説明

ミシン

【課題】伝達機構の一部を油とともに機構室に閉じ込めたミシンにおいて、機構室からの油漏れを防ぎ、多くの油を貯留して機構室内の機構を潤滑する。さらに機構室外の機構にも給油する。
【解決手段】本ミシンは、布送り装置の伝達機構の一部を納めた機構室5a、機構室と離れた別空間としての浮き子室5b、及び機構室と浮き子室との空気及び油の流通を可能とする連通管5c、5dとを有するオイルタンク5を備える。同タンクの内部と外部との空気及び油の流通を可能とする孔が浮き子室の側壁に設けられる。連通管の内部の少なくとも上部空間5c1は、機構室と浮き子室とに亘って孔の下端より上に配置されている。また本ミシンは同タンクから油を吸引して同タンク外の釜Kの機構に油を供給し、同タンクに油を戻す循環型の給油機構(3,8a,8b,8c)及びオイルパン9に貯留された油を吸引して同タンクに供給する給油機構(3,11a,11b)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの給油機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンの各駆動機構部へ給油するために、油の貯留部としてオイルパンやオイルタンクが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1(段落0011‐0013、図4)にも記載されるように、ミシン下部に設置されたオイルパンに貯留された油をポンプで汲み出し供給パイプを介して駆動機構部に供給するものがある。また、油は還流パイプを介してオイルパンに還流する。
また、特許文献1の出願発明は、ミシン本体の天秤などが設置された面部と、上軸の回転を下軸に伝達するギア部とを遮断する遮断部材(同文献中31)を設け、面部側にグリースを収容するグリース収容部を形成し、このグリース収容部内に収容したグリースにより面部内の機構部品のうち少なくとも1つの摺動部を潤滑するとともに、ギア部内のうち少なくとも1つの摺動部を油により潤滑するように構成し、ミシン本体の面部を油により潤滑するギア部から遮断して、ギア部の油の面部への浸入を防止することができるようにしたものである。ギア部への給油はオイルパンから行っている。
【0004】
オイルタンクの例は特許文献2に記載される。特許文献2記載のオイルタンクにあっては、摺動部位に対する潤滑油の供給量の変化、および、ミシン本体の傾倒時における潤滑油の空気抜き孔から外部への噴出の少なくとも一方を防止することによる高性能化を確実に図るために、タンク本体の天壁に、タンク本体の内部空間と連通する空気溜室を内部に具備する天蓋部を突出するように設け、この天蓋部に還流口を設け、ミシン本体を傾倒させた際に、タンク本体の内部に貯留された潤滑油が空気抜き孔からタンク本体の外部に噴出するのを防止するための噴出阻止壁をタンク本体の天壁の内面に設けた。
【0005】
一方、被縫製布の送り機構を下軸の回転動力を取り出して構成することがある。この場合、下軸の回転動力を、所定の浮上沈下を伴った往復運動に変換しつつ布を送る部材に伝達する伝達機構を構成する必要がある。このとき、当該伝達機構の一部、及び下軸の当該伝達機構と連結する一部を油とともに密閉箱に閉じ込め、その内部で周回する歯車などの回転部材により、油を攪拌させて密閉箱内の各伝達機械部品に油を供給する構成が採られることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−137479号公報
【特許文献2】特開2007−296096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の伝達機構の一部を油とともに密閉箱に閉じ込める潤滑方式によれば、下軸等が密閉箱の壁部を内外に貫通するから外部に油が漏れる可能性があるため、大量の油を溜めることができなかった。
また、攪拌部材の周回はミシンの回転に同期するため、ミシン回転時に密閉箱内の圧力が上がることがあり、これによっても油が漏洩するおそれがあった。
この圧力の高まりを防止するため、伝達機構の収容箱に空気孔を設ける必要があったが、この空気孔は油漏れの懸念があるために小さくする必要があったり、ミシンの出荷時は、この空気孔からの油漏れを防ぐためにこの空気孔をゴムで塞ぐなどの対策が必要となったりした。
【0008】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、伝達機構の一部を油とともに機構室に閉じ込めて当該伝達機構を潤滑させるミシンにおいて、機構室からの油漏れを防ぎ、多くの油を貯留して機構室内の機構を潤滑することができるミシンを提供することを課題とする。
