メンブレン式散気装置
【課題】圧力損失を抑制しつつ、酸素移動効率に優れた微細気泡を生成することができるメンブレン式散気装置を提供する。
【解決手段】内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜3を有し、散気膜3にスリット8、9,10からなる複数の散気孔21を備えるものであって、散気膜3は、気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmである。
【解決手段】内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜3を有し、散気膜3にスリット8、9,10からなる複数の散気孔21を備えるものであって、散気膜3は、気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水処理施設などの槽内に設置するメンブレン式散気装置に関し、生物処理または攪拌のために散気を行う技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の散気装置には、例えば図9に示すものがある。これはベースプレート51の上面に散気膜52を装着し、散気膜52の膜面上の所定位置に給気口53を設けたものであり、給気口53がベースプレート51と散気膜52との間に連通している。散気膜52は合成樹脂膜または合成ゴム膜に多数のスリット54を設けたものであり、散気膜52の周囲を固定部55によってベースプレート51に固定した構造をなす。
【0003】
スリット54は散気膜52の長手方向Aと平行をなし所定長、例えば0.2mmを有している。散気停止時には、散気膜52が槽内の水圧を受けてベースプレート51の上面に押し付けられた状態となり、散気膜52は膨張せず、スリット54は閉じている。散気時には、圧縮空気が給気口53から供給されて、散気膜52が圧縮空気の圧力を受けて山形状に膨張し、スリット54が散気膜52の短手方向Bに開き、スリット54から気泡が噴出する。
【0004】
散気装置の他の例としては、図10から図11に示すものがある。これは、散気管61の外周面に合成樹脂膜または合成ゴム膜からなる散気膜62を配置し、散気膜62に多数のスリット63を設けたものである。スリット63は散気管61の軸心方向である長手方向と平行をなし、所定長を有している。散気時には、スリット63が管周方向である短手方向に広がって気泡を噴出する。
【0005】
先行技術文献としては特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した構成において、例えば気泡径0.5mmから1.0mmの微細気泡を発生させるためには、スリット長を例えば0.2mm程度に短く形成する必要がある。 しかしながら、スリット長を短くすると気泡を発生させる際の圧力損失が大きくなって送気エネルギーのロスが大きくなる。逆に、スリット長を長く設定すると、圧力損失を抑制できるが、気泡径が大きくなり、酸素移動効率が低下するという二律背反の課題があった。
【0008】
また、スリットの方向が散気膜の長手方向に沿った1方向にのみ配列されており、全てのスリットが同様に開口する構成である。しかしながら、実際にはスリット長のバラツキ等の要因が存在し、このバラツキに起因して気泡が発生し易いスリットと気泡が発生し難いスリットがあり、特に低風量時に気泡は発生が容易なスリットから多量に噴出し、発泡ムラが生じる。
【0009】
この気泡が発生し易いスリットが散気膜の一部に偏って近在すると、発生した気泡同士が結合して粗大化し易くなり、特に低風量時には気泡の粗大化によって酸素移動効率が低下する。
【0010】
本発明は上記した課題を解決するものであり、圧力損失を抑制しつつ、酸素移動効率に優れた微細気泡を生成することができるメンブレン式散気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のメンブレン式散気装置は、内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とする。
【0012】
この構成において、気体接着力係数γは気泡に対する散気膜の親和性を示す値であり、気体接着力係数γが高いほどに気泡に対する散気膜の親和性が高くなり、対象液体に対して散気膜が疎水性となって気泡径が大きくなる。気体接着力係数γが低いほどに気泡に対する散気膜の親和性が低くなり、対象液体に対して散気膜が親水性となって気泡径が小さくなる。
【0013】
よって、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0014】
本発明のメンブレン式散気装置は、内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、濡れ性を表す指標の接触角θが108°以下となる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とする。
【0015】
この構成において、濡れ性を表す接触角θは気泡に対する散気膜の親和性を示す値であり、接触角θが大きいほどに気泡に対する散気膜の親和性が高くなり、対象液体に対して散気膜が疎水性となって気泡径が大きくなる。接触角θが小さいほどに気泡に対する散気膜の親和性が低くなり、対象液体に対して散気膜が親水性となって気泡径が小さくなる。
【0016】
よって、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0017】
