説明

モータ制御装置

【課題】 簡単かつ安価な構成としながら、スライド等速運転等にも対応可能な高速応答性と安定性を有したモータ制御装置を提供する。
【解決手段】 パルス発生器1から出力された速度指令は、直接的に加算器5を介して速度制御手段6に入力されると共に、システム同定フィルタ9へ入力されプレス機械7の挙動を表す特性(周波数特性)に基づき所定に補正されて偏差演算手段3に入力される。偏差演算手段3では当該補正後の速度指令と実際に検出されたスライド速度との偏差を求め、当該偏差に基づいて加算器5ではパルス発生器1から出力された速度指令を補正し、その補正後の速度指令を速度制御手段6へ出力する。これにより、速度制御手段6への速度指令に対して、当該プレス機械7が有する固有の挙動特性に応じた補正を行うことができるため、高速応答性と安定性を有したモータ制御装置を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。より詳しくは、モータの回転をクランク機構等を介してスライドの往復運動に変換してプレス加工を行うプレス機械等に利用されるモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、誘導モータ或いは同期モータ等を使用して位置と速度を制御するためのモータ制御方式において、図7に示すように、例えばKp(比例ゲイン)で示した比例制御器4で代表させて示すフィードバック制御に、Kf(フィードフォワードゲイン)で代表させて示したフィードフォワード補正器10によるフィードフォワード制御を組み合わせることで、速度指令に対する制御対象の追従性を高めるようにしたモータ制御方式が知られている。
【0003】
かかるモータ制御方式は、図7に示したように、パルス発生器1から速度指令(モータ回転軸の単位時間当たりの移動(回転)量指令)が出力される。しかし、前記移動量指令と実際の移動量には必ず時間遅れ分が存在する。
【0004】
このため、制御対象であるプレス機械7のモータ200の速度制御手段6には、前記単位時間当たりの移動量指令を、この時間遅れ分を補うように予め定めたKfで補正するフィードフォワード補正器10によって補正した補正後の移動量指令が、加算器5を介して入力されるようになっている。そして、この補正後の移動量指令に従って、図3に概略的に示したようなプレス機械7のスライド100の動作が制御されるように構成されている。
【0005】
一方、前記補正後の移動量指令に従って動作されたスライド100の実際の位置が位置検出器8によって検出され、パルス発生器1からの前記移動量指令と、当該実際に検出されたスライド100の実際の移動量と、が加算器2を含んで構成される偏差演算手段3に入力されるようになっている。
【0006】
この偏差演算手段3では、パルス発生器1からの前記移動量指令と、実際に検出されたスライド100の実際の移動量と、の偏差を求め、その偏差に基づく値を比例制御器4に出力する。比例制御器4では、制御の追従性や安定性等を考慮しつつ、偏差演算手段3から入力された値をKpで補正して、加算器5へ出力する。
【0007】
加算器5では、前記フィードフォワード補正器10において時間遅れ分を補うようにKfにより補正された補正後の移動量指令を、比例制御器4において移動量指令と実際の移動量との偏差を無くすように定められた値によって補正し、その補正後の移動量指令を速度制御手段6へ出力する。
【0008】
これにより、プレス機械7のスライド100は、パルス発生器1からの移動量指令に対して遅れを持たず、かつ、実際の移動量が目標となる移動量指令値によく追従して、正確に動作されることになる。
【0009】
しかし、かかる制御方式では、加算器5において、常に、フィードフォワード補正器10の出力と、比例制御器4からの偏差分を補正するための値と、が加算されるため、フィードフォワード補正器10のフィードフォワード補正値(或いはKfの値)が大きいと、速度が目標値に到達する位置で、図7において楕円で囲った部分に示すようなオーバシュートやアンダーシュート(以下、代表的にオーバシュートと言う場合もある)を発生させ、モータ200に振動などを発生させてしまう惧れがある。なお、このオーバシュートやアンダーシュートを小さくするために、フィードフォワード補正値(或いはKfの値)を小さくすると、今度は、時間遅れ分を良好に補えなくなるという相反する特性がある。
