説明

モータおよびモータの製造方法

【課題】回転軸において軸受と対向する位置にワッシャを取り付けなくても、ロータの軸受側への可動範囲の制限や、ロータと軸受とのモータ軸線方向における隙間の寸法調整を行うことのできるモータおよびモータの製造方法を提供すること。
【解決手段】モータ1においては、回転軸51の周りにラジアル軸受91とモータ軸線方向Lで対向する筒部80を備え、かかる筒部80は、ラジアル軸受91側の端部82で径方向外側に広がる鍔部83を備えている。従って、回転軸51にワッシャを取り付けなくても、ロータ5のラジアル軸受91側への可動範囲を制限することができる。また、筒部80を塑性変形させて鍔部83を設ける際に、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部から筒部80のラジアル軸受91側の端部82までの寸法LLを調整することができ、筒部80とラジアル軸受91との隙間寸法を調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータおよびモータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種モータのうち、ロータが回転軸を備えたタイプのモータでは、回転軸を支持する軸受が設けられている。また、ロータが回転した際のロータの軸受側への可動範囲を制限してガタつきの防止やロータと軸受との接触防止を図る必要があることから、例えば、回転軸の周りに軸受とモータ軸線方向で対向する筒部を設けるとともに、筒部に対して軸受が位置する側の端部にワッシャを設けた構造が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−22619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成のように、筒部およびワッシャを設けると、部品点数が増えるとともに、組み立て工数が増大し、モータのコストが増大するという問題点がある。また、ロータの軸受とは反対側の端部、すなわち、ロータの反出力側の端部からワッシャまでの寸法を調整して軸受とワッシャとの隙間を調整する必要がある場合には、厚さ寸法が異なる複数種類のワッシャを準備しておき、回転軸に取り付けるワッシャを変更して、ロータの軸受とは反対側の端部からワッシャまでの寸法を調整する必要があるので、その点でも、部品点数が増えるとともに、組み立て工数が増大し、モータのコストが増大するという問題点がある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、回転軸において軸受と対向する位置にワッシャを取り付けなくても、ロータの軸受側への可動範囲の制限や、ロータと軸受とのモータ軸線方向における隙間の寸法調整を行うことのできるモータおよびモータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、回転軸を備えたロータと、前記回転軸を支持する軸受と、を有するモータにおいて、前記ロータは、前記回転軸の周りに前記軸受とモータ軸線方向で対向して当該ロータの前記軸受側への可動範囲を規定する筒部を備え、前記筒部は、前記軸受側の端部で径方向外側に広がる鍔部を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、回転軸の周りに軸受とモータ軸線方向で対向する位置に筒部を備え、かかる筒部は、軸受側の端部で径方向外側に広がる鍔部を備えているため、ロータが軸受側に変位した際、筒部の鍔部が軸受に当接する。このため、回転軸において軸受と対向する位置にワッシャを設けなくても、ロータの軸受側への可動範囲を制限することができる。
【0008】
本発明において、前記鍔部は、前記筒部の前記軸受側の端部を塑性変形させてなる構成を採用することができる。かかる構成によれば、筒部を塑性変形させて鍔部を設ける際、塑性変形の程度によって筒部が短くなる程度が変化するので、塑性変形の程度を調整すれば、回転軸の軸受側とは反対側の端部から筒部の軸受側の端部までの寸法を調整することができる。それ故、ロータの筒部と軸受との隙間寸法を調整することができる。
【0009】
本発明において、前記筒部は樹脂製であり、前記鍔部は、前記筒部の前記軸受側の端部を熱溶融させてなることが好ましい。かかる構成によれば、筒部を容易に塑性変形させて鍔部を設けることができる。
【0010】
本発明において、前記筒部は、前記回転軸に装着されたスリーブである構成を採用することができる。かかる構成によれば、モータの種類にかかわらず、筒部の鍔部を利用してロータの軸受側への可動範囲を制限することができる。
【0011】
本発明において、前記ロータは、前記回転軸に固定されたコアと、該コアを覆うインシュレータと、該インシュレータ上から巻回されたコイルと、を備え、前記筒部は、前記インシュレータと一体に形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、別体の筒部を設ける必要がないという利点がある。
【0012】
また、本発明は、回転軸を備えたロータと、前記回転軸を支持する軸受と、を有するモータの製造方法において、前記回転軸の前記軸受と対向すべき個所に筒部を設けておき、前記筒部の前記軸受側の端部を塑性変形させて当該筒部の軸線方向の寸法を短くする塑性変形工程を行うことにより、前記回転軸の前記軸受側とは反対側の端部から前記筒部の前記軸受側の端部までの寸法を調整することを特徴とする。
【0013】
本発明において、前記筒部の前記軸受側の端部は、前記塑性変形工程を行う前、内縁に段部またはテーパー部が形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、筒部の端部を容易に塑性変形させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、回転軸の周りに軸受とモータ軸線方向で対向する位置に筒部を備え、かかる筒部は、軸受側の端部で径方向外側に広がる鍔部を備えているため、ロータが軸受側に変位した際、筒部の鍔部が軸受に当接する。このため、回転軸にワッシャを取り付けなくても、ロータの軸受側への可動範囲を制限することができる。また、筒部を塑性変形させて鍔部を設ける際、塑性変形の程度によって筒部が短くなる程度が変化するので、塑性変形の程度を調整すれば、ロータと軸受とのモータ軸線方向における隙間の寸法調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るモータの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係るモータの断面図である。
【図3】本発明を適用したモータにおいて、塑性変形工程を行う前の筒部のモータ軸線方向の他方側の端部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明において、モータ軸線方向Lのうち、回転軸の基端側が位置する側を一方側L1(反出力側/下方側)とし、回転軸の先端側が位置する側を他方側L2(出力側/上方側)とする。
【0017】
[実施の形態1]
(ブラシ付きモータの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係るモータの断面図であり、図1(a)、(b)はモータ全体の断面図および筒部付近を拡大して示す断面図である。図1(a)に示すブラシ付きのモータ1は、カップ状のモータケース3の上端面31から回転軸51の出力端側が突出している。モータケース3の内部には、回転軸51のモータ軸線方向Lの略中央部分に、複数枚の磁性板を積層してなる積層コアからなるコア52が圧入により固定されている。コア52の外周側には複数の突極59が等角度間隔に形成されているとともに、複数の突極59の各々にはコイル53が巻回されて電機子50が構成されている。本形態において、コア52には絶縁塗装が施されているので、コア52にインシュレータを取り付けずに、コイル53が直接巻回されている。このようにして、電機子50および回転軸51は、一体に回転可能なロータ5を構成している。
【0018】
モータケース3において、円筒状胴部32の内周面には、複数の極に着磁された永久磁石6が固着され、永久磁石6はコア52の外周面に所定の隙間を介して対峙している。モータケース3のモータ軸線方向Lの一方側L1に位置する開口端には、ポリアミド製等のブラシホルダ4が取り付けられている。本形態において、モータケース3は、モータ軸線方向Lからみたとき、円弧部分と、円弧部分の間を繋ぐ直線部分とからなる小判形状を有しており、かかる形状に対応して、ブラシホルダ4も、モータ軸線方向Lからみたとき、円弧部分と、円弧部分の間を繋ぐ直線部分とからなる小判形状を有している。
【0019】
回転軸51は、モータ軸線方向Lの他方側L2がモータケース3の上端面31に保持されたラジアル軸受91によって回転可能に支持されており、回転軸51においてラジアル軸受91によって支持されている部分と、コア52が固着されている部分との間には、図1(b)に示すように、スリーブからなる円筒状の筒部80が圧入固定されている。
【0020】
図1(a)、(b)に示すように、筒部80のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部81は、コア52に当接している。これに対して、筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82は、径方向外側に広がる鍔部83になっており、かかる鍔部83は、ラジアル軸受91に対してモータ軸線方向Lの一方側L1で所定の隙間を介して対向している。
【0021】
ここで、鍔部83は、後述するように、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を塑性変形させることにより形成されている。より具体的には、筒部80は、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂からなるスリーブであり、鍔部83は、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を熱溶融させることにより形成されている。
【0022】
回転軸51のモータ軸線方向Lの一方側L1は、ブラシホルダ4に形成された有底円筒部42の底面によりスラスト方向に支持されているとともに、有底円筒部42の内部に保持されたラジアル軸受96によって回転可能に支持されている。
【0023】
回転軸51において、コア52よりモータ軸線方向Lの一方側L1に位置する部分には、回転軸51と一体に回転するコミュテータ7が構成され、このコミュテータ7と隣接する位置にはワッシャ75およびバリスタ77が配置されている。コミュテータ7は、回転軸51に固定された樹脂製のスリーブ71と、このスリーブ71の外周面において等角度間隔に保持されたセグメント72とを備えており、スリーブ71において、モータ軸線方向で貫通する穴710内に回転軸51が通されている。コミュテータ7では、スリーブ71のモータ軸線方向の他方側L2の端部からモータ軸線方向の他方側L2に向けて3つの突部711が突出している。3つの突部711は、周方向において等角度間隔に形成され、周方向で隣り合うコイル53の間に位置し、回転軸51に対してコミュテータ7が空回りするのを防止している。また、回転軸51には、コミュテータ7に対してモータ軸線方向Lの一方側L1で隣り合う位置にワッシャ79が装着されている。
【0024】
コミュテータ7の外周面に対しては、2本のブラシ9の先端側が各々、弾性をもって接しており、これらのブラシ9の基端側は各々、ブラシホルダ4に保持されている。ここで、ブラシ9は、先端側が櫛歯状に3分割されている。ブラシ9は金属板から構成され、コミュテータ7の外周面に当接する先端側は、摺動部として、貴金属とのクラッド材で形成されている。
【0025】
ブラシホルダ4は、モータケース3の開放端に重なるフランジ部41と、このフランジ部41の内側でターミナル99が固着された厚肉部43と、コミュテータ7の周りにブラシ9を配置可能な空間を構成する平面形状が略矩形の凹部44とが形成されており、この凹部44の中央位置にラジアル軸受96を保持する有底円筒部42が形成されている。
【0026】
このように構成したブラシホルダ4に対して、ブラシ9の基端側は、ブラシホルダ4のスリット内に固定されており、スリットの内部では、ブラシ9の基端側とターミナル99とが直接、あるいは基板やリード線等といった配線部材を介して電気的に接続されている。
【0027】
(モータ1の製造方法)
本形態のモータ1を製造するにあたっては、まず、回転軸51にコア52を圧入固定する。次に、コミュテータ7のスリーブ71の穴710内に回転軸51を圧入すると、コミュテータ7の3つの突部711は各々、周方向で隣り合うコイル53の間に入り込む。
【0028】
次に、回転軸51のモータ軸線方向Lの他方側L2にスリーブからなる円筒状の筒部80を装着し、筒部80のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部81をコア52に当接させる。その結果、ラジアル軸受91に対してモータ軸線方向Lの一方側L1で対向すべき位置に筒部80が設けられる。この時点では、筒部80は、長さ方向の全体が同一の外径寸法を有しており、鍔部83は形成されていない。
【0029】
次に、コア52にコイル53を巻回した後、コイル53の端部をセグメント72の端部に接続する。また、バリスタ77をハンダ付けする。次に、コミュテータ7を研磨し、セグメント72の外周面をスリーブ71の外周面に揃える。
【0030】
次に、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部(回転軸51のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部)から筒部80のラジアル軸受91側の端部82(筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82)までの寸法LLを調整する。
【0031】
より具体的には、塑性変形工程において、筒部80の端部82を塑性変形させて、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を鍔部83とし、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部(回転軸51のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部)から筒部80のラジアル軸受91側の端部82(筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82)までの寸法LLを設計値に調整する。本形態において、筒部80は、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂からなるスリーブであるので、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を熱溶融させて鍔部83とする。その結果、筒部80のモータ軸線方向Lの寸法が短くなるので、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部から筒部80のラジアル軸受91側の端部82までの寸法LLを調整することができる。それ故、筒部80のラジアル軸受91側の端部82と、ラジアル軸受91との隙間寸法を調整することができる。
【0032】
従って、モータ1を組み立てた以降、筒部80は、ロータ5のモータ軸線方向Lの他方側L2に変位した際、ラジアル軸受91側に当接することにより、ロータ5のラジアル軸受91側への可動範囲を規定する。それ故、ロータ5のモータ軸線方向Lにおけるガタつきを小さく抑えることができる。また、筒部80のラジアル軸受91側の端部82(鍔部83)は、コイル53よりもモータ軸線方向Lの他方側L2に位置する。従って、ロータ5がモータ軸線方向Lの他方側L2に変位しても、コイル53がラジアル軸受91に当接することがないので、コイル53の損傷を防止することができる。
【0033】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のモータ1においては、回転軸51の周りにラジアル軸受91とモータ軸線方向Lで対向する筒部80を備え、かかる筒部80は、ラジアル軸受91側の端部82で径方向外側に広がる鍔部83を備えている。従って、ロータ5がラジアル軸受91側に変位した際、筒部80の鍔部83がラジアル軸受91に当接する。このため、回転軸51においてラジアル軸受91と対向する位置にワッシャを取り付けなくても、ロータ5のラジアル軸受91側への可動範囲を制限することができる。
【0034】
また、筒部80を塑性変形させて鍔部83を設ける際、塑性変形の程度によって筒部80が短くなる程度が変化するので、塑性変形の程度を調整すれば、ロータ5のモータ軸線方向Lの寸法、すなわち、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部(回転軸51のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部)から筒部80のラジアル軸受91側の端部82(筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82)までの寸法LLを調整することができる。それ故、筒部80のラジアル軸受91側の端部82と、ラジアル軸受91との隙間寸法を調整することができる。
【0035】
さらに、本形態では、筒部80は、回転軸51に装着されたスリーブであるので、ロータ5にインシュレータが用いられているか否かにかかわらず、筒部80の鍔部83によって、ロータ5のラジアル軸受91側への可動範囲を制限することができる。
【0036】
また、本形態において、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を熱溶融させて鍔部83とするため、鍔部83が小さい。それ故、回転軸51に対してウォームギア等を介して負荷がかかるような場合、回転軸51がモータ軸線方向Lの他方側L2に引っ張られて鍔部83とラジアル軸受91とが摺動するような場合でも、摺動面積が狭い。それ故、大きな摺動音が発生するような事態や、大きな摺動ロスが発生するような事態を回避することができる。
【0037】
[実施の形態2]
図2は、本発明の実施の形態2に係るモータ1の断面図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には、同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0038】
図2に示すように、本形態のモータ1も、実施の形態1と同様、ブラシ付きモータ1であり、ロータ5では、回転軸51にコア52が圧入固定されている。ここで、ロータ5は、コア52を覆う樹脂製のインシュレータ8を有しており、かかるインシュレータ8の上からコア52にコイル53が巻回されている。かかるインシュレータ8は、例えば、コア52に対してモータ軸線方向Lの一方側L1から被さる第1部材と、コア52に対してモータ軸線方向Lの他方側L2から被さる第2部材とからなる。
【0039】
また、回転軸51は、モータ軸線方向Lの他方側L2がモータケース3の上端面31に保持されたラジアル軸受91によって回転可能に支持されており、回転軸51においてラジアル軸受91によって支持されている部分と、コア52が固着されている部分との間には、筒部80が圧入固定されている。
【0040】
本形態において、筒部80は、インシュレータ8からモータ軸線方向Lの他方側L2に突出した部分である。このため、筒部80のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部81は、コア52に当接している。これに対して、筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82は、径方向外側に広がる鍔部83になっており、かかる鍔部83は、ラジアル軸受91に対してモータ軸線方向Lの一方側L1で所定の隙間を介して対向している。
【0041】
本形態でも、実施の形態1と同様、鍔部83は、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を塑性変形させることにより形成されている。より具体的には、筒部80は、ポリイミド樹脂やポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂からなるスリーブであり、鍔部83は、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を熱溶融させることにより形成されている。
【0042】
なお、本形態において、インシュレータ8は、モータ軸線方向Lの一方側L1に向けて突出した筒部88を備えており、かかる筒部88は周方向で等角度間隔に切り欠かれている。従って、コミュテータ7の突部711は、周方向で隣り合うコイル53の間においてインシュレータ8の筒部88の切り欠き内に位置し、回転軸51に対してコミュテータ7が空回りするのを防止している。
【0043】
本形態のモータ1を製造するにあたっては、まず、回転軸51にコア52を圧入固定した後、コア52にインシュレータ8を装着する。その際、筒部80に回転軸51を圧入する。その結果、ラジアル軸受91に対してモータ軸線方向Lの一方側L1で対向すべき位置に筒部80が設けられる。この時点では、筒部80は、長さ方向の全体が同一の外径寸法を有しており、鍔部83は形成されていない。
【0044】
次に、コミュテータ7のスリーブ71の穴710内に回転軸51を圧入すると、コミュテータ7の3つの突部711は各々、周方向で隣り合うコイル53の間に入り込む。
【0045】
次に、コア52にコイル53を巻回した後、コイル53の端部をセグメント72の端部に接続する。また、バリスタ77をハンダ付けする。次に、コミュテータ7を研磨し、セグメント72の外周面をセグメント72の外周面に揃える。
【0046】
次に、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部(回転軸51のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部)から筒部80のラジアル軸受91側の端部82(筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82)までの寸法LLを設定値に調整する。
【0047】
より具体的には、塑性変形工程において、筒部80の端部82を塑性変形させて、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を鍔部83とする。本形態において、筒部80は、熱可塑性樹脂製であるので、筒部80のラジアル軸受91側の端部82を熱溶融させて鍔部83とする。その結果、筒部80のモータ軸線方向Lの寸法が短くなるので、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部から筒部80のラジアル軸受91側の端部82までの寸法LLを調整することができる。それ故、筒部80のラジアル軸受91側の端部82と、ラジアル軸受91との隙間寸法を調整することができる。
【0048】
従って、モータ1を組み立てた以降、筒部80は、ロータ5のモータ軸線方向Lの他方側L2に変位した際、ラジアル軸受91側に当接することにより、ロータ5のラジアル軸受91側への可動範囲を規定する。それ故、ロータ5のモータ軸線方向Lにおけるガタつきを小さく抑えることができる。また、筒部80のラジアル軸受91側の端部82(鍔部83)は、コイル53よりもモータ軸線方向Lの他方側L2に位置する。従って、ロータ5がモータ軸線方向Lの他方側L2に変位しても、コイル53がラジアル軸受91に当接することがないので、コイル53の損傷を防止することができる。
【0049】
以上説明したように、本形態のモータ1においても、実施の形態1と同様、回転軸51の周りにラジアル軸受91とモータ軸線方向Lで対向する筒部80を備え、かかる筒部80は、ラジアル軸受91側の端部82で径方向外側に広がる鍔部83を備えている。従って、ロータ5がラジアル軸受91側に変位した際、筒部80の鍔部83がラジアル軸受91に当接する。このため、回転軸51においてラジアル軸受91と対向する位置にワッシャを取り付けなくても、ロータ5のラジアル軸受91側への可動範囲を制限することができる。
【0050】
また、筒部80を塑性変形させて鍔部83を設ける際、塑性変形の程度によって筒部80が短くなる程度が変化するので、塑性変形の程度を調整すれば、回転軸51のラジアル軸受91側とは反対側の端部(回転軸51のモータ軸線方向Lの一方側L1の端部)から筒部80のラジアル軸受91側の端部82(筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82)までの寸法LLを調整することができる。それ故、筒部80のラジアル軸受91側の端部82と、ラジアル軸受91との隙間寸法を調整することができる。
【0051】
さらに、本形態では、筒部80は、コア52に装着されたインシュレータ8の一部であるため、別部材からなるスリーブを回転軸51に装着する必要がないという利点がある。
【0052】
[筒部80の構成例]
図3は、本発明を適用したモータ1において、塑性変形工程を行う前の筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82の構成を示す断面図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と同様であるため、共通する部分には、同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0053】
上記実施の形態1で用いた筒部80に関しては、塑性変形工程を行う前、一定の肉厚で延在しているものを用いてもよいが、図3(a)、(b)に示すように、塑性変形工程を行う前、モータ軸線方向Lの他方側L2の端部82の肉厚が薄くなっているものを用いれば、塑性変形工程を容易に行うことができる。
【0054】
例えば、図3(a)に示す筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82には、内縁に段部82aが形成されている。このため、塑性変形工程において段部82a全体が消失するように熱溶融させると、図1および図2に示す鍔部83を容易に形成することができる。
【0055】
また、図3(b)に示す筒部80のモータ軸線方向Lの他方側L2の端部82には、内縁にテーパー部82bが形成されている。このため、塑性変形工程においてテーパー部82b全体が消失するように熱溶融させると、図1および図2に示す鍔部83を容易に形成することができる。
【0056】
[他の実施の形態]
上記実施の形態では、ブラシ付きのモータ1に本発明を適用したが、ステッピングモータ等、回転軸51に永久磁石が設けられているタイプのモータにおいてロータ5の可動範囲を制限する場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1・・ブラシ付きのモータ
5・・ロータ
8・・インシュレータ
52・・コア(積層コア)
80・・筒部
83・・鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を備えたロータと、前記回転軸を支持する軸受と、を有するモータにおいて、
前記ロータは、前記回転軸の周りに前記軸受とモータ軸線方向で対向して当該ロータの前記軸受側への可動範囲を規定する筒部を備え、
前記筒部は、前記軸受側の端部で径方向外側に広がる鍔部を備えていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記鍔部は、前記筒部の前記軸受側の端部を塑性変形させてなることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記筒部は樹脂製であり、
前記鍔部は、前記筒部の前記軸受側の端部を熱溶融させてなることを特徴とする請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記筒部は、前記回転軸に装着されたスリーブであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記ロータは、前記回転軸に固定されたコアと、該コアを覆うインシュレータと、該インシュレータ上から巻回されたコイルと、を備え、
前記筒部は、前記インシュレータと一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ。
【請求項6】
回転軸を備えたロータと、前記回転軸を支持する軸受と、を有するモータの製造方法において、
前記回転軸の前記軸受と対向すべき個所に筒部を設けておき、
前記筒部の前記軸受側の端部を塑性変形させて当該筒部の軸線方向の寸法を短くする塑性変形工程を行うことにより、前記回転軸の前記軸受側とは反対側の端部から前記筒部の前記軸受側の端部までの寸法を調整することを特徴とするモータの製造方法。
【請求項7】
前記筒部の前記軸受側の端部は、前記塑性変形工程を行う前、内縁に段部またはテーパー部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のモータの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−78185(P2013−78185A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215934(P2011−215934)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】