説明

モード変換素子

【課題】単峰形状のスポットの光を効率良く結合させ、あるいは射出させることができ、形状の自由度が高く、作製が容易となるモード変換素子を提供する。
【解決手段】領域1と領域2との異なる2つの領域を光結合させる、二本以上の複数の単一モード導波路で形成されたモード変換素子であって、
光が伝搬する方向に平行な軸をz軸とし、前記複数の単一モード導波路を横断する方向の該z軸に垂直な軸をx軸、該x軸および該z軸に垂直な軸をy軸とし、前記モード変換素子の中心を通る前記z軸を含む面を面1としたとき、
前記モード変換素子を伝搬する光を、前記面1に対して偶モードを一つのみ有する光とするため、前記単一モード導波路を前記面1に対して鏡映対称に配置した構造を備え、
前記モード変換素子は、前記領域1から入射した光を前記偶モードに変換して伝搬させ、前記領域2と光結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイスなどに用いられるモード変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導波路を有する光デバイスを用いて、伝搬する光を制御したり、光を外部へ射出したりする場合、利便性の面から光のスポットの形状は単峰形状であることが求められる。
異なる導波モードを有する2つの導波路間を光結合する場合、高効率に単峰形状を保ったまま結合することが必要となる。
しかし、導波モードが異なる2つの導波路を直接に突合せ結合をすると、結合効率が悪く、損失が大きい。
また、結合する領域では導波モードは乱れやすく、光のスポット形状は単峰形状とならない。
【0003】
これらに対処する従来技術として、特許文献1や、特許文献2に開示されている、テーパー構造や多段導波路などのモード変換素子を用いる方法が知られている。
図12(a)(b)に、このような従来例におけるテーパー構造や多段導波路によるモード変換素子を示す。
図12(a)にはテーパー構造のモード変換素子400が示されており、図12(b)には多段導波路のモード変換素子401が示されている。
図12に示すテーパー構造や多段導波路のモード変換素子では、コア部106の幅(図12のx方向の長さ)を徐々に変わる構造とすることで、伝搬する光を単峰形状に保ちながら、光のスポットサイズを徐々に変えることができる。
これらより、光結合し、あるいは光を外部へ射出するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特登録2850996号公報
【特許文献2】特開平8−171020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来例における図12に示すテーパー構造や多段導波路としたモード変換素子400、401は、伝搬特性が形状に敏感であり、作製が困難であるという課題を有している。
モード変換素子400、401の幅が光の波長以上になる領域では、複数の高次の固有モードが発生しやすくなる。
そのため、コア部106の幅の変化が大きい領域や、作製誤差などにより形状に揺らぎがある領域では、伝搬する光のスポットの形状が乱れやすくなる。
また、導波モードの形状は伝搬するに従い変化する。
そのため、単峰形状を保ったまま光を結合、射出させるためには、モード変換素子400、401のz方向の長さを離散的な範囲に設定しなければならず、長さの自由度が低い。
また、特にフォトニック結晶導波路を用いた場合、テーパー構造のように連続的に光導波路の幅が変化する構造を作ることが困難であり、スポット形状が乱れやすくなる、等の課題を有している。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、単峰形状のスポットの光を効率良く結合させ、あるいは射出させることができ、形状の自由度が高く、作製が容易となるモード変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のモード変換素子は、領域1と領域2との異なる2つの領域を光結合させる、二本以上の複数の単一モード導波路で形成されたモード変換素子であって、
光が伝搬する方向に平行な軸をz軸とし、前記複数の単一モード導波路を横断する方向の該z軸に垂直な軸をx軸、該x軸および該z軸に垂直な軸をy軸とし、前記モード変換素子の中心を通る前記z軸を含む面を面1としたとき、
前記モード変換素子を伝搬する光を、前記面1に対して偶モードを一つのみ有する光とするため、前記単一モード導波路を前記面1に対して鏡映対称に配置した構造を備え、
前記モード変換素子は、前記領域1から入射した光を前記偶モードに変換して伝搬させ、前記領域2と光結合させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、単峰形状のスポットの光を効率良く結合させ、あるいは射出させることができ、形状の自由度が高く、作製が容易となるモード変換素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の領域1と領域2を結合するモード変換素子のxz面を示す図。
【図2】図2(a)は実施例1のモード変換素子のxy面の概略断面図。図2(b)はモード変換素子のxz面の概略断面図。
【図3】実施例1の単一モード導波路の導波モードを説明する図。
【図4】実施例1のマルチモード導波路の導波モードを説明する図。
【図5】実施例1の単一モード導波路における単体の導波モードを説明する図。
【図6】実施例1のモード変換素子の導波モードを説明する図。
【図7】図7(a)は実施例1の四本の単一モード導波路で形成したモード変換素子のxz面を説明する図、図7(b)は比較例を説明する図。
【図8】図8(a)は実施例1のモード変換素子のxz面を示す図。図8(b)は領域1と領域2を結合する導波路のxz面を示す図。
【図9】実施例2の領域1と領域2を結合するモード変換素子のxz面を示す図。
【図10】実施例2のモード変換素子のxy面を示す図。
【図11】実施例2のモード変換素子のxz面を示す図。
【図12】従来例のモード変換素子のxz面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