【0010】
このように制御対象がオーバシュートしてモータ200に振動を発生させる惧れを抑制する技術として、例えば、特許文献1に記載されるようなものが提案されている。
このものは、トルク指令のオーバシュート量に着目して、位置と速度制御系の双方でフィードフォワード制御によるモータの振動を抑制するようにしている。
【特許文献1】特開2003−259674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、プレス機械7のスライド100を駆動する場合は、図3に示したように、モータ200の回転動力をスライド100の往復運動に変換するクランク機構300やリンク機構(図示せず)などが用いられる。
【0012】
例えば、このようなクランク機構300等を備えるプレス機械7で加工を実施した場合、モータ200の回転速度を一定として加工を実施すると、機構上の制約によりスライド高さが比較的高い位置では高速で、スライド高さが低い位置(所謂下死点付近)では低速で加工動作を行うことなる。このスライド速度(スライド100の移動速度)の変化は運転条件である加工時のスライド高さやモータ回転速度以外にプレス機械7の仕様条件(スライドストローク、コンロッド長、クランクアーム長)等によっても変化する。
【0013】
従って、プレス加工を実施する場合、材料成型速度が重要な成型ファクターとなるが、クランク機構300等を備えるプレス機械7でプレス加工を実施する場合には、材料成型速度つまりスライド速度は上記の運転条件やプレス機械7の仕様条件等により複雑に変わるため、当該運転条件や仕様条件に見合った加工条件の設定等を、当該運転条件や仕様条件毎に行なう必要があるなど作業が複雑化する惧れがある。
【0014】
このようなことから、運転条件やプレス機械仕様条件が変化しても材料成型速度を一定に保つことで加工作業を単純化する方法が考えられが、かかる方法として、スライド速度を等速とする制御方式がある。
【0015】
この等速制御方法を実現するには、例えば、クランク機構300を有するプレス機械7では、スライド100の位置が下死点に接近するにつれてクランク軸延いてはモータ200の回転速度を双曲線的に上昇させる速度指令(図4参照)に対して良好に追従させることができるモータ制御方式と、プレス加工負荷変動に対抗することができる堅牢な制御方式と、の両者の組み合わせが必要となる。
【0016】
従って、特許文献1のものでは対応が困難で、運転条件やプレス機械仕様条件が変化しても材料成型速度を一定に保つための等速制御を実現できる方法としては、背景技術において記載したようなフィードバック制御とフィードフォワード制御を組み合わせた手段が想定されるが、双方の制御量(或いはゲイン)を増加させると過補償となりスライド100が振動したりスライド速度・位置がオーバシュートしたりアンダーシュートするという惧れは依然として残るといった実情がある。
【0017】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ安価な構成としながら、スライド等速運転等にも対応可能な高速応答性と安定性を有したモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このため、本発明に係るモータ制御装置は、
モータの出力を利用して動作される機構の当該モータへの速度指令に対する挙動を表す特性を同定して予め記憶しておくシステム同定フィルタと、
前記機構の実際の動きを検出する動き検出手段と、
を備え、
モータへの速度指令を、モータの速度制御手段と、前記システム同定フィルタと、に別ルートで入力すると共に、
前記動き検出手段により検出された実際の動きと、前記システム同定フィルタに入力され通過することで前記機構の挙動を表す特性が反映された前記モータへの速度指令と、の偏差に基づいて、前記システム同定フィルタとは別ルートで前記速度制御手段に入力されるモータへの速度指令を補正することを特徴とする。
【0019】
前記システム同定フィルタに記憶される前記挙動を表す特性は、前記機構の周波数特性であることを特徴とすることができる。
【0020】
