説明

マルチキャスト伝送帯域設定方法およびその配信システム

【課題】無駄が発生せず、かつマルチキャスト制御通信を100%受信できるマルチキャスト伝送帯域設定方法およびマルチキャスト配信システムを提供する。
【解決手段】マルチキャストトラフィックを受信する受信ホストは、ルータを経由して帯域調査メッセージをマルチキャストを送信する送信ホストに送信し、ルータは自身が使用できる帯域に関する情報をこの帯域調査メッセージに書き込む。帯域調査メッセージにはルータが使用できる最小帯域が入っているので、帯域調査メッセージを受信した送信ホストは、マルチキャストトラフィックを送信する帯域が確保できると判断すると帯域通知メッセージを受信ホストに送信し、帯域通知メッセージを受信した受信ホストは帯域設定メッセージをルータ経由で送信ホストに送信する。ルータは帯域設定メッセージに記載された要求帯域を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的に伝送帯域の確認と確保を行うことができる、IPv6(Internet Protocol Version 6)によるマルチキャスト配信システムに関し、特にプロセス制御システムで用いられるフィールドネットワークに用いて好適なマルチキャスト伝送帯域設定方法およびその配信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図19にIPネットワークの構成を示す。図19において、10、11、16〜18はホスト、12〜15はルータである。ホスト10、11はそれぞれルータ12、13と接続されている。ルータ12はルータ13に接続され、ルータ13はルータ14と15に接続されている。ルータ14にはホスト16と17が接続されており、ルータ15にはホスト18が接続されている。
【0003】
ホスト10と11はマルチキャストトラフィックを送信し、ホスト16〜18はマルチキャストトラフィックを受信する。ルータ12〜15はマルチキャストトラフィックを転送する。ルータ12〜15には、ネットワーク管理者によってマルチキャストトラフィックを転送するための伝送帯域が事前に設定されている。図19では、ルータ12〜15に割り当てられているマルチキャストトラフィックの伝送帯域を1.5M(1536K)bpsとする。
【0004】
ホスト10が伝送量700kbpsのマルチキャストトラフィックMCAST01を送信し、受信ホスト16がそれを受信するとする。マルチキャストトラフィックMCAST01はルータ12〜14をこの順で経由して、受信ホスト16に到達する。このとき、ルータ12〜14は割り当てられた伝送帯域1.5Mbpsのうち、マルチキャストトラフィックMCAST01のために700Kbpsを使用する。
【0005】
この状態で、ホスト11が、ホスト17に向けて1M(1024K)bpsの帯域を要するマルチキャストトラフィックMCAST02の送信を開始する。ホスト17は受信を開始する。
【0006】
マルチキャストトラフィックMCAST02は、ルータ13、14を経由して受信ホスト17に到達する。このとき、ルータ13、14には1つのインターフェイスからマルチキャストトラフィックMCAST01とMCAST02の両方を転送することになり、合計で700Kbps+1024Kbps=1724Kbpsの伝送帯域が必要になる。
【0007】
しかし、ルータ13、14には1536Kbpsの伝送帯域しか割り当てられていない。このため、1724−1536=188Kbps分のトラフィックが転送されず、廃棄される。
【0008】
特許文献1および特許文献2には、利用者端末から送出された帯域情報に適合した帯域を確保することができるマルチキャスト配信の発明が記載されている。
【0009】
特許文献1に記載された発明は、利用者端末装置に接続されるノード装置が帯域情報を含むマルチキャストグループ参加メッセージを利用者端末装置から受信し、受信した帯域情報に基づいて帯域を確保し、参加メッセージを上流のノード装置に送信する。この処理を順次行うことにより、コンテンツを配信するための帯域を確保する。
【0010】
特許文献2に記載された発明は、コンテンツ送出装置に接続されるノード装置が、利用者端末装置に接続されたノード装置から帯域情報を含むマルチキャストグループ参加メッセージを受信すると、配信パスの経路を設定し、帯域情報を含む帯域確保起動メッセージを作成して、下流のノード装置に帯域確保起動メッセージを送信する。この処理を下流側ノード装置に対して順次行うことにより、ノード装置間の帯域を確保する。
【0011】
特許文献1および2の第1の実施形態では、端末装置が送出するマルチキャストグループ参加メッセージとしてIGMPのJoinメッセージに帯域情報を付加したものを用い、マルチキャストグループ離脱メッセージとしてIGMPのLeaveメッセージに帯域情報を付加したものを用いる。また、ノード装置が送出するマルチキャストグループ参加メッセージPIMのJoinメッセージに帯域情報を付加したものを用いる。
【0012】
また、第2の実施形態では、端末装置が送出するマルチキャストグループ参加メッセージとしてIGMPのJoinメッセージを用い、参加メッセージの送出に続いてRSVPのPATHメッセージに含まれる帯域情報を省いたメッセージである帯域確保起動メッセージ、およびPATHメッセージと対で使用される帯域確報メッセージを用いる。また、マルチキャストグループ離脱メッセージとしてIGMPのLeaveメッセージを用いる。この離脱メッセージの送出に続いて、帯域確保起動取り消しメッセージおよび帯域確保取り消しメッセージを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−74309号公報
【特許文献2】特開2007−74310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このようなマルチキャスト配信手法には、次のような課題があった。図19のネットワークシステムでは、確保された伝送帯域を越えたトラフィックは廃棄される。フィールドネットワークにおいてマルチキャスト制御通信を行う場合は、送信ホストが送信するトラフィックを受信ホストが100%正確に受信しなければならない。従って、トラフィックが廃棄される可能性があるネットワークは採用することができないという課題があった。
【0015】
トラフィックが廃棄されないようにするためには、常に必要十分な伝送帯域を確保しておかなければならない。しかし、マルチキャストトラフィックは受信ホストが決まっておらず、かつ複数の受信ホストがマルチキャストトラフィックを受信する可能性があるので、どの場所にどの程度の伝送帯域を割り当てるかを事前に把握することは困難である。各ルータに多めに伝送帯域を設定することも考えられるが、余分な伝送帯域を確保することになり、ネットワーク資源に無駄が発生するという課題もあった。
【0016】
また、帯域管理サーバを用いて伝送帯域を管理することも考えられるが、マルチキャストトラフィックの伝送経路を特定し、その伝送経路のみに必要な伝送帯域を動的に設定することは困難であるという課題もあった。
【0017】