また、本発明のメンブレン式散気装置において、各スリットは、散気膜の長手方向との間になす角度が0〜25°の範囲内で、かつ異なる複数の角度のうちの何れかであることを特徴とする。
【0018】
この構成において、スリットが散気膜の長手方向との間になす角度はスリットの開き易さに関与する。スリットと散気膜の長手方向との間の角度が小さいほどに散気時にスリットが開き易くなり、スリットと散気膜の長手方向との間の角度が大きくなるほどにスリットの開きが抑制される。
【0019】
このため、低風量時には前記角度が小さくて開き易いスリットから散気に伴う気泡が生じ、風量増加に従って前記角度が大きいスリットからも気泡が生じる。このため、低風量時には気泡が生じるスリットとスリットの間隔が大きいので、気泡が分散することで気泡結合による酸素移動効率の低下を防止でき、風量増加時も圧損の上昇を抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によれば、散気膜の材質を適宜に選定して散気膜の濡れ性を調整することにより、気泡が散気膜から離脱することを促進して酸素移動効率に優れた微細気泡を生成し、かつ長いスリット長の下で圧力損失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態におけるメンブレン式散気装置を示す斜視図
【図2】同実施の形態におけるメンブレン式散気装置の要部を示す断面図
【図3】同実施の形態における散気孔を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態におけるスリットパターンを示す平面図
【図5】本発明の他の実施の形態におけるスリットパターンを示す平面図
【図6】本発明の他の実施の形態におけるスリットパターンを示す平面図
【図7】本発明の他の実施の形態における接触角θと気体接着係数γの相関を示すグラフ図
【図8】表面張力を説明する模式図
【図9】従来のメンブレン式散気装置を示す斜視図
【図10】従来の他の散気装置を示す斜視図
【図11】同散気装置の散気状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1から図4において、メンブレン式散気装置1は下水処理施設等の曝気槽内に設置されるものであり、プラスチックや金属等で製作された長方形状のベースプレート2と、ベースプレート2の上面に装着された長方形状(一方向に長い形状の一例)の散気膜3とを有している。散気膜3は、弾性を有しており、例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエン)、シリコン等のゴム、或いは、ポリウレタン等の樹脂からなる。
【0023】
散気膜3の周囲は固定部6(例えばカシメ部材等)によってベースプレート2に固定されており、ベースプレート2と散気膜3との間には空気供給部4が形成されている。また、散気膜3の長手方向A(所定方向の一例)における一端部には、短筒状の給気口5が設けられている。給気口5は、空気供給部4に連通するとともに、空気供給源(図示省略)に接続されている。
【0024】
散気膜3は、その材質において気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなるものであり、気体接着力係数γについては後述するが、例えばゴム(EPDM)材質で、硬さ(A):50〜70、厚さ(mm):1〜3のものや、ゴム(シリコン)材質で、硬さ(A):35〜55、厚さ(mm):1〜3のものや、樹脂(ポリウレタン)材質で、硬さ(A):70〜98、厚さ(mm):0.3〜1のもの等を採用できる。尚、上記散気膜3の性状は一例であって、これらに限定されるものではなく、使用する条件に応じて、適宜変更し、最適化することができる。
【0025】
散気時、図2(b)に示すように、散気膜3に供給される空気の圧力によって散気膜3が長手方向Aから見て山形状に膨張する。尚、このとき、散気膜3の長手方向Aにおける両端はベースプレート2に固定されているため、長手方向Aから見て山形状にはならないが、散気膜3の両端を除いたほとんどの領域において散気膜3が長手方向Aから見て山形状に膨張するので、ここでは散気膜3の両端を除外して考えるものとする。
【0026】
散気膜3は内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てるものであり、散気孔をなす複数の第1〜第3(第1〜第3気孔部の一例)が形成されている。図1に示すように、第1スリット8は、長手方向Aに細長い孔(スリット)であり、上記長手方向Aに対して平行である。第2スリット9は、長手方向A(すなわち第1スリット8)に対して所定の傾斜角度αで傾斜した方向に細長い孔(スリット)である。尚、本実施の形態では、所定の傾斜角度αは13°(鋭角)に設定されている。第3スリット10は、長手方向A(すなわち第1スリット8)に対して所定の傾斜角度βで傾斜した方向に細長い孔(スリット)である。尚、本実施の形態では、所定の傾斜角度βは25°以下で25°(鋭角)に近く設定されている。
【0027】
第1〜第3スリット8〜10は長手方向Aおよび短手方向Bにおいて所定の配列パターンで複数配列されている。すなわち、第1スリット8は長手方向Aにおいて所定間隔おきに複数形成され、長手方向Aにおいて隣り合う第1スリット8間に第2スリット9が位置している。さらに、第3スリット10は、長手方向Aにおいて隣り合う第1スリット8と第2スリット9との間に位置しているとともに、長手方向Aにおいて隣り合う第1スリット8間に位置しており、これにより、第1スリット8と第2スリット9とに隣り合っている。また、第2スリット9は短手方向Bにおいて隣り合う第1スリット8間にも位置している。各スリット8、9、10のスリット長Dは0.4〜1.0mmである。