前記システム同定フィルタに記憶される前記挙動を表す特性は、前記機構を所定パターンで動作させたときの応答時間遅れであることを特徴とすることができる。
【0021】
前記モータの出力を利用して動作される機構は、モータの回転動力をスライドの往復運動に変換する機構とすることができる。
【0022】
前記モータの回転動力をスライドの往復運動に変換する機構は、プレス機械のプレス動作に利用される機構であることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成としながら、スライド等速運転等にも対応可能な高速応答性と安定性を有したモータ制御装置を提供することができる。なお、本発明は、速度(単位時間当たりの移動量)を扱い位置制御系のみでモータの振動を抑制しようとしているので、位置制御系と速度制御系とが個別のユニットで構成されているモータ制御装置においても、本発明を適用することができる。また、本発明によれば、プレス機械のスライドが製品を加工する1サイクルの行程の中でモータの急激な加減速、例えばスライド等速運転を行う際の駆動機構の構造に起因するモータの急激な加減速を繰り返しても、指令制御量に対してオーバシュートやアンダーシュートさせることなく高い速度応答性とプレス加工負荷に対抗する堅牢性の高い制御を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係るモータ制御装置の実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0025】
本発明に係るモータ制御装置は、例えば、プレス機械のスライド駆動機構によって誘導モータ或いは同期モータ等(以下、単にモータと称する)の回転動力をスライドの往復運動に変換して、スライドに取り付けられた上型と下型の加圧によって製品を加工するプレス機械に利用されるモータの制御に適用されることができ、
前記プレス機械のスライドが所望の軌跡にならって動作するようにモータへの単位時間当たりの移動量指令(すなわち、速度指令)を補正すること無く直接モータの速度制御手段に与える速度フィードフォワード的な制御経路を備えると共に、
前記移動量指令に対応した駆動部の応答時間の遅れ特性や駆動機構と機械のイナーシャに関する特性によって生じる偏差発生特性(移動量指令に対するプレス機械の挙動を表す特性)を予め記憶するプレス機械システム同定フィルタ(以下、システム同定フィルタと称する)と、
前記移動量指令に対応してプレス機械のスライド自体又はスライド駆動部分の動きを検出する検出器から得られるフィードバック信号に関連する情報と、前記システム同定フィルタの出力に関連する情報と、の偏差を求める偏差演算手段と、
前記偏差に基づいて前記速度制御手段に与えられる移動量指令を補正するフィードバック補正手段と、
を備え、
前記偏差がない場合には、当該偏差を前記モータの速度制御手段に与えること無く、前記速度制御手段に与えられる移動量指令に基づいてモータを駆動制御する一方、前記移動量指令の変化がなくなったにもかかわらず前記偏差が生じたときに、前記偏差に基づいて前記速度制御手段に与えられる移動量指令を補正してモータを駆動制御するように構成するものである。
【実施例1】
【0026】
図1に、本発明の実施例1に係るモータ制御装置の制御ブロックの構成例を示す。なお、図3で説明したプレス機械7の概略構成、図7で説明した従来のモータ制御装置、と同様の要素には同一の符号を付して説明することとする。
【0027】
本実施例に係るモータ制御装置では、図1に示したように、従来のKf(フィードフォワードゲイン)で代表させて示したフィードフォワード補正器10が省略され、パルス発生器1からの速度指令(モータ回転軸の単位時間当たりの移動量指令)が、直接的に、加算器5を介して制御対象であるプレス機械7のモータ200の速度制御手段6に入力されるようになっている。
【0028】
一方、前記速度指令に従って動作されたスライド100の実際の位置が位置検出器8によって検出され、当該実際に検出された位置に基づき算出されるスライド100の実際の移動速度(スライド速度)に関連する情報(以下、単に移動速度或いはスライド速度と言う場合がある)が、加算器2を含んで構成される偏差演算手段3に入力されるようになっている。
【0029】