特許文献1、2に記載された発明は、動的に帯域を確保することができる。しかし、第1の実施形態では既存のPIM―SMを改造しなければならないという課題があった。また、第2の実施形態は帯域制御をRSVPに依存しているが、ネットワーク全体の運用を考えると、DiFFServe(Differentiated Services : RFC2475)のような、より一般的でシンプルな優先制御を利用する方が望ましい。
【0018】
さらに、特許文献1、2に記載された発明では、受信ホストが必要な帯域を指定するようになっている。これはマルチメディアコンテンツの配信サービスでは有効であるが、フィールドネットワークで用いるマルチキャスト制御通信では、送信ホストが送信するマルチキャストトラフィックを100%正確に受信しなければならないので、必ずしも適切ではない場合がある。このため、送信ホストが帯域を設定する方が望ましいという課題もあった。
【0019】
本発明の目的は、動的に伝送帯域の確認と確保を行うことができ、かつフィールドネットワークに適したマルチキャスト伝送帯域設定方法およびその配信システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
マルチキャストトラフィックを送信する第1のホストと、このマルチキャストトラフィックを受信する第2のホストと、前記第1のホストと第2のホストの経路中に配置される中継器で構成されたネットワークにマルチキャストトラフィックを伝送するための帯域を設定するマルチキャスト伝送帯域設定方法において、
前記第2のホストが帯域調査メッセージを前記中継器を経由して前記第1のホストに送信し、前記中継器はこの帯域調査メッセージを受信すると、その中継器が使用できる帯域に関する情報を前記帯域調査メッセージに書き込む工程と、
前記帯域調査メッセージを受信した前記第1のホストは、この帯域調査メッセージを参照し、マルチキャストトラフィックを送信できる帯域が確保できると判断すると、前記第2のホストに帯域通知メッセージを送信する工程と、
前記帯域通知メッセージを受信した前記第2のホストは、マルチキャストトラフィックを伝送するための帯域を前記中継器に設定させる帯域設定メッセージを、前記中継器を経由して前記第1のホストに送信し、前記中継器は前記帯域設定メッセージを受信すると、マルチキャストトラフィックを送信するための帯域を設定する工程と、
を具備したものである。マルチキャストトラフィックが破棄されることがない。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記第2のホストは、設定した帯域を開放する帯域開放メッセージを前記中継器に送信し、前記中継器は、この帯域開放メッセージを受信すると、該当する帯域を開放するようにしたものである。ネットワーク資源を有効に活用できる。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、
前記帯域調査メッセージ、帯域通知メッセージ、帯域設定メッセージ、帯域開放メッセージはホップバイホップオプションヘッダを具備し、このホップバイホップオプションヘッダに必要な情報を格納するようにしたものである。既存のプロトコルを変更することなく使用できる。
【0023】
請求項4記載の発明は、
マルチキャストトラフィックを送信するホストと、このマルチキャストトラフィックを受信するホストと、これらのホスト間の経路中に配置される中継器で構成され、マルチキャストトラフィックを配信する配信システムにおいて、
中継器を経由して帯域調査メッセージを送信し、帯域通知メッセージを受信すると、前記中継器を経由して帯域設定メッセージを送信する第2のホストと、
前記帯域調査メッセージを受信すると、このメッセージの内容からマルチキャストトラフィックを送信できると判断すると帯域通知メッセージを前記第2のホストに送信し、帯域設定メッセージを受信すると、マルチキャストトラフィックを送信する第1のホストと、
帯域調査メッセージを受信すると使用できる帯域に関連する情報をこの帯域調査メッセージに書き込み、帯域設定メッセージを受信すると要求された帯域を設定する中継器と、
を具備したものである。マルチキャストトラフィックが破棄されることがない。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載の発明において、
前記第2のホストは、設定された帯域を開放する帯域開放メッセージを前記中継器に送信し、前記中継器は、前記帯域開放メッセージを受信すると、自身に設定された帯域を開放するようにしたものである。ネットワーク資源を有効に活用できる。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項4若しくは請求項5に記載の発明において、
前記帯域調査メッセージ、帯域通知メッセージ、帯域設定メッセージ、帯域開放メッセージはホップバイホップオプションヘッダを具備し、このホップバイホップオプションヘッダに必要な情報を格納するようにしたものである。既存のプロトコルを変更することなく使用できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば以下のような効果がある。
本発明によれば、マルチキャストトラフィックを受信する第2のホストが帯域調査メッセージを中継器を経由してマルチキャストトラフィックを送信する第1のホストに送信し、各中継器が確保できる帯域の最小値を調査する。第1のホストはマルチキャストトラフィックを送信できる帯域が確保できると判断すると帯域通知メッセージを第2のホストに送信し、第2のホストは帯域通知メッセージを受信すると要求帯域が書かれた帯域設定メッセージを送信し、中継器はこの要求帯域を設定するようにした。
【0027】
中継器が設定できる帯域の最小値を調査し、マルチキャストトラフィックが送信できる帯域が確保できるときのみマルチキャストトラフィックを送信するようにしたので、マルチキャストトラフィックが破棄されることはない。このため、マルチキャストトラフィックを100%確実に受信できるという効果がある。また、マルチキャストトラフィックを伝送するために必要な帯域に関する情報を持っているホストが帯域を指定できるという効果もある。
【0028】
また、帯域削除メッセージを送信して不必要な帯域を削除できるので、ネットワーク資源の効率的な運用を図ることができるという効果もある。
【0029】
さらに、ホップバイホップオプションヘッダを用いることにより、既存のプロトコルを変更することなく、かつ既存のマルチキャストグループ管理、マルチキャストルーティング、および帯域制御とは独立して動作する帯域設定、削除の仕組みを導入することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を適用するネットワークの構成図である。
【図2】本発明によるホストの構成図である。
【図3】本発明によるルータの構成図である。
【図4】トラフィックリストの構成図である。
【図5】帯域リストの構成図である。
【図6】帯域リストの初期状態を表す構成図である。
【図7】マルチキャストトラフィックの諸元を表す図である。
【図8】帯域を確保する手順を示す図である。
【図9】帯域調査メッセージのホップバイホップオプションヘッダの構成図である。
