説明

マスク塗料およびマスク材

【課題】 塗膜表面に線図を描く事が出来、カッターなどで切断する際の切断性に優れ、サンドブラスト加工圧にも耐え、さらに加工後マスク全面を一体として剥離することができるマスク塗料を得る。
【解決手段】ベース材となるエラストマーは20から75重量部、補強材となるエラストマーは20から50重量部、顔料は5から60重量部の間に設定したマスク塗料によって、切断時のカッターへ塗膜の張り付きが生じず、加工後のマスクの剥離も容易なマスク塗料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、セラミックス、樹脂、石材、竹材、木材などにサンドブラストによって加工を施す際に、非加工面をサンドブラストから保護するためのマスク用塗料およびそれを乾燥させたマスク材に関する。
【背景技術】
【0002】
サンドブラスト法は、微小な研磨剤を吹き付けることによって、被加工面を研削する。その応用範囲は広く、工芸的にガラスを加工する分野から、精密な電子機器の加工まで応用分野は広がっている。例えば、ガラス表面のカット加工方法としては、液状ゴムの樹脂皮膜で加工しない部分を覆い、被加工面だけを加工する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、電子機器への応用としては、プラズマディスプレイの障壁形成に、フォトレジストでマスクを作り、マスクの無い部分をサンドブラストで研削加工する技術がある(特許文献2参照)
【0003】
これらの技術の共通点は、被加工面でない部分をマスクで覆うという点であり、どのようにマスキングするかという点に様々な工夫がある。例えば、被加工面を精確に指定し、その部分だけのマスクをはずす場合は、マスク材としてフォトレジストを用い、フォトリゾグラフィの技術を用いて、被加工面部分のマスクを除去する(特許文献3参照)。
【0004】
彫刻用の場合は、数μといったオーダーの精密度は不要であるが、曲がった局面上でのマスクの加工や段彫りのためのマスクの加工といった点に工夫が必要となる。例えば段彫り加工をし易くする方法としては、アウトライン図を印刷した転写フィルムをUV硬化性のマスキングフィルムに重ねて紫外線を照射し、そのマスキングフィルムを被加工面に貼り付け加工すべき部分を順次はがしながら段彫り加工する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
また、サンドブラスト圧によってマスクが剥脱しないように、被加工面への接着性を高めるためアンダーコートを施したり(特許文献5参照)、湾曲した面へマスキングするために、接着剤を塗った紙の反対側にマスク材で加工しない部分を描いたものを用意し、接着剤で被加工面に貼り付けサンドブラストで加工する提案もある(特許文献6参照)。この場合、マスク材の無い部分は、接着剤と紙をサンドブラストで研削することになる。
【0006】
彫刻用のマスク材としては、加工後にはがし易いという点も必要になり、そのような材料としては、例えばポリオレフィン系樹脂とアクリルエマルジョンを用いた保護フィルム用樹脂(特許文献7参照)や、Tgの異なるアクリルエマルジョンからなるストリッパブルペイント(特許文献8参照)が考えられる。
【特許文献1】特開平10−212142号公報
【特許文献2】特開平7−45193号公報
【特許文献3】特開平5−279085号公報
【特許文献4】特開2004−314581号公報
【特許文献5】特開昭60−82400号公報
【特許文献6】特開昭58−102675号公報
【特許文献7】特開平11−71548号公報
【特許文献8】特開平11−310750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
彫刻用のマスク材は、被加工面に塗布し、乾燥した後、加工部分を描き、加工部分を切り出し、サンドブラストで研削し、研削後はマスクを除去するという工程をとる。そのため、乾燥しやすく、描写が可能で、加工部を切り出し易く、サンドブラスト耐性があり、そして最終剥脱しやすいという特性を要求される。
【0008】
しかし、これらの要求を満足できる、若しくは特性のバランスをとったマスク材を作製することは大変困難であった。そのため、接着性を強くした場合は、加工後のマスクの剥離も薬品などによる化学処理を行ったり、接着性を低くし、加工時のサンドブラスト圧を低くしたりしていた。すなわち、上記の要求特性のバランスを得た単一のマスク材は従来なかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、取り扱いの容易な彫刻用のマスク材を提供するため想到されたものである。すなわち、本発明のマスク塗料は、ベース材としての第1の水性エマルジョンと補強材としての第2のエマルジョンと顔料を含む。さらに消泡剤などを含む。