なお、以下における実施例を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一の数字を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【実施例】
【0011】
[実施例1]
実施例1では、本発明を適用したモード変換素子の構成例について説明する。図1に示すように、本実施例のモード変換素子100は、異なる導波モードを有する領域1と領域2の間を光結合する、二本以上の単一モード導波路104と105によって構成されている。
本実施例ではこの領域1には単一モード導波路101が形成され、領域2にはマルチモード導波路102が形成されている。
ここでは、入射光108は単一モード導波路101からマルチモード導波路102の方向へ伝搬され、伝搬される方向をz軸の方向とする。
そして、単一モード導波路101と、マルチモード導波路102の中心軸は一致するように配置されている。
また、上記二本の単一モード導波路を横断する方向のz軸に垂直な軸をx軸とし、このx軸および上記z軸に垂直な軸をy軸とする。
また、モード変換素子100の中心を通りyz面に平行な面を面(面1)103とし、モード変換素子100の中心を通りxz面に平行な面を面109とする。図1は単一モード導波路101と、マルチモード導波路102と、モード変換素子100のxz断面を表しており、図2(a)はモード変換素子100のxy断面を表している。
また、各部位の上記x軸と平行な方向の長さを「幅」、y軸と平行な方向の長さを「高さ」と表現する。
モード変換素子100は、同一の二本の単一モード導波路104と105を、面103に対して鏡映対称に配置することで形成されている。
また、単一モード導波路104と105の中心軸が面109に含まれるように配置されている。
【0012】
単一モード導波路104と単一モード導波路105は、コア部106と、コア部106の周りのクラッド部107から形成されている。
コア部106の屈折率をn1、クラッド部107の屈折率をn2としたとき、n1>n2となっている。
単一モード導波路104と単一モード導波路105は同一の材料で形成され、互いのコア部106の幅は等しく、また互いのコア部106の高さも等しい。
また、単一モード導波路101とマルチモード導波路102のコア部の屈折率も同じn1とし、クラッドの屈折率も同じn2とする。
【0013】
図2(b)に示すように、単一モード導波路104と単一モード導波路105のコア部106の幅をW1とし、モード変換素子100の実効的なコア部110の幅をdとする。
ここで、モード変換素子100の実効的なコア部110とは、図2(b)に示すように、単一モード導波路104における面103とは逆側の側面と、単一モード導波路105における面103とは逆側の側面との領域のことをいう。
ここで、図1に示す単一モード導波路101とマルチモード導波路102を伝搬する導波モードについて述べる。
導波路を伝搬する導波モードは、コア部の屈折率、クラッド部の屈折率、コア部の幅、光の波長によって一意に決まる。
以上に示した単一モード導波路101のxz面における固有モードを、縦軸に電場振幅、横軸にx軸の座標として図3に示す。
また、マルチモード導波路102の固有モードを、縦軸に電場振幅、横軸にx軸の座標として図4に示す。
ここで、面103に対して偶関数となる0次、2次モードを偶モード、面103に対して奇関数となる1次、3次モードを奇モードと呼ぶ。
マルチモード導波路102を伝搬する導波モードは、図4で示した0次〜3次モードの合計4つの固有モードの和で表わされる。
単一モード導波路101を伝搬する導波モードは、0次モードしか存在しないため、面103に対して偶モードで単峰形状の光が伝搬する。
マルチモード導波路102に単峰形状の光を伝搬させるためには、0次モードを他の高次モードに比べ多く励起することが必要である。
【0014】
つぎに、モード変換素子100を伝搬する導波モードについて述べる。
図5(a)、(b)には、それぞれ、単一モード導波路104と単一モード導波路105が単体の場合における、電場振幅分布を縦軸に電場振幅、横軸にx軸の座標として表されている。
また、図6には、単一モード導波路104と単一モード導波路105で形成したモード変換素子100の導波モードの電場振幅分布を、縦軸に電場振幅、横軸にx軸の座標として表されている。
図6に示すように、モード変換素子100を伝搬する導波モードは、単一モード導波路104単体の導波モードと、単一モード導波路105単体の導波モードを結合した形で表される。
このとき、モード変換素子100は、面103に対して偶モード1つ(図6(a))と、奇モード1つ(図6(b))の合計二つの固有モードをもつ。
上記したモード変換素子100の場合、固有モードは二つとなり、偶モードは1つしか持たない。
このように、モード変換素子100のような面103に対して鏡映対称な構造とすることで、偶モードの光を伝播させることができる。
また、二本の単一モード導波路で構成していることにより、導波モードのx方向への広がりは、単一モード導波路104単体と単一モード導波路105単体の場合に比べ、モード変換素子100の方が広くなる。
【0015】
モード変換素子100が偶モードを一つしか持たない条件は、モード変換素子100の規格化周波数Vを用いることで設定することができる。
規格化周波数Vは、一般的な導波路で用いられるパラメータである。
規格化周波数V<(m+1)・π/2(m:整数)のとき、固有モードの個数はm個以下となる。
光導波路が中心軸に対して鏡映対称な構造の場合、0次(m=0)、1次(m=1)、2次モード(m=2)はそれぞれ、偶モード、奇モード、偶モードとなる。
したがって、m=1であるV<πのとき、偶モードは一つだけとなる。
【0016】
本実施例の構造においては、規格化周波数Vは以下に示すように表される。
単一モード導波路104のコア部106と、単一モード導波路105のコア部106の合計の幅をW(=2×W1)とする。
また、円周率をπとし、入射光108の真空中の伝搬定数をk0とする。
このとき規格化周波数Vは、コア部106の屈折率n1、クラッド部の屈折率n2、コア部106の合計の幅W、実効的なコア部110の幅d、入射光108の真空中の伝搬定数をk0とするとき、以下に示す(式1)の条件式によって表わされる。

