説明

ライナープレート用補強リングの継手構造および継手方法ならびに継手板

【課題】施工性、経済性に非常に優れたライナープレート用補強リングの継手構造および継手方法ならびに継手板を提供する。
【解決手段】補強リング片1の地山側フランジ11に設ける継手板2は、向かい合わせる補強リング片1、1の地山側フランジ11、11の上部に上部側継手片3、3が設けられ、下部には補強リング片1の端部双方に跨って1つの下部側継手片4が設けられ、下部側継手片4が備える凹部に上部側継手片3、3が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とされ、地山側フランジ11、11の上部に固定された上部側継手片3、3に、下部側継手片4が応力を伝達可能に当接される。地山側フランジ11、11には下部側にボルト孔11aが設けられ、下部側継手片4にはボルト孔4aが設けられ、一致したボルト孔11a、4aに挿入したボルト5へナット6が締結され、下部側継手片は双方の地山側フランジに跨って固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、推進工法用立坑、深礎工法用立坑、集水井戸等の立坑、或いは排水トンネル等の横坑の覆工に用いられるライナープレートの技術分野に属し、更に云えば、ライナープレートを接続して構築される立坑の壁体に対して、上下に取り付けるライナープレート用補強リングの継手構造および継手方法ならびに継手板に関する。
【背景技術】
【0002】
前記ライナープレートは、その強度を高めるために、ライナープレートの周長方向のフランジに沿って補強リングを設けて実施する場合がある。
前記補強リングは、一般に、弧状に形成したH形鋼からなる複数の補強リング片を継手板を介しボルト接合して形成される。前記複数の補強リング片は、そのフランジを地山側と坑内側に配置して周長方向に補強リング片同士の端部を向かい合わせ、坑内側の作業員の手作業により互いに接合して、ライナープレートの横断面形状に合致する円形、小判形、或いは矩形等の閉断面形状の補強リングに完成される。
前記補強リングを構成する補強リング片の接合作業について、坑内側フランジの接合作業は、作業員の目視で確認しつつ確実に支障なく行うことができるが、地山側フランジの接合作業は、作業員の目視で確認しづらく手探り状態で行なう作業が多々あり、大変煩わしく、施工性の点において課題が残されていた。
ちなみに、作業員の目視で確認しづらい部位の最たるものが、地山側フランジの上部であり、この部分に継手板を当てがい、ボルトを通してナットを締結するボルト接合作業が大変煩わしく、作業員が最も難渋しているところである。
【0003】
前記課題を踏まえ、従来、前記補強リング片の地山側フランジの接合作業を速やかに行うべく、地山側フランジに当てがう継手板の形態に工夫を施した発明が種々提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
特許文献1には、同文献1の第1図、第2図に示したように、下端部にボルト孔(18)を設け、上端部をH形鋼(20、20)のフランジ上端に掛け止め可能な鉤状に形成した継手板(10)を用い、向かい合わせたH形鋼(20、20)の地山側フランジの上端に均等に跨るように前記鉤状の掛け止め部(12)を掛け止めて継手板(10)を位置決めし、同継手板(10)の下端部のボルト孔(18)を利用してボルト接合する発明が開示されている。
【0005】
特許文献2には、同文献2の図1、図2に示したように、左半部(72)と右半部(71)を段違いに(図示例では右半部を一段下げて)形成した継手板(7)を用い、左側の補強リング(2)の地山側フランジ(4)に左半部(72)を固定した継手板(7)の右半部(71)と、右側の補強リング(2)の端部における地山側フランジ(4)の下端部に設けた張出部(43)とをボルト接合する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−288294号公報
【特許文献2】特開2003−3781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2に開示された発明は、作業員が最も難渋する地山側フランジの上部について、手探りでのボルト接合作業を無くし、向かい合わせた補強リング片の端部同士を接合するので前記課題を解決しているように見える。
【0008】