【0010】
具体的には、請求項1に関る発明は、2種類の水性エマルジョンと顔料を含むマスク塗料である。
【0011】
また、請求項2に関る発明は、第1の水性エマルジョンはEVAエマルジョンであり、第2の水性エマルジョンはアクリルエマルジョンであり、顔料は酸化チタンである請求項1記載のマスク塗料である。
【0012】
また、請求項3に係わる発明は、前記EVAエマルジョンと前記アクリルエマルジョンと前記酸化チタンの水性顔料の配合比はそれぞれの固形分比率が56%、49%、68%である前記3つの材料の合計を100重量部とし、前記EVAエマルジョンは20重量部以上75重量部、前記アクリルエマルジョンは、20重量部以上50重量部以下、前記酸化チタンは5重量部以上60重量部以下である請求項2記載のマスク塗料である。
【0013】
また、請求項4に係わる発明は、前記EVAエマルジョンが50重量部、前記アクリルエマルジョンが30乃至40重量部、残りが酸化チタン顔料である請求項2記載のマスク塗料である。
【0014】
また、請求項5に係わる発明は、前記EVAエマルジョンと前記アクリルエマルジョンと前記酸化チタン顔料の合計が100重量部であり、さらに消泡剤が添加された請求4記載のマスク塗料である。
【0015】
また、請求項6に係わる発明は、全体の固形分比率が50%以上60%以下である請求項4記載のマスク塗料である。
【0016】
また、請求項7に係わる発明は、これらのマスク塗料を乾燥させたマスク材である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、サンドブラスト加工を行なう際のマスク材が得られる。このマスク材は、塗料状態で供給できるので、湾曲した加工面に塗膜を形成することができる。また着色されているので、塗膜上に被加工面を露出させる線図を描く事が出来る。また、マスク材をカッターで切断した際にカッターに塗料が付着したり、切り出した部分を剥す際に糸引きなどが生ずることなく、切断性に優れている。また、サンドブラストによる加工にも塗膜が剥がれない接着性を有する。さらに、サンドブラスト加工後に塗膜は全面まとめて剥離することができる。すなわち、極めて使い勝手のよいサンドブラスト加工用のマスク材を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のマスク材は、以下のような観点の特性を満たすように作製される。
(1)人体への安全性を考慮し、トルエンやキシレンといった非水性溶剤は用いず、水を溶媒として用いる。従って用いる樹脂は水性樹脂を用いる。
(2)サンドブラスト圧に耐えられる程度の接着性を確保できる。
(3)塗布後はデザインなどを描画するために、白色に着色されている。
(4)被加工面を露出させるためにマスクをカットする際に切れ味良くカットできる。
(5)加工後の再剥離が容易であり、再剥離の際に細かく千切れない。
水性樹脂を用いることによって、希釈のし易さや環境衛生面の特性も同時に満足させることができる。さらに、このマスク材自身が塗料の状態では難燃性になっている。なお、本明細書では、塗料の状態をマスク塗料といい、乾燥した状態をマスク材という。
【0019】
水性樹脂で乾燥後に接着性を有する物をベース材とし、このベース材に補強材やその他の添加剤を加えることで所望の特性のバランスをとる。接着性は、ゴム弾性とタック性(ベタつき)を有するものが優れている。
【0020】
従ってベース材としては、エラストマーを用いた。エラストマーとは一般的に弾性の顕著な高分子物質をいう。具体的には、エチレン・酢酸ビニルエマルジョン、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、PVC(ポリ塩化ビニル)エマルジョン、水性ウレタン、合成又は天然ゴムラテックスなどが挙げられる。
【0021】
ベース材にエラストマーを用いると、接着性は高くなるが、非常に柔らかいため強度が低く、カッティングの際に切れ味が悪くなる。また、剥離の際に塗膜がやわらかいため、ちぎれてはがしにくくなるといった不具合が生じる。そこで、補強材として他のエラストマーを更に用いる。補強材としては乾燥後比較的硬くなるエラストマーがよい。具体的には、アクリルエマルジョン、エチレン・酢酸ビニルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、PVC(ポリ塩化ビニル)エマルジョン、水性ウレタン、合成又は天然ゴムラテックスなどが挙げられる。なお、ベース材と同じ材料であっても、Tgが異なるように分子量、やモノマーの比率を変えたものを用いる。
