説明

メタルコート光ファイバ及びその製造方法

【課題】製造が容易な被覆層を備えたメタルコート光ファイバを提供する。
【解決手段】メタルコート光ファイバ10は、ゲルマニウム等の屈折率を高めるドーパントがドープされた石英で形成されたコア11aとフッ素等の屈折率を低めるドーパントがドープされた石英で形成されたクラッド11bから成る光ファイバ11と、その外周面を被覆するように設けられたメタル層12と、それを被覆するように設けられた被覆層13とを備える。被覆層13は、メタル層12上に電着塗装された樹脂層で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタルコート光ファイバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線伝送用途や耐熱用途では、光ファイバの外周面をアルミニウムのメタル層で被覆したメタルコート光ファイバが用いられる(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、特許文献3〜5には、分子中に電荷付与基としてアニオン性基を有すると共に分子骨格中にシロキサン結合を有するブロック共重合ポリイミド樹脂で形成された被覆層で導体線を被覆した絶縁電線及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−309742号公報
【特許文献2】特開2006−8468号公報
【特許文献3】特開2005−174561号公報
【特許文献4】WO2008/139990
【特許文献5】WO2008/139991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、製造が容易な被覆層を備えたメタルコート光ファイバを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光ファイバと、該光ファイバの外周面を被覆するように設けられたメタル層と、該メタル層を被覆するように設けられた被覆層と、を備えたメタルコート光ファイバであって、上記被覆層は、上記メタル層上に電着塗装された樹脂層で構成されている。
【0007】
本発明は、光ファイバの外周面を被覆するようにメタル層を設けた後、そのメタル層上に樹脂を電着塗装することにより被覆層を形成するメタルコート光ファイバの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光ファイバの外周面を被覆するように設けたメタル層上に樹脂を電着塗装することにより被覆層を形成することで容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係るメタルコート光ファイバの斜視図である。
【図2】線引き工程を示す説明図である。
【図3】電着塗装工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10を示す。本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10は、例えば、複数本が集められてバンドルとされ、紫外線伝送用途、加熱雰囲気下や放射能雰囲気下で使用する用途等で使用されるものである。本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10は、特に、波長170〜350nmの紫外線、具体的には、N2エキシマレーザー(波長;337nm)、XeClエキシマレーザー(波長;308nm)、KrFエキシマレーザー(波長;248nm)、KrClエキシマレーザー(波長;222nm)、ArFエキシマレーザー(波長;193nm)、Xe2エキシマレーザー(波長;172nm)、Nd:YAG第4高調波レーザー(波長;265nm)、Nd:YAG第5高調波レーザー(波長;212nm)といったエネルギー密度の高いレーザー光や重水素ランプなどによる紫外線の伝送に好適である。本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10は、断面形状が円形に形成されており、外径が例えば100〜1500mmである。
【0012】
本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10は、光ファイバ11と、その外周面を被覆するように設けられたメタル層12と、それをさらに被覆するように設けられた被覆層13とを備えている。
【0013】
光ファイバ11は、石英で形成されており、ファイバ中心に設けられた相対的に屈折率の高いコア11aとそれを被覆するように設けられた相対的に屈折率の低いクラッド11bとの2層構造を有する。光ファイバ11は、断面形状が円形に形成されており、ファイバ径が例えば100〜1200mmである。コア11aは、断面外郭形状が円形に形成されており、コア径が例えば50〜1000μmである。クラッド11bの厚さは例えば20〜500μmである。なお、光ファイバ11は、コア11aが偏心して設けられていてもよく、また、コア11aの断面外郭形状が楕円や矩形等の非円形に形成されていてもよい。さらに、光ファイバ11は、クラッド11bを被覆するように設けられたサポート層を有していてもよい。
