説明

モノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンの製造方法

【構成】 一般式
【化1】


(Rf、RfはC1〜5のペルフルオロアルキル基で、両者は直接又はO若しくはNを介して結合し、五員環、六員環、七員環を形成していてもよく、RfはC1〜3のアルキレン基)で表わされるペルフルオロ含窒素カルボン酸又はその反応性誘導体をプロトン系溶媒中で加熱処理して、一般式
【化2】


(Rf、Rf、Rfは前記と同じ意味をもつ)で表わされるモノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンを製造する。
【効果】 熱媒体や溶剤などとして有用なモノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンが、容易に入手しうる原料から簡単な操作で収率よく得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規なモノヒドリル化されたペルフルオロ第3級アミンの製造方法に関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は熱媒体、溶剤などとして有用なモノヒドリル化されたペルフルオロ第3級アミンを容易に入手しうる原料を用いて効率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、ペルフルオロ第3級アミン類は良好な熱安定性、耐電圧性、低温流動性、低表面エネルギー性を有していることから、それらの特性を利用して、人工血液(酸素輸液)、集積回路の検査液、気相ハンダ付け用熱媒体、不活性溶媒などとして広く用いられている。
【0003】ところで、このペルフルオロ第3級アミン類は、アミンの分子構造を有しているにもかかわらず、ペルフルオロカーボン類と類似した溶剤としての性質、すなわちn‐ヘキサン、ベンゼン、エーテル、四塩化炭素などの通常の溶媒にはほとんど溶解せず、ペルフルオロカーボン系の溶媒に対してのみ良好な溶解性を示す性質を有することが知られており[「ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(J.Fluorine Chemistry)」第20巻、第53ページ(1982年)]、また、ペルフルオロ第3級アミン類のペルフルオロアルキル基中に水素原子が1原子でも導入された場合は、通常用いられている炭化水素系溶媒に対しても溶解性を示すほど、その溶解性が変化することも知られている[「ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(J.Fluorine Chemistry)」第20巻、第53ページ(1982年)]。したがって、このモノヒドリル化されたペルフルオロ第3級アミン類は、溶剤としての観点からみると、ペルフルオロ化合物の特性を保持するとともに、溶剤として広い対象範囲をもつ優れた化合物といえる。
【0004】最近、地球環境問題として、オゾン層を保護するために難分解性のフロンやハロンの全面的な使用禁止の規制に伴い、それらの代替品の開発が活発に行われている。冷媒や溶剤などとして、広く用いられているフロンの当面の代替品(第2世代フロン)として、フッ素化合物に水素原子を導入することにより、オゾン層のある成層圏にまでは到達しないように適当な分解性を付与したヒドロフルオロカーボン(HFC)やヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が開発されている。しかしながら将来的には、オゾン層の保護とともに地球の温暖化対策の決め手(新世代フロン)として、ヘテロ原子をもつフッ素化合物の開発が指向されている[「化学総説」No.11、第94ページ(1991年)]。その場合、それらを冷媒、発泡剤、洗浄剤などの各分野へ適用するには、それぞれ使用目的により接触する媒体(例えば、冷凍機の潤滑油、発泡剤としての、ウレタン、洗浄剤としての対象となる油脂成分など)とある程度の溶解性をもつことが必要となる。したがって、新世代フロンの開発に当っては、他の溶媒と適当な相容性をもつ素材の探索が大きな課題となっている。
【0005】ペルフルオロ第3級アミンは、一般的には対応するアミンの電解フッ素化反応によって得られるが、その際に、水素原子をもつペルフルオロアミンも微量副生することが知られている[「日本化学会誌」第1980ページ(1985年)]。また、アミンの三フッ化コバルトによるフッ素化においても、種々の部分フッ素化生成物が得られることが知られている[「テトラヘドロン(Tetrahedron)」第35巻、第2405ページ(1979年)]。さらには、含窒素ペルフルオロカルボン酸誘導体の熱分解反応において、微量のモノヒドロペルフルオロアミンが副生することも知られている[「ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters)」第1887ページ(1988年):同上、第905ページ(1989年)]。
【0006】しかしながら、これまでにモノヒドリル化されたペルフルオロ第3級アミンを容易に入手しうる原料を用いて簡単な操作で収率よく製造する方法は全く知られていなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、熱媒体やフッ素系溶剤などとして有用なモノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンを、容易に入手しうる原料を用いて、簡単な操作で収率よく製造する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、原料として含窒素ペルフルオロカルボン酸又はその反応性誘導体を用い、これをプロトン系溶媒中で加熱処理することによりその目的を達成しうることを見出し、この知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち、本発明は、一般式
【化3】


(式中のRf及びRfはそれぞれ炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基であって、両者は直接に、又は酸素原子若しくは窒素原子を介して結合し、両者が結合している窒素原子とともに五員環、六員環又は七員環を形成していてもよく、Rfは炭素数1〜3のペルフルオロアルキレン基である)で表わされるペルフルオロ(ジアルキルアミノ基置換カルボン酸)又はその反応性誘導体を、プロトン系溶媒中において加熱処理することを特徴とする、一般式
【化4】


(式中のRf、Rf及びRfは前記と同じ意味をもつ)で表わされるモノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンの製造方法を提供するものである。
【0010】本発明方法においては、原料として前記一般式(I)で表わされるペルフルオロ(ジアルキルアミノ基置換カルボン酸)又はその反応性誘導体が用いられる。該一般式(I)におけるペルフルオロジ置換アミノ基としては、例えば
【0011】
【化5】


(ただし、n及びmはそれぞれ1〜5の整数である)で表わされる基などを挙げることができる。
【0012】また、該一般式(I)におけるペルフルオロアルキレン基、すなわちRfとしては、例えば
【化6】


で表わされる基などを挙げることができる。
【0013】さらに、前記一般式(I)で表わされる含窒素ペルフルオロカルボン酸の反応性誘導体としては、例えば該含窒素ペルフルオロカルボン酸の酸フルオリドやアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0014】前記含窒素ペルフルオロカルボン酸の酸フルオリドは、例えば対応する含窒素カルボン酸のエステル又は酸ハライドをフッ化水素中において電解フッ素化することにより、容易に得ることができるし、遊離の含窒素ペルフルオロカルボン酸はこのフルオリドを加水分解することにより得られる。また、含窒素ペルフルオロカルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩は、前記のようにして得られた含窒素ペルフルオロカルボン酸フルオリドにアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩などを作用させることにより得られる。
【0015】本発明方法において用いられるプロトン系溶媒としては、例えば水、エチレングリコール、ジメチルホルムアミドなどが好ましく挙げられるが、これらは使用する原料の種類に応じて適宜選択するのが望ましい。例えば原料として遊離の含窒素ペルフルオロカルボン酸を用いる場合は水を、酸フルオリドを用いる場合はジメチルホルムアミドを、アルカリ金属やアルカリ土類金属塩を用いる場合はエチレングリコールなどを使用するのが有利である。
【0016】本発明においては、反応は加熱条件下にて行われるが、反応温度は通常50〜200℃の範囲で選ばれ、反応時間は1〜24時間の範囲で選ばれる。これらの反応条件は、使用する原料やプロトン系溶媒の種類によって異なるので、目的生成物の収率を考慮して適宜選択するのが望ましい。
【0017】
【発明の効果】本発明によると、容易に入手しうるペルフルオロ(ジアルキルアミノ基置換カルボン酸)又はその反応性誘導体を、プロトン系溶媒中において加熱処理することにより、収率よく高純度のモノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンが得られる。このものは、例えば、冷媒、発泡剤、洗浄剤などの分野で用いられる代替フロン、フッ素系溶剤、熱媒体などの含フッ素製品として、またそれらの水素原子をリチウム化すると強力な求核試薬となるため合成中間体としても有用である。
【0018】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0019】実施例1乾燥し粉末化したペルフルオロ(N,N‐ジメチルアミノ酢酸)カリウム塩6.22gとエチレングリコール4.06gを78mlステンレス反応管に仕込み、脱気した後で170℃で4時間半加熱した。反応終了後、反応管を−78℃に冷却して副生した二酸化炭素を除去したのち、さらに0℃に保ち揮発成分をトラップで冷却(−196℃)捕集することにより、無色透明な揮発性(室温)化合物4.12gが得られた。
【0020】この化合物は、NMR及びIR分析の結果、オクタフルオロトリメチルアミンと同定され、仕込んだペルフルオロ(N,N‐ジメチルアミノ酢酸)カリウム塩を基準にするとその収率は93.4%であった。該化合物は既知化合物であり、その19F‐NMRデータは既報のそれ[「ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(J.Fluorine Chemistry)」第15巻、第231ページ(1980年)]と一致していた。以下に該化合物の赤外吸収スペクトルデータ及び核磁気共鳴スペクトルデータを示す。
【0021】IRデータ(cm−1);3055ν(C−H)(vw),1450(ms),1355〜1370(vs),1309〜1320(s),1205〜1220(vs),1151(m),1195(m),992(s),815(m),758(m),676(m),600(w),542(w)
【0022】NMRデータ;ケミカルシフト(19F‐NMRはCFCl基準、H−NMRはTMS基準)
【化7】


■−56.2ppm(t)
■−98.2(d‐hept)
■δ6.56(t)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=0.9,■−■=56.4
【0023】実施例2原料として、3‐ジメチルアミノプロピオン酸メチルを電解フッ素化して得たフッ素化生成物を蒸留して低沸点分を除いたものをそのまま用いた。このフルオロカーボン中には対応するペルフルオロ(3‐ジメチルアミノプロピオニルフルオリド)が67.1wt%含まれていた。
【0024】まず、300mlの三つ口スラスコに水30mlを入れて氷冷し、この中に前記フルオロカーボン7.5gを滴下した。加水分解は数分で完結した。次いで、フェノールフタレンを指示薬として、10%KOHの水溶液を滴下して中和し、これを蒸発乾固して白色の固体7.3gを得た。
【0025】このようにして得られた固体を粉末化し、これとエチレングリコール2.96gをステンレス製反応管(75ml)に仕込み170℃で5時間半反応させた。反応終了後、実施例1と同様に処理して化合物4.01gを得た。
【0026】この化合物は、19F‐NMR、IR、MSによる分析の結果、純粋なN,N‐ビストリフルオロメチル‐1,1,2,2‐テトラフルオロエチルアミンと同定され、仕込んだペルフルオロ(3‐ジメチルアミノプロピオニルフルオリド)を基準にするとその収率は93.0%であった。また該化合物の沸点は等圧指示器による蒸気圧測定の結果、32.0℃(外挿値)であった。
【0027】該化合物の核磁気共鳴スペクトルデータを以下に示す。
NMRデータケミカルシフト
【化8】


■−53.5ppm(t‐t)
■−99.1■−136.0(d)
■δ5.97(t‐t)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=12.8,■−■=3.3,■−■=52.6,■−■=4.5
【0028】実施例3原料としてペルフルオロ(3‐ジエチルアミノプロピオニルフルオリド)を用いた以外は実施例2と同様にして行った。3‐ジエチルアミノプロピオン酸メチルを電解フッ素化して得たフルオロカーボン中には対応するペルフルオロ(3‐ジエチルアミノプロピオニルフルオリド)が64.5wt%含まれていた。
【0029】すなわち、乾燥し粉末化したペルフルオロ(3‐ジエチルアミノプロピオン酸)のカリウム塩とフッ化カリウムとの混合物5.8gとエチレングリコール1.78gを仕込み、170℃で5時間半反応させ実施例1と同様に処理することにより1‐[ペルフルオロ(N,N‐ジエチルアミノ)]‐1,1,2,2‐テトラフルオロエタン2.77g(収率82.2%)が得られた。
【0030】このものの物理化学的性質及び核磁気共鳴スペクトルデータを次に示す。
沸点:78.5〜79.5℃、屈折率(20℃):<1.28、密度(20℃):1.7463g/cm
【0031】NMRデータケミカルシフト
【化9】


■−53.5ppm■−61.4■−64.8■−134.5(d)
■δ5.98(t‐t)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=53.1,■−■=4.5
【0032】実施例4ペルフルオロ(2‐ジメチルアミノプロピオニルフルオリド)1.25gとジメチルホルムアミド0.93gを30mlのステンレス製反応管に仕込み、150℃で5時間反応させた。反応終了後、生成物をまず−160℃と−40℃の冷却トラップを用い、分別凝縮により分離したのち、−40℃の冷却トラップに凝縮した化合物に少量のアスカライトを加えてかきまぜ、混在する微量の二酸化炭素を除去することにより、無色透明の揮発性(室温)化合物0.83gが得られた。
【0033】この化合物は、19F‐NMRによる分析の結果、N,N‐ビストリフルオロメチル‐1,2,2,2‐テトラフルオロエチルアミンと同定された。仕込んだペルフルオロ(2‐ジメチルアミノプロピオニルフルオリド)を基準にするとその収率は78.5%であった。またこの化合物の沸点は等圧指示器による蒸気圧測定の結果、27.7℃(外挿値)であった。
【0034】該化合物の核磁気共鳴スペクトルデータを以下に示す。
NMRデータケミカルシフト
【化10】


■−56.2ppm(d‐q)
■−168.3(d)
■δ5.67(d‐q)
■−77.5(hept)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=7.6,■−■=5.9,■−■=42.7,■−■=3.8
【0035】実施例5乾燥し粉末化したペルフルオロ(3‐ピロリジノプロピオン酸)カリウム塩とフッ化カリウムとの混合物4.8gとエチレングリコール2.5gを仕込み、170℃で5時間半反応させ、実施例1と同様に処理することにより1‐(ペルフルオロピロリジノ)‐1,1,2,2‐テトラフルオロエタン2.54g(収率61.0%)が得られた。
【0036】この化合物の物理化学的性質及び核磁気共鳴スペクトルデータを次に示す。
沸点:75.5〜76.5℃、屈折率(20℃):1.2831密度(20℃):1.7223g/cm
【0037】NMRデータケミカルシフト
【化11】


■−132.9ppm■−90.4■−98.5■−136.9(d‐pent)
■δ5.98(t‐t)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=6.1,■−■=4.1,■−■=52.6
【0038】実施例6乾燥し粉末化したペルフルオロ(3‐モルホリノプロピオン酸)カリウム塩とフッ化カリウムとの混合物5.24gとエチレングリコール2.5gを仕込み、170℃で5時間半反応させ、実施例1と同様にして処理することにより1‐(ペルフルオロモルホリノ)‐1,1,2,2‐テトラフルオロエタン3.05g(収率74.8%)が得られた。
【0039】この化合物の物理化学的性質及び核磁気共鳴スペクトルデータを次に示す。
沸点:84.0〜85.0℃、屈折率(20℃):1.2882密度(20℃):1.7521g/cm
【0040】NMRデータケミカルシフト
【化12】


■−86.8ppm■−92.1■−97.4■−137.1(d‐pent)
■δ5.90(t‐t)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=17.8,■−■=5.6,■−■=4.0,■−■=53.1実施例7乾燥し粉末化したペルフルオロ(3‐モルホリノイソ酪酸)カリウム塩とフッ化カリウムとの混合物5.56gとエチレングリコール2.2gを仕込み、170℃で5時間半反応させ、実施例1と同様にして処理することにより2‐H‐ペルフルオロ(1‐モルホリノプロパン)2.73g(収率59.7%)が得られた。
【0041】この化合物の物理化学的性質及び核磁気共鳴スペクトルデータを次に示す。
沸点:77.0〜78.0℃、屈折率(20℃):1.2918
【0042】NMRデータケミカルシフト
【化13】


■−83.5ppm■−87.0■−84.7■−91.4■−78.6■−170.0(d‐d)
■−133.5■δ6.31(t‐d)
カップリングコンスタント(Hz)
■−■=JAB=151,■−■=JAB=191,■−■=48,■−■=52.0,■−■=11.2

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式
【化1】


(式中のRf及びRfはそれぞれ炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基であって、両者は直接に、又は酸素原子若しくは窒素原子を介して結合し、両者が結合している窒素原子とともに五員環、六員環又は七員環を形成していてもよく、Rfは炭素数1〜3のペルフルオロアルキレン基である)で表わされるペルフルオロ(ジアルキルアミノ基置換カルボン酸)又はその反応性誘導体を、プロトン系溶媒中において加熱処理することを特徴とする、一般式
【化2】


(式中のRf、Rf及びRfは前記と同じ意味をもつ)で表わされるモノヒドリル化ペルフルオロ第3級アミンの製造方法。

【公開番号】特開平5−132451
【公開日】平成5年(1993)5月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−299511
【出願日】平成3年(1991)10月21日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 明 (外1名)
【出願人】(390004352)株式会社トーケムプロダクツ (1)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 明 (外1名)