また、本実施例では、図1に示したように、パルス発生器1から出力された速度指令は、前述した直接的に加算器5を介して速度制御手段6に入力される経路から分岐して、システム同定フィルタ9へ入力されるようになっている。
【0030】
そして、当該システム同定フィルタ9に入力され通過することにより、制御部や駆動部の応答時間の遅れなどを含めた当該プレス機械7の挙動を表す特性{例えば周波数特性(減衰(或いはゲイン)特性、位相特性)}に基づき所定に補正された補正後の速度指令に関連する情報(以下、単に補正後の速度指令と言う場合もある)が、前記偏差演算手段3に入力されるようになっている。
【0031】
従って、前記偏差演算手段3では、前記システム同定フィルタ9を通過した補正後の速度指令と、位置検出器8で実際に検出されたスライド速度と、の偏差を求め、その偏差に基づく情報(例えば値)を比例制御器4に出力する。そして、比例制御器4では、制御の追従性や安定性等を考慮しつつ、偏差演算手段3から入力された情報(例えば値)をKpで補正して、加算器5へ出力する。
【0032】
加算器5では、パルス発生器1から出力された速度指令を、比例制御器4において速度指令と実際のスライド速度との偏差を無くすように定められた情報(例えば値)によって補正し、その補正後の速度指令を速度制御手段6へ出力する。
【0033】
これにより、速度制御手段6への速度指令に対して、当該プレス機械7が有する固有の挙動特性{例えば周波数特性(減衰特性、位相特性)}に応じた補正を行うことができるため、実際のスライド100の動作を目標の速度指令によく追従させることができ、以ってプレス機械7のスライド100が製品を加工する1サイクルの行程の中でモータ200の急激な加減速、例えばスライド等速運転を行う際の駆動機構の構造に起因するモータ200の急激な加減速を繰り返しても指令制御情報(例えば量)に対してオーバシュートさせることなく高い速度応答性と堅牢性を備えた制御を実現できることになる。
【0034】
ここで、前述したシステム同定フィルタ9について説明する。
システム同定フィルタ9は、速度制御手段6に速度指令を与えたときの当該速度指令に対するプレス機械7の挙動を表す特性{例えば周波数特性(減衰特性、位相特性)}に基づいて、パルス発生器1から出力された速度指令を補正するが、そのために、当該プレス機械7の挙動を表す特性(周波数特性)を取得しておく必要がある。
【0035】
具体的には、例えば、本実施例に係るモータ制御装置では、まず、速度制御手段6に対して、図示しないパルス発生器から直接的に正弦波状の速度指令情報(信号)を与える。或いは、図1の比例制御器4からの加算器5への入力を断つなどフィードバック制御を機能させない状態で、パルス発生器1から速度制御手段6に対して直接的に正弦波状の速度指令情報(信号)を与える。
【0036】
そして、当該速度指令情報(信号)に従って動作されたスライド100の実際の動作を位置検出器8によって検出する。この位置検出器8で検出されたプレス機械7のスライド100の速度情報(信号)を観測し、速度指令情報(信号)に対する実際に観測されたスライド100の速度情報(信号)の減衰率と位相差を観測する。
【0037】
次に、速度指令情報(信号)の周波数を低周波から徐々に上昇させて、上記と同様の方法で、速度指令情報(信号)に対する実際に観測されたスライド100の速度情報(信号)の減衰率と位相差を所望の周波数毎に観測することで、図2に示すようなプレス機械7のボード線図を得る。
【0038】
以上で得られたプレス機械7のボード線図から近似した伝達関数式を求め、制御部や駆動部の応答時間の遅れなどを含めたプレス機械7の周波数特性式を得る。
【0039】
そして、本実施例では、この得られたプレス機械7の周波数特性式をシステム同定フィルタ9におけるプレス機械7の挙動を同定するためのフィルタとして用い、パルス発生器1から出力された速度指令を、当該プレス機械7の挙動{例えば周波数特性(減衰特性、位相特性)}を実現できるように、所定に補正することになる。
【0040】
