説明

メカノケミカルアクチュエータ

【目的】この発明は、低電圧で高速にすることが可能なメカノケミカルアクチュエータを提供することを目的とする。
【構成】電気刺激によって屈曲動作するメカノケミカルアクチュエータにおいて、電解質溶液を含浸し、前記電解質溶液中の特定イオンの濃度変化に応じて可逆的に膨潤、収縮するメカノケミカル材料(13)と、前記メカノケミカル材料の近傍もしくは内部に配置され、電圧印加によって前記特定イオンを発生あるいは消費する第1の電極(14)と、前記第1の電極と対向して配置された第2の電極(15)と、前記第1・第2の電極に接続された電源(16)とを具備することを特徴とするメカノケミカルアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明はアクチュエータに関し、特に電気刺激により可逆的に屈曲動作するメカノケミカルアクチュエータに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電気刺激により変形するメカノケミカルアクチュエータとしては、特開昭61−4731号公報に開示されたものが知られている(従来例1)。この公報には、電解質溶液と、電解質溶液中に浸漬しても酸化溶解を起こさない導電体からなる正電極及び負電極と、電極間に配置した高分子材料からなるメカノケミカル材料から構成され、正電極と負電極の間に直流電圧の印加により、電解質溶液中のイオンが移動し、浸透圧差を発生させ、メカノケミカル材料を屈曲変形させることが開示されている。
【0003】特開昭64ー41673号公報(従来例2)には、複数の酸化あるいは還元反応で特定イオンを生じる電極と電解質溶液で電池を構成して、電気刺激により溶液全体を変化させ、メカノケミカル材料を伸縮させるメカノケミカル材料の駆動方法について開示されている。
【0004】特開平2−153266号公報(従来例3)には、各電極が存在する電解質溶液を隔膜で隔離して電極室を構成し、メカノケミカル材料が含浸する電極室全体の濃度を変化させて、メカノケミカル材料を伸縮させるメカニカル・アクチュエータ・デバイスについて開示されている。
【0005】特開昭62−113870号公報(従来例4)には、水素イオンを発生消費するHg/HgO等の電極と、酸性度の変化によって伸縮する材料から構成され、溶液中のpHを変化させてアクチュエータを伸縮又は湾曲させる密閉式メカノケミカル素子が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した各従来例には、以下に述べる問題点があった。
(1) 従来例1:電極が反応せず、電解質溶液内に予め存在するイオンの移動によって浸透圧差を生じさせるため、イオンの移動速度に律速される。イオンの移動速度sは電界強度Eに比例するから、s=u×E 但し、uはイオンの移動度となる。ここで、イオンの移動度uは比例定数であり、イオンの種類,溶媒の種類,温度に依存する。
【0007】電界強度Eは、E=V/d 但し、Vは電圧,dは電極間距離であるから、応答速度を上げるためには、高電圧にするかあるいは電極間隔を狭めなければならない。高電圧にした場合は、副反応として溶媒の電気分解等を生じるがその対策は記載されていない。また、電極間隔を狭めることは、アクチュエータの形状に著しい制限を与えるので好ましくない。
【0008】(2) 従来例2:反応性電極を用いその反応によりイオンを生じる点は、従来例1より改善されている。しかし、電極近傍での濃度変化は早いが、メカノケミカル材料全体の伸縮を目的としているため、メカノケミカル材料の含浸する溶液全体の濃度を増減させるためには、イオンの移動が必要であり、結果的にイオンの移動速度に律速される。また、対になる電極が異なる材料で構成されている電池であるため、電極間に電位差が生じ、外部からの電圧印加とは無関係に電極での反応が進行するという問題点が生じる。
【0009】(3) 従来例3:メカノケミカル材料が含浸する電極室全体の濃度を変化させて、メカノケミカル材料全体が伸縮することを目的としているために、結果的にイオンの移動速度に律速される。