しかしながら、特許文献1の発明は、同文献1の第3頁右上欄第5行目〜第11行目に記載されている通り、前記掛け止め部をH形鋼の地山側フランジ部に掛け止めた場合に、フランジの幅が広く、間隙が生じてがたつくことがあり、ボルトとナットを確実に締結しづらいという致命的な問題がある。確かに、前記隙間にクサビを打ち込むことでこの問題は解消できるが、この作業は、地山側フランジの上部のボルト接合作業を行う場合と同様に無理な姿勢で行わなければならず、作業員の熟練技術を必要とすることに加え、なによりクサビを打ち込む作業が新たに加わる煩わしさがある。
【0009】
特許文献2の発明は、市販の補強リング片に張出部を設けた特殊形状で実施するので、加工費及び材料費が嵩むという問題がある。補強リング片に張出部を溶接で取り付ける場合は、補強リング片と張出部との接触面が完全に溶け込むような溶接が必須となり、手間と時間がかかり不経済である。また、特殊形状であるが故に嵩張るので、市販の補強リングと比して、輸送や保管に要するコストも嵩むという問題もある。さらに、継手板のせいが、補強リング片のせいより高いので、その分だけボルト接合のための地山をえぐるような掘削(タヌキ掘り)が増えるので、地山の安定性を損なう虞もある。
特許文献2の発明には、同文献2の図5と図6に示したように、張出部を有する鋼板(18)を用いることにより、溶接を無用とした実施例も開示されてはいる。しかし、地山の安定性を損なう問題は依然として解消されない。また、前記鋼板(18)を用いることに伴い、継手板(7)と補強リング片(2)との間に隙間調整板(17)も用いる必要があり、材料費がさらに嵩む問題がある。
【0010】
本発明の目的は、補強リング片の地山側フランジに設ける継手板を、地山側へ手を入れてボルト接合する作業に合理的な形状・構造で実施することにより、作業員が最も難渋する地山側フランジの上部について、手探りでのボルト接合作業を無くし、向かい合わせた補強リング片の端部同士を迅速、且つ確実に接合することができる、施工性、経済性に非常に優れたライナープレート用補強リングの継手構造および継手方法ならびに継手板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造は、ライナープレートを接続して構築される立坑の壁体に対して、上下に取り付けるライナープレート用補強リングの継手構造であって、
前記ライナープレート用補強リングは、H形鋼からなる複数の補強リング片を、そのフランジを地山側と坑内側に配置して周長方向に補強リング片同士の端部を向かい合わせ、継手板を介して接合することにより構成され、
補強リング片の地山側フランジに設ける継手板は、向かい合わせる補強リング片の端部における地山側フランジの上部に上部側継手片がそれぞれ設けられ、下部には補強リング片の端部双方に跨って1つの下部側継手片が設けられ、前記下部側継手片が備える凹部に上部側継手片が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とされ、
向かい合わせた補強リング片の端部における地山側フランジの上部にそれぞれ固定された前記上部側継手片に、下部側継手片が応力を伝達可能に当接され、
向かい合わせた補強リング片の端部における地山側フランジには、双方の少なくとも下部側にボルト孔が設けられ、前記下部側継手片には、前記ボルト孔と一致する位置にボルト孔が設けられ、一致したボルト孔に挿入したボルトへナットが締結され、当該下部側継手片は、向かい合わせた補強リング片の端部における双方の地山側フランジに跨って固定されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したライナープレート用補強リングの継手構造において、前記応力は、剪断応力であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載したライナープレート用補強リングの継手構造において、前記上部側継手片は、下端部に凹部及び凸部が設けられた形状に形成され、前記下部側継手片は、上端部に前記凹部及び凸部へ嵌まり合う凸部及び凹部が設けられ、両者が合体した状態で略長方形状の継手板に形成される構成とされていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載した発明は、請求項1又は2に記載したライナープレート用補強リングの継手構造において、前記上部側継手片は、一対の略長方形状に形成され、前記下部側継手片は、その上端部が、一端部同士を向かい合わせた当該上部側継手片の他端部及び下端部に内接する凹部に形成され、両者が合体した状態で略長方形状の継手板に形成される構成とされていることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか一に記載したライナープレート用補強リングの継手構造において、前記上部側継手片は、補強リング片の端部における地山側フランジの上部にボルト止め、ねじ止め、又は溶接により固定されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載した発明に係る継手板は、ライナープ補強リング片の地山側フランジに設ける継手板であり、向かい合わせる補強リング片の端部における地山側フランジの上部に上部側継手片がそれぞれ設けられ、下部には補強リング片の端部双方に跨って1つの下部側継手片が設けられ、前記下部側継手片が備える凹部に上部側継手片が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とされていることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載した発明に係るライナープレート用補強リングの継手方法は、ライナープレートを接続して構築される立坑の壁体に対して、上下に取り付けるライナープレート用補強リングの継手方法であって、
前記ライナープレート用補強リングは、H形鋼からなる複数の補強リング片を、そのフランジを地山側と坑内側に配置して周長方向に補強リング片同士の端部を向かい合わせ、継手板を介して接合することにより構成し、
補強リング片の地山側フランジに設ける継手板は、向かい合わせる補強リング片の端部における地山側フランジの上部に上部側継手片をそれぞれ設け、下部には補強リング片の端部双方に跨って1つの下部側継手片を設け、前記下部側継手片が備える凹部に上部側継手片が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とし、
前記上部側継手片を地山側フランジの上部に固定した補強リング片同士の端部を向かい合わせた後、隣接する2つの上部側継手片へ下部側継手片を応力を伝達可能に当接し、
向かい合わせた補強リング片の端部における地山側フランジは、双方の少なくとも下部側にボルト孔を有し、前記下部側継手片は、前記ボルト孔と一致する位置にボルト孔を有し、一致したボルト孔にボルトを挿入してナットで締結し、当該下部側継手片を、向かい合わせた補強リング片の端部における双方の地山側フランジに跨って固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造および継手方法ならびに継手板によれば、以下の効果を奏する。
1)地山側フランジに設ける継手板を、地山側へ手を入れてボルト接合する作業に合理的な3分割形状で実施することにより、作業員が最も難渋する地山側フランジの上部について、継手板を構成する上部側継手片を予め補強リング片の地山側フランジに固定して実施することができるので、手探りでのボルト接合作業を省略することができる。よって、向かい合わせた補強リング片の端部同士を迅速、且つ確実に接合できるので施工性に優れている。
2)地山側フランジの上部のボルト接合作業は予め行われていることにより、ライナープレートへ上部側継手片を取り付ける際のボルト接合作業を行う必要がないので、ボルト接合のための地山をえぐるような掘削(タヌキ掘り)の量を減少させることができる。よって、従来技術と比して、地山の安定性を損なう虞がない。
3)使用する鋼材量(材料費)については、2枚の長方形状の継手板を用いて行う従来技術と同程度の量で済み、非常に経済的である。また、従来技術で用いる補強リング片を用いて実施できるので、従来技術の補強リング片を併用できて非常に経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造を示した分解斜視図である。
【図2】A、Bは、本発明に係る継手板を構成する上部側継手片と下部側継手片の形状を示した正面図である。
【図3】Aは、向かい合わせた地山側フランジに固定した上部側継手片に下部側継手片を当接する段階を示した側面図であり、Bは、同正面図である。
【図4】Aは、向かい合わせた地山側フランジに固定した上部側継手片に下部側継手片を当接してボルト接合した段階を示した側面図であり、Bは、同正面図である。
【図5】本発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造を示した側面図である。
【図6】本発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造をライナープレートを省略して示した斜視図である。