【図10】帯域調査メッセージを受信したときのルータの動作を示すフローチャートである。
【図11】帯域調査メッセージを受信したときの送信ホストの動作を示すフローチャートである。
【図12】帯域通知、帯域設定メッセージのホップバイホップオプションヘッダの構成図である。
【図13】帯域帯域設定メッセージを受信したときのルータの動作を示すフローチャートである。
【図14】帯域を確保する手順を示す図である。
【図15】帯域を確保する手順を示す図である。
【図16】帯域を削除する手順を示す図である。
【図17】帯域削除メッセージのホップバイホップオプションヘッダの構成図である。
【図18】帯域削除メッセージを受信したときのルータの動作を表すフローチャートである、
【図19】ネットワークの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1に、本発明を説明するためのネットワークの構成を示す。図1において、20、21、26〜28はホスト、22〜25はルータである。このネットワークは、図19のネットワークと同じ構成を有している。ホスト20はルータ22〜24を経由してマルチキャストトラフィックMCAST01をホスト26に送信する。また、ホスト21はルータ23、24を経由してマルチキャストトラフィックMCAST02をホスト27に送信する。ルータ22〜25は、マルチキャストルーティングプロトコルとしてPIM−SSM(Protocol Independent Multicast - Sparse Mode : RFC 4607)を用いる。
【0032】
なお、マルチキャストトラフィックを送信するホスト20、21は第1のホスト、マルチキャストトラフィックを受信するホスト26〜28は第2のホストに相当する。また、ルータ22〜25は中継器に相当する。
【0033】
図2にホスト20、21、26〜28の構成を示す。図2において、30は通信部であり、伝送路(図示せず)に接続され、パケットの送受信を行う。31は送受信処理部であり、通信部30から送信するパケットを生成し、また通信部30が受信したパケットを処理する。32は帯域指示部であり、マルチキャストトラフィックを送信する帯域を設定するための処理を行う。
【0034】
図3にルータの構成を示す。図3において、40は通信部であり、図示しない伝送路に接続され、パケットの送受信を行う。通信部40は2つ以上のインターフェイスを備えている。
【0035】
41は転送処理部であり、パケットのルーティングを行う。転送処理部41は、マルチキャストルーティングのプロトコルとして、PIM−SSMを使用する。なお、PIM−SSMは、受信ホストから送信ホストまでのユニキャストの経路を逆方向にたどる経路を、マルチキャストの経路とするプロトコルである。
【0036】
転送処理部41はマルチキャストトラフィックをルーティングするためのルーティングテーブルを備えており、このルーティングテーブルを参照して、マルチキャストトラフィックの転送先を決定する。なお、ルーティングテーブルは既存のものを用いることができるので、ここでは言及しない。
【0037】
42は帯域調整部であり、マルチキャストトラフィックの伝送帯域を調整する。50はトラフィックリストであり、ルータが現在転送可能なマルチキャストトラフィックのリストである。60は帯域リストであり、インターフェイス毎に設けられ、伝送帯域の割り当て状況を示している。
【0038】
図4にトラフィックリスト50の構成を示す。図4において、トラフィックリスト50は複数(図4ではエントリ1〜エントリnのn個)のエントリで構成される。各エントリは、送信元IPアドレス51とマルチキャストIPアドレス52の組み合わせをキーとして、要求帯域53、優先度ID54、インターフェイス数55、インターフェイスリスト56で構成される。
【0039】
送信元IPアドレス51はマルチキャストグループの送信元のIPアドレスを示しており、マルチキャストアドレスIPアドレス52はマルチキャストグループの宛先となるIPアドレスを示している。要求帯域53は、このマルチキャストトラフィックを伝送するために必要な帯域を示しており、優先度ID54はこのマルチキャストトラフィックに割り当てられた優先度IDを示している。
【0040】
インターフェイス数55はインターフェイスリストのエントリ数を表している。このインターフェイス数55が0になると、このインターフェイス数が含まれるエントリが削除される。例えば、エントリ1内のインターフェイス数55が0になると、エントリ1が削除され、後述する帯域リストの合計割当帯域から要求帯域が減算される。
【0041】
インターフェイスリスト56は、マルチキャストトラフィックを送信するインターフェイスのリストである。ルータは、このインターフェイスリスト56に存在するインターフェイスからのみマルチキャストを送信することができる。
【0042】
インターフェイスリスト56はインターフェイス数55の数のエントリを有している。各エントリには、インターフェイスIDをキーにして有効期限が含まれる。インターフェイスIDは、インターフェイス毎に付与される重複しない識別子である。インターフェイスIDは、同じルータ内では一意でなければならない。
【0043】
インターフェイスリスト56内の有効期限は、このインターフェイスがマルチキャストを送信することができる期間を表している。この有効期限を過ぎると、インターフェイスリスト56から対応するインターフェイスのエントリが自動的に削除され、インターフェイス数55がデクリメントされる。
【0044】
図5に、帯域リスト60の構成を示す。図5において、帯域リスト60は伝送帯域の割り当て状況を示したリストである。ルータはインターフェイス毎に帯域リスト60を保持しており、この帯域リスト60を参照してマルチキャストトラフィックの伝送帯域を制御する。帯域リスト60が更新されると、ルータの帯域制御にも即座に反映される。
【0045】
帯域リスト60は複数のエントリを有している。このエントリは、ネットワークで定義された優先度IDの数だけ存在し、ネットワーク内で優先度の定義が変更にならない限り、増減されない。
【0046】
各エントリは、優先度ID61をキーにして合計割当帯域62、および最大帯域63で構成される。優先度ID61はこのネットワークで定義されている優先度IDである。合計割当帯域62は、当該インターフェイスに現在割り当てられている帯域の合計を表している。図4のインターフェイス数55が0になると、合計割当帯域62から要求帯域53を減算する。
【0047】
最大帯域63は、この優先度のトラフィックのためにインターフェイスが割り当てることができる最大の帯域を表している。最大帯域63は、システムが稼働する前に予め設定しておく。
【0048】
図6に、2つのインターフェイスを有するルータに用いる帯域リストの初期状態の例を示す。この帯域リストはエントリ1とエントリ2の2つのエントリを備えている。エントリ1、エントリ2の優先度IDはそれぞれPRI01、PRI02に、最大帯域はいずれも5Mbpsに設定されている。初期状態なので、いずれのエントリの合計割当帯域も0bpsである。
【0049】