【0022】
マスク材は、接着性、サンドブラスト耐性、剥離容易性といった特性が満足されればよいのであるが、加工部分とそうでない部分を描画するために乾燥後は着色されているのがよい。色は特に限定はされないが、白色であるのが望ましい。インクで描画した際によく認識できるからである。このためにマスク材にはさらに着色剤として水性顔料を添加する。水性顔料は着色だけでなく、充填材としても働き、固形分が上昇することもあいまって、乾燥時間の短縮化と塗膜強度の向上に役立つ。具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉛、チタン酸ストロンチウム、炭酸カルシウム系、硫酸カルシウム系、硫酸バリウム、アルミナなどの微小粉末を水系溶媒に分散したものを用いることができる。もちろん、これらの微小粉末をそのまま用いても良い。
【0023】
これらの材料は、公知の分散機で混合分散する。分散機としては三本ロールミルもしくはディゾルバー等高速攪拌機が好ましいが、ボールミル、ロッキングミル、タンブラーミキサー、振動シェーカー、振動攪拌機、ダイノーミル等も用いることができる。
【実施例】
【0024】
ベース材として固形分比率56%のEVAエマルジョン、補強材として固形分比率49%のアクリルエマルジョン、着色剤として固形分比率68%の酸化チタンの水性顔料を用いた。EVAエマルジョンはエチレンと酢酸ビニルの共重合体(エチレン・酢酸ビニル共重合水性エマルジョン)である。
アクリルエマルジョンはスチレン、メタクリル酸、アクリル酸の共重合体(スチレン・メタクリル酸アルキル・アクリル酸アルキル共重合物エマルジョン)である。これらの材料を順に混合し、3本ロールで15分混合分散し塗料とする。なお、これら以外に消泡剤を加えて用いた。
【0025】
混合分散が終了した塗料は、ガラス基板上に250μmのアプルケータで塗膜にし、120℃3分間の乾燥をおこなって塗膜にした。塗膜になった場合の厚みはほぼ25μmであった。塗料の評価は塗料から作製した塗膜を評価して行う。塗膜の評価は、剥離試験とカッターによる切断性試験を行なった。剥離試験は、塗膜を幅2cmとし、45度の角度で引っ張り、剥離する際の加重で評価した。図1に剥離試験の方法を示す。ガラス基板(320)上に塗膜(330)を形成する。塗膜は乾燥後、幅を2cmに切断し、端部をバネばかり(300)のチャック(340)でつかむ。バネばかりを塗膜に対して45度方向(310)に引っ張り、塗膜がガラスから剥離する加重を読む。
【0026】
切断試験は、ガラス基板上に塗膜を形成し、乾燥後カッターで切断する。切断した一方の塗膜を剥離させた際に、ガラス基板に残った方の塗膜との間に糸引きが発生したり、切断の際にカッターに塗膜が付着するなどした場合は不可と判断する。
【0027】
表1にサンプルAからEの組成及び評価を示す。
【表1】

【0028】
各組成は重量部を示し、EVAエマルジョンとアクリルエマルジョンと酸化チタンで100重量部になるように設定されている。従って、消泡剤0.5部を加え全部で100.5重量部となっている。なお、すでに説明したようにEVAエマルジョンとアクリルエマルジョンと酸化チタンは、固形分比率56%のEVAエマルジョン、固形分比率49%のアクリルエマルジョン、固形分比率68%の酸化チタンを水系溶媒に混ぜたものである。剥離性は図1の測定方法で剥離強度を測定し、g(グラム)で表す。切断性は上記の説明のように、不可と判断したら「×」(バツ)、そうでなければ「○」(マル)とする。
【0029】
EVAエマルジョンの比率が高くなると、切断性が悪くなり、塗膜の切れ味は悪くなる。従ってアクリルエマルジョンは一定以上必要であるのがわかる。本発明のマスク塗料は、サンプルAおよびサンプルBがより好ましい。
【0030】
サンプルAからEまでの塗料としての固形分比率は53%から56.2%である。塗料全体の固形分比率が低くなると乾燥に時間がかかるが、塗膜にしたときのレベリング性が高くなり、塗布しただけで高い表面性を得ることができる。一方塗料全体の固形分比率が高いと乾燥は速くなるが、レベリング性が低く、刷毛跡が残り後の線図描画をスムースに行なえない。固形分比率はおよそ40から70%が好適であり、より好ましくは50から60%がよい。さらに、各組成の許容範囲がどの程度まで広げることができるかについて、補助的な実験を行なった。
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表2には、EVAエマルジョンとアクリルエマルジョンだけを混練した塗料を塗膜にした場合の結果を示す。それぞれの組成比はEVAエマルジョンだけとなるもの(サンプルF)からアクリルエマルジョンだけになるもの(サンプルL)まで組成比を変えた。その結果、アクリルエマルジョンが増加するに従って剥離強度は強くなり、50重量部を超えると容易には剥離できなくなった。
