説明

ミストコレクタ

【課題】空気中に含まれるミストの分離性能を高め、メンテナンスを不要とし得るミストコレクタを提供する。
【解決手段】円筒形状のケース体12内には、電動モータ21により回転駆動される多重回転フィン組立体31が設けられている。多重回転フィン組立体31は、それぞれ上下方向に伸びるとともに円周方向に傾斜し、気流案内隙間32を介して円周方向に重ねられる複数のフィン形分離板33を有している。インペラ30により連通空間41内に旋回して送り込まれた気流に含まれるミストは、フィン形分離板33に付着して遠心力により径方向外方に飛散する。ミストが除去された空気は、多重回転フィン組立体31の中央部から排気流路46を介して外部に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に含まれるオイル等の液体のミストを遠心力により空気と分離して除去するミストコレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品などの被加工物を切削加工したり研削加工したりする際には、切削液や研削液を被加工物に供給して切削熱の除去及び切粉を除去する。加工後被加工物に付着した切粉は洗浄装置によって切粉等を洗浄除去する。この際加工装置や洗浄装置からは切削液や洗浄液が霧状の液滴、いわゆるミストとなって機械装置外に拡散して工場内環境を悪くしていた。その対策としてミストコレクタによってミストを吸引除去するようにしている。
【0003】
ミストを除去するためのミストコレクタとしては、フィルターを使用するタイプが通常である。フィルターの形態としては、特許文献1に記載されるように、ケース内に固定された濾過板つまりフィルターにミストを含む空気を通過させるようにした固定フィルター式と、特許文献2に記載されるように、円筒形状の回転式フィルターがケース内に組み込まれた回転式フィルター式とがある。この回転フィルター式においては、回転駆動される円筒形状のフィルターに外側から空気を供給するようにし、濾過された空気はフィルターの内側から外部に排出されるようになっている。フィルターに代えて円盤型の回転ブラシを用いるようにした回転ブラシ式のミストコレクタが特許文献3に記載されている。回転ブラシ式においては、ノズルから冷却水や洗浄液を回転ブラシに付けることにより、回転ブラシにミストや粉塵を付着させるとともに空気を冷却するようにしている。
【0004】
フィルターを使用しないタイプとしては、特許文献4および特許文献5に記載されるように、ミストを含む気流を回転円板の表面に垂直に吹き付けるようにし、回転円板に衝突して付着したミストを遠心力により空気と分離するようにした遠心分離式のミストコレクタがある。
【0005】
さらに、ミストコレクタには、ミストを帯電させるようにした電気集塵方式があり、通常の電気集塵方式においては電極にミストを付着させるようにしている。これに対し、特許文献6には、正電極と負電極とに高電圧を与えてコロナ放電を発生させ、両電極間にミストを含む空気を通過させることにより、ミストをクーロン力により凝集させるようにした電気集塵方式のミストコレクタが記載されている。このタイプの電気集塵方式においても、凝集された液滴を捕集するために、両電極の下流側にはフィルターが配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−243332号公報
【特許文献2】特開2006−289272号公報
【特許文献3】特開2006−175319号公報
【特許文献4】特開平9−105399号公報
【特許文献5】特開2008−119694号公報
【特許文献6】特開平8−52314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した固定式と回転式のいずれのタイプにおいてもフィルターを用いると、空気流にはフィルターの通気抵抗が加わるため、空気流を生成するファンの消費電力が電気集塵方式よりも大きくなる。しかも、フィルターが目詰まりして吸収限界を超えると、ミストが空気流に押し流されて下流側に再飛散してフィルターとしての機能を喪失することになるので、定期的にフィルターを交換したり、特許文献1に記載されるように目詰まりを除去するためにフィルターに洗浄水を吹き付けたりする必要がある。しかし、単にフィルターに洗浄液を吹き付けるだけではフィルターの目に詰まった細かい切粉などは除去することができず、自動洗浄によるメンテナンスフリーは困難である。回転式フィルターにおいては、フィルターに付着したミストはフィルターの遠心力によりフィルターの外側に飛散させるようにしているので、フィルターの目詰まりは、固定フィルター式よりも少なくすることができるが、遠心力ではフィルターに食い込んだ固形粒子等を完全に除去することが困難である。このためフィルターの目に食い込んだ固形粒子が回転バランスを崩しフィルターに振動が発生し、ベアリングを損傷する。