次に、この実施例の動作を説明する。なお、図1のネットワークを使用し、ホスト20、21、26、27に設定されているIPアドレスをそれぞれADDR20、ADDR21、ADDR26、ADDR27とする。
【0050】
ホスト20、21が送信するマルチキャストトラフィックMCAST01、MCAST02の諸元を図7に示す。マルチキャストトラフィックMCAST01、MCAST02の送信元IPアドレスはそれぞれADDR20、ADDR21、マルチキャストIPアドレスはそれぞれADDRM1、ADDRM2、必要な帯域はそれぞれ700Kbps、1Mbps、優先度IDはそれぞれPRI01、PRI02に設定されている。
【0051】
また、以下の4つの前提条件を設ける。
(1)マルチキャスト通信方式は、PIM−SSMを用いる。
(2)全てのホスト(20、21、26〜28)およびルータ(22〜25)は、同じ帯域制御および優先制御のポリシーに従って運用される。図7の例では、ルータ22〜25はPRI01、PRI02の優先度IDのいずれかに対応した帯域を割り当てることができる。例えば帯域制御にDiffServ(Differentiated Services : RFC 2475)を使用する場合、優先度IDはDSCP(DiffServ Code Point)に相当する。また、帯域が設定されていないトラフィックは、全てベストエフォートのトラフィックとして扱われる。すなわち、能力を越えた要求はエラーの通知および再処理がされず、捨てられる。
(3)全てのルータ22〜25は、初期状態ではトラフィックリスト50にエントリを有していない。また、初期状態で図6の帯域リストが設定される。
(4)マルチキャストトラフィックを受信するホスト26〜28は、自身が受信したいマルチキャストトラフィックのマルチキャストIPアドレスと送信元IPアドレスを知っている必要はあるが、そのマルチキャストトラフィックに必要な帯域と優先度IDを知っている必要はない。
【0052】
図8に、ホスト20からホスト26にマルチキャストトラフィックMCAST01を送信する手順を示す。なお、図1と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。このマルチキャストトラフィックMCAST01は、ホスト20からルータ22、23、24を経由してホスト26で受信される。このルートは最短経路である。
【0053】
マルチキャストトラフィックMCAST01を送信する前に、送信に必要な帯域を確保しなければならない。このため、マルチキャストトラフィックMCAST01を受信するホスト26は、ルータ22〜25を経由して帯域調査メッセージMSG01をホスト20(IPアドレス:ADDR20)に送信し、確保可能な帯域をホスト20に報告する。ホスト20は、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信可能と判断すると、ルータ22〜24を経由してホスト26に帯域通知メッセージMSG02を送信して、必要な帯域を通知する。
【0054】
ホスト26は、メッセージMSG02を受信すると、ルータ22〜25を経由して帯域設定メッセージMSG03を送信ホスト20に送信する。これによって、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信するための帯域が設定される。ホスト20は、メッセージMSG03を受信すると、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信する。
【0055】
メッセージMSG01、MSG03には、Ipv6(RFC 2460)において標準で規定されているホップバイホップオプションヘッダが添付される。ホップバイホップオプションヘッダは、パケットの経路にある全ノードによって調査されなければならないオプション情報を伝送するために用いられるヘッダである。通常、ルータはパケットの宛先を見て転送するだけであるが、ホップバイホップオプションヘッダを付けると、オプションヘッダの中味をも処理する。
【0056】
図9に帯域調査メッセージMSG01のホップバイホップオプションヘッダの構成を示す。図9において、ホップバイホップオプションヘッダは送信元IPアドレス70、マルチキャストIPアドレス71、帯域情報数72、帯域情報73で構成される。帯域情報73は優先度IDの数だけ作成され、優先度IDと使用可能帯域幅で構成される。
【0057】
メッセージMSG01はマルチキャストトラフィックMCAST01を送信するためのものであるので、図7から送信元IPアドレスはADDR20、マルチキャストIPアドレスはADDRM1である。ホスト26から送信される時点では、ホップバイホップオプションヘッダの送信元IPアドレス70にはADDR20が、マルチキャストIPアドレス71にはADDRM1が、帯域情報数72には0が入っている。帯域情報73は存在しない。
【0058】
図10は、ルータ22〜25が帯域調査メッセージMSG01を受信したときの動作を示すフローチャートである。なお、このメッセージMSG01は図9のホップバイホップオプションヘッダを備えている。また、ルータ22〜25の動作は同じなので、単にルータとする。
【0059】
図10において、工程(P10−1)でメッセージMSG01を受信すると、工程(P10−2)でこのメッセージのホップバイホップオプションヘッダからパラメータを取得する。そして、工程(P10−3)でトラフィックリスト50を参照して、送信元IPアドレスがADDR20でマルチキャストIPアドレスがADDRM1(マルチキャストトラフィックMCAST01のIPアドレス)のエントリを検索する。
【0060】
エントリがある(YES)と工程(P10−4)に進み、検索したエントリにメッセージMSG01を受信したインターフェイスがあるかどうかを調べる。インターフェイスがあると既に帯域が割り当てられているので、工程(P10−10)に遷移し、このメッセージを次のルータ(あるいは送信ホスト20)に転送する。
【0061】
インターフェイスがない場合、あるいは工程(P10−3)でエントリがない場合は工程(P10−5)に進み、メッセージMSG01を受信したインターフェイスの帯域リスト60を参照して、最大帯域63と合計割り当て帯域62の差、すなわち割り当てることができる使用可能帯域を優先度ID毎に計算する。計算した使用可能帯域をBW1(優先度ID:PRI01)、BW2(優先度ID:PRI02)とする。
【0062】
次に、工程(P10−6)で、メッセージMSG01のホップバイホップオプションヘッダ(HbH)の帯域情報数72が0であるかどうかを調べ、0であると(YES)、工程(P10−7)でホップバイホップオプションヘッダ(HbH)に帯域情報を追加する。優先度IDはPRI01とPRI02の2つなので、帯域情報数72には2が格納される。また、帯域情報1の優先度ID、使用可能帯域幅をそれぞれPRI01、BW1とし、帯域情報2の優先度ID、使用可能帯域幅をそれぞれPRI02、BW2とする。そして、工程(P10−10)に進んでメッセージMSG01を次のルータ(あるいはホスト20)に転送する。
【0063】
