説明

ミシンの糸巻き装置

【課題】ボビン台の回転速度調節範囲を拡大する。
【解決手段】ボビン台20と、ボビン台上でボビンに巻く縫い糸の端部を切断して保持するクランプ21と、ミシンモータにより回転駆動を行う駆動車31と、駆動車の回転平面に当接してトルク伝達が行われると共に支軸40を介してボビン台を回転させる糸巻き車30と、ボビンに巻かれた縫い糸が一定量に達すると当該縫い糸に押圧されて回動する検出レバー70と、各部を支持する土台50と、検出レバーの回動動作により糸巻き車を駆動板から離間させる動力切断機構80と、検出レバーの所定方向の回動動作によりボビン台を一定の回転角度で制止させる制止機構90とを備え、糸巻き車は、支軸に沿って位置を調節することにより駆動車からの伝達回転速度を変更可能であり、制止機構は、支軸に設けられた回転体に対して嵌合保持するカム機構を有し、回転体を糸巻き車と別部材のボビン台から構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの糸巻き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりミシンモータにより回転駆動される円板状の駆動板から駆動力を得て、ボビンに下糸を巻き付けるミシンの糸巻き装置がミシンに搭載されている(例えば、特許文献1参照)。
この糸巻き装置100は、図15及び図16に示すように、ボビンを保持するボビン台101と、供給される下糸の端部を切断して保持するためにボビン台101に装備されたクランプ102と、支軸103を介してボビン台101と連動回転を行う回転停止用カム104と、回転停止用カム104に取り付けられて、ミシンモータにより回転駆動される円板状の駆動板105から回転力が付与される糸巻き車106と、支軸103を回動可能に支持すると共に所定の軸により回動を行う回動腕107と、回動腕107を通じて糸巻き車106の外周を駆動板105に押圧するバネ108と、ミシンフレームに装備された土台109と、土台109に装備され、ボビンに所定量の下糸が巻かれると当該下糸に押圧されて外側に回動を行う検出板110と、支軸111を介して検出板110と連動する切断カム112と、支軸111を介して検出板110と連動するストッパカム113とを備えている。
【0003】
上記糸巻き装置100は、図16に示すように、回動腕107により糸巻き車106が駆動板105に対する接離方向に沿って揺動可能となっており、バネ108の弾性力により糸巻き車106の外周が駆動板105の回転面に圧接している状態で回転力の伝達が可能となっている。
検出板110は、ボビン台101にセットされたボビンの下糸巻量が所定量に達するとその回動端部がボビンに巻かれた下糸の束に当接して外側に回動動作が付与されるよう土台109に設けられており、検出板110が外側に回動を行うと、切断カム112とストッパ113とが連動して回動動作を行う。
【0004】
切断カム112は、回動により糸巻き車106が駆動板105から離間するよう回動腕107に回動動作を付与することができ、これにより、検出板110の外側回動時に駆動板105からボビン台101に対する回動動力を切断する。
ストッパ113は、回転停止用カム104の外周に形成された係止溝に嵌合する係止爪がその回動端部に形成されている。これにより、検出板110の外側回動時に回動動力が切断された回転停止用カム104を捕捉して一定の角度で停止させることができる。
このように、ストッパ113が回転停止用カム104を一定の角度で停止させるのは、ボビン台101に設けられたクランプ102を常に一定の向きで停止させるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−183706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この糸巻き装置100では、図17に示すように、糸巻きの回転速度の調節を行う場合には、糸巻き車106を支軸103に沿って移動させることで駆動板105の回転中心からその接点までの距離を変更する必要があった。