【0008】
フィルターを使用しない回転ブラシ式のミストコレクタにおいては、回転ブラシにミストや粉塵を付着させるとともに空気を冷却するために、回転ブラシにはノズルから冷却水や洗浄液を吹き付ける必要があり、多量の冷却水や洗浄液を使用しなければならない。
【0009】
特許文献4および特許文献5に記載される遠心分離式のミストコレクタにおいては、遠心分離室に工業用水やクーラント液などを供給することによって回転円板を洗浄することは可能であるが、このような構造では遠心分離の効果を充分引き出しているとは言えず、遠心力によって細かいミストを分離するには限界があるので、下流側にフィルターを設けて分離性能を確保している。このため、遠心分離式においてもフィルターのメンテナンスが必要となっている。
【0010】
一方、集塵電極板にミストを付着させるようにした電気集塵方式のミストコレクタにおいては、集塵電極板にミストがタール状となって付着することになるので、それを取り除くのは容易ではなく、その取り除き作業は熟練した専門家によらなければならない。集塵電極板を自動的に洗浄するようにしたタイプもあるが、温水製造用のヒータや噴射用の洗浄ポンプが必要となり、このタイプのミストコレクタは高価となっている。しかも、特許文献6に記載されるように、コロナ放電によりミストを凝集させるようにした電気集塵方式においては、凝集された液滴を取り除くために、下流側にフィルターを配置する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、空気中に含まれるミストの分離性能を高めるミストコレクタを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、メンテナンスを不要とし得るミストコレクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のミストコレクタは、空気に含まれる液体のミストを除去するミストコレクタであって、上端部に設けられた流入口に連通する分離室が内部に形成され、上下方向に配置される円筒形状のケース体と、前記ケース体の上端部内に回転自在に装着され、前記ケース体に取り付けられた電動モータにより駆動される回転軸と、それぞれ上下方向に伸びるとともに外周部が内周部よりも回転方向に向けて迫り出すように円周方向に傾斜し、気流案内隙間を介して円周方向に重ねられる複数のフィン形分離板を備え、前記回転軸に連結されて前記気流案内隙間を径方向内方に向けて流れる気流を旋回させ気流中に含まれるミストをそれぞれの前記フィン形分離板に付着させて径方向外方に飛散させる多重回転フィン組立体と、前記回転軸に連結され、前記流入口から流入した気流を前記ケース体の内面と前記多重回転フィン組立体の外面との間の連通空間に気流を旋回させて送り込むインペラと、前記ケース体の下端部に設けられ、前記多重回転フィン組立体の中央部を通過してミストが分離された気流を外部に案内する内側の排気流路とミストが流入する外側のドレン室とに仕切る排出筒体とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のミストコレクタは、前記回転軸を回転自在に支持するホルダーを前記ケース体の天板に取り付け、前記回転軸に取り付けられる駆動部材を介して前記多重回転フィン組立体を前記ホルダーに吊り下げた状態で保持することを特徴とする。本発明のミストコレクタは、気流が貫通する貫通孔が形成された環状の駆動板を前記駆動部材に連結ロッドを介して連結し、前記駆動部材と前記駆動板との間でそれぞれの前記フィン形分離板を上下から挟み込むことを特徴とする。