V=k0/2{W・d・(n1^2−n2^2)}^(1/2) (式1)

ここで、「^」は冪数を表している。(式1)に示すVが、V<πを満たすように、モード変換素子100のパラメータを決定する。
【0017】
モード変換素子100を用いて、単一モード導波路101からマルチモード導波路102へ単峰形状の光を結合する概念を説明する。
単一モード導波路101を伝搬する入射光108は、上記したように面103に対して偶モードの光となる。
このとき、モード変換素子100を伝搬する光は、面103に対して偶モードの光となる(図6(a))。
ここで、モード変換素子100の偶モードは一つのみであるため、導波モードの形状が固定された光がモード変換素子100を伝搬する。
そのため、モード変換素子100のz方向の長さによらず、マルチモード導波路102へ同じモード形状の光を結合することができる。
図6(a)に示すように、モード変換素子100を伝搬する導波モードの電場振幅分布の符号は、全て正または負で分布している状態(以後、「同符号で分布」と呼ぶ)となっている。
また、導波路単体の場合に比べ、電場が横方向(x方向)へ広がった光がマルチモード導波路へ入射される。上で示したような導波モードの光が、モード変換素子100からマルチモード導波路102へ入射することで、マルチモード導波路102の0次モードを多く励起することができる。
【0018】
ここで、モード変換素子100を伝搬する光に対する、マルチモード導波路102の各固有モードの結合効率について説明する。
マルチモード導波路102の各固有モードの規格化した電場振幅分布、伝搬定数をそれぞれ、