一方、回転停止用カム104の外周には、ゴム製の糸巻き車106が嵌合装着されており、回転停止用カム104と糸巻き車106とは実質的に一体的に形成されている。このため、糸巻き車106の移動調節を行った場合にストッパ113と回転停止用カム104の係止溝104aとの係合を可能とするためには、糸巻き車106の移動を行う分だけ回転停止用カム104の幅を広く設計する必要があるが、回転停止用カム104の幅を広くすると、限りあるミシンフレーム内の設置スペースでは糸巻き車106の移動調節幅の確保が困難であり、結果として、糸巻きの回転速度の調節範囲が十分に確保できないという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、糸巻きの回転速度調節を広い範囲で行うことを可能とすることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、ボビンを保持するボビン台と、前記ボビン台に設けられ、前記ボビンに巻く縫い糸の端部を切断して保持するクランプと、ミシンモータにより回転駆動を行う駆動車と、前記駆動車の回転平面に当接してトルク伝達が行われると共に、支軸を介して前記ボビン台を回転させる糸巻き車と、前記ボビン台に保持されたボビンに巻かれた縫い糸が一定量に達すると当該縫い糸に押圧されて所定方向への回動を行う検出レバーと、前記ボビン台及び前記検出レバーを支持する土台と、前記検出レバーの所定方向の回動動作により前記糸巻き車を前記駆動板から離間させる動力切断機構と、前記検出レバーの所定方向の回動動作により前記ボビン台を一定の回転角度で制止させる制止機構とを備えるミシンの糸巻き装置において、前記糸巻き車は、前記支軸に沿って位置を調節することにより前記駆動車からの伝達回転速度を変更可能であり、前記制止機構は、前記支軸に設けられた回転体に対して嵌合保持するカム機構を有し、前記回転体を前記糸巻き車と別部材で構成したこと特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記制止機構は、前記ボビン台に設けられたカム部と、前記検出レバーに設けられ、前記カム部に嵌合可能なストッパから構成されることを特徴とする。
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記土台に対する前記検出レバーの位置調節を行うことで前記クランプの停止位置を調節するクランプ停止位置角度調節機構を有することを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、
前記検出レバーが固定されるとともに、前記土台に回動可能に支持された回動軸と、
前記支軸を回転可能に支持する回動腕を介して前記支軸に連結されるとともに、前記土台に固定された固定軸を有し、
前記動力切断機構は、
前記回動軸に固定装備された第一のカム部材と、
前記固定軸に回動可能に支持されるとともに、一端側が前記第一のカム部材に係合可能で、他端側が前記回動腕に当接可能な第二のカム部材を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記ボビン台に前記支軸の挿入穴を設け、前記支軸の挿入部と前記挿入穴とを同一の非円形の断面形状としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明は、制止機構は嵌合保持する回転体を糸巻き車と別部材で構成していることから、ボビン台の回転速度調節の際には、糸巻き車のみを支軸に沿って位置調節することができ、回転体も移動させる必要がない。このため、移動範囲応じて回転体の幅を広げて大型化する必要がなくなり、糸巻き車の移動範囲を広く確保することができ、調節可能な回転速度の範囲を拡大することが可能となる。
【0013】
請求項2記載の発明は、カム部をボビン台に設け、ストッパを検出レバーに設けているため、検出レバーとストッパとの連動を図る手段を不要とし、部品点数の軽減を図ることが可能となる。
また、請求項3記載の発明は、検出レバーの位置調節を行うことでクランプの停止位置を調節するのでクランプの停止位置を任意の角度に調節することが可能となる。
また、検出レバーの位置調節を行うことでクランプの停止位置を調節するので、土台の表面側、即ち、ミシンフレームの外部において、調節作業を行うことができ、当該作業を容易且つ迅速に行うことが可能となる。
【0014】
請求項4記載の発明は、シンプルな構造で動力切断機構を実現することができ、部品点数の低減を図ることが可能となる。
また、請求項5記載の発明は、ボビン台の挿入穴と支軸の挿入部とを同一の非円形の断面形状としたので、相互に締結するネジを使用することなく、互いの連動回転を可能とすることから、ボビン台にネジ穴を形成するための厚みを不要とし、ボビン台の薄型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】糸巻き装置を備えたミシンを示す正面図である。
【図2】ミシンの糸巻き装置の斜視図である。
【図3】ミシンの糸巻き装置の分解斜視図である。
【図4】ボビン台の底面図である。
【図5】支軸の斜視図である。
【図6】糸巻き装置の機械構造を示す説明図である。
【図7】検出レバーの平面図である。
