁11の一部分において形成されたフィルタ部14と、フィルタ部14によって濾されたスラリーを受ける貯留部15とが設けられている。前述のフィルタ孔7,7…は、フィルタ部14に形成されるとともに、フィルタ部14の平面方向において格子状に配列されている。本例のフィルタ孔7は、丸孔の直径が小径に形成されることにより、スラリー中の粉砕粒子のうち大粒径粉砕粒子(例えば大粒径の微粉砕粉(磁石素材)や凝集物)を分離して、小粒径粉砕粒子(例えば小粒径の微粉砕粉や凝集物)のみ通過可能となっている。
【0023】
図2に示すように、フィルタ装置8は、下流側が下に傾くように配置されている。このため、流路13を流れるスラリーが下流側(移送方向A1)に流れ易くなっている。
貯留部15は、フィルタ部14によって濾されたスラリーを受けるので、小粒径の微粉砕粉や凝集物のみ含まれたスラリーを貯留する。貯留部15は、下端の隅が配管16を介して第1フィルタ付きストックタンク5に接続されている。貯留部15の内部には、貯留部15内のスラリーの水面とフィルタ部14との間に空気層17が設けられ、スラリーをフィルタ孔7から下方に落ち易くしている。貯留部15に溜められたスラリーは、例えばポンプによって第1フィルタ付きストックタンク5に移送される。
【0024】
第1フィルタ付きストックタンク5は、配管16から移送されたスラリーを、第1タンク前フィルタ18を介して取り込み、製造サイクルの時間差を吸収するためにスラリーを一時貯留する。第1タンク前フィルタ18は、例えばメッシュ材により形成され、第1フィルタ付きストックタンク5の本体の外部に設けられる。第1タンク前フィルタ18は、スラリー内の小粒径の凝集物を分離するために設けられるので、フィルタ孔の径(開口径)が小さく形成される。本例の場合、第1タンク前フィルタ18のフィルタ径は、フィルタ装置8のフィルタ径よりも小さく形成される。なお、第1タンク前フィルタ18がフィルタ部材を構成する。
【0025】
図1に示すように、第2フィルタ付きストックタンク6は、配管19を介して第1フィルタ付きストックタンク5と接続されている。第2フィルタ付きストックタンク6は、配管19から移送されたスラリーを、第2タンク前第2タンク前フィルタ20を介して取り込み、製造サイクルの時間差を吸収するためにスラリーを一時貯留する。第2タンク前フィルタ20は、例えばメッシュ材により形成され、第2フィルタ付きストックタンク6の本体の外部に設けられる。第2タンク前フィルタ20は、第1フィルタ付きストックタンク5を経て取り込んだスラリー内の小粒径の凝集物を分離するために設けられるので、フィルタ孔の径(開口径)が小さく形成される。本例の場合、第2タンク前第2タンク前フィルタ20のフィルタ径は、第1フィルタ付きストックタンク5のフィルタ径よりも小さく形成される。なお、第2タンク前フィルタ20がフィルタ部材を構成する。
【0026】
流体供給部9は、配管10や凝集物分離機4自体に流体を供給することによって、流体内における粉砕粒子の流動化を促進する。即ち、粉砕粒子より比重が小さい流体で粉砕粒子を流動化(浮遊化)させる。供給する流体量(水の量)は、スラリー内で粉砕粒子が浮遊可能となる量とし、更に換言するならば、流体中の粉砕粒子が容易に分離可能となる量に設定される。
【0027】
マグネット製造装置1には、スラリーを脱水して所定濃度に調製する脱水機21と、脱水後のスラリーを後段に所定量送り出す注入機22と、注入機22から送り出されたスラリーから不純物を取り除くフィルタ機23と、フィルタ後のスラリーからマグネットを成形する成型機24とが設けられている。脱水機21は、例えばフィルタープレスや遠心分離機が使用される。注入機22は、脱水後のスラリーを、フィルタ部14を経由してマグネット成形に必要な量を成型機24に供給する。成型機24は、注入機22から取り込んだスラリーに、磁場中で圧縮成型することによりフェライト粒子を配向させ、所定形状のフェライト磁石を成形する。
【0028】
次に、本例のマグネット製造装置1の動作を、図1、図2、図4及び図5を用いて説明する。
