説明

ユーロピウム賦活酸化イットリウム及びその製造方法

【課題】電界放出型ディスプレイ(FED)等の電子線励起発光素子に好適な赤色蛍光体を提供すること。
【解決手段】レーザー回折/散乱法で測定したメジアン径が2〜8μmの範囲にあり、X線回折法で測定した440面からの回折ピークから算出される(δ2θ)cosθ(ここで、θは回折角、δ2θは回折ピークの半価幅(deg)である)が大きくとも0.083degであることを特徴とするユーロピウム賦活酸化イットリウムである。
また、上記ユーロピウム賦活酸化イットリウムはユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合し、スラリーとした後、噴霧乾燥して、球状二次粒子を得、次いで、得られた二次粒子を焼成後のメジアン径が焼成前のメジアン径の0.65〜0.75倍となるよう焼成して、焼成後のメジアン径を2〜8μmとすることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型ディスプレイ(FED)等の電子線励起発光素子に用いる赤色蛍光体として有用なユーロピウム賦活酸化イットリウム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線励起発光素子に用いられる赤色蛍光体としては、ユーロピウム賦活オキシ硫化イットリウム(Y1-xEuSやユーロピウム賦活酸化イットリウム(Y1-xEuが知られている。
ユーロピウム賦活オキシ硫化イットリウムはこれまで画像表示用赤色蛍光体として広く用いられているが、このものを電界放出型ディスプレイ(FED)に用いる場合には、(1)FEDで用いられる加速電圧5〜10kV程度の電子線による励起では十分な発光輝度が得られ難い、(2)硫黄を含有しているため、陰極汚染を起こす、(3)電子線照射により輝度劣化が起こる、等の問題点が懸念されている。また、ユーロピウム賦活酸化イットリウムでは、硫黄を含有しないため陰極汚染の心配はないものの、その発光特性は十分ではなく、発光輝度の向上、発光開始電圧の低電圧化等に向けた検討がなされている。例えば、発光開始電圧の低電圧化に関しては還元性雰囲気下で再焼成(アニール)する製造方法が知られている(特許文献1参照)。また、噴霧乾燥法による希土類酸化物の製造方法に関しては、例えば、特定の製造条件で生成する希土類蓚酸塩を特定の条件で噴霧乾燥した後、焼成する製造方法が知られている(特許文献2参照)。さらに、蛍光体の構成金属元素を含有する溶液からなる微細な液滴を加熱分解して蛍光体を得る製造方法が知られている(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000‐265168号公報
【特許文献2】特開平9‐71415号公報
【特許文献3】特開2001−220580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の赤色蛍光体は、発光開始電圧の低電圧化は図られるものの、電界放出型ディスプレイ(FED)の赤色発光素子として用いるには、更なる発光輝度の向上が求められている。一般に、発光輝度を向上させるためには、蛍光体粉末の結晶性を向上させることが有利である。結晶性を向上させるには高い温度での焼成が好ましい製造条件である。しかしながら、高温焼成による結晶性の向上は、それに伴う粒子間焼結により粗大な焼結体が生じやすく、分散性等の粉体特性の劣化を来たすことになる。そこで、生じた粗大粒子をほぐすために粉砕して粒度を整えれば、粉砕による粒子内歪が生じ、結晶性の劣化をもたらす。この様に、結晶性の向上と分散性の向上(粒子間焼結の抑制)とは、相反する要求であり、これらを同時に満足する蛍光体とその製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、結晶性と分散性のバランスのとれた酸化イットリウム系赤色蛍光体を見出すべく種々の研究を重ねたところ、ユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合し、スラリーとした後、噴霧乾燥して、球状二次粒子を得、次いで、得られた二次粒子を焼成後のメジアン径が焼成前のメジアン径の0.65〜0.75倍となるよう焼成して、焼成後のメジアン径を2〜8μmとすることにより得られるユーロピウム賦活酸化イットリウムは、上記の相反する特性を同時に満足するものであることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、レーザー回折/散乱法で測定したメジアン径が2〜8μmの範囲にあり、X線回折法で測定した440面からの回折ピークから算出される(δ2θ)cosθ(ここで、θは回折角、δ2θは回折ピークの半価幅(deg)である)が大きくとも0.083degであることを特徴とするユーロピウム賦活酸化イットリウムである。