【0014】
光ファイバ11は、コア11aが、ゲルマニウム(Ge)等の屈折率を高めるドーパントがドープされた石英で形成され、クラッド11bが、フッ素(F)等の屈折率を低めるドーパントがドープされた石英又は屈折率を変化させるドーパントがドープされていない、従って、純粋石英(SiO2)と同一の屈折率を有する石英で形成された構成であってもよく、また、コア11aが、屈折率を変化させるドーパントがドープされていない石英で形成され、クラッド11bが、フッ素(F)やホウ素(B)等の屈折率を低めるドーパントがドープされた石英で形成された構成であってもよい。
【0015】
本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10が紫外線伝送用途で用いられる場合、耐紫外線劣化性を高める観点からは、光ファイバ11は、コア11aに水素がドープされていることが好ましく、また、水素を保持しやすくする観点からコア11aにOH基及び/又はフッ素(F)が合計で100〜5000ppm含まれていることが好ましい。
【0016】
メタル層12を形成する金属材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、銀(Ag)、金(Au)等が挙げられる。メタル層12は、単一種の金属で形成されていてもよく、また、2種以上の金属の合金で形成されていてもよい。これらのうち、低融点であって光ファイバ11の被覆加工が容易であるという観点から、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。メタル層12は、単一層で構成されていてもよく、また、複数層が積層されて構成されていてもよい。光ファイバ11に水素がドープされている場合、このメタル層12によってドープされた水素の散逸が抑制される。メタル層12の厚さは例えば1〜20μmである。
【0017】
被覆層13は、メタル層12上に電着塗装された樹脂層で構成されている。被覆層がメタル層上にディップ塗装された樹脂層である場合、被覆層とメタル層とは物理的に密着しているのみであるが、本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10のように、被覆層13がメタル層12上に電着塗装された樹脂層である場合、被覆層13とメタル層12とは反応を伴って密着することとなるので、ディップ塗装の場合と比較して、それらの間の高い密着性を得ることができる。
【0018】
被覆層13を形成する樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ・アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。被覆層13を形成する樹脂は、電着塗装のためのカチオン性又はアニオン性の電荷付与基を有していてもよい。被覆層13は、単一種の樹脂で形成されていてもよく、また、2種以上の樹脂がブレンドされて形成されていてもよい。これらのうち、高い耐熱性を得ることができるという観点から、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂のポリイミド系樹脂が好ましい。メタルコート光ファイバ10は、紫外線伝送用途の一つであるレーザーガイド等のように、曲げや捻りを受けながら使用される場合が多いために可撓性が要求される。従って、可撓性に優れるメタルコート光ファイバ10を得ることができるという観点からは、被覆層13を形成する樹脂として、特に、特開2005−174561号公報、WO2008/139990、及びWO2008/139991に開示された分子中に電荷付与基としてアニオン性基を有すると共に分子骨格中にシロキサン結合を有するブロック共重合ポリイミド樹脂(以下「ポリイミド樹脂A」という。)が好ましい。
【0019】
被覆層13には、電着塗装で用いられる塗料に配合される電荷付与剤、酸化防止剤、着色剤等が含まれていてもよい。被覆層13は、単一層で構成されていてもよく、また、複数層が積層されて構成されていてもよいが、1回の電着塗装で被覆層13が形成されることから前者が好ましい。この被覆層13によって耐外傷性が高められることとなる。被覆層13の厚さは2〜100μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0020】
次に、本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10の製造方法について図2及び3に基づいて説明する。
【0021】