図1に示すように、フェライト磁石を製造するには、まず酸化鉄や炭酸ストロンチウム等の原料を所定の混合比で混合した材料を仮焼することにより、フェライト化する。続いて、得られたフェライト仮焼体を粉砕機2に投入する。粉砕機2は、フェライト仮焼体をサブミクロンサイズまで粉砕して仮焼粉末に加工する。このとき、粉砕機2は、フェライト仮焼体を所定以下の粒径となるまで粗粉砕し、粗粉砕粉と水とを混ぜ合わせてスラリーを調製し、このスラリーを所定以下の粒径となるまで微粉砕する。
【0029】
粉砕機2から送り出されるスラリーは、流体供給部9から供給される流体の流れにより、配管10を通じてフィルタ装置8に送られる。このとき、スラリー中の粉砕粒子は、粉砕粒子よりも比重が小さい流体によって流動化(浮遊化)され、フィルタ装置8の流路13を流れる。
【0030】
図2及び図4に示すように、フィルタ装置8は、スラリー中の凝集物を、スラリーの移送方向A1に対して直交方向に延びるフィルタ孔7,7…で濾すことにより、スラリー中の大粒径粉砕粒子を分離する。本例の場合、図4に示すように、フィルタ孔7,7…がスラリーの移送方向に対して直交方向に延びているので、スラリー内の粉砕粒子が勢いよくフィルタ孔7に衝突することなく、スラリー中の凝集物をフィルタ孔7で分離することが可能である。そして、スラリー中の大粒径の微粉砕粉や凝集物がフィルタ部14の上面に残り、小粒径の微粉砕粉や凝集物がスラリーとともにフィルタ孔7を通過する。フィルタ孔7を通過したスラリーは貯留部15で溜められ、例えばポンプ(図示略)によって第1フィルタ付きストックタンク5に移送される。
【0031】
なお、スラリー中の粉砕粒子をフィルタ装置8で分離する際、図5に示すように、フィルタ装置8に振動を加えることによって、スラリー中の粉砕粒子の分離を促進してもよい。この場合、フィルタ装置8は、図5の矢印Bで示されるように、製造サイクルの所定タイミングで装置高さ方向において複数回上下動される。このとき、スラリーに上下方向に振動が生じ、流動化が促進されるため、スラリー中の小径粉砕粒子が下に落ち易くなる。
【0032】
第1フィルタ付きストックタンク5は、フィルタ装置8から移送されるスラリーを、第1タンク前フィルタ18を介して取り込む。このとき、スラリー内において小粒径の凝集物は、径の小さいフィルタ孔を有する第1タンク前フィルタ18によってスラリーから分離される。第1フィルタ付きストックタンク5内のスラリーは、例えばポンプ(図示略)によって第2フィルタ付きストックタンク6に移送される。
【0033】
第2フィルタ付きストックタンク6は、第1フィルタ付きストックタンク5から移送されるスラリーを、第2タンク前フィルタ20を介して取り込む。このとき、スラリー内において粒径が更に小さめの凝集物は、径の小さいフィルタ孔を有する第2タンク前フィルタ20によってスラリーから分離される。第2フィルタ付きストックタンク6内のスラリーは、例えばポンプ(図示略)によって脱水機21に移送される。
【0034】
脱水機21は、第2フィルタ付きストックタンク6から移送されるスラリーを脱水し、スラリーを濃縮する。なお、脱水後のスラリーは、例えば混練機等によって混練されてもよい。注入機22は、脱水機21から所定濃度に調製されたスラリーを吸い上げ、成型に必要な量のスラリーを、フィルタ機23を介して成型機24に注入する。成型機24は、注入機22から送り込まれたスラリーを、所定方向に磁場をかけながら圧縮成型することで磁場形成し、この磁石材を焼成により焼結して、フェライト磁石を形成する。そして、このフェライト磁石が所定形状に加工され、製品としてのフェライト磁石が製造される。
【0035】
ところで、仮に、フィルタ部14においてフィルタ孔7がスラリーの移送方向と同一方向をとる場合、凝集物の高い除去率を狙ってフィルタ孔の開口径を小さく設定すると、この小径孔に凝集物が勢いよく当たり、結果、フィルタ孔の目詰まりや破損に繋がり、スラリーの移送容易さ確保に支障を来す。この場合は、フィルタ孔の開口径を大きくすればよいが、今度は逆に、凝集物を効率よく分離することができなくなり、凝集物の除去率という点で問題が生じてくる。