本発明のミストコレクタは、前記フィン形分離板の断面形状は円周方向の角度に対して安息角を一定に保つために湾曲した形状にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気流案内隙間をフィン形分離板に沿って流れる気流は多重回転フィン組立体の径方向外方から内方に向けて流れ、気流に含まれるミストは遠心力によりフィン形分離板の回転方向面に付着する。フィン形分離板に付着したミストは液膜となってフィン形分離板の径方向外方に移動し、その外周端から遠心力によりケース体の円周部の内周面に付着し、ドレン室に落下する。一方、ドレンが除去された気流は、多重回転フィン組立体の中央部から排気流路を介して外部に排出されるので、フィルターを用いることなく、微細粒径のミストを確実に除去することができる。これにより、空気中に含まれるミストを高い分離性能で除去することができる。フィン形分離板に固形粒子が付着しても、フィン形分離板の表面をすべって径方向外方に移動し分離されるが、仮に付着しても洗浄液を多重回転筒体に定期的に供給するだけで、フィン形分離板に付着した固形粒子を完全に洗い流すことができるので、メンテナンスが不要となる。
【0016】
フィルターによりミストを除去する場合に比して、多重回転フィン組立体を通過する空気の通気抵抗が小さいので、空気の圧力損失が少なく、気流を生成するための電動モータの容量を小さくすることができ、消費電力を低減することができる。
【0017】
フィルターを用いた場合にはその交換が必要となるが、フィルター交換が不要となるので、フィルター交換の費用が不要となり、ランニングコストを低減することができる。また、電気集塵機のように極板の清掃作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態であるミストコレクタを示す断面図である。
【図2】図1における2−2線拡大断面図である。
【図3】図1における3−3線拡大断面図である。
【図4】図1における4−4線拡大断面図である。
【図5】多重回転フィン組立体の一部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すミストコレクタ10は、内部に分離室11が形成されたケース体12を有している。ケース体12は円筒部12aと、この上端部にボルト13により締結される天板12bと、下端部に固定される底板12cとにより形成されている。ケース体12の下端部外周には複数の脚片14が取り付けられており、ケース体12は脚片14により支持基盤の上に上下方向を向いて設置される。
【0020】
図1に示されるように、ケース体12の円筒部12aの上端部にはミストを含む空気が流入する流入口15が分離室11に連通して形成されている。流入口15に連通させてケース体12にはダスト分離器16が取り付けられ、ダスト分離器16を介してケース体12にはミストを含む空気を案内するためのダクト17が接続されるようになっている。ダスト分離器16の内部には、ダクト17により案内される空気中に含まれるフィンの隙間を詰まらせてしまう大きな切粉等の固形物を除去するために、メッシュ状の金網またはパンチングメタルなどからなる異物除去板18が設けられている。ミストコレクタ10は切削機械や研削機械、洗浄機械などの近傍に設置され、切削液や研削液、洗浄液のミストを含む空気がダクトを介してケース体12の分離室11に供給される。
【0021】
天板12bの上にはその径方向中央部に電動モータ21が取り付けられており、電動モータ21の主軸21aは天板12bを上下方向に貫通してケース体12の内部に突出している。天板12bの下面には中空円筒形状のホルダー22が取り付けられており、ホルダー22のフランジと電動モータ21のフランジはボルト23により天板12bに締結されている。ホルダー22の内部に回転自在に装着されたスピンドル軸つまり回転軸24は、電動モータ21の主軸21aに連結されており、回転軸24は上端部が軸受25aを介してホルダー22により支持されるとともに下端部が軸受25bを介してホルダー22により支持される。
【0022】
回転軸24の下端部には、円板からなる駆動部材26が取り付けられている。駆動部材26の中央部に形成された取付孔には連結フランジ27がボルト28により固定され、連結フランジ27を回転軸24にボルト等により取り付けることによって、回転軸24は駆動部材26に締結される。回転軸24はホルダー22により下方移動が規制されるように支持され、回転軸24に固定された駆動部材26はホルダー22に吊り下げられた状態となって保持される。この円板からなる駆動部材26は流入口15から流入した気流を分離室11の外周部に向けて案内する整流部材としての機能を有している。