【図8】糸巻き装置の初期位置における動作説明図であって、図8(A)は糸巻き装置の平面視の状態を示し、図8(B)は糸巻き装置の底面視であって糸巻き車の図示を省略した状態を示す。
【図9】糸巻き装置の初期位置における動作説明図であって、図9(A)は回転制止カム機構の底面視の状態を示し、図9(B)は糸巻き装置の底面視の状態を示す。
【図10】糸巻き装置の糸巻き開始位置における動作説明図であって、図10(A)は糸巻き装置の平面視の状態を示し、図10(B)は糸巻き装置の底面視であって糸巻き車の図示を省略した状態を示す。
【図11】糸巻き装置の糸巻き開始位置における動作説明図であって、図11(A)は回転制止カム機構の底面視の状態を示し、図11(B)は糸巻き装置の底面視の状態を示す。
【図12】糸巻き装置の糸巻き終了位置における動作説明図であって、図12(A)は糸巻き装置の平面視の状態を示し、図12(B)は糸巻き装置の底面視であって糸巻き車の図示を省略した状態を示す。
【図13】糸巻き装置の糸巻き終了位置における動作説明図であって、図13(A)は回転制止カム機構の底面視の状態を示し、図13(B)は糸巻き装置の底面視の状態を示す。
【図14】糸巻き装置の糸巻き終了時における動作説明図であって、図14(A)は回転制止カム機構の底面視の制止直前の状態を示し、図14(B)は回転制止カム機構の底面視の制止後の状態を示す。
【図15】従来の糸巻き装置の分解斜視図である。
【図16】従来の糸巻き装置の斜視図である。
【図17】従来の糸巻き装置の回転速度調節の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態の概略]
本発明を実施形態であるミシンの糸巻き装置10について図1から図14に基づいて説明する。図1は、糸巻き装置10を備えるミシン100を示す正面図である。
ミシン100は、図1に示すように、駆動源となる図示しないミシンモータから主軸(図示省略)を介して駆動力が伝達され、上糸が通された縫い針101を上下に駆動する針駆動機構、その針駆動機構に同期して針板102上に載置される布等の被縫製物を布押さえ103で押さえつつ搬送する布送り機構、針板102の下方において上糸を下糸に交絡させる釜機構等を備えている。これらミシンの機構は従来公知のものと同様であるので、本実施形態では詳述しない。
このミシン100の釜機構における釜に下糸が巻かれたボビンが収容されるようになっており、空のボビンに予め下糸を巻き付けるための糸巻き装置10がミシン100の機枠の上部に備えられている。
【0017】
[糸巻き装置の全体構成]
図2は糸巻き装置10の斜視図、図3は分解斜視図である。図示のように、ボビンを保持するボビン台20と、供給される縫い糸の端部を切断して保持するためにボビン台20に装備されたクランプ21と、ミシンモータにより回転駆動を行う駆動車31と、駆動車31に当接して回転力が付与される糸巻き車30と、糸巻き車30とボビン台20とを連結する支軸40と、ボビン台20を支持する土台50と、ボビン台20上のボビンの糸巻き量に応じて糸巻き動作を終了させる自動停止機構60とを主に備えている。
【0018】
[土台]
上記土台50は、円形の枠体であり、ミシン機枠の正面に固定装備されている。この土台50の上面には、ボビン台20を配置する周壁からなる凹部51が形成されており、当該凹部51の中央には、支軸40を有挿可能な貫通穴が上下に貫通形成されている。なお、ボビン台20は土台50に対して所定の水平方向に沿って幾分移動を行うことから、支軸40を挿通する貫通穴は、支軸40の外径よりも幾分大きめに形成されている。
なお、土台50は、ボビン台20及び後述する検出レバー70を支持する。
【0019】
[ボビン台]
図4はボビン台20の底面図、図5は支軸40の斜視図である。図2〜4に示すように、ボビン台20はその上面にボビンが載置される台座であり、その上面には、凹部22が形成され、その内側に糸切り及び糸端保持を行うクランプ21が装備されている。このクランプ21は、ボビン台20の半径方向に沿って延出されており、延出端部近傍には、V字状の糸切断部が形成されている。また、クランプ21の基部がボビン台20に対して止めネジ21aにより固定され、その延出部は自由端となって撓むことが可能となっている。即ち、クランプ21の延出部は撓みによりボビン台20の上面との間に隙間を形成することができ、糸切断部で切断された縫い糸の端部を延出部の下側で挟み込んで保持することが可能となっている。
すなわち、クランプ21は、ボビン台に設けられ、ボビンに巻く縫い糸の端部を切断して保持する。
【0020】
ボビン台20は、その中央部には支軸40の挿入穴23が貫通形成されている。
一方、支軸40は、図5に示すように、その上端部を突出させた状態でボビン台20の挿入穴23に下方から挿入される。支軸40の上端部には、ボビン保持部41となっており、当該ボビン保持部41にはスリ割り溝が形成され、当該ボビン保持部41がボビンの中間孔部に挿入されるとスリ割り溝により弾性的にボビンを保持することを可能としている。
【0021】
また、ボビン台20の挿入穴23は、その穴形状が円形に対して直径方向両側を平らにカットした非円形状に形成されており、支軸40のボビン保持部41の下側の挿入部の外周面には、その断面形状が挿入穴23と等しくなるよう、直径方向両側に平坦面42が形成されている。
これにより、これらの平坦面42まで支軸40をボビン台20の挿入穴23に挿入すると、これら平坦面42が回り止めとなり、支軸40とボビン台20とを一体的に連動回転させることが可能となっている。
すなわち、ボビン台20に支軸40の挿入穴23を設け、支軸40の挿入部と挿入穴23とを同一の非円形の断面形状とした。
【0022】
また、ボビン台20の円形の底面部には、その外縁部から中心に向かって窪んだ形状のカム部92が形成されている。このカム部92は、後述する回転制止カム機構90の構成の一部であり、当該回転制止カム機構90のストッパ91が半径方向外側から内側に向かって侵入し、ボビン台20の回転を制止するためのものである。
【0023】
[糸巻き車]
支軸40の下端部には、糸巻き車30が装備されている。ミシン100の機枠内における支軸40の下端部近傍には、ミシンモータにより回転駆動される水平方向に沿った上軸104が設けられており、当該上軸104は、糸巻き装置10に回転力を付与するための円形の駆動車31が固定装備されている。
この糸巻き車30はその外周面を駆動車31の円形の回転面に当接させることで、回転力の付与が行われる。
【0024】
この糸巻き車30は、その中心位置に支軸40の下端部を挿入する貫通穴が形成されており、糸巻き車30の外周から支軸40が挿入される貫通穴に至る図示しない二つのネジ穴が形成されており、頭無しネジ32,32が螺入されている。これら頭無しネジ32,32を締結することで、貫通穴に挿入された支軸40に対して糸巻き車30の固定を行っている。これらの頭無しネジ32,32によって糸巻き車30を支軸40に固定することにより、糸巻き車30とボビン台20との同時回転を可能としている。
【0025】
また、糸巻き車30は、頭無しネジ32,32を緩めて支軸40に沿って取り付け位置を変更調節することができる。糸巻き車30の支軸40に対する取り付け位置を変えると、糸巻き車30の駆動車31に対する当接位置の回転中心(上軸104)からの距離も変わることとなり、駆動車31から糸巻き車30に伝達される回転速度の調節を行うことができる。
すなわち、糸巻き車30は、駆動車31の回転平面に当接してトルク伝達が行われると共に、支軸40を介してボビン台20を回転させる。また、糸巻き車30は、支軸40に沿って位置を調節することにより駆動車31からの伝達回転速度を変更可能である。
【0026】
[自動停止機構:全体]
図6は糸巻き装置10の機械構造を示す説明図、図7は検出レバー70の平面図、図8〜図13は糸巻き装置10の各部における動作説明図である。
図1,2,6に示すように、自動停止機構60は、前述した支軸40と平行な回動軸61及び固定軸62と、当該回動軸61に固定連結され、土台50の上面で回動軸61を中心として回動可能な縫い糸の検出レバー70と、固定軸62を中心として回動可能であって、その回動端部において支軸40を回転可能に支持する回動腕63と、回動軸61と固定軸62との間に設けられ、糸巻き車30と駆動車31との接続と切断とを切り替える動力切断機構としての動力伝達カム機構80と、回動軸61と支軸40との間に設けられ、ボビン台20の回転の制止と解除とを切り替える制止機構としての回転制止カム機構90とを備えている。
【0027】
[自動停止機構:検出レバー]
検出レバー70は、水平に向けられた平板状の基部71と、基部71から水平方向に延出されたアーム部72と、アーム部72の延出先端部に止めネジ73により固定装備されたバネ部74と、バネ部74を撓ませることによりボビン台20側の突出量を調節する調節機構75とを備えている。
【0028】
基部71とアーム部72とは一枚の金属板から一体的に形成されており、基部71に対して折曲により垂直方向に立ち上げることでアーム部72が形成されている。
また、基部71は、長穴71aが貫通形成されており、当該長穴71aを通じて回動軸61の上端面に止めネジ76によって固定される。また、回動軸61の上端部における周面に互いに平行となる二つの平坦面が形成されており、これら平坦面の間隔が長穴71aの幅とほぼ一致しており、回動軸61の上端部を長穴71aに嵌合させることが可能となっている。これにより、回動軸61は検出レバー70と一体となって回動動作を行うこととなる。
回動軸61は、検出レバー70が固定されるとともに、土台50に回動可能に支持されている。また、固定軸62は、回動腕63を介して前記支軸40に連結されるとともに、土台50に固定されている。
【0029】
また、基部71にはボビン台20が隣接して配置されており、基部71の側縁部にはボビン台20側に突出したストッパ91が形成されている。なお、このストッパ91は基部71と一体的に形成されているが、回転制止カム機構90の構成の一部である。なお、ストッパ91は、検出レバー70と共に回動軸61を中心として連動回動を行うのであれば、検出レバー70とは別部材で構成しても良い。
また、前述した基部71に形成された長穴71aは、ストッパ91の位置を調節することができる。即ち、止めネジを締結しない状態で回動軸61に対して長穴71aに沿って検出レバー70の位置調節を行うことで、ストッパ91の位置を調節することができ、これによりボビン台20の回転を制止した時のボビン台20及びクランプ21の角度を調節することが可能である。長穴71aを有する基部71と止めネジ76とにより、クランプ停止位置角度調節機構を構成している。このクランプ停止位置角度調節機構は、土台50に対する検出レバー70の位置調節を行うことでクランプ21の停止位置を調節する。
【0030】
バネ部74は、アーム部72の先端部からアーム部72の延長方向に延出された可撓性を有する板バネを途中でアーム部72側に折り返して、当該折り返し部分がボビン台20にセットされたボビン巻かれた縫い糸に当接するように配置されている。
調節機構75は、アーム部72の先端部に形成されたネジ穴に螺合する頭無しネジ75aと当該頭無しネジ75aを締結によりアーム部72の先端部で回転して緩まないように固定するナット75bとから構成されている。そして、ナット75bを緩めて頭無しネジ75aを回すことでバネ部74の背後から押圧してバネ部74のボビン側への突出量の調節を可能としている。
【0031】
検出レバー70は、回動によりバネ部74がボビン台20から突出した支軸40に対して接離移動を行い、糸巻き車30と駆動車31とが切断された状態であってボビン台20の回転が制止された状態にある初期位置において最も支軸40から遠ざかった位置となり(図8(A)参照)、糸巻き開始位置において最も支軸40に近づいた位置となる(図10(A)参照)。即ち、糸巻きが開始されるとボビンに巻かれた縫い糸の量が増えて徐々に検出レバー70は押し戻され、最終的にボビンに最大限に縫い糸が巻かれると、初期位置に近い位置(糸巻き終了位置)まで後退することとなる(図12(A)参照)。
即ち、検出レバー70は、糸巻きを開始する際には初期位置から糸巻き開始位置まで回動が行われ(図6の白矢印)、糸巻きを開始してボビンの縫い糸に押し戻される際には初期位置から糸巻き開始位置に向かって回動が行われ(図6の黒矢印)。
【0032】
[自動停止機構:回動腕]
回動軸61は、土台50により例えば軸受けを介して回動可能に支持されている。また、固定軸62は、土台50に回転不能に固定装備されている。
そして、回動腕63は、土台50の下側において、その一端部が軸受けを介して固定軸62に回動可能に連結され、他端部が軸受けを介して支軸40に回動可能に連結されている。また、回動腕63は、ねじりコイルバネ64により、固定軸62を中心として、第二のカム部材82に接触する方向(図6に示す反時計方向)へ付勢されている。なお、図6ではねじりコイルバネ64を分かりやすくするために引っ張りバネで図示している。
【0033】
[自動停止機構:動力伝達カム機構]
動力伝達カム機構80は、回動軸61に固定装備された第一のカム部材81と、固定軸62に回動可能に支持された第二のカム部材82と、カム部材81,82同士が互いに係合を生じる方向に第二のカム部材82に弾性力(張力)を付与する引っ張りバネ83とを備えている。
第一のカム部材81は、第二のカム部材82側に突出する突起81aを有しており、第二のカム部材82は突起81aが嵌合可能な凹部82aが形成されている。そして、第一のカム部材81は、回動軸61を通じて検出レバー70と連動回動を行うように連結されており、検出レバー70が初期位置にあるときに、第一のカム部材81の突起81aが第二のカム部材82の凹部82aに嵌合するようになっている(図6及び図8(B)参照)。
また、検出レバー70が初期位置から糸巻き開始位置に回動すると(図6の白矢印)、第一のカム部材81の突起81aは第二のカム部材82の凹部82aから脱して固定軸62から離間する方向に回動を行う(図6の白矢印)。これにより、相対的に第二のカム部材82は第一のカム部材81に押圧されて当該第一のカム部材81から離間する方向に回動を行う(図6の白矢印)。