【0036】
そこで、本例の場合は、スラリー内の粉砕粒子を、これよりも比重が小さい流体で流動化(浮遊化)させ、スラリーの移送方向A1に対して直交方向に延びるフィルタ孔7を有するフィルタ部14によって、スラリー内の凝集物を分離する。このため、凝集物の高い除去率を狙ってフィルタ孔7の開口径を小さくしても、大粒径の凝集物がフィルタ孔7に勢いよく衝突する状況が生じ難くなるので、フィルタ孔7を小径化しても目詰まりやフィルタ破損等が発生し難くなる。よって、スラリーの移送容易さ確保とスラリー中の凝集物の高い除去率の確保との両立が可能となる。
【0037】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)スラリー内の粉砕粒子を、これより比重が小さい流体で流動化させ、スラリーの移送方向A1に対して直交方向に延びる複数のフィルタ孔7により、スラリー内の凝集物を分離するフィルタ装置8を設けた。このため、スラリー移送容易さ確保と、スラリー中の凝集物の高い除去率確保とを、ともに両立することができる。
【0038】
(2)フィルタ装置8に振動を加える構造とした場合、フィルタ装置8において流体内の粉砕粒子の流動化が促進される。よって、スラリーから凝集物が分離され易くなるので、凝集物の除去率向上に効果が高くなる。
【0039】
(3)第1フィルタ付きストックタンク5の第1タンク前フィルタ18には、フィルタ装置8で大粒径の凝集物が取り除かれた後のスラリーが通されるので、第1タンク前フィルタ18をフィルタ径の小さいものとしても何ら問題はない。よって、第1フィルタ付きストックタンク5の第1タンク前フィルタ18をフィルタ径の小さいフィルタとすることができる。なお、これは第2フィルタ付きストックタンク6でも同様に言える。
【0040】
(4)貯留部15の室内に空気層17を設けたので、スラリーをフィルタ部14の下方に落とし易くすることができる。
(5)フィルタ部14によって取り除かれた大粒径粉砕流体を粉砕機2に戻して、粉砕流体を再度粉砕してもよい。この場合、マグネット材料を有効利用することができるので、材料費を無駄にせずに済む。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図6及び図7に従って説明する。なお、第2実施形態は、凝集物分離機4を他の構成に変更した実施例であって、基本的な構成は第1実施形態と同様である。よって、本例は、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0042】
図6に示すように、本例の凝集物分離機4は、スラリー中の凝集物を、電磁弁パルス波によって飛散させ、その飛び量にて仕分けるスラリー飛散式である。この場合、凝集物分離機4は、電磁弁30の急な開閉によってスラリーに突発的な流れを発生させて、スラリー内の粉砕粒子を飛散させるスラリー飛散装置31を備える。スラリー飛散装置31は、粉砕機2から送られてきたスラリーを後段に圧送するポンプ32と、ポンプ32の下流に接続された電磁弁30と、電磁弁30から飛散されるスラリー及び粉砕粒子を受ける貯留部33とを備える。
【0043】
貯留部33には、電磁弁30から放出されたスラリーを受ける主貯留室34と、電磁弁30から放出された大粒径の凝集物を受ける凝集物収集室35とが設けられている。主貯留室34は、配管16を介して第1フィルタ付きストックタンク5に接続されている。主貯留室34は、スラリーが下方に流れ落ちるスラリー移送方向(図6の矢印A2方向)に対して、直交する方向に開口孔36を持つ室を有する。本例の場合、電磁弁30に近い側に主貯留室34が配置され、電磁弁30から遠い側に凝集物収集室35が配置されている。
【0044】