【図7】本発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造をライナープレートを省略して示した平面図である。
【図8】Aは、本発明に係る継手板を構成する上部側継手片と下部側継手片の寸法の一例を示した正面図であり、Bは、同側面図である。
【図9】A〜Dはそれぞれ、本発明に係る継手板のバリエーションを示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜図9は、本発明に係るライナープレート用補強リングの継手構造の実施例を示している。
このライナープレート用補強リングの継手構造は、ライナープレート10を接続して構築される立坑の壁体に対して、上下に取り付けるライナープレート用補強リングの継手構造であり、前記ライナープレート用補強リングは、H形鋼からなる複数の補強リング片1を、そのフランジを地山8側と坑内9側に配置して周長方向に補強リング片1、1同士の端部を向かい合わせ(図1参照)、継手板2、20を介して接合することにより構成される。
補強リング片1の地山側フランジ11に設ける継手板2は、向かい合わせる補強リング片1、1の端部における地山側フランジ11の上部に上部側継手片3、3がそれぞれ設けられ、下部には補強リング片1の端部双方に跨って1つの下部側継手片4が設けられ、前記下部側継手片4が備える凹部に上部側継手片3、3が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とされ、向かい合わせた補強リング片1、1の端部における地山側フランジ11、11の上部にそれぞれ固定された前記上部側継手片3、3に、下部側継手片4が応力を伝達可能に当接される。
向かい合わせた補強リング片1、1の端部における地山側フランジ11、11には、双方の少なくとも下部側にボルト孔11aが設けられ、前記下部側継手片4には、前記ボルト孔11aと一致する位置にボルト孔4aが設けられ、一致したボルト孔11a、4aに挿入したボルト5へナット6が締結され、当該下部側継手片4は、向かい合わせた補強リング片1、1の端部における双方の地山側フランジ11、11に跨って固定されている(図6等参照)。
【0021】
前記補強リング片1は、フランジを地山8側と坑内9側に配置するH形鋼を弧状に形成し、ライナープレート10の下端部の周方向フランジ10aに沿う配置に複数個(通常、4個以上)向き合わせて接合され、補強リングに完成される。
ちなみに、図示例に係る補強リング片1のH形鋼の断面寸法は、125(高さ)×125(幅)×6.5(ウエブ厚)×9(フランジ厚)(単位:mm)で実施している。
前記補強リングは、図示の便宜上一部省略するが、1/4円弧状の補強リング片1を4個用い、隣接する補強リング片同士1、1の端部を互いに向かい合わせてリング状に形成して実施する。なお、補強リングを構成する補強リング片1の使用個数、形状、及び断面寸法は図示例に限定されず、補強リング、ひいては構築するライナープレート10の規模、及び形状(円形、小判形、矩形)に応じて適宜設計変更される。
ちなみに、図示例では、補強リング片同士1、1の端部が当接するように互いに突き合わせて接合しているがこれに限定されず、誤差調整等のため、僅かに隙間をあけた配置で向かい合わせて接合することもできる。
【0022】
前記継手板2、20はそれぞれ、図6等に示したように、向かい合わせた(突き合わせた)補強リング片同士1、1の端部の地山側フランジ11、11と坑内側フランジ12、12に跨って配設される。
前記継手板2、20のうち、補強リング片1の坑内側フランジ12に設ける継手板20は、従来と同様の継手板が用いられる。すなわち、前記継手板20は金属製であり、弧状に形成した補強リング片1のフランジの形状と一致する曲率(一例として曲率半径1750mm)で成形し、図1に示したように、向かい合わせた補強リング片同士1、1の端部における坑内側フランジ12、12に設けたボルト孔12aに、継手板20に設けたボルト孔20aが一致する構成で実施されている。ちなみに、本実施例に係る継手板20の寸法は、125(高さ)×12(厚さ)×幅330(幅)(単位:mm)で実施されている。
【0023】
一方、地山側フランジ11に配置する継手板2は、作業員の目視で確認しづらい地山8側のボルト接合作業を効率よく確実に行うべく、図2に示したように、2つの上部側継手片3、3と下部側継手片4とを応力(剪断応力)を伝達可能に組み合わせてなる構造で実施している。2つの上部側継手片3、3をそれぞれ、補強リング1、1の地山側フランジ11、11に予め固定した状態で地山8側のボルト接合作業を行うことが可能となり、作業員が最も難渋する地山側フランジ11の上部について、手探りでのボルト接合作業を無くすためである。