まず、光ファイバ母材11’を作製する。光ファイバ母材11’の作製方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、MCVD法、VAD法、OVD法が挙げられる。なお、光ファイバ11に水素をドープする場合、光ファイバ母材11’の段階で水素をドープしておいてもよい。
【0022】
続いて、図2に示すように、光ファイバ母材11’を線引装置20にセットし、光ファイバ母材11’を線引炉21で加熱して光ファイバ11を線引きすると共に、線引きした光ファイバ11を、ヒータ22a付のダイスを兼ねた溶融メタル槽22に通し、槽内の溶融メタルMを表面に付着させてメタル層12を形成して被覆し、それを冷却して図示しないボビンに巻き取る(線引工程)。なお、光ファイバ11に水素をドープする場合、溶融メタル槽22内で水素をバブリング等することにより光ファイバ11に水素をドープしてもよい。
【0023】
この線引工程において、光ファイバ母材11’を加熱する線引炉21の設定温度は例えば2000〜2200℃である。線引速度は例えば1〜100m/分である。溶融メタル槽22内の溶融メタルMの温度は、例えば溶融アルミニウムの場合、700〜800℃である。冷却手段は、特に限定されるものではなく、冷却器に通してもよく、また、ボビンに巻き取られるまでのファイバ経路における空冷でもよい。
【0024】
そして、メタル層12で被覆した光ファイバ11を巻いたボビンを電着塗装装置30にセットし、図3に示すように、ボビンから引き出した光ファイバ11を、上下方向に延びるファイバ経路に設けられた第1の電極31(陽極)にメタル層12を接触させ、第2の電極32(陰極)が浸漬されるように電着塗料Lが入れられた電着バス33に通すと共に、第1及び第2の電極31,32間に電圧を印加してメタル層12上に電着塗装により樹脂被膜を形成し、それを乾燥炉34及び焼付炉35の順に通して乾燥及び焼付を行うことにより樹脂層からなる被覆層13を形成してメタルコート光ファイバ10とした後、冷却して図示しないボビンに巻き取る(電着塗装工程)。なお、光ファイバ11に水素をドープする場合、線引工程後で且つこの電着塗装工程前において、高温及び高圧の水素ガス雰囲気下で光ファイバ11に水素をドープしてもよい。
【0025】
この電着塗装工程において、電着塗料Lとしては、被覆層13の厚さのコントロールが容易であり、且つ1〜2μmの薄肉被覆から100μm以上の厚肉被覆まで同一塗料で厚さ制御可能であることから、被覆層13を形成する樹脂のサスペンジョン型電着塗料が好適に用いられる。ここで、「サスペンジョン型電着塗料」とは、粒径分析装置(例えば大塚電子株式会社製 型番:ELS−Z2)を用いて電気泳動法光散乱法(レーザードップラー法)により測定した樹脂の粒子径の結果をキュムラント解析法で解析して得た樹脂の平均粒子径が0.1〜10μmで且つその標準偏差が0.1〜8μmであるものをいう。
【0026】
電着塗料Lとしてのサスペンジョン型電着塗料における樹脂の平均粒子径は、例えば0.01〜10μmであり、被覆層13を形成する樹脂がポリイミド樹脂Aである場合、クーロン効率の制御及び耐電圧性能の維持のバランスの観点から2〜100μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0027】
サスペンジョン型電着塗料における固形分濃度は、例えば1〜15質量%であり、被覆層13を形成する樹脂がポリイミド樹脂Aである場合、ピンホールの生成が抑制されて均一な被覆層13を形成する観点から5〜10質量%であることが好ましく、7〜8質量%であることがより好ましい。
【0028】
サスペンジョン型電着塗料の固有相対粘度は、例えば0.5〜30mPasであり、被覆層13を形成する樹脂がポリイミド樹脂Aである場合、被覆層13を30μm以上の厚肉に形成できると共に均一な膜厚に形成できるという観点から0.5〜15mPasであることが好ましく、0.5〜10mPasであることがより好ましい。なお、固有対数粘度は、B型粘度計(例えば東機産業社製)を用いて測定することができる。
【0029】
サスペンジョン型電着塗料には、単独では帯電しにくい樹脂の場合、カチオン性又はアニオン性を付与する電荷付与剤が添加されていてもよい。また、サスペンジョン型電着塗料には、必要に応じて、酸化防止剤、着色剤等が配合されていてもよい。
【0030】
サスペンジョン型電着塗料は、例えば、WO2008/139990、及びWO2008/139991に開示された方法により調製することができる。
【0031】
第1及び第2の電極31,32間への印加電圧は、例えば、直流電圧で0.5〜200Vであり、5〜100Vであることが好ましい。ファイバ搬送速度は、電圧印加時間(電着時間)が0.5〜180秒(好ましくは1秒〜60秒)となるように設定され、具体的には例えば3〜50m/分である。電着塗料Lの温度は5〜40℃であることが好ましく、10〜35℃であることがより好ましい。なお、このとき、電着バス33内において、帯電した樹脂が光ファイバ11を被覆するメタル層12に引きつけられて樹脂被膜を形成する。