さて、図7に示すように、ポンプ32から圧送されたスラリーは、電磁弁30の急な開閉により、突発的な流れ、つまり電磁弁パルス波によって貯留部33に飛散される。このとき、電磁弁30から放出された粉砕流体のうち、粒径の小さいもの、例えば微粉砕粉や小粒径の凝集物は手前の主貯留室34に落ち、粒径の大きいもの、例えば大粒径の凝集物は奥の凝集物収集室35に落ちる。これにより、スラリーから大粒径の凝集物を分離することが可能となる。なお、凝集物収集室35に集められた凝集物は、粉砕機2にて再粉砕されてもよい。
【0045】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態に記載の(3)に加え、以下の効果を得ることができる。
(6)スラリー内の粉砕粒子を電磁弁パルス波によって飛散させ、小粒径粉砕粒子は手前に落下し、大粒径粉砕粒子は遠くまで飛ぶという特性を利用して、スラリー内の凝集物を分離するスラリー飛散装置31を設けた。このため、スラリー移送容易さ確保と、スラリー中の凝集物の高い除去率確保とを、ともに両立することができる。また、凝集物の分離がフィルタ装置8に限定されずに済み、本例のようなスラリー飛散装置31でも凝集物を除去することができる。
【0046】
(7)スラリー飛散装置31は、電磁弁30の急な開閉によってスラリーに突発的な流れを形成して、スラリーから凝集物を分離する装置である。よって、本例の場合は、電磁弁30を制御することによって、効率よくスラリーから凝集物を分離することができる。
【0047】
(8)凝集物収集室35に溜まった大粒径粉砕粒子を粉砕機2に戻して再度粉砕するようにすれば、マグネット材料を有効利用することができるので、材料費を無駄にすることなくマグネットを製造することができる。
【0048】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・第1実施形態において、フィルタ孔7は、スラリー移送方向A1に対して直交方向に延びる孔に限定されない。図8に示すように、フィルタ孔7は、垂直方向に沿って所定量傾く孔の向きをとってもよい。
【0049】
・第1実施形態において、フィルタ孔7は、格子状に配置されることに限定されず、例えばランダムに配置されていてもよい。
・第1実施形態において、第1フィルタ付きストックタンク5と第2フィルタ付きストックタンク6との間にフィルタ装置8を配置してもよい。この場合、凝集物の除去率を一層高くすることができる。
【0050】
・第1実施形態において、フィルタ装置8の配置場所は、粉砕機2と第1フィルタ付きストックタンク5との間に限定されず、他の場所に変更してもよい。
・第1実施形態において、フィルタ装置8は、下流側が下を向くように傾き配置されることに限定されず、水平方向に真っ直ぐ配置されてもよい。
【0051】
・第1実施形態において、フィルタ装置8をコンベア方式とし、スラリーを下流に汲み上げるようにしてもよい。
・第1実施形態において、ポンプによってスラリーを移送方向A1に流してもよい。
【0052】
・第1実施形態において、フェライト仮焼体の微粉砕は、乾式及び湿式のどちらを採用してもよい。要は、仮焼体を微粉砕できれば、その方式は適宜変更可能である。
・第1実施形態において、フィルタ孔7は、丸孔に限定されず、四角孔など、他の形状に変更可能である。
【0053】
・第1実施形態において、フィルタ装置8の振動構造は、フィルタ装置8を振動させることができれば、どのような構造をとってもよい。また、振動方向、振動回数、振動時間などは、適宜変更可能である。
【0054】
・第2実施形態において、電磁弁30を複数個並設して、複数個のシークエンスとしてもよい。
・第2実施形態において、弁部材は、電磁弁30に限定されず、他の種類を採用してもよい。
【0055】
・各実施形態において、フィルタ部材は、第1タンク前フィルタ18や第2タンク前フィルタ20に限定されず、スラリー移送経路の途中に配置されたフィルタであればよい。
・各実施形態において、スラリーの移送(圧送)は、ポンプで行ってもよいし、ポンプ以外の部材を用いてもよい。
【0056】