【0007】
さらに本発明は、上記酸化イットリウムの製造方法であって、ユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合し、スラリーとした後、噴霧乾燥して、球状二次粒子を得、次いで、得られた二次粒子を焼成後のメジアン径が焼成前のメジアン径の0.65〜0.75倍となるよう焼成して、焼成後のメジアン径を2〜8μmとすることを特徴とするユーロピウム賦活酸化イットリウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムは、結晶性が向上しているため電子線照射による発光輝度に優れ、しかも、適度なメジアン径を有する単分散状態のものであるためペースト化に適した蛍光体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ユーロピウム賦活酸化イットリウムであって、レーザー回折/散乱法で測定したメジアン径が2〜8μmの範囲にあり、X線回折法で測定した440面からの回折ピークから算出される(δ2θ)cosθ(ここで、θは回折角、δ2θは回折ピークの半価幅(deg)である)が大きくとも0.083degであることを特徴とする。
【0010】
本発明において、メジアン径及び(δ2θ)cosθは夫々以下の方法で測定したものである。
【0011】
(メジアン径の測定方法)
メジアン径は堀場製作所製レ−ザー回折/散乱式粒度分布測定装置(型番:LA950)で測定する。分散媒は0.2%ヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液を用いる。メジアン径はサンプルの屈折率を1.82、分散媒の屈折率1.33とし、体積基準で算出する。
【0012】
((δ2θ)cosθの測定方法)
理学電機製粉末X線回折測定装置(型番:RINT1000、X線源:CuKα)を用いて、47.8°≦2θ≦49.2°の角度範囲を0.01°/10secでステップスキャンし、ピークトップ法で440面からの回折ピーク位置(2θ)を求め、積分強度から半価幅(積分幅)δ2θを求め、(δ2θ)cosθ(deg)を算出する。
【0013】
本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムは、上記方法で算出したメジアン径が2〜8μmの範囲にある。メジアン径を上記範囲とすることで、ペースト化に適したものとなる。メジアン径が2μmよりも小さいと焼結の少ない単分散粒子とはなりにくく、また、8μmより大きくすると、粒子は粒子内に空隙が発生しやすく緻密な粒子とするのが困難である。
【0014】
また、本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムは、上記方法で算出した(δ2θ)cosθが大きくとも0.083degである。一般に、(δ2θ)cosθの値を用いてシェラーの公式を適用して結晶子サイズLc(=KλCuKα1/(δ2θ)cosθ、ここで粉体の場合はK=0.9である)を見積もることができる。本発明の場合は、このようにして見積もったLcで表現すれば、Lc≧95.7nmとなる。しかしながら、回折ピークの拡がり(δ2θ)には結晶子サイズが有限であることに由来する拡がり以外に、結晶歪みによる拡がりも含まれ、回折ピークの拡がりが小さい場合、例えば、上記方法で算出した(δ2θ)cosθが大きくとも0.083degである場合には、無視できなくなる。即ち、上記のシェラーの公式を適用したLcの値で結晶性を論じるのは必ずしも適切でない。結晶歪も結晶性の尺度として重要であり、結晶子サイズと結晶の不均一歪みの両者を反映する尺度として、本発明では(δ2θ)cosθの値を用いる。(δ2θ)cosθが0.083degよりも大きいと、結晶性が十分ではなく、したがって発光輝度の点でも劣るものとなる。
【0015】
本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムにおいては、上記メジアン径及び(δ2θ)cosθが同時に上記範囲を満足することが必須である。メジアン径を2〜8μmの範囲とするには、例えば低い温度で焼成するなどして粒子間焼結を抑制することで達成されるが、この場合には結晶性の低いものしか得ることができず、(δ2θ)cosθが0.083degよりも大きなものとなる。また、(δ2θ)cosθを本願の規定の範囲にするためには、高い温度で焼成することで達成されるが、この場合は粒子間焼結が進み、メジアン径で表すと8μmより大きなものとなる。本発明の方法では両者のバランスをとって焼成が行われ、後述のとおり、例えば融剤の融点〜1500℃、好ましくは融剤の融点〜1400℃の温度範囲で焼成が行われる。