前記2つの上部側継手片3、3及び下部側継手片4は、金属製であり、それらを組み合わせた継手板2は、弧状に形成した補強リング片1のフランジの形状と一致する曲率で成形している。下部側継手片4は、前記地山側フランジ11、11の下部側に設けた複数(図示例では4個)のボルト孔11aと一致する位置にボルト孔4aが設けられている。
ちなみに、本実施例に係る継手板2の寸法は、125(高さ)×16(厚さ)×幅330(幅)(単位:mm)で実施されており、前記継手板20と比して、厚みを厚くして剛性を高めている。
【0024】
なお、本実施例に係る上部側継手片3は、地山側フランジ11の上部に設けたボルト孔11bと一致する位置にボルト孔3aが設けられ、一致したボルト孔11b、3aに挿入したボルト5へナット6を締結する手段で地山側フランジ11に固定している。当該固定作業は坑内側、或いは坑内に搬入する前の地上など、補強リング片1をライナープレート10に取り付ける前の段階で予め行うことができるので作業場所に特に制約は課されない。よって、ボルト接合に限定されず、ねじ止め又は溶接などの固定手段でも実施できる。
ただし、従来技術で用いる補強リング片1を接合する場合、単に補強リング片1の上部のボルト接合を省いて下部のみのボルト接合としてしまうと、ボルト5の本数が半減するため、補強リング片1、1同士の確実な連結に必要なボルト5の剪断応力の合計が不足する。そこで、補強リング片1の上部のボルト接合も行い、上部側継手板3、3と下部側継手板4を剪断応力を伝達可能な形状とする。このようにすることで、補強リング片1の上部及び下部の両方のボルト5の剪断応力により、補強リング片1、1同士の確実な連結が実施される。よって、従来技術で用いる補強リング片1を接合する場合、上部側継手板3は、ボルト接合により補強リング片1の地山側フランジ11に固定することが好ましい。
後述する図9A〜Dにバリエーションを例示した継手板15、25、35、45についても同様の技術的思想とする。
【0025】
ちなみに、本実施例に係るボルト5は、図3等に示したように、その頭部をライナープレート10側へ向けて前記ボルト孔11b、3aへ挿入して実施している。これは、ボルト5の先端部をライナープレート10側へ向けて実施すると、使用するボルト5の長さやライナープレート10、補強リング片1の形態によっては、ボルト5の先端部がライナープレート10に接触して良好なボルト5及びナット6の締結が図れないことを確実に防止するためである。よって、構造設計上、ボルト5の先端部がライナープレート10に接触する虞がない場合は、ボルト5の先端部をライナープレート10側へ向けて挿入して実施することも勿論できる。
【0026】
本実施例に係る継手板2を構成する上部側継手片3、3と下部側継手片4は、一例として、図8に示した寸法(大きさ)及び形状で実施されているがこれに限定されず、図9A〜Dに例示したバリエーションでも同様に実施できる。
要するに、継手板2は、形成した補強リングの構造上の特性、及び前記継手板2の構成上の特性により、接合した補強リング片1、1の端部同士における地山側フランジ11の上部が地山8側へ開こうとする力が作用したときに、前記上部に固定した上部側継手片3、3から下部側継手片4へ伝達される剪断応力に対し当該上部側継手片3、3及び下部側継手片4が互いに十分に抵抗できる剛性を有した構造設計とすることを条件に、様々なバリエーションで実施することができる。
【0027】
ちなみに、図1〜図8に係る実施例に示した継手板2は、前記2つの上部側継手片3、3は、下端部に凹部が設けられた左右対称な一対の形状に形成され、前記下部側継手片4は、上端部に前記凹部へ嵌まり合う凸部が設けられ、両者が合体した状態で略長方形状の継手板2に形成される構成で実施している。具体的に、一端部同士を向かい合わせる前記一対の上部側継手片3、3にはそれぞれ、その下端部の中央部に三角形状の凹部が1つ設けられ、他端部に段状の凹部(切欠部)が1つ設けられて実施されている。前記上部側継手片3、3に跨るように当接させる前記下部側継手片4には、その上端部における前記三角形状の凹部に嵌まり合う位置に三角形状の凸部が2つ設けられ、両端部に前記段状の凹部(切欠部)に嵌まり合う凸部が2つ設けられて実施されている。
【0028】