【0028】
次に、気体接着力係数γについて説明する。図3に示すように、散気膜3から離脱直前の状態において、気泡20の浮力F1は界面張力による力F2と釣り合っている。気泡の浮力F1は水の密度ρ、重力加速度g、気泡径dとするとπd3/6ρgであり、界面張力による力F2は散気孔21の直径D1≒スリット長D、気体接着力係数γとするとπDγである。
【0029】
ここで、「πD」について説明する。上述したように、散気膜3は、図2(b)に示すように、散気膜3に供給される空気の圧力によって長手方向Aから見て山形状に膨張する。この膨張に際して、散気膜3はその外周縁を拘束されることにより、長いスパンの長手方向Aでは膨張率が小さくなり、短いスパンの短手方向では膨張率が大きくなる。このため、スリット8〜10は短手方向に開口して散気孔21となり、散気孔21の開口周長はスリット長D≒直径D1として近似的に円周「πD」とみなして考えられる。
【0030】
気体接着力係数γは、散気孔21を含んで散気膜3の膜面上に発生する気泡20を散気膜3が膜面上に保持する力に係るものであり、気泡20に対する散気膜3の親和性を示す値である。すなわち、気体接着力係数γは、散気膜21と空気22との間に作用する界面張力γS、対象液体である水23と空気の間に作用する界面張力(表面張力)γL、散気膜3と対象液体の水23との間に作用する界面張力γS/Lによって定まるものである。
【0031】
水23の界面張力(表面張力)γLが水温4℃、大気圧下で一定であるとすると、気体接着力係数γは散気膜3に係る界面張力γS、界面張力γS/Lによって変化する。
気体接着力係数γの算出は、発生する気泡径dの測定により次式に基づいて行なう。
γ=(πd3ρg)/6πD=(d3ρg)/6D
この気体接着力係数γが高いほどに気泡20に対する散気膜3の親和性が高くなり、対象液体の水23に対して散気膜3が疎水性となって気泡径dが大きくなる。気体接着力係数γが低いほどに気泡20に対する散気膜3の親和性が低くなり、対象液体の水23に対して散気膜3が親水性となって気泡径dが小さくなる。
【0032】
例えば、スリット長D=0.4mmの場合、気泡径0.5〜1.5mmとなる気体接着力係数γは0.2〜13.7であり、スリット長D=1.0mmの場合、気泡径0.5〜1.5mmとなる気体接着力係数γは0.2〜5.5である。
【0033】
気体接着力係数γが上述の範囲より大きくてスリット長が長い場合には気泡が大きくなり、スリット長が0.4以下だと圧力損失が大きくなる。
上述した事象は以下のように定義することも可能である。図8に示すように、一般的に物体100の表面に滴下した液体101は表面張力で丸くなり、以下の式が成り立つ。すなわち、物体100と空気102との間に作用する界面張力γS、液体101と空気の間に作用する界面張力(表面張力)γL、物体100と液体101との間に作用する界面張力γS/L、γLとγS/Lとのなす角度θの間にはγS=γL・cosθ+γS/Lの式が成り立つ。ここでγLは液滴の接線であり、角度θは接触角である。
【0034】
この接触角θは気泡に対する散気膜の親和性を示す値であり、接触角θが大きいほどに気泡に対する散気膜の親和性が高くなり、対象液体に対して散気膜が疎水性となって気泡径が大きくなる。接触角θが小さいほどに気泡に対する散気膜の親和性が低くなり、対象液体に対して散気膜が親水性となって気泡径が小さくなる。
【0035】
接触角の測定にはθ/2法、接線法、カーブフィッティング法等があるが、本実施の形態ではθ/2法によって測定した実施例を以下に示す。
【0036】
【表1】
散気膜3の3つの材質に対する接触角θを測定した結果を表1に示す。材質(1)、材質(2)、材質(3)は、EPDMやシリコンゴム等から選択したものであり、それぞれ接触角θが115°、94°、106°となる異なる材質であった。
【0037】
この接触角θの測定は、FACE接触角計CA−X150型(協和界面科学株式会社製)によって行なった。
測定条件は以下のものである。
1.使用液体‥‥‥蒸留水
2.測定室条件‥‥‥室温25℃、湿度40%
3.前処理‥‥‥エタノール洗浄
4.液滴を滴下後に測定までの時間‥‥‥1秒
5.液滴の滴下場所‥‥‥スリットにかからない部位
6.測定回数‥‥‥5回測定し、最大、最小値を除いた値を平均値とする。
【0038】
表1に示すように、接触角θが94°である場合に気泡径が1−2mmと小さくなる。図7は実測定により得られた接触角θと気体接着係数γの相関を示すものである。ここで、接触角θが94°となる場合を含んで気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質の接触角θは108°以下である。接触角θが108°より大きくなると気泡が大きくなる。
【0039】
以下、上記構成における作用を説明する。
散気運転時には、空気供給源(図示省略)から給気口5を通じて所定圧力の空気をメンブレン式散気装置1に供給することにより、図2(b)に示すように、給気口5から空気供給部4に供給される空気の圧力で散気膜3が長手方向Aから見て山形状に膨張し、散気膜3に短手方向Bの引張力Fが発生する。
【0040】
引張力Fは各スリット8、9、10を開くための力となる。この際、第1スリット8が開く方向と引張力Fの方向とは一致するが、第2スリット9、第3スリット10は傾斜角度α、βで傾斜しているため、第2スリット9、第3スリット10が開く方向と引張力Fの方向とは一致しない。すなわち、第1スリット8は引張力Fで容易に開かれるのに対して、第2スリット9、第3スリット10は傾斜角度α、βが増大するほどに、第1スリット8に比べて開き難くなる。
【0041】
したがって、低風量で散気を行う場合、第2スリット9、第3スリット10よりも先に第1スリット8が開き、空気供給部4に供給された空気の大部分は、開かれた第1スリット8を通り、気泡20となって散気膜3の内側から外側へ噴出されるのに対し、開き難い第2スリット9、第3スリット10を通って外側へ噴出される気泡はほとんど無い。
【0042】
これにより、第1スリット8から噴出した気泡がその隣の第3スリット10や第2スリット9からの気泡に結合するのを防止することができ、小風量時において、気泡を分散させて均一に発生させることができ、酸素移動効率の低下を防止することが可能である。
【0043】
また、風量を上記小風量から大風量に増やして散気を行う場合、図2(c)に示すように、空気供給部4に供給される空気の供給量が多いほど空気供給部4の空気圧が上昇して、第2スリット9、第3スリット10が開き易くなり、気泡20を噴出する第2スリット9、第3スリット10の個数が増加する。空気供給部4の空気は、各スリット8、9、10を通り、気泡20となって散気膜3の内側から外側へ噴出される。このように、低風量では、気泡20が主に第1スリット8から噴出するが、風量が増えるのに従って、気泡20を噴出する第2スリット9、第3スリット10の個数が増加するため、初期圧力損失および圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0044】
散気停止時には、散気膜3への空気の供給が遮断されて、図2(a)に示すように、散気膜3が水圧を受けてベースプレート2の上面に押し付けられた状態となる。この際、散気膜3は膨張せず、第1〜第3スリット8〜10は閉じている。
【0045】
そして、気泡20に対する散気膜3の親和性を示す値である気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mであることにより、対象液体の水23に対して散気膜3が親水性となって気泡径dが小さくなり、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0046】
また、接触角θが108°以下であることにより、対象液体の水23に対して散気膜3が親水性となって気泡径dが小さくなり、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0047】
よって、散気膜3の材質を適宜に選定して散気膜3の濡れ性を調整することにより、気泡20が散気膜3から離脱することを促進して酸素移動効率に優れた微細気泡を生成し、かつ長いスリット長の下で圧力損失を抑制することができる。
【0048】
図5は本発明の他の実施の形態におけるスリットパターンを示すものであり、ここでは長手方向Aに対して平行な第1スリット8と、長手方向A(すなわち第1スリット8)に対して所定の傾斜角度β、つまり25°以下で25°に近く傾斜した第3スリット10からなる。
【0049】
本発明のメンブレン式散気装置においては、スリットが散気膜の長手方向との間になす角度を0〜25°の範囲内とするが、図6に示すように、25°以上に傾斜する第4のスリット11を組み合わせることも可能であり、さらには角度が異なる複数種類のスリットをランダムに配置するスリットパターンも可能である。
【実施例1】
【0050】
散気膜にポリウレタンのメンブレンを使用し、スリット長0.6mmの場合、気泡径0.5から1.5mmとなり、発生する気泡は気泡径1mmを中心に分布し、目視実測では気泡径1mmが最も多い。この場合、気泡径1mmとするとγ=2.7mN/mである。
【実施例2】
【0051】
散気膜に他のポリウレタンのメンブレンを使用し、スリット長0.9mmの場合、気泡径0.5から1.5mmとなり、発生する気泡は気泡径1.3mmを中心に分布し、目視実測では気泡径1.3mmが最も多い。この場合、気泡径1.3mmとするとγ=4.0mN/mである。
本発明は、上述した実施の形態にかかるベースプレート2と散気膜3の構成に限らず、上下が軟質シートで構成された袋状の散気装置でも実現できる。
【符号の説明】
【0052】
1 メンブレン式散気装置
2 ベースプレート
3 散気膜
4 空気供給部
5 給気口
6 固定部
8 第1スリット
9 第2スリット
10 第3スリット
11 第4スリット
20 気泡
21 散気孔
22 空気
23 水
【技術分野】
【0001】
本発明は下水処理施設などの槽内に設置するメンブレン式散気装置に関し、生物処理または攪拌のために散気を行う技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の散気装置には、例えば図9に示すものがある。これはベースプレート51の上面に散気膜52を装着し、散気膜52の膜面上の所定位置に給気口53を設けたものであり、給気口53がベースプレート51と散気膜52との間に連通している。散気膜52は合成樹脂膜または合成ゴム膜に多数のスリット54を設けたものであり、散気膜52の周囲を固定部55によってベースプレート51に固定した構造をなす。
【0003】
スリット54は散気膜52の長手方向Aと平行をなし所定長、例えば0.2mmを有している。散気停止時には、散気膜52が槽内の水圧を受けてベースプレート51の上面に押し付けられた状態となり、散気膜52は膨張せず、スリット54は閉じている。散気時には、圧縮空気が給気口53から供給されて、散気膜52が圧縮空気の圧力を受けて山形状に膨張し、スリット54が散気膜52の短手方向Bに開き、スリット54から気泡が噴出する。
【0004】
散気装置の他の例としては、図10から図11に示すものがある。これは、散気管61の外周面に合成樹脂膜または合成ゴム膜からなる散気膜62を配置し、散気膜62に多数のスリット63を設けたものである。スリット63は散気管61の軸心方向である長手方向と平行をなし、所定長を有している。散気時には、スリット63が管周方向である短手方向に広がって気泡を噴出する。
【0005】
先行技術文献としては特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した構成において、例えば気泡径0.5mmから1.0mmの微細気泡を発生させるためには、スリット長を例えば0.2mm程度に短く形成する必要がある。 しかしながら、スリット長を短くすると気泡を発生させる際の圧力損失が大きくなって送気エネルギーのロスが大きくなる。逆に、スリット長を長く設定すると、圧力損失を抑制できるが、気泡径が大きくなり、酸素移動効率が低下するという二律背反の課題があった。
【0008】
また、スリットの方向が散気膜の長手方向に沿った1方向にのみ配列されており、全てのスリットが同様に開口する構成である。しかしながら、実際にはスリット長のバラツキ等の要因が存在し、このバラツキに起因して気泡が発生し易いスリットと気泡が発生し難いスリットがあり、特に低風量時に気泡は発生が容易なスリットから多量に噴出し、発泡ムラが生じる。
【0009】
この気泡が発生し易いスリットが散気膜の一部に偏って近在すると、発生した気泡同士が結合して粗大化し易くなり、特に低風量時には気泡の粗大化によって酸素移動効率が低下する。
【0010】
本発明は上記した課題を解決するものであり、圧力損失を抑制しつつ、酸素移動効率に優れた微細気泡を生成することができるメンブレン式散気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のメンブレン式散気装置は、内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とする。
【0012】
この構成において、気体接着力係数γは気泡に対する散気膜の親和性を示す値であり、気体接着力係数γが高いほどに気泡に対する散気膜の親和性が高くなり、対象液体に対して散気膜が疎水性となって気泡径が大きくなる。気体接着力係数γが低いほどに気泡に対する散気膜の親和性が低くなり、対象液体に対して散気膜が親水性となって気泡径が小さくなる。
【0013】
よって、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0014】
本発明のメンブレン式散気装置は、内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、濡れ性を表す指標の接触角θが108°以下となる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とする。
【0015】
この構成において、濡れ性を表す接触角θは気泡に対する散気膜の親和性を示す値であり、接触角θが大きいほどに気泡に対する散気膜の親和性が高くなり、対象液体に対して散気膜が疎水性となって気泡径が大きくなる。接触角θが小さいほどに気泡に対する散気膜の親和性が低くなり、対象液体に対して散気膜が親水性となって気泡径が小さくなる。
【0016】
よって、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0017】
また、本発明のメンブレン式散気装置において、各スリットは、散気膜の長手方向との間になす角度が0〜25°の範囲内で、かつ異なる複数の角度のうちの何れかであることを特徴とする。
【0018】
この構成において、スリットが散気膜の長手方向との間になす角度はスリットの開き易さに関与する。スリットと散気膜の長手方向との間の角度が小さいほどに散気時にスリットが開き易くなり、スリットと散気膜の長手方向との間の角度が大きくなるほどにスリットの開きが抑制される。
【0019】
このため、低風量時には前記角度が小さくて開き易いスリットから散気に伴う気泡が生じ、風量増加に従って前記角度が大きいスリットからも気泡が生じる。このため、低風量時には気泡が生じるスリットとスリットの間隔が大きいので、気泡が分散することで気泡結合による酸素移動効率の低下を防止でき、風量増加時も圧損の上昇を抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明によれば、散気膜の材質を適宜に選定して散気膜の濡れ性を調整することにより、気泡が散気膜から離脱することを促進して酸素移動効率に優れた微細気泡を生成し、かつ長いスリット長の下で圧力損失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態におけるメンブレン式散気装置を示す斜視図
【図2】同実施の形態におけるメンブレン式散気装置の要部を示す断面図
【図3】同実施の形態における散気孔を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態におけるスリットパターンを示す平面図
【図5】本発明の他の実施の形態におけるスリットパターンを示す平面図
【図6】本発明の他の実施の形態におけるスリットパターンを示す平面図
【図7】本発明の他の実施の形態における接触角θと気体接着係数γの相関を示すグラフ図
【図8】表面張力を説明する模式図
【図9】従来のメンブレン式散気装置を示す斜視図
【図10】従来の他の散気装置を示す斜視図
【図11】同散気装置の散気状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1から図4において、メンブレン式散気装置1は下水処理施設等の曝気槽内に設置されるものであり、プラスチックや金属等で製作された長方形状のベースプレート2と、ベースプレート2の上面に装着された長方形状(一方向に長い形状の一例)の散気膜3とを有している。散気膜3は、弾性を有しており、例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエン)、シリコン等のゴム、或いは、ポリウレタン等の樹脂からなる。
【0023】
散気膜3の周囲は固定部6(例えばカシメ部材等)によってベースプレート2に固定されており、ベースプレート2と散気膜3との間には空気供給部4が形成されている。また、散気膜3の長手方向A(所定方向の一例)における一端部には、短筒状の給気口5が設けられている。給気口5は、空気供給部4に連通するとともに、空気供給源(図示省略)に接続されている。
【0024】
散気膜3は、その材質において気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなるものであり、気体接着力係数γについては後述するが、例えばゴム(EPDM)材質で、硬さ(A):50〜70、厚さ(mm):1〜3のものや、ゴム(シリコン)材質で、硬さ(A):35〜55、厚さ(mm):1〜3のものや、樹脂(ポリウレタン)材質で、硬さ(A):70〜98、厚さ(mm):0.3〜1のもの等を採用できる。尚、上記散気膜3の性状は一例であって、これらに限定されるものではなく、使用する条件に応じて、適宜変更し、最適化することができる。
【0025】
散気時、図2(b)に示すように、散気膜3に供給される空気の圧力によって散気膜3が長手方向Aから見て山形状に膨張する。尚、このとき、散気膜3の長手方向Aにおける両端はベースプレート2に固定されているため、長手方向Aから見て山形状にはならないが、散気膜3の両端を除いたほとんどの領域において散気膜3が長手方向Aから見て山形状に膨張するので、ここでは散気膜3の両端を除外して考えるものとする。
【0026】
散気膜3は内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てるものであり、散気孔をなす複数の第1〜第3(第1〜第3気孔部の一例)が形成されている。図1に示すように、第1スリット8は、長手方向Aに細長い孔(スリット)であり、上記長手方向Aに対して平行である。第2スリット9は、長手方向A(すなわち第1スリット8)に対して所定の傾斜角度αで傾斜した方向に細長い孔(スリット)である。尚、本実施の形態では、所定の傾斜角度αは13°(鋭角)に設定されている。第3スリット10は、長手方向A(すなわち第1スリット8)に対して所定の傾斜角度βで傾斜した方向に細長い孔(スリット)である。尚、本実施の形態では、所定の傾斜角度βは25°以下で25°(鋭角)に近く設定されている。
【0027】
第1〜第3スリット8〜10は長手方向Aおよび短手方向Bにおいて所定の配列パターンで複数配列されている。すなわち、第1スリット8は長手方向Aにおいて所定間隔おきに複数形成され、長手方向Aにおいて隣り合う第1スリット8間に第2スリット9が位置している。さらに、第3スリット10は、長手方向Aにおいて隣り合う第1スリット8と第2スリット9との間に位置しているとともに、長手方向Aにおいて隣り合う第1スリット8間に位置しており、これにより、第1スリット8と第2スリット9とに隣り合っている。また、第2スリット9は短手方向Bにおいて隣り合う第1スリット8間にも位置している。各スリット8、9、10のスリット長Dは0.4〜1.0mmである。
【0028】
次に、気体接着力係数γについて説明する。図3に示すように、散気膜3から離脱直前の状態において、気泡20の浮力F1は界面張力による力F2と釣り合っている。気泡の浮力F1は水の密度ρ、重力加速度g、気泡径dとするとπd3/6ρgであり、界面張力による力F2は散気孔21の直径D1≒スリット長D、気体接着力係数γとするとπDγである。
【0029】
ここで、「πD」について説明する。上述したように、散気膜3は、図2(b)に示すように、散気膜3に供給される空気の圧力によって長手方向Aから見て山形状に膨張する。この膨張に際して、散気膜3はその外周縁を拘束されることにより、長いスパンの長手方向Aでは膨張率が小さくなり、短いスパンの短手方向では膨張率が大きくなる。このため、スリット8〜10は短手方向に開口して散気孔21となり、散気孔21の開口周長はスリット長D≒直径D1として近似的に円周「πD」とみなして考えられる。
【0030】
気体接着力係数γは、散気孔21を含んで散気膜3の膜面上に発生する気泡20を散気膜3が膜面上に保持する力に係るものであり、気泡20に対する散気膜3の親和性を示す値である。すなわち、気体接着力係数γは、散気膜21と空気22との間に作用する界面張力γS、対象液体である水23と空気の間に作用する界面張力(表面張力)γL、散気膜3と対象液体の水23との間に作用する界面張力γS/Lによって定まるものである。