【0016】
賦活剤として含有するユーロピウムの量は、モル比(Eu/Y)で表して0.03〜0.20の範囲とすると、ユーロピウムの含有量に見合った発光輝度が得られ、しかも発光色の色純度にも優れたものが得られるため好ましい。
【0017】
次の本発明は、上記ユーロピウム賦活酸化イットリウムの製造方法であって、ユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合し、スラリーとした後、噴霧乾燥して、球状二次粒子を得、次いで、得られた二次粒子を焼成後のメジアン径が焼成前のメジアン径の0.65〜0.75倍となるよう焼成して、焼成後のメジアン径を2〜8μmとすることを特徴とする
【0018】
本発明の製造方法においては、まず、ユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合し、スラリーとした後、噴霧乾燥して、球状二次粒子を得る。本発明でいうユーロピウム含有イットリウム化合物は、イットリウム化合物の内部にユーロピウムが固溶したイットリウム・ユーロピウム複合化合物の他に、イットリウム化合物の表面にユーロピウム化合物が吸着したもの、イットリウム化合物とユーロピウム化合物の混合物を包含するものである。
【0019】
上記ユーロピウム含有イットリウム化合物としては、例えば水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウム、ユーロピウム含有イットリウム含水酸化物、蓚酸ユーロピウム含有蓚酸イットリウムが挙げられる。水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムはイットリウムとユーロピウムを含む硝酸塩溶液をアンモニア水で中和する、ユーロピウム含有イットリウム含水酸化物は水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムをろ過水洗した後、加熱部分脱水する、蓚酸ユーロピウム含有蓚酸イットリウムはイットリウムとユーロピウムを含む硝酸塩溶液に蓚酸溶液を添加するなどして製造することができる。なかでも、アンモニア水による中和で得られる水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムを用いるのが好ましい。中和温度、中和時間等の反応条件は適宜設定することができる。中和で得られた水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムは、適宜濾過、水洗する。
【0020】
次いで、上記ユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合してスラリーとする。使用することのできる融剤としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム等が挙げられ、これらを単独で用いたり、あるいは併用することができる。なかでも、フッ化リチウム及び/又はリン酸カリウムを用いるのが好ましい。フッ化リチウムを用いると、焼成後に得られる蛍光体に融剤が残留しにくいため好ましい。また、リン酸カリウムは少ない添加量で結晶化を促進するため好ましい。さらに、フッ化リチウムとリン酸カリウムを併用すると粒子形状が球形になりやすいので好ましい。融剤の使用量は、ユーロピウム含有イットリウム化合物に対して0.1〜15モル%の範囲が好ましい。この範囲を超えて融剤を使用すると粗大な蛍光体が生成しやすくなる。また、蛍光体に残留する融剤成分が多くなり、かえって結晶化を妨害するなどの弊害がおこるので好ましくない。適量の融剤を使用することで、焼成時の結晶化が促進されるため、焼成温度を下げることができ、粒子間焼結を抑制することができる。
【0021】
上記スラリーを噴霧乾燥して球状二次粒子を得る。用いる噴霧乾燥機には、4流体ノズル方式、2流体ノズル方式、ディスクアトマイザー方式等の種々のタイプがあるが、本発明においては上記範囲の二次粒子の生成が容易な4流体ノズル方式を用いるのが好ましい。使用する噴霧乾燥機に応じてスラリー(酸化物換算)濃度、噴霧空気吐出量、温度等の条件を適宜設定することにより、所望のメジアン径を有する球状二次粒子を得ることができる。
【0022】