工程(P10−6)で帯域情報数72が0でないと(NO)、工程(P10−8)で、工程(P10―5)で計算した使用可能帯域BWが、メッセージMSG01のオプションヘッダの使用可能帯域幅よりも小さいかどうかをチェックし、小さいと(YES)工程(P10−9)でオプションヘッダの使用可能帯域幅をBWで上書きする。大きいか等しいと(NO)、何もしない。このためオプションヘッダの使用可能帯域幅には、ルータ22〜25が使用できる最小の帯域幅が格納される。
【0064】
工程(P10−8)でNOの場合、あるいは工程(P10−9)が終了すると工程(P10−10)に遷移する。ルータはメッセージMSG01を次のルータ(あるいはホスト20)に転送する。
【0065】
図8に示したように、ルータ24〜22を経由した帯域調査メッセージMSG01はホスト20によって受信される。このときのホスト20の動作を図11フローチャートに示す。
【0066】
図11において、工程(P11−1)でホスト20が帯域調査メッセージMSG01を受信すると、工程(P11−2)でメッセージMSG01に添付されたホップバイホップオプションヘッダから使用可能帯域幅を取り出す。図10フローチャートで説明したように、この使用可能帯域幅には、各優先度IDで割り当て可能な最小帯域が格納されている。例えば、優先度IDがPRI01、PRI02の最小帯域がそれぞれBW1、BW2とすると、帯域情報1、帯域情報2の優先度IDにはそれぞれPRI01、PRI02が、使用可能帯域幅にはBW1、BW2が格納される。
【0067】
次に、工程(P11−3)で、ホップバイホップオプションヘッダに格納されている使用可能帯域幅が、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信するのに充分であるかどうかをチェックする。マルチキャストトラフィックMCAST01を送信する為に必要な帯域を700Kbpsとすると、取り出した使用可能帯域幅と700Kbpsを比較する。
【0068】
使用可能帯域幅が送信するために必要な帯域より大きいか等しいと(YES)、送信ホスト20は充分な帯域を確保できると判断し、工程(P11−4)で帯域通知メッセージMSG02を、ルータ22〜25を経由してホスト26に送信する。使用可能帯域幅が送信するために必要な帯域より小さいと(NO)、帯域通知メッセージMSG02を送信しない。それ以降の処理を中止するか、送信量を減らす等の処理が取られる。なお、MSG02はルータ22〜25を経由しなくてもホスト26に到達できればよい。
【0069】
帯域通知メッセージMSG02のペイロード構成を図12に示す。帯域通知メッセージMSG02のペイロードは、送信元IPアドレス80、マルチキャストIPアドレス81、要求帯域82、および優先度ID83で構成される。送信元IPアドレス80にはADDR20が、マルチキャストIPアドレス81にはADDRM1が、要求帯域82にはマルチキャストトラフィックMCAST01を送信するために必要な帯域が、優先度IDにはPRI01が格納される。
【0070】
図8に示すように、帯域通知メッセージMSG02をしたホスト26は、帯域設定メッセージMSG03を送信する。帯域設定メッセージMSG03のホップバイホップオプションヘッダの構成は図12と同じである。送信元IPアドレス80には送信ホスト20のIPアドレスADDR20が、マルチキャストIPアドレス81にはADDRM1が設定される。また、要求帯域82にはマルチキャストトラフィックMCAST01の送信に必要な700Kbpsが、優先度ID83にはPRI01が設定される。
【0071】
帯域設定メッセージMSG03は、最短距離であるルータ24〜22をこの順に経由して、ホスト20に到達する。ルータ22〜24が帯域設定メッセージMSG03を受信したときの動作を、図13フローチャートに示す。
【0072】
図13において、工程(P13−1)で帯域設定メッセージMSG03を受信すると、工程(P13−2)でこのメッセージMSG03のホップバイホップオプションヘッダからパラメータを取得する。
【0073】
工程(P13−3)で、トラフィックリスト50を参照し、送信元IPアドレス51が送信ホスト20のIPアドレスADDR20で、マルチキャストIPアドレス52がマルチキャストトラフィックMCAST01のIPアドレスADDRM1であるエントリを検索する。
【0074】
エントリが存在しないと(NO)、工程(P13−4)でトラフィックリスト50にエントリを新規作成する。エントリの送信元IPアドレス51はADDR20、マルチキャストIPアドレス52はADDRM1、要求帯域53は700Kbps、優先度ID54はPRI01、インターフェイス数55は0とする。インターフェイスリスト56は存在しない。
【0075】
次に、工程(P13−6)でこのエントリのインターフェイス数55を1増加させ、新たなインターフェイスを作成する。このインターフェイスのインターフェイスIDはメッセージMSG03を受信したインターフェイスのIDとし、有効期限を1時間とする。そして、工程(P13−7)で帯域リスト60の合計割当帯域62にマルチキャストトラフィックMCAST01を送信するために必要な帯域(700Kbps)を加算する。なお、この有効期限はホスト26が設定し、メッセージMSG03に含めて送信するようにしてもよい。
【0076】
工程(P13−3)でエントリが存在するときは(YES)、工程(P13−5)でメッセージMSG03を受信したインターフェイスが、このエントリのインターフェイスリスト56にあるかどうかを検索する。インターフェイスがないときは(NO)、工程(P13−6)、(P13−7)を実行する。工程(P13−7)の終了後、あるいは工程(P13−5)でインターフェイスがあるときは(YES)、工程(P13−8)に遷移してメッセージMSG03を次のルータあるいはホスト20に転送する。
【0077】
図8に示すように、ホスト20は、メッセージMSG03を受信すると、マルチキャストトラフィックMCAST01の送信を開始する。このとき、ホスト26は、例えばMLDv2(Multicast Listener Discovery Version 2 : RFC 3810)のようなマルチキャストグループ管理プロトコルを使用して、マルチキャストトラフィックMCAST01の受信宣言を行う。
【0078】
マルチキャストトラフィックMCAST01が伝送される経路は、PIM−SSMを使用して確立する。PIM−SSMによって確立されるマルチキャストトラフィックの経路は、ホスト26からホスト20へ向かうユニキャストトラフィックの経路を逆方向に辿る経路である。図1のネットワークでは、ホスト26からホスト20へ向かうユニキャスト最短経路はルータ24、23、22を辿る経路なので、PIM−SSMによって確立される経路は、ルータ22、23、24を経由する。この経路は、帯域調査および帯域設定メッセージMSG01、MSG03が辿る経路と一致する。
【0079】
なお、帯域設定メッセージMSG03が転送されると、ルータ22〜24にはそれぞれ700Kbpsの帯域が割り当てられる。このときの優先度IDはPRI01である。
【0080】