従って、本実施例によれば、プレス機械7のスライド100の動作は速度指令に対して時間的な遅れは若干あるものの、当該プレス機械7の実際の挙動を代表する特性{例えば周波数特性(減衰特性、位相特性)}に見合った補正を行うことができるため、実際のスライド100の動作を目標の速度指令によく追従させることができ、以ってプレス機械7のスライド100が製品を加工する1サイクルの行程の中でモータ200の急激な加減速、例えばスライド等速運転を行なう際の駆動機構の構造に起因するモータ200の急激な加減速を繰り返しても、指令制御量に対してプレス機械7の実際の遅れ分をシステム同定フィルタ9によって補正していないのでオーバシュートやアンダーシュートさせることなく、高い速度応答性と堅牢性を備えた制御を実現できることになる。なお、前述した若干の時間的な遅れは、速度指令に対して運転波形が全体的に遅れ方向にシフトしているだけで、スライド100の挙動自体は良好に再現されているため、プレス加工において問題が生じるものではない。
【0041】
ここで、本実施例に係るモータ性制御装置によるモータ制御方法の従来の制御方法と比較した効果を、図5〜図6に示しておく。
【0042】
図5の(A)、(B)及び図6の(A)は、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせ、フィードフォワードゲインKfを変化させた場合(Kpは所定値に固定)のプレス機械7の運転波形を示すもので、図6の(B)は本実施例に係るシステム同定フィルタを用いた制御方法によるプレス機械7の運転波形を示すものである。図5、図6共に、横軸を時間、縦軸をモータ回転速度として示してある。
【0043】
図5の(A)は、フィードフォワード無し(Kf=0)とした場合で、速度指令に対してモータ200の追従性が悪いことが解る。
【0044】
図5の(B)は、フィードフォワードゲイン50%(Kf=0.5)とした場合で、図5の(A)に対して追従性はある程度改善されているものの、速度指令に対するモータ200の追従性は未だ悪いままであることが解る。
【0045】
図6の(A)は、フィードフォワードゲイン100%(Kf=1.0)とした場合で、図5の(A)、(B)に対して追従性が改善され速度指令に対するモータ200の追従性は良好であるが、目標位置に到達したときにオーバシュートが発生することが解る。
【0046】
図6の(B)は、本発明に係るシステム同定フィルタを用いた制御方法での運転特性を示しているが、時間的な遅れは若干あるものの図6の(A)と略同等の追従性を達成でき、かつ、速度指令を直接的に加算器5を介して速度制御手段6に入力するというフィードフォワードゲイン100%(Kf=1.0)と同一の条件下であってもオーバシュートが全く発生しない、良好な運転特性を実現できることが解る。
【0047】
ところで、本実施例においては、システム同定フィルタ9で利用されるプレス機械7の挙動特性(周波数特性)は、パルス発生器から直接的に速度制御手段6に速度指令を与え、スライド100の実際の動作を観測することで取得することができるため、プレス機械7の製造時、出荷時等において個体毎に挙動特性を取得し、これを個体毎に予め記憶させておくことができる。
【0048】
また、納入先で使用する金型毎に金型を取り付けた状態でプレス機械7の挙動特性(周波数特性)を取得し直すこともできるため、使用状況に応じた最適な制御を提供できることになる。
【0049】
更に、プレス機械7の経時変化(摩耗、使用油の粘度の変化)等により、プレス機械7の挙動特性(周波数特性)が変化することも想定されるが、かかる場合も、所定運転時間毎に、簡単にプレス機械7の挙動特性(周波数特性)を取得し直すことができるため、使用状況に応じた最適な制御を提供できることになる。
【0050】
なお、本実施例では、実際のスライド100のスライド速度を検出し、これと、システム同定フィルタ9の出力と、の偏差を求め、当該偏差に基づいて、加算器5に直接入力されるパルス発生器1からの速度指令を比例制御器4を介して補正するフィードバック制御を行っているため、個体毎、使用状況毎の挙動特性の相違、経時変化等に対する挙動特性の変化は補償されるものではあるが、上述したように個体毎に、使用状況毎に、或いは経時変化等に応じて、プレス機械7の挙動特性(周波数特性)を取得し直すようにすれば、より一層、高応答で安定性の高い制御を提供できることになる。
【実施例2】
【0051】
次に、本発明の実施例2について説明する。