【0023】
ケース体12の円筒部12aには、図1に示されるように、流入口15と駆動部材26との間に位置させてガイド板19が配置されている。ガイド板19は環状の水平部19aとこの中央部に設けられた円筒部19bとを有しており、天板12bにねじ止めされる複数本の吊り下げロッド20により天板12bに取り付けられるようになっている。円筒部19bの上端部は上方に向けて径が大きくなるようにテーパ部となっており、ガイド板19は、流入口15から流入したミストを含む空気を分離室11の中央部から下方に案内する。
【0024】
円板状の駆動部材26の上側には、図2に示されるように、複数のインペラ30が取り付けられている。それぞれのインペラ30は駆動部材26を介して回転軸24に連結されており、インペラ30により遠心式送風機が形成されている。インペラ30が取り付けられた駆動部材26は、流入口15からガイド板19の円筒部19b内を通過した気流を径方向外方に向けて案内する整流部材としての機能を有している。したがって、電動モータ21を駆動して図2において矢印Rで示す方向に駆動部材26を回転駆動すると、駆動部材26に取り付けられたインペラ30により、流入口15から流入した気流は、矢印Rで示す方向に旋回しながら径方向外方に吹き付けられた後に、分離室11の外周部分において下方に向けて送られる。
【0025】
図1に示すように、駆動部材26には回転軸24と同軸状となって多重回転フィン組立体31が装着されており、多重回転フィン組立体31は駆動部材を介して回転軸24に取り付けられている。多重回転フィン組立体31は、図1に示されるように回転軸24の回転中心軸Oに平行となって上下方向に伸びて駆動部材26の外周部に取り付けられるとともに、図3に示されるように回転方向に向けて外周部が内周部よりも迫り出すように円周方向に傾斜して気流案内隙間32を介して円周方向に重ねられる複数枚のフィン形分離板33を有している。したがって、多重回転フィン組立体31は図1および図3に示されるように全体的に中央部に貫通孔が形成された円筒形状となっている。それぞれのフィン形分離板33は、図3および図5に示されるように、回転方向を向いた回転方向面が凹面となっている。
【0026】
多重回転フィン組立体31を駆動部材26に装着するために、図1および図3に示されるように、中央部に貫通孔34が形成された環状の駆動板35が複数本の連結ロッド36により駆動部材26に連結されており、それぞれのフィン形分離板33は駆動部材26と駆動板35との間で挟み込まれている。駆動板35の内面には、図1および図3に示されるように、環状の係合突起37が2つ設けられており、それぞれの係合突起37には、フィン形分離板33の下端部が係合される係合溝38が形成されている。同様に、駆動部材26の内面には係合突起37に対向して係合突起37aが2つ設けられており、それぞれの係合突起37aにはフィン形分離板33の上端部が係合する係合溝(図示省略)が形成されている。このように、それぞれのフィン形分離板33は上下両端部が駆動部材26と駆動板35に形成された係合溝に係合した状態で駆動部材26と駆動板35とにより挟み込まれた状態となって回転軸24に取り付けられている。ただし、係合突起37,37aを設けることなく、駆動部材26の下面と駆動板35の上面との全体にフィン形分離板33が係合する係合溝38を形成するようにしても良い。
【0027】
さらに、それぞれのフィン形分離板33の径方向外方端には、図1に示されるように、V字形状の切欠き39が上下2個所に形成されている。それぞれのフィン形分離板33により形成される多重回転フィン組立体31の外周には、それぞれの切欠き39により形成される環状凹部に配置される締結リング40が取り付けられている。これにより、多重回転フィン組立体31は2つの締結リング40により補強されており、回転時におけるフィン形分離板33の遠心力による変形が防止されて気流案内隙間32の隙間寸法が保持されるようになっている。
【0028】