さらには、上記機構室外の機構に給油する給油機構をも構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、ミシンを駆動するための伝達機構の一部を納めた機構室、前記機構室と離れた別空間、及び前記機構室と前記別空間との空気及び油の流通を可能とする連通管とを有するオイルタンクを備え、
前記オイルタンクの内部から外部への空気及び油の流通を可能とする孔が前記別空間の側壁に設けられ、
前記連通管の内部の少なくとも上部空間は、前記機構室と前記別空間とに亘って、前記孔の下端より上に配置されているミシンである。
【0010】
請求項2記載の発明は、外部から前記機構室及び前記別空間に油を補給するための給油路を備え、
前記別空間は、前記オイルタンク内の油残量を計量するための浮き子を収める浮き子室とされてなることを特徴とする請求項1に記載のミシンである。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記オイルタンクから油を吸引して当該オイルタンク外の機構に油を供給し、当該オイルタンクに油を戻す循環型の給油機構を備える請求項2に記載のミシンである。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記孔の直下位置を含む下部領域に配置されたオイルパンと、前記オイルパンに貯留された油を吸引して前記オイルタンクに供給する給油機構を備える請求項3に記載のミシンである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機構室及び別空間を含むオイルタンク内に大量の油を供給しても、別空間の側壁に設けられた孔から溢れた油が排出されるので、オイルタンク内は当該孔の下端を越える油位にならず、機構室と別空間とを繋ぐ連通管の内部の少なくとも上部空間は、機構室と別空間とに亘って当該孔の下端より上に配置されているので、機構室と別空間とを繋ぐ気道が確保され、機構室内で油が攪拌されても、機構室上部の空気が連通管、別空間及びその孔を介して外部に連通するので、機構室内の内圧の高まりが抑えられ、機構室からの油漏れを防ぎ、多くの油を貯留して機構室内の機構を潤滑することができるという効果がある。
【0014】
また本件請求項2記載の発明によれば、油を補給可能なオイルタンクを構成でき、機構室とは離れた別空間の比較的安定した油位を浮き子により測定することにより油残量を正確に測定することができるという効果がある。
【0015】
また本件請求項3記載の発明によれば、本オイルタンクを油の貯留源(供給源)として機構室外の機構に給油する給油機構をも構成することができるという効果がある。
【0016】
また、本件請求項4記載の発明によれば、別空間の側壁に設けられた孔から溢れた油をオイルパンで受け、再び本オイルタンクに戻すことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るミシンの正面図でミシンベッド部の内部が描かれる。
【図2】本発明の一実施形態に係るミシンのオイルタンクの正面内視図である。
【図3】本発明の他の一実施形態に係るオイルタンクの正面内視図(a)、及びさらに他の一実施形態に係るオイルタンクの正面内視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0019】
まず、本発明の一実施形態につき、図1及び図2を参照して説明する。
図1に示すように本実施形態のミシン1は、下軸2と、プランジャポンプ3と、釜4と、オイルタンク5と、給油口6と、給油口6からオイルタンク5への給油管7と、釜4への給油管8a,8bと、還流管8cと、オイルパン9と、循環フィルタ10と、オイルパン9からオイルタンク5への給油管11a,11bと、油残量表示部12と、浮き子13とを備える。
【0020】
図2に示すようにオイルタンク5は、機構室5aと、浮き子室5bと、上部連通管5cと、下部連通管5dと、浮き子室5bの側壁の孔5eと、給油管接続口5fとを備え、油Lが貯留されている。
図1に示すように孔5eの直下位置を含む下部領域にオイルパン9が配置される。
【0021】
下軸2は、図示しない電動モータ等の動力源から回転動力が伝達されて回転駆動される。下軸2は、オイルタンク5の機構室5aを貫通する。機構室5aの外壁部と下軸2の周面との間は、油Lが漏洩しないように封止されている。機構室5aには、布送り装置を構成する歯車やリンク等からなる伝達機構が収められており、機構室5a内の油Lにより潤滑される。