かくして、ライナープレート用補強リングの継手構造は、前記上部側継手片3、3がそれぞれ固定された補強リング片1、1が、端部同士を互いに向かい合わせてライナープレート10の接続端に位置決めされ、当該補強リング片1、1の地山側フランジ11、11における上部側継手板3、3の下端に、当該地山側フランジ11、11に跨るように下部側継手板4が剪断応力を伝達可能に当接されてボルト5とナット6で接合されると共に、坑内側フランジ12、12に跨るように前記継手板20が当接されてボルト5とナット6で接合されてなる(図5〜図7参照)。
【0029】
なお、各ボルト5は、図示例ではその頭部をライナープレート10側へ向けて実施しているが、上記段落[0025]で説明したように、構造設計上、ボルト5の先端部がライナープレート10に接触する虞がない場合は、ボルト5の先端部をライナープレート10側へ向けて挿入して実施してもよい。
また、前記継手板2(上部側継手片3、3、及び下部側継手片4)、20の形状、及び継手板2、20に設けたボルト孔3a、4a、20aの個数、配置は、もちろん図示例に限定されず、使用する補強リング片1の形状、及び補強リング片1に設けたボルト孔11a、12aの個数、配置に応じて適宜設計変更される。当該ボルト孔3a、4a、20aの形状も丸孔に限定されず、ボルト5の挿入作業を容易ならしめるべく、長孔で実施することも勿論できる。図9A〜Dにバリエーションを例示した継手板15、25、35、45についても同様の技術的思想とする。
【0030】
次に、ライナープレート用補強リングの継手方法について説明する。
この継手方法は、先ず、補強リング片1をライナープレート10の接続端に位置決めする前に予め、補強リング片1の接合端部に前記上部側継手片3を固定する。前記上部側継手片3は、補強リング片1の接合端部における地山側フランジ11の上部に、互いの角隅部を一致させて前記固定手段(図示例ではボルト接合)で固定する。この作業は、地上、或いはライナープレート10の坑内で行う。
【0031】
次に、前記上部側継手片3を固定した補強リング片1を既設のライナープレート10に、同ライナープレート10の下端部の周方向フランジ10aに沿うように、補強リング片1、1同士を向かい合わせて(突き合わせて)取り付ける。具体的に、各補強リング片1は、図1、図3Aに示したように、上部側継手片3を設けた地山側フランジ11を地山8側へ配置し、坑内側フランジ12を坑内9側へ配置して、各補強リング片1のウエブに設けたボルト孔1aをライナープレート10の周方向フランジ10aに設けたボルト孔10bへ一致させ、一致したボルト孔1a、10bにボルト16を下方から挿入してナット17で締結して補強リング片1、1同士を互いに向かい合わせる。そうすると、各補強リング片1、1に固定した上部側継手片3、3の端部同士は、図3Bに示したように、隣接して互いに向かい合う。
【0032】
既設のライナープレート10に補強リング片1、1を向かい合わせて設置した後、図3A、Bに示したように、隣接して互いに向かい合う上部側継手片3、3の下端に、下部側継手片4を地山8側の下方から剪断応力を伝達可能に当接(合体)させて、補強リング片1の地山側フランジ11の下部側に設けたボルト孔11aと、当該下部側継手片4に設けたボルト孔4aとを同心となる配置に位置決めし、図4に示したように、前記ボルト孔11a、4aに、4本のボルト5をそれぞれ坑内9側から地山8側へ挿入してナット6をねじ込んで締結して継手板2を構成する。この部位のボルト接合作業は、地山側フランジ11の下段部のみ行えば足りるので、作業者は、スムーズで良好な接合作業を確実に行うことができる。
【0033】
一方、向かい合う坑内側フランジ12、12に均等に跨るように前記継手板20を設け、坑内側フランジ12に設けたボルト孔12aと、当該継手板20に設けたボルト孔20aとを同心となる配置に位置決めし、図5〜図7に示したように、前記ボルト孔11a、4aに、8本のボルト5をそれぞれ地山8側から坑内9側へ挿入してナット6をねじ込んで締結する。この部位のボルト接合作業は、作業員の目視で確認しつつ行うことができるので、作業者は、スムーズで良好な接合作業を確実に行うことができる。なお、この継手板20の接合作業は、継手板2(下部側継手片4)の接合作業に先行して行ってもよい。
ちなみに、図中の符号7は、ワッシャーを示している。
【0034】
かくして、向かい合わせた補強リング片1、1の地山側フランジ11、11及び坑内側フランジ12、12にそれぞれ継手板2、20を跨るようにボルト接合して、向かい合わせた補強リング片1、1同士を接合する作業を、前記ライナープレート10の周方向フランジに沿って必要な数だけ繰り返し行うことにより、補強リングを完成する。補強リングを完成した後は、補強リング片1のボルト孔1aに取り付けておいた複数のボルト16の一部を一旦取り外し、下側にライナープレート(図示省略)を配置した後、前記ボルト16を再び取り付ける。