図1に示されるように、駆動部材26と駆動板35との間に挟み付けられた複数のフィン形分離板33を有する多重回転フィン組立体31は、全体的に円筒形状となっており、その外周面とケース体の円筒部12aの内周面との間には連通空間41が形成されている。この連通空間41には、インペラ30により送り込まれた気流が旋回しながら整流板としての機能を有する駆動部材26により案内されて流入し、連通空間41からそれぞれの気流案内隙間32内に気流が供給される。
【0029】
図示する多重回転フィン組立体31は、図3に示されるように、90枚のフィン形分離板33を有しており、それぞれのフィン形分離板33の相互間によって合計89の気流案内隙間32が多重回転フィン組立体31に形成されている。ただし、多重回転フィン組立体31を形成するフィン形分離板33の数は、図示する数に限定されることなく、多いほどミスト分離性能は良いが要求性能や製造コストの兼ね合いで枚数を設定すれば良い。
【0030】
連通空間41内に旋回しながら流入した気流は、回転による大きな運動エネルギーを有している。フィン形分離板33は外周部が内周部よりも回転方向に向けて迫り出しており、内周部が外周部よりも回転方向に後退しているので、連通空間41内から気流案内隙間32内に流入した気流は、図5において矢印で示すように多重回転フィン組立体31の回転方向とは逆方向に流れることになる。これにより、フィン形分離板33は反動タービンとして機能して多重回転フィン組立体31に回転方向のトルクを与え、電動モータ21の負荷を低減して電動モータ21の消費電力を低減することになる。それぞれの気流案内隙間32内に径方向外方から流入した空気は、径方向内方に流れた後に下方に向かうことになる。
【0031】
電動モータ21により回転軸24と駆動部材26とを介して多重回転フィン組立体31が回転駆動されると、気流案内隙間32を流れる気流も回転駆動されることになる。気流に回転運動が加えられると、気流中に含まれるミストは遠心力によりフィン形分離板33の回転方向面に付着することになる。付着したミストは回転するフィン形分離板33により加えられる遠心力により径方向外方に液滴となって飛散される。液滴はフィン形分離板33の外周部から速度Uで飛散するが、外周部は円周速度Vで回転しているので、図5に示す速度三角形で示すように、絶対速度Wで液滴となって円筒部12aの内周面に斜め方向から付着する。このように、液滴は内周面に向けて斜め方向から入射するので、衝突による再飛散が起こりにくく内周面から再飛散して再び流入気流に乗ってフィン形分離板33に向かうことが防止される。
【0032】
飛散速度Uと円周速度Vとのなす角度をαとすると、この角度αは液滴がフィン形分離板33から滑り落ちる角度αつまり安息角以上とする必要がある。それぞれのフィン形分離板33は、回転方向面が凹面となるように湾曲しているので、図5に示されるように、フィン形分離板33の任意の点a〜cにおける角度αはそれぞれ同一角度となる。点bの位置は点cの位置に対して角度βだけ回転方向に進んだ位置を示し、点cの位置は点bの位置よりも角度βだけ回転方向に進んだ位置を示す。このように、フィン形分離板33の回転方向面における安息角を一定に保つようにすると、フィン形分離板33は円周方向に湾曲した形状となる。また、フィン形分離板33を湾曲した形状にすることによって遠心力による曲げ剛性が向上する。
【0033】
ケース体12の底板12cには、図1に示されるように、駆動板35の中央部に設けられた貫通孔34の内径よりもやや大径の排出筒体44が取り付けられている。排出筒体44の内側は底板12cに形成された排気口45に連通する排気流路46となっており、フィン形分離板33に回転トルクを与えた気流は排気流路46に排出される。排出筒体44の外側はケース体12の円筒部12aと底板12cとにより仕切られるドレン室47となっている。底板12cにはドレン室47に連通する排出パイプ48が取り付けられており、ドレン室47に流入した液体は排出パイプ48を介して外部に排出される。排出筒体44の上端部には駆動板35に対して僅かな隙間を介して対向するフランジ49が設けられており、駆動板35とフランジ49との間にミストを含んだ気流が流れ込むのを防止している。
【0034】