・各実施形態において、成型機24の前段に粉砕装置を設けて、濃度の高いスラリーを粉砕可能としてもよい。この場合、マグネットの成型直前はスラリー濃度が高いので、成型前段でスラリーをもう一度粉砕するようにすれば、粉砕粒子の微細化が確保され、特性の高いマグネット製造に効果が高くなる。
【0057】
・各実施形態において、スラリーの濃度調製は、いつ行ってもよい。
・各実施形態において、流体供給部9が供給する流体は水に限定されず、他の媒体を採用してもよい。
【0058】
・各実施形態において、分離装置は、流体供給部9を有する必要はなく、これを省略して、凝集物分離機4のみからなる構成でもよい。
・各実施形態において、マグネット製造装置1の構成は、実施形態で述べた構成例に限らず、スラリーからマグネット製造を行うものであれば、他の構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…マグネット製造装置、4…分離装置を構成する凝集物分離機、7…フィルタ孔、8…フィルタ装置、9…分離装置を構成する流体供給部、14…フィルタ部、18,20…フィルタ部材を構成するタンク前フィルタ、30…弁部材としての電磁弁、31…スラリー飛散装置、A1,A2…スラリー移送方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネット材料を仮焼することで得た仮焼体を粉砕し、その粉砕粒子を分散媒に分散することでスラリー化し、このスラリーを移送途中のフィルタ部材に通すことで凝集物を除去し、当該スラリーを脱水して成型することによってマグネットを製造するマグネット製造装置において、
スラリーの移送途中に設けられ、前記粉砕粒子を比重がこれよりも小さい流体で流動化させ、スラリーの移送方向に対して交差する方向でスラリーから凝集物を分離する分離装置を備えた
ことを特徴とするマグネット製造装置。
【請求項2】
前記分離装置は、スラリーの移送方向に対して交差する方向に延びるフィルタ孔を複数有したフィルタ部によって、スラリー中の凝集物を分離するフィルタ装置を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネット製造装置。
【請求項3】
前記フィルタ装置は、振動によってスラリー内の粉砕粒子の分離が促進可能である
ことを特徴とする請求項2に記載のマグネット製造装置。
【請求項4】
前記分離装置は、スラリーを弁部材によって飛散させることにより、粒径の小さいスラリーを手前に落下させ、粒径の大きいスラリーを遠くに飛ばすことで、スラリー中の凝集物を分離するスラリー飛散装置を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネット製造装置。
【請求項5】
前記弁部材は、電磁弁である
ことを特徴とする請求項4に記載のマグネット製造装置。
【請求項6】
前記成型の前段には、前記脱水によって高濃度となったスラリーを粉砕する粉砕装置が設けられている
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のマグネット製造装置。
【請求項7】
マグネット材料を仮焼することで得た仮焼体を粉砕し、その粉砕粒子を分散媒に分散することでスラリー化し、このスラリーを移送途中のフィルタ部材に通すことで凝集物を除去し、当該スラリーを脱水して成型することによってマグネットを製造するマグネット製造方法において、
スラリーの移送途中に設けられた分離装置により、前記粉砕粒子を比重がこれよりも小さい流体で流動化させ、スラリーの移送方向に対して交差する方向でスラリーから凝集物を分離する
ことを特徴とするマグネット製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−106005(P2013−106005A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251010(P2011−251010)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】