【0019】
とする。jはモードの次数を表している。
マルチモード導波路102を伝搬する導波モードE(χ,z)は、各固有モードの和で表わされ、以下に示す(式2)のようになる。

【0020】
jは各モードの係数を表している。
マルチモード導波路102を伝搬する光のスポットを単峰形状とするためには、0次モードの係数を大きくすることが必要である。
ここで、モード変換素子100とマルチモード導波路102の境界面をz=z0とする。
また、モード変換素子100のxz断面のz=z0における電場振幅分布を

【0021】
とする。
このとき、マルチモード導波路102を伝搬する光の固有モードの係数は、以下に示す(式3)で得ることができる。

【0022】
z=z0における、モード変換素子100の電場振幅分布

【0023】
と、マルチモード導波路102の各固有モードの電場振幅分布

【0024】
の重なり積分が大きいほど、励起される比率が大きくなる。
【0025】
モード変換素子100のz=z0における電場振幅分布

【0026】
が偶モードのとき、マルチモード導波路102の奇モードの光、

【0027】
は(式3)より、重なり積分がゼロになるため励起されない。
ここで、モード変換素子100を面103に対して、鏡映対称でない構造とすると、モード変換素子100を伝搬する導波モードも面103に対して鏡映対称ではなくなるため、マルチモード導波路102で奇モードが励起されることとなる。
したがって、奇モードが励起されるのを防ぐために、モード変換素子100は、面103に対して鏡映対称とすることが必要である。
以上に示したように、モード変換素子100を用いることで、スポットが単峰形状の光を効率良く、単一モード導波路101からマルチモード導波路102へ結合させることができる。
また、二本の単一モード導波路104、105の構成とすることで、設計、作製を容易にすることができる。
【0028】
ここで、モード変換素子100は、二本に限ったものではなく、三本以上の単一モード導波路を面103に対して鏡映対称となるように配置することで形成しても良い。
図7(a)には、例として四本の単一モード導波路113、114、115、116で形成したモード変換素子112を示す。
このとき、単一モード導波路113と単一モード導波路116は、同一のコア部106の材料、幅、高さを有しており、面103に対して鏡映対称な関係にある。
また、単一モード導波路114と単一モード導波路115は、同一のコア部106の材料、幅、高さを有しており、面103に対して鏡映対称な関係にある。
このとき、上記(式1)で示した規格化周波数Vを用いて、V<πを満たすようにすることで、モード変換素子112の偶モードを一つだけとなるように設定する。

V=k0/2{W・d・(n1^2−n2^2)}^(1/2) (式1)