【0035】
以上説明したライナープレート用補強リングの継手構造および継手方法ならびに継手板2によれば、作業員が最も難渋する地山側フランジ11の上部について、継手板2を構成する上部側継手片3を予め補強リング片1の地山側フランジ11に固定して実施することができるので、手探りでのボルト接合作業を省略することができる。よって、向かい合わせた補強リング片1、1の端部同士を迅速、且つ確実に接合することができるほか、ボルト接合のための地山8をえぐるような掘削(タヌキ掘り)の量を減少させることができる。
【0036】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【0037】
例えば、前記継手板2を構成する上部側継手片3、3と下部側継手片4の形状は図1〜図8に限定されず、図9A〜Dに例示する様々なバリエーションでも同様に実施することができる。
図9Aは、2つの上部側継手片13、13は、下端部に三角形状の凹部(又は凸部)が連続する左右対称な一対の形状に形成され、下部側継手片14は、上端部に前記凹部(又は凸部)へ嵌まり合う三角形状の凸部(又は凹部)が連続的に設けられ、両者が合体した状態で略長方形状に形成される継手板15の実施例を示している。
図9Bは、2つの上部側継手片23、23は、下端部に四角形状の凸部(又は凹部)が2つ設けられた左右対称な一対の形状に形成され、下部側継手片24は、上端部に前記凸部(又は凹部)へ嵌まり合う位置に四角形状の凹部(又は凸部)が4つ設けられ、両者が合体した状態で略長方形状に形成される継手板25の実施例を示している。
図9Cは、2つの上部側継手片33、33は、下端部の中央部に三角形状の凸部が1つ設けられた左右対称な一対の形状に形成され、下部側継手片34は、上端部に前記凸部へ嵌まり合う位置に三角形状の凹部が2つ設けられ、両者が合体した状態で略長方形状に形成される継手板35の実施例を示している。
図9Dは、2つの上部側継手片43、43は、一対の長方形状に形成され、下部側継手片44は、その上端部が、一端部同士を向かい合わせた当該2つの上部側継手片43、43の他端部及び下端部に内接する凹部に形成され、両者が合体した状態で略長方形状に形成される継手板45の実施例を示している。
【0038】
これら図9A〜Dに係る継手板15、25、35、45は、形成した補強リングの構造上の特性、及び前記継手板15(25、35、45)の構成上の特性により、接合した補強リング片1、1の端部同士における地山側フランジ11の上部が地山8側へ開こうとする力が作用したときに、前記上部に固定した上部側継手片13(23、33、43)から下部側継手片14(24、34、44)へ伝達される剪断応力に対し、当該上部側継手片13(23、33、43)及び下部側継手片14(24、34、44)が互いに十分に抵抗できる剛性を有した構造設計とすることにより、前記継手板2を用いて補強リング片1、1の端部同士を接合する場合と同様に実施することができる。
すなわち、作業員が最も難渋する地山側フランジの上部について、継手板15(25、35、45)を構成する上部側継手片13(23、33、43)を、予め補強リング片1の地山側フランジ11に固定して実施することができるので、上記段落[0035]で説明した効果と同様の効果を実現することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 補強リング片
2 継手板
3 上部側継手片
3a ボルト孔
4 下部側継手片
4a ボルト孔
5 ボルト
6 ナット
7 ワッシャー
8 地山
9 坑内
10 ライナープレート
10a 周方向フランジ
10b ボルト孔
11 地山側フランジ
11a ボルト孔
11b ボルト孔
12 坑内側フランジ
12a ボルト孔
13 上部側継手片
14 下部側継手片
15 継手板
16 ボルト
17 ナット
20 継手板
20a ボルト孔
23 上部側継手片
24 下部側継手片
25 継手板
33 上部側継手片
34 下部側継手片
35 継手板
43 上部側継手片
44 下部側継手片
45 継手板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナープレートを接続して構築される立坑の壁体に対して、上下に取り付けるライナープレート用補強リングの継手構造であって、
前記ライナープレート用補強リングは、H形鋼からなる複数の補強リング片を、そのフランジを地山側と坑内側に配置して周長方向に補強リング片同士の端部を向かい合わせ、継手板を介して接合することにより構成され、