実施例2は、図1で示した実施例1と同様の制御ブロック図(システム構成)であるので、当該制御ブロック図についての説明は省略し、実施例1とはシステム同定フィルタ9の内容が異なるため、当該部分についてのみ説明する。
【0052】
実施例2においても、実施例1のシステム同定フィルタ9と同様に、制御部や駆動部の応答時間の遅れなどを含めたプレス機械7の挙動を表す特性に基づいて、パルス発生器1から出力された速度指令を補正する点で同様であるが、実施例2に係るシステム同定フィルタ9で用いるフィルタは、実施例1のものより簡素化されている。
【0053】
すなわち、実施例2では、システム同定フィルタ9を時間遅れフィルタ(例えば、FIFOメモリ(First-In
First-Out Memory)等を含んで構成される)を用いて構成する。
【0054】
実施例2では、図1のパルス発生器1から、プレス機械7の運転パターン(例えば、図4に示したようなスライド100の等速制御を実現するための加減速パターン)の速度指令信号を発生させる。
【0055】
そして、図1の偏差演算手段3の位置偏差量を連続信号としてモニタする。なお、当該信号に基づき動作したスライド100の実際に検出された位置情報に基づいてゲイン(減衰特性)を求め、Kp等の補正係数を所望に設定することができる(なお、減衰特性が所定範囲にある場合には当該処理操作は省略することができる)。
【0056】
次に、システム同定フィルタ9内の時間遅れフィルタの値(当該フィルタに順次入力されてくる速度指令が当該フィルタから順次出力されるまでの遅れ時間)を調整すると、モニタしている位置偏差量が変化し、位置偏差量が最も小さくなった時間遅れフィルタの値を、当該システム同定フィルタ9内の時間遅れフィルタの値として用いて、図1の制御ブロック図を構成する。
【0057】
これにより、制御部や駆動部の応答時間の遅れなどを含めたプレス機械7の実際の挙動(応答時間遅れ特性)に合致するように、パルス発生器1から出力された速度指令は、システム同定フィルタ9内の時間遅れフィルタから出力されることになるため、加算器5に直接入力されるパルス発生器1から出力された速度指令を、若干の時間的な遅れを伴うものの、プレス機械7の目標の動作を良好に再現するように補正することができ、以って実際のスライド100の動作を目標の速度指令によく追従させることができる(図6(B)参照)。なお、前述した若干の時間的な遅れは、速度指令に対して運転波形が全体的に遅れ方向にシフトしているだけで、スライド100の挙動自体は良好に再現されるているため、プレス加工において問題が生じるものではない。
【0058】
更に、偏差演算手段3で求めた偏差に基づいて、加算器5に入力されるパルス発生器1からの速度指令を比例制御器4を介して補正するフィードバック制御を行っているため、加算器5に直接入力されるパルス発生器1から出力された速度指令に対して、プレス機械7の実際の挙動(減衰特性)に応じた補正を行うことができ、以って実際のスライド100の動作を目標の速度指令によく追従させることができ、延いてはプレス機械7のスライド100が製品を加工する1サイクルの行程の中でモータ200の急激な加減速、例えばスライド等速運転を行なう際の駆動機構の構造に起因するモータ200の急激な加減速を繰り返しても、指令制御量に対してオーバシュートやアンダーシュートさせることなく、高い速度応答性と堅牢性を備えた制御を実現できることになる。
【0059】
ところで、実施例1のシステム同定フィルタ9(周波数特性同定フィルタ)は速度指令信号に含まれる周波数成分に対してプレス機械7の応答性を正しく求めることができるので、各種の加減速運転パターンに対して振動を抑制する効果が得られる。これに対し、実施例2のシステム同定フィルタ9(時間遅れフィルタ)は実施例1に比べ簡易的に特定の運転パターンに関するプレス機械7の挙動を求めているので特定の加減速運転パターンに対して振動を抑制することができるものである。
【0060】
なお、本実施例においても、プレス機械7の製造時や出荷時に個体毎にプレス機械7の挙動特性を取得するだけでなく、納入先の使用状況、経時変化等に対するプレス機械7の挙動特性の変化を補償するために、使用状況毎に、或いは所定運転時間毎に、プレス機械7の挙動特性を取得するようにすれば、より一層最適な制御を実現できるものである。
【0061】