ここで、Wは四本の単一モード導波路113、114、115、116のコア部106の合計の幅を表している。
図7(b)に示すように、単一モード導波路113と単一モード導波路116のコア部106の幅をW2とし、単一モード導波路114と単一モード導波路115のコア部106の幅をW3とするとき、W=2×W2+2×W3となる。
dはモード変換素子112の実効的なコア部117の幅を表している。
ここで、モード変換素子112の実効的なコア部とは、図7(b)に示すように、単一モード導波路113の面103とは逆側の側面と、単一モード導波路115の面103とは逆側の側面の間に挟まれる領域のことをいう。
モード変換素子100と同様な原理で、モード変換素子112を用いることにより、設計、作製が容易に、スポットが単峰形状の光を効率良く、単一モード導波路101からマルチモード導波路102へ結合させることができる。
また、複数単一モード導波路を配置することで、0次モードへとの重なり積分を大きくし、0次モードとの結合効率を向上させることができる。
【0029】
ここで、領域2がマルチモード導波路102ではなく、自由空間の場合においても、同様の原理により、単峰形状の光を自由空間へ射出させることができる。射出口での電場振幅分布が同符号で分布し、偶モードで分布している場合、射出される光のファーフィールドパターンは単峰形状となる。
また、単一モード導波路101の代わりに共振器を用いてもよい。このとき、共振器が周囲に作る電場分布は、面103に対して鏡映対称となるように設定する。
共振器が周囲に作る電場分布と重なる位置に、モード変換素子100を配置することで、モード変換素子100へ偶モードの光を導波させることができる。また、単一モード導波路101またはマルチモード導波路102またはモード変換素子100はフォトニック結晶で形成しても良い。フォトニック結晶で作製することにより、光の伝搬損失を低減することができる。
また、コア部とクラッド部の材料は本実施例で示したものに限ったものではなく、他の材料で形成しても良い。
【0030】
また、図1、図2(a)に示したモード変換素子100において、単一モード導波路104、105の配置により、マルチモード導波路102の2次以上の高次の偶モードの発生を抑制することができる。
図8(a)に示すように、マルチモード導波路102の2次モードのx方向の電場振幅がゼロとなる位置に、単一モード導波路104と単一モード導波路105端部の中心が合うようにモード変換素子100を構成する。
これにより、高次の偶モードの発生を抑制することができる。
ここで、マルチモード導波路102における2次モードの電場振幅がx方向にゼロとなる座標をx1、x2とする。
そして、単一モード導波路104と単一モード導波路105の端部の中心座標がx1、x2となるように配置する。
このような構成にすることで、マルチモード導波路102の2次モードが励起される比率を抑えることができる。
これは、座標x1、x2を境に、2次モードの電場振幅は左右に正の領域と負の領域が分布しているためである。
座標x1、x2に単一モード導波路104、105から単一モードの光を入射させると、2次モードとの重なり積分は小さくなり、2次モードが励起される比率を抑制することができる。
また、4次モードなど、さらに高次の偶モードがマルチモード導波路102に存在している場合においても、座標x1、x2の付近に、電場振幅がゼロとなる位置が存在するため、同様の理由により高次の偶モードを抑制することができる。
【0031】
ここで、マルチモード導波路102の各固有モードが励起される比率を以下に示す。
コア部106には例えばInGaAsを用いることができ、クラッド部107には例えばInPを用いることができる。
入射光108の真空中の波長がλ=1.55μmの場合、コア部106及びクラッド部107の屈折率はn1=3.3、n2=3.17となる。
ここで、入射側の単一モード導波路101のコア部の幅を0.5μm、射出側のマルチモード導波路102のコア部の幅を5μmとする。
また、モード変換素子100を構成している単一モード導波路104、105のコア部106の幅をW1=0.9μmとし、モード変換素子100の実効的なコア部110の幅をd=2.5μmとする。
また、入射光108の波長をλ=1.55μmとする。
モード変換素子100の規格化周波数はV=0.92πとなり、偶モードが一つだけとなる。
このとき、モード変換素子100を伝搬した光が、マルチモード導波路102へ結合したとき、0次モードが全体の96%励起され、2次モードが全体の4%励起される結果となる。
【0032】
比較のため図8(b)に示すように、モード変換素子を一様のコア部106をもつ1本の導波路111とした場合について示す。
導波路111は、面103に対して鏡映対称となるように配置している。コア部の屈折率は3.3、クラッド部の屈折率は3.17とした。
導波路111の幅は、偶モードを一つだけもつ、最大の導波路の幅となるように設定している。この場合、コア部106の幅W1=1.6μmとなる。