【0010】(4) 従来例4:反応性電極を用いpHの変化によって変位させるものは、即ち、pHの変化で解離度が変化するカルボキシル基のような弱酸性、あるいは弱アルカリ性の固定イオン基をもつものに限られてしまい、メカノケミカル材料の選択が限られる。
【0011】この発明はこうした事情を考慮してなされたもので、電極間に電圧を印加させることにより、電極で特定イオンが発生あるいは消費され、電極近傍でのイオンの濃度が変化し、メカノケミカル材料のうち電極に近接する部分が膨潤あるいは収縮することにより、低電圧で迅速に屈曲動作しえるメカノケミカルアクチュエータを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】この発明は、電気刺激によって屈曲動作するメカノケミカルアクチュエータにおいて、電解質溶液を含浸し、前記電解質溶液中の特定イオンの濃度変化に応じて可逆的に膨潤、収縮するメカノケミカル材料と、前記メカノケミカル材料の近傍もしくは内部に配置され、電圧印加によって前記特定イオンを発生あるいは消費する第1の電極と、前記第1の電極と対向して配置された第2の電極と、前記第1・第2の電極に接続された電源とを具備することを特徴とするメカノケミカルアクチュエータである。
【0013】
【作用】この発明においては、上記手段を講じることにより、電極間に電圧を印加させると、電極でイオンが発生あるいは消費され、電極近傍でのイオンの濃度が変化し、電極から離れた部分との間でイオン濃度差が発生する。従って、メカノケミカル材料のうち、電極に接する部分が、膨潤あるいは収縮することにより、メカノケミカルアクチュエータが屈曲運動する。
【0014】
【実施例】以下、この発明の実施例について図面を参照して説明する。
(実施例1)図1(A),(B)を参照する。ここで、図1(A)は実施例1に係るメカノケミカルアクチュエータの断面図、図1(B)は図1(A)に対応したメカノケミカル材料中のイオン濃度特性図である。
【0015】図中の11は、内部に硝酸銀の水溶液(電解質溶液)12を収容した円筒状の溶液槽である。前記水溶液12中には、スルホン酸基が固定された円柱体状のメカノケミカル材料13が浸漬されて配置されている。前記メカノケミカル材料13の両端には、Agからなる屈曲自在な板状の第1の電極(陽極)14,該陽極14と同材料,同形状の第2の電極(陰極)15が夫々対向して挿入されている。前記陽極14,陰極15には、これらの電極に直流電圧を印加する外部電源16が接続されている。なお、図中の17は一価の陽イオン(Ag+ ),18はイオンの発生,消失を表現する矢印である。
【0016】次に、上記メカノケミカルアクチュエータの作用について説明する。外部電源16により直流電圧が印加されると、陽極では以下のような反応が起こる。
Ag→Ag+ +e- この反応により、陽極14の近傍のAg+ の濃度が増加する。また、陰極15では、次のような反応が生じる。
Ag+ +e- →Agこの反応により、陰極15の近傍のAg+ の濃度が減少する。そして、前記メカノケミカル材料13は、反対電荷の1価のイオン濃度が増加すると収縮し、濃度が減少すると膨潤するから、陽極側に屈曲する。
【0017】上述したメカノケミカルアクチュエータは、図1(A)に示すように、内部に硝酸銀の水溶液12を収容した溶液槽11と、前記水溶液12中に浸漬して配置されたスルホン酸基が固定されたメカノケミカル材料13と、前記メカノケミカル材料13の端部に対向して挿入された金属からなる屈曲自在な陽極14,陰極15と、前記陽極14,陰極15に接続された外部電源16とから構成されている。従って、以下に述べる効果を有する。
【0018】この屈曲は、陽極14,陰極15での反応によるもので、イオンの移動速度に律速されないため、低電圧で迅速に動作する。また、電解質溶液を構成する硝酸イオンは酸化され難いイオンであるので、硝酸イオンの酸化による気体の発生はほとんど認められない。更に、印加電圧を約1.5V以下にした場合、水の電気分解による気体発生は認められない。