【0022】
また下軸2には、機構室5aに隣接した部位にプランジャポンプ3が付設されている。下軸2の回転によりプランジャポンプ3が駆動される。本プランジャポンプ3は2つのポンプで構成される。
【0023】
本ミシン1は、オイルタンク5から油Lを吸引してオイルタンク5外の機構である釜4を動作させる機構に油を供給し、オイルタンク5に油Lを戻す循環型の給油機構を備える。この給油機構による油の流れは以下の通りである。
プランジャポンプ3が駆動されることにより、オイルタンク5の機構室5aの下部から給油管8aを介して油Lが吸引される。さらに、プランジャポンプ3の1つのポンプを通過した油は、給油管8bを通って釜4を動作させる機構に供給される。釜4を動作させる機構の油排出口から還流管8cを介してオイルタンク5の機構室5aの上部に油は戻る。
【0024】
また本ミシン1は、オイルパン9に貯留された油を吸引してオイルタンク5に供給する給油機構を備える。この給油機構による油の流れは以下の通りである。
プランジャポンプ3が駆動されることにより、オイルパン9から循環フィルタ10、給油管11aを介して油が吸引され、プランジャポンプ3の他の1つのポンプを通過した油が給油管11bを通って、給油口6からオイルタンク5への給油管7に合流し、オイルタンク5に供給される。
なお、本給油機構を省略して実施しても良い。
【0025】
さて、図2を参照してオイルタンク5の構造を詳細に説明する。
図2に示すようにオイルタンク5の機構室5aと、浮き子室5bとは水平方向に離れて配置される。
上部連通管5c及び下部連通管5dはともに水平に配置される。但し、下部連通管5dは上部連通管5cより下に配置される。
上部連通管5cの一端は機構室5aに接続され、他端は浮き子室5bに接続される。同じく下部連通管5dの一端は機構室5aに接続され、他端は浮き子室5bに接続される。
上部連通管5c及び下部連通管5dにより、機構室5aと浮き子室5bとの空気及び油の流通が可能となる。
【0026】
浮き子室5bの側壁には、孔5eが設けられている。この孔5eにより、オイルタンク5の内部と外部との空気及び油の流通が可能となる。
したがって、オイルタンク5内は孔5eの下端を越える油位にならない。
上部連通管5cの内部の少なくとも上部空間5c1は、機構室5aと浮き子室5bとに亘って、孔5eの下端より上に配置されている。
したがって、機構室5aと浮き子室5bとを繋ぐ気道が上部空間5c1により確保され、機構室5a内で油Lが攪拌されても、機構室5a上部の空気が上部連通管5c、浮き子室5b及び孔5eを介してオイルタンク5の外部に連通するので、機構室5a内の内圧の高まりが抑えられる。そのため、内圧の高まりに起因した機構室5aからの油漏れが防がれる。
【0027】
下部連通管5dの上側には給油管接続口5fが開口形成されている。給油管接続口5fに、給油口6からオイルタンク5への給油管7の下端が接続されている。
給油口6から油が補給されたとき、又は給油管11bから油が供給されたとき、油は、給油管7を下って給油管接続口5fから下部連通管5dに流入し、分岐して機構室5aと浮き子室5bとに流入する。すなわち、給油管7と下部連通管5dとで機構室5a及び浮き子室5bに油を外部から補給するための給油路が形成される。
浮き子室5bには、浮き子13が収められている。浮き子13は、浮き子室5bの油位に従って上下動する。浮き子室5bの上下位置に従って油残量表示部12に油残量が表示される。
【0028】
下部連通管5dの全体を等内径に形成する場合は、油Lの高粘度も原因して、容量の大きい機構室5aの油位上昇が遅れ、浮き子室5bの油位上昇が早くなる。その結果、機構室5aと浮き子室5bとで油位が異なってしまい、正確にオイルタンク5内の油残量を計量することができないばかりか、オイルタンク5を最大容量まで油で満たすことが難しくなる。
そこで、本ミシン1においては、下部連通管5dの給油管接続口5fからの分岐部を含む部分は、テーパ管部5gにより構成される。テーパ管部5gは、機構室5a側の端部を大径(φA)に、浮き子室5b側の端部を小径(φB)にしたテーパ状に形成されている。例えば、φA=6〔mm〕、φB=4.5〔mm〕とされる。
このテーパ管部5gにより、油補給時の機構室5aと浮き子室5bとでの油位上昇が均等となり、正確にオイルタンク5内の油残量を計量し表示することができるし、オイルタンク5を最大容量まで油で満たすことができる。
【0029】