ダクト17から供給される気流にはミストのみならず切粉などの微細な固形粒子が含まれている。フィン形分離板33は安息角以上の角度を設けて固形粒子が堆積することを防止しているが条件によっては固形粒子が遠心力によってフィン形分離板33の表面に付着して次第に堆積してくる可能性がある。切粉等の固形粒子が堆積して気流案内隙間32が塞がれると、気流案内隙間32を流れる空気の圧力損失が増加し、処理流量が減少することになる。また、固形粒子の堆積分布に偏りが発生すると、多重回転フィン組立体31の回転がアンバランスになり、振動が発生するおそれがある。このため、図1に示されるように、天板12bには液体供給口51が設けられており、定期的に水やクーラント等の洗浄液体をインペラに向けて吹き付けるようにしている。
【0035】
電動モータ21により駆動部材26が回転駆動されている状態のもとで、液体供給口51から洗浄液をガイド板19の円筒部19bの内側に吹き付けると、インペラ30により飛散した洗浄液は分散されて各々の気流案内隙間32に流入する。この状態のもとで電動モータ21に対する電力供給を停止すると、吹き付けられた洗浄液がブレーキとなって電動モータ21は回転が急速に低下して停止することになる。多重回転フィン組立体31の回転が停止すると、気流案内隙間32内の洗浄液は自重で落下しながらフィン形分離板33に付着した固形粒子を剥ぎ取ることになる。なお、液体供給口51をケース体12の円筒部12aに設けて、洗浄液を多重回転フィン組立体31の外周部に直接吹き付けるようにしても良い。
【0036】
上述したミストコレクタ10を用いてミストを含む空気を処理してミストと空気とを分離処理するには、電動モータ21により駆動部材26を介して多重回転フィン組立体31とインペラ30とを回転駆動した状態のもとで、ダクト17からミストコレクタ10に空気を供給する。流入口15から分離室11内に流入した空気は、ガイド板19の円筒部19bの内側に流入し、遠心送風機としてのインペラ30によってケース体12の円筒部12aの内面に向けて旋回しながら径方向外方に流出され、さらに連通空間41を介し多重回転フィン組立体31のそれぞれの気流案内隙間32内に外周部から流入する。
【0037】
気流案内隙間32内に流入した気流は、フィン形分離板33に衝突してこれに沿って径方向内方に流れることになる。気流案内隙間32内を流れる気流は回転しながら流れることになり、気流中に含まれるミストには回転運動が加えられて遠心力によってミストは、各フィン形分離板33の回転方向面に付着して液膜となる。フィン形分離板に付着した液膜は、フィン形分離板33から加えられる遠心力により径方向外方に向けて逆流し、フィン形分離板33の外周部から液滴Lとなって径方向外方に向けて飛散する。飛散した液滴Lはケース体12の円筒部12aの内面に飛散してドレン室47内に落下する。
【0038】
一方、各気流案内隙間32の径方向内方から流出してミスト分が除去された空気は、排気流路46を通って外部に排出される。
【0039】
例えば、ミストコレクタ10の処理流量を10/minの仕様とし、フィン形分離板33の板厚を1.6mm、気流案内隙間32の半径方向の隙間dを8mm、フィン形分離板33の気流通過長さを0.215m、フィン形分離板33の上下方向長さを0.167m、多重回転フィン組立体31の平均直径を0.4mとすると、気流案内隙間32を沿って径方向内方に向けて通過する風速は0.85m/sである。これにより、気流が気流案内隙間32を通過する時間は、0.215m÷0.85m/s=0.25sとなる。多重回転フィン組立体31の回転数を2800rpmとすると、フィン形分離板33に作用する遠心力は重力加速度の1500倍となる。
【0040】
一方、ミストの比重を1とし(水の比重)、ミストの粒子径を1μmとすると、ストークスの計算式による重力下での空気中を沈降する速度は0.03mm/sとなる。粒径1μm程度の小さな液滴に作用する沈降速度はストークスの法則により重力加速度の倍数に比例するので、フィン形分離板33の回転方向面に向けて沈降する際の沈降速度は、0.03×1500=45mm/sとなる。気流が気流案内隙間32を通過する時間は、0.25sなので、この時間におけるミスト粒子の沈降距離は、45mm×0.25s=11mmとなる。これに対して、ミスト粒子の降着距離dは8mmなので、ミストが気流案内隙間32を通過するまでにフィン形分離板33に遠心分離されて付着することになる。
【0041】