【0019】また、溶液のpHの変化を利用しているわけではないので、メカノケミカル材料に固定されたイオン基の解離度によらず、駆動できる。即ち、弱酸性のイオン基でも屈曲動作する。なお、印加電圧の極性を切り換えるようにすれば、当然反対方向に屈曲させることができる。
【0020】なお、上記実施例1に使用された各構成部材は、各種の変形、変更が可能である。例えば、メカノケミカル材料は円柱体状ではなく、角柱体状でもよい。イオンはAg+ ではなく、電解質用溶液中に溶出する1価のイオンであればよい。また、電解質溶液中の陰イオンは硝酸イオンではなく、例えば硫酸イオンでもよい。更に、メカノケミカル材料に固定されたイオン基と、電極で発生消費する特定イオンの極性が逆の組み合わせでもよい。即ち、固定されたイオン基が陽イオンであって、特定イオンが陰イオンであってもよい。また、メカノケミカル材料内部に電極を挿入するのではなく、接触しているかあるいは近傍に設置してもよい。
【0021】(実施例2)図2(A),(B)を参照する。ここで、図2(A)は実施例1に係るメカノケミカルアクチュエータの説明図、図2(B)は図2(A)に対応したメカノケミカル材料中のイオン濃度特性図である。なお、図1と同部材は同符号を付して説明を省略する。図中の21は、溶液槽11内に収容された硫酸銅の水溶液である。前記水溶液21中には、カルボキシル基が固定された円柱体状のメカノケミカル材料22が浸漬されて配置されている。前記メカノケミカル材料22の端部には、Cuからなる屈曲自在な板状の第1の電極(陽極)23,該陽極23と同材料,同形状の第2の電極(陰極)24が夫々対向して挿入されている。前記陽極23,陰極24には、これらの電極に直流電圧を印加する外部電源16が接続されている。なお、図中の25は二価の陽イオン(Cu2+)である。次に、上記メカノケミカルアクチュエータの作用について説明する。外部電源16により直流電圧が印加されると、陽極23では以下のような反応が起こる。
Cu→Cu2++2e-この反応により、陽極23の近傍のCu2+の濃度が増加する。また、陰極24では、次のような反応が生じる。
Cu2++2e- →Cuこの反応により、陰極24の近傍のCu2+の濃度が減少する。そして、前記メカノケミカル材料22は、反対電荷の2価のイオン濃度が増加すると、キレートを形成して収縮するから、陽極23側に屈曲する。
【0022】上述したメカノケミカルアクチュエータは、図2(A)に示すように、内部に硫酸銅の水溶液21を収容した溶液槽11と、前記水溶液21中には浸漬して配置されたカルボキシル基が固定されたメカノケミカル材料22と、前記メカノケミカル材料22の端部に対向して挿入されたCuからなる屈曲自在な陽極23,陰極24と、前記陽極23,陰極24に接続された外部電源16とから構成されている。従って、以下に述べる効果を有する。
【0023】この屈曲は、陽極23,陰極24での反応によるもので、イオンの移動速度に律速されないため、低電圧で迅速に動作する。また、電解質溶液を構成する硫酸イオンは酸化され難いイオンであるので、硫酸イオンの酸化による気体の発生はほとんど認められない。更に、印加電圧を約1.5V以下にした場合、水の電気分解による気体発生は認められない。
【0024】また、溶液のpHの変化を利用しているわけではないので、メカノケミカル材料に固定されたイオン基の解離度によらず、駆動できる。即ち、多価イオンで収縮するメカノケミカル材料であれば、屈曲動作する。なお、印加電圧の極性を反対極性に切り換えるようにすれば、反対方向に屈曲させることができる。
【0025】なお、上記実施例2に使用された各構成部材は、各種の変形,変更が可能である。例えば、メカノケミカル材料は円柱体状ではなく、角柱体状でもよい。イオンはCu2+ではなく、電解質用溶液中に溶出する2価のイオンであればよい。また、電解質溶液中の陰イオンは硫酸イオンではなく、例えば硝酸イオンでもよい。更に、メカノケミカル材料に固定されたイオン基と、電極で発生消費する特定イオンの極性が逆の組み合わせでもよい。即ち、固定されたイオン基がカチオンであって、特定イオンがアニオンであってもよい。また、メカノケミカル材料内部に電極を挿入するのではなく、接触しているか、あるいは近傍に設置してもよい。
