説明

ミューティング回路

【課題】 少ない部品点数で負電圧生成回路が実現できる構成を備えたミューティング回路を提供する。
【解決手段】 アンプOP10より出力される音声信号の負側信号を、ダイオードD2及びコンデンサC3で構成するピークホールド回路1により、ピークホールドして、このピークホールドによって生ずる負電圧で、ミュートトランジスタTr20のベース端子をバイアスすることにより、非ミュート時に、ミュートトランジスタTr20を、完全にオフ状態に、且つ安定的に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単電源で動作するオーディオ回路の信号ミュートを行うミューティング回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示す構成は、単電源ミューティング回路の従来構成例である。ミュート電圧(図中MUTEと図示)がトランジスタTr24のベースに印加されると、トランジスタTr24及びTr22がONする。
【0003】
トランジスタTr22から+V電圧がベース抵抗R30を介してミュートトランジスタTr20のベースに印加され、該ミュートトランジスタTr20がOn状態になり、(図視上INと示されたその入力を示す)音声信号は、ダンピング抵抗(保護抵抗)R34を介してグランドにショートされ、ミュート状態となる。
【0004】
ミュート電圧が0Vの時は、トランジスタTr24、Tr22共にOFFになり、トランジスタTr22のコレクタ端子はハイインピーダンスとなる。その結果ミュートトランジスタTr20はOFFとなる。つまりミュート解除となり、グランド側に音声信号は流れない。
【0005】
また交流信号(グランドレベルに対して、正負に変動する信号)をショートする場合、コレクタ電流の流れる方向がコレクタ−エミッタ方向、エミッタ−コレクタ方向と変動するので、このミュートトランジスタTr20には、逆方向の直流増幅値(リバースhfe)の大きなトランジスタを使用する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記ミュートOFF時、該ミュートトランジスタTr20は、ベース端子が解放と同等になるため、非常に不安定な状態になる。
【0007】
そのベース端子は入力インピーダンスが高いので、トランジスタTr22のコレクタ−抵抗R30間、抵抗R30−ミュートトランジスタTr20のベース間は、ノイズが乗り易く、ミュートトランジスタTr20の誤動作の原因となることがある。
【0008】
図5は、抵抗R30−ミュートトランジスタTr20間のベースラインにノイズが印加されてしまった場合(例えば人が触ってしまった場合)の波形図であり、ミュートされていないにも拘わらず、出力波形に影響が及んでしまっている(例えば上述の例では触ることでブーンというハムが生ずる)ことが分かる。
【0009】
一般的なスイッチング回路では、図6に示すように、ミュートトランジスタTr20ベース−グランド間に抵抗R32を挿入して、ミュートトランジスタTr20を安定させているが、ミューティング回路においては、ミュートトランジスタTr20は、上述のように、リバースhfeの大きなトランジスタが用いられているため、該ミュートトランジスタTr20のコレクタに接続されている音声信号電圧が、−0.6V以下になると、該ミュートトランジスタTr20のベース−コレクタ間のPN接合がONしてしまう。そのため、図7に示すように、音声信号の負側がクリップしてしまうことになる(図面に示されるようにちょうど負側のある領域以下だけがミュートされたような状態になる)。従って図6のように、グランドに落とすこともできない。
【0010】
そこで図8に示すように、抵抗R32を−Vに接続する(マイナスのバイアスをかけておく)必要があるが、マイナス電位により、ミュートトランジスタTr20の電位は安定することになる。上述のように、単電源が前提の構成であるため、+Vから−Vを作る回路100が別途必要となる。
【0011】
図9は、+Vから−Vを作る回路100の一例であるが、かなりの点数のディスクリート部品(アンプOP102及び104やダイオード110や112等その他の部品)が必要となってしまい、もっと簡単な構成にすることが望まれていた。
【0012】
本発明は、以上のような問題に鑑み創案されたもので、少ない部品点数で負電圧生成回路が実現できる構成を備えたミューティング回路を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の構成は、
単電源で動作するオーディオ回路のアンプ出力信号を、出力抵抗を介してミュートトランジスタでグランドにショートすることによりミュートする構成を有するミューティング回路において、
非ミュート時、出力される音声信号の負側信号をピークホールドするピークホールド回路(負電圧生成回路として)を備えており、
上記ミュートトランジスタのベース端子を、上記ピークホールド回路のピークホールドによって生ずる負電圧でバイアスすることにより、該ミュートトランジスタを完全にオフ状態に且つ安定して保つ
ことを基本的特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、前段のアンプより出力される音声信号の負側信号を、上記ピークホールド回路によりピークホールドして、このピークホールドによって生ずる負電圧で、ミュートトランジスタのベース端子をバイアスすることにより、非ミュート時に、ミュートトランジスタを、完全にオフ状態に、且つ安定的に保てるようにすることができるようになる。
【0015】
後述する実施例では、このミューティング回路は、負電圧生成回路として、わずか2部品で実現している。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明の構成によれば、ピークホールド回路を用いることで、少ない部品点数で負電圧生成回路を構成でき、ミュートトランジスタのベース端子を、ピークホールドすることによって生ずる負電圧でバイアスすることにより、非ミュート時に、ミュートトランジスタを、完全にオフ状態に、且つ安定的に保てるようにすることができるようになるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態を示す回路図である。
【0019】
本構成では、単電源構成である為、前段アンプを+V/2に直流バイアス電圧をかけている(+V/2が基準電圧になる)。
【0020】
アンプOP10出力信号は、コンデンサC40、抵抗R36により直流バイアス電圧がカットされて出力されることになる。本実施例では、その出力側にダンピング抵抗(保護抵抗)R34がつながっており、後述するミュートトランジスタTr20でアンプOP10の出力がショートしないようにしている。ここで、ミュート電圧を印加しない非ミュート(トランジスタTr22がOFFの)時は、後述するトランジスタTr22〜Tr24を含む回路は、無いに等しい(トランジスタTr22以降はオープンと同じくらい高インピーダンスとなる)。ミュートトランジスタTr20のベース端子は入力インピーダンスが高いので、トランジスタTr22のコレクタ−抵抗R30間、抵抗R30−ミュートトランジスタTr20のベース間は、ノイズが乗り易く、ミュートトランジスタTr20の誤動作の原因となる(そのノイズによってミュートトランジスタTr20はミュートされていないにも拘わらず勝手にONすることがある;上述した図5参照)。
【0021】
ミュート動作は、上記従来技術と同様、トランジスタTr24のベース抵抗(図中該ベースとMUTE信号の間に示された抵抗)にミュート電圧を印加することにより、ミュートトランジスタTr20をONにして出力音声信号をミュー卜する。
【0022】
一方、非ミュート時、本実施例において、ダイオードD2及びコンデンサC3は、アンプOP10出力信号の負側(負側の信号)をピークホールドするピークホールド回路1であり、コンデンサC3は出力信号の負側の最大値を瞬時にチヤージする。従って、直流の状態が維持されることになる。尚、この構成の場合に使用されるダイオードD2は、順方向降下電圧の低いショットキーダイオードが望ましい。後述のように、ショットキーダイオードの場合、0.4Vがショットキーの順方向降下電圧値である。
【0023】
以上の構成で、今、アンプOP10出力信号の負側電圧を−Eとすると、コンデンサC3にチャージされる電圧は、−E+0.4Vとなる。この0.4Vはショットキーダイオードの順方向降下電圧値である。一方、ミュートトランジスタTr20の負側の非クリップ電圧はベース電圧に対して−0.6Vであるから、−E+0.4−0.6=(−E−0.2)Vとなり、負側のピーク電圧より更に0.2V低い電圧まで信号がクリップしない、言い換えれば0.2V余裕があることが分かる。
【0024】
つまり、非ミュート時は、音声信号が出力されている限り、コンデンサC3にチャージされる負電圧でミュートトランジスタTr20がバイアスされる(自分が勝手に自己バイアスをかけてくれる状態になる)ので、ミュートトランジスタTr20は、安定且つ確実にOFFとなる為、図2に示される測定結果が示すように、出力信号に影響を与えることは無い。
【0025】
無信号時には、コンデンサC3にチャージされている負電圧は、抵抗R32、ミュートトランジスタTr20を通して自然放電して0Vとなる。
【0026】
他の効果としては、コンデンサC3がミュートトランジスタTr20のベースラインを交流的に安定させる為(コンデンサC3がここに付いていると言うことは交流的にショートしているので)、無信号時でも、トランジスタTr22−抵抗R30間の誘導ノイズ、ハム等に強くなる。
【0027】
図3は、ミュートトランジスタTr20のベースラインにノイズを印加した場合の出力波形(上段)とベース電圧(下段)測定図であり、この図から明らかなように、従来例とは異なり、出力波形に影響が現れていないことが分る。
【0028】
この様に、本発明は簡単な回路構成で、非ミュート時、出力信号に影響を与えることの無いミューティング回路が提供されることになる。
【0029】
尚、本発明のミューティング回路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のミューティング回路は、単電源で動作するオーディオ回路のアンプ構成に用いられるものであれば適用でき、電子楽器の他、種々のオーディオ機器に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態構成に係るミューティング回路構成を示す回路図である。
【図2】本実施例構成において、出力波形(上段)とベース電圧(下段)の測定結果を示す測定図である。
【図3】本実施例構成におけるミュートトランジスタTr20のベースラインにノイズを印加した場合の出力波形(上段)とベース電圧(下段)の測定結果を示す測定図である。
【図4】従来のミューティング回路構成を示す回路図である。
【図5】従来構成における、ベースオープン時、ノイズを印加したときの出力波形(上段)とベース電圧(下段)の測定結果を示す測定図である。
【図6】ミュートトランジスタTr20にベース接地抵抗R32を加えた状態を示す回路図である。
【図7】ベース抵抗R32を接地した時の出力波形(上段)とベース電圧(下段)の状態を示す測定図である。
【図8】ミュートトランジスタTr20のベース抵抗に負電圧を印加した構成を示す回路図である。
【図9】+Vから−Vを作る回路100の構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ピークホールド回路
2、110、112 ダイオードD
3、40 コンデンサC
10、102、104 アンプOP
20、22、24 トランジスタTr
30、32、34、36 抵抗R

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単電源で動作するオーディオ回路のアンプ出力信号を、出力抵抗を介してミュートトランジスタでグランドにショートすることによりミュートする構成を有するミューティング回路において、
非ミュート時、出力される音声信号の負側信号をピークホールドするピークホールド回路を備えており、
上記ミュートトランジスタのベース端子を、上記ピークホールド回路のピークホールドによって生ずる負電圧でバイアスすることにより、該ミュートトランジスタを完全にオフ状態に且つ安定して保つことを特徴とするミューティング回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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