このとき、単一モード導波路101から入射光108が入射したとき、導波路111は、偶モードを一つしか持たないため、モード形状が固定された偶モードの光が伝搬する。
マルチモード導波路102では、0次モードが全体の55%励起され、2次モードが全体の45%励起される結果となった。
したがって、導波路111に比べモード変換素子100の方が、0次モードが多く励起されており、単峰形状の光として結合している。
これは、モード変換素子100の方が高次モードの発生を抑制していることによる。
また、モード変換素子100を伝搬する導波モードの方がx方向に電場分布が広がっているため、0次モードとの結合効率が大きくなったことが起因している。
【0033】
ここで導波路111において、さらにコア部106の幅を広げることで、導波モードの横方向の広がりを大きくすることは可能である。
しかし、導波路111のコア部106の幅をさらに大きくすると、偶モードは2つ以上発生する。このとき、導波モードは形状を変えながら導波路111に伝搬することになり、導波路111のz方向の長さを精度良く設定しなければ、z=z0において、0次モードが励起される比率が小さくなる。
その結果、マルチモード導波路102を単峰形状の光が伝搬しない。
また、導波路111のコア部106の幅を極端に狭くすることにより、導波モードの横方向の広がりを大きくすることは可能である。しかしその場合、導波モードの形状が大きく変化し、0次モードとの重なり積分が小さくなり、結合効率が悪い。
これはテーパー構造や多段導波路においても同様のことがいえる。テーパー構造や多段導波路のようなコア部の幅が大きくなる領域では、高次モードが発生するため、形状に敏感になり、作製することが困難となる。
また、極端に幅を狭くした場合においても、結合効率は悪くなる。
【0034】
[実施例2]
実施例2として、図9、図10を用いて、実施例1とは異なる構成のモード変換素子200の構成例について説明する。
本実施例のモード変換素子200では、領域1には単一モード導波路301が形成され、領域2にはマルチモード導波路302が形成されている。
入射光108は単一モード導波路301からマルチモード導波路302の方向へ伝搬するとし、伝搬する方向をz軸の方向とする。単一モード導波路301と、マルチモード導波路302の中心軸は一致するように配置する。
図9(a)は単一モード導波路301と、マルチモード導波路302と、モード変換素子200のxz断面を表しており、図9(b)はyz断面を表している。図10はモード変換素子200のxy断面を表している。
単一モード導波路301、マルチモード導波路302は、実施例1と同じ構造であり、モード変換素子200だけ異なっている。
実施例1と同様にモード変換素子200の中心を通りyz面に平行な面を面103とし、モード変換素子200の中心を通りxz面に平行な面を面109とする。
モード変換素子200は四本の単一モード導波路201、202、203、204で構成され、面103と面109の2面に対して鏡映対称な構造となるように、3次元的に配置されている。
また、図10に示すように、単一モード導波路201、202の中心軸が面109に含まれるように配置し、単一モード導波路203、204の中心軸が面103に含まれるように配置している。
【0035】
ここで、単一モード導波路201、202、203、204のコア部106とクラッド部107はそれぞれ、単一モード導波路301とマルチモード導波路302のコア部とクラッド部と同じ材料とする。
コア部106の屈折率をn1、クラッド部107の屈折率をn2としたとき、n1>n2となっている。
単一モード導波路201と単一モード導波路202のコア部106の幅は互いに等しく、また高さも互いに等しくなるように設定する。
単一モード導波路201と単一モード導波路202は、面103に対して鏡映対称の関係にある。
単一モード導波路203と単一モード導波路204のコア部106の幅は互いに等しく、また高さも互いに等しくなるように設定する。
単一モード導波路203と単一モード導波路204は、面109に対して鏡映対称の関係にある。
モード変換素子200を、複数の面に対して鏡映対称な構造とすることで、モード変換部200を伝播する導波モードも複数の面に対して鏡映対称な形状とすることができる。
その結果、複数の方向に対して対称である形状の整った単峰形状の光を結合することができる。
【0036】
ここで、単一モード導波路301の断面における高さ(y方向の長さ)と、幅(x方向の長さ)は等しいとする。
また、マルチモード導波路302の断面の高さ(y方向の長さ)と、幅(x方向の長さ)は等しいとする。
ここで、コア部106には例えばInGaAsを用いることができ、クラッド部107には例えばInPを用いることができる。
入射光108の真空中の波長がλ=1.55μmの場合、コア部106及びクラッド部107の屈折率はn1=3.3、n2=3.17となる。