【0033】
表3には、EVAエマルジョンと酸化チタンだけを混練した塗料を塗膜にした場合の結果を示す。サンプルMからサンプルSまでの組成は表3に示すとおりである。EVAエマルジョンの比率が20重量部より少なくなると塗膜が形成できなる。また、酸化チタンが80重量部を超えると塗膜にならないとも解される。
【0034】
また、着色性を確保するためには、顔料となる酸化チタンは5重量部以上は必要である。まとめると、EVAエマルジョンは、20重量部以上、アクリルエマルジョンは、20から50重量部、酸化チタンは5から80重量部である。図2に以上の結果を三元図に表した結果を示す。それぞれの組成の合計は100重量部という制限によって、本発明のマスク塗料の範囲が太線で囲われた範囲で示される。
【0035】
図2からその範囲を読み取ると、EVAエマルジョンは20から75重量部、アクリルエマルジョンは20から50重量部、酸化チタンは5から60重量部で囲まれた範囲(200)となる。この関係は、EVAエマルジョンの組成量をX、アクリルエマルジョンの組成比をY、酸化チタンの組成比をZとすると、以下のように表す事が出来る。20<X<75、20<Y<50、5<Z<60、なお不等号は等号も含む。
【0036】
図2には、表1のサンプルA、Bを黒丸印で、またサンプルC乃至Eを黒四角印で表した。サンプルAおよびサンプルBはこの範囲(200)に含まれ、切断性として不可としたサンプルC、D、Eはこの範囲(200)には含まれないのがわかる。なお、本発明の趣旨を脱しない範囲で消泡剤のほか、他の添加物を入れてもよい。例えば、芳香剤などが考えられる。
【0037】
この範囲(200)に含まれる塗料を乾燥させた場合、その固形分比率によってマスク材の材料構成が決まる。例えばサンプルAの100gを考えると、EVAエマルジョンの固形分は28g、アクリルエマルジョンの固形分は14.7g、酸化チタンの固形分は、13.6gである。消泡剤は無視した。従って、EVAエマルジョンとアクリルエマルジョンと酸化チタンの固形分比率は、50重量部、26重量部、24重量部となる。これが、マスク材としての材料比率となる。図2の範囲(200)も同様にマスク材の固形分比率に換算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】剥離試験の方法を示す図
【図2】本発明のマスク塗料の実施例の結果を表す三元図
【符号の説明】
【0039】
200 本発明の実施例のマスク塗料の組成範囲
300 バネばかり
310 引っ張り方向
320 ガラス基板
330 被評価塗膜
340 チャック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の水性エマルジョンと顔料を含むマスク塗料。
【請求項2】
第1の水性エマルジョンはEAVエマルジョンであり、第2の水性エマルジョンはアクリルエマルジョンであり、顔料は酸化チタンである請求項1記載のマスク塗料。
【請求項3】
前記EVAエマルジョンと前記アクリルエマルジョンと前記酸化チタンの水性顔料の配合比はそれぞれの固形分比率が56%、49%、68%である前記3つの材料の合計を100重量部とし、前記EVAエマルジョンは20重量部以上75重量部、前記アクリルエマルジョンは、20重量部以上50重量部以下、前記酸化チタンは5重量部以上60重量部以下である請求項2記載のマスク塗料。
【請求項4】
前記EVAエマルジョンが50重量部、前記アクリルエマルジョンが30乃至40重量部、残りが酸化チタン顔料である請求項2記載のマスク塗料。
【請求項5】
前記EVAエマルジョンと前記アクリルエマルジョンと前記酸化チタン顔料の合計が100重量部であり、さらに消泡剤が添加された請求4記載のマスク塗料。
【請求項6】
全体の固形分比率が50%以上60%以下である請求項4記載のマスク塗料。
【請求項7】
請求項1乃至6のマスク塗料を乾燥させたマスク材。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−127398(P2008−127398A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309922(P2006−309922)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(300078763)株式会社高友産業 (4)
【Fターム(参考)】