次に、マルチキャストトラフィックMCAST01の帯域設定が終了した後に、ホスト21からホスト27にマルチキャストトラフィックMCAST02を送信するための帯域設定について説明する。図14に、メッセージの伝達手順を示す。手順は、マルチキャストトラフィックMCAST02を送受信するホストおよび途中経路のルータが異なることを除くと、図8の手順とほぼ同じである。
【0081】
ホスト27は、帯域調査メッセージMSG01をルータ24、23を経由してホスト21に送信する。メッセージMSG01の宛先IPアドレスは送信ホスト21のIPアドレスであるADDR21である。また、このメッセージMSG01には、ホップバイホップオプションヘッダが添付される。ホップバイホップオプションヘッダの構成は図9と同じであり、送信元IPアドレス70にはADDR21が、マルチキャストIPアドレス71にはADDRM2が格納される。帯域情報数72は0であり、帯域情報73は存在しない。
【0082】
ルータ23、24がメッセージMSG01を受信したときの動作は、図10フローチャートと同じであるので、説明を省略する。但し、マルチキャストトラフィックはMCAST02、送信元IPアドレスはADDR21、マルチキャストIPアドレスはADDRM2と読み替える。
【0083】
ホスト21はメッセージMSG01を受信する。このときのホスト21の動作は、図11フローチャートと同じであるので、説明を省略する。ホスト21は、マルチキャストトラフィックMCAST02を送信するための帯域を確保できると判断すると、帯域通知メッセージMSG02をルータ23、24を経由してホスト27に送信する。ホスト27はこのメッセージMSG02を受信する。
【0084】
ホスト27は、帯域通知メッセージMSG02を受信すると、ホップバイホップオプションヘッダが添付された帯域設定メッセージMSG03をホスト21に送信する。ホップバイホップオプションヘッダの構成は図12と同じである。図7の諸元に示すように、送信元IPアドレス80にはADDR21が、マルチキャストIPアドレス81にはADDRM2が、要求帯域82には1Mbpsが、優先度ID83にはPRI02が格納される。
【0085】
帯域設定メッセージMSG03は最短ルートであるルータ24、23を経由して、ホスト21に到達する。ルータ23、24がメッセージMSG03を受信したときの動作は図13フローチャートと同じであるので、説明を省略する。但し、マルチキャストトラフィックはMCAST02、送信元IPアドレスはADDR21、マルチキャストIPアドレスはADDRM2、優先度IDはPRI02、要求帯域は1Mbpsである。
【0086】
図14に示すように、帯域設定メッセージMSG03を受信すると、ホスト21はマルチキャストトラフィックMCAST02を送信し、ホスト27はこのマルチキャストトラフィックMCAST02を受信する。ホスト27は、例えばMLDv2のようなマルチキャストグループ管理プロトコルを使用して、マルチキャストトラフィックMCAST02の受信宣言を行う。また、ホスト21とホスト27までのマルチキャストトラフィックMCAST02が通過する経路上のルータ23、24は、PIM−SSMを使用して、ホスト21からホスト27までの経路を確立する。
【0087】
帯域設定が終了した時点における各ルータの帯域設定は、
ルータ22:700Kbps(PRI01)
ルータ23:700Kbps(PRI01)、1Mbps(PRI02)
ルータ24:700Kbps(PRI01)、1Mbps(PRI02)
になる。なお、()内は優先度IDである。インターフェイス毎に割り当てられる帯域は異なる。たとえば、ルータ24はホスト26につながっているインターフェイスにPRI01、ホスト27につながっているインターフェイスにPRI02の帯域が割り当てられる。
【0088】
マルチキャストトラフィックMCAST01、MCAST02の帯域設定がされている状態で、ホスト20からホスト28にマルチキャストトラフィックMCAST01を送信するための帯域設定を説明する。図15に、メッセージの伝達手順を示す。なお、図1と同じ要素には同一符号を付し、説明を書略する。
【0089】
ホスト28は帯域調査メッセージMSG01をホスト20に送信し、ホスト20はメッセージMSG01を受信する。ホスト20は、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信するための帯域が確保できると判断すると、帯域通知メッセージMSG02をホスト28に送信する。メッセージMSG02を受信した受信ホスト28は、メッセージMSG01と同じ経路で帯域設定メッセージMSG03を送信する。メッセージMSG03を受信した送信ホスト20は、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信する。メッセージMSG01〜MSG03は、最短経路で転送される。
【0090】
図15において、受信ホスト28は、ホップバイホップオプションヘッダが添付された帯域調査メッセージMSG01を送信する。ホップバイホップオプションヘッダの構成は図9と同じであり、送信元IPアドレス70にはADDR20が、マルチキャストIPアドレス71にはADDRM1が格納される。また、帯域情報数72は0であり、帯域情報73は存在しない。
【0091】
帯域調査メッセージMSG01は、最短経路であるルータ25、23、22を経由して送信ホスト20で受信される。ルータ25、23、22がメッセージMSG01を受信したときの動作は図10フローチャートと同じなので、説明を省略する。
【0092】
帯域調査メッセージMSG01を受信したホスト20は、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信するための帯域が確保できると判断すると、帯域通知メッセージMSG02をルータ22、23、25を経由してホスト28に送信する。ホスト28は、帯域通知メッセージMSG02を受信し、パラメータを取得する。
【0093】
メッセージMSG02を受信したホスト28は、ホップバイホップオプションヘッダが添付された帯域設定メッセージMSG03を送信する。このホップバイホップオプションヘッダの構成は図12と同じであり、送信元IPアドレス80にはADDR20が、マルチキャストIPアドレス81にはADDRM1が、要求帯域82には700Kbpsが、優先度ID83にはPRI01が格納される。
【0094】
帯域設定メッセージMSG03は、最短経路であるルータ25、23、22を順に経由し、ホスト20で受信される。ルータ25、23、22が帯域設定メッセージを受信したときの動作は図13フローチャートと同じなので、説明を省略する。ホスト20は、帯域設定メッセージMSG03を受信すると、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信する。
【0095】
ホスト28は、例えば例えばMLDv2のようなマルチキャストグループ管理プロトコルを使用して、マルチキャストトラフィックMCAST01の受信宣言を行う。また、ホスト20とホスト28までのマルチキャストトラフィックMCAST01が通過する経路上のルータ22、23、25は、PIM−SSMを使用してホスト20からホスト28までの経路を確立する。
【0096】
この時点での帯域設定は次のようになる。()内は優先度IDである。