入射側の単一モード導波路301のコア部の幅と高さを0.5μm、射出側のマルチモード導波路302のコア部の幅と高さを5μmとする。
【0037】
また、図11(a)に示すxz断面における、単一モード導波路201、201のx方向のコア部106の長さをそれぞれW1=0.9μmとする。また、モード変換素子200のx方向の実効的なコア部205の長さをd=2.5μmとする。
同様に、図11(b)に示す、yz断面における、単一モード導波路203、204のy方向のコア部106の長さをそれぞれW1=0.9μmとする。また、モード変換素子200のy方向の実効的なコア部206の長さをd=2.5μmとする。
単一モード導波路301から入射する入射光108の真空中の波長をλ=1.55μmとする。このとき、モード変換素子200のxz断面(面109)とyz断面(面103)のそれぞれの面において、(式1)で示されるモード変換素子200の規格化周波数がV<πとなっている。
したがって、モード変換素子200は、xz面、yz面において、それぞれ偶モードは一つだけとなっている。
【0038】
このとき、図11(a)に示すxz断面と、図11(a)に示すyz断面において、実施例1で示した例と同じ寸法となっている。
上記したモード変換素子200を用いることによって、xz断面とyz断面の2つの面において、実施例1と同様の原理により、単峰形状の光を、単一モード導波路301からマルチモード導波路302へ効率良く結合することができる。
xz断面とyz断面の2つの面に対して、単峰形状となるため、さらに利便性が高い、形状が整ったスポットの光とするとができる。
ここで、単一モード導波路301とマルチモード導波路302のxy断面の幅と高さは同じ長さでなくても良く、違う長さでも良い。
その場合、実施例1で示した原理により、モード変換素子200を構成する単一モード導波路201、202、203、204の寸法を適切に設定することにより、効率良く、単峰形状の光を結合することができる。
【符号の説明】
【0039】
101:単一モード導波路
102:マルチモード導波路
103:面
104:単一モード導波路
105:単一モード導波路
106:コア部
107:クラッド部
108:入射光
109:面
110:実効的なコア部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
領域1と領域2との異なる2つの領域を光結合させる、二本以上の複数の単一モード導波路で形成されたモード変換素子であって、
光が伝搬する方向に平行な軸をz軸とし、前記複数の単一モード導波路を横断する方向の該z軸に垂直な軸をx軸、該x軸および該z軸に垂直な軸をy軸とし、前記モード変換素子の中心を通る前記z軸を含む面を面1としたとき、
前記モード変換素子を伝搬する光を、前記面1に対して偶モードを一つのみ有する光とするため、前記単一モード導波路を前記面1に対して鏡映対称に配置した構造を備え、
前記モード変換素子は、前記領域1から入射した光を前記偶モードに変換して伝搬させ、前記領域2と光結合させることを特徴とするモード変換素子。
【請求項2】
前記面1が前記z軸を含む複数の面からなり、前記単一モード導波路が該複数の面に対して鏡映対称に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のモード変換素子。
【請求項3】
前記単一モード導波路は、屈折率n1を有するコア部と、屈折率n2を有するクラッド部で形成され、つぎの条件式を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモード変換素子。

V=k0/2{W・d・(n1^2−n2^2)}^(1/2)<π

但し、
V:前記モード変換素子の規格化周波数
d:複数の単一モード導波路のうちの一つ単一モード導波路における前記面1とは逆側の側面と、該単一モード導波路と隣り合う単一モード導波路における前記面1とは逆側の側面との距離
W:前記x軸と平行な方向の長さを「幅」としたときにおける、前記モード変換素子に含まれるコア部の合計の幅
k0:入射光の真空中の伝搬定数
π:円周率
【請求項4】
前記領域2がマルチモード導波路であり、前記マルチモード導波路のxz面における導波モードにおいて、2次モードの電場振幅がx方向にゼロとなる座標をx1、x2としたとき、
前記モード変換素子に含まれる二本の前記光導波路の端部の中心座標がx1、x2となるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のモード変換素子。
【請求項5】
前記領域1または前記領域2または前記モード変換素子は、フォトニック結晶で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のモード変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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