【0031】
水23の界面張力(表面張力)γLが水温4℃、大気圧下で一定であるとすると、気体接着力係数γは散気膜3に係る界面張力γS、界面張力γS/Lによって変化する。
気体接着力係数γの算出は、発生する気泡径dの測定により次式に基づいて行なう。
γ=(πd3ρg)/6πD=(d3ρg)/6D
この気体接着力係数γが高いほどに気泡20に対する散気膜3の親和性が高くなり、対象液体の水23に対して散気膜3が疎水性となって気泡径dが大きくなる。気体接着力係数γが低いほどに気泡20に対する散気膜3の親和性が低くなり、対象液体の水23に対して散気膜3が親水性となって気泡径dが小さくなる。
【0032】
例えば、スリット長D=0.4mmの場合、気泡径0.5〜1.5mmとなる気体接着力係数γは0.2〜13.7であり、スリット長D=1.0mmの場合、気泡径0.5〜1.5mmとなる気体接着力係数γは0.2〜5.5である。
【0033】
気体接着力係数γが上述の範囲より大きくてスリット長が長い場合には気泡が大きくなり、スリット長が0.4以下だと圧力損失が大きくなる。
上述した事象は以下のように定義することも可能である。図8に示すように、一般的に物体100の表面に滴下した液体101は表面張力で丸くなり、以下の式が成り立つ。すなわち、物体100と空気102との間に作用する界面張力γS、液体101と空気の間に作用する界面張力(表面張力)γL、物体100と液体101との間に作用する界面張力γS/L、γLとγS/Lとのなす角度θの間にはγS=γL・cosθ+γS/Lの式が成り立つ。ここでγLは液滴の接線であり、角度θは接触角である。
【0034】
この接触角θは気泡に対する散気膜の親和性を示す値であり、接触角θが大きいほどに気泡に対する散気膜の親和性が高くなり、対象液体に対して散気膜が疎水性となって気泡径が大きくなる。接触角θが小さいほどに気泡に対する散気膜の親和性が低くなり、対象液体に対して散気膜が親水性となって気泡径が小さくなる。
【0035】
接触角の測定にはθ/2法、接線法、カーブフィッティング法等があるが、本実施の形態ではθ/2法によって測定した実施例を以下に示す。
【0036】
【表1】
散気膜3の3つの材質に対する接触角θを測定した結果を表1に示す。材質(1)、材質(2)、材質(3)は、EPDMやシリコンゴム等から選択したものであり、それぞれ接触角θが115°、94°、106°となる異なる材質であった。
【0037】
この接触角θの測定は、FACE接触角計CA−X150型(協和界面科学株式会社製)によって行なった。
測定条件は以下のものである。
1.使用液体‥‥‥蒸留水
2.測定室条件‥‥‥室温25℃、湿度40%
3.前処理‥‥‥エタノール洗浄
4.液滴を滴下後に測定までの時間‥‥‥1秒
5.液滴の滴下場所‥‥‥スリットにかからない部位
6.測定回数‥‥‥5回測定し、最大、最小値を除いた値を平均値とする。
【0038】
表1に示すように、接触角θが94°である場合に気泡径が1−2mmと小さくなる。図7は実測定により得られた接触角θと気体接着係数γの相関を示すものである。ここで、接触角θが94°となる場合を含んで気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質の接触角θは108°以下である。接触角θが108°より大きくなると気泡が大きくなる。
【0039】
以下、上記構成における作用を説明する。
散気運転時には、空気供給源(図示省略)から給気口5を通じて所定圧力の空気をメンブレン式散気装置1に供給することにより、図2(b)に示すように、給気口5から空気供給部4に供給される空気の圧力で散気膜3が長手方向Aから見て山形状に膨張し、散気膜3に短手方向Bの引張力Fが発生する。
【0040】
引張力Fは各スリット8、9、10を開くための力となる。この際、第1スリット8が開く方向と引張力Fの方向とは一致するが、第2スリット9、第3スリット10は傾斜角度α、βで傾斜しているため、第2スリット9、第3スリット10が開く方向と引張力Fの方向とは一致しない。すなわち、第1スリット8は引張力Fで容易に開かれるのに対して、第2スリット9、第3スリット10は傾斜角度α、βが増大するほどに、第1スリット8に比べて開き難くなる。
【0041】
したがって、低風量で散気を行う場合、第2スリット9、第3スリット10よりも先に第1スリット8が開き、空気供給部4に供給された空気の大部分は、開かれた第1スリット8を通り、気泡20となって散気膜3の内側から外側へ噴出されるのに対し、開き難い第2スリット9、第3スリット10を通って外側へ噴出される気泡はほとんど無い。
【0042】
これにより、第1スリット8から噴出した気泡がその隣の第3スリット10や第2スリット9からの気泡に結合するのを防止することができ、小風量時において、気泡を分散させて均一に発生させることができ、酸素移動効率の低下を防止することが可能である。
【0043】
また、風量を上記小風量から大風量に増やして散気を行う場合、図2(c)に示すように、空気供給部4に供給される空気の供給量が多いほど空気供給部4の空気圧が上昇して、第2スリット9、第3スリット10が開き易くなり、気泡20を噴出する第2スリット9、第3スリット10の個数が増加する。空気供給部4の空気は、各スリット8、9、10を通り、気泡20となって散気膜3の内側から外側へ噴出される。このように、低風量では、気泡20が主に第1スリット8から噴出するが、風量が増えるのに従って、気泡20を噴出する第2スリット9、第3スリット10の個数が増加するため、初期圧力損失および圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0044】