ルータ22:700Kbps(PRI01)
ルータ23:700Kbps(PRI01)、1Mbps(PRI02)
ルータ24:700Kbps(PRI01)、1Mbps(PRI02)
ルータ25:700Kbps(PRI01)
なお、ルータ23のRI01の帯域は、ホスト26と28に送信するマルチキャストトラフィックで重複している。
【0097】
受信ホストがマルチキャストグループから脱退するときは、マルチキャストトラフィックを送信するホストから受信するホストまでの経路上の不要な帯域を開放する。以下、この帯域の開放手順を説明する。なお、図8、図14、図15の帯域設定が行われているものとし、ホスト26がマルチキャストトラフィックMCAST01の帯域を開放するものとして説明する。
【0098】
図16に、ホスト20からホスト26に至る、マルチキャストトラフィックMCAST01を送信するための帯域を開放する帯域開放の手順を示す。ホスト26はホップバイホップオプションヘッダが添付された帯域開放メッセージMSG04を、ホスト20に送信する。その際、ホスト20に至る最短経路に位置するルータ24、23、22を経由する。
【0099】
図17に、帯域開放メッセージMSG04に添付されるホップバイホップオプションヘッダの構成を示す。オプションヘッダは送信元IPアドレス90、マルチキャストIPアドレス91、およびオプション無効フラグ92で構成される。送信時には、送信元IPアドレス90にはADDR20が、マルチキャストIPアドレス91にはADDRM1が、オプション無効フラグ92には0が入っている。オプション無効フラグ92が1になると、メッセージMSG04を受信したルータはホップバイホップオプションの処理を行わない。
【0100】
図18フローチャートに、帯域開放メッセージMSG04を受け取ったルータ22〜24の動作を示す。なお、ルータ22〜24をまとめてルータと称する。図18において、工程(P18−1)でルータがメッセージMSG04を受信すると、工程(P18−2)でホップバイホップオプションヘッダからパラメータを取得する。
【0101】
ルータは、工程(P18−3)でオプション無効フラグ92が1であるかどうかをチェックする。1でないと(NO)、工程(P18−4)でトラフィックリスト50を検索し、同じ送信元IPアドレスとマルチキャストIPアドレスのエントリがあるかどうかを検索する。エントリがあると(YES)、工程(P18−5)でこのエントリのインターフェイスリスト56に、帯域調査メッセージMSG01を受信したインターフェイスがあるかどうかを検索する。
【0102】
インターフェイスがあると(YES)、工程(P18−6)でエントリのインターフェイス数55から1を減じ、このインターフェイスを削除する。そして、工程(P18−7)でエントリのインターフェイス数55が0より大きいかをチェックし、0であると(NO)工程(P18−8)でオプション無効フラグ92を1にする。
【0103】
工程(P18−7)でインターフェイス数55が0より大きいか(YES)、または工程(P18−8)が終了すると、工程(P18−9)で帯域リスト60の合計割当帯域62から帯域(この場合は700Kbps)を減算し、工程(P18−11)でメッセージMSG04を次のルータあるいはホスト20に転送する。
【0104】
工程(P18−3)でオプション無効フラグ92が1のときは(YES)、工程(P18−11)に遷移する。また、工程(P18−4)でエントリがないか(NO)、あるいは工程(P18−5)でインターフェイスリスト56に該当するものがないと(NO)、工程(P18−10)に遷移してオプション無効フラグ92を1にする。そして、工程(P18−11)に遷移して、メッセージMSG04を転送する。
【0105】
なお、工程(P18−5)でインターフェイスリスト56に該当するものがないと、その時点で処理を中断してもよい。また、オプション無効フラグ92が0であるとマルチキャストトラフィックMCAST01を受信するホストがないので、ホスト20が受信したメッセージMSG04中のオプション無効フラグ92が0であると、マルチキャストトラフィックMCAST01の送信を中止してもよい。
【0106】
マルチキャストトラフィックMCAST01の帯域が開放された後のルータ22〜25の帯域割り当て状況は下記になる。()内は優先度IDである。
ルータ22:700Kbps(PRI01)
ルータ23:700Kbps(PRI01)、1Mbps(PRI02)
ルータ24:1Mbps(PRI02)
ルータ25:700Kbps(PRI01)
【0107】
なお、図8、図14、図15から明らかなように、マルチキャストトラフィックを送信するホストは、帯域調査メッセージMSG01、帯域設定メッセージMSG03を受信する。これらのメッセージを受信することで、ホストはマルチキャストの帯域設定状況や受信ホストの数などを知ることができ、これらを管理することができる。
【0108】
マルチキャストトラフィックを受信するホストの管理とは、例えばマルチキャストトラフィックを送信するホストが、マルチキャストトラフィックを受信するホストのIPアドレスのリスト(リスナーリスト)を持ち、帯域設定メッセージMSG03を受信すると、前記リスナーリストの帯域設定メッセージMSG03を送信したホストのIPアドレスに、設定された帯域を登録する。また、帯域開放メッセージMSG04を受信すると、このメッセージのホップバイホップオプションヘッダのオプション無効フラグ92が0のときに限り、前記リスナーリストのその帯域開放メッセージMSG04を送信したホストのIPアドレスから開放された帯域を削除する。
【0109】
このようにすることにより、マルチキャストトラフィックを送信するホストは、マルチキャストトラフィックを受信するホストの管理を行うことができる。このリスナーリストはいろいろな用途に使用することができる。例えば、リスナーリストのIPアドレス数が0になったら、マルチキャストトラフィックの送信を中止することができる。
【0110】
また、前述の実施例では、マルチキャストの経路を設定する前の1回のみ、帯域調査メッセージMSG01を送信してその帯域を確保するようにしていたが、マルチキャストトラフィックを受信するホストが定期的に帯域調査メッセージMSG01を送信するようにすることもできる。
【0111】
このようにすることにより、マルチキャストトラフィックを送信するホストは、自身が送信するマルチキャストパケットのトラフィック使用状況を把握することができる。このため、トラフィックの使用状況によってマルチキャストトラフィックの送信を制限する等の対策を取ることができる。
【0112】
また、フィールドネットワークは、インターネットのように不特定多数の機器が接続される環境ではなく、またインターネットを経由する制御通信は少ないのが普通である。従って、外部からの攻撃に対しては、検疫ネットワーク、ファイアウオール、IPS(Intrusion Prevention System)のようなフィールドネットワークが予めサポートしているセキュリティの仕組みで十分であると考えられる。
【0113】