【0034】
一方、第一のカム部材81の回動により押圧された第二のカム部材82が回動(図6の白矢印)を行うと、ねじりコイルバネ64に付勢されて、回動腕63が図6に示す反時計方向に回転する。この結果、支軸40に軸支された糸巻き車30が、駆動車31に当接する方向に移動し、当接して、回転力伝達状態となる。
【0035】
また、ボビンの糸巻き量が増えて、検出レバー70が糸巻き開始位置から初期位置側向かって押し戻されて回動すると(図6の黒矢印)、ねじりコイルバネ64により、第一のカム部材81の突起81aは第二のカム部材82の凹部82aに向かって回動し(図6の黒矢印)、最終的に嵌合する。
これにより、第二のカム部材82は引っ張りバネ83に引っ張られて支軸40に近接する方向に回転(図6の黒矢印、時計方向)する。そして、係合片82bが回動腕63に当接し、支軸40を移動(回転)させる。この結果、糸巻き車30が駆動車31から離間する方向に移動(回転)し、回転力の切断状態となる。
すなわち、検出レバー70は、ボビン台20に保持されたボビンに巻かれた縫い糸が一定量に達すると当該縫い糸に押圧されて所定方向(図6の黒矢印)への回動を行う。
このようにして、動力伝達カム機構80は、糸巻き車30と駆動車31との動力伝達の接続と切断とを切り替えることができる。
また、動力切断機構80は、回動軸61に固定装備された第一のカム部材81と、 固定軸62に回動可能に支持されるとともに、一端側82aが第一のカム部材81に係合可能で、他端側82bが回動腕63に当接可能な第二のカム部材82か構成される。
動力切断機構80は、検出レバー70の所定方向の回動動作により糸巻き車30を駆動板31から離間させる。
【0036】
[自動停止機構:回転制止カム機構]
制止機構としの回転制止カム機構90は、検出レバー70の基部71に設けられたストッパ91と、ボビン台20の底部に設けられたカム部92とを有する構成となっている。
ストッパ91は、回動軸61を中心とする半径方向外側に延出された略くさび状に形成されており、カム部92はストッパ91の形状に対応すると共にボビン台20の外周から支軸40に向かって窪んだ凹状に形成されている。また、ボビン台20は糸巻き車30を介して駆動車31から一定の方向(図9(A)で反時計方向)に回転力が付与されようになっており、カム部92の深度方向は、ボビン台20の半径方向よりも幾分ボビン台20の回転方向に対して逆らう方向(回転方向上流側)に傾斜している。
【0037】
そして、検出レバー70が初期位置の時にストッパ91は、支軸40側よりも幾分ボビン台20の回転方向上流側に傾斜した方向を向くよう形成されており、カム部92内に侵入して嵌合するようになっている。そして、嵌合状態にあっては、ボビン台20の回転を制止させることが可能となっている。
なお、上記回転制止カム機構90により回転制止機能は、支軸40及び糸巻き車30が駆動車31から離間した位置である初期位置にある場合に効果が生じるようになっており、支軸40及び糸巻き車30が駆動車31に当接した位置である糸巻き開始位置にある場合には、ストッパ91の先端部がボビン台20の外周に届かず、回転制止機能は生じないようになっている。つまり、糸巻きを開始する場合には回転制止状態は解除される。
なお、前述した検出レバー70に形成された長穴71aと止めネジ76とにより、カム部92に対するストッパ91の先端距離を調節することができ、これにより、係合又は解除の状態を適宜調節することが可能である。
【0038】
制止機構90は、ボビン台20に設けられたカム部92と、検出レバー70に設けられたストッパ91から構成される。制止機構90は、検出レバー70の所定方向の回動動作によりボビン台20を一定の回転角度で制止させる。
なお、制止機構90を構成するカム部92はボビン台20に設けたが、これに代えて、ボビン台20の下部に別にカム部材を設けることも容易に考えられる。また、検出レバー70とは別にストッパ部材を設けても良い。これらの実施形態を加味して、制止機構90は、支軸40に設けられた回転体(カム部材やストッパ部材)に対して嵌合保持するカム機構を有し、回転体を糸巻き車30と別部材で構成することとする。
【0039】
[糸巻き動作説明]
図6及び図8〜図13に基づいて糸巻き装置10における糸巻き動作を説明する。
図9及び図10は、糸巻き装置10の非使用時であって各部が初期位置にある状態を示している。
即ち、検出レバー70は支軸40から最も離れた初期位置にあって(図8(A))、動力伝達カム機構80の第一のカム部材81の突起81aと第二のカム部材82の凹部82aとが嵌合状態にあり(図8(B))、回転制止カム機構90のストッパ91はカム部92に挿入され嵌合しており(図9(A))、糸巻き車30は駆動車31から離れている(図9(B))。
【0040】
次に、ボビン台20の上で支軸40の上端部に中心部を挿入するようにボビン(図史略)をセットする。また、糸立ての糸巻きから縫い糸を引き出して、糸端をクランプ21の下に挟み込むと共に余り端部を糸切断部にて切断する。
そして、手動操作により、検出レバー70を支軸40側の糸巻き開始位置に回動させる。これにより、糸巻き装置10の各部は図6の白矢印方向に連動して動作する。
【0041】
即ち、図10(A)に示すように、検出レバー70が糸巻き開始位置に移動すると、動力伝達カム機構80の第一のカム部材81の突起81aは、図10(B)に示すように、第二のカム部材82の凹部82aから脱して図示反時計方向に回動し、第二のカム部材82は突起81aに押されて図示時計方向に回動する。
これにより、ねじりコイルバネ64に従って支軸40を支持する回動腕63が回動する。
これにより、支軸40と共にボビン台20が同方向に回動し、図11(A)に示すように、回転制止カム機構90のストッパ91はカム部92から脱して回動制止状態が解除される。
また、図11(A)に示すように、支軸40と共に糸巻き車30は駆動車31側に移動して当接し、回転力伝達状態となり、ボビン台20と共にボビンが回転を開始して縫い糸が巻始められる。
【0042】
ボビンの縫い糸の巻量が設定量に近づくと、検出レバー70はボビンに巻かれた縫い糸により初期位置の近くまで押し戻される。これにより、糸巻き装置10の各部は図6の黒矢印方向に連動して動作する。
【0043】
即ち、図12(A)に示すように、検出レバー70が糸巻き開始位置近くまで押し戻されると、動力伝達カム機構80の第一のカム部材81の突起81aは、図12(B)に示すように、第二のカム部材82の凹部82a側に戻る方向である時計方向に回動し、第二のカム部材82は図示反時計方向に回動する。
これにより、第二のカム部材82の係合片82bが退避し、支軸40及び回動腕63はねじりコイルバネ64によって第二のカム部材82と同じ回動方向に回動する。
これにより、支軸40と共にボビン台20が同じ方向に回動し、図13(A)に示すように、回転制止カム機構90のストッパ91はボビン台20側に回動し、その先端部がボビン台20の底部の外周面に摺接状態となる。但し、ストッパ91の先端部がボビン台20の外周面に摺接しているため、ボビン台20及び支軸40は完全に初期位置には戻りきらない。従って、図13(A)に示すように、糸巻き車30は駆動車31に当接した状態が維持され、ボビン台20の回転力は未だ継続される。
【0044】
さらに、ボビンの縫い糸の巻量が増えると、検出レバー70はさらに初期位置側に回動する。そして、図14(A)に示すように、回転制止カム機構90のカム部92がストッパ91の先端部まで到達すると、ストッパ91はカム部92内に侵入を開始する。これにより、支軸40は回動軸61側へより移動して、糸巻き車30が駆動車31から離間する。これにより、ボビン台20への回転力が付与されなくなる。
そして、支軸40が回動軸61側にさらに移動すると共に、回転制止カム機構90のストッパ91がカム部92の最深部まで侵入し、ボビン台20及び支軸40の回転を停止させる。これにより、ボビン台20及びボビン台20に搭載されたクランプ21が一定の方向を向いた状態で停止して糸巻きが完了する。
【0045】
[糸巻き装置の技術的効果]
糸巻き装置10の回転制止カム機構90は、当該カム機構90が嵌合保持する回転体として、糸巻き車30ではなく、ボビン台20を対象とする。
このため、糸巻き車30のみを支軸40に沿って位置調節することでボビン台20の回転速度調節を行うことが可能となり、糸巻き車に回転制止のためのカム溝を設ける従来の構造のように、糸巻き車をボビン台20の回転速度調節のための移動調節範囲に応じて軸方向に大型化する必要がなくなる。このため、糸巻き車30の移動範囲を広く確保することができ、ボビン台20の回転速度の調節範囲を拡大することが可能となる。
【0046】
また、回転制止カム機構90のカム部92を糸巻き車30ではなくボビン台20に形成したので、部品点数の増加を回避することが可能となった。
さらに、ボビン台20の挿入穴23と支軸40の挿入部とを、いずれも円形に対して両端部を平坦にカットした同一の非円形の断面形状としたので、ボビン台20と支軸40とを相互に締結するネジを使用することなく、互いの連動回転を可能とすることから、ボビン台20にネジ穴を形成するための厚みを不要とし、ボビン台20の薄型化を図ることが可能となる。
【0047】
また、糸巻き装置10では、ボビン台20を嵌合保持する回転制止カム機構90のストッパ91を検出レバー70に設けているため、検出レバー70とストッパ91との連動を図る手段を不要とし、部品点数の軽減を図ることが可能となる。