したがって、この条件のもとでは、1μmの粒子がフィン形分離板33を抜けるまでにフィン形分離板33の回転方向面に付着して空気から確実にミストが分離される。粒径1μm以下の粒子は通常フュームと称されており、フィルターでも除去困難であるが、上述したように、複数のフィン形分離板33を隙間を介して重ね合わせることにより形成される多数の気流案内隙間32にミストを含む気流を通過させながら、これに遠心力を加えることによってミスト粒子を分離することが可能となる。ミストがフィン形分離板33に付着すると、ミストによりフィン形分離板33の回転方向面には液膜が形成されるが、液膜は回転するフィン形分離板33から遠心力を受けてこれに沿って径方向外方に向けて移動し、フィン形分離板33の外周部から液滴となってケース体12の円筒部12aの内周面に付着する。付着した液滴は、円筒部12aの内面に沿って自重により下方に流されてドレン室47内に収容される。フィン形分離板33の表面に、4フッ化エチレン重合体をコーティングすることにより固形粒子の付着を防止することができるとともに付着した液膜の流出性能を高めることができる。
【0042】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ダクト17から分離室11に供給する空気に対して送風ファンにより送風力を加えるようにすると、インペラ30を用いることなく、分離室11内に上部から下部に向かう気流が生成される。
【符号の説明】
【0043】
10 ミストコレクタ
11 分離室
12 ケース体
12a 円筒部
12b 天板
12c 底板
15 流入口
21 電動モータ
22 ホルダー
24 回転軸
26 駆動部材(整流部材)
30 インペラ
31 多重回転フィン組立体
32 気流案内隙間
33 フィン形分離板
41 連通空間
44 排出筒体
45 排気口
46 排出流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気に含まれる液体のミストを除去するミストコレクタであって、
上端部に設けられた流入口に連通する分離室が内部に形成され、上下方向に配置される円筒形状のケース体と、
前記ケース体の上端部内に回転自在に装着され、前記ケース体に取り付けられた電動モータにより駆動される回転軸と、
それぞれ上下方向に伸びるとともに外周部が内周部よりも回転方向に向けて迫り出すように円周方向に傾斜し、気流案内隙間を介して円周方向に重ねられる複数のフィン形分離板を備え、前記回転軸に連結されて前記気流案内隙間を径方向内方に向けて流れる気流を旋回させ気流中に含まれるミストをそれぞれの前記フィン形分離板に付着させて径方向外方に飛散させる多重回転フィン組立体と、
前記回転軸に連結され、前記流入口から流入した気流を前記ケース体の内面と前記多重回転フィン組立体の外面との間の連通空間に気流を旋回させて送り込むインペラと、
前記ケース体の下端部に設けられ、前記多重回転フィン組立体の中央部を通過してミストが分離された気流を外部に案内する内側の排気流路とミストが流入する外側のドレン室とに仕切る排出筒体とを有することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項2】
請求項1記載のミストコレクタにおいて、前記回転軸を回転自在に支持するホルダーを前記ケース体の天板に取り付け、前記回転軸に取り付けられる駆動部材を介して前記多重回転フィン組立体を前記ホルダーに吊り下げた状態で保持することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項3】
請求項2記載のミストコレクタにおいて、気流が貫通する貫通孔が形成された環状の駆動板を前記駆動部材に連結ロッドを介して連結し、前記駆動部材と前記駆動板との間でそれぞれの前記フィン形分離板を上下から挟み込むことを特徴とするミストコレクタ。
【請求項4】
請求項3記載のミストコレクタにおいて、前記フィン形分離板の断面形状は円周方向の角度に対して安息角を一定に保つために湾曲した形状にしたことを特徴とするミストコレクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−50877(P2011−50877A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202733(P2009−202733)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】