以上の実施形態にあっては、機構室と離れ、側壁に孔が設けられる別空間を浮き子室としたが、この別空間を浮き子室とせずに、図3(a)又は図3(b)に示すように構成しても良い。
【0030】
図3(a)に示すオイルタンク5Kにあっては、孔を設ける別空間が垂直管5hとされる。垂直管5hの上端は、上部連通管5cに接続され、下端は下部連通管5dに接続され、機構室5aと、垂直管5hとが上部連通管5c及び下部連通管5dを介して連通する。垂直管5hの上端部に上記実施形態と同様の目的の孔5eが設けられる。
【0031】
図3(b)に示すオイルタンク5Lは、図3(a)に示すオイルタンク5Kとほぼ同様であるが、垂直管5hと上部連通管5cとを接続する継手部品5mに上記実施形態と同様の目的の孔5eが設けられる。なお、垂直管5hの下端は継手部品5nを介して下部連通管5dに接続されている。
【0032】
なお、本発明を実施するためには、機構室と浮き子室との空気及び油の流通を可能とする連通管としては、上部連通管5cのみでも十分であるが、上記実施形態においては、補給可能、かつ、浮き子室を有するオイルタンクを構成するので、下部連通管5dをも構成することが好ましい。この下部連通管5dから油を補給することで、オイルタンク5内の油位を下から徐々に上昇させて上部連通管5c内に気道を確保し易くなる。また、機構室5aの底部と浮き子室5bの底部とが下部連通管5dにより連通しているから、油が消費されても、機構室5aと浮き子室5bとで油位を平衡することができ、油残量を正確に計量することができる。したがって、下部連通管5dの内部空間の全体を孔5eの下端より低く配置することが好ましく、できるだけ低い位置に設けることが好ましい。但し、機構室5a及び浮き子室5bの底より低くする必要はない。
【0033】
また、上記実施形態にあっては、上部連通管5cの内部空間の範囲に孔5eの下端高さ位置があるように上部連通管5c及び孔5eを配置した。したがって、上部連通管5cを介して機構室5aと浮き子室5bとの間で空気が流通するが、油位が高い場合には、上部連通管5cを介して機構室5aと浮き子室5bとの間で油も流通可能である。これにも拘らず、上部連通管5cの内部空間の全体を孔5eの下端より高くしても良い。この場合は、上部連通管5cをできるだけ高い位置に設け、空気の流通のみを担わせることが好ましい。孔5eより高い位置で機構室5aから浮き子室5bに油が流入すると孔5eから油が排出されてしまうからである。
【符号の説明】
【0034】
1 ミシン
2 下軸
3 プランジャポンプ
4 釜
5 オイルタンク
5a 機構室
5b 浮き子室(別空間)
5c 上部連通管
5d 下部連通管
5e 孔
5f 給油管接続口
5g テーパ管部
6 給油口
7 給油管
8a,8b 給油管
8c 還流管
9 オイルパン
10 循環フィルタ
11a,11b 給油管
12 油残量表示部
13 浮き子
L 油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンを駆動するための伝達機構の一部を納めた機構室、前記機構室と離れた別空間、及び前記機構室と前記別空間との空気及び油の流通を可能とする連通管とを有するオイルタンクを備え、
前記オイルタンクの内部から外部への空気及び油の流通を可能とする孔が前記別空間の側壁に設けられ、
前記連通管の内部の少なくとも上部空間は、前記機構室と前記別空間とに亘って、前記孔の下端より上に配置されているミシン。
【請求項2】
外部から前記機構室及び前記別空間に油を補給するための給油路を備え、
前記別空間は、前記オイルタンク内の油残量を計量するための浮き子を収める浮き子室とされてなることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記オイルタンクから油を吸引して当該オイルタンク外の機構に油を供給し、当該オイルタンクに油を戻す循環型の給油機構を備える請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記孔の直下位置を含む下部領域に配置されたオイルパンと、前記オイルパンに貯留された油を吸引して前記オイルタンクに供給する給油機構を備える請求項3に記載のミシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−110350(P2011−110350A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271901(P2009−271901)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】