【0032】
乾燥炉34の設定温度及び乾燥時間は60〜100℃で3〜20分とすることが好ましく、80〜100℃で5〜20分とすることがより好ましい。焼付炉35の設定温度及び焼付時間は例えば100〜400℃で10秒〜20分である。なお、このとき、乾燥炉34及び焼付炉35において、樹脂被膜の水分が揮発して樹脂の粒子が溶融・融合することにより樹脂層からなる被覆層13が形成される。
【0033】
冷却手段は、特に限定されるものではなく、冷却器に通してもよく、また、ボビンに巻き取られるまでのファイバ経路における空冷でもよい。
【0034】
ところで、ディッピングにより光ファイバを樹脂層で被覆する場合、1回のディッピング操作で形成することができる樹脂層の厚さはせいぜい数μm程度であり、例えば10〜30μmの被覆層を形成するためには複数回のディッピング操作を繰り返さざるを得ない。そして、ディッピング操作を複数回繰り返すと、光ファイバに対して、その回数に比例した曲げ変形履歴及び熱履歴を付与することとなり、事前に光ファイバに水素をドープしている場合には、水素の散逸を促進する虞がある。しかしながら、本実施形態に係るメタルコート光ファイバ10の製造方法のような電着塗装の場合、1回のみの電着塗装操作でも、被覆層13を構成するのに十分に厚肉の樹脂層を形成することが可能であり、従って、光ファイバ11に対し、徒に多くの曲げ変形履歴及び熱履歴を付与することが回避され、事前に光ファイバ11に水素をドープしている場合には、水素の散逸を抑制することができる。被覆層13を形成する場合、複数回の電着塗装操作を繰り返して複数の樹脂層を積層してもよいが、かかる観点からは、1回のみの電着塗装操作で単一層の被覆層13を形成することが好ましい。
【0035】
光ファイバ11に水素をドープする場合、電着塗装工程後において、高温及び高圧の水素ガス雰囲気下で光ファイバ11に水素をドープしてもよい。この場合には、被覆層13は耐熱性の高いポリイミド系樹脂であることが好ましい。
【0036】
なお、光ファイバ11に水素をドープする場合、水素のドープの後、クラッド11bに含まれる水素をコア11aに拡散供給するための熱処理を施すことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明はメタルコート光ファイバ及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0038】
10 メタルコート光ファイバ
11 光ファイバ
11’ 光ファイバ母材
11a コア
11b クラッド
12 メタル層
13 被覆層
20 線引装置
21 線引炉
22 溶融メタル槽
22a ヒータ
30 電着塗装装置
31 第1の電極
32 第2の電極
33 電着バス
34 乾燥炉
35 焼付炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、該光ファイバの外周面を被覆するように設けられたメタル層と、該メタル層を被覆するように設けられた被覆層と、を備えたメタルコート光ファイバであって、
上記被覆層は、上記メタル層上に電着塗装された樹脂層で構成されているメタルコート光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載されたメタルコート光ファイバにおいて、
上記被覆層がポリイミド系樹脂で形成されているメタルコート光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたメタルコート光ファイバにおいて、
上記被覆層が単一層で構成されているメタルコート光ファイバ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたメタルコート光ファイバにおいて、
上記被覆層の厚さが2〜100μmであるメタルコート光ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたメタルコート光ファイバにおいて、
上記光ファイバは、相対的に屈折率の高いコアと該コアを被覆するように設けられた相対的に屈折率の低いクラッドとを有し、該コアに水素がドープされているメタルコート光ファイバ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたメタルコート光ファイバにおいて、
上記メタル層がアルミニウム又はアルミニウム合金で形成されているメタルコート光ファイバ。
【請求項7】
光ファイバの外周面を被覆するようにメタル層を設けた後、そのメタル層上に樹脂を電着塗装することにより被覆層を形成するメタルコート光ファイバの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate