説明

モータノイズ低減装置

【目的】FM波の受信感度にモータノイズが与える影響を効果的に低減し得る安価なモータノイズ低減装置を提供する。
【構成】ラジエータファン・モータ51に正極側の電源ライン54と負極側の電源ライン55とが設けられ、当該両電源ライン54,55をモータ51からFM帯の中心周波数(国内の場合83MHz)のFM波の波長の1/4の距離の点で相互に高周波的にショートする高周波ショート回路3が両電源ライン54,55に併設されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、モータノイズ低減装置に係り、更に詳しくは、ラジエータファン・モータ等のモータ雑音がFM波の受信感度に与える影響を低減するモータノイズ低減装置に関する。
【0002】
【背景技術】一般に、自動車には、エンジンルーム内の冷却用として、図6に示すように、車体前部にラジエータ・ファン50が実装されている。このラジエータ・ファンは、その回転軸にラジエータファン・モータ(図7符号51参照)が設けられ、該モータにより回転駆動されるようになっている。ラジエータファン・モータ51は、図に示すようにヒューズ52を介してコントローラ53に接続され、このコントーラは電源としてのバッテリ60に接続されている。そして、エンジンルーム内の温度が上昇すると、図示しない温度センサがこれを検知し、該センサの信号によりコントローラ53がラジエータファン・モータ51をオン(ON)することにより、エンジンルーム内のエンジンや電装品等を冷却するようになっている。
【0003】ところで、このラジエータファン・モータの電源ライン54,55はしばしば長く,例えば、図1に示すように、車室内まで伸ばされる場合があり、かかる場合にモータのノイズがFM波等の受信電波に与える影響を軽減するため、従来においても以下のような対策が採られていた。
【0004】即ち、モータに直列にコイルを入れる方法、モータの両端にバリスタを入れる方法、あるいはモータの両端にコンデンサを入れる方法等である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したモータに直列にコイルを入れる方法にあっては、ノイズ低減の効果は得られるが、10A程度の大電流が流れるのでこれに耐え得る大容量のコイルが必要であり、必然的にコストが高くなるという不都合があった。また、モータの両端にバリスタを入れる方法にあっては、コストが高い反面、効果が少ないという不都合があった。更に、モータの両端にコンデンサを入れる方法にあっては、単にコンデンサを入れただけでは、特にFM波の場合にノイズ低減の効果が得られないという不都合があった。
【0006】
【発明の目的】本発明は、かかる従来技術の有する不都合に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、特に、FM波の受信感度にモータノイズが与える影響を効果的に低減し得る安価なモータノイズ低減装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明モータノイズ低減装置は、モータに正極側の電源ラインと負極側の電源ラインとが設けられ、当該両電源ラインをモータからFM帯の中心周波数のFM波の波長の四分の一の距離の点で相互に高周波的にショートする高周波ショート回路が両電源ラインに併設されていることを特徴として構成されている。
【0008】
【作用】高周波ショート回路により、モータの正極側の電源ラインとモータの負極側の電源ラインとがモータからFM帯の中心周波数のFM波の波長の四分の一の距離の点で相互に高周波的にショートされるので、モータの正極側の電源ラインとモータの負極側の電源ラインにより形成される分布定数回路のモータ側から見たインピーダンスが上記中心周波数に対しては無限大になり、その他のFM帯に対しても非常に大きくなる。
【0009】
【第1実施例】以下、本発明の第1実施例を図1ないし図2に基づいて説明する。ここで、前述した従来例と同一もしくは同等の構成部分については同等の符号を付すものとする。
【0010】図1には、本発明の第1実施例に係るモータノイズ低減装置の回路図が示されている。この図において、ラジエータファン・モータ(以下、「モータ」という。)の正極側の電源ライン54と負極側の電源ライン55には、モータ51からの距離が、日本国内におけるFM帯(76MHz〜90MHz)の中心周波数である83MHzのFM波の波長λの四分の一であるλ/4の点A,Bに、一端A′,B′がそれぞれ開放状態の長さλ/4の伝送線1,2の他端が図示の如く接続さている。
【0011】本実施例では、伝送線1,2により、中心周波数83MHzについて、モータ51の正極側の電源ライン54と負極側の電源ライン55とを、相互に高周波的にショートする高周波ショート回路3が構成されている。
【0012】即ち、伝送線(電源ラインを含む。)は、高周波に対しては分布定数回路(伝送線路から成る回路)を構成する分布定数部品であり、一端が開放した伝送線は図2中符号aで示すような分布定数回路を構成することが知られており、また、この分布定数回路のインピーダンスは図2中符号bで示す特性を有することが知られている。図2において、インピーダンスZは、伝送線の特性インピーダンスをZ0 として、次式■によって表わされる。
【0013】
Z=jZ0 tan(2πl/λ) ………………
【0014】従って、本実施例では、高周波に対しては一端A′,B′がそれぞれ開放した伝送線1,2がこのような分布定数回路を形成し、これらの伝送線1,2の長さlがλ/4であるから、■式にl=λ/4を代入し、あるいは図2から、この場合のインピーダンスZは無限大となり、結果的に中心周波数83MHzに対しては図1のA点とB点がショートした状態となる。同様の理由により、正極側の電源ライン54と負極側の電源ライン55により図2のような分布定数回路が形成され、モータ51より図1の右側を見た回路のインピーダンスは、無限大になり、83MHzのモータ51のノイズ成分は、図1における右側には進行しない。その他のFM帯の周波数に対しても、モータ51より図1の右側を見た回路のインピーダンスは、かなり大きく、83MHz以外のFM帯の周波数のモータ51のノイズ成分は、図1における右側には殆ど進行しない。
【0015】発明者等は、83MHzのλ/4(=約93cm)に上記の各部分の長さを設定して、実験により、FM波の受信感度に影響を与えるモータノイズが大幅に減少することを確認した。
【0016】以上説明したように、本第1実施例によると、FM波の受信感度にモータノイズが与える影響を効果的に低減することができ、しかも、図1中の伝送線1,2には、電流が流れないので、細い線を使用することができ、従って安価に供給できるという効果がある。
【0017】なお、伝送線の特性インピーダンスZ0 は、比誘電率をεr として、図3に示す平行線、図4に示す同軸線では、それぞれ次の■、■式のようになる。
【0018】
0 =276/εr 1/2・log10(2D/d) ……………
【0019】
0 =138/εr 1/2・log10(D1 /D2 ) ……………
【0020】
【第2実施例】次に、本発明の第2実施例を図5に基づいて説明する。ここで、前述した第1実施例と同一又は同等の部分については、同一の符号を付すものとする。
【0021】この実施例は、前述した第1実施例における高周波ショート回路3に代えて高周波ショート回路5が設けられている点に特徴を有するものである。
【0022】この高周波ショート回路5は、図中のA点とB点をコンデンサ4を介して接続する集中定数回路により構成されている。即ち、高周波はコンデンサ4を素通りするので、A−B間のインピーダンスは高周波的にゼロであり、A−B間は、高周波的にショートされる。従って、第1実施例と同様の理由により、モータ51より図2の右側を見た回路のインピーダンスは、83MHzに対して無限大になり、その他のFM帯の周波数に対してもかなり大きく、FM帯の周波数を有するモータ51のノイズ成分は、図2における右側には殆ど進行しない。発明者等は、この場合にも、FM波の受信感度に対し影響を与えるモータノイズが大幅に減少することを実験によって確認している。
【0023】なお、上記第1,第2実施例では、モータとして、ラジエータファン・モータを例にとって説明したが、本発明はこれ以外のモータのモータノイズの低減にも適用できるものである。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、高周波ショート回路の作用により、モータの正極側の電源ラインとモータの負極側の電源ラインにより形成される分布定数回路のモータ側から見たインピーダンスがFM帯の中心周波数に対しては無限大になり、その他のFM帯に対しても非常に大きくなることから、FM帯の周波数を有するモータノイズがモータから外部に向かって伝達されるのを完全にあるいはほぼ完全に防止することができ、しかも高周波ショート回路は、上記第1,第2実施例のように安価な分布定数回路部品あるいは集中定数回路部品により構成することができる。従って、FM波の受信感度にモータノイズが与える影響を効果的に低減することができ、しかも安価に供給することができるという従来にない優れたモータノイズ低減装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例の構成を示す図である。
【図2】分布定数回路のインピーダンスを説明するための図である。
【図3】平行線の特性インピーダンスを説明するため各部の寸法を示す図である。
【図4】同軸線の特性インピーダンスを説明するため各部の寸法を示す図である。
【図5】本発明の第2実施例の構成を示す図である。
【図6ないし図7】従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
3,5 高周波ショート回路
51 ラジエータファン・モータ
54 正極側の電源ライン
55 負極側の電源ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 モータに正極側の電源ラインと負極側の電源ラインとが設けられ、当該両電源ラインを前記モータからFM帯の中心周波数のFM波の波長の四分の一の距離の点で相互に高周波的にショートする高周波ショート回路が前記両電源ラインに併設されていることを特徴としたモータノイズ低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−29936
【公開日】平成6年(1994)2月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−72477
【出願日】平成4年(1992)2月21日
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)