次いで得られた球状二次粒子を焼成後のメジアン径が焼成前のメジアン径の0.65〜0.75倍となるように焼成して、焼成後のメジアン径を2〜8μmとする本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムを得る。焼成の雰囲気は大気等の酸素を含有する酸化性雰囲気、若しくは窒素等の非酸化性・非還元性ガスを含む中性雰囲気が挙げられ適宜設定できるが、大気等の酸化性雰囲気が好ましい。焼成により上記球状二次粒子が緻密化される。焼成前後の球状二次粒子のメジアン径の比が上記範囲となるよう焼成することにより、球状二次粒子が緻密化され、しかも粒子間焼結の抑制されたユーロピウム賦活酸化イットリウムが得られる。また、焼成後の球状二次粒子のメジアン径を2〜8μmとすることによりペースト化にも適したものとなる。焼成の温度は、使用する融剤の種類及びその量により適宜設定することができるが、融剤の融点〜1500℃、好ましくは融剤の融点〜1400℃の温度範囲が好ましい。焼成の温度が前記範囲より低いと緻密化が不十分となり所望の結晶性を得ることが困難である。一方焼成の温度が前記範囲より高いと、粒子間焼結の進行により結晶歪が大きくなり、分散性も劣るものとなりやすい。この様にして得られるユーロピウム賦活酸化イットリウムは、結晶性に優れたものであり、結晶性の尺度として(δ2θ)cosθを用いると、その値は大きくとも0.083degとなる。
【0023】
焼成により粒子が若干焼結気味の場合には、解砕程度の粉砕をして粒度を揃えることができる。また、粉砕により粒子内の結晶歪が増大し、結果として(δ2θ)cosθの値が大きくなった場合には、焼成時の温度よりも低い温度で再焼成(アニーリング)することもできる。
【0024】
本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムは、電子線励起による発光輝度に優れ、しかもペースト化に適したメジアン径を有しているため、電子線励起発光現象を利用したフラットパネルディスプレイ、例えば電界放出型ディスプレイ(FED)に用いる赤色蛍光体に適したものである。FEDとしては、100〜3000Vの電圧で加速された電子線を励起源とする低電圧型と、3000V以上の電圧で加速された電子線を励起源とする高電圧型の2種類が検討されている。本発明の赤色蛍光体は少なくとも1000V程度で加速された電子線でも良好な発光が得られるので、上記何れの型でも使用することができる。
【0025】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
(水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムの生成)
純度4Nの酸化イットリウム粉末125gと純度4Nの酸化ユーロピウム粉末9.741gを1(l)ビーカーに秤量し、純水400(ml)を加え攪拌してスラリーにした。このスラリーに攪拌下、濃硝酸(比重1.38)261(ml)を分散添加して溶解させた。冷却後、自然濾過で不溶解残渣を濾別してから純水を加えて1(l)に希釈してイットリウム及びユーロピウムを含む硝酸塩水溶液を得た。次いで、容積10(l)のガラス製反応容器に純水6.3(l)と25%アンモニア水343(ml)を加え攪拌しながら70℃に昇温させた。この中にイットリウム及びユーロピウムの硝酸塩水溶液を一括添加した後、純水で液量を8(l)に調整した。70℃を保ちながら5時間保持し、その後ろ過水洗してイットリウムとユーロピウムを均質に含む水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムを得た。
【0027】
(球状二次粒子の生成)
市販のジュースミキサーに前工程で得られた水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムと純水を入れ攪拌して酸化物換算で8.25wt%の濃度のスラリーを得た。P/(Eu+Y)=0.5(モル%)となる量のKPOを純水200(ml)に溶解して前記スラリーに攪拌しながら添加した。スラリーのpHを希酢酸溶液で8に調節してから純水を添加してスラリー濃度を酸化物換算で5.0wt%にした。この分散スラリーを藤崎電機製噴霧乾燥機(4流体ノズル方式、サイクロン方式による分級機能付:MDL−50C)を用い、空気吐出量100(l/分)、乾燥温度200℃、噴霧量30(ml/分)で噴霧乾燥してメジアン径6.97μmの複水酸化物単分散球状二次粒子をサイクロンで回収した。
【0028】
(焼成)
得られた球状二次粒子60gを容量100(ml)のアルミナルツボを用い、大気中で1380℃の温度で5時間焼成した。
【0029】
(粉砕)
焼成品を遠心粉砕機(日本精機製)で粉砕して本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料A)を得た。