マルチキャストトラフィックを送信するホストと受信するホストとの間では、例えばIKE(Internet Key Exchange : RFC 4109/RFC 4306)とIPsec(Security Architecture for Internet Protocol : RFC 4301)の組み合わせ、またはKINK(Kerberized Internet Negotiation of Keys : RFC 4430)とIPsecの組み合わせなどによって認証を行うことができる。
【0114】
また、前述した実施例では、マルチキャストルーティングプロトコルにPIM−SSMを使用したが、このプロトコルに限られることはない。PIM−SSMはマルチキャストトラフィックを受信するホストから送信するホストまでのユニキャストの経路を逆方向に辿る経路をマルチキャストの経路とするプロトコルであるが、PIM−SSMと結果的に同じマルチキャスト経路を設定することができるプロトコルであれば、PIM−SSM以外のプロトコルを使用することができる。
【0115】
また、前述した実施例では、帯域開放メッセージMSG04のホップバイホップオプションヘッダにオプション無効フラグ92を設定し、このオプション無効フラグを1にすると、それ以降のルータはホップバイホップオプションヘッダを処理しないようにしたが、オプション無効フラグ92を1にする代わりに、帯域開放メッセージMSG04の転送を中止するようにすることもできる。
【0116】
このようにすると、マルチキャストトラフィックを送信するホストは帯域開放メッセージを受信しない場合もあるので、マルチキャストトラフィックを受信するホストの管理を行うことができないが、管理の必要がない場合はトラフィックを削減することができるという利点がある。
【0117】
さらに、本発明はネットワークスイッチにも適用することができる。ネットワークスイッチがトラフィックリスト50、帯域リスト60を保持し、マルチキャストトラフィックを受信するホストと送信するホストとの間で伝送される帯域調査メッセージMSG01および帯域設定メッセージMSG03をネットワークスイッチが中継する際に、これらのホップバイホップオプションを参照して、自身のトラフィックリスト50および帯域リスト60を更新するようにすればよい。この場合、ネットワークスイッチが中継器に相当する。
【0118】
なお、これらの実施例ではメッセージMSG01〜04にホップバイホップオプションヘッダを添付し、このオプションヘッダに情報を書き込むようにしたが、ホップバイホップオプションヘッダを使用しないようにすることもできる。
【0119】
また、必要がなければ、帯域削除メッセージによる帯域削除は行わなくてもよい。
【符号の説明】
【0120】
20、21、26〜28 ホスト
22〜25 ルータ
30、40 通信部
31 送受信処理部
32 帯域指示部
41 転送処理部
42 帯域調整部
50 トラフィックリスト
51、70、80、90 送信元IPアドレス
52、71、81、91 マルチキャストIPアドレス
53、82 要求帯域
54、61、83 優先度ID
55 インターフェイス数
56 インターフェイスリスト
60 帯域リスト
62 合計割当帯域
63 最大帯域
72 帯域情報数
73 帯域情報
92 オプション無効フラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャストトラフィックを送信する第1のホストと、このマルチキャストトラフィックを受信する第2のホストと、前記第1のホストと第2のホストの経路中に配置される中継器で構成されたネットワークにマルチキャストトラフィックを伝送するための帯域を設定するマルチキャスト伝送帯域設定方法において、
前記第2のホストが帯域調査メッセージを前記中継器を経由して前記第1のホストに送信し、前記中継器はこの帯域調査メッセージを受信すると、その中継器が使用できる帯域に関する情報を前記帯域調査メッセージに書き込む工程と、
前記帯域調査メッセージを受信した前記第1のホストは、この帯域調査メッセージを参照し、マルチキャストトラフィックを送信できる帯域が確保できると判断すると、前記第2のホストに帯域通知メッセージを送信する工程と、
前記帯域通知メッセージを受信した前記第2のホストは、マルチキャストトラフィックを伝送するための帯域を前記中継器に設定させる帯域設定メッセージを、前記中継器を経由して前記第1のホストに送信し、前記中継器は前記帯域設定メッセージを受信すると、マルチキャストトラフィックを送信するための帯域を設定する工程と、
を具備したことを特徴とするマルチキャスト帯域設定方法。
【請求項2】
前記第2のホストは、設定した帯域を開放する帯域開放メッセージを前記中継器に送信し、前記中継器は、この帯域開放メッセージを受信すると、該当する帯域を開放するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のマルチキャスト帯域設定方法。
【請求項3】
前記帯域調査メッセージ、帯域通知メッセージ、帯域設定メッセージ、帯域開放メッセージはホップバイホップオプションヘッダを具備し、このホップバイホップオプションヘッダに必要な情報を格納するようにしたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のマルチキャスト帯域設定方法。
【請求項4】
マルチキャストトラフィックを送信するホストと、このマルチキャストトラフィックを受信するホストと、これらのホスト間の経路中に配置される中継器で構成され、マルチキャストトラフィックを配信する配信システムにおいて、
中継器を経由して帯域調査メッセージを送信し、帯域通知メッセージを受信すると、前記中継器を経由して帯域設定メッセージを送信する第2のホストと、
前記帯域調査メッセージを受信すると、このメッセージの内容からマルチキャストトラフィックを送信できると判断すると帯域通知メッセージを前記第2のホストに送信し、帯域設定メッセージを受信すると、マルチキャストトラフィックを送信する第1のホストと、
帯域調査メッセージを受信すると使用できる帯域に関連する情報をこの帯域調査メッセージに書き込み、帯域設定メッセージを受信すると要求された帯域を設定する中継器と、
を具備したことを特徴とするマルチキャスト配信システム。
【請求項5】
前記第2のホストは、設定された帯域を開放する帯域開放メッセージを前記中継器に送信し、前記中継器は、前記帯域開放メッセージを受信すると、自身に設定された帯域を開放するようにしたことを特徴とする請求項4記載のマルチキャスト配信システム。
【請求項6】
前記帯域調査メッセージ、帯域通知メッセージ、帯域設定メッセージ、帯域開放メッセージはホップバイホップオプションヘッダを具備し、このホップバイホップオプションヘッダに必要な情報を格納するようにしたことを特徴とする請求項4若しくは請求項5に記載のマルチキャスト配信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−41062(P2011−41062A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187404(P2009−187404)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】