ところで、上述した各実施例では、モータの回転をクランク機構等を介してスライドの往復運動に変換してプレス加工を行うプレス機械に本発明に係るモータ制御装置を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、モータの回転動力を利用して動作される他の機構や機械、装置、設備等に用いられるモータ制御装置として利用できるものである。
また、本発明に係る機構には、モータの出力を利用して動作される機構であれば含まれ、ロボットアームのような機構の他、当該モータの出力を利用して動作される機構を備えて構成されるプレス機械のような機械・装置・設備までも含まれるものである。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1に係るモータ制御装置の制御ブロック図を示す図である。
【図2】同上実施例において取得されるプレス機械の挙動を表すボード線図の一例を示す図である。
【図3】同上実施例に係るモータ制御装置が利用されるプレス機械の概略的な構成例を示す図である。
【図4】同上実施例に係るプレス機械のスライドの等速制御のための加減速運転パターンを説明するための図である。
【図5】(A)は従来のモータ制御装置によるプレス機械の運転特性(Kf=0の場合)の測定結果を示す図であり、(B)は従来のモータ制御装置によるプレス機械の運転特性(Kf=0.5の場合)の測定結果を示す図である。
【図6】(A)は従来のモータ制御装置によるプレス機械の運転特性(Kf=1.0の場合)の測定結果を示す図であり、(B)は本発明に係るモータ制御装置によるプレス機械の運転特性の測定結果を示す図である。
【図7】従来のモータ制御装置の制御ブロック図を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 パルス発生器
3 偏差演算手段
4 比例制御器
5 加算器
6 速度制御手段
7 プレス機械
8 位置検出器
9 プレス機械システム同定フィルタ
100 スライド
200 モータ
300 クランク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの出力を利用して動作される機構の当該モータへの速度指令に対する挙動を表す特性を同定して予め記憶しておくシステム同定フィルタと、
前記機構の実際の動きを検出する動き検出手段と、
を備え、
モータへの速度指令を、モータの速度制御手段と、前記システム同定フィルタと、に別ルートで入力すると共に、
前記動き検出手段により検出された実際の動きと、前記システム同定フィルタに入力され通過することで前記機構の挙動を表す特性が反映された前記モータへの速度指令と、の偏差に基づいて、前記システム同定フィルタとは別ルートで前記速度制御手段に入力されるモータへの速度指令を補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記システム同定フィルタに記憶される前記挙動を表す特性が、前記機構の周波数特性であることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記システム同定フィルタに記憶される前記挙動を表す特性が、前記機構を所定パターンで動作させたときの応答時間遅れであることを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータの出力を利用して動作される機構が、モータの回転動力をスライドの往復運動に変換する機構であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一つに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータの回転動力をスライドの往復運動に変換する機構は、プレス機械のプレス動作に利用される機構であることを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−259273(P2008−259273A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96745(P2007−96745)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】