【0030】
実施例2
水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムのスラリー濃度を7.5wt%とした以外は実施例1と同様に処理してメジアン径9.32μmの球状二次粒子を得た。また、その後の焼成、粉砕も実施例1と同様に処理して本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料B)を得た。
【0031】
実施例3
水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムのスラリー濃度を2.5wt%とした以外は実施例1と同様に処理してメジアン径4.12μmの球状二次粒子を得た。また、その後の焼成、粉砕も実施例1と同様に処理して本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料C)を得た。
【0032】
比較例1
噴霧乾燥機をニロ社製:モービルマイナー型(アトマイザータイプ)とし、噴霧乾燥条件を噴霧液の酸化物換算スラリー濃度5wt%、送液量30(ml/分)、乾燥機入り口温度230℃、出口温度100℃とした以外は実施例1と同様に処理してメジアン径12.8μmの球状二次粒子を得た。また、その後の焼成、粉砕も実施例1と同様に処理して比較試料のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料D)を得た。
【0033】
比較例2
実施例1と同様に処理しメジアン径2.53μmの球状二次粒子(サイクロンキャリーオバー品)をバグフィルターで回収した。また、その後の焼成、粉砕も実施例1と同様に処理して比較試料のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料E)を得た。
【0034】
比較例3
実施例1において、焼成温度を1200℃にし、5時間焼成した以外は実施例1と同様に処理して比較試料のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料F)を得た。
【0035】
比較例4
実施例1において、焼成温度を1100℃にし、5時間焼成した以外は実施例1と同様に処理して比較試料のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料G)を得た。
【0036】
比較例5
乳鉢を用いて純度4Nの酸化イットリウム粉末6.25gと酸化ユーロピウム粉末0.4871gをよく混合した。この中に融剤として塩化ナトリウム30.57gとフッ化リチウム1.508gを均質になるまで混合した。用いた融剤量はNaCl/(Y+Eu)=900M%、LiF/(Y+Eu)=100M%の混合融剤である。この混合物をアルミナルツボに入れ電気炉で1250℃の温度で50時間焼成した。冷後熱湯中にいれ残留する融剤を溶解除去してからろ過水洗した。110℃の温度で乾燥して比較試料のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料H)を得た。
【0037】
比較例6
乳鉢を用いて純度4Nの酸化イットリウム粉末6.25gと酸化ユーロピウム粉末0.4871gをよく混合した。この中に融剤として塩化ナトリウム16.983gとフッ化リチウム7.538gを均質になるまで混合した。用いた融剤量はNaCl/(Y+Eu)=500M%、LiF/(Y+Eu)=500M%の混合融剤である。この混合物をアルミナルツボに入れ電気炉で1250℃の温度で50時間焼成した。冷後熱湯中にいれ残留する融剤を溶解除去してからろ過水洗した。110℃の温度で乾燥して比較試料のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料I)を得た。
【0038】
比較例7
純度4Nの酸化イットリウム粉末5.5g、純度4Nの酸化ユーロピウム粉末0.44g、炭酸ナトリウム2.65g、硫黄4.8g、融剤(KPO)0.515gを精秤して瑪瑙乳鉢中で十分に混合した。混合物をアルミナルツボに入れ蓋をした。蓋を無機セメントで蜜封してから大気雰囲気下、1150℃の温度で2時間焼成した。冷却後純水で十分に洗浄して、メジアン径7.10μmのユーロピウム賦活オキシ硫化イットリウム(試料J)を得た。試料HをX線回折分析したところYS単相であることを確認した。
【0039】
実施例1〜3、比較例1〜6で得られた試料A〜Iを用いて、焼成前後のメジアン径(D及びD)、(δ2θ)cosθ及び電子線励起発光輝度を測定した。結果を表1に示した。なお、メジアン径及び(δ2θ)cosθは前に記載した方法で測定したものであり、電子線励起発光輝度は以下の方法にて測定した。さらに、試料A〜Iの走査型電子顕微鏡写真を図1〜9に示した。