【0026】(実施例3)図3を参照する。なお、図1と同部材は同符号を付して説明を省略する。図中の31は、テフロン製の外殻である。前記外殻31内には、硝酸銀溶液を含み、スルホン酸基が固定されたメカノケミカル材料32が配置されている。前記外殻31の内側面と前記メカノケミカル材料32間には、Agからなる第1の電極33,第2の電極34が対向して形成されている。ここで、第1の電極33は、第2の電極34と同じでも異なっていても良いが、電圧を印加したときに気体を発生しないものが望ましい。前記第1の電極33及び第2の電極34には、外部電源35が接続されている。
【0027】次に、上記メカノケミカルアクチュエータの作用について説明する。外部電源35により直流電圧が印加されると、実施例1と同様に陽極側に屈曲する。屈曲した状態で電圧を解除すると、イオンの拡散によって徐々にイオンの濃度差が小さくなり、アクチュエータも元に戻る。
【0028】しかして、実施例3に係るメカノケミカルアクチュエータは、外殻31と、この外殻31内に配置された,硝酸銀溶液を含みスルホン酸基が固定されたメカノケミカル材料32と、前記外殻31の内側面とメカノケミカル材料32間に対向して配置された第1の電極33及び第2の電極34と、外部電源35を備えた構成となっている。従って、実施例1と同様な効果が得られる。また、メカノケミカル材料32や第1の電極33,第2の電極34が密閉式の外殻31に覆われているため、空気中での動作が可能である。
【0029】なお、実施例3において、第1の電極33を第2の電極34と同じ材料を用いて、印加する電圧の極性を切り換えるようにすれば、2方向に可逆的に屈曲させることができる(図4参照)。なお、図4中の41は外部電源を示す。
【0030】(実施例4)図5(A),(B)を参照する。ここで、図5(A)は実施例4に係るメカノケミカルアクチュエータの平面図、図5(B)は図5(A)の斜視図を示す。但し、図3と同部材は同符号を付して説明を省略する。図中の51はAgからなる金属電極であり、メカノケミカル材料32の外周部の4個所に夫々配置されている。これらの金属電極51には、複数の電極の極性の切り替え可能な外部電源52が接続されている。
【0031】こうした構成のメカノケミカルアクチュエータは、複数の金属電極51のうち少なくとも1つを陽極とし、残る金属電極のうち、前記陽極に対向する少なくとも1つを陰極として、電圧を印加すると陽極側に屈曲する。更に、外部電源52により印加する電極と極性を切り換えることにより、多方向に屈曲させることができる。なお、この実施例5の各構成は、当然、各種の変形,変更が可能であり、一例として、中空の円筒状であるメカノケミカル材料の周囲に複数の電極を配置するようにしても良い。
【0032】(実施例5)この実施例5は、実施例3(図3)と比べ、第2の電極34,外殻31,メカノケミカル材料32のうち少なくとも1つが弾性体からなる点を除いて、全く同じ構成になっている。こうした構成のメカノケミカルアクチュエータにおいて、電圧を印加して屈曲させた後、電圧を解除すると、前記弾性体の弾性力によって、屈曲変位が解除され、より迅速に初期状態に戻る。実施例5によれば、実施例3に示す効果の他に、逆方向に電圧印加することなく、迅速に屈曲変位を戻すことができる。なお、実施例6においては、第2の電極34,外殻31,メカノケミカル材料32のうち少なくとも1つが弾性体からなる場合について述べたが、これに限らず、アクチュエータに別の弾性体を設置しても良い。
【0033】(実施例6)図6を参照する。但し、図3及び図4と同部材は同符号を付して説明を省略する。図中の61は、メカノケミカル材料32の中央に位置するように設けられた陰イオン交換膜である。図6のメカノケミカルアクチュエータの作用を、図7(A),(B)を用いて説明する。但し、図1と同部材は同符号を付して説明を省略する。また、図7(B)は図7(A)において一方電極から他方の電極までの距離とイオン濃度との関係を示す特性図である。