散気停止時には、散気膜3への空気の供給が遮断されて、図2(a)に示すように、散気膜3が水圧を受けてベースプレート2の上面に押し付けられた状態となる。この際、散気膜3は膨張せず、第1〜第3スリット8〜10は閉じている。
【0045】
そして、気泡20に対する散気膜3の親和性を示す値である気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mであることにより、対象液体の水23に対して散気膜3が親水性となって気泡径dが小さくなり、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0046】
また、接触角θが108°以下であることにより、対象液体の水23に対して散気膜3が親水性となって気泡径dが小さくなり、スリット長Dが0.4〜1.0mmの下でも0.5〜1.5mm径の微細気泡を生成することができ、スリット長Dが大きくなることで圧力損失を軽減することができる。
【0047】
よって、散気膜3の材質を適宜に選定して散気膜3の濡れ性を調整することにより、気泡20が散気膜3から離脱することを促進して酸素移動効率に優れた微細気泡を生成し、かつ長いスリット長の下で圧力損失を抑制することができる。
【0048】
図5は本発明の他の実施の形態におけるスリットパターンを示すものであり、ここでは長手方向Aに対して平行な第1スリット8と、長手方向A(すなわち第1スリット8)に対して所定の傾斜角度β、つまり25°以下で25°に近く傾斜した第3スリット10からなる。
【0049】
本発明のメンブレン式散気装置においては、スリットが散気膜の長手方向との間になす角度を0〜25°の範囲内とするが、図6に示すように、25°以上に傾斜する第4のスリット11を組み合わせることも可能であり、さらには角度が異なる複数種類のスリットをランダムに配置するスリットパターンも可能である。
【実施例1】
【0050】
散気膜にポリウレタンのメンブレンを使用し、スリット長0.6mmの場合、気泡径0.5から1.5mmとなり、発生する気泡は気泡径1mmを中心に分布し、目視実測では気泡径1mmが最も多い。この場合、気泡径1mmとするとγ=2.7mN/mである。
【実施例2】
【0051】
散気膜に他のポリウレタンのメンブレンを使用し、スリット長0.9mmの場合、気泡径0.5から1.5mmとなり、発生する気泡は気泡径1.3mmを中心に分布し、目視実測では気泡径1.3mmが最も多い。この場合、気泡径1.3mmとするとγ=4.0mN/mである。
本発明は、上述した実施の形態にかかるベースプレート2と散気膜3の構成に限らず、上下が軟質シートで構成された袋状の散気装置でも実現できる。
【符号の説明】
【0052】
1 メンブレン式散気装置
2 ベースプレート
3 散気膜
4 空気供給部
5 給気口
6 固定部
8 第1スリット
9 第2スリット
10 第3スリット
11 第4スリット
20 気泡
21 散気孔
22 空気
23 水
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とするメンブレン式散気装置。
【請求項2】
内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、濡れ性を表す指標の接触角θが108°以下となる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とするメンブレン式散気装置。
【請求項3】
各スリットは、散気膜の長手方向との間になす角度が0〜25°の範囲内で、かつ異なる複数の角度のうちの何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載のメンブレン式散気装置。
【請求項1】
内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、気体接着力係数γが0.2〜13.7mN/mとなる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とするメンブレン式散気装置。
【請求項2】
内側の供給気体と外側の対象液体とを隔てる散気膜を有し、散気膜にスリットからなる複数の散気孔を備えるものであって、散気膜は、濡れ性を表す指標の接触角θが108°以下となる材質を備え、スリット長Dが0.4〜1.0mmであることを特徴とするメンブレン式散気装置。
【請求項3】
各スリットは、散気膜の長手方向との間になす角度が0〜25°の範囲内で、かつ異なる複数の角度のうちの何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載のメンブレン式散気装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−125782(P2011−125782A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285825(P2009−285825)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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