【0040】
(電子線励起発光輝度の測定方法)
試料0.1gを純水100(ml)に分散させたスラリーを10mm×10mmのアルミニウム板上に自然沈降させて得た測定板を十分に真空乾燥させた後、圧力3〜5×10−6Paの高真空下、加速電圧5kVで加速した電子線を試料に照射し、試料からの発光スペクトルをマルチチャンネル・スペクトルメータを用いて測定した。得られた発光スペクトからCIE1931表色系におけるY値(発光輝度)を求めた。なお、表1には、比較試料Jの発光輝度を100とする相対値で表した。
【0041】
【表1】

【0042】
図1〜9からわかるように、本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料A〜C)は粒子が緻密で単分散の状態であるのに対して、比較試料は単分散状態であっても、粒子内に空隙が見られ(試料D)、あるいは粒子間焼結が進んだものであり(試料E)、さらに粒子の緻密化が不十分なものであり(試料F、G)、粗大な粒子が生成したものであった(試料H、I)。
【0043】
また、表1より、メジアン径が2〜8μmの範囲にあり、しかも(δ2θ)cosθが大きくとも0.083degである本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウム(試料A〜C)は、上記メジアン径及び(δ2θ)cosθの範囲を同時には満足するものではない比較試料D、E、F、G、H、Iと比較して、電子線励起による発光輝度に優れたものであることがわかった
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のユーロピウム賦活酸化イットリウムは、電界放出型ディスプレイ(FED)等の電子線励起発光素子用の赤色蛍光体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】試料Aの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】試料Bの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】試料Cの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】試料Dの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】試料Eの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】試料Fの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】試料Gの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】試料Hの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】試料Iの粒子形状を表わす走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折/散乱法で測定したメジアン径が2〜8μmの範囲にあり、X線回折法で測定した440面からの回折ピークから算出される(δ2θ)cosθ(ここで、θは回折角、δ2θは回折ピークの半価幅(deg)である)が大きくとも0.083degであることを特徴とするユーロピウム賦活酸化イットリウム。
【請求項2】
ユーロピウム含有イットリウム化合物と融剤とを水系で混合し、スラリーとした後、噴霧乾燥して、球状二次粒子を得、次いで、得られた二次粒子を焼成後のメジアン径が焼成前のメジアン径の0.65〜0.75倍となるよう焼成して、焼成後のメジアン径を2〜8μmとすることを特徴とするユーロピウム賦活酸化イットリウムの製造方法。
【請求項3】
ユーロピウム含有イットリウム化合物がイットリウム及びユーロピウムを含む水溶液をアンモニア水で中和して得られる水酸化ユーロピウム含有水酸化イットリウムであることを特徴とする請求項2に記載のユーロピウム賦活酸化イットリウムの製造方法。
【請求項4】
焼成した後、粉砕することを特徴とする請求項2に記載のユーロピウム賦活酸化イットリウムの製造方法。
【請求項5】
融剤がフッ化リチウム及び/又はリン酸カリウムであることを特徴とする請求項2に記載のユーロピウム賦活酸化イットリウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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