【0034】外部電源41により電圧を印加すると、陰極側よりAg+ イオン17が発生し、陰極側ではAg+ イオン17が消費され、濃度差が生じて屈曲する。屈曲したまま、電圧を解除すると、陰イオン交換膜61中のAg+ イオンの拡散速度が小さくなるために、図7(A)に示すようにAg+ イオンの濃度が保たれる。従って、電圧印加を解除しても、屈曲変位が保たれる。初期状態に戻すときには、Ag+ イオンの拡散によって戻すのではなく、極性を切り替えて電圧を印加し初期状態に戻し、更に電圧を印加して逆方向に屈曲する。
【0035】しかして、実施例6に係るメカノケミカルアクチュエータは、メカノケミカル材料32の中央に位置するように陰イオン交換膜61が設けられた構成になっているため、実施例3で述べた効果を有する他に、ある変位で外部電源41からの電圧を解除した場合、その姿勢を保持することができる。また、アクチュエータのサイズが小さく、陰イオン交換膜61がないと両電極間の濃度差が得られない場合も有効である。なお、上記実施例6の各構成は、当然、各種の変形、変更が可能である。例えば、隔膜はイオン交換膜ではなく、特定イオンの拡散速度が溶液中よりも低い隔膜であればよい。
【0036】(実施例7)図8(A),(B)を参照する。ここで、図8(A)は実施例7に係るメカノケミカルアクチュエータの平面図、図8(B)は図8(A)の斜視図を示す。但し、図3,図5と同部材は同符号を付して説明を省略する。
【0037】この実施例7では、2つの陰イオン交換膜81a,81bが図8に示すように互いに交差するようにメカノケミカル材料32に設けられている。こうした構成のメカノケミカルアクチュエータにおいて、複数の電極51のうち少なくとも1つを陽極とし、残る電極のうち前記陽極に対向する電極を少なくとも陰極として電圧を印加すると、陽極側に屈曲する。更に、この実施例7では、ある電位で外部電源からの電圧を解除した場合、その姿勢を保持することができる。
【0038】しかして、実施例7に係るメカノケミカルアクチュエータは、2つの陰イオン交換膜81a,81bが互いに交差するようにメカノケミカル材料32に設けられている構成になっているため、実施例6で述べた効果を有する他に、ある変位で外部電源41からの電圧を解除した場合、その姿勢を保持することができる。また、アクチュエータのサイズが小さく、陰イオン交換膜がないと両電極間の濃度差が得られない場合も有効である。
【0039】なお、この発明の本質を鑑みれば、上記実施例1〜7を通して以下のような変更が可能である。この発明により駆動できるメカノケミカル材料は、含有する液体中の特定イオンの濃度変化に応じて可逆的に、膨潤収縮する高分子を有するメカノケミカル材料である。このような性質を有するメカノケミカル材料であれば、特に組成について制限はない。また、形状についても、特に制限はなく、塊状、膜、繊維、粒状等何でもよく、更にそれらが集積されたものでもよい。
【0040】前記メカノケミカル材料を膨潤収縮させるために濃度変化させるイオン種は、陽イオン、陰イオン、あるいは無機イオン、有機イオン等いずれでも用いることができる。また、単一でなく複数のイオンの組み合わせでもよい。但し、密閉した系等で動作する場合は、使用する溶媒、電極材料との組み合せで、電圧を印加したときに、ガスが発生しないものが望ましい。例えば、溶媒が水でイオンが金属イオンの場合、金属イオンはH+ よりイオン化傾向が小さく、具体的には言えば、Ag+ ,Cu2+等が望ましい。
【0041】電極は、電圧印加によって該イオンを発生あるいは消費する材料で一部又は全部構成していれば、特に他の制限はない。例えば、イオンがAg+ であれば、電極はAg単体あるいは表面がAg鍍金されているもの、合金等何でもよい。また、電極として導電性高分子を用いることもできる。