補強リング片の地山側フランジに設ける継手板は、向かい合わせる補強リング片の端部における地山側フランジの上部に上部側継手片がそれぞれ設けられ、下部には補強リング片の端部双方に跨って1つの下部側継手片が設けられ、前記下部側継手片が備える凹部に上部側継手片が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とされ、
向かい合わせた補強リング片の端部における地山側フランジの上部にそれぞれ固定された前記上部側継手片に、下部側継手片が応力を伝達可能に当接され、
向かい合わせた補強リング片の端部における地山側フランジには、双方の少なくとも下部側にボルト孔が設けられ、前記下部側継手片には、前記ボルト孔と一致する位置にボルト孔が設けられ、一致したボルト孔に挿入したボルトへナットが締結され、当該下部側継手片は、向かい合わせた補強リング片の端部における双方の地山側フランジに跨って固定されていることを特徴とする、ライナープレート用補強リングの継手構造。
【請求項2】
前記応力は、剪断応力であることを特徴とする、請求項1に記載したライナープレート用補強リングの継手構造。
【請求項3】
前記上部側継手片は、下端部に凹部及び凸部が設けられた形状に形成され、前記下部側継手片は、上端部に前記凹部及び凸部へ嵌まり合う凸部及び凹部が設けられ、両者が合体した状態で略長方形状の継手板に形成される構成とされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載したライナープレート用補強リングの継手構造。
【請求項4】
前記上部側継手片は、一対の略長方形状に形成され、前記下部側継手片は、その上端部が、一端部同士を向かい合わせた当該上部側継手片の他端部及び下端部に内接する凹部に形成され、両者が合体した状態で略長方形状の継手板に形成される構成とされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載したライナープレート用補強リングの継手構造。
【請求項5】
前記上部側継手片は、補強リング片の端部における地山側フランジの上部にボルト止め、ねじ止め、又は溶接により固定されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載したライナープレート用補強リング片の継手構造。
【請求項6】
補強リング片の地山側フランジに設ける継手板は、向かい合わせる補強リング片の端部における地山側フランジの上部に上部側継手片がそれぞれ設けられ、下部には補強リング片の端部双方に跨って1つの下部側継手片が設けられ、前記下部側継手片が備える凹部に上部側継手片が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とされていることを特徴とする、継手板。
【請求項7】
ライナープレートを接続して構築される立坑の壁体に対して、上下に取り付けるライナープレート用補強リングの継手方法であって、
前記ライナープレート用補強リングは、H形鋼からなる複数の補強リング片を、そのフランジを地山側と坑内側に配置して周長方向に補強リング片同士の端部を向かい合わせ、継手板を介して接合することにより構成し、
補強リング片の地山側フランジに設ける継手板は、向かい合わせる補強リング片の端部における地山側フランジの上部に上部側継手片をそれぞれ設け、下部には補強リング片の端部双方に跨って1つの下部側継手片を設け、前記下部側継手片が備える凹部に上部側継手片が嵌り合うことで、応力を伝達可能に当接してなる構成とし、
前記上部側継手片を地山側フランジの上部に固定した補強リング片同士の端部を向かい合わせた後、隣接する2つの上部側継手片へ下部側継手片を応力を伝達可能に当接し、
向かい合わせた補強リング片の端部における地山側フランジは、双方の少なくとも下部側にボルト孔を有し、前記下部側継手片は、前記ボルト孔と一致する位置にボルト孔を有し、一致したボルト孔にボルトを挿入してナットで締結し、当該下部側継手片を、向かい合わせた補強リング片の端部における双方の地山側フランジに跨って固定することを特徴とする、ライナープレート用補強リングの継手方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−140794(P2011−140794A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1715(P2010−1715)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)