さらに、検出レバー70の位置調節を行う長穴71aを有する基部71と長穴71aを介して検出レバー70を回動軸61に締結固定する止めネジ76とにより検出レバー70の位置調節を行うことができ、これにより、クランプ21の停止位置を調節することができるので、クランプ21の停止位置を任意の角度に調節することが可能となる。
また、検出レバー70の位置調節を行うことでクランプ21の停止位置を調節するので、土台50の表面側、即ち、ミシンフレームの外部において、調節作業を行うことができ、当該作業を容易且つ迅速に行うことが可能となる。
【0048】
[その他]
回転制止カム機構90が回転しないように保持を行う回転体としてボビン台20を利用しているが、糸巻き車30以外の支軸40に装備される回転体を利用しても良い。その場合、ストッパ91は検出レバー70には設けず、ストッパは、検出レバー70と連動するように動作の連結を図りつつ、回転体に併設する必要がある。
【符号の説明】
【0049】
10 糸巻き装置
20 ボビン台
21 クランプ
23 挿入穴
30 糸巻き車
31 駆動車
40 支軸
42 平坦面
50 土台
60 自動停止機構
61 回動軸
62 固定軸
63 回動腕
70 検出レバー
71 基部(クランプ停止位置角度調節機構)
71a 長穴(クランプ停止位置角度調節機構)
76 止めネジ(クランプ停止位置角度調節機構)
80 動力伝達カム機構(動力切断機構)
81 第一のカム部材
81a 突起
82 第二のカム部材
82a 凹部
82b 係合片
83 バネ
90 回転制止カム機構(制止機構)
91 ストッパ
92 カム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンを保持するボビン台と、
前記ボビン台に設けられ、前記ボビンに巻く縫い糸の端部を切断して保持するクランプと、
ミシンモータにより回転駆動を行う駆動車と、
前記駆動車の回転平面に当接してトルク伝達が行われると共に、支軸を介して前記ボビン台を回転させる糸巻き車と、
前記ボビン台に保持されたボビンに巻かれた縫い糸が一定量に達すると当該縫い糸に押圧されて所定方向への回動を行う検出レバーと、
前記ボビン台及び前記検出レバーを支持する土台と、
前記検出レバーの所定方向の回動動作により前記糸巻き車を前記駆動板から離間させる動力切断機構と、
前記検出レバーの所定方向の回動動作により前記ボビン台を一定の回転角度で制止させる制止機構とを備えるミシンの糸巻き装置において、
前記糸巻き車は、前記支軸に沿って位置を調節することにより前記駆動車からの伝達回転速度を変更可能であり、
前記制止機構は、前記支軸に設けられた回転体に対して嵌合保持するカム機構を有し、
前記回転体を前記糸巻き車と別部材で構成したこと特徴とするミシンの糸巻き装置。
【請求項2】
前記制止機構は、前記ボビン台に設けられたカム部と、前記検出レバーに設けられ、前記カム部に嵌合可能なストッパから構成されることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸巻き装置。
【請求項3】
前記土台に対する前記検出レバーの位置調節を行うことで前記クランプの停止位置を調節するクランプ停止位置角度調節機構を有することを特徴とする請求項2記載のミシンの糸巻き装置。
【請求項4】
前記検出レバーが固定されるとともに、前記土台に回動可能に支持された回動軸と、
前記支軸を回転可能に支持する回動腕を介して前記支軸に連結されるとともに、前記土台に固定された固定軸を有し、
前記動力切断機構は、
前記回動軸に固定装備された第一のカム部材と、
前記固定軸に回動可能に支持されるとともに、一端側が前記第一のカム部材に係合可能で、他端側が前記回動腕に当接可能な第二のカム部材を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のミシンの糸巻き装置。
【請求項5】
前記ボビン台に前記支軸の挿入穴を設け、前記支軸の挿入部と前記挿入穴とを同一の非円形の断面形状としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のミシンの糸巻き装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−239667(P2012−239667A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113068(P2011−113068)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】