【0042】電極形状についても特に制限はなく、ワイヤー、板、繊維等何でもよい。粉状の電極材料を前記のメカノケミカル材料に分散させる、あるいは導電性高分子をメカノケミカル材料にドーピングするなど、メカノケミカル材料自体に導電性をもたせてもよい。
【0043】反応性電極と対をなして、電圧を印加される電極は、同一材料の反応性電極でなくてもよい。但し、外部電源により電極の極性を切り替えて、可逆的に屈曲させる場合は、同一材料の電極である方が望ましい。また、対になる電極が異なる材料で構成されると、電極間に電位差が生じ、外部からの電圧印加とは無関係に電極での反応が進行するので、その点からも、同一材料である方が望ましい。
【0044】なお、上記実施例6,7では、隔膜として陰イオン交換膜を用いた場合について述べたが、これに限らず、イオンの拡散速度が電解室溶液中より小さい隔膜であればなんでも良い。
【0045】
【発明の効果】以上詳述したようにこの発明のメカノケミカルアクチュエータによれば、電極間に電圧を印加させることにより、電極で特定イオンが発生あるいは消費され、電極近傍でのイオンの濃度が変化し、メカノケミカル材料のうち、電極に近接する部分が膨潤あるいは収縮することにより、メカノケミカルアクチュエータが屈曲動作する。その結果、低電圧で迅速に屈曲動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1に係るメカノケミカルアクチュエータの説明図であり、図1(A)は断面図、図1(B)は図1(A)のメカノケミカル材料の外周面から直径方向の距離とイオン濃度との関係を示す特性図。
【図2】この発明の実施例2に係るメカノケミカルアクチュエータの説明図であり、図2(A)は断面図、図2(B)は図2(A)のメカノケミカル材料の外周面から直径方向の距離とイオン濃度との関係を示す特性図。
【図3】この発明の実施例3に係るメカノケミカルアクチュエータの断面図。
【図4】図3に係るメカノケミカルアクチュエータの変形例を示す断面図。
【図5】この発明の実施例4に係るメカノケミカルアクチュエータの説明図であり、図5(A)は平面図、図5(B)は図5(A)の斜視図。
【図6】この発明の実施例6に係るメカノケミカルアクチュエータの断面図。
【図7】この発明の実施例7に係るメカノケミカルアクチュエータの説明図であり、図7(A)は断面図、図7(B)は図7(A)のメカノケミカル材料の外周面から直径方向の距離とイオン濃度との関係を示す特性図。
【図8】この発明の実施例8係るメカノケミカルアクチュエータの説明図であり、図8(A)は平面図、図8(B)は図8(A)の斜視図。。
【符号の説明】
11…溶液槽、 12…硝酸銀溶液、 13,22,32…メカノケミカル材料、14,23…陽極、 15,24…陰極、 16,35,41,52…外部電源、17…Ag+ イオン、 18…イオン発生・消失を表す矢印、21…硫酸銀溶液、 25…Cu2+イオン、31…殻、33…第1の電極、 34…第2の電極、 51…金属電極、61,81a,81b…陰イオン交換膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電気刺激によって屈曲動作するメカノケミカルアクチュエータにおいて、電解質溶液を含浸し、前記電解質溶液中の特定イオンの濃度変化に応じて可逆的に膨潤、収縮するメカノケミカル材料と、前記メカノケミカル材料の近傍もしくは内部に配置され、電圧印加によって前記特定イオンを発生あるいは消費する第1の電極と、前記第1の電極と対向して配置された第2の電極と、前記第1・第2の電極に接続された電源とを具備することを特徴とするメカノケミカルアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平7−83159
【公開日】平成7年(1995)3月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−233035
【出願日